説明

誘導傘の放出コイルバネの固定構造

【課題】降下者の身体等への絡まりにくく、しかも緊急用落下傘が迅速に開傘する、誘導傘の放出コイルバネの固定構造を提供することを目的とする。
【解決手段】誘導傘の放出コイルバネの固定構造900は、落下傘収納袋800内に収納された傘体400を引き出す誘導傘300を放出する放出コイルバネ100と、放出コイルバネ100を縮めて固定する固定紐200と、を有する。固定紐200は、放出コイルバネ100の中心軸Cから、緊急用落下傘420で降下する降下者990の頭部の方へ偏心した位置で、放出コイルバネ100を縮めて固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導傘の放出コイルバネの固定構造に関する。より詳しくは、落下傘降下する空挺隊員等が主傘に異状が発生した場合等に使用する傘体が円形の緊急用落下傘を、傘体優先方式で落下傘収納袋から引き出す際に使用する誘導傘を落下傘収納袋から放出する放出コイルバネの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
空挺隊員等の降下者が主傘で降下する際、のろし状開傘、不完全開傘、あるいは傘体損傷等の主傘に異状が発生することや、主傘が落下傘収納袋から出ないことがある。
【0003】
そのような場合は、降下者の命を救うため、予備の落下傘である緊急用落下傘が使用される。
【0004】
この緊急用落下傘は、低高度においても出来る限り完全かつ迅速に開傘することが要求される。
【0005】
そのために、一般には、開傘時に、サスペンションラインよりも傘体を先に展張させる方式である傘体優先方式が採用される。
【0006】
傘体優先方式では、緊急用落下傘の傘体は、誘導傘と連結索とによって落下傘収納袋から引き出される。
【0007】
しかしながら、落下傘収納袋からの緊急用落下傘の引き出され方によっては、緊急用落下傘の誘導傘や傘体が降下者の身体等に絡まる事態が発生しうる。
【0008】
そのため、緊急用落下傘の傘体を引き出す誘導傘は、降下者の身体から適度に離れた絡まりにくい位置まで迅速に放出されることが望ましい。
【0009】
例えば、非特許文献1には、誘導傘を降下者の身体から離れた位置まで放出させるため、リップコード等の作動により落下傘収納袋をオープンさせ、誘導傘を圧縮されたコイルバネの復元力を利用して放出させる手法が記載されている。
【0010】
しかし、圧縮されたコイルバネが復元する際、真っすぐに復元しない場合があり、かかる場合は誘導傘の放出方向が意図しない方向になることがある。
【0011】
例えば、主傘損傷等により降下者がほぼ垂直に吊下された状態において、誘導傘が降下者の足元方向に放出されることがある。
【0012】
これでは、降下者の足元方向に放出された誘導傘が、降下者の身体に絡まる等の予期せぬ事態が発生しうる。
【0013】
また、誘導傘が降下者の足元方向に放出された場合、誘導傘が比較的低い高度にて開くので、連結索が上方に伸びきって緊急用落下傘の傘体を引き出すまでに時間がかかる。
【0014】
これでは、緊急用落下傘が完全に開傘し、降下速度が減速するための時間的余裕がなく、比較的速い降下速度で降下者が着地することで、降下者が受傷等することがありうる。
【非特許文献1】TM 10-1670-269-23&P UNIT AND DIRECTSUPPORT (DS) MAINTENANCE MANUAL FOR MODIFIED IMPROVED RESERVE PARACHUTESYSTEM(MIRPS) 米陸軍技術教範 2003年8月31日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、降下者の身体等への絡まりが起こりにくく、しかも緊急用落下傘を迅速に開傘させる、誘導傘の放出コイルバネの固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、この発明の誘導傘の放出コイルバネの固定構造は、
収納袋内に収納された落下傘の傘体を、前記収納袋から引き出す誘導傘を放出する放出コイルバネと、
前記放出コイルバネを縮めて固定する固定紐と、を有し、
前記固定紐は、前記放出コイルバネの中心軸から、前記落下傘で降下する降下者の頭部の方へ偏心した位置で、前記放出コイルバネを縮めて固定する、ことを特徴とする。
【0017】
また、前記放出コイルバネは、縮まった放出コイルバネが伸びる際に前記誘導傘を押し出す上皿を一方の端部に有するとともに、他方の端部に底板を有する、ことも可能である。
【0018】
