説明

試料評価方法および試料評価装置

【課題】簡単な構成で、試料内の空間的に異なる複数の測定点における応答光を、同時にかつ連続的に検出できて、試料を高精度で評価できる生体システムの機能解明に適した試料評価装置を提供する。
【解決手段】試料14を照明する照明光学系(11,12,13)と、照明光学系からの照明光により刺激されて試料の照明領域内の微小領域から放出される応答光を空間的に分離して、該分離された応答光の1光子を検出する検出部(13,12,15,16,17,22)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料評価方法および試料評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料評価方法として、例えば、溶液または生体試料内の分子の運動を解析する蛍光相関分析法(FCS法)が知られている。蛍光相関分析法は、ブラウン運動などの粒子の拡散運動に関する解析に古くから用いられている。例えば、図3に示すように、希薄な蛍光分子101の溶液102に、細いレーザ励起光ビーム103を集光させて、蛍光強度を長時間測定すると、測定される蛍光強度は、測定領域内の蛍光分子数に比例する。したがって、揺らぎの大きは、測定領域内の蛍光分子数をNとして、S/Nで表現すると、(1/N)1/2となる。
【0003】
蛍光相関分析法は、このように蛍光の小さな揺らぎの大きさと、後述する時間相関とを計測する方法である。この計測法において、物理量である蛍光相関関数が1/2に減少する時間、すなわち相関時間tは、次式で表される。
【0004】
【数1】

【0005】
上記式(1)において、Dは蛍光分子の並進拡散係数であり、Wはレーザビームの動径方向の強度分布関数がガウス分布であるときのビーム半径である。このτは、物理的には、蛍光分子が拡散によってレーザ励起光ビーム103を横切る時間に相当する。
【0006】
蛍光の揺らぎを測定する場合、通常、蛍光を光電子増倍管で受光して、その出力電流f(t)を測定する。この場合、出力電流f(t)は、レーザ光の強度が極端に大きくなければ、蛍光量に比例する。したがって、蛍光相関関数は、このf(t)について時間(T)に関する相関関数を求めることに他ならない。この蛍光相関関数をG(τ)とすると、G(τ)は次式で与えられる。
【0007】
【数2】

【0008】
また、レーザ強度がガウス分布に近い場合、蛍光相関関数G(τ)は、次式のようになる。
【0009】
【数3】

【0010】
前述したように、蛍光相関分析法は、蛍光性分子の並進拡散係数(式(1)におけるD)が得られる物理量を測定するものであるが、基本的には、蛍光の揺らぎを与える熱力学量であれば、どんな量でも同じ原理で測定することができる。例えば、蛍光分子が流動してレーザビームを横切れば、蛍光の揺らぎを観測することができる。また、化学反応などで蛍光性分子が他の分子と結合すれば、その結合した分子の速度を揺らぎとして観測することができる。これにより、化学反応の進行をリアルタイムで知ることが可能となる。
【0011】
また、蛍光の偏光を解析すれば、分子の回転運動を測定することもできる。さらに、G(τ)の強度から、観察領域に存在する分子数を直接測定することもできる。具体的には、図3において、期待する揺らぎ現象が完結するような特定の計測時間(T)内の揺らぎ関数f(t)を測定し、その測定した揺らぎ関数f(t)から上記式(2)を用いて蛍光相関関数G(τ)を求めればよい。なお、図3において、レーザ励起光ビーム103の光源としては、一般に、アルゴンレーザやクリプトンレーザの連続発振レーザが用いられる。
【0012】
図4は、従来の蛍光相関分析装置の要部構成図である。この蛍光相関分析装置は、例えば特許文献1に開示されているもので、励起光源としてアルゴンレーザ等の連続発振レーザ111が用いられる。連続発振レーザ111から射出されたレーザビームは、ビームスプリッタ112を透過してレンズ113により蛍光色素を含有した観察試料溶液114に集光照射される。これにより、蛍光色素は励起されて、蛍光を発生する。
【0013】
観察試料溶液114から発生した蛍光は、レンズ113により平行光にされた後、ビームスプリッタ112で反射され、さらに、レンズ115により集光されてピンホール116を経て、光電子増倍管やCCD等の検出器117で検出される。この光検出器117の出力は、プリアンプ118で増幅された後、アナログ・デジタル(AD)変換器119によりデジタルデータに変換されて、時系列データとしてコンピュータ120のメモリに取り込まれる。そして、コンピュータ120により、上記式(2)に従って蛍光相関関数G(τ)が計算される。
【0014】
ところで、現在、バイオサイエンスの現場では、細胞内微小器官(オルガネラ)の機能の解明を行うため、細胞内外における代謝現象を解析する研究が盛んに行われている。その際、細胞膜の内外におけるオルガネラ間の相互作用と連携とについて調べる作業が重要となっている。この場合、複数の距離の離れた異なるオルガネラの代謝現象を同時に計測する必要がある。すなわち、同時に異なる複数計測点において、蛍光相関計測を行うことが要求される。
