説明

試料評価方法および試料評価装置

【課題】簡単な構成で、試料内の空間的に異なる複数の測定点における応答光を、同時にかつ連続的に検出でき、試料を高精度で評価できる試料評価装置を提供する。
【解決手段】試料16にマルチモードの励起光を集光して、試料16の複数の空間的位置に集光スポットを形成する照明光学系(11,14,15)と、複数の集光スポットの形成位置において試料16から発生する応答光を同時に独立して検出する複数の光検出素子20,22を有する検出部(18,19,21)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料評価方法および試料評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料評価方法として、例えば、溶液または生体試料内の分子の運動を解析する蛍光相関分析法(FCS法)が知られている。蛍光相関分析法は、ブラウン運動などの粒子の拡散運動に関する解析に古くから用いられている。例えば、図13に示すように、希薄な蛍光分子101の溶液102に、細いレーザ励起光ビーム103を集光させて、蛍光強度を長時間測定すると、測定される蛍光強度は、測定領域内の蛍光分子数に比例する。したがって、揺らぎの大きは、測定領域内の蛍光分子数をNとして、S/Nで表現すると、(1/N)1/2となる。
【0003】
蛍光相関分析法は、このように蛍光の小さな揺らぎの大きさと、後述する時間相関とを計測する方法である。この計測法において、物理量である蛍光相関関数が1/2に減少する時間、すなわち相関時間τは、次式で表される。
【0004】
【数1】

【0005】
上記式(1)において、Dは蛍光分子の並進拡散係数であり、Wはレーザビームの動径方向の強度分布関数がガウス分布であるときのビーム半径である。このτは、物理的には、蛍光分子が拡散によってレーザ励起光ビーム103を横切る時間に相当する。
【0006】
蛍光の揺らぎを測定する場合、通常、蛍光を光電子増倍管で受光して、その出力電流f(t)を測定する。この場合、出力電流f(t)は、レーザ光の強度が極端に大きくなければ、蛍光量に比例する。したがって、蛍光相関関数は、このf(t)について時間(T)に関する相関関数を求めることに他ならない。この蛍光相関関数をG(τ)とすると、G(τ)は次式で与えられる。
【0007】
【数2】