また、前記上皿の縁部には、前記上皿の中心部よりも前記降下者の頭部の方へ偏心した位置に、ハトメ穴を有する一対の第1のハトメタブが設けられ、
前記底板の縁部には、前記底板の中心部よりも前記降下者の頭部の方へ偏心した位置に、ハトメ穴を有する一対の第2のハトメタブが設けられ、
前記固定紐は、前記一対の第1のハトメタブのハトメ穴と、前記一対の第2のハトメタブのハトメ穴と、を挿通して、前記放出コイルバネの中心軸から、前記落下傘で降下する降下者の頭部の方へ偏心した位置で、前記放出コイルバネを縮めて固定する、ことも可能である。
【0019】
また、前記収納袋内に収納された落下傘の傘体と前記底板との間に、該傘体側に設けられる第1の仕切布と、該底板側に設けられる第2の仕切布と、を有する、ことも可能である。
【0020】
また、前記固定紐は、両端部に閉ループ状に形成されたループ部を有し、
前記固定紐の一方のループ部は、前記一対の第2のハトメタブのうちの一方のハトメタブのハトメ穴を通過するとともに、前記一対の第1のハトメタブのうちの一方のハトメタブのハトメ穴を通過して、前記収納袋の包布に設けられた第1の包布穴を通って前記包布の外に突出し、
前記固定紐の他方のループ部は、前記一対の第2のハトメタブのうちの他方のハトメタブのハトメ穴を通過するとともに、前記一対の第1のハトメタブのうちの他方のハトメタブのハトメ穴を通過して、前記収納袋の包布に設けられた第2の包布穴を通って前記包布の外に突出し、
前記収納袋外に突出している前記固定紐の一方のループ部と、前記収納袋外に突出している前記固定紐の他方のループ部とに、それぞれリップコードピンが挿通されることにより、前記固定紐が前記放出コイルバネを縮めて固定し、
前記リップコードピンが、前記一方のループ部と前記他方のループ部とから引き抜かれることにより、前記固定紐による前記放出コイルバネの縮み状態が開放される、ことも可能である。
【0021】
また、前記第2の仕切布には一対のハトメ穴が形成されており、
前記固定紐の中央部は、前記第2の仕切布の一対のハトメ穴を通過するとともに、前記第2の仕切布の後ろ側を通過する、ことも可能である。
【0022】
また、前記上皿には、折り畳まれた誘導傘と、前記誘導傘が前記収納袋内から放出される際に前記誘導傘に慣性力を付与する重りと、が配置されている、ことも可能である。
【0023】
また、前記放出コイルバネは、ネットで覆われている、ことも可能である。
【0024】
また、前記落下傘は、主傘に異常が発生した場合に使用する緊急用落下傘である、ことも可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の誘導傘の放出コイルバネの固定構造によれば、降下者の身体等へ緊急用落下傘が絡まりにくく、しかも、緊急用落下傘が迅速に開傘する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本実施形態に係る誘導傘の放出コイルバネの固定構造900を、図面を参照して説明するが、これらの実施形態は本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
誘導傘の放出コイルバネの固定構造900は、図1に示されるように、放出コイルバネ100と、固定紐200と、を有する。固定紐200は、例えば、引張強度に優れる超高分子量ポリエチレン繊維にて形成される。なお、図1では、理解促進のために固定紐200には斜線を付して説明してある。
【0028】
落下傘収納袋800内には、緊急用落下傘400の傘体420が折り畳まれて収納されている。傘体420は例えば円形の傘体である。
【0029】
緊急用落下傘400は、例えば、落下傘降下する空挺隊員等が主傘に異状が発生した場合等に予備的に使用される。
【0030】
図2に示されるように、落下傘収納袋800は、例えば、降下者990の腹部付近に取り付けられる。なお、本実施形態において、降下者990の頭部方向(Z軸矢印方向)を上方向とし、降下者990の脚部方向を下方向とする。また、降下者990の腹部方向(X軸矢印方向)を前方向とし、降下者990の背中方向を後方向とする。また、図面内容の理解促進のため、降下者990及び落下傘収納袋800の大きさや縮尺等は、誇張して記載してある。
【0031】
落下傘収納袋800の降下者990への取付けは、落下傘収納袋800の底部に設けられている装着用フック710を、例えば降下者990の図示されていないハーネス等に装着することにより行われる。
【0032】
図1及び図2に示されるように、固定紐200は、放出コイルバネ100の中心軸Cから、緊急用落下傘400で降下する降下者990の頭部の方へ(図2におけるZ軸方向へ)偏心した位置で、前記放出コイルバネを縮めて固定する。
