説明

認知障害を患う患者の治療のための薬物の調製を目的とする治療用ヒトアルブミンの使用

【課題】アルツハイマー病等の認知障害を患う患者又は発症する危険性を示す患者を治療するためのヒトアルブミンの使用方法の提供。
【解決手段】認知障害を患う患者又は認知障害を発症する危険性を示す患者の血中のAβ含有量に拘らず、当該患者を治療するための薬物の調製を目的とするヒトアルブミンの使用であり、アルブミンは4%(p/v)〜25%(p/v)の濃度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病等の認知障害の治療のための薬物の調製を目的とする治療用ヒトアルブミンの使用に関する。当該薬物は好ましくは、血漿交換(治療的プラスマフェレーシス)による患者への投与に適する。また、本発明はアルツハイマー病を患う個体又はその疑いがある個体における認知障害の治療のための手段を提供する。
【0002】
本発明は本発明者によって行われた研究の結果であり、好ましくはアルツハイマー病の治療における有効性が立証された血漿交換による、治療への治療用ヒトアルブミンの新たな用途をもたらした。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病は、大脳皮質の神経細胞や海馬等の他の近隣の構造にまで広範に影響を与える、不可逆的な脳変性を病状とする。これは患者が感情の抑制、行動の誤り及びパターンの認識、運動の協調、並びに記憶を行うことのできる能力の悪化(併せて認知症として知られている)の原因となる。最終的に、記憶及び高等知能は完全に失われる。
【0004】
海馬は脳の一領域であり、この領域は側脳室下角の下部全体(測定によると約5cm)に沿って伸びる側頭葉に位置する。海馬は脳の横断面においてその襞が成す「タツノオトシゴ」の形から名付けられている。海馬は主に灰白質のニューロンで形成されるが、側脳室と接する上面に白質の薄層を有する。
【0005】
機能的には、海馬は高次機能、とりわけ感情の抑制において主要な役割を果たす辺縁系の最隆起部の一部を形成する(Purves D, Augustine GJ, Fitzpatrick D, Katz LC, LaMantia A, McNamara JO and Williams SM「神経科学(Neuroscience)」Sunderland (MA). Sinauer Associates, Inc.; c2001)。
【0006】
現在、海馬はアルツハイマー病において最も強い影響を受ける(体積の減少)脳領域の一部であると見なされており、幾つかの報告では海馬ニューロンの減少は、この疾患において認められる記憶の喪失と相関があることを示唆している(Roessler M, Zarski R, Bohl J. and Ohm TG.「アルツハイマー病経過中の海馬における時期依存的及び領域特異的なニューロンの減少(Stage-dependent and sector-specific neuronal loss in hippocampus during Alzheimer's disease)」Acta Neuropatol (2002) 103: 363-369)。
【0007】
アルツハイマー病では、脳構造においても特異な変化が起こり、その中には、神経線維塊(neurofibrillar bundles)として知られる神経線維のもつれ、及びいわゆるβ(ベータ)−アミロイド(Aβ)ペプチドプラーク状の細胞外タンパク質の沈着がある。これらの神経線維塊及びβ−アミロイドプラークはこの疾患の進行と結び付けて考えられてきた。それにもかかわらず、疾患の原因は不明である。しかし通説では、この疾患の発症をβ−アミロイド(Aβ)ペプチドの沈着と関連付けている。
【0008】
神経線維塊は中でも、損傷した微小管の残留物を含有し、これらの微小管はニューロンを介した栄養物の流れを可能にする構造を形成する。これらの神経線維塊の基本要素はいわゆるタウタンパク質の異常型であり、これは「正常な」型では微小管の適切な構造の形成に寄与している。異常タウタンパク質はそれどころか正常タウタンパク質の作用を妨げる。Aβは罹患したニューロンの損傷した分岐部の残留物により囲まれて現れる、老人斑の形態で蓄積するタンパク質である。Aβはまた、いわゆるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の断片であり、APPは決まった酵素により切断されると様々な種類のAβを生じる可能性があり、したがって、そのアミノ酸配列においてある程度の不均一性を有する。正常な被験体では、Aβ40型が最もよく見られる。Aβ42(「長いAβ」)型は、凝集する傾向が強く、老人斑への凝集の開始に関与する可能性があることを示唆する説もある。
【0009】