【0008】
また、レーザ強度がガウス分布に近い場合、蛍光相関関数G(τ)は、次式のようになる。
【0009】
【数3】

【0010】
前述したように、蛍光相関分析法は、蛍光性分子の並進拡散係数(数1におけるD)が得られる物理量を測定するものであるが、基本的には、蛍光の揺らぎを与える熱力学量であれば、どんな量でも同じ原理で測定することができる。例えば、蛍光分子が流動してレーザビームを横切れば、蛍光の揺らぎを観測することができる。また、化学反応などで蛍光性分子が他の分子と結合すれば、その結合した分子の速度を揺らぎとして観測することができる。これにより、化学反応の進行をリアルタイムで知ることが可能となる。
【0011】
また、蛍光の偏光を解析すれば、分子の回転運動を測定することもできる。さらに、G(τ)の強度から、観察領域に存在する分子数を直接測定することもできる。具体的には、図13において、期待する揺らぎ現象が完結するような特定の計測時間(T)内の揺らぎ関数f(t)を測定し、その測定した揺らぎ関数f(t)から上記式(2)を用いて蛍光相関関数G(τ)を求めればよい。なお、図13において、レーザ励起光ビーム103の光源としては、一般に、アルゴンレーザやクリプトンレーザの連続発振レーザが用いられる。
【0012】
図14は、従来の蛍光相関分析装置の要部構成図である。この蛍光相関分析装置は、例えば特許文献1に開示されているもので、励起光源としてアルゴンレーザ等の連続発振レーザ111が用いられる。連続発振レーザ111から射出されたレーザビームは、ビームスプリッタ112を透過してレンズ113により蛍光色素を含有した観察試料溶液114に集光照射される。これにより、蛍光色素は励起されて、蛍光を発生する。
【0013】
観察試料溶液114から発生した蛍光は、レンズ113により平行光にされた後、ビームスプリッタ112で反射され、さらに、レンズ115により集光されてピンホール116を経て、光電子増倍管やCCD等の検出器117で検出される。この光検出器117の出力は、プリアンプ118で増幅された後、アナログ・デジタル(AD)変換器119によりデジタルデータに変換されて、時系列データとしてコンピュータ120のメモリに取り込まれる。そして、コンピュータ120により、上記式(2)に従って蛍光相関関数G(τ)が計算される。
【0014】
ところで、蛍光相関分析法による分析機能として、近年では、さらに高度な機能が要求されている。例えば、蛍光相関分析法が広く応用されている生物分野では、細胞内の代謝現象を解明する機能が要求されている。ここで、細胞内の代謝現象の多くは、細胞膜を挟む内側と外側とで顕著に発現する。このため、細胞内の代謝現象を解明するためには、空間的に微少量離れた細胞の内外の蛍光相関関数を同時に計測して、それらの比較に基づいて代謝物質の挙動を解明することが要求される。
【0015】
しかしながら、図14に示したような従来の蛍光相関分析装置は、連続発振レーザから射出されたレーザビームを、観察試料溶液に集光して、その集光点の1点における蛍光相関関数を計測するものであり、細胞膜を挟んだ任意の距離の複数点における蛍光相関関数を同時に計測することはできない。そのため、空間的に異なる測定点における蛍光相関関数を同時に計測でき、細胞内の代謝現象を分析できるような機能を有する蛍光相関分析法の開発が望まれている。
【0016】
このような要望に応えるものとして、本出願人は、例えば特許文献2において、時系列に複数の測定点での蛍光相関分析を可能とした蛍光相関分析装置を既に提案している。この蛍光相関分析装置は、励起光を複数の測定点の各々に所定時間停止させながら順次繰り返し移動させ、その各測定点において検出される蛍光強度の断続的な時系列信号に基づいて蛍光相関分析を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2001−272346号公報
【特許文献2】特許第3984132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献2に開示の蛍光相関分析装置は、複数の測定点での蛍光相関分析が可能であるものの、複数の測定点で検出される蛍光強度は、それぞれ異なるタイミングで検出された断続的な時系列信号である。このため、蛍光相関に基づく分析精度が低下することが懸念される。また、励起光を複数の測定点に順次移動させるための走査機構を要するため、構成が複雑化することが懸念される。なお、このような試料内の異なる測定点における同時刻での応答光(被測定光)に基づく試料の評価法は、蛍光に限らず、散乱光等の他の応答光を検出して行われる場合もある。
【0019】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、簡単な構成で、試料の空間的に異なる複数の測定点における応答光を、同時にかつ連続的に検出でき、試料を高精度で評価可能な試料評価方法および試料評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成する第1の観点に係る試料評価方法の発明は、
試料にマルチモードの励起光を集光して、該試料の複数の空間的位置に集光スポットを形成し、該複数の集光スポットの形成位置において前記試料から発生する応答光を同時に独立して検出して、該複数の応答光に基づいて前記試料を評価する、ことを特徴とするものである。
【0021】
第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る試料評価方法において、
前記応答光は、前記試料から放出される蛍光である、ことを特徴とするものである。
【0022】
さらに、上記目的を達成する第3の観点に係る試料評価装置の発明は、
試料にマルチモードの励起光を集光して、前記試料の複数の空間的位置に集光スポットを形成する照明光学系と、
前記複数の集光スポットの形成位置において前記試料から発生する応答光を同時に独立して検出する複数の光検出素子を有する検出部と、
を備えることを特徴とするものである。
【0023】
第4の観点に係る発明は、第3の観点に係る試料評価装置において、
前記検出部は、前記応答光として前記試料から放出される蛍光を検出する、ことを特徴とするものである。
【0024】
第5の観点に係る発明は、第3または4の観点に係る試料評価装置において、
前記照明光学系は、
シングルモードの励起光を射出するレーザ光源と、
該レーザ光源からの励起光をマルチモードにビーム整形するビーム整形光学系とを有する、ことを特徴とするものである。
【0025】
第6の観点に係る発明は、第3乃至5のいずれかの観点に係る試料評価装置において、
前記励起光の光路と前記試料とを相対的に変位させて、前記励起光による前記試料の照明領域を変更する照明領域変更部を有する、ことを特徴とするものである。
【0026】
第7の観点に係る発明は、第5の観点に係る試料評価装置において、
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の位相を空間変調する位相変調素子を有し、
該位相変調素子は、同心円状の少なくとも2つの領域を有し、かつ隣接する領域が(2m+1)πの位相差(ただし、mは整数)を発生させるように形成されて、前記照明光学系の光軸に沿った複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とするものである。
【0027】
第8の観点に係る発明は、第5の観点に係る試料評価装置において、
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の位相を空間変調する位相変調素子を有し、
該位相変調素子は、前記励起光の位相が前記照明光学系の光軸周りを2πで周回する放射状の複数の領域を有し、前記照明光学系の光軸に沿った複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とするものである。
【0028】
第9の観点に係る発明は、第5の観点に係る試料評価装置において、
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の偏光を制御する偏光制御素子を有し、
該偏光制御素子は、前記励起光の電場ベクトルを中央部と周辺部とで反対方向に向ける複数の領域を有し、前記照明光学系の光軸に沿った複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とするものである。
【0029】
第10の観点に係る発明は、第5の観点に係る試料評価装置において、
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の位相を空間変調する位相変調素子を有し、
該位相変調素子は、前記照明光学系の光軸と直交する方向に複数の領域を有し、かつ隣接する領域が(2m+1)πの位相差(ただし、mは整数)を発生させるように形成されて、前記照明光学系の光軸と直交する面内の複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とするものである。
【0030】
第11の観点に係る発明は、第5の観点に係る試料評価装置において、