【0015】
しかしながら、図4に示したような従来の蛍光相関分析装置は、連続発振レーザから射出されたレーザビームを、観察試料溶液に集光して、その集光点の1点における蛍光相関関数を計測するものであり、細胞膜を挟んだ任意の距離の複数点における蛍光相関関数を同時に計測することはできない。そのため、空間的に異なる測定点における蛍光相関関数を同時に計測でき、細胞内の代謝現象を分析できるような機能を有する蛍光相関分析法の開発が望まれている。
【0016】
このような要望に応えるものとして、本出願人は、例えば特許文献2において、時系列に複数の測定点での蛍光相関分析を可能とした蛍光相関分析装置を既に提案している。この蛍光相関分析装置は、励起光を複数の測定点の各々に所定時間停止させながら順次繰り返し移動させ、その各測定点において検出される蛍光強度の断続的な時系列信号に基づいて蛍光相関分析を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2001−272346号公報
【特許文献2】特許第3984132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献2に開示の蛍光相関分析装置は、複数の測定点での蛍光相関分析が可能であるものの、複数の測定点で検出される蛍光強度は、それぞれ異なるタイミングで検出された断続的な時系列信号である。このため、オルガネラ間の相互作用および連携に関して、高精度の評価ができないことが懸念される。また、励起光を複数の測定点に順次移動させるための走査機構を要するため、構成が複雑化することが懸念される。
【0019】
なお、上述したような試料の評価法は、蛍光に限らず、散乱光等の他の応答光を検出して行われる場合もあり、その場合も同様の不都合が生じることになる。
【0020】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、簡単な構成で、試料の空間的に異なる複数の測定点における応答光を、同時にかつ連続的に検出することが可能で、試料を高精度で評価できる生体システムの機能解明に適した試料評価方法および試料評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成する第1の観点に係る試料評価方法の発明は、
照明光により試料を照明し、該試料の照明領域内の微小領域において前記照明光による刺激により放出される応答光を空間的に分離し、該分離された応答光の1光子を検出して前記試料を評価する、ことを特徴とするものである。
【0022】
さらに、上記目的を達成する第2の観点に係る試料評価装置の発明は、
試料を照明する照明光学系と、
該照明光学系からの照明光により刺激されて前記試料の照明領域内の微小領域から放出される応答光を空間的に分離して、該分離された応答光の1光子を検出する検出部と、
を備えることを特徴とするものである。
【0023】
第3の観点に係る発明は、第2の観点に係る試料評価装置において、
前記検出部は、
前記試料の照明領域内を複数の微小領域に空間的に分離する分離光学系と、
該分離光学系により分離された複数の微小領域からの応答光の1光子をそれぞれ検出する複数の光検出器と、
を有することを特徴とするものである。
【0024】
第4の観点に係る発明は、第3の観点に係る試料評価装置において、
前記分離光学系は、
前記試料の照明領域内を複数の微小領域に空間的に分離して各微小領域からの応答光を増幅するマイクロチャンネルプレートを有する、ことを特徴とするものである。
【0025】
第5の観点に係る発明は、第3の観点に係る試料評価装置において、
前記分離光学系は、
前記試料の照明領域内を複数の微小領域に空間的に分離するマイクロレンズアレイを有する、ことを特徴とするものである。
【0026】
第6の観点に係る発明は、第3乃至5のいずれかの観点に係る試料評価装置において、
前記分離光学系と前記光検出器とを光学的に結合する光ファイバを有する、ことを特徴とするものである。
【0027】
第7の観点に係る発明は、第3乃至6のいずれかの観点に係る試料評価装置において、
前記光検出器は、アバランシュフォトダイオードまたは光電子増倍管からなる、ことを特徴とするものである。
【0028】
第8の観点に係る発明は、第2乃至7のいずれかの観点に係る試料評価装置において、
前記検出部は、前記応答光として、前記照明光の照射により前記試料から放出される蛍光または散乱光を検出するように構成されている、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、試料を照明し、これにより照明領域内の微小領域から放出される応答光の1光子を空間的に分離して検出するので、簡単な構成で、試料の空間的に異なる複数の測定点における応答光を、同時にかつ連続的に検出することが可能となり、試料を高精度で評価できる生体システムの機能解明に資することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。
