説明

誘電体層用ガラスペースト

【課題】優れた熱分解性、ガラス粉末分散性及び印刷性を実現しつつ、誘電体層を形成した場合に良好な性能を発揮することが可能な誘電体層用ガラスペーストを提供する。
【解決手段】誘電体層の形成に用いられる誘電体層用ガラスペーストであって、バインダー樹脂、非鉛系ガラス微粒子及び有機溶剤を含有し、前記バインダー樹脂は、(メタ)アクリル共重合体とエチルセルロースとからなり、前記(メタ)アクリル共重合体は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを40〜95重量%、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントを5〜40重量%含有する誘電体層用ガラスペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた熱分解性、ガラス粉末分散性及び印刷性を実現しつつ、誘電体層を形成した場合に良好な性能を発揮することが可能な誘電体層用ガラスペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビやコンピュータ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)としては、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPともいう)や液晶ディスプレイ、有機EL等が知られているが、特に大画面のFPDとしてはPDPが優れている。PDPは、前面ガラス基板と背面ガラス基板との間に備えられた放電空間内で電極間にプラズマ放電させ、放電空間内に封入されているガスから発生した紫外線を放電空間内の蛍光体に当てることにより発光を得るものである。
背面ガラス基板にはプラズマから電極を保護する目的で電極上に誘電体層が形成され、更にその表面に蛍光体層を塗工するガラスリブが形成されている。また、蛍光体層の表面積を稼ぐために、ガラスリブは、サンドブラストを用いて凹型ストライプ状に成形されている。背面ガラス基板表面に誘電体層とガラスリブとが形成されたものを背面板という。
【0003】
通常、PDPの生産プロセスでは、特許文献1に開示されているように、背面ガラス基板の表面に、低融点ガラス粉末、バインダー樹脂及び溶剤を混合した誘電体層用ガラスペーストを塗工、乾燥した後、加熱して脱脂・焼成を行うことで誘電体層を形成し、更に誘電体層の表面に、アクリル樹脂やエチルセルロース樹脂等をバインダー樹脂とし、低融点ガラスを分散させ、溶剤を含有させたペーストを塗工し、乾燥後、ドライフィルムレジストをラミネートし、露光させてアルカリ水で現像後、加熱乾燥させ、サンドブラストを用いて凹型ストライプ状に成形した後、リブ上部に残ったレジストフィルムをアルカリ水で洗い流し、加熱して脱脂・焼成を行うことでガラスリブを形成している。
【0004】
現状では、誘電体層用ガラスペーストに用いる低融点ガラス粉末として、溶融特性が良く、他の添加剤を多く添加することが可能な鉛含有ガラスを使用している。しかしながら、近年の環境問題への懸念や作業者の安全面等から、鉛を含有しない低融点ガラス粉末を用いた誘電体層用ガラスペーストが強く求められており、ビスマス系等の非鉛系ガラス粉末を用いた誘電体層用ガラスペーストが近年検討されている。
【0005】
一方、誘電体層用ガラスペーストに用いるバインダー樹脂としては、エチルセルロースが広く使用されている。しかしながら、ビスマス系ガラス微粒子等の非鉛系ガラス粉末を添加した誘電体層用ガラスペーストのバインダー樹脂としてエチルセルロースを単独で用いた場合、ビスマス系ガラス微粒子は、融点が350℃付近であることから、バインダー樹脂の脱脂温度とガラス粉末の溶融温度とが近くなり、ガラス粉末に樹脂残渣が包埋される現象が発生する。その結果、ガラス焼結体表面に気泡が生じたり、ガラスが溶融しなくなったりするという問題が生じていた。これに対して、バインダー樹脂として、脱脂温度の低いポリエーテル樹脂やアクリル樹脂を用いる方法が考えられるが、従来よりバインダー樹脂として用いられているポリエーテル樹脂やアクリル樹脂を単独で使用しても、エチルセルロースを用いる場合のように、優れたガラス粉末分散性や印刷性を実現することは困難であった。
【特許文献1】特開平11−349348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、優れた熱分解性、ガラス粉末分散性及び印刷性を実現しつつ、誘電体層を形成した場合に良好な性能を発揮することが可能な誘電体層用ガラスペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、誘電体層の形成に用いられる誘電体層用ガラスペーストであって、バインダー樹脂、非鉛系ガラス微粒子及び有機溶剤を含有し、前記バインダー樹脂は、(メタ)アクリル共重合体とエチルセルロースとからなり、前記(メタ)アクリル共重合体は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを40〜95重量%、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントを5〜40重量%含有する誘電体層用ガラスペーストである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、メチルメタクリレートに由来するセグメントと、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントと、ポリオキシアルキレンモノメタクリレートに由来するセグメントとを有する(メタ)アクリル共重合体を、ビスマス系ガラス微粒子等の非鉛系ガラス微粒子と併用した場合、350℃以下という比較的低温で分解を終了させることが可能な誘電体層用ガラスペーストが得られることを見出した。
しかしながら、このような誘電体層用ガラスペーストをスクリーン印刷法にて印刷した場合、糸曳きが発生したり、粘着性、ガラス粉末分散性に問題が生じたりして、好適に印刷することができなかった。
