説明

誤って折り畳まれたタンパク質およびプリオンを検出する方法

本発明は、試料中の、コンホメーション変化タンパク質、例えばプリオンまたは疾患状態に関連する他のタンパク質を検出するための方法およびキットを提供する。本方法は、ペプチドとコンホメーション変化タンパク質の複合体を選択的に捕捉する工程、およびこのような複合体の検出を妨げる物質から分離する工程、好ましくは、第2の二重標識ペプチドを添加することによって検出シグナルを増幅する工程を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2005年2月15日に出願された米国特許仮出願第60/652,733号に依拠し、米国特許仮出願第60/652,733号の出願日の恩典を主張するものである。この開示全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、生物学的試料におけるタンパク質の検出の分野に関する。より具体的には、本発明は、生物学的物質を含有する試料中のタンパク質およびプリオンを検出するための方法およびキット、ならびに前記方法およびキットによって用いられる組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトおよび動物に罹患する非常に多くの疾患および障害は、誤って折り畳まれた細胞タンパク質を伴うと確かめられているか、または想定されている。天然の正常細胞タンパク質が誤って折り畳まれると、そのタンパク質は活性を失うか、多くの場合、異常な振る舞いを起こすと考えられている。正常細胞タンパク質が誤って折り畳まれると、しばしば罹患細胞内に高分子量の沈着物または斑が形成される。このような正常細胞タンパク質の誤った折り畳みに関連することが公知の疾患、またはこのような正常細胞タンパク質の誤った折り畳みに関連すると考えられている疾患には、Aβ(アミロイドβ)タンパク質が関与するアルツハイマー病(AD);脳アミロイドアンギオパチー(CAA);レヴィー小体中のαシヌクレイン沈着物が関与するパーキンソン病;τタンパク質が関与するピック病および前頭側頭型認知症;スーパーオキシドジスムターゼが関与する筋萎縮性側索硬化症(AML);タンパク質ハンチンチンが関与するハンチントン舞踏病;ならびにプリオンタンパク質が関与する非常に多くの伝達性海綿状脳症(TSE)、例えば、クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、変異型クロイツフェルト-ヤコブ病(vCJD)、ウシ海綿状脳症(BSE;狂牛病)が含まれる。
【0004】
誤って折り畳まれたタンパク質ならびにこれらのタンパク質の関連する沈着物および斑と関連する疾患および障害の多くは、中枢神経系の疾患および障害である。実際には、これらの疾患および障害の大部分は性質上、神経変性性であり、神経細胞機能の低下または神経細胞死を引き起こす。誤って折り畳まれたタンパクから沈着物または斑が形成される機構、および沈着物または斑の形成と疾患関連神経変性プロセスとの関係は分かっていない。
【0005】
これらの斑形成タンパク質の中にあるタンパク質群がプリオンタンパク質である。現在、プリオンタンパク質は、家畜およびヒト集団における神経変性疾患との関連性があり、生物学的材料を介して、種間で明らかに伝達することを含めて、ある動物またはヒトから別の動物またはヒトに明らかに伝達するために熱心に研究されている。
【0006】
プリオンは神経変性疾患の感染性作用物質であり、実際には完全にタンパク質からなると広く考えられている。プリオンタンパク質はプリオンとして知られる実体であると想定されてきた。プリオンタンパク質は、PrP27-30またはPrPCと呼ばれるタンパク質である。プリオンタンパク質は、誤って折り畳まれると、感染した脳において斑または沈着物として見られる棒状繊維に凝集する約28キロダルトンの疎水性糖タンパク質である。プリオンは、通常、無害の細胞タンパク質として存在する。しかしながら、プリオンは、その構造を変換し、ヒトおよび動物において、いくつかの致死性認知症脳疾患を引き起こす生得的な能力を有する。主流を占めている仮説は、他の全ての感染性病原体とは異なり、プリオンタンパク質の異常なコンホメーションによって感染が引き起こされ、異常なコンホメーションが鋳型として働き、正常なプリオンコンホメーションを異常なコンホメーションに変換するというものである。
【0007】
完全なプリオンタンパク質コード遺伝子がクローニングされ、配列決定され、トランスジェニック動物において発現されている。PrPCはシングルコピー細胞遺伝子によってコードされ、通常、ニューロン外面に見られ、タンパク質のC末端部分にある糖脂質部分を介して膜に結合している。タンパク質が表面から内部へ循環することが知られているが、この循環の機能はまだ解明されていない。ある特定の状況下での、今のところまだ分かっていない翻訳後プロセスによって、正常な細胞PrPCからPrPScが形成される。次いで、ヒトにおいて臨床的に明らかになるまで何十年もかかることがあるプロセスである神経変性疾患がヒトにおいて発症し得る。
【0008】
感染時と、神経変性疾患の臨床症状の発現との遅れは大きな懸念の原因である。なぜなら、この遅れによって、疾患がある個体から他の個体へと気づかずに伝達され得るからである。例えば、この遅れによって、プリオンに感染した動物が屠殺され、その動物に由来する潜在的に感染性の製品が動物またはヒトの食糧流通経路(food stream)に入る可能性がある。同様に、この遅れによって、感染者が献血または臓器提供によって他人へ感染性物質を伝達する可能性がある。従って、保健界、農業、および一般大衆にとって、プリオンタンパク質が感染個体から他の個体に伝達する可能性を下げる、または無くすために動物および動物製品(例えば、肉)をモニタリングすること、およびヒトに由来する医学的試料(例えば、献血および臓器提供)をモニタリングすることは大きな関心がある。
【0009】
正常細胞タンパク質(PrPC)は、非常に多くの方法によって、誤って折り畳まれた感染性タンパク質(PrPSc)と区別することができる。このうち最も一般的なものは、プロテイナーゼKなどのプロテアーゼによる分解に対する感受性または耐性と、このタンパク質の一形態もしくは他の形態に対して作成された抗体を用いた、またはプロテイナーゼ消化前もしくはプロテイナーゼ消化後の検出である。
【0010】
プリオン関連感染の存在を検出するのに用いられる現行の技法の多くは、脳の肉眼的な形態変化、すなわち一般的に臨床症状が顕在化した後にしか適用されず、生検材料または死後に採取された材料を必要とする、免疫化学的技法に頼っている。もちろん、脳の肉眼的な形態変化が明らかになった時までに、献血または臓器もしくは組織の提供を介して感染粒子が他人に伝達している可能性がある。同様に、動物組織の死後分析が完了した時までに、動物由来製品が食品流通経路に既に入っている可能性があり、潜在的に他の動物さらにはヒトに感染している可能性がある。
【0011】
開発または使用されている他の技法は、プリオンタンパク質などの神経変性疾患に関与する誤って折り畳まれた形の細胞タンパク質の触媒増殖(カタリックプロパゲーション、catalytic propagation)に頼っている。例えば、米国特許出願公開第2005/0026165A1号(特許文献1)は、その全体が参照による本明細書に組み入れられ、試料中の少量の誤って折り畳まれたタンパク質を検出するためのペプチドプローブの使用を開示している。米国特許出願公開第2005/0026165A1号において、誤って折り畳まれたタンパク質に結合する配列を有するペプチドは、誤って折り畳まれたタンパク質を含有すると疑われる試料に曝露される。誤って折り畳まれたタンパク質が存在する場合、プローブは誤って折り畳まれたタンパク質に結合する。結合によってプローブのコンホメーションが変化し、プローブは他のプローブ分子に結合することができる。他のプローブ分子と、誤って折り畳まれたタンパク質とプローブの複合体が結合すると、新たに結合したプローブのコンホメーションが変化する。これによって、新たに結合したプローブは、混合物中にあるさらに別のプローブ分子に結合することができるコンホメーションに変換する。このプローブ設計は、標的である誤って折り畳まれたタンパク質が存在する場合に、検出可能なシグナルが発生することを可能にする。
【0012】
感染性プリオンタンパク質などの誤って折り畳まれたタンパク質を検出する非常に多くの技法が当技術分野において存在するが、迅速で、安価で、信頼性が高く、再現性があり、使いやすく、および/または改善した感度をもたらす改善した技法が依然として必要とされている。感度の改善は、他の実質的に全ての必要性と関連する。さらに、ハイスループットキットによって実施するために、この技法は簡便であることが必要とされている。
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0026165A1号
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、多くの神経変性疾患および障害と関連するコンホメーション変化タンパク質、例えば、プリオンを検出する方法およびキットを提供することによって、検出感度の増大を含む当技術分野の要望に応える。コンホメーション依存性ペプチド、例えば、PrPCをPrPScに変換する折り畳み反応を模倣するように設計された標識ペプチドであるコンホメーション依存性ペプチド(PrPTSEとも知られ、等価に用いられる)は、PrPScなどの誤って折り畳まれたタンパク質の高感度診断アッセイ法の基礎となっている。標識ペプチドなどの添加ペプチドが同様のコンホメーション変化を受けるように標的濃縮溶液に入れられると、シグナル増幅によって優れた感度が得られる。それによって、誤って折り畳まれたタンパク質を含有する動物およびヒト、例えば、ある特定のPrPSc関連疾患に感染している動物およびヒトまたはアルツハイマー病にかかっているヒトの血液または他の組織において、PrPScなどの誤って折り畳まれたタンパク質の効果的な検出が可能になる。