【図2】本発明の第2実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。
【図3】蛍光相関分析法を説明するための図である。
【図4】従来の蛍光相関分析装置の要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を蛍光相関分析装置に適用した場合を例示するが、本発明は蛍光相関分析装置に限らず、試料を評価する種々の装置に適用できるものである。
【0032】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。この蛍光相関分析装置は、試料を照明し、それにより励起(刺激)されて試料から発生する蛍光(応答光)の像を結像光学系により結像し、その結像面を複数の微小領域に空間的に同時に分離して、各微小領域における蛍光の1光子を独立して検出するものである。図1において、レーザ光源(例えば、Krレーザ)11から射出される照明光(励起光)は、ダイクロイックミラー12を透過して、対物レンズ13により蛍光色素を含有する観察試料溶液14に照射される。これにより、観察試料溶液14の有限領域が、励起光によって落射照明される。
【0033】
また、励起光による照明により観察試料溶液14から発生する蛍光(信号光)は、対物レンズ13により捕集されて、ダイクロイックミラー12で反射される。そして、蛍光分離フィルタ15により励起光成分が除去された後、結像光学系を構成する結像レンズ16により光電増幅器17に結像される。
【0034】
光電増幅器17は、結像レンズ16により結像される蛍光像を、複数の微小領域に空間的に分離して各微小領域における応答光を増幅する。この光電増幅器17は、蛍光像を光電変換する第1光電変換素子18と、蛍光像を複数の微小領域に空間的に分離して第1光電変換素子18から放出される光電子を増幅する複数のファイバチャンネルを有するマイクロチャンネルプレート19と、マイクロチャンネルプレート19で増幅された光電子を光に変換する第2光電変換素子20と、第2光電変換素子20から放出される光が入射するように、マイクロチャンネルプレート19の複数のチャンネルに対応して配置された複数の光ファイバ21と、を有する。
【0035】
そして、この光電増幅器17の複数の光ファイバ21からそれぞれ射出される光は、複数の光検出器22により独立して検出され、その各光検出器22の出力が、それぞれプリアンプ23で増幅された後、AD変換器24によりデジタルデータに変換されて、コンピュータを含む解析部25に同時に取り込まれて処理される。なお、図1では、図面を簡潔とするため、一つの光検出器22に対応するプリアンプ23およびAD変換器24を示し、他の光検出器22に対応するプリアンプ23およびAD変換器24は、図示を省略している。
【0036】
したがって、図1においては、レーザ光源11、ダイクロイックミラー12および対物レンズ13により、照明光学系が構成されている。また、対物レンズ13、ダイクロイックミラー12、蛍光分離フィルタ15、結像レンズ16、光電増幅器17および複数の光検出器22により、検出部が構成されている。なお、マイクロチャンネルプレート19の口径は、対物レンズ13および結像レンズ16により決定される2次元点像分布関数による蛍光像の大きさとほぼ等しくなっている。また、複数の光検出器22の各々は、1光子型のアバランシュフォトダイオードあるいは光電子増倍管を用いて構成される。
【0037】
上記構成において、観察試料溶液14が励起光によって照明されると、それによって励起された観察試料溶液14の蛍光像が、結像レンズ16により光電増幅器17の第1光電変換素子18上に結像されて、該第1光電変換素子18の蛍光が入射した位置の背面から光電子が放出される。この第1光電変換素子18から放出される光電子は、その放射位置と対応する位置のマイクロチャンネルプレート19のファイバチャンネルに入射して空間的に分離されてそれぞれ増幅され、その後、第2光電変換素子20で再び光電変換されて光(フォトン)として放出される。そして、この第2光電変換素子20から放出される光は、その放出位置に対応する位置の光ファイバ21に入射されて、対応する光検出器22で検出される。
【0038】
これにより、観察試料溶液14の照明領域内の蛍光を空間分解して蛍光相関を分析する。すなわち、マイクロチャンネルプレート19の各ファイバチャンネルの入射口を共焦点ピンホールとして機能させて、第1光電変換素子18に結像される蛍光像を微小領域に同時に空間分解する。そして、さらに、最終段の各光検出器22により時間分解を行う。ここで、光電増幅器17のマイクロチャンネルプレート19により空間分解する微小領域、すなわち一つのファイバチャンネルの口径は、例えば10μmとし、この口径に対応する観察試料溶液14の照明領域内の微小領域は、共焦点ピンホール径に相当する、例えば0.5μm程度として、観察試料溶液14の像をほぼ20倍に拡大して光電増幅器17に結像する。