これに対して、本発明者らは更に鋭意検討した結果、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントと、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントとを所定量含有する(メタ)アクリル共重合体と、エチルセルロースとからなるバインダー樹脂を、ビスマス系等の非鉛系ガラス微粒子と併用した場合、驚くべきことに、熱分解性に顕著な改善が見られ、300℃〜350℃で加熱保持した場合における分解時間が大幅に短縮されるだけでなく、良好なガラス粉末分散性及び印刷性を発揮することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の誘電体層用ガラスペーストは、プラズマディスプレイ等の誘電体層の形成に用いられるものである。本発明の誘電体層用ガラスペーストは、焼結後の残留炭素が少なく、かつ、低温雰囲気下で脱脂処理が可能であることから、ガラス微粒子として非鉛系ガラス微粒子を用いた場合でも、焼成工程後に誘電体層表面に気泡が生じたり、ガラスの溶融に不具合が生じたりすることがない。また、焼成後のガラス表面に煤がつくこともなく、透明度を充分に保つことができる。
なお、本明細書において、低温雰囲気下で脱脂処理が可能とは、窒素置換等を行わない通常の空気雰囲気下において、300℃で1時間保持した際にバインダー樹脂の初期重量の99.5重量%以上が分解されることを意味する。
【0010】
本発明の誘電体層用ガラスペーストは、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを40〜95重量%、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントを5〜40重量%含有する(メタ)アクリル共重合体を含有する。
本発明では、上記2種類のセグメントを有し、かつ、各セグメントの含有量が所定量である(メタ)アクリル共重合体を含有することで、低温での脱脂を実現しつつ、焼結後の残留炭素の低減を図ることが可能となる。
【0011】
上記(メタ)アクリル共重合体は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを有する。
上記イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを有することで、分解開始温度を低減させることができる。
【0012】
上記(メタ)アクリル共重合体のイソブチルメタクリレートに由来するセグメントの含有量の下限は40重量%、上限は95重量%である。40重量%未満であると、焼結後の残留炭素が多くなり、95重量%を超えると、熱分解温度が高くなる。好ましい下限は45重量%、好ましい上限は80重量%である。
【0013】
上記(メタ)アクリル共重合体は、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントを有する。上記ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントを有することで、上記バインダー樹脂は、脱脂工程において、200℃程度の温度で分解するため、バインダー樹脂の体積を大幅に減少させることができる。
また、エチルセルロースとの相溶性を向上させることができる。
【0014】
上記ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートとしては特に限定されず、例えば、ポリメチレングリコール、ポリアセタール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレングリコールのモノメタクリレート等が挙げられ、なかでも、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートが好ましい。また、繰り返し単位がPPOである場合、繰り返し単位がPEOである場合と比較して分解性が良好となり、低温で分解可能となることから、ポリプロピレングリコールモノメタクリレートを用いることがより好ましい。更に、複数のポリアルキレンエーテルが共重合されたものを用いてもよい。
【0015】
上記(メタ)アクリル共重合体中のポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントの含有量の下限が5重量%、上限が40重量%である。5重量%未満であると、熱分解温度が高くなる。また、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントの分解は燃焼に起因するため、40重量%を超えると、焼結後の残留炭素が多くなる。好ましい下限は5重量%、好ましい上限は20重量%である。
【0016】
上記(メタ)アクリル共重合体は、更に、メチルメタクリレートに由来するセグメントを有することが好ましい。
上記メチルメタクリレートは本来低温で分解する樹脂であるが、その高次構造が分解温度を高める働きをもたらすため、イソブチルメタクリレートと共重合させることでメチルメタクリレートの高次構造が解消され、低温分解特性を充分に発揮することができ、より低温での脱脂を実現することが可能となる。
また、一般にアクリル側鎖の炭素数が多くなると、樹脂の熱分解温度は高くなるが、メチルメタクリレートに由来するセグメントとイソブチルメタクリレートに由来するセグメントとを組み合わせることで、アクリル側鎖の炭素数が少なくなり、熱分解温度を低下させることができる。
なお、メチルメタクリレートに由来するセグメント及びイソブチルメタクリレートに由来するセグメントは、解重合で熱分解され、分解揮発物はそれぞれのモノマーとなる。
また、メチルメタクリレートには、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートと共重合を行う際に発生する分解ガスの分子量を小さくする働きがあり、脱脂後の無機粒子表面への分解物の吸着を抑える働きを有すると考えられる。
上記メチルメタクリレートに由来するセグメントを、イソブチルメタクリレート及びポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントと組み合わせることに加えて、各セグメントの含有量を所定量とすることで、メチルメタクリレートに由来するセグメントが本来有する低温分解特性を充分に発揮することができ、より低温での脱脂を実現することが可能となる。
【0017】
上記バインダー樹脂中のメチルメタクリレートに由来するセグメントの含有量は好ましい下限が15重量%、好ましい上限が45重量%である。15重量%未満であると、焼結後の残留炭素が多くなることがあり、45重量%を超えると、熱分解温度が高くなることがある。
【0018】