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の偏光を制御する偏光制御素子を有し、
該偏光制御素子は、前記照明光学系の光軸と直交する方向に複数の領域を有し、かつ隣接する領域が前記励起光の電場ベクトルを反対方向に向けるように形成されて、前記照明光学系の光軸と直交する面内の複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とするものである。
【0031】
第12の観点に係る発明は、第5乃至11のいずれかの観点に係る試料評価装置において、
前記ビーム整形光学系は、前記励起光を位相変調する液晶空間変調器を有し、
該液晶空間変調器は、当該液晶空間変調器の液晶面に与えられる位相パターンにより、前記試料の複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成するように、前記励起光を位相変調する、ことを特徴とするものである。
【0032】
第13の観点に係る発明は、第3の観点に係る試料評価装置において、
前記照明光学系は、マルチモードの励起光を射出するレーザ光源を有し、
該レーザ光源からの励起光を前記試料に集光させて、該試料の複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とするものである。
【0033】
第14の観点に係る発明は、第3乃至13のいずれかの観点に係る試料評価装置において、
前記検出部は、
前記照明光学系によって形成される集光スポットの数に応じて、前記試料からの応答光の検出光路を複数の光路に分離する光路分離光学系と、
該光路分離光学系で分離された前記複数の検出光路から、それぞれ異なる前記集光スポットからの応答光を分離して抽出する複数のピンホールと、を有し、
該複数のピンホールでそれぞれ抽出される前記集光スポットからの応答光を、前記複数の光検出素子で独立して検出する、ことを特徴とするものである。
【0034】
第15の観点に係る発明は、第14の観点に係る試料評価装置において、
前記照明光学系は、前記励起光の開口数を制御する開口数制御部を有し、
前記検出部は、前記開口数制御部による前記励起光の開口数の制御に同期して、前記複数のピンホールの位置および/または径を制御するピンホール制御部を有する、
ことを特徴とするものである。
【0035】
第16の観点に係る発明は、第3乃至15のいずれかの観点に係る試料評価装置において、
前記光検出素子は、一光子型の光検出素子からなる、ことを特徴とするものである。
【0036】
第17の観点に係る発明は、第16の観点に係る試料評価装置において、
前記光検出素子は、アバランシュフォトダイオードまたは光電子増倍管からなる、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、試料にマルチモードの励起光を集光して、試料の複数の空間的位置に集光スポットを形成し、これにより各集光スポット位置の試料から発生する応答光を同時に独立して検出するので、走査機構を要することなく、簡単な構成で、試料の空間的に異なる複数の測定点における応答光を、同時にかつ連続的に検出でき、試料を高精度で評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。
【図2】図1に示す位相変調素子の一例の構成を示す図である。
【図3】第1実施の形態による励起光の集光ビーム形状を模式的に拡大して示す図である。
【図4】図3に示す集光ビームの強度分布を解析する説明図である。
【図5】図3に示す集光ビームの光軸上および焦点面上での強度プロファイルを示す図である。
【図6】本発明の第2実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。
【図7】本発明の第3実施の形態に係る蛍光相関分析装置に使用可能な位相変調素子の一例の構成を示す図である。
【図8】第3実施の形態に係る蛍光相関分析装置に使用可能な位相変調素子の他の二つの例の構成を示す図である。
【図9】第3実施の形態の変形例を説明するための図である。
【図10】本発明の第4実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。
【図11】本発明の第5実施の形態に係る蛍光相関分析装置に使用可能な偏光制御素子の三つの例の構成を示す図である。
【図12】本発明の第6実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。
【図13】蛍光相関分析法を説明するための図である。
【図14】従来の蛍光相関分析装置の要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を蛍光相関分析装置に適用した場合を例示するが、本発明は蛍光相関分析装置に限らず、試料を評価する種々の装置に適用できるものである。
【0040】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。図1において、レーザ光源(例えば、Krレーザ)11から射出されるコヒーレントなレーザ照明光は、ダイクロイックプリズム13で反射される。本実施の形態では、レーザ光源11から光強度分布が単一モードの励起光を射出する。本明細書では、光強度分布が単一モードの励起光を、シングルモードの励起光と称する。ダイクロイックプリズム13で反射されたシングルモードの励起光は、ビーム整形光学系を構成する位相変調素子14により位相が空間変調されて、光強度分布が多モードの励起光に変換される。本明細書では、光強度分布が多モードの励起光を、マルチモードの励起光と称する。位相変調素子14によりマルチモード化された励起光は、対物レンズ15により蛍光色素を含有する観察試料溶液16に集光して照射される。
【0041】
また、励起光の照射により観察試料溶液16から発生する蛍光(応答光)は、対物レンズ15により捕集されて、位相変調素子14を経てダイクロイックプリズム13を透過する。そして、投影レンズ17を経て光路分離光学系を構成するハーフプリズム18により2分され、その一方の蛍光がピンホール19を経て光検出素子20により検出され、他方の蛍光がピンホール21を経て光検出素子22により検出される。なお、ピンホール19,21は、光軸方向の位置および/または径が、公知の機構により調整可能に構成されている。
【0042】
したがって、図1においては、レーザ光源11、ダイクロイックプリズム13、位相変調素子14および対物レンズ15により、照明光学系が構成されている。また、対物レンズ15、位相変調素子14、ダイクロイックプリズム13、投影レンズ17、ハーフプリズム18、ピンホール19,21、および光検出素子20,22により、検出部が構成されている。なお、光検出素子20,22の各々は、例えば、一光子型のアバランシュフォトダイオードあるいは光電子増倍管を用いて構成される。
【0043】
光検出器20,22の出力は、それぞれプリアンプ23,24で増幅された後、アナログ・デジタル(AD)変換器25,26によりデジタルデータに変換されて、時系列データとしてコンピュータを含む解析部27に同時に取り込まれる。
【0044】
本実施の形態において、ビーム整形光学系である位相変調素子14は、例えば、図2に示すように、入射する励起光に対して中央部14aと周辺部14bとで(2m+1)πの位相差(ただし、mは整数)、つまり位相差λ/2(位相角π)を与えるように、輪帯状に構成される。この位相変調素子14は、例えば、ガラス基板等の光学基板上にフッ化マグネシウム等の高屈折率の光学薄膜を蒸着したり、光学基板を直接エッチングしたりして形成することができる。
【0045】
このように構成された位相変調素子14を用いて、励起光の位相を空間変調して、つまりマルチモード化して、対物レンズ15により集光すると、対物レンズ15の焦点の近傍において、図3に模式的に拡大して示すように、光の干渉により励起光が当たらない微小な3次元ダークホール28aを有する集光ビーム28が形成される。そして、光軸を含む強度分布として、焦点fの前後(z1、z2)に強い集光スポットが現れる強度分布が得られる。本実施の形態では、この光軸上で離間した2点(z1、z2)の集光スポットをプローブとして利用する。
【0046】
このため、図1の蛍光相関分析装置においては、一方のピンホール19が、例えば図3の集光スポット位置z1と共焦点関係に配置され、他方のピンホール21が、図3の集光スポット位置z2と共焦点関係に配置されて、それぞれのピンホール19,21を透過した蛍光が、対応する光検出素子20,22により同時に検出される。
【0047】
これにより、光検出素子20,22から得られる出力信号(蛍光強度)に基づいて、解析部27において、上述した公知の方法で、観察試料溶液16の空間的に異なる位置(z1、z2)の蛍光の揺らぎ、すなわち蛍光相関関数を同時に測定することができる。また、光検出素子20,22の一方から得られる蛍光強度をI(t)、他方から得られる蛍光強度をI(t)とするとき、これらI(t)およびI(t)に基づいて、解析部27で下記の式(4)を演算することにより、蛍光相互相関分析法(FCCS法)による相互相関関数g(τ)を算出することができる。
【0048】
【数4】