【0015】
本発明の多くの用途の中で、前記の方法およびキットは、ヒトまたは動物からの試料を、誤って折り畳まれたタンパク質の存在についてスクリーニングするために使用することができる。さらに、前記の方法およびキットは、診断目的に、例えば、動物またはヒトがプリオンタンパク質などの誤って折り畳まれたタンパク質に関連する疾患または障害を有するかを診断するために使用することができる。さらに、前記の方法およびキットは、個体における誤って折り畳まれたタンパク質の量を経時的にモニタリングするために使用することができる。一般的に、前記の方法およびキットは、誤って折り畳まれたタンパク質を含有する試料中の誤って折り畳まれたタンパク質コンホメーションの触媒増殖を可能にする任意のプローブまたはプローブセットと共に使用することができる。従って、前記の方法およびキットは、非常に多くの疾患および障害の検出、特に、神経変性状態の検出に広く適用することができる。
【0016】
発明の態様の詳細な説明
本開示は、試料中の、誤って折り畳まれたタンパク質を検出するための方法およびキットについて述べる。特別の定めのない限り、本明細書で使用する全ての用語は、バイオテクノロジー、タンパク質生化学、および医学診断の分野の従来どおりの意味を有する。
【0017】
本明細書で使用するように、および科学文献における使用と一致して、用語「プリオン」および「プリオンタンパク質」は、動物およびヒトにおいて神経変性疾患状態を引き起こすタンパク質物質を示すために同義に用いられる。プリオンおよびプリオンタンパク質は、タンパク質の正常な細胞コンホメーションと、感染性のまたは疾患の原因となるコンホメーションの両方を示すために同義に用いられる。明瞭さに役立つ場合、特定の形態、すなわち、正常な細胞コンホメーションについてはPrPC、または疾患の原因となるコンホメーションについてはPrPScが用いられる。
【0018】
用語「プリオン」、「プリオンタンパク質」、「PrPScタンパク質」などは、PrPタンパク質の感染性PrPSc形態を指すために本明細書において同義に用いられる。粒子は、PrP遺伝子によってコードされるPrPSc分子だけから構成されるとまではいかなくても、主としてPrPSc分子から構成される。プリオンは、細菌、ウイルス、およびウイロイドとは異なる。公知のプリオンは動物に感染し、ヒツジおよびヤギの神経系の伝達性変性疾患であるスクレイピー、ならびにウシ海綿状脳症(BSE)すなわち「狂牛病」、およびネコのネコ海綿状脳症を引き起こす。ヒトに罹患することが知られている4つのプリオン病は、(1)クールー、(2)クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、(3)ゲルストマン-ストロイスラー-シャインカー病(GSS)、および(4)致死性家族性不眠症(FFI)である。本明細書で使用する「プリオン」は、これらの疾患の全てもしくはいずれか、または任意の動物、特に、ヒトおよび家畜において他の疾患を引き起こす全形態のプリオンを含む。
【0019】
「タンパク質」は、ペプチド結合によって連結された、2個またはそれ以上の個々のアミノ酸(天然に生じるアミノ酸または天然に生じないアミノ酸)の任意の重合体を意味し、アミノ酸(またはアミノ酸残基)のα炭素に結合しているカルボン酸基のカルボキシル炭素原子が、隣接するアミノ酸のα炭素に結合しているアミノ基のアミノ窒素原子に共有結合した場合に生じる。これらのペプチド結合、およびこれらを構成する原子(すなわち、α炭素原子、カルボキシル炭素原子(およびそれらの置換基酸素原子)、ならびにアミノ窒素原子(およびそれらの置換基水素原子))がタンパク質のポリペプチド骨格を形成する。
【0020】
用語「タンパク質」は、その意味の中に用語「ポリペプチド」および「ペプチド」(本明細書において同義に用いられることがある)を含むと理解される。さらに、複数のポリペプチドサブユニットまたは他の成分(例えば、テロメラーゼにあるようなRNA分子)を含むタンパク質もまた、本明細書で使用する「タンパク質」の意味の中に含まれると理解されるだろう。同様に、タンパク質およびポリペプチドの断片も本発明の範囲内であり、本明細書において「タンパク質」と呼ばれることがある。
【0021】
「コンホメーション」は、ある特定のタンパク質コンホメーション、例えば、αヘリックス、平行および逆平行のβストランド、ロイシンジッパー、ジンクフィンガーなどの存在を意味する。さらに、コンホメーション制約(conformational constraint)は、さらなる構造情報を有さないアミノ酸配列情報を含んでもよい。「コンホメーション変化」は、あるコンホメーションから別のコンホメーションへの変化である。
【0022】
「コンホメーション変化タンパク質」は、1つの一次アミノ酸配列を有するが、個体またはインビトロにおいて、正常な三次元コンホメーションと疾患に関連する三次元コンホメーションの両方で存在することができる全てのタンパク質である。コンホメーション変化タンパク質は、任意の検出可能な方法において疾患と関連付けることができる。例えば、コンホメーション変化タンパク質は疾患を引き起こしてもよく、疾患の症状の要因であってもよく、または疾患を引き起こすかもしくは疾患の結果である他の物質の結果として生物学的試料中にもしくはインビボで存在してもよい。コンホメーション変化タンパク質は、正常コンホメーションと、様々な誤って折り畳まれたコンホメーションを両方とも有する。
【0023】
タンパク質配列が適切な折り畳みをコードする正確な機構は分かっていない。タンパク質分子は、折り畳みによってコードされているネイティブ状態に達するために、多くの選択肢より選択される独特のコンホメーションに変換しなければならない。機能的なタンパク質は典型的に可溶性であり、コイルおよび規則正しい要素を含む様々な構造をとることができる。規則正しい要素には、ミオグロビンおよびヘモグロビンなどのタンパク質において最も優勢なαヘリックスが含まれる。ヒトが老化する間に、一部のタンパク質では、可溶性構造(例えば、αヘリックス領域)は、コンホメーションが機能消失と関連する凝集を受けるβシート構造に変化する。
【0024】
「コンホメーションプローブ」は、(疎水性相互作用またはファンデルワールス相互作用などの任意の公知の手段によって)プローブと標的タンパク質との会合を可能にするために、標的である誤って折り畳まれたタンパク質に存在する配列と十分に類似するアミノ酸配列を有するペプチドである。コンホメーションプローブと、誤って折り畳まれたタンパク質が会合すると、プローブ(または存在するプローブ分子の一部)はコンホメーションを第2のコンホメーションに変える。第2のコンホメーションは、誤って折り畳まれたタンパク質にプローブが曝露された時に存在したコンホメーションとは異なる。必要とはされないが、コンホメーションプローブは、誤って折り畳まれたタンパク質と会合する場合に、主にβシートのコンホメーションをとってもよい。コンホメーションプローブは蛍光部分などの検出可能な標識で標識されてもよいが、必ずしも検出可能な標識で標識されるとは限らない。
【0025】
「標識」は、放射性同位体、蛍光剤、発光剤、化学発光剤、酵素、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤、発色団、色素、金属イオン、金属ゾル、リガンド、例えば、ビオチンなどを含む、検出可能な分子を意味する。用語「蛍光剤」は、蛍光を検出可能な範囲で示すことができる物質またはその一部を意味する。本発明と共に使用することができる標識の具体例には、フルオレセイン、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、テキサスレッド、ルミノール、アクリジニウムエステル、NADPH、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびウレアーゼが含まれるが、これに限定されない。標識はまた、エピトープタグ(例えば、His-Hisタグ)、抗体、または検出可能なオリゴヌクレオチドでもよい。
【0026】
コンホメーションが変化した状態をとる場合にヒト疾患と関連するタンパク質が少なくとも20種類ある。プリオンタンパク質の正常野生型(PrPC)は単量体状態を好むのに対して、異常な疾患原因型(PrPSc)は正常野生型より容易に多量体状態をとる。本発明はプリオン検出に焦点を当てながら、コンホメーションが変化した状態をとるタンパク質に関連する全ての疾患および障害に等しく適用することができる。
【0027】
タンパク質構造は、様々な実験方法および計算方法によって決定することができる。このうちいくつかを下記で説明する。タンパク質構造は、少なくとも低解像度の構造を生じることができる任意の方法によって実験的に評価することができる。このような方法には、現在、X線結晶学および核磁気共鳴(NMR)分光学が含まれる。NMRを用いると、生体分子の(結晶構造ではなく)溶液中でのコンホメーションを決定することができる。一般的に、NMR分光学によって決定された生体分子構造は、結晶学によって決定されたものと比較して中程度の解像度の構造である。生体分子構造研究において有用な他の技法には、円偏光二色性(CD)、蛍光、および紫外線-可視光吸光度分光学が含まれる。これらの技法の説明については、例えば、Physical Biochemistry: Applications to Biochemistry and Molecular Biology, Second Ed., W.H. Freeman & Co., New York, NY, 1982を参照されたい。本発明に従って、任意の適切な方法を使用することができる。