上記(メタ)アクリル共重合体は、上記イソブチルメタクリレートに由来するセグメント、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメント、及び、メチルメタクリレートに由来するセグメントに加えて、所望の機能性を付加するため、本発明の効果を損なわない範囲で、極性基を有するモノマーに由来するセグメントを有していてもよい。
上記極性基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等が挙げられる。
【0019】
上記極性基を有するモノマーに由来するセグメントを有する場合、上記極性基を有するモノマーに由来するセグメントの含有量は5重量%未満であることが好ましい。5重量%以上であると、低温での熱分解性が損なわれたり、無機微粒子に付着する煤が多くなり、焼結体の残留炭素が多くなったりすることがある。
【0020】
上記(メタ)アクリル共重合体は、分子末端のみに水素結合性官能基を少なくとも1個以上有することが好ましい。上記水素結合性官能基が分子末端のみに存在することで、低温熱分解性等の本発明の効果を損なうことなく、誘電体層用ガラスペーストとした場合に、多量に配合しなくても適度な粘度を確保することができる。
【0021】
上記水素結合性官能基としては特に限定されず、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。なかでも、熱分解時の影響が少ない等の理由から、水酸基、カルボキシル基が好適である。また、上記水素結合性官能基は少なくとも1個有すればよいが、多いほど相分離構造は安定化し、無機微粒子分散ペースト組成物の無機微粒子の分散性が向上する。
【0022】
上記(メタ)アクリル共重合体は、ポリスチレン換算による重量平均分子量の好ましい下限が1万、好ましい上限が15万である。重量平均分子量が上記範囲であると、上記バインダー樹脂の添加量を減らすことができ、かつ、充分な粘度を得ることができる。1万未満であると、無機微粒子分散ペースト組成物とした場合に充分な粘度が得られないことがあり、15万を超えると、スクリーン印刷において、メッシュの痕跡が残ったり、ペーストの糸曳きが問題となることがある。より好ましい上限は10万である。
なお、ポリスチレン換算による重量平均分子量の測定は、カラムとして例えばSHOKO社製カラムLF−804を用いてGPC測定を行うことで得ることができる。
【0023】
上記(メタ)アクリル共重合体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、メチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート及びポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートを原料モノマーとし、連鎖移動剤及び有機溶剤等を含有するモノマー混合液を調製した後、該モノマー混合液に重合開始剤を添加し、上記原料モノマーを共重合させる方法が挙げられる。
【0024】
上記バインダー樹脂は、(メタ)アクリル共重合体に加えて、エチルセルロースを含有している。(メタ)アクリル共重合体とエチルセルロースとを併用することで、低温分解性と印刷性とを両立させることが可能となる。
【0025】
上記バインダー樹脂は、(メタ)アクリル共重合体とエチルセルロースとの重量比が9:1〜7:3であることが好ましい。9:1よりもエチルセルロースが少ないと、印刷性が低下することがあり、7:3よりもエチルセルロースが多いと、熱分解性が低下することがある。
【0026】
本発明の誘電体層用ガラスペーストにおけるバインダー樹脂の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限が0.5重量%、好ましい上限が50重量%である。0.5重量%未満であると、粘度が低くなるため塗布する際に扱い難くなり、50重量%を超えると、粘度が高くなるため、印刷適性が下がってしまう。より好ましい下限は1重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0027】
本発明の誘電体層用ガラスペーストは、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテートテキサノール、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール等が挙げられる。
なかでも、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノールが好ましく、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテートがより好ましい。なお、これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記有機溶剤は、沸点が100℃以上であることが好ましい。100℃未満であると、印刷プロセス中に溶剤が揮発してしまい、ペーストの粘度が高まり、塗布できなくなることがある。
【0028】
本発明の誘電体層用ガラスペーストにおける上記有機溶剤の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は60重量%である。上記有機溶剤の含有量が、この範囲を外れると、無機微粒子を分散させることが困難となったりすることがある。
【0029】
本発明の誘電体層用ガラスペーストは、非鉛系ガラス微粒子を含有する。
上記非鉛系ガラス微粒子としては、鉛を含まないガラス微粒子であれば特に限定されず、例えば、ビスマス、酸化ビスマス等を含有するビスマス系ガラス微粒子や、リン酸等を含有するリン酸系ガラス微粒子等が挙げられる。
上記ビスマス系ガラス微粒子としては、例えば、Bを主成分とし、更にZnO、SiO、MgO、CaO、SrO等を含有するガラス微粒子が好ましい。また、V、Mn、Fe、Co、Ce、In、Sn、Sb等の酸化物に加え、更にセラミックスフィラー成分を含有していてもよい。
【0030】
上記セラミックスフィラー成分としては、例えば、TiO(酸化チタン)、Al(アルミナ)、SiO(シリカ)、及びZrO(ジルコニア)等が挙げられる。なかでも、TiO、Alが好ましい。
【0031】
上記非鉛系ガラス微粒子の平均粒子径の好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は5μmである。平均粒子径を上記範囲内とすることで、誘電体層用ガラスペーストを調製する際に良好な分散状態を達成することが可能となる。