【0033】
降下者990の頭部の方への偏心とは、図3に示されるように、例えば、放出コイルバネ100の中心軸Cを示すSから、半径r方向に2割離れたS0.2以上半径r方向に8割離れたS0.8以下の間とすることができる。降下者990の頭部の方への偏心がS0.2より小さい場合は、偏心の距離が小さく、後述するように、放出コイルバネ100の中心軸Cより上方向位置の圧縮力が不十分となる可能性があるからである。一方、降下者990の頭部の方への偏心がS0.8より大きい場合は、固定紐200が放出コイルバネ100から外れる可能性がありうるからである。なお、Sは、Sから放出コイルバネ100の半径r離れたところである。
【0034】
図1にもどり、傘体420の傘縁には、サスペンションライン410が設けられている。サスペンションライン410は、落下傘収納袋800内の傘体420の後方に、折り畳まれて収納されている。
【0035】
折り畳まれた傘体420の前方には、第1の仕切布850と第2の仕切布860とが設けられている。
【0036】
連結索320は、誘導傘300と傘体420の傘頂部とを連結する。
【0037】
傘体420の傘頂部には傘頂キャップ330が設けられる。傘頂キャップ330は、誘導傘300の抗力が連結索320を通して傘体420を落下傘収納袋800から引き出す際に、傘体420の傘頂部を保護する。
【0038】
図4(A)〜図4(C)に示されるように、放出コイルバネ100は、一方の端部(前方向の端部)に上皿110を有し、他方の端部(後方向の端部)に底板120を有する。
【0039】
放出コイルバネ100は、金属を捲回して形成されるコイルバネである。放出コイルバネ100は、ネット130で覆われており、外部からの衝撃等から保護されている。
【0040】
上皿110は、放出コイルバネ100の上端を覆う円形の布製の皿であり、縮まった放出コイルバネ100が伸びる際(復元する際)に、折り畳まれた誘導傘300と重り310とを押し出す。底板120は、円形の板体であり、第2の仕切布860の前方に位置する。後述するように、第2の仕切布860には一対のハトメ穴861、862が形成されている。固定紐200は、第2の仕切布860に形成されている一対のハトメ穴861、862を挿通する。
【0041】
上皿110の縁部には、上皿110の中心部よりも降下者990の頭部の方へ偏心した位置に、ハトメ穴を有する一対の第1のハトメタブ111が設けられている。換言すれば、図4(A)に示されるように、放出コイルバネ100の中心軸Cから、上方向に偏心した位置に第1のハトメタブ111が設けられている。なお、破線Scは、放出コイルバネ100の中心軸Cを含むXY平面を示す。
【0042】
また、底板120の縁部には、底板120の中心部よりも降下者990の頭部の方へ偏心した位置に、ハトメ穴を有する一対の第2のハトメタブ121が設けられている。換言すれば、図4(C)に示されるように、放出コイルバネ100の中心軸Cから、上方向に偏心した位置に第2のハトメタブ121が設けられている。
【0043】
図5に示されるように、上皿110の前方には、折り畳まれた誘導傘300と、その折り畳まれた誘導傘300の後方に位置する重り310とが配置されている。なお、図5は、図2の落下傘収納袋800を上方向から説明するものであり、理解促進のために固定紐200には斜線を付して説明してある。
【0044】
重り310は、誘導傘300が落下傘収納袋800内から放出される際に、放出される誘導傘300に慣性力を付与する。重り310は、連結索320に取付けられており、誘導傘300の直下に設けられる。
【0045】
次に、固定紐200が放出コイルバネ100を縮めて固定する構造について、詳細に説明する。
【0046】
固定紐200の中央部は、第2の仕切布860の一対のハトメ穴861、862を挿通して、第2の仕切布860の後ろ側を通過している。落下傘収納袋800内には、偏心固定された放出コイルバネ100や傘体420等が詰めれた状態にて収納される。そのため、外部からの衝撃等により、落下傘収納袋800内の放出コイルバネ100等が予期せぬ位置へずれることもありうる。しかしながら、固定紐200の中央部が、第2の仕切布860の一対のハトメ穴861、862を通過するとともに、第2の仕切布860の後ろ側を通過することにより、たとえ外部から衝撃等が加わったとしても、放出コイルバネ100が落下傘収納袋800の中央部付近から位置ずれしにくい。
【0047】
図6に示されるように、固定紐200は、その両端部に閉ループ状に形成されたループ部201、202を有する。
【0048】