【0028】
「等価な」とは、分析しようとするタンパク質のアミノ酸配列と配列が類似しているが、少なくとも1個であるが5個より少ない差異、置換、付加、または欠失を有するアミノ酸配列を意味する。従って、アミノ酸の基本的な機能を実質的には変えないある特定の配列にある1つまたは複数のアミノ酸の置換は、本発明を説明する目的では等価である。
【0029】
「相同性」、「ホモログ」、「相同な」、「同一性」、および「類似性」は、2つのペプチド間の配列類似性を意味し、同一性がより厳密な比較である。相同性および同一性はそれぞれ、比較のためにアラインメントされ得る各配列の位置を比較することによって決定することができる。比較された配列の位置が同じアミノ酸によって占められれば、その位置で分子は同一である。アミノ酸配列の同一性の程度は、アミノ酸配列が共有する位置において同一のアミノ酸の数の関数である。アミノ酸配列の相同性または類似性の程度は、アミノ酸配列が共有する位置におけるアミノ酸、すなわち構造的に関連するアミノ酸の数の関数である。「非相同」配列は、本発明において用いられる配列の1つと40%未満の同一性を共有するか、好ましくは25%未満の同一性を共有する。関連配列は、40%超の同一性、好ましくは少なくとも約50%の同一性、より好ましくは少なくとも約70%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも約90%の同一性、最も好ましくは少なくとも約99%の同一性を共有する。
【0030】
用語「パーセント同一の」は、2つのアミノ酸配列間の配列同一性を意味する。同一性はそれぞれ、比較のためにアラインメントされ得る各配列の位置を比較することによって決定することができる。比較された配列の等価な位置が同じアミノ酸によって占められれば、その位置で分子は同一である。等価な部位が同じまたは類似する(例えば、立体状態および/または電子状態が類似する)アミノ酸残基よって占められれば、その位置で分子は相同である(類似する)ということができる。相同性、類似性、または同一性のパーセントとしての表示は、比較された配列によって共有される位置における同一のまたは類似するアミノ酸の数の関数を意味する。FASTA、BLAST、またはENTREZを含む様々なアラインメントアルゴリズムおよび/またはプログラムを使用することができる。FASTAおよびBLASTはGCG配列解析パッケージ(University of Wisconsin、Madison、WI)の一部として利用することができ、例えば、デフォルト設定と共に使用することができる。ENTREZは、米国立バイオテクノロジー情報センター、米国立医学図書館、米国立衛生研究所, Bethesda, MDを通じて利用することができる。
【0031】
本明細書で使用する用語「相互作用する」および「結合する」は、分子間の検出可能な相互作用(例えば、生化学的相互作用)、例えば、天然でのタンパク質とタンパク質の相互作用、タンパク質と核酸の相互作用、核酸と核酸の相互作用、およびタンパク質と低分子または核酸と低分子の相互作用を意味する。
【0032】
特別の定めのない限り、本発明の実施は、当該技術の範囲内である化学、生化学、分子生物学、免疫学、医学、および薬理学の従来法を用いる。このような技法は、最新の文献、例えば、Methods in Enzymology Vol. 278: Fluorescence Spectroscopy (L. Brand and M.L. Johnson, Eds., Academic Press, Inc., 1997); Methods in Enzymology Vol. 309: Amyloid, Prions and Other Protein Aggregates (R. Wetzel, Ed., Academic Press, Inc., 1999); Handbook of Experimental Immunology, Vols. I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, Eds., 1986, Blackwell Scientific Publications);およびHandbook of Surface and Colloidal Chemistry (Birdi, K. S., Ed., CRC Press, 1997)を参照することによって理解することができる。
【0033】
本発明の第1の局面において、試料中の、誤って折り畳まれたタンパク質の存在および/または量を検出する方法が提供される。一般的に、この方法は、プリオンなどの誤って折り畳まれたタンパク質を含有する試料または誤って折り畳まれたタンパク質を含有すると疑われる試料を準備する工程;少なくとも1種類のコンホメーションプローブを準備する工程;試料とコンホメーションプローブを組み合わせて、混合物を作成する工程;誤って折り畳まれたタンパク質の少なくとも1つの分子と、プローブの少なくとも1つの分子が会合するのに十分な時間、混合物をインキュベートして、複合体を形成する工程;混合物中に少なくとも1種類の他の物質から複合体を少なくとも部分的に分離する環境に、混合物を曝露する工程;および少なくとも1種類のプローブと誤って折り畳まれたタンパク質の会合の存在または非存在を検出する工程を含む。ここで、検出工程は、好ましくは、分析シグナルを増幅する第2のコンホメーションプローブを添加することによって増強される。もちろん、本発明の様々な態様において、これらの工程は、所望の目的を達成するために異なる順序で行われてもよい。
【0034】
本発明の方法によれば、準備工程は、誤って折り畳まれたタンパク質を含有する試料もしくは誤って折り畳まれたタンパク質を含有すると疑われる試料、または前記方法における使用のために存在する、および利用可能なコンホメーションプローブを含有する試料をもたらす任意の活動でよい。従って、準備工程は、個体からの組織、器官、身体部分、または液体の除去を含んでもよい。同様に、準備工程は、血液または肉などの生物学的試料を入手した個人、会社、または政府機関からの試料の入手を含んでもよい。さらに、準備工程は、個体から得られた試料の採取および何らかの方法での試料の加工処理、例えば、1種類または複数の種類の生物学的物質または他の物質の排除を含んでもよい。試料とプローブを組み合わせる前に試料を加工処理することが本発明に含まれるが、ある態様では、このような加工処理は行われない。少なくとも1種類のコンホメーションプローブの準備に関して、このような準備は、任意の適切な技法を用いて1種類または複数の種類のコンホメーションプローブを合成する工程、別の人によって合成された1種類または複数の種類のプローブを得る工程、および2種類もしくはそれ以上のプローブまたは少なくとも1種類のプローブと汚染物質の混合物を入手し、次いで、汚染物質からプローブを少なくともある程度まで精製する工程を含んでもよい。
【0035】
試料は、誤って折り畳まれたタンパク質を含有する任意の試料または誤って折り畳まれたタンパク質を含有すると疑われる任意の試料でよい。誤って折り畳まれたタンパク質を含有すると疑われる試料は、誤って折り畳まれたタンパク質に関連する疾患または障害が存在する任意の動物またはヒトから採取された任意の試料でよい。従って、疑いの程度が高い必要はない。単に、試料が採取された個体が、誤って折り畳まれたタンパク質に関連する疾患または障害の1つに罹患するリスクのある集団内にいたことを知っているか、または疑っているだけで十分である。試料の例には、血液または血液製剤または血液副産物;脳組織を含むが、これに限定されない神経組織;肉または肉副産物;皮膚または皮膚産物(粘膜を含む);腸ケーシング;乳;ならびに尿が含まれるが、これに限定されない。
【0036】
ある特定の態様において、誤って折り畳まれたタンパク質を検出する方法と同時に、1つまたは複数の対照反応が行われる。これらの態様において、対照反応は、別個の反応容器において行われることがあっても前記方法の一部とみなされるが、必ずしも別個の反応容器において行われるとは限らない。対照反応は正の対照でもよく、負の対照でもよい。前記方法において用いられる任意の工程または任意の成分の働きを特定およびモニタリングするために、任意の数の対照を行うことができる。ある特定の正の対照では、準備される試料は、少なくとも1種類の誤って折り畳まれたタンパク質を有することが分かっており、従って、反応の成功および適宜、反応の感度をモニタリングするのに用いられる。ある特定の負の対照では、試料は、誤って折り畳まれたタンパク質を含有しないことが分かっている(例えば、蒸留水または水ベースの緩衝液)。さらに、ある特定の態様では、関心対象の試料を比較する検量線を得るために、一連の対照反応が行われる。試料中の物質を検出する他のアッセイ法について当技術分野において公知なように、対照反応は、誤って折り畳まれたタンパク質を検出する方法の前、誤って折り畳まれたタンパク質を検出する方法と同時に、または誤って折り畳まれたタンパク質を検出する方法の後に行われてもよい。
【0037】