【0032】
上記非鉛系ガラス微粒子は、軟化点の好ましい下限が350℃、好ましい上限が650℃である。350℃未満であると、上記(メタ)アクリル共重合体が有する低温分解特性を充分に発揮できないことがある。
【0033】
本発明の誘電体層用ガラスペースト中の上記非鉛系ガラス微粒子の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限が10重量%、好ましい上限が90重量%である。上記非鉛系ガラス微粒子の含有量が10重量%未満であると、誘電体層用ガラスペーストの粘度が充分に得られないことがある。上記非鉛系ガラス微粒子の含有量が90重量%を超えると、上記誘電体層用ガラスペーストに非鉛系ガラス微粒子を分散させることが困難になることがある。
【0034】
本発明の誘電体層用ガラスペーストは、樹脂固形分濃度の好ましい上限が20重量%である。20重量%を超えると、粘度が高くなって印刷適性が下がったり、樹脂の分解に影響を及ぼしたりすることがある。
【0035】
本発明の誘電体層用ガラスペーストは、分散剤を含有してもよい。
上記分散剤としては特に限定されないが、例えば、脂肪酸、脂肪族アミン、アルカノールアミド、リン酸エステルが好適である。
【0036】
本発明の誘電体層用ガラスペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、潤滑剤、帯電防止剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0037】
本発明の誘電体層用ガラスペーストを用いて、誘電体層を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、誘電体層用ガラスペーストをアプリケータやスクリーン印刷、ロールコーター、ブレードコーター等を用いて塗布した後、焼成する方法等が挙げられる。
【0038】
本発明の誘電体層用ガラスペーストを塗布した後、焼成する際には、非鉛系ガラス微粒子が焼結する温度に上昇させる前に、バインダー樹脂を脱脂する工程を行うことが好ましい。非鉛系ガラス微粒子を溶融させる際に、バインダー樹脂が残留していると、悪影響を及ぼすためである。具体的には、約350℃で30分間程度保持して、バインダー樹脂を脱脂させた後、約580℃まで上昇させる工程を行うことで、非鉛系ガラス微粒子の溶融を好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、優れた熱分解性、ガラス粉末分散性及び印刷性を実現しつつ、誘電体層を形成した場合に良好な性能を発揮することが可能な誘電体層用ガラスペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
((メタ)アクリル共重合体の作製)
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、モノマーとしてイソブチルメタクリレート(IBMA)60重量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPP1000)40重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た。
【0042】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら湯浴が沸騰するまで昇温した。重合開始剤を酢酸エチルで希釈した溶液を加え、重合を開始させた。また、重合中に重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加した。
重合開始から7時間経過後、室温まで冷却して重合を終了させ、(メタ)アクリル共重合体を得た。
【0043】
(ビヒクル組成物の作製)
このようにして得られた(メタ)アクリル共重合体9重量部に対して、エチルセルロース1重量部、テルピネオール90重量部を添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した。
【0044】
(誘電体層用ガラスペーストの作製)
得られたビヒクル組成物50重量部に対して、非鉛系ガラス微粒子として酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリット(軟化点580℃)50重量部を添加し、高速撹拌装置を用いて充分混練することにより、誘電体層用ガラスペーストを作製した。
【0045】
(実施例2)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてイソブチルメタクリレート(IBMA)95重量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPP1000)5重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体を作製した。このようにして得られた(メタ)アクリル共重合体7重量部に対して、エチルセルロース3重量部、テルピネオール90重量部を添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、誘電体層用ガラスペーストを作製した。
なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0046】
(実施例3)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとして、イソブチルメタクリレート(IBMA)80重量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE350)20重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体、ビヒクル組成物及び誘電体層用ガラスペーストを得た。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0047】