【0049】
さらに、共焦点蛍光コインシデンス分析法(CFCA法)により、光検出素子20,22から得られる出力信号(蛍光強度)に基づいて、解析部27により二つの蛍光分子からの蛍光揺らぎの一致度をハイスループットで検出することができる。
【0050】
ここで、図3に示した集光ビーム28の強度分布について考察する。なお、位相変調素子14は、図4に説明図を示すように、入射する励起光の半径(瞳の半径)を1に規格したときの中央部14a(内輪部)の半径をαとする。すなわち、輪帯比率をα(例えば、1/21/2)とする。この場合、中央部14a(内輪部)の瞳が独立に集光されたとすると、その電場(Uin(v,u))は、次式で与えられる。
【0051】
【数5】

【0052】
上記式(5)において、Cは入射光強度等で決まる比例係数であり、J0(x)はベッセル0次関数を示す。また、図4に示すように、ρは瞳面の動径方向の長さ、vは焦点近傍における光軸上から動径方向に無次元に換算された距離、uは同じく焦点からの相対的な光軸上の距離(換算座標)を表す。ここで、v,uは、次式のように実際の距離r,zに関係付けられている。なお、NAは、対物レンズ15の開口数を示す。
【0053】
【数6】

【0054】
また、対物レンズ15とその焦点との間に空気以外の光学媒質が存在する場合は、その屈折率をnとすると、上記式(6)は、次式のように表される。
【0055】
【数7】

【0056】
一方、周辺部14b(外輪部)の瞳が独立に集光された場合の電場(Uout(v,u))は、次式で与えられる。
【0057】
【数8】

【0058】
したがって、位相変調素子14により輪帯位相変調された励起光が集光する場合は、位相が互いに反転したUout(v,u)とUin(v,u)とが焦点面上で重なり合うので、輪帯位相変調された励起光の全体が集光する場合の電場U(v,u)は、次式で与えられる。
【0059】
【数9】

【0060】
ここで、外輪部と内輪部とをそれぞれ通過する励起光は、位相が反転している。したがって、それぞれの光量が同じで、外輪部の面積と内輪部の面積とが同じになる輪帯比率α=1/21/2の場合、焦点fにおいて電場強度が完全に相殺される。この場合の輪帯位相変調された励起光の3次元的なエネルギー強度プロファイルI(u,v)は、次式で表される。
【0061】
【数10】

【0062】
以上の解析モデルは、励起光の3次元的な偏光を考慮しないスカラーモデルであるが、開口数を小さくして集光する場合は、極めて良い近似となる。
【0063】
上記式(10)において、v=0とすると、下記の式(11)で示す光軸を含む断面における強度プロファイルI(0,u)が得られる。また、u=0とすると、下記の式(12)で示す焦点面上における強度プロファイルI(v,0)が得られる。
【0064】
【数11】

【0065】
また、上記式(11)および式(12)は、ベッセル関数の性質を用いれば、解析的に積分でき、それぞれ式(13)および式(14)のように表される。なお、J1(x)は一次のベッセル関数を示す。
【0066】
【数12】

【0067】
すなわち、式(13)および式(14)が輪帯位相変調された励起光で得られる3次元ダークホール28aの外形形状である。ここで、式(13)によると、焦点面内において、v=3.5の近傍で最大値を取るので、この値を用いて式(13)および式(14)を規格すると、それぞれ式(15)および式(16)が得られる。
【0068】
【数13】