コンホメーションプローブは、前記で述べられた基準を満たす任意のプローブでよい。様々な適切で例示的なプローブが、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2005/0026165A1号に開示されている。好ましいコンホメーションプローブは本明細書において以下に開示されている。コンホメーションプローブは1種類のプローブとして準備されてもよく(すなわち、同一のペプチドを集めたもの、全て同じアミノ酸配列を有する)、複数の種類の異なるプローブを含んでもよい(すなわち、異なるアミノ酸配列を有する2種類またはそれ以上のペプチドを集めたもの、それぞれのペプチドは複数コピーで存在する)。好ましい態様において、コンホメーションプローブは検出可能な部分で標識される。検出可能な標識の例には、発光標識、蛍光標識、放射性標識、および免疫原性標識が含まれるが、これに限定されない。
【0038】
プローブは、精製された水溶液、乾燥した粉末、または水性液体もしくは有機性液体に溶解した分散液を含むが、これに限定されない任意の形で準備することができる。従って、プローブは、精製されたプローブのみを含む組成物、異なる配列の精製されたプローブの混合物、あるいは非精製プローブ、またはプローブと1種類もしくは複数の種類の非プローブ物質(例えば、緩衝液、液体、もしくは検出試薬)の混合物で準備されてもよい。プローブは、1種類の標識または複数の種類の標識を含んでもよい。ある特定の態様では、それぞれのプローブに2種類またはそれ以上の標識が設けられる。例えば、本発明のプローブは、プローブの各末端(N末端およびC末端)に標識が取り付けられてもよい。ある態様では、標的である誤って折り畳まれたタンパク質と会合している時にプローブのコンホメーションが変化すると、2種類の標識が近づくようになる。これにより、プローブから発するシグナルは、プローブが近くにない時に発するシグナルと比較して強くなる。
【0039】
前記方法によれば、組み合わせる工程は、試料の少なくとも一部と、プローブを含む組成物の少なくとも一部が1つの組成物を形成する任意の行動でよい。前記方法において用いられるように、この1つの組成物は混合物と呼ばれる。しかしながら、この用語には、2種類の成分を含む任意の1つの組成物が含まれる。従って、組み合わせる工程は、プローブの液体組成物を試料に添加する工程を含んでもよく、逆もまた可である。同様に、組み合わせる工程は、プローブの乾燥した組成物を試料に添加する工程を含んでもよく、逆もまた可である。このように形成された混合物は、2種類の組成物が互いに完全に組み合わさる条件(例えば、遠心分離、振盪、またはピペッティング)に供されてもよく、2種類の組成物は、単に、互いに添加され、単純な拡散、溶解などによって混合するようにされてもよい。少なくとも1つの誤って折り畳まれたタンパク質が存在すれば、少なくとも1つの誤って折り畳まれたタンパク質と少なくとも1つのプローブが接触できるように、この2つが互いに接触している限り、試料およびプローブがどのように組み合わされるかは重要でない。
【0040】
前記方法は、誤って折り畳まれたタンパク質の少なくとも1つの分子と、プローブの少なくとも1つの分子が会合するのに十分な時間、プローブおよび試料をインキュベートして、複合体を形成する工程を含む。インキュベーション時間は、プローブおよび/または誤って折り畳まれたタンパク質の濃度、温度、タンパク質およびペプチドの相互作用を阻害または促進する物質の有無などの既知の物理的性質に基づいて変化する。インキュベーション時間に及ぼす様々なシステムパラメータの影響を理解するために、本発明を実施する当業者によって日常的な実験を行うことができる。
【0041】
本発明の方法は、混合物中に少なくとも1種類の他の物質が存在すれば、その物質から、プローブおよび誤って折り畳まれたタンパク質の複合体を少なくとも部分的に分離する条件に、試料およびプローブの混合物を曝露する工程を含む。この分離工程は、インキュベーション工程の後に行われてもよく、インキュベーション工程と同時に行われてもよく、インキュベーション工程と部分的に同時に行われてもよい。
【0042】
インキュベーションおよび分離が同時に行われる態様において、ある特定の恩典が生じることがある。単離は、プローブと標的タンパク質との会合が起こっている時に行われ、それによって、誤って折り畳まれたタンパク質の存在を検出するのに必要な時間が短くなり、誤って折り畳まれたタンパク質の存在を検出するのに必要な工程および試薬が不要となる。典型的に、プローブおよび標的である誤って折り畳まれたタンパク質の複合体は(典型的に、高レベルのβシート構造が存在するために)独特のまたは特有の特性を有する高分子量実体であるので、プローブおよび標的である誤って折り畳まれたタンパク質の複合体の迅速な検出が可能である。複合体は、サイズ排除クロマトグラフィーまたは濾過などの迅速で十分に特徴付けられた技法を用いて、混合物中の他の物質から少なくとも部分的に単離することができる。
【0043】
さらに、インキュベーションおよび分離を同時に行うと高感度が可能になる。すなわち、混合物は検出前に2つまたはそれ以上の画分に分離され、使用される分離法は、好ましくは、シグナル発生または検出を妨げる物質を除去する特徴に基づいて選択されるので、プローブと誤って折り畳まれたタンパク質の複合体を含有する画分は、元の混合物以上に改善されたシグナル対ノイズ比を有する。プローブと誤って折り畳まれたタンパク質の複合体を含有する画分は妨害物質が無いか、または妨害物質が本質的に無いので、複合体の存在を検出するのに必要とされるシグナルの量は、混合物それ自体において必要とされるシグナルの量より少ない。
【0044】
本発明の方法によれば、分離は任意の適切な技法によって達成することができる。プローブおよび誤って折り畳まれたタンパク質の混合物の便利な物理的特徴の1つは、典型的に、大きな質量である。従って、適切な分離法は複合体のサイズを利用し、濾過またはサイズ排除クロマトグラフィーを含んでもよい。利用することができる他の物理的特徴は当業者に明らかであり、例えば、様々な条件下での溶解度もしくは疎水性または特定の固定相に対する親和性を含んでもよい。ある態様では、分離は、プローブ、標的ポリペプチド、または複合体と、磁気ビーズなどの固体支持体を結合させ、分離を行うために固体支持体の特性に少なくとも部分的に頼ることを含んでもよい。
【0045】
本発明の方法は、誤って折り畳まれたタンパク質と会合したプローブの存在を検出する工程を含む。検出工程は、タンパク質-タンパク質相互作用を検出するための当技術分野において公知の任意の手段によって達成することができる。ある態様では、プローブは標識され、検出は、誤って折り畳まれたタンパク質と会合したプローブが発したシグナルを検出することによって行われる。ある態様では、プローブは、2種類のシグナル発生部分が接近した時にシグナルが増強される2種類のシグナル発生部分を含む。これらの態様において、プローブのアミノ酸配列は、プローブと誤って折り畳まれたタンパク質が結合すると2種類のシグナル発生部分が接近するように設計されている。
【0046】
本発明は、一般的に、病原性型の誤って折り畳まれたタンパク質と優先的に相互作用するペプチドを含む。ある特定の態様において、本明細書に記載のペプチドは、非病原性型プリオンと比較して病原性型プリオンと優先的に相互作用する。本発明の好ましい態様を用いると、高感度を実現することができる。高感度を実現する適切なペプチドの例には、本明細書に記載のペプチドが含まれる。ある特定の態様において、ペプチドは、PrPCと比較してPrPScと優先的に相互作用する。ペプチドは、1つの種に由来するPrPScに特異的であってもよく、複数の種に由来するPrPScに特異的であってもよい。
【0047】
好ましい態様において、ペプチドと病原性の誤って折り畳まれたタンパク質またはプリオンの複合体を形成させることによって病原性プリオンを捕捉するために、1種類または複数の種類の本発明の末端標識ペプチドが添加される。次いで、この複合体は、複合体を、少なくとも1種類の他の試料成分から、好ましくは、試料の残りの実質的に全てから少なくとも部分的に分離する能力を付与する1つまたは複数の特性を含む固相によって試料中で濃縮される。少なくとも1種類の他の試料成分、好ましくは、試料の残りの実質的に全ては、固相に結合していない。次いで、少なくとも何らかの標的複合体を含有する固相は、リン酸緩衝食塩水(PBS)などの溶媒含有組成物、好ましくは、シグナルをある程度増幅し、少なくともいくらかのさらなる感度を検出方法全体に加えるために、本明細書において時として検出-増幅ペプチドと呼ばれる、さらなる検出可能に二重標識されたペプチドを含む溶媒含有組成物を用いて濃縮(プルダウン)される。次いで、例えば、標的複合体の少なくとも一部を含有する固相は、遠心分離工程を用いて、または固相が磁気ビーズの場合は磁石を用いて試料から濃縮(プルダウン)される。固定化された標的複合体が試料から濃縮されたら、残存する試料によって付与されていた妨害を、標準的なマイクロピペットを用いて除去することができる。次いで、元の試料に存在する汚染物質または妨害物質をさらに除去するために、固定化された標的複合体を、リン酸緩衝食塩水(PBS)などの標準的な洗浄緩衝液を用いて洗浄することができる。次いで、標的ならびに捕捉ペプチドの両方を含有する固定化された標的複合体は蒸留水および/またはPBSに再懸濁され、検出方法全体の特異性を高めるために検出-増幅二重標識ペプチドが添加される。
【0048】
ある好ましい態様では、試料は血漿または血清である。捕捉ペプチドは、ビオチンで末端標識されたプリオンプローブ:

である。固相は、試料中のペプチドと誤って折り畳まれたタンパク質の複合体の濃度を高めるのに有効な、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズである。検出-増幅ペプチドは両端がピレンで標識されている。