(実施例4)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)15重量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)80重量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPP1000)5重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体を作製した。このようにして得られたアク(メタ)アクリル共重合体7重量部に対しエチルセルロース3重量部、テルピネオール90重量部を添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、誘電体層用ガラスペーストを作製した。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0048】
(実施例5)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)15重量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)80重量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE350)5重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体、ビヒクル組成物及び誘電体層用ガラスペーストを得た。
なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0049】
(実施例6)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)15重量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)45重量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE350)40重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体を作製した。このようにして得られた(メタ)アクリル共重合体7重量部に対しエチルセルロース3重量部、テルピネオール90重量部を添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、誘電体層用ガラスペーストを作製した。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0050】
(実施例7)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)15重量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)45重量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPP1000)40重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体、ビヒクル組成物及び誘電体層用ガラスペーストを得た。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0051】
(比較例1)
エチルセルロース10重量部をテルピネオール90重量部に溶解させ、これをビヒクル組成物とした以外は実施例1と同様にして誘電体層用ガラスペーストを得た。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0052】
(比較例2)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)25重量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)65重量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE350)10重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体を作製した。このようにして得られた(メタ)アクリル共重合体10重量部に対し、テルピネオール90重量部を添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、誘電体層用ガラスペーストを作製した。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0053】
(比較例3)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)15重量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)45重量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPP1000)40重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体を作製した。このようにして得られた(メタ)アクリル共重合体10重量部に対し、テルピネオール90重量部を添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、誘電体層用ガラスペーストを作製した。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0054】
(比較例4)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPP1000)100重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体、ビヒクル組成物及び誘電体層用ガラスペーストを得た。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0055】
(比較例5)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてイソブチルメタクリレート(IBMA)100重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体を作製した。このようにして得られた(メタ)アクリル共重合体7重量部に対しエチルセルロース3重量部、テルピネオール90重量部を添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、誘電体層用ガラスペーストを作製した。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0056】