脳脊髄液(CSF)中のAβレベルの高さは、脳ニューロン間でシグナルを伝達する重要な神経伝達物質又は化学的伝達物質である、アセチルコリンレベルの低さに関連する。アセチルコリンは記憶及び学習に不可欠なコリン作動系の一部を形成するが、これはアルツハイマー病患者において次第に破壊される。
【0010】
この疾患では強いシナプス減少、並びにコリン作動性及びグルタミン酸作動性の神経伝達物質系において重大な変化が起きるので、現在の治療では、抗コリンエステラーゼ及びNMDAグルタミン酸のアンタゴニスト等の今日使用されている薬物を用いて、シナプス病変を緩和しようと試みている。この疾患は分子的に非常に複雑であり、その過程で受ける進行段階の各々で調整された多剤併用治療(polytherapy)が必要とされ得るため、これらのコリン作動性及びグルタミン酸作動性の薬物は今後の適用の目処はついていない。
【0011】
また、現在の研究は基本的に、疾患が発症時から進行しないようにする薬物を中心としている。Aβの過剰産生、凝集及び沈着を効果的に阻害する抗アミロイド薬、又はAβが蓄積した場合にそれを除去する抗アミロイド薬が使用される。別の重要な標的は、タウが塊を形成しないように、そのリン酸化及び凝集を回避する作用物質である。
【0012】
例えば欧州特許第1576955号で指摘されているように、APP形成の阻害を図る作用物質を用いた様々な薬物が現在、既にその活性化経路に従う臨床試験段階にある。現在試みられている別の戦略は、γ−セクレターゼ活性を調節することにより作用する、国際公開第2005/065069号に記載のフルルビプロフェン等の特定の消炎剤を利用することである。
【0013】
γ−セクレターゼには他に多くの基質があり、それらも阻害される場合には副作用が生じる可能性があるため、γ−セクレターゼを阻害するという選択肢は危ういものである。
【0014】
現在研究されている別の治療上の可能性は、沈着物を形成する不溶性再構築物への可溶性Aβの変換を回避することであり、例えばカナダの企業NeurochemのAlzhemedという薬物は、Aβの線維化(fibrilisation)に対抗し、その沈着を阻害する。
【0015】
さらに、Aβは自発的に凝集せず、Cu、Fe及びZn等の金属に依存する。アルツハイマー病の事例では、これらの金属は脳内で増加し、Aβの沈着を誘発する。国際公開第2004/031161号明細書に記載のように、これらの金属と結合するキレート化合物は、Aβの凝集を矯正し、アルツハイマー病の治療に役立つ。
【0016】
Aβ沈着物及び神経線維塊の異常構造に反応してこれらの周囲に炎症部分が現れることが見出され、抗Aβ免疫療法が始まった。これにより合成Aβに基づくワクチンを用いた臨床研究がもたらされた。これはAβの蓄積には作用したが、場合によっては死に至る重篤髄膜脳炎の発症等の重度の副作用の原因となった。現在、より安全で効果的な作用物質が求められている。
【0017】
これらの作用のメカニズムは主に、不溶型Aβの形成の阻害、Aβの沈着の回避、又は既に形成された沈着物の除去に基づき、全て脳組織に直接作用する。これは先に述べたように、中枢神経系に直接作用するため、不都合な副作用の危険を伴う。
【0018】
アルツハイマー病に対する治療戦略において検討される別の態様は、Aβの産生が脳内で続くことを踏まえると、CSFの血液への不十分な移動によるAβの蓄積及びその除去は脳におけるAβの沈着可能性を高めるということである。
【0019】
この一連の取り組みを受けて、米国特許第2005/0239062号は、特定のAβ輸送体のレベルに作用して、血液脳関門を横断するAβの輸送(アルツハイマー病では正常に機能しないと思われるメカニズム)を増大する治療活性に言及している。
【0020】
国際公開第2006/005706号及び国際公開第03/051374号は、中枢神経系又は血液脳関門のレベルではなく、血液を介して作用する、末梢活性の様式を示している。このような方法で、活性物質の血液脳関門の横断、及び中枢神経系に対する不都合な副作用の深刻な可能性という問題が回避される。
【0021】
国際公開第2006/005706号は、アフェレーシス装置で特異的リガンドによって、患者の血漿(又は血液)からAPPを除去する体外治療(アフェレーシス)の方法を開示している。アフェレーシスは、採取、治療及び再輸血による血液の体外治療を含む技法であり、本発明の範囲外であろう。
【0022】
国際公開第03/051374号明細書は、血中のAβに対して親和性のある作用物質の患者への投与に基づいている。当該作用物質は血液脳関門を横断しないが、血中のAβを単離及び低減すると、脳脊髄液(CSF、脳を浸している液体)中のAβの濃度も減少するはずである。この特許によりクレームされる作用物質は、その代謝を加速するために改質され、血液からのAβの除去を促進するであろう。
【0023】