【0069】
図5は、式(15)および式(16)で表される強度プロファイルI(v,0)およびI(0,u)を比較して示す図であり、破線はI(v,0) を示し、実線はI(0,u)を示す。なお、図5は、式(15)および式(16)において、NA=1、λ=1として、縦軸に強度を、横軸にuおよびvを、焦点を原点0とする同じスケールで示している。
【0070】
図5から明らかなように、光軸上での強度プロファイルI(0,u)は、焦点面上での強度プロファイルI(v,0)と比較して、ピーク強度が5倍程度あり、しかも、焦点から第1ピーク位置までの距離uは、u=9.3となり、焦点面内における焦点からピーク位置までの距離(v=3.5)の3倍近く長い。これにより、ダークホールは、光軸方向に長く、しかも強度比率もアンバランスなサイズであることがわかる。なお、ピークからピークまでの実際の距離は、例えば、波長λを600nm、開口数NAを0.9 と仮定すると、図3において、焦点面内のリング状のスポット径がおおよそ740nmであり、光軸方向の位置z1−z2の距離が2200nmとなる。
【0071】
以上のように、本実施の形態に係る蛍光相関分析装置では、励起光を位相変調素子14により輪帯位相変調することによりマルチモード化して、対物レンズ15の焦点近傍に、3次元ダークホール28aを有する集光ビーム28を形成する。そして、この集光ビーム28の焦点の前後(z1、z2)に現れる強度の強い集光スポットをプローブとして利用して、各々の集光スポットにより励起される蛍光を同時に計測する。したがって、走査機構を要することなく、簡単な構成で、これらの蛍光出力に基づいて、焦点の前後の集光スポット位置z1、z2における蛍光相関関数を同時に測定したり、蛍光の種々の空間的相関情報を算出したりすることが可能となる。これにより、例えば、対物レンズ15の焦点位置に、観察試料溶液16中の細胞膜が移動すると、細胞の内側および外側における生体分子の挙動を1分子レベルで解析することが可能となる。
【0072】
(第2実施の形態)
図6は、本発明の第2実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。この蛍光相関分析装置は、図1に示した構成において、励起光の照明光学系に開口絞りを有する開口数制御部31を設け、この開口数制御部31により観察試料溶液16に集光させる励起光の開口数を制御する。また、ピンホール19に対応してピンホール制御部32を設け、ピンホール21に対応してピンホール制御部33を設ける。そして、開口数制御部31による励起光の開口数の制御に同期(連動)して、ピンホール制御部32,33により対応するピンホール19,21の光軸方向の位置および/または径を自動的に制御する。
【0073】
すなわち、観察試料溶液16に集光させる励起光の開口数を制御すると、図3に示した集光ビーム28の光軸上での集光スポット位置(z1、z2)やその大きさが変化するので、それに応じてピンホール19,21の光軸方向位置および/または径を制御する。その他の構成は、第1実施の形態と同様であるので、同一作用を成す構成要素には同一参照符号を付して説明を省略する。
【0074】
本実施の形態に係る蛍光相関分析装置によれば、観察試料溶液16に集光される励起光の開口数の制御に応じて、ピンホール19,21の光軸方向の位置および/または径が自動的に最適に制御されるので、第1実施の形態の効果に加えて、高精度の蛍光相関分析を容易に行うことが可能となる。
【0075】
(第3実施の形態)
図7は、本発明の第3実施の形態に係る蛍光相関分析装置に使用可能なビーム整形光学系を構成する位相変調素子の一例を示すものである。この位相変調素子41は、励起光の瞳を2分割するように、光軸と直交する方向に2つの領域41a,41bを形成し、その隣接する領域41a,41bが、励起光に対して(2m+1)πの位相差(ただし、mは整数)、つまり位相差λ/2(位相角π)を与えるように、図2の場合と同様に、ガラス基板等の光学基板に光学薄膜を蒸着、あるいは光学基板にエッチングを施したものである。
【0076】
このように構成された位相変調素子41を用いて励起光を集光させると、焦点面上では、位相変調素子41の隣接領域の境界面で電場強度の符号が反転して電場が0となる。その結果、図7に焦点面上での強度分布を合わせて模式的に示すように、焦点面上で2つの集光スポットが空間的に分離されて形成される。
【0077】
本発明の第3実施の形態に係る蛍光相関分析装置では、図1あるいは図6に示した構成において、位相変調素子14に代えて、ビーム整形光学系として、図7に示した位相変調素子41を用いる。そして、焦点面上に空間的に分離して形成される2つの集光スポットをプローブとして用いて、一方のピンホール19を焦点面上の一方の集光スポットと共焦点関係に配置し、他方のピンホール21を焦点面上の他方の集光スポットと共焦点関係に配置して、ピンホール19,21を透過した蛍光を、対応する光検出素子20,22により同時に検出する。
【0078】
したがって、本実施の形態によれば、走査機構を要することなく、簡単な構成で、光検出素子20,22から得られる蛍光出力に基づいて、上記実施の形態の場合と同様にして、焦点面上で空間的に異なる位置における蛍光相関関数を同時に測定したり、蛍光の種々の空間的相関情報を算出したりすることができる。
【0079】
なお、位相変調素子41は、図7の構成に限らず、隣接する領域が、励起光に対して(2m+1)πの位相差を与えるように、図8(a)に示すように、光軸と直交する方向に3つの領域41a〜41cを形成して、励起光の瞳を3分割したものや、図8(b)に示すように、光軸を中心に4つの領域41a〜41dを形成して、励起光の瞳を4分割したもの、あるいは、さらに多分割したものを用いることもできる。このように、励起光の瞳を3領域以上に分割して、一つの励起光から焦点面上に3つ以上の集光スポットを空間的に分離して形成する場合は、光路分離光学系を、例えば複数のハーフミラープリズムを用いて、集光スポットの数に応じて蛍光の検出光路をシリアルにまたはパラレルに分離し、その分離された複数の検出光路から、それぞれピンホールを介して異なる集光スポットからの蛍光を分離して検出するように構成すればよい。
【0080】
また、図7や図8に示したような位相変調素子41を用いることなく、励起光の光源として、空間的にマルチモード化されたビームを発生する光源を用いることもできる。すなわち、レーザ共振器の境界条件を適切に選ぶことにより、ビーム断面で縦がn、横がmのn×mの複数のピークを持つモードパターンの光を発振させることができる。これは、いわゆるTEMモードと呼ばれるもので、図9(a)および(b)に代表的な低次のTEM10モードと、TEM20モードとの二つのパターンを示す(オーム社:新世代工学シリーズ「レーザ工学」1999年、中井貞雄著)。このように、レーザ自身が空間的にマルチモード化したビームを発振する場合は、図7や図8に示したような位相変調素子41を用いることなく、焦点面上で空間的に分離された複数の集光スポットを形成することができるので、構成を簡略化することが可能となる。