(比較例6)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてイソブチルメタクリレート(IBMA)50重量部、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE350)50重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体、ビヒクル組成物及び誘電体層用ガラスペーストを得た。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0057】
(比較例7)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)20重量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)80重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体を作製した。このようにして得られた(メタ)アクリル共重合体7重量部に対しエチルセルロース3重量部、テルピネオール90重量部を添加し、高速分散機で分散させてビヒクル組成物を作製した以外は、実施例1と同様にして、誘電体層用ガラスペーストを作製した。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0058】
(比較例8)
実施例1の((メタ)アクリル共重合体の作製)において、モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)10重量部、イソブチルメタクリレート(IBMA)30重量部、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPP1000)60重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.1重量部、及び、有機溶剤としてテルピネオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル共重合体、ビヒクル組成物及び誘電体層用ガラスペーストを得た。なお、酸化ビスマス含有非鉛低融点ガラスフリットとしては表1に示す組成のものを用いた。
【0059】
<評価>
実施例及び比較例で得られたビヒクル組成物、及び、ガラスペースト組成物について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
(1)平均分子量測定
得られた(メタ)アクリル共重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行うことにより、ポリスチレン換算による重量平均分子量を測定した。
【0060】
(2)分解温度(TG・DTA評価)
得られた(メタ)アクリル共重合体を熱分解装置(TAインスツルメンツ社製、simultaneousSDT2960)を用いて空気雰囲気下にて昇温温度10℃/minで300℃まで加熱し、その状態を60分保持した場合の樹脂の分解性を評価した。60分以内に(メタ)アクリル共重合体が全て分解した場合を「○」、95%以上分解した場合を「△」、熱分解が95%未満である場合を「×」として評価した。なお、60分以内に(メタ)アクリル共重合体が全て分解した場合には、分解が終了した時間を示した。
【0061】
(3)スクリーン印刷性能
得られた誘電体層用ガラスペーストを、スクリーン印刷機を用いてガラス基板上に塗布した。ガラス基板上にスクリーン版の跡が残らず、きれいな印刷面が得られたものを「○」、ガラス基板がスクリーン版に張り付き、きれいな印刷面が得られなかったり、版の上にペーストが大量に残り、印刷できなかったものを「×」とした。
【0062】
(4)焼結性
得られた誘電体層用ガラスペーストを、スクリーン印刷機を用いてガラス基板上に塗工し、150℃オーブン中で60分養生し、テルピネオールを蒸発させ、ガラス粒子層を得た。得られたガラス粒子層を、350℃のオーブンで30分加熱してバインダー樹脂を脱脂した。得られた粒子層を目視にて確認し、着色の有無を評価した。その後、更に580℃のオーブンで30分間加熱し、完全に非鉛系ガラスフリットを溶解させ、得られたガラス板の光沢の有無を目視にて確認し、以下の基準で評価した。ガラス特有の光沢を有し、透明な焼結体が得られた場合を「○」、光沢を有しない又は発泡した場合を「×」とした。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、優れた熱分解性、ガラス粉末分散性及び印刷性を実現しつつ、誘電体層を形成した場合に良好な性能を発揮することが可能な誘電体層用ガラスペーストを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層の形成に用いられる誘電体層用ガラスペーストであって、
バインダー樹脂、非鉛系ガラス微粒子及び有機溶剤を含有し、
前記バインダー樹脂は、(メタ)アクリル共重合体とエチルセルロースとからなり、
前記(メタ)アクリル共重合体は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを40〜95重量%、ポリオキシアルキレンエーテルモノメタクリレートに由来するセグメントを5〜40重量%含有する
ことを特徴とする誘電体層用ガラスペースト。
【請求項2】
樹脂固形分濃度が20重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の誘電体層用ガラスペースト。
【請求項3】
バインダー樹脂は、(メタ)アクリル共重合体とエチルセルロースとの重量比が9:1〜7:3であることを特徴とする請求項1又は2記載の誘電体層用ガラスペースト。
【請求項4】
(メタ)アクリル共重合体は、更に、メチルメタクリレートに由来するセグメントを有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の誘電体層用ガラスペースト。
【請求項5】
非鉛系ガラス微粒子は、ビスマス系ガラス微粒子であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の誘電体層用ガラスペースト。

【公開番号】特開2009−173811(P2009−173811A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15485(P2008−15485)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】