ピレンなどの外部蛍光は、一般的な蛍光検出法を用いたコンホメーション変化の検出を可能にする。任意に、このペプチドの一端には、ピレン標識の有効性を高めるために余分なリジン残基が存在する。

【0049】
プリオン捕捉ペプチドの効果的な態様には、少なくとも以下の配列が含まれる。


【0050】
プリオン検出-増幅ペプチドの効果的な態様には、少なくとも以下の配列が含まれる。

式中、Pyrはピレンである。
【0051】
標的タンパク質がAβである場合、捕捉ペプチドの効果的な態様には、少なくとも以下の配列が含まれる。

【0052】
本明細書に記載の態様が好ましいが、プローブ組成物、捕捉ペプチドの標識、検出-増幅ペプチドの標識、固相組成物および活性、ならびに試料起源および試料タイプには、他の同様に有効な態様が存在する。使用される特定の分析法に応じて、様々な標識および固相を使用できることが当業者に理解されるだろう。ペプチドの類似体および誘導体が有効な場合がある。
【0053】
ペプチドが所望の活性を実質的に維持すれば、ペプチド誘導体は欠失、付加、および置換などのネイティブな配列に対する改変も含んでよい。これらの改変は、対応する遺伝子配列の部位特異的変異誘発による改変のように意図的なものでもよく、タンパク質を産生する宿主の変異またはPCR増幅によるエラーによる改変のように偶発的なものでもよい。さらに、以下の効果:毒性の低下;プリオンに対する親和性および/または特異性の増加;細胞処理の簡易化;ならびにB細胞および/またはT細胞に対する提示の簡易化の1つまたは複数を有する改変が加えられてもよい。本明細書に記載のポリペプチドは、組換え法、合成、天然供給源または組織培養物からのからの精製を含む当技術分野において公知の様々な方法で作成することができる。
【0054】
本発明の捕捉ペプチドおよび検出-増幅ペプチドは、概して、約10〜約100残基長、好ましくは約10〜50残基、より好ましくは約15〜約45残基でもよい。例えば、本発明の捕捉ペプチドおよび検出-増幅ペプチドは、15〜35残基、20〜35残基、20〜30残基、25〜35残基、30〜50残基、少なくとも10残基を有する任意の数または範囲の残基、および100以下の残基を有する任意の数または範囲の残基でもよい。当業者であれば、これらの範囲内の任意の特定の残基長が本発明に含まれることを理解するだろう。
【0055】
標識の類似体も使用することができる。例示のために、検出-増幅ペプチドは、ピレン、例えば、酪酸ピレン、スクシンイミジル1-ピレン、リボフラビン、ロゾール酸、4-アセトアミド-4'-イソチオシアナトスチルベン-2,2'-二スルホン酸、アクリジン、4-アミノ-N-[3-ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド-3,5ジスルホネート、アントラニルアミド、クマリン、シアノシン、4',6-ジアミニジノ-2-フェニルインドール(DAPI)、ジエチレントリアミン五酢酸、4,4'-ジイソチオシアナトジ-ヒドロ-スチルベン-2,2'-二スルホン酸、エオシン、エオシンイソチオシアネート、エリトロシン、エリトロシンB、イソチオシアネート、エチジウム、フルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、フルオレスカルニン、ニトロチロシン、パラローザニリン、フェノールレッド、B-フィコエリトリン、またはo-フタルジアルデヒドとは異なる蛍光部分で二重標識することができる。好ましい標識は、簡便なシグナル検出を可能にするエキシマー状態を形成する。
【0056】
本明細書に記載の固相を用いた任意の方法において、固相は、セルロース、修飾セルロース、またはリグノセルロースバイオマスに由来する別の材料;ポリスチレン;ポリプロピレン;ポリエチレン;ポリ乳酸;ポリアクリルアミド;ケイ素;ゴム;多糖;ラテックス;ポリフッ化ビニル;ナイロン;ポリ塩化ビニル;ポリカーボネート;デンプン;デキストラン;キチン;砂;シリカ;軽石;アガロース;ガラス;金属;ならびに任意の形(例えば、粒子、ビーズ、平面、ロッドなど)をした、および任意の表面もしくは嵩の改変または活性化を有する、例えば、粗面処理、極性誘導、酸性部位または塩基性部位の生成、磁気誘導、熱処理、疎水性の改変、および様々なタイプのコーティングからなる群より選択される1つまたは複数の改変を有する、このような任意の材料の1つまたは複数でよい。固相は粒子でもよく、連続した表面の形をしてもよく、膜、メッシュ、板、ペレット、スライド、円板、毛細管、中空糸、針、ピン、チップ、固体繊維、ゲル、およびビーズを含む。ある特定の固相は、本明細書において述べられた多くの要素、例えば、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気活性ビーズまたは疎水性ポリマーでコーティングされたガラス粒子を含んでもよい。
【0057】
捕捉ペプチドは、好ましくは、ビオチンで標識され(1種類の標識がペプチドの一端または両端にある)、固相は、好ましくは、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズを含む。ストレプトアビジンが固相に好ましいタンパク質コーティングであるが、当業者であれば、利用できる唯一のタンパク質でないことを理解するだろう。例えば、関心対象の任意の特定のリガンドについて、ストレプトアビジンのビオチン結合特異性を含むリガンド結合特異性が高くまたは低くなるように変えるために、ストレプトアビジンに改変を加えることができる。使用することができるビオチン類似体には、少なくとも2-イミノビオチンおよびジアミノビオチンが含まれる。
【0058】
ビオチン-ストレプトアビジン結合対が特に効果的であるが、多くの他の結合対が機能する。例示のためであるが、決して本発明の範囲を限定することを目的とせず、他の適切な結合対は、少なくとも、ビオチン-アビジン、抗原-抗体、ハプテン-抗体、ミメトープ(mimetope)-抗体、受容体-ホルモン、受容体-リガンド、アゴニスト-アンタゴニスト、レクチン-炭水化物、酵素-基質または酵素-基質類似体、およびプロテインA-抗体Fcを含む。
【0059】
捕捉ペプチドおよび検出-増幅ペプチドを両方とも用いた態様の場合、第1のペプチドおよび第2のペプチドは実質的に同じでもよく、異なってもよい。「実質的に同じ」は、第1のペプチド試薬および第2のペプチド試薬が、第2のペプチド試薬に検出可能な標識が含まれるという点だけで異なることを意味する。捕捉ペプチドおよび検出-増幅ペプチドは、プリオンの同じ領域からのペプチド断片に由来してもよく、プリオンの異なる領域からのペプチド断片に由来してもよい。第1のペプチド試薬および第2のペプチド試薬はそれぞれ独立して選択されてもよい。
【0060】
任意の適切な検出手段を本発明において使用することができる。標識ペプチドの使用を伴うアッセイ法を含む態様において、本発明における使用に適した検出可能な標識には、放射性同位体、蛍光剤、化学発光剤、発色団、蛍光半導体ナノ結晶、酵素、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤、発色団、色素、金属イオン、金属ゾル、リガンド(例えば、ビオチン、ストレプアビジン(strepavidin)、またはハプテン)などを含む検出可能な任意の分子が含まれる。さらなる標識には、蛍光を検出可能な範囲で示すことができる物質またはその一部を含む、蛍光を使用する標識が含まれるが、これに限定されない。本発明において使用することができる標識の具体例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセイン、FITC、ローダミン、ダンシル、ウンベリフェロン、ジメチルアクリジニウムエステル(DMAE)、テキサスレッド、ルミノール、NADPH、およびβ-ガラクトシダーゼが含まれる。さらに、検出可能な標識には、PCR、TMA、b-DNA、およびNASBAを含む、任意の公知の核酸検出法によって検出することができるオリゴヌクレオチドタグが含まれ得る。
【0061】
部分または化学的実体は、ペプチドのアミノ末端もしくはカルボキシ末端で、またはアミノ末端もしくはカルボキシ末端の近くで複合体化されてもよく、共有結合されてもよい。ペプチドの末端には、好ましくは、短い疎水性ペプチド配列が取り付けられる。本発明の好ましい局面において、プローブペプチドのアミノ末端およびカルボキシ末端には、サイズが約1〜約5アミノ酸の小さな疎水性ペプチドが取り付けられる。これらは天然でも合成でもよいが、好ましくは、天然である(すなわち、標的タンパク質のβシート形成領域に由来する)。フルオロフォアは、好ましくは、プローブのアミノ末端および/もしくはカルボキシ末端に、アミノ末端および/もしくはカルボキシ末端の近くに(好ましくは、その両方に)取り付けられ、例えば、ピレン、トリプトファン、フルオレセイン、またはローダミンでもよい。フルオロフォアは正しい幾何学的方向にある時にエキシマーを形成することが好ましい。
【0062】
「エキシマー」は、必ずしも共有結合しておらず、光子によって励起されている分子的実体と、励起されていない同一の分子的実体の間で形成される付加物である。この付加物は天然では一過的なものであり、光子を放出することによって蛍光を発するまで存在する。通常の発光スペクトルの波長より長い波長の新たな蛍光バンドの生成によって、エキシマー(またはエキシマーの形成)を認識することが可能である。エキシマーは、励起スペクトルが単量体の励起スペクトルと同一であるので蛍光-共鳴エネルギー転移と区別することができる。エキシマーの形成はフルオロフォアが幾何学的に並ぶことに依存し、フルオロフォア間の距離の影響を強く受ける。
【0063】