【0081】
(第4実施の形態)
図10は、本発明の第4実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。この蛍光相関分析装置は、ビーム整形光学系として、反射型の液晶空間変調器を用いたものである。図10において、レーザ光源(例えば、Krレーザ)51から射出されるコヒーレントなレーザ照明光(励起光)は、液晶空間変調器52で反射されてマルチモード化された後、ダイクロイックミラー53を透過して、対物レンズ54により蛍光色素を含有する観察試料溶液55に集光して照射される。
【0082】
また、励起光の照射により観察試料溶液55から発生する蛍光(応答光)は、対物レンズ54により捕集されて、ダイクロイックミラー53で反射される。そして、蛍光分離フィルタ56により励起光成分が除去された後、光路分離光学系を構成するハーフプリズム57により2分されて、その一方の蛍光が集光レンズ58およびピンホール59を経て光検出素子60により検出され、他方の蛍光が集光レンズ61およびピンホール62を経て光検出素子63により検出される。なお、ピンホール59,62は、光軸方向の位置および/または径が、公知の機構により調整可能に構成されている。
【0083】
したがって、図10においては、レーザ光源51、液晶空間変調器52、ダイクロイックミラー53および対物レンズ54により照明光学系が構成されている。また、対物レンズ54、ダイクロイックミラー53、蛍光分離フィルタ56、ハーフプリズム57、集光レンズ58,61、ピンホール59,62、および光検出素子60,63により検出部が構成されている。なお、光検出素子60,63の各々は、上記実施の形態の場合と同様に、例えば、一光子型のアバランシュフォトダイオードあるいは光電子増倍管を用いて構成される。
【0084】
また、光検出器60,63の出力は、図示しないが、上記実施の形態の場合と同様に、それぞれプリアンプで増幅された後、AD変換器によりデジタルデータに変換されて、コンピュータを含む解析部に同時に取り込まれる。
【0085】
かかる構成において、液晶空間変調器52は、例えば、光アドレス型平行配向液晶空間変調器として周知である。この光アドレス型平行配向液晶空間変調器は、光学像伝達素子を介して液晶ディスプレーと結合され、パーソナルコンピュータ(PC)から所望の位相パターン像を直接入力して液晶ディスプレーに表示し、その表示されたパターン像を光アドレス型平行配向液晶空間変調器に直接投影して、読み出し光を所望の位相パターンで位相変調するようにしたビデオ信号入力可能なものが市販されている。
【0086】
本実施の形態に係る蛍光相関分析装置においては、このようなビデオ信号入力可能な光アドレス型平行配向液晶空間変調器からなる液晶空間変調器52を用いて、レーザ光源51からの励起光を位相変調してマルチモード化し、観察試料溶液55内で、例えば、第1実施の形態に示したように光軸上での2点に、あるいは第3実施の形態に示したように焦点面上の2点に集光スポットを形成する。そして、これら2点の集光スポットで発生する蛍光を、それぞれピンホール59,62を経て光検出素子60,63により分離して同時に検出して、各位置の蛍光相関情報や、蛍光の種々の空間的相関情報を算出する。
【0087】
このように、本実施の形態においては、液晶空間変調器52として、ビデオ信号入力可能な光アドレス型平行配向液晶空間変調器を用いているので、走査機構を要することなく、簡単な構成で、空間的に分離した所望の複数の集光スポットが得られるように、励起光を容易に位相変調することができる。なお、本実施の形態では、光軸上あるいは焦点面上に2つの集光スポットを形成するようにしたが、図8(a),(b)に示したように、焦点面上で3つ以上の集光スポットを形成するように、励起光を液晶空間変調器52により空間変調することもできる。この場合は、上述したと同様にして、例えば複数のハーフミラープリズムを用いて、集光スポットの数に応じて蛍光の検出光路をシリアルにまたはパラレルに分離し、その分離された複数の検出光路から、それぞれ集光レンズおよびピンホールを介して異なる集光スポットからの蛍光を分離して検出するように構成すればよい。
【0088】
(第5実施の形態)
図11(a),(b)および(c)は、本発明の第5実施の形態に係る蛍光相関分析装置に使用可能なビーム整形光学系を構成する偏光制御素子の二つの例を示すものである。図11(a)に示す偏光制御素子65は、ガラス基板等の光学基板を放射状に8領域に区分し、かつ、中央部65aと周辺部65bとに区分して、励起光の電場ベクトルが、放射方向において中央部65aと周辺部65bとで反対方向を向くように、水晶などの偏光子を張り合わせたり、結晶軸の異なる物質を張り合わせたり、エッチングを施したりして構成されたものである。また、図11(b)に示す偏光制御素子66は、励起光の電場ベクトルが、放射状の8領域の中央部66aの円周方向と周辺部66bの円周方向とで反対方向を向くように、同様に、水晶などの偏光子を張り合わせたり、結晶軸の異なる物質を張り合わせたり、エッチングを施したりして構成されたものである。
【0089】
このように、励起光の電場ベクトルを中央部65a(66a)と周辺部65b(66b)とで反転させる偏光制御素子65(66)を用いて励起光を集光させると、図3に示したと同様に、光軸上の焦点の前後に集光スポットが形成される。したがって、このような構成の偏光制御素子65(66)を、第1実施の形態あるいは第2実施の形態に説明した位相変調素子14に代えて用いれば、同様にして、走査機構を要することなく、簡単な構成で、光軸上の異なる位置における蛍光相関関数を同時に測定したり、蛍光の種々の空間的相関情報を算出したりすることができる。
【0090】
また、図11(c)に示す偏光制御素子67は、ガラス基板等の光学基板を2分する領域67a,67bで、励起光の電場ベクトルが反対方向を向くように、光学基板に水晶などの偏光子を張り合わせたり、結晶軸の異なる物質を張り合わせたり、エッチングを施したりして構成されたものである。
【0091】
図11(c)に示した偏光制御素子67を用いて励起光を集光させると、図7に示したと同様に、焦点面上で2つの集光スポットが空間的に分離されて形成される。したがって、この偏光制御素子67を、第3実施の形態に説明した位相変調素子41に代えて用いれば、同様にして、走査機構を要することなく、簡単な構成で、光軸上の異なる位置における蛍光相関関数を同時に測定したり、蛍光の種々の空間的相関情報を算出したりすることができる。なお、図11(c)では、偏光制御素子67に2つの領域67a,67bを形成したが、隣接する領域で偏光方向を反転させるように3つ以上の領域を形成して、焦点面上で空間的に分離された3つ以上の集光スポットを形成することも可能である。