【0039】
したがって、本実施の形態によれば、各光検出器22から得られる出力信号(蛍光強度)に基づいて、観察試料溶液14内で、照明光学系の光軸と直交する平面内の空間的に異なる位置における蛍光の揺らぎを、上述した公知の方法で、同時に測定することができる。また、複数の光検出器22のうち、所望の2個の光検出器22から得られる蛍光強度をI(t)、I(t)とするとき、これらI(t)およびI(t)に基づいて、図示しない解析部により下記の式(4)を演算することにより、2個の光検出器22と対応する観察試料溶液14内の位置における蛍光相互相関分析法(FCCS法)による相互相関関数g(τ)を算出することができる。
【0040】
【数4】

【0041】
さらに、共焦点蛍光コインシデンス分析法(CFCA法)により、所望の2個の光検出器22から得られる出力信号(蛍光強度)に基づいて、二つの蛍光分子からの蛍光揺らぎの一致度をハイスループットで検出することができる。
【0042】
このように、本実施の形態では、観察試料溶液14を照明し、その照明光により励起されて発生する観察試料溶液14の蛍光像を光電増幅器17に結像させて、複数の微小領域に空間分解して各微小領域の蛍光を増幅する。そして、光電増幅器17により複数の微小領域に空間分解されて増幅された蛍光を、それぞれ1光子型の光検出器22で検出する。したがって、走査機構を要することなく、簡単な構成で、観察試料溶液14の照明領域内の複数点の蛍光を同時に検出することができる。これにより、例えば、細胞膜を挟んだ細胞内部と外部との生体情報分子の拡散状態を同時に計測することが可能となり、生体システムの機能解明に資することができる。また、観察試料溶液14には、励起光が1点に集光されないので、観察試料溶液14内の細胞への影響を最小限に抑えられる効果もある。
【0043】
(第2実施の形態)
図2は、本発明の第2実施の形態に係る蛍光相関分析装置の要部構成図である。この蛍光相関分析装置は、試料を照明し、その照明領域をマイクロレンズアレイを用いて複数の微小領域に空間的に分離し、その各微小領域から励起(刺激)されて発生する蛍光の1光子を独立して検出するものである。図2において、照明ランプ31から射出される照明光(励起光)は、コリメータレンズ32により平行光束に変換されて、例えばカバーグラスに保持された蛍光色素を含有する観察試料溶液33に照射される。これにより、励起光の平行光束径に相当する観察試料溶液33の有限領域が、励起光によって透過照明される。
【0044】
また、励起光による照明により観察試料溶液33から発生する蛍光(応答光)は、観察試料溶液33に対して照明ランプ31とは反対側に配置された第1マイクロレンズアレイ34により捕集される。第1マイクロレンズアレイ34は、多数のマイクロレンズが一次元または二次元に配列して構成され、その焦点位置に観察試料溶液33が位置するように配置される。これにより、観察試料溶液33から発生する蛍光は、第1マイクロレンズアレイ34の対応するマイクロレンズで捕集されて、それぞれ平行光束として射出される。すなわち、本実施の形態においては、各マイクロレンズによる焦点領域(回折限界領域)を微小領域として、観察試料溶液33の照明領域が空間分解され、その微小領域において励起されて発生する蛍光が対応するマイクロレンズで捕集される。
【0045】
第1マイクロレンズアレイ34により捕集された蛍光は、蛍光分離フィルタ35により励起光が除去された後、第2マイクロレンズアレイ36により集光される。第2マイクロレンズアレイ36は、第1マイクロレンズアレイ34と同様に構成され、該第2マイクロレンズアレイ36により第1マイクロレンズアレイ34の対応するマイクロレンズからの蛍光が集光されて、それぞれ対応する光ファイバ37を経て光検出器38で検出される。各光検出器38の出力は、第1実施の形態の場合と同様に、それぞれプリアンプ39で増幅された後、AD変換器40によりデジタルデータに変換されて、コンピュータを含む解析部41に同時に取り込まれて処理される。なお、図2においても、図面を簡潔とするため、一つの光検出器38に対応するプリアンプ39およびAD変換器40を示し、他の光検出器38に対応するプリアンプ39およびAD変換器40は、図示を省略している。
【0046】
したがって、図2においては、照明ランプ31およびコリメータレンズ32により照明光学系が構成されている。また、第1マイクロレンズアレイ34、蛍光分離フィルタ35、第2マイクロレンズアレイ36、複数の光ファイバ37および複数の光検出器38により、検出部が構成されている。なお、複数の光検出器38の各々は、第1実施の形態の場合と同様に、1光子型のアバランシュフォトダイオードあるいは光電子増倍管を用いて構成される。
【0047】
このように、本実施の形態の蛍光相関分析装置は、観察試料溶液33を励起光により照明し、その照明領域を第1マイクロレンズアレイ34により複数の微小領域に同時に空間分解して、その空間分解された微小領域からの蛍光を、蛍光分離フィルタ35を経て第2マイクロレンズアレイ36に導く。そして、第2マイクロレンズアレイ36により集光される各微小領域からの蛍光を、対応する光ファイバ37を経て対応する光検出器38で独立して検出して時間分解を行う。