落下傘収納袋800の前方には、右包布810、左包布820、下包布830及び上包布840が設けられる。右包布810にはループ部201を挿通させる包布穴811が形成され、左包布820にはループ部202を挿通させる包布穴822が形成され、下包布830にはループ部201、202を挿通させる包布穴831、832が形成され、上包布840にはループ部201、202を挿通させる包布穴841、842が形成されている。
【0049】
右包布810を折り畳み、次に下包布830を折り畳み、そして上包布840を折り畳むと、右包布810の包布穴811と下包布830の包布穴831と上包布840の包布穴841とは重なり、あたかも一つの包布穴(第1の包布穴)を形成する。なお、第2の仕切布860のハトメ穴861は、第1の包布穴と同一軸上にある。
【0050】
また、落下傘収納袋800を閉鎖させるように、左包布820を折り畳み、次に下包布830を折り畳み、そして上包布840を折り畳むと、左包布820の包布穴822と下包布830の包布穴832と上包布840の包布穴842とは重なり、あたかも一つの包布穴(第2の包布穴)を形成する。なお、第2の仕切布860のハトメ穴862は、第2の包布穴と同一軸上にある。
【0051】
固定紐200の一方のループ部202は、第2のハトメタブ121のうちの一方のハトメタブのハトメ穴と、第1のハトメタブ111のうちの一方のハトメタブのハトメ穴とを挿通している。
【0052】
そして、図7に示されるように、第2の包布穴を挿通し、落下傘収納袋800の包布の外部に突出している。なお、図7は、図2の落下傘収納袋800を前方向から説明するものである。
【0053】
また、固定紐200の他方のループ部201は、第2のハトメタブ121のうちの他方のハトメタブのハトメ穴と、第1のハトメタブ111のうちの他方のハトメタブのハトメ穴と、を挿通している。そして、第1の包布穴を挿通し、落下傘収納袋800の包布の外部に突出している。
【0054】
落下傘収納袋800の包布の外部に突出している固定紐200の一方のループ部202と、落下傘収納袋800の包布の外部に突出している固定紐200の他方のループ部201とには、それぞれ、リップコードピン720が挿通されており、張力がかかった状態で、縮められた放出コイルバネ100は固定紐200により固定される。
【0055】
2本のリップコードピン720には、それらを束ねるリップコードが設けられている。リップコードの右端部には取っ手730が取り付けられている。
【0056】
第1の包布穴及び第2の包布穴を挿通した固定紐200の両ループ部201、202とリップコードピン720との係合部分は、上包布840の端部に取り付けてあるリップコードカバー843で覆われる。
【0057】
降下者990が、折り畳まれた誘導傘300を落下傘収納袋800から放出させる際は、降下者990は、取っ手730を引く。
【0058】
2本のリップコードピン720をそれぞれ別々に引き抜くのでは、両ループ部201、202と2本のリップコードピン720との係合が、別々に解除される。これでは、偏心固定させた放出コイルバネ100が予期せぬ方向へ復元しうる。しかしながら、2本のリップコードピン720をリップコードを介して取っ手730により引き抜くから、両ループ部201、202と2本のリップコードピン720との係合が、殆ど同時にほどかれる。
【0059】
そして、縮められた放出コイルバネ100が復元することにより、誘導傘300と重り310とが、落下傘収納袋800から放出される。
【0060】
以下、図8(A)〜図8(E)を用いて、誘導傘300が、落下傘収納袋800から放出される様子を説明する。なお、理解促進のために、図8では重り310を省略して記載している。
【0061】
まず、放出コイルバネ100は、固定紐200にて、中心軸Cから上方向へ偏心した位置で固定されている。即ち、図8(A)に示されるように、放出コイルバネ100の中心軸Cを含むXY平面Scより、上方向に偏心した位置にて、放出コイルバネ100は固定紐200で固定されている。
【0062】
次に、固定紐200による放出コイルバネ100の縮み状態の固定が解除されると、図8(B)に示されるように、放出コイルバネ100は下方に曲がって、縮み状態から伸び状態に復元される。これは、Scよりも上方向に偏心した位置に固定紐200による縮み状態の固定があるので、Scより上方向位置の放出コイルバネ100の圧縮力が、Scより下方向位置の放出コイルバネ100の圧縮力よりも強く、放出コイルバネ100の縮み状態の固定が解除されると、相対的に圧縮力の弱い方向に曲がって伸び状態に復元されるためと考えられる。このため、図8(B)に矢印で示される方向に、誘導傘300が放出される力が働く。
