説明

調味ソース

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、本格的な炒めもの等の料理を簡便に調理することのできる調味ソースに関するものであり、更に詳しくは、食材へのからまりがよくて、食感がなめらかで口どけに優れるとともに、風味のバランスがよく、適度な濃さで食材の風味が十分に生かされた本格的な炒めもの等の料理を簡便に調理することができ、しかも保存性にも優れた調味ソースに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、一般家庭において本格的な炒めもの料理を簡便に調理するための調味ソース製品が種々開発されている。通常、このような調味ソースは、糖質、食塩、水系原料、澱粉等を加熱混合して調製され、パウチ等の容器に密封されて販売されている。当該調味ソースによると、例えば肉、野菜等の食材をフライパンで炒め、これに単に加えてからませるだけで、和風、洋風、中華風等様々な炒めもの料理を調理することができる。ところで、上記の調味ソースは、澱粉が加熱によってα化しているので、適当な粘度が付与されていて食材へのからまりがよく、また、食感がなめらかで口どけもよい。しかしながら、従来の調味ソースは、通常の澱粉を用いているために、保存時にα化した澱粉が老化して離水を生じてAw(水分活性)が上がりやすい。したがって、従来の調味ソースは、保存性を十分に確保するために調製時に糖質あるいは食塩を多分に用いてAwがかなり低く設定されており、このため、全体としての風味のバランスが悪く、しかも濃厚で食材そのものの風味がマスキングされてしまい決して満足のできる品質ではなかった。このようなことから、澱粉に代えてキサンタンガム等のガム質を用いる試みもなされているが、この場合には、ソースがガム質特有の糊状のねばりの強い食感で口どけの悪いものとなり、また、Awを低くしない代わりにレトルト殺菌を施した場合には、その苛酷な殺菌条件が各原料のデリケートな風味及び物性に悪影響を及ぼしてやはり満足のできるものは得られなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の事情に鑑み、食材へのからまりがよくて、食感がなめらかで口どけに優れるとともに、風味のバランスがよく、適度な濃さで食材の風味が十分に生かされた本格的な炒めもの等の料理を簡便に調理することができ、しかも保存性にも優れた調味ソースの提供を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らの研究の結果、糖質、食塩、水系原料とともに、澱粉として化工澱粉を含み、かつ特定のAw及びpHを有する調味ソースによって求める品質が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】すなわち、本発明は、糖質、食塩、水系原料及び化工澱粉を含み、Aw0.75〜0.88でかつpH4.6〜6.5であり、60〜95℃で加熱殺菌処理されてなることを特徴とする調味ソースを提供する。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明で対象とする調味ソースは、糖質、食塩、水系原料及び化工澱粉を含み、肉類、野菜類、パスタ等の食材に加えて調理するための液状ないしペースト状のソースであって、具体的には、野菜炒め用ソース、ステーキ用ソース、エビチリ用ソース、パスタ用ソース及びこれらの類似品が例示される。
【0007】本発明で用いる原料について説明する。糖質としては、上白糖、ブドウ糖、グラニュー糖、水飴、ソルビトール等の糖アルコール、異性化糖、麦芽糖等が挙げられ、これらは単独で、あるいは適宜組み合せて用いることができる。
【0008】糖質の使用量は、糖質の種類に関係なく、調味ソースに対して、乾燥重量として2〜35重量%(以下単に%という)、更に好ましくは3.5〜30%使用するのがよい。2%に満たないと求めるAwが達成されにくく、反対に35%を越えると甘味が強くなり所望の風味バランスが達成されなくなる。したがって、前記範囲の使用量によって、後述するAwで、甘味がやわらかに感じられて風味バランスのよい調味ソースを得ることができる。