【0048】
したがって、走査機構を要することなく、簡単な構成で、観察試料溶液33の照明領域内の複数点の蛍光を同時に検出することができる。これにより、第1実施の形態の場合と同様に、例えば、細胞膜を挟んだ細胞内部と外部との生体情報分子の拡散状態を同時に計測したり、FCCS法やCFCA法による分析を行ったりすることが可能となり、生体システムの機能解明に資することができる。また、観察試料溶液33には、励起光が1点に集光されないので、第1実施の形態の場合と同様に、観察試料溶液33内の細胞への影響を最小限に抑えられる効果もある。
【0049】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、第1実施の形態において、観察試料溶液14を透過照明するように構成してもよい。同様に、第2実施の形態において、観察試料溶液33を落射照明するように構成してもよい。この場合は、例えば、図2の構成において、蛍光分離フィルタ35に代えて、蛍光と励起光とを分離するダイクロイックミラーを、第1マイクロレンズアレイ34と第2マイクロレンズアレイ36との間の光路に対して45度傾斜させて配置し、このダイクロイックミラーにより平行光束の照明光(励起光)を反射させて、第1マイクロレンズアレイ34を経て観察試料溶液33を落射照明する。そして、第1マイクロレンズアレイ34で捕集される蛍光を、ダイクロイックミラーを透過させて第2マイクロレンズアレイ36により、対応する光ファイバ37に入射させる。また、第2実施の形態において、第1マイクロレンズアレイ34を構成する複数のマイクロレンズのうち、適宜のマイクロレンズの焦点距離を異ならせて、観察試料溶液33の深さ方向(光軸方向)に異なる微小領域の蛍光を検出することもできる。
【符号の説明】
【0050】
11 レーザ光源
13 対物レンズ
14 観察試料溶液
16 結像レンズ
17 光電増幅器
19 マイクロチャンネルプレート
21 光ファイバ
22 光検出器
31 照明ランプ
32 コリメータレンズ
33 観察試料溶液
34 第1マイクロレンズアレイ
36 第2マイクロレンズアレイ
37 光ファイバ
38 光検出器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光により試料を照明し、該試料の照明領域内の微小領域において前記照明光による刺激により放出される応答光を空間的に分離し、該分離された応答光の1光子を検出して前記試料を評価する、ことを特徴とする試料評価方法。
【請求項2】
試料を照明する照明光学系と、
該照明光学系からの照明光により刺激されて前記試料の照明領域内の微小領域から放出される応答光を空間的に分離して、該分離された応答光の1光子を検出する検出部と、
を備えることを特徴とする試料評価装置。
【請求項3】
前記検出部は、
前記試料の照明領域内を複数の微小領域に空間的に分離する分離光学系と、
該分離光学系により分離された複数の微小領域からの応答光の1光子をそれぞれ検出する複数の光検出器と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の試料評価装置。
【請求項4】
前記分離光学系は、
前記試料の照明領域内を複数の微小領域に空間的に分離して各微小領域からの応答光を増幅するマイクロチャンネルプレートを有する、ことを特徴とする請求項3に記載の試料評価装置。
【請求項5】
前記分離光学系は、
前記試料の照明領域内を複数の微小領域に空間的に分離するマイクロレンズアレイを有する、ことを特徴とする請求項3に記載の試料評価装置。
【請求項6】
前記検出部は、
前記分離光学系と前記光検出器とを光学的に結合する光ファイバを有する、ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の試料評価装置。
【請求項7】
前記光検出器は、アバランシュフォトダイオードまたは光電子増倍管からなる、ことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の試料評価装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記応答光として、前記照明光の照射により前記試料から放出される蛍光または散乱光を検出するように構成されている、ことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一項に記載の試料評価装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179912(P2011−179912A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43121(P2010−43121)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】