米国特許出願第2007/0010435号は、アミロイド−βと結合可能な化合物の投与、及び透析又は血漿交換によるその除去に基づき、体液からアミロイドペプチドを除去することによりアミロイド病を治療する方法を示している。個体に対して、例えば透析又は血液濾過、及び再輸血をすることによる、「体外での」血液又は血漿の治療を示しているとも理解される。国際公開第2006/005706号もまた、この体外治療の技法を示しているようである。「体外の」血液からのアミロイド−βの除去は、アミロイド−βに対するリガンドを使用することなしに、患者の血漿をアミロイド−βを含まない血漿と交換する血漿交換により達成されるであろうことも理解される。この特許(米国特許出願第2007/0010435号、24段落、25段落及び143段落)では、プラスマフェレーシスのシステム(治療プロトコル)、及び血液サンプルをプラスマフェレーシスの前後で採取することにより管理される、血漿中のアミロイド−βレベルに従う、その効果の評価(measure)が確立される。低いアミロイド−βレベルを維持する目的の治療(透析又は血漿交換)の間隔はこれらのデータに従う。
【0024】
この特許の32段落に記載されているように、「治療」とは血液又はCSF中のアミロイド−βの濃度又は量を低減する方法を指す。
【0025】
要するに、米国特許出願第2007/0010435号は、2種類の全身治療型、即ちアミロイド−βに対する親和性が血漿タンパク質に対する親和性よりも大きい特異的アミロイド−βリガンドの輸液による「体内での」治療、又は個体においてアミロイド−βが特異的アミロイド−βリガンドと接触しない、若しくは血漿交換を含む、リガンドを使用する必要のない「体外での」治療を示している。この米国特許出願第2007/0010435号に記載の説明及び実施例から演繹されるように、これは患者の血中のアミロイド−β含有量を低減するという概念に基づいており、全Aβレベルを導くために血液サンプルを分析すること、血中のAβ含有量の分析から得られた情報により治療の正確な間隔を決定することによって、この手順が月に一回実行されることが明白に指摘される(実施例6、143段落)。しかしながら、以下に詳細に説明されるように、本発明者は広範な研究後、血漿交換は実際のところAβの血中の濃度又は量を低減しないことから、この焦点は誤りであり、理論的に血漿交換治療後のAβの血中濃度を変化することで、Aβの血中濃度に治療の基礎を置くことは臨床の一部では間違いとなり得るため、前述の米国特許において提供された手順の実行は誤った仮定に基づくという結論に達した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、アルツハイマー病に可能な治療の相当な重要性を踏まえると、依然としてこの疾患の治療に対する新たな方法を見出す必要があることは明らかである。そのため、本発明者は新たな手段を研究することを決心し、アルブミンを用いた血漿交換はアルツハイマー病の治療において著しい進歩を可能にし、驚くべきことに、この血漿交換は血漿又は血液中のアミロイド−β濃度に無関係であることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0027】
治療的血漿交換(TPE)又はプラスマフェレーシスは患者の血液から病原物質を除去するために利用される。治療的血漿交換(TPE)又はプラスマフェレーシスに関する専門用語は、専門文献において一様ではない。本明細書中で用いられる場合、「治療的血漿交換」という用語は、患者の血漿を交換媒体で交換することを指す。このプロセス中、血漿の正常な成分は病原物質と共に除去される。治療的血漿交換及びアルブミンの血漿交換への関与の一般的説明としては、米国特許第4,900,720号(参照のため本明細書中に援用される)を参照されたい。
【0028】
具体的には、TPEは患者の血漿を血液量の正常な(normovolaemic)状態、即ち浸透圧のバランスを保ちながら別の溶液で置換することを含む。アルブミン又は他のコロイド、新鮮凍結血漿(FFP)及び晶質による置換がTPEに利用されてきた。使用される溶液及び量は、プラスマフェレーシスの強度(頻度)に応じて決まる。アルブミンの場合、4%(p/v)、5%(p/v)及び最大25%(p/v)までの他の濃度の溶液が、必要に応じて生理的に適合性のある溶液に希釈した後、使用されてきた。TPEの基本的な目的は、血漿から毒性物質(自己抗体、アロ抗体、免疫複合体、タンパク質又は毒素であり得る)を除去することである。
【0029】
TPEを実施するための装置は、様々な文献に記載されている。例えば、米国特許第5,112,298号(「液体分離の簡易方法及びプラスマフェレーシスを含む多様なアフェレーシスに利用される装置(Simplified method of separation of fluid and devices to be used for various aphaeresis processes, including plasmaphaeresis)」)、及び同第5,178,603号(「血液等の液体を血管等の液体源に採取又は液体源から注入する、適応調整された方法及びシステム(Method and system for adaptatively controlled extraction/infusion of a fluid such as blood to a source of fluid or from the latter, such as blood vessel)」)(参照のため本明細書中に援用される)を参照されたい。