【0009】食塩としては、食塩そのものとして、あるいは、醤油、味噌、その他の含塩調味料等として使用でき、これらは単独で、あるいは適宜組み合せて用いることができる。食塩の使用量は、調味ソースに対して、塩分として3〜20%、更に好ましくは5〜13%使用するのがよい。3%に満たないと求めるAwが達成されにくく、反対に20%を越えると塩味が強くなり所望の風味バランスが達成されなくなる。したがって、前記範囲の使用量によって、後述するAwで、程よい塩味が感じられて風味バランスのよい調味ソースを得ることができる。
【0010】このように、本発明では、例えば糖質と食塩とを好適に示した特定の配合量で組み合わせて用いると共に、全体として、Aw、pHを後述する条件範囲に調整することにより、従来製品にない特有の風味バランス、適度な濃さで食材がもつ風味を十分に生かすことが可能な調味ソースを好適に得ることができる。
【0011】水系原料としては、水、醤油、発酵調味料、食酢、スープストック、オイスターソース、乳原料等を任意に用いることができる。
【0012】本発明で用いる化工澱粉とは、ヒドロキシプロピル、エピクロルヒドリン、リン酸、アジミン酸、酢酸等により置換及び/又は架橋された澱粉である。上記化工処理は適宜組み合せて行われていてもよく、本発明では特にリン酸架橋ヒドロキシプロピル澱粉が好ましい。なお、上記化工澱粉の由来澱粉は、特に制限されず、コーンスターチを初めとして小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカでんぷん等のいずれも使用でき、本発明では特に馬鈴薯澱粉が好ましい。
【0013】このように、化工澱粉を用いた場合には、調味ソースに食材へのからまりに必要な粘度と所望の食感が付与されることに加えて、保存時に離水を生じにくくAwが上昇しにくい。したがって、本発明の調味ソースでは、従来の調味ソースと比較してAwを高く設定することが可能となり、このため、糖質、食塩の使用量を抑えて後述するAw及びpHにより、風味バランスがよく、適度な濃さで食材がもつ風味を十分に生かすことが可能で、しかも保存性にも優れた調味ソースを得ることができる。
【0014】化工澱粉の使用量は、化工澱粉の種類に関係なく、調味ソースに対して、2〜10%、更に好ましくは2.5〜6.5%使用するのがよい。2%に満たないと食材へのからまりに必要な粘度が付与されにくく、反対に10%を越えるとボテボテとした重い食感となる。したがって、前記範囲の使用量によって、食材へのからまりに必要な粘度が好適に付与され、食感がなめらかで口どけに優れた調味ソースを得ることができる。なお、調味ソースの粘度としては、品温25°Cにおいて、3000〜20000cp、さらに好ましくは7000〜19000cpを好適な範囲として例示できる。なお、粘度はB型粘度計により測定することができる。
【0015】他の原料としては、香辛料、酢酸等の酸味料(pH、風味の調整に用いる)、油脂、エキス類、香料等を適宜用いることができる。
【0016】本発明では、以上のような原料を用いて、調味ソースを、全体として、Aw0.75〜0.88、更に好ましくは0.78〜0.85でかつpH4.6〜6.5、更に好ましくは4.7〜5.8に調整することが重要である。
【0017】前記Aw及びpHの調味ソースにより、所望の保存性が確保され、しかも風味バランスがよく、適度な濃さで食材の風味を生かすことが可能な調味ソースを得ることができる。なお、Aw、pHのいずれかが上記条件範囲を上回ると、所望の保存性が得られない。一方、Awが上記範囲を下回ると、全体としての風味バランスが悪く濃厚で食材の風味を生かすことができず、pHが上記範囲を下回ると酸味が強くなりやはり風味バランスが悪い。
【0018】本発明の調味ソースの製法について説明すると、本発明の調味ソースは、基本的には、各原料を任意の方法で加熱混合して製造することができる。本発明の調味ソースは、加熱殺菌処理を施さない場合であっても常温で十分保存可能であるが、必要により加熱殺菌処理を施すこともできる。