【0063】
次に、図8(C)に示されるように、図8(B)で矢印にて示された方向に、誘導傘300が放出される。
【0064】
そして、図8(D)及び図8(E)で示されるように、誘導傘300は、降下者990の斜め上方向へ放出される。誘導傘300が降下者990の斜め上方向へ放出されるから、誘導傘300の開傘位置の高度を比較的高くすることができ、そのため、傘体400を落下傘収納袋800から引き出すまでの時間を短くできる。
【0065】
また、誘導傘300が降下者990の斜め上方向へ放出されるから、開傘した誘導傘300と落下傘収納袋800から引き出された傘体400等との絡まりが生じにくい。
【0066】
これに対して、仮に、固定紐210が、放出コイルバネ190の中心軸Cから下方向へ偏心した位置で、放出コイルバネ190を縮めて固定する場合は、上述したような開傘速度の短縮及び絡まり抑制の効果を得ることは困難である。以下、図9(A)に示されるように、放出コイルバネ190の中心軸Cを含むXY平面Scより下方向に偏心した位置で、放出コイルバネ100が固定紐210で固定される場合を説明する。
【0067】
固定紐210による放出コイルバネ100の縮み状態の固定が解除されると、図9(B)に示されるように、放出コイルバネ190は上方に曲がって、縮み状態から伸び状態に復元される。このため、図9(B)にて矢印で示される方向に、誘導傘300が放出される力が働く。
【0068】
次に、図9(C)に示されるように、図9(B)で矢印にて示された方向に、誘導傘390が放出される。
【0069】
そして、図9(D)及び図9(E)で示されるように、誘導傘390は、重力加速に放出コイルバネ190の力が加わるため、降下者990のかなりの下方向へ放出されてしまう。かかる場合、誘導傘390は降下者よりも低い位置で開傘し、しかも降下速度は比較的大きくないため、誘導傘390の抗力は小さくなる。そのため、誘導傘390が傘体400を落下傘収納袋800から引き出すまでの時間がかかることになる。これでは、例えば150〜300mの高度で降下する空挺作戦降下において、主傘異常時に傘体420が完全に開傘して減速する余裕がなく、降下者990が通常より早い降下速度で着地して受傷することもありうる。
【0070】
さらには、誘導傘390が降下者990の下方向へ放出された場合には、誘導傘390と降下者990等との絡まりが生じるおそれもある。
【0071】
これに対し、上述したように、本実施形態に係る発明では、固定紐200は、放出コイルバネ100の中心軸Cから上方向へ偏心した位置で、放出コイルバネ100を縮めて固定するから、誘導傘300等は降下者990の斜め上方向へ放出され、その結果、開傘速度の短縮及び誘導傘300の絡まり等が起こりにくい。このように本実施形態に係る発明から得られる利益は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施形態に係る誘導傘の放出コイルバネの固定構造を、緊急用落下傘の側面から説明する図である。
【図2】落下傘収納袋が降下者に取り付けられる一具体例を説明する図である。
【図3】固定紐の偏心について説明する図である。
【図4】放出コイルバネを詳細に説明する図であり、そのうち(A)は上皿を説明する図であり、(B)は放出コイルバネを説明する図であり、(C)は底板を説明する図である。
【図5】本実施形態に係る誘導傘の放出コイルバネの固定構造を、降下者の下方向から説明する図である。
【図6】落下傘収納袋を詳細に説明する図である。
【図7】本実施形態に係る誘導傘の放出コイルバネの固定構造を、降下者の前方向から説明する図である。
【図8】本実施形態に係る誘導傘の放出コイルバネの固定構造により、誘導傘が放出される状態を説明する図であり、そのうち(A)は放出コイルバネの固定状態であり、(B)は誘導傘が放出される方向であり、(C)は放出された誘導傘であり、(D)及び(E)は放出された後の誘導傘である。
【図9】比較例に係る誘導傘の放出コイルバネの固定構造により、誘導傘が放出される状態を説明する図であり、そのうち(A)は放出コイルバネの固定状態であり、(B)は誘導傘が放出される方向であり、(C)は放出された誘導傘であり、(D)及び(E)は放出された後の誘導傘である。
【符号の説明】
【0073】
100 放出コイルバネ
110 上皿
120 底板
130 ネット
200 固定紐
300 誘導傘
310 重り
400 緊急用落下傘
420 傘体
710 装着用フック
720 リップコードピン
730 取っ手
800 落下傘収納袋