【0030】
TPEの臨床効果は、交換量、セッションの回数及び頻度、交換溶液の性質及び分離手法を含む多くの因子に依存する。FFPとは別の交換溶液を用いてTPEを実行する場合、血漿タンパク質の著しい枯渇が起き、免疫グロブリン及び凝固因子の特別な重要性が生じる。したがって、凝固因子の減少に起因する出血症状を無視することはできない。極端な場合には、凝固因子を投与するのが賢明である。同様のメカニズムにより、血栓症状も引き起こされ得る。TPEに最もよく見られる合併症の一つに低血圧症がある。体外の量が全量(volaemia)の15%を超える場合、不都合な副作用の危険性が高くなる。この危険性は、水分バランスに細心の注意を払い、患者を十分にモニタリングすることにより最小限に抑えることができる。それほど頻繁ではないが、心不全、心筋虚血、肺水腫及び呼吸窮迫症の症状も記載されている。
【0031】
この治療手順の利用は非常に限定的な適用に限られ、米国特許出願第2007/0010435号のみが、これをアミロイド−βの除去及び低減と関連付けている。上述したように、当該特許出願はこの可能性の記載に限定され、当該出願において認められるように、この血漿交換に見込まれる実用性は全くの理論的な推量であり、当該特許において提供される投与を調節する概念及び方法は誤った結論を導く。これは、指摘したように、また以下で実行した試験から明らかなように、血漿交換は血中のアミロイド−βの濃度又は量の低減に全く関与しないためである。
【0032】
本発明者により行われた研究から、また本特許の実施例で検証され得るように、血漿交換は、アルツハイマー病等の認知障害を患う患者の血中のアミロイド−βを低減する効果をもたらさない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は請求項1の文言により定義される。すなわち、本発明は、認知障害を患う患者又は認知障害を発症する危険性を示す患者の血中のAβ含有量に拘らず、当該患者を治療するための薬物の調製を目的とするヒトアルブミンの使用についての発明である。
【0034】
また、本発明の好適な態様は、つぎのとおりである。
すなわち、上記薬物が血漿交換のために溶液の形態であるヒトアルブミンの使用。
薬物が静脈内使用のために溶液の形態であるヒトアルブミンの使用。
上記アルブミンが初めは4%(p/v)〜25%(p/v)の濃度であるヒトアルブミンの使用。
使用されるアルブミンが4.5%(p/v)〜5.5%(p/v)の濃度であるヒトアルブミンの使用。
使用されるアルブミンが、ヨーロッパ薬局方に従って調合された治療用アルブミンの結合能力よりも優れた結合能力を有するヒトアルブミンの使用。
上記認知障害がアルツハイマー病であるヒトアルブミンの使用。
【0035】
本発明は認知障害を患う患者の治療のための治療法も提供する。本発明者により行われた研究により、驚くべきことに、アミロイド−βの血中濃度に関わらず、治療的血漿交換及び決まった治療頻度での正常血液量のアルブミン(normovolaemic volume albumin)の置換を利用する場合、アルツハイマー病の臨床症状の改善に関連する、海馬体積の増加が起こる。これは血液脳関門に可溶性及び透過性の因子に起因し得る。しかし、特許請求の範囲は特定の理論によっては限定されない。
【0036】
アルブミンを用いた治療的血漿交換は、認知障害の治療法として利用することができる。一利用法により、アルブミンを用いた治療的交換に有効な頻度で治療的血漿交換を患者に施すことを包含する、認知障害を患う患者、又は認知障害と診断された患者の治療法が提供される。
【0037】
本明細書中で用いられる場合、「認知障害」という用語は、アルツハイマー病を含む脳変性の病状を指す。
【0038】
本治療法は、特定の、血漿又はCSFレベルのアミロイド−βペプチド(滴定)濃度に依存せず、またアミロイド−βペプチドの相対的減少にも左右されない。本方法の利点は、海馬体積の増加によって実証される。本発明の治療的血漿交換により海馬体積が増加するが、海馬体積は以下のように表される:補正海馬体積=(左海馬の体積+右海馬の体積)/脳容積×1000。
【0039】
本方法は、海馬体積を増加するための治療的血漿交換の具体的なレジメンを確立する。他の利用法では、アルブミンは交換媒体中に4%〜最大25%(質量/体積)で存在する。或る利用法では、アルブミンは交換媒体中に約4.5%〜5.5%(質量/体積)で存在する。