【0019】加熱殺菌処理を施す場合は、例えば60〜95°C、5〜30分程度の条件で、パウチ、ボトル等の容器にホットパック処理を行うか、あるいは充填密封後に湯殺菌処理を行うことが望ましい。上記殺菌条件によれば、原料のデリケートな風味及び物性を有効に生かすことができると共に、更に保存性を高めることができる。
【0020】また、原料として乳原料と酢酸等の酸味料とを併用する場合には、予め乳原料を化工澱粉を含む他の原料の一部ないし全部と混合して粘度を高めた後に、酸味料を添加することが、乳原料の酸凝固を防止する上で望ましい。
【0021】本発明の調味ソースの用途としては、各種食材に加えて調理するすべての場合に用い得るが、特に炒めもの料理に好適に使用される。具体的には、例えばフライパン、ナベ等の調理器材で炒めた食材にかけてからませるようにすればよい。なお、炒めた食材(加熱により組織が軟化している食材)に食塩をある程度含むソースを用いる場合、浸透圧により食材からの離水が生じて出来上がりが水っぽいものとなりやすいが、本発明の調味ソースを前述した好適な粘度範囲として用いる場合には、上記離水が好適に防止されるのでよい。
【0022】また、本発明の調味ソースを用いて調理される食材としては、特に制限されず、キャベツ、白菜、玉葱、人参、もやし、ジャガイモ、ナス、カボチャ、トマト、ピーマン等の野菜類、牛、豚、鶏等の肉類、エビ、タコ、イカ、サケ、マギロ、カキ等の魚介類、パスタ等を任意に用いることができる。
【実施例】
【0023】実施例1(1)調味ソースの製造醤油30重量部(以下、部と略称する)、発酵調味料18部、胡麻油10部、液糖5部、化工澱粉(リン酸架橋ヒドロキシプロピル澱粉)6部、食塩3部、肉エキス13部、および香辛料その他15部を85°Cで加熱しながら撹拌混合した。次いで、これを品温60〜95°Cに保持した状態でパウチに充填、密封(ホットパック処理)して本発明の調味ソースを得た。上記ソースは、糖質含量(乾燥重量)3.5%、塩分含量12%、Aw0.78、pH5.2、25°Cにおける粘度約13000cpのものであった。
【0024】(2)調理例フライパンを用いて、もやし、キャベツ、玉葱からなる野菜300gを食用油で炒め、この上から上記ソース30gをかけて、これを軽くかき混ぜながらからませて野菜炒めを得た。得られた野菜炒めにはソースが均一にからまっており、これを食したところ、当該野菜炒めは、ソースの風味バランスがよく、適度な濃さで野菜の風味も十分に生かされており、なめらかな食感と口どけを有するものであった。
(3)保存性上記ソースを5°C、25°C、40°Cの各温度下で30日間保存したところ、いずれの場合もソースは上記AwおよびpHが保たれており、製造時と同様の品質を有することが確認された。
【0025】実施例2(1)調味ソースの製造醤油15部、発酵調味料6部、上白糖20部、化工澱粉(リン酸架橋ヒドロキシプロピル澱粉)3部、食塩7部、フルーツペースト30部、および香辛料その他19部を85°Cで加熱しながら撹拌混合した。次いで、これを品温60〜95°Cに保持した状態でパウチに充填、密封(ホットパック処理)して本発明の調味ソースを得た。上記ソースは、糖質含量(乾燥重量)19.5%、塩分含量10%、Aw0.78、pH4.8、25°Cにおける粘度約19000cpのものであった。
【0026】(2)調理例実施例1と同様にして野菜炒めを得た。得られた野菜炒めにはソースが均一にからまっており、これを食したところ、当該野菜炒めは、ソースの風味バランスがよく、適度な濃さで野菜の風味も十分に生かされており、なめらかな食感と口どけを有するものであった。
(3)保存性実施例1と同様にして、上記ソースを5°C、25°C、40°Cの各温度下で30日間保存したところ、いずれの場合もソースは上記AwおよびpHが保たれており、製造時と同様の品質を有することが確認された。
【0027】実施例3(1)調味ソースの製造醤油2部、発酵調味料12部、胡麻油7部、上白糖12部、化工澱粉(リン酸架橋ヒドロキシプロピル澱粉)4部、食塩7部、肉エキス10部、しょうが8部、および香辛料その他38部を85°Cで加熱しながら撹拌混合した。次いで、これをパウチに充填、密封した後、85°C、15分間の条件で湯殺菌処理して本発明の調味ソースを得た。上記ソースは、糖質含量(乾燥重量)12%、塩分含量11%、Aw0.82、pH5.2、25°Cにおける粘度約8000cpのものであった。