【0092】
(第6実施の形態)
図12は、本発明の第6実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。この蛍光相関分析装置は、走査型の超解像顕微鏡の機能を備えるものである。超解像顕微鏡は、例えば特開2005−121432号公報等に開示されており、公知である。本実施の形態においては、ポンプ光光源71として、例えば、NdYAGレーザを有し、その2倍高調波を発生するレーザ光源を用い、イレース光光源72として、例えば、Krレーザを用いる。
【0093】
ポンプ光光源71から射出されるポンプ光は、ダイクロイックミラー73で反射された後、ダイクロイックミラー74を透過し、ガルバノミラー75,76および瞳投影レンズ77を経て対物レンズ78により、例えば蛍光色素を含有した観察試料溶液80に集光照射される。そして、ガルバノミラー75,76により、対物レンズ78の焦点面内で二次元走査される。
【0094】
また、イレース光光源72から射出されるイレース光は、ビーム整形光学系81で位相変調された後、ダイクロイックミラー73を透過し、これによりポンプ光と同軸に合成される。そして、ダイクロイックミラー73を透過したイレース光は、後段のダイクロイックミラー74を透過して、ガルバノミラー75,76および瞳投影レンズ77を経て、対物レンズ78により観察試料溶液80に集光照射される。ここで、ビーム整形光学系81は、例えば、図2(a),(b)に示したような位相変調素子14により構成することも可能であるが、本実施の形態は、第4実施の形態で説明した光アドレス型平行配向液晶空間変調器からなる液晶空間変調器を用いて構成する。
【0095】
一方、ポンプ光の照射により観察試料溶液80から発生する蛍光(応答光)は、対物レンズ78により捕集され、瞳投影レンズ77およびガルバノミラー76,75を経てダイクロイックミラー74で反射されて、往路の光路と分離される。そして、蛍光分離フィルタ82を経てハーフプリズム83により2分され、その一方の蛍光が集光レンズ84およびピンホール85を経て光検出器86により検出され、他方の蛍光が集光レンズ87およびピンホール88を経て光検出器89により検出される。
【0096】
光検出器86,89は、上記実施の形態の場合と同様に、一光子型のアバランシュフォトダイオードあるいは光電子増倍管が用いられる。これら光検出器86,89の出力は、図示しないが、上記実施の形態の場合と同様に、それぞれプリアンプで増幅された後、AD変換器によりデジタルデータに変換されて、コンピュータを含む解析部に同時に取り込まれる。
【0097】
本実施の形態では、蛍光相関分析装置を超解像顕微鏡として機能させる場合、すなわち、ポンプ光とイレース光とを合成して観察試料溶液80を超解像で観察する場合、対物レンズ78の焦点面上でイレース光の中空スポットが形成されるように、ビーム整形光学系81によりイレース光を空間変調する。また、ピンホール85,88は、対物レンズ78の焦点面、あるいは観察試料溶液80内でイレース光の集光ビームに図3に示したような3次元ダークホールを形成する場合は、その3次元ダークホール内の光軸方向の所望の位置、と共役な位置関係に配置する。そして、ガルバノミラー75,76により、対物レンズ78の焦点面内でポンプ光およびイレース光を二次元走査する。
【0098】
これにより、光検出器86,89の出力に基づいて、対物レンズ78の回折限界を上回る観察試料溶液80の超解像蛍光像を得る。なお、ピンホール85,88は、観察試料溶液80の同一位置または異なる位置に対して共役な位置に配置することが可能である。これにより、ピンホール85,88が観察試料溶液80の同一位置に対して共役な場合は、光検出器86,89のいずれか一方の出力、あるいは双方の合成出力に基づいて超解像蛍光像を得ることができる。また、ピンホール85,88が観察試料溶液80の異なる位置に対して共役な場合は、光検出器86,89の出力に基づいて、観察試料溶液80の深さ方向の異なる位置での超解像蛍光像を同時に独立して得ることができる。
【0099】
これに対し、蛍光相関分析装置により観察試料溶液80の蛍光相関を分析する場合、すなわち、ポンプ光の照射を停止させてイレース光を励起光として観察試料溶液80に集光照射する場合は、ガルバノミラー75,76の駆動を停止させて、イレース光光源72からの励起光の位相を、ビーム整形光学系81により第4実施の形態において説明したと同様に空間変調する。また、ピンホール85,88は、上記第4実施の形態で説明したように、観察試料溶液80内で光軸上あるいは焦点面上に分離して形成される励起光の集光スポットの位置に応じて適宜調整する。そして、光検出器86,89の出力に基づいて、上記実施の形態と同様にして、各位置の蛍光相関情報や、蛍光の種々の空間的相関情報を算出する。なお、観察試料溶液80に対するマルチスポット化された励起光の同時照明領域は、ガルバノミラー75,76を揺動したり、観察試料溶液80の試料台(図示せず)を移動させたりして、励起光の光路と観察試料溶液80とを相対的に変位させることにより変更することができる。したがって、本実施の形態においては、ガルバノミラー75,76や試料台が照明領域変更部を構成する。
【0100】
このように、本実施の形態に係る蛍光相関分析装置は、超解像顕微鏡の機能を有するので、多機能な分析装置を実現することができる。
【0101】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、ビーム整形光学系により励起光を空間変調して対物レンズの焦点面上に中空状の集光ビームを形成し、その中空状の励起光照射領域からの蛍光の検出光路を複数の光路に分割して、励起光照射領域の任意の複数の位置、例えば光軸対称位置の蛍光を、それぞれピンホールを介して同時に検出して、蛍光相関を分析することも可能である。また、上記実施の形態において、ピンホールの径を変えると、式(6)からv,uが変化して、焦点面および光軸上で、焦点と集光点との間隔が変化する。したがって、ピンホールの径を変えて、試料の細胞中で測定位置(励起光の集光位置)を微妙にずらして細胞の三次元的な蛍光相関を測定し、試料を評価することもできる。
【符号の説明】
【0102】
11 レーザ光源
14 位相変調素子
15 対物レンズ
16 観察試料溶液
18 ハーフプリズム
19,21 ピンホール
20,22 光検出素子
31 開口数制御部
32,33 ピンホール制御部
41 位相変調素子
51 レーザ光源
52 液晶空間変調器
54 対物レンズ
55 観察試料溶液
57 ハーフプリズム
59,62 ピンホール
60,63 光検出素子