【0040】
別のさらなる利用法では、治療的血漿交換は、認知障害と診断され、その疾患の初期段階にある患者、又は認知障害の発症に関する他の危険因子が同定された患者において予防的に利用される。このような場合、所望の治療効果は海馬体積の増加ではなく、海馬体積の減少の防止に限定され得る。
【0041】
血漿交換の繰り返しは不可欠である。概して、海馬体積を増加するためには最低3回の交換が必要である。
【実施例】
【0042】
完全な血漿交換レジメン(3週間に3回以上)により認知力及び挙動の悪化が改善され得るかどうかを判定するために、アルツハイマー病の患者に対する試験を考案し、実行した。
【0043】
本試験においては有効性及び安全変数を調べた。認知力及び挙動の悪化、並びに海馬体積における変化量を有効性の指標として、様々な尺度で測定した。
【0044】
試験サンプルは、簡易精神状態検査(Mini Mental Status Examination)(MMSE)のスコアが20〜24である、軽度から中等度のアルツハイマー病患者を中心としている(NINCDS−ADRDA基準、「神経学(Neurology)」1984; 34: 939-944)。
【0045】
試験手順は必然的に血漿の代替液としてのアルブミンの使用を含む、完全な血漿交換レジメンの使用を包含する。本実施例では、静脈内使用のため生理的に適合する濃度に調節した、任意の他の初期濃度のアルブミンも使用できたが、生理的に適合性のある物質に事前に希釈する必要がないという便宜上、5%濃度(p/v)のアルブミンを使用した。使用したアルブミンはヨーロッパ薬局方の規格に適合する治療用のものであるが、任意の他のアルブミン組成物も本発明に有用であろう。
【0046】
本実験例では60ml/分〜100ml/分の速度、患者の血漿量と同量の交換量で、3回〜5回の治療的血漿交換を3週間にわたって実行した。最終的に9人の患者がこの治験を受けたが、そのうちの2人は対照、即ちいかなる治療も受けなかった。残りの7人の患者は3回、4回又は5回の血漿交換を受けた。治験の実験段階は、登用期(recruitment period)、血漿交換期、5ヶ月のモニタリング期(1ヶ月に1回の面会(appointment))、及び交換終了から6ヶ月後の最後の面会から成る。全ての面会において、別のさらなるモニタリング手段が使用された:異なる型のβ−アミロイドペプチドを定量するための血漿及びCSFの採取、神経心理検査及び神経画像処理(単一光子放出による核磁気共鳴及びトモグラフィー)による認知評価。海馬の体積は核磁気共鳴により評価した。
【0047】
結果
治療された7人の患者のうち、3人は5回の血漿交換を受け(患者4、5及び6)、2人は4回の血漿交換を受け(患者2及び3)、2人は3回の血漿交換を受けた(患者7及び9)。
【0048】
Innotest Aβ42キット(Innogenetics)により分析した、Aβ42の血漿中濃度(pg/ml)の結果を図1に示す。結果は患者毎(治療された7人の患者及び対照の2人の患者(0回の血漿交換))に示す。実行した血漿交換の回数は括弧内に記す。
【0049】
結果から、基底値(登用期)と比較してAβ42値には変化が見られない。したがって、このパラメータはプラスマフェレーシス治療レジメンの確立、又はその成功の判定には有用ではない。
【0050】
図2では、基底値と比較した、治験期間(3ヶ月)にわたる海馬体積の変化率(平均)を比較する。
【0051】
神経心理検査の評価:
神経心理検査による認知評価に関して、MMSE(Folstein MF et al.「『簡易精神状態検査』、臨床医のための患者の認知状態を評価する実用的方法("Mini-mental state", a practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician)」J Psychiatr Res 1975; 12: 189-198)及びAdas−Cog(Rosen WG et al.「アルツハイマー病の新たな尺度(A new scale for Alzheimer's disease)」Am J Psychiatry 1984; 141: 1536-1364)と呼ばれる異なる試験を利用した。
【0052】
MMSEは認知変化を評価する試験である。スコアは30を最高スコアとする、0〜30の範囲である。
【0053】
Adas−Cog試験は特に、アルツハイマー病患者に特有の基本的な認知変化の重症度を評価するために考案された試験である。総スコアは0を最高スコアとする、0〜70の範囲である。
【0054】
下記に添付の表1及び表2に、本試験で患者から得られた結果を、基底評価(血漿交換前)並びに3ヶ月及び6ヶ月でのモニタリング(血漿交換後)のスコアにおける差としてまとめる。
【0055】
表1:MMSE認知試験
【表1】