【0028】(2)調理例実施例1と同様にして野菜炒めを得た。得られた野菜炒めにはソースが均一にからまっており、これを食したところ、当該野菜炒めは、ソースの風味バランスがよく、適度な濃さで野菜の風味も十分に生かされており、なめらかな食感と口どけを有するものであった。
(3)保存性実施例1と同様にして、上記ソースを5°C、25°C、40°Cの各温度下で30日間保存したところ、いずれの場合もソースは上記AwおよびpHが保たれており、製造時と同様の品質を有することが確認された。
【0029】実施例4(1)調味ソースの製造クリーム30部、マーガリン10部、ソルビトール水溶液(濃度70%)30部、食塩5部、発酵調味料10部、肉エキス5部、化工澱粉(リン酸架橋ヒドロキシプロピル澱粉)4部、香辛料2部、およびグルタミン酸ナトリウム3.85部を85°Cで加熱しながら撹拌混合し、爾後これに酢酸0.15部を加えてさらに撹拌混合した。次いで、これをパウチに充填、密封した後、85°C、15分間の条件で湯殺菌処理して本発明の調味ソースを得た。上記ソースは、糖質含量(乾燥重量)21%、塩分含量7.5%、およびAw0.82、pH5.75、25°Cにおける粘度約10000cpのものであった。
【0030】(2)調理例実施例1と同様にして野菜炒めを得た。得られた野菜炒めにはソースが均一にからまっており、これを食したところ、当該野菜炒めは、ソースの風味バランスがよく、適度な濃さで野菜の風味も十分に生かされており、なめらかな食感と口どけを有するものであった。
(3)保存性実施例1と同様にして、上記ソースを5°C、25°C、40°Cの各温度下で30日間保存したところ、いずれの場合もソースは上記AwおよびpHが保たれており、製造時と同様の品質を有することが確認された。
【0031】
【発明の効果】本発明によれば、食材へのからまりがよくて、食感がなめらかで口どけに優れるとともに、風味のバランスがよく、適度な濃さで食材の風味が十分に生かされた本格的な炒めもの料理を簡便に調理することができ、しかも保存性にも優れた調味ソースを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 糖質、食塩、水系原料及び化工澱粉を含み、Aw0.75〜0.88でかつpH4.6〜6.5であり、60〜95℃で加熱殺菌処理されてなることを特徴とする調味ソース。
【請求項2】 品温25℃における粘度が3000〜20000cpである請求項1記載の調味ソース。
【請求項3】 炒めた食材にからめて調理するための請求項2記載の調味ソース。

【特許番号】特許第3118426号(P3118426)
【登録日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【発行日】平成12年12月18日(2000.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−296944
【出願日】平成8年11月8日(1996.11.8)
【公開番号】特開平10−136930
【公開日】平成10年5月26日(1998.5.26)
【審査請求日】平成10年10月27日(1998.10.27)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【参考文献】
【文献】特開 平4−311363(JP,A)
【文献】特開 平2−215368(JP,A)
【文献】特開 平5−252914(JP,A)
【文献】特開 昭57−202274(JP,A)
【文献】太田静行外2名著「たれ類−その製造と利用」(株)光琳,平成元年5月2日,11−10米菓の項の表11・2(A米菓のたれ)
【文献】西田編「着眼点−食品衛生」中央法規出版株式会社,昭和57年6月8日,第125−127頁
【文献】高橋禮治著「でん粉製品の知識」(株)幸書房,1996年5月25日,第175−181頁
【文献】「ニューフードインダストリー」第35巻第8号,(株)食品資材研究会,平成5年8月1日,第17−23頁