65,66,67 偏光制御素子
71 ポンプ光光源
72 イレース光光源
75,76 ガルバノミラー
78 対物レンズ
80 観察試料溶液
81 ビーム整形光学系
83 ハーフプリズム
85,88 ピンホール
86,89 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にマルチモードの励起光を集光して、該試料の複数の空間的位置に集光スポットを形成し、該複数の集光スポットの形成位置において前記試料から発生する応答光を同時に独立して検出して、該複数の応答光に基づいて前記試料を評価する、ことを特徴とする試料評価方法。
【請求項2】
前記応答光は、前記試料から放出される蛍光である、ことを特徴とする請求項1に記載の試料評価方法。
【請求項3】
試料にマルチモードの励起光を集光して、前記試料の複数の空間的位置に集光スポットを形成する照明光学系と、
前記複数の集光スポットの形成位置において前記試料から発生する応答光を同時に独立して検出する複数の光検出素子を有する検出部と、
を備えることを特徴とする試料評価装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記応答光として前記試料から放出される蛍光を検出する、ことを特徴とする請求項3に記載の試料評価装置。
【請求項5】
前記照明光学系は、
シングルモードの励起光を射出するレーザ光源と、
該レーザ光源からの励起光をマルチモードにビーム整形するビーム整形光学系とを有する、ことを特徴とする請求項3または4に記載の試料評価装置。
【請求項6】
前記励起光の光路と前記試料とを相対的に変位させて、前記励起光による前記試料の照明領域を変更する照明領域変更部を有する、ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の試料評価装置。
【請求項7】
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の位相を空間変調する位相変調素子を有し、
該位相変調素子は、同心円状の少なくとも2つの領域を有し、かつ隣接する領域が(2m+1)πの位相差(ただし、mは整数)を発生させるように形成されて、前記照明光学系の光軸に沿った複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とする請求項5に記載の試料評価装置。
【請求項8】
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の位相を空間変調する位相変調素子を有し、
該位相変調素子は、前記励起光の位相が前記照明光学系の光軸周りを2πで周回する放射状の複数の領域を有し、前記照明光学系の光軸に沿った複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とする請求項5に記載の試料評価装置。
【請求項9】
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の偏光を制御する偏光制御素子を有し、
該偏光制御素子は、前記励起光の電場ベクトルを中央部と周辺部とで反対方向に向ける複数の領域を有し、前記照明光学系の光軸に沿った複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とする請求項5に記載の試料評価装置。
【請求項10】
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の位相を空間変調する位相変調素子を有し、
該位相変調素子は、前記照明光学系の光軸と直交する方向に複数の領域を有し、かつ隣接する領域が(2m+1)πの位相差(ただし、mは整数)を発生させるように形成されて、前記照明光学系の光軸と直交する面内の複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とする請求項5に記載の試料評価装置。
【請求項11】
前記ビーム整形光学系は、前記励起光の偏光を制御する偏光制御素子を有し、
該偏光制御素子は、前記照明光学系の光軸と直交する方向に複数の領域を有し、かつ隣接する領域が前記励起光の電場ベクトルを反対方向に向けるように形成されて、前記照明光学系の光軸と直交する面内の複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とする請求項5に記載の試料評価装置。
【請求項12】
前記ビーム整形光学系は、前記励起光を位相変調する液晶空間変調器を有し、
該液晶空間変調器は、当該液晶空間変調器の液晶面に与えられる位相パターンにより、前記試料の複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成するように、前記励起光を位相変調する、ことを特徴とする請求項5乃至11のいずれか一項に記載の試料評価装置。
【請求項13】
前記照明光学系は、マルチモードの励起光を射出するレーザ光源を有し、
該レーザ光源からの励起光を前記試料に集光させて、該試料の複数の空間的位置に前記励起光の集光スポットを形成する、ことを特徴とする請求項3に記載の試料評価装置。
【請求項14】
前記検出部は、
前記照明光学系によって形成される集光スポットの数に応じて、前記試料からの応答光の検出光路を複数の光路に分離する光路分離光学系と、
該光路分離光学系で分離された前記複数の検出光路から、それぞれ異なる前記集光スポットからの応答光を分離して抽出する複数のピンホールと、を有し、
該複数のピンホールでそれぞれ抽出される前記集光スポットからの応答光を、前記複数の光検出素子で独立して検出する、ことを特徴とする請求項3乃至13のいずれか一項に記載の試料評価装置。
【請求項15】
前記照明光学系は、前記励起光の開口数を制御する開口数制御部を有し、
前記検出部は、前記開口数制御部による前記励起光の開口数の制御に同期して、前記複数のピンホールの位置および/または径を制御するピンホール制御部を有する、
ことを特徴とする請求項14に記載の試料評価装置。
【請求項16】
前記光検出素子は、一光子型の光検出素子からなる、ことを特徴とする請求項3乃至15のいずれか一項に記載の試料評価装置。
【請求項17】
前記光検出素子は、アバランシュフォトダイオードまたは光電子増倍管からなる、ことを特徴とする請求項16に記載の試料評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−179906(P2011−179906A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43047(P2010−43047)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】