810 右包布
820 左包布
830 下包布
840 上包布
843 リップコードカバー
850 第1の仕切布
860 第2の仕切布
900 誘導傘の放出コイルバネの固定構造
990 降下者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納袋内に収納された落下傘の傘体を、前記収納袋から引き出す誘導傘を放出する放出コイルバネと、
前記放出コイルバネを縮めて固定する固定紐と、を有し、
前記固定紐は、前記放出コイルバネの中心軸から、前記落下傘で降下する降下者の頭部の方へ偏心した位置で、前記放出コイルバネを縮めて固定する、
ことを特徴とする誘導傘の放出コイルバネの固定構造。
【請求項2】
前記放出コイルバネは、縮まった放出コイルバネが伸びる際に前記誘導傘を押し出す上皿を一方の端部に有するとともに、他方の端部に底板を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の誘導傘の放出コイルバネの固定構造。
【請求項3】
前記上皿の縁部には、前記上皿の中心部よりも前記降下者の頭部の方へ偏心した位置に、ハトメ穴を有する一対の第1のハトメタブが設けられ、
前記底板の縁部には、前記底板の中心部よりも前記降下者の頭部の方へ偏心した位置に、ハトメ穴を有する一対の第2のハトメタブが設けられ、
前記固定紐は、前記一対の第1のハトメタブのハトメ穴と、前記一対の第2のハトメタブのハトメ穴と、を挿通して、前記放出コイルバネの中心軸から、前記落下傘で降下する降下者の頭部の方へ偏心した位置で、前記放出コイルバネを縮めて固定する、
ことを特徴とする請求項2記載の誘導傘の放出コイルバネの固定構造。
【請求項4】
前記収納袋内に収納された落下傘の傘体と前記底板との間に、該傘体側に設けられる第1の仕切布と、該底板側に設けられる第2の仕切布と、を有する、
ことを特徴とする請求項3記載の誘導傘の放出コイルバネの固定構造。
【請求項5】
前記固定紐は、両端部に閉ループ状に形成されたループ部を有し、
前記固定紐の一方のループ部は、前記一対の第2のハトメタブのうちの一方のハトメタブのハトメ穴を通過するとともに、前記一対の第1のハトメタブのうちの一方のハトメタブのハトメ穴を通過して、前記収納袋の包布に設けられた第1の包布穴を通って前記包布の外に突出し、
前記固定紐の他方のループ部は、前記一対の第2のハトメタブのうちの他方のハトメタブのハトメ穴を通過するとともに、前記一対の第1のハトメタブのうちの他方のハトメタブのハトメ穴を通過して、前記収納袋の包布に設けられた第2の包布穴を通って前記包布の外に突出し、
前記収納袋外に突出している前記固定紐の一方のループ部と、前記収納袋外に突出している前記固定紐の他方のループ部とに、それぞれリップコードピンが挿通されることにより、前記固定紐が前記放出コイルバネを縮めて固定し、
前記リップコードピンが、前記一方のループ部と前記他方のループ部とから引き抜かれることにより、前記固定紐による前記放出コイルバネの縮み状態が開放される、
ことを特徴とする請求項4記載の誘導傘の放出コイルバネの固定構造。
【請求項6】
前記第2の仕切布には一対のハトメ穴が形成されており、
前記固定紐の中央部は、前記第2の仕切布の一対のハトメ穴を通過するとともに、前記第2の仕切布の後ろ側を通過する、
ことを特徴とする請求項5記載の誘導傘の放出コイルバネの固定構造。
【請求項7】
前記上皿には、折り畳まれた誘導傘と、前記誘導傘が前記収納袋内から放出される際に前記誘導傘に慣性力を付与する重りと、が配置されている、
ことを特徴とする請求項3記載の誘導傘の放出コイルバネの固定構造。
【請求項8】
前記放出コイルバネは、ネットで覆われている、
ことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の誘導傘の放出コイルバネの固定構造。
【請求項9】
前記落下傘は、主傘に異常が発生した場合に使用する緊急用落下傘である、
ことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の誘導傘の放出コイルバネの固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−36749(P2010−36749A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202764(P2008−202764)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(390005393)藤倉航装株式会社 (40)