基底値と比較した3ヶ月及び6ヶ月でのモニタリングの認知評価間の差を示す(差が正であるほど良い結果である)。
【0056】
表2:Adas−Cog認知試験
【表2】






基底値と比較した3ヶ月及び6ヶ月でのモニタリングの認知評価間の差を示す(差が正であるほど良い結果である)。
【0057】
表1より、4回以上の血漿交換を受けた患者ではMMSEスコアの向上(+1点〜+6点の差)が認められる。
【0058】
表2より、Adas−Cog試験についてもスコアの向上(−2点を上回る差)が認められる。
【0059】
一部の患者にとって、神経心理評価は非常に適切であると見なされ、MMSEにおいて最大+5点及び+6点の差(5回の血漿交換を受けた患者5及び患者6)として反映されることに留意されたい。
【0060】
したがって、4回以上の血漿交換を受けた患者に対する神経心理試験(MMSE及びAdas−Cog)の認知結果より、著しい臨床的改善が認められる。また、5回の血漿交換を受けた患者において、改善はより顕著である。
【0061】
結果として、認知障害、特にアルツハイマー病を患う患者、又はその疑いがある患者のための、血漿交換を用いる新たな治療法が本発明に記載される。プラスマフェレーシスレジメンは強力(完全)でなければならず、アミロイド−β血漿値により支配されず、ヒトアルブミンを含有する治療溶液で血漿量を置換することを含む。治療の有効性及び反復は、神経画像及び神経心理評価により確立される。アルツハイマー病を患う患者、又はアルツハイマー病であると診断され、その初期段階にある患者、又はアルツハイマー病の発症に関する他の危険因子が同定された患者に対する治療法も記載される。当該治療法は、数日から数週間、好ましくは最大約3週間の期間にわたって、好ましくは3回を越える一連のセッションで、アルブミンでの血漿交換を患者に施すことを含む。患者の血漿量と同様の交換量を使用することでさらなる利益を得ることができる。
【0062】
ヨーロッパ薬局方に従う調合物よりも物質と結合する能力の高いアルブミンを使用することによってもさらなる利益を得ることができる。これは、アルツハイマー病を含む認知障害の症状が、血漿アルブミンと結合する能力のある物質、例えば脳内でアミロイド−βの凝集が依存し得る、先に述べた金属(Cu、Fe及びZn)により調節されることが可能であるためである。より高い結合能力を有するアルブミンは、例えば国際出願PCT第2004/071524号(参照により本明細書中に援用される)に示されているように得ることができる。このアルブミンの調合においては、結合能力の低減を招く安定剤の使用は避けられる。
【0063】
記載された研究及び実施は限定的ではない。本明細書及び特許請求の範囲に記載の内容に基づく変更及び修正は当業者の能力の範囲内であり、本特許の範囲に含められる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】各患者についてのAβ42血漿中濃度の結果を示す図である。
【図2】基底値と比較した、治験期間(3ヶ月)にわたる海馬体積の変化率(平均)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知障害を患う患者又は認知障害を発症する危険性を示す患者の血中のAβ含有量に拘らず、当該患者を治療するための薬物の調製を目的とするヒトアルブミンの使用。
【請求項2】
該薬物が血漿交換のために溶液の形態である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
該薬物が静脈内使用のために溶液の形態である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
該アルブミンが初めは4%(p/v)〜25%(p/v)の濃度である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
使用される該アルブミンが4.5%(p/v)〜5.5%(p/v)の濃度である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
使用される該アルブミンが、ヨーロッパ薬局方に従って調合された治療用アルブミンの結合能力よりも優れた結合能力を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
該認知障害がアルツハイマー病である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−108059(P2009−108059A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274076(P2008−274076)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(505395973)
【Fターム(参考)】