分析標的と相互作用した後の好ましいコンホメーション移行は、エキシマー形成を分析することができる条件下で蛍光スペクトルを測定することによって達成される。典型的に、例示的なフルオロフォアとしてピレンを使用すると、励起波長は約350nmであり、観察波長は波長365〜600nmである。励起後の単量体ピレンの通常の発光(単純蛍光)は約370〜385nmの最大波長として記録される。
【0064】
本発明の方法は定性でもよく、半定量でもよく、定量でもよい。方法が半定量的または定量的に行われる場合、関心対象の試料中にある誤って折り畳まれたタンパク質の濃度の1つまたは複数の検量線を作成し、次いで、試験試料から得られた結果と検量線を比較する工程をさらに含んでもよい。当業者であれば、本明細書の開示および標準的な実験方法を参照することによって、関心対象の特定の試料のアッセイ法の必要性に応じて、本発明を本質的に定性的に、本質的に定量的に、または半定量的に実施する方法を理解するだろう。
【0065】
本発明の他の局面において、検出方法は、ヒトまたは非ヒト動物被験体においてプリオン関連疾患を診断する方法、実質的にPrPScを含まない血液供給品、血液製剤供給品、または食糧供給品を確かなものにする方法、移植のために臓器および組織試料を分析する方法、ならびに医療機器の除染をモニタリングする方法と共に用いられてもよい。前記方法は、本明細書に記載の任意の方法によって、集められた血液試料(例えば、全血、血漿、血小板、または血清)から血液試料中のプリオンを検出する工程、病原性プリオンが検出された任意の試料を排除する工程、および病原性プリオンが検出されなかった試料を組み合わせて、病原性プリオンを実質的に含まない血液供給品を提供する工程を含む。態様では、前記方法は、誤って折り畳まれたタンパク質とプローブを結合させ、プローブとタンパク質の複合体を除去することによって単に前記方法を実施することによって、検出工程それ自体を省くことができる。一般的には、除去されたタンパク質の量は、パーセント除去、除去された対数単位、または除去された相対量(例えば、何分の1に減少(fold reduction))などの多くの方法で表すことができる。例えば、前記方法がTSEタンパク質または粒子に対して実施された場合、前記方法によって、ある特定の対数単位の除去された感染性、例えば、少なくとももしくは約3の対数単位の除去された感染性、少なくとももしくは約2の対数単位の除去された活性、または少なくとももしくは約1の対数単位の除去された感染性を得ることができる。前記方法がスパイク試料に対して実施された場合、前記方法によって、好ましくは、少なくとも3対数単位の感染性減少が得られる。または、特定の地方に特有の試料において、前記方法は、好ましくは、感染性が2対数単位未満、より好ましくは、感染性が1対数単位未満の試料をもたらす。除去された標的材料の量を表す別の方法は、パーセント除去を参照する方法である。態様において、前記方法は、標的タンパク質の少なくとも25%、標的タンパク質の少なくとも40%、標的タンパク質の少なくとも50%、標的タンパク質の少なくとも60%、標的タンパク質の少なくとも65%、標的タンパク質の少なくとも75%、標的タンパク質の少なくとも80%、標的タンパク質の少なくとも85%、標的タンパク質の少なくとも90%、標的タンパク質の少なくとも95%、標的タンパク質の少なくとも98%、または標的タンパク質の少なくとも99%もしくはそれ以上、例えば、標的タンパク質の少なくとも99.5%、99.9%、および99.99%を除去することができる。
【0066】
他の局面において、本発明は、病原性プリオンを実質的に含まない食糧供給品を調製する方法を含む。この方法は、本明細書に記載の任意の検出方法を用いて、食糧供給品に入る生きた生物もしくは死んだ生物から集められた試料または食糧供給品に入ることが意図される食糧から集められた試料の中のプリオンを検出する工程、病原性プリオンが検出された試料を特定する工程、および食糧供給品から、病原性プリオンが検出された試料中にある生きた生物もしくは死んだ生物または食糧供給品に入ることが意図される食糧を除去する工程を含む。このような食糧供給品は病原性プリオンを実質的に含まない。
【0067】
他の局面において、本発明は、試料から、病原性の誤って折り畳まれたタンパク質およびプリオンを実質的に除去する方法を提供する。この方法は、本発明の捕捉ペプチド、本発明の固相、および本発明の1種類または複数の種類の検出-増幅ペプチドを準備する工程を含む。誤って折り畳まれたタンパク質またはプリオンを含有すると疑われる試料は、高い捕捉率をもたらす好ましいペプチドとインキュベートされ、その後に、捕捉ペプチドと誤って折り畳まれたタンパク質またはプリオンとの複合体との間で形成された複合体がもしあれば、その複合体が試料から濃縮される期間にわたって、好ましい固相と接触される。この技法は、誤って折り畳まれたタンパク質またはプリオンの望ましい除去効率に達するように最適化することができる。ここで、効率のモニタリングは、分析法によって誤って折り畳まれたタンパク質またはプリオンの濃度の低下が経時的にモニタリングされるように、好ましい二重標識ペプチドをプルダウン相に添加することによって簡便に実施することができる。
【0068】
本明細書に記載の任意の方法において、試料は、生きている生物もしくはかつて生きていた生物から得られた生物学的試料、または生きている生物もしくはかつて生きていた生物に由来する生物学的試料、例えば、器官、全血、血液画分、血液成分、血漿、血小板、血清、脳脊髄液(CSF)、脳組織、神経系組織、筋肉組織、骨髄、尿、涙、非神経系の組織、器官、および/または生検材料もしくは剖検材料でもよい。好ましい態様において、生物学的試料は血液、血液画分、または血液成分を含む。
【0069】
別の局面において、本発明は、本発明の方法を実施するためのキットを提供する。ある態様では、キットは、試料中の、少なくとも1種類の誤って折り畳まれたタンパク質の存在、従って、少なくとも1種類の誤って折り畳まれたタンパク質に関連する疾患または障害を診断するための診断キットである。他の態様では、キットは、ヒトの医療製品、例えば、血液、器官、または組織を、疾患または障害に関連する誤って折り畳まれたタンパク質の存在についてスクリーニングための検出キットである。他の態様において、キットは、動物製品、例えば、血液、器官、組織、または肉を、疾患または障害に関連する誤って折り畳まれたタンパク質の存在についてスクリーニングための検出キットである。さらに他の態様において、キットは、誤って折り畳まれたタンパク質に関連する疾患または障害の進行をモニタリングするための検出キットである。
【0070】
一般的に、本発明のキットは、本発明の1つまたは複数の態様を実施するのに必要な成分の一部または全てを含む。従って、本発明のキットは、あらかじめ定義された誤って折り畳まれたタンパク質に結合する、少なくとも1種類のコンホメーションプローブ、例えば、捕捉ペプチドおよび/または検出-増幅ペプチドを含んでもよい。プローブおよび他の成分は、キット内の1つまたは複数の適切な容器に入れて提供されてもよい。キットはまた、プローブおよび試料またはプローブと誤って折り畳まれたタンパク質の複合体のインキュベーションおよび/または分離に必要な緩衝液、試薬、および供給品の一部または全てを含んでもよい。キットは、本発明の方法を1回または複数回実施するのに十分な成分を含んでもよい。
【0071】
キットの容器は、バイアルまたはアンプルなどの本発明の1つまたは複数の物質を含有するのに適した任意の材料でよい。容器は、ガラス、プラスチック、金属、紙、または紙製品などの材料から組み立てられてもよい。ある態様では、容器は、栓、栓および圧着シール、またはプラスチックキャップもしくは金属キャップ、例えば、スクリューキャップなどによって密封することができる、ガラスまたはプラスチックのアンプルまたはバイアルである。一般的に、容器およびシールは、熱(乾熱滅菌もしくは湿熱滅菌)、放射線、または化学物質への曝露によって滅菌することができる材料で作製される。
【0072】
ある態様では、容器は、本発明による少なくとも1つの方法の少なくとも1つの態様を実施するのに十分な量のペプチドを含む。従って、キットは、とりわけ、診断キット、分離キット、試験キット、または対照キットでもよい。ある態様では、容器は、より大きなキットの構成要素として提供される。キットには、適切な包装、任意に、説明書およびペプチドの使用に関する他の情報が含まれる。多くの場合、キットは、キットが適切に動作するのを確実なものとするために、および試験試料と比較することができるベースライン結果を提供するために、1つまたは複数の対照反応を実施するための供給品および試薬の一部および全てを含む。
【0073】
キットのある特定の構成では、キットは複数の容器を含み、それぞれの容器は、ペプチド(コンホメーションプローブ、すなわち、捕捉ペプチド、および/または検出-増幅ペプチド)、ならびに本発明の方法の1つまたは複数の態様を実施するのに有用な他の物質を含有してもよい。キットがさらなる成分または物質を含む態様において、さらなる成分または物質は、ペプチドおよび/または組成物と同じ容器または1つもしくは複数の異なる容器に含まれてもよい。キットが複数の容器または1つの容器および他の成分を含む場合、容器および成分はキット内で組み合わされて包装されているといわれる。複数の容器が存在する場合、それぞれの容器は、本発明の1つの方法を実施するのに、例えば、試料中の誤って折り畳まれたタンパク質を診断するのに十分なペプチドを含有してもよい。
【0074】
本発明のキットは、ペプチドおよび誤って折り畳まれたタンパク質の研究に有用な物質を含んでもよい。このような研究は、様々なペプチドの特徴、機能、および有効性を検出および/または研究するための実験、計器を較正するための実験、誤って折り畳まれたタンパク質を試料から分離するための実験、ペプチドと(様々な相および活性の)微小粒子との相互作用を研究するための実験、ペプチドサイズを較正するための実験、分離法を較正するための実験、様々なリガンドとタンパク質の相互作用を試験するための実験、ならびに表面を介した反応を研究するための実験を含んでもよい。
【0075】
ある態様では、容器はキットの構成要素として提供される。キットには、適切な包装、任意に、説明書およびキットの内容物の使用に関する他の情報が含まれる。典型的に、キットは、ボール紙またはプラスチックなどの頑丈な材料から作られ、ボール紙もしくはプラスチックに直接印刷された説明書または他の情報を含んでもよい。当業者であれば、容器サイズおよび容器内容物の非常に多くの異なる構成が本発明によって想定され、従って、全ての変更が本明細書において具体的に列挙される必要がないことをすぐに理解するだろう。
【0076】
実施例
今から、以下の実施例において本発明をさらに説明する。実施例は本発明の好ましい態様の例示であり、いかようにも本発明を限定すると考えてはならない。
【0077】
実施例1:生物学的試料におけるプリオンタンパク質の検出
マウス脳試料中のプリオンタンパク質のコンホメーション増殖アッセイ法を、本質的に米国特許出願公開第2005/0026265A1号に記載のように行い、図1に図示した。このアッセイ法は、両端をピレン標識で標識した下記のマウス特異的パリンドローム33マープローブ(配列番号:49)を用いて行った。ヒト/ハムスタープリオンおよびヒツジ/ウシプリオン用の他のプローブも以下に示し、これらの種におけるプリオンの検出に使用することができる。

(マウス配列; 配列番号:53)

(ヒト/ハムスター配列; 配列番号:54)

(ヒツジ/ウシ配列; 配列番号:55)
【0078】
標識の改善のために、前記の配列は、ピレン標識を付加するために、C末端にさらなるリジン(K)残基を含有するように改変された(配列番号:56〜58)。

【0079】
実施例2:マウス脳組織を用いた、誤って折り畳まれたタンパク質の診断(MPD)アッセイ法のキネティック成分の証明
スクレイピー感染動物および健常動物からのマウス脳組織を入手し、ショ糖勾配によって分画した。実施例1のMPDアッセイ法は、沈殿試薬としてリンタングステン酸を使用し、その後に、マウス特異的ペプチドプローブを添加して行った。混合物は、図2のx軸に示した時間経過に従ってTris:TFE(50:50)混合物中で反応させた。結果から、試料中のプリオンタンパク質は適切に検出され、正常脳組織のバックグラウンドレベルを超えていることがわかる。
【0080】
実施例3:本発明によるプリオン含有試料の分画
ヒツジ血清を入手し、ヒツジ特異的ペプチドプローブ(前記の配列を参照されたい)と混合し、混合物を、プローブと血清中のプリオンタンパク質が会合するのに十分な時間インキュベートした。混合物をSepharose 4Bカラムに直接アプライし、画分を集めた。350nmで励起し、発光プレートリーダーで350〜600nmをスキャニングすることによって、画分の蛍光を分析した。健常血清および感染血清からの各画分の発光を図3に図示した。このデータは、カラムからの反応画分の溶出を視覚化する。理解できるように、本発明の方法を使用すると、感染性血清を健常血清と区別できるだけでなく、「リアルタイム」で行うことができる。分画前にペプチドを試料とインキュベートしたので、誤って折り畳まれたタンパク質のアッセイ法は分画の間に行う。
【0081】
実施例4:非分画ヒツジ血清試料のMPDアッセイ法
MPDアッセイ法を以下のように行った。正常ヒツジ血清およびプリオン感染ヒツジ血清を入手し、Sepharose 4Bカラムに直接アプライし、画分を集めた。負の対照のために、PBS溶液もSepharose 4Bカラムに流した。本質的に、この手順は、Sepharose 4Bカラムによる分画の前にプローブを血清に添加しなかったことを除けば、図3に記載のものと同一であった。
【0082】
各試料(感染、非感染、PBS)について別個に、実施例3から最高のシグナル対ノイズ比を含むと確かめられた画分をヒツジ特異的プローブと組み合わせ、評価した。感染試料から最高のエキシマー対単量体比を示した画分を選択し、キネティック実験データをここに示した。健常およびPBS対照の同一の画分番号も選択した。時間経過(キネティック)実験のために、MPDアッセイ法に典型的な50:50トリフルオロエタノール溶媒条件を用いて、プローブが試料中のプリオンタンパク質と会合するのに十分な時間を設けた。次いで、混合物の蛍光を蛍光スキャニングプレートリーダーにおいてアッセイし、入手したデータを図4に示した。データから、図2に示したデータと同様に、分画したヒツジ血清でも、このアッセイ法の首尾よいキネティクスが明らかであることが分かる。
【0083】
実施例5:ヒト血漿試料を用いた選択的捕捉MPD
sCJDまたは正常プールのヒト血漿試料200μlをビオチン標識ペプチドと一晩インキュベートした。ストレプトアビジンでコーティングしたDynal磁気ビーズを、25:100、25:200、50:100、または0:100のビオチンペプチド対ビーズ比で添加した。磁石を用いて、濃縮した標的材料を血漿試料から取り出した。洗浄および再懸濁の後に、二重標識(ピレン)フルオロフォアペプチドを添加し、インキュベーション後に、発光スキャンを取り込んだ。図5は、sCJD血漿試料と正常プールヒト血漿(NHP)との首尾よいシグナル分離を示す。
【0084】
実施例6:選択的捕捉MPDアッセイ法の用量反応
sCJD85-137試料を正常ヒト血漿で1:2、1:4、および1:8に希釈したことを除けば、実施例5と同じプロトコールに従った(図6)。未希釈のヒトsCJD血漿を正常血漿で希釈すると、予想されたように選択的捕捉MPDアッセイ法において比例して、および用量反応的に蛍光シグナルが減少した。sCJD85-137出発試料に存在する実際のPrPTSEレベルは分かっていないが、臨床標本として、予想される最大レベルは20〜30IU/mlであろう。この近似値と200μlの試験体積を用いると、未希釈試料は4〜6IUを含有し、1:2、1:4、および1:8の2倍段階希釈液は、それぞれ、2〜3、1〜1.5、および0.5〜0.75IUを含有していた。これらの結果は、1IUに近いLOD(検出レベル)を反映している。
【0085】
実施例7:ヒツジ血清試料を用いた選択的捕捉MPDプロトコール
試験試料が2種類の異なるスクレイピーヒツジ血清試料および2種類の正常な健常ヒツジ血清試料であったことを除けば、実施例5と同じプロトコールに従った(図7)。この選択的捕捉MPDプロトコールはヒツジ血清試料に十分なものである。正常ヒツジ血清と感染スクレイピー(PrPScまたはPrPTSE)ヒツジ血清との間のシグナル対ノイズ比は優れている。
【0086】
実施例8:磁気ビーズから捕捉sCJD基質を連続洗浄する効果
図8は、PrPTSE (sCJD85-137)基質とビオチン標識捕捉ペプチドが結合し、固相(磁気ビーズ)と有効に相互作用したという直接的な証拠を示す。PBSで繰り返し洗浄すると、PrPTSEは解離する。この実験は、二重標識フルオロフォアペプチドの相互作用が、磁気ビーズ上にある「プルダウン」材料との会合に依存することを証明している。標的(PrPTSE)材料はビオチン標識ペプチドによって捕捉される。ビオチン標識ペプチド自体は、磁気ビーズの表面を覆っているストレプトアビジンと会合する。この材料は、後のPBS洗浄によって洗い流すことができる。図8は、洗浄回数が増加するにつれて、フルオロフォア標識検出ペプチドのエキシマーピークと関連するシグナル、すなわち、430〜530nmがsCJD試料では非常に減少するが、正常プールヒト血漿試料では減少しないことを証明している。具体的には、図8Aおよび8Bは、洗浄を行わない場合の、2種類の試料のエキシマー:単量体比(図8A)および2種類の試料のピーク発光を示す蛍光スキャン(図8B)を示すのに対して、図8Cおよび8Dは、試料を3回洗浄した後の同じアッセイ法からのデータを示し、図8Eおよび8Fは、試料を5回洗浄した後の同じアッセイ法からのデータを示す。
【0087】
本発明の範囲または精神から逸脱することなく、本発明の実施において様々な変更および変化を加えることができることは当業者に明らかであろう。本発明の他の態様は、明細書および本発明の実施から考慮して当業者に明らかであろう。明細書および実施例は例示にすぎないと考えられ、本発明の真の範囲および精神は特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に従って使用した触媒増殖アッセイ法の概要を示す。
【図2】本発明において使用した標準的な触媒増殖アッセイ法の結果を示す。
【図3】本発明の方法に従って、プローブと誤って折り畳まれたプリオンタンパク質の複合体をクロマトグラフィーにより分離した結果を示す。
【図4】本発明によって実施された、PBS対照を含む、濃縮されたヒツジ血漿の標準的な触媒増殖アッセイ法の結果を示す。
【図5】ヒト血漿試料を用いた、本発明の選択的捕捉態様の結果を示す。
【図6】誤って折り畳まれたタンパク質の選択的捕捉診断(MPD)のプロトコール用量反応を示す。
【図7】ヒツジ血清試料を用いた選択的捕捉の結果を示す。
【図8】磁気ビーズを含む固相から捕捉sCJD基質を連続的に洗浄した効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の、誤って折り畳まれたタンパク質の存在または量を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法:
誤って折り畳まれたタンパク質を含有する試料または誤って折り畳まれたタンパク質を含有すると疑われる試料を準備する工程、
少なくとも1種類のコンホメーション捕捉ペプチドを準備する工程、
試料とコンホメーション捕捉ペプチドを組み合わせて、混合物を作成する工程、
誤って折り畳まれたタンパク質の少なくとも1つの分子と、捕捉ペプチドの少なくとも1つの分子とが会合するのに十分な時間、混合物をインキュベートして、複合体を形成する工程、
混合物中に少なくとも1種類の他の物質が存在する場合に、その物質から複合体を少なくとも部分的に分離する条件に、混合物を曝露する工程、および
少なくとも1種類の捕捉ペプチドと誤って折り畳まれたタンパク質との会合の存在または非存在を検出する工程。
【請求項2】
曝露工程と検出工程の間に、少なくとも1種類の二重標識ペプチドを添加する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
インキュベート工程および曝露工程が同時に行われる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1種類のコンホメーション捕捉ペプチドが配列番号:1である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種類の二重標識ペプチドが配列番号:2または配列番号:3である、請求項2記載の方法。
【請求項6】
プリオンタンパク質を検出する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種類のコンホメーション捕捉ペプチドが配列番号:4〜35からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
Aβに関連する疾患を診断するための診断方法である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種類のコンホメーション捕捉ペプチドが配列番号:44〜52からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種類の二重標識ペプチドが配列番号:36〜43からなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種類のコンホメーションペプチドが、2-イミノビオチン、ジアミノビオチン、または選択された固相の表面と有効な相互作用を形成する他のビオチン誘導体であるビオチン類似体を含む、請求項4、7または9記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種類の二重標識ペプチドが、酪酸ピレン、スクシンイミジル1-ピレン、リボフラビン、ロゾール酸、4-アセトアミド-4'-イソチオシアナトスチルベン-2,2'-二スルホン酸、アクリジン、4-アミノ-N-[3-ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド-3,5ジスルホネート、アントラニルアミド、クマリン、シアノシン、4',6-ジアミニジノ-2-フェニルインドール(DAPI)、ジエチレントリアミン五酢酸、4,4'-ジイソチオシアナトジ-ヒドロ-スチルベン-2,2'-二スルホン酸、エオシン、エオシンイソチオシアネート、エリトロシン、エリトロシンB、イソチオシアネート、エチジウム、フルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、フルオレスカルニン、ニトロチロシン、パラローザニリン、フェノールレッド、B-フィコエリトリン、またはo-フタルジアルデヒドからなる群より選択される部分を含む、請求項5または10記載の方法。
【請求項13】
曝露工程が、セルロース、修飾セルロース、リグノセルロースバイオマス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリアクリルアミド、ケイ素、ゴム、多糖、ラテックス、ポリフッ化ビニル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、デンプン、デキストラン、キチン、砂、シリカ、軽石、アガロース、ガラス、および金属からなる群より選択される1種類または複数の種類の材料を含む固相によって行われる、請求項2記載の方法。
【請求項14】
固相が、曝露工程中の所望の分離を高めるように改変され、このような改変が、粗面処理、極性誘導、酸性部位または塩基性部位の生成、磁気誘導、熱処理、疎水性の改変、および固体表面への化学的に活性なコーティングまたは生物学的に活性なコーティングの配置からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
固相が、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
誤って折り畳まれたタンパク質に関連する疾患を診断する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
動物製品のスクリーニング方法である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ヒト血液製剤、ヒト組織、またはヒト器官のスクリーニング方法である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項記載の方法を含み、病原性の誤って折り畳まれたタンパク質の除去を少なくとも1つの時点でモニタリングする工程をさらに含む、病原性の誤って折り畳まれたタンパク質を試料から除去する方法。
【請求項20】
病原性の誤って折り畳まれたタンパク質の少なくとも25%が試料から除去される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
病原性の誤って折り畳まれたタンパク質の少なくとも50%が試料から除去される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
病原性の誤って折り畳まれたタンパク質の実質的に全てが試料から除去される、請求項19記載の方法。
【請求項23】
誤って折り畳まれたタンパク質と会合することができ、配列番号:1〜58からなる群より選択される1種類または複数の種類のペプチドを含む、キット。
【請求項24】
少なくとも1種類のコンホメーション捕捉ペプチドおよび少なくとも1種類の二重標識検出ペプチドを含むキットであって、該コンホメーション捕捉ペプチドが配列番号:1、配列番号:4〜35、および配列番号:44〜52からなる群より選択され、該二重標識検出ペプチドが配列番号:2〜3および配列番号:36〜43からなる群より選択される、請求項23記載のキット。
【請求項25】
セルロース、修飾セルロース、リグノセルロースバイオマス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリアクリルアミド、ケイ素、ゴム、多糖、ラテックス、ポリフッ化ビニル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、デンプン、デキストラン、キチン、砂、シリカ、軽石、アガロース、ガラス、および金属からなる群より選択される1種類または複数の種類の材料を含む固相をさらに含む、請求項24記載のキット。
【請求項26】
固相が、曝露工程中の所望の分離を高めるように改変され、このような改変が、粗面処理、極性誘導、酸性部位または塩基性部位の生成、磁気誘導、熱処理、疎水性の改変、および固体表面への化学的に活性なコーティングまたは生物学的に活性なコーティングの配置からなる群より選択される、請求項25記載のキット。
【請求項27】
固相が、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズを含む、請求項26記載のキット。
【請求項28】
誤って折り畳まれたタンパク質に関連する疾患を診断することができる、請求項23〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項29】
動物製品のスクリーニング方法を含む、請求項28記載のキット。
【請求項30】
ヒト血液製剤、ヒト組織、またはヒト器官のスクリーニング方法である、請求項28記載のキット。
【請求項31】
病原性の誤って折り畳まれたタンパク質を試料から除去することができる、請求項23〜27のいずれか一項記載のキット。
【請求項32】
病原性の誤って折り畳まれたタンパク質の少なくとも25%が試料から除去される、請求項31記載のキット。
【請求項33】
病原性の誤って折り畳まれたタンパク質の少なくとも50%が試料から除去される、請求項31記載のキット。
【請求項34】
病原性の誤って折り畳まれたタンパク質の実質的に全てが試料から除去される、請求項31記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【公表番号】特表2008−530565(P2008−530565A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555328(P2007−555328)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/005095
【国際公開番号】WO2006/088823
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(507077558)エイディーライフ インコーポレイティッド (5)