説明

豚浮腫病のスクリーニング方法

【課題】ベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌の感染を検出し、野外試験によりベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌に感染している豚をスクリーニングする方法の提供。
【解決手段】豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定するELISAを用いて検出することにより、豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌感染をベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定するELISAを用いて検出し、豚の浮腫病をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豚浮腫病は、ベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌感染症で、死亡率が非常に高く(15〜50%)経済的被害が大きい疾病とされている。この疾病は、全国で散発しているが、簡便な抗体検査方法が確立されていないため、病気の浸潤状況や被害状況などの実態が解明されていない疾病であり、被害の拡大が懸念されている。従来は、志賀毒素(Shiga toxin) 2eのベロ細胞に対する毒性を中和する抗体の存在を、細胞変性の有無で判定していた(非特許文献1〜3を参照)。しかしながら、従来法は細胞を使用するため、準備および結果判定までに1週間以上を要していた。また、細胞変性の有無を目視で確認し、結果判定を行うため、客観的に信頼性がある判定を行うためには経験が必要であった。また、作業が煩雑なため一度に多検体を検査することが困難であった。さらに、毒素の中和には抗体以外の物質が作用する可能性もあり、得られた結果が必ずしも妥当とはいえなかった。
【0003】
【非特許文献1】J.KONOWALCHUK et al., INFECTION AND IMMUNITY, Dec. 1977, p.775-779
【非特許文献2】Mohamad A, et al, The journal of Infectious Diseases, Vol.151, No.5, May 1985, p.775-782
【非特許文献3】Mohamad A. Karmali et al., THE LANCET, MARCH 19, 1983, p.619-620
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、豚におけるベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌の感染を検出する方法及び試薬の提供を目的とする。より具体的には、豚生体試料中の志賀毒素(Shiga toxin)2eに対する抗体を検出することにより豚のベロ毒素産生大腸菌の感染を検出する方法及び試薬の提供を目的とする。また、集団飼育されている豚集団中におけるベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌の感染を検出し、野外試験によりベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌に感染している豚をスクリーニングする方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来の豚におけるベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌の感染を検出する方法には、正確性、迅速性、多数検体処理に関して問題があった。このことから、簡便な抗体検査方法の早期開発が望まれていた。
【0006】
本発明者等は、ELISA法による抗体検査法の開発を行った。開発された方法で野外試験を実施した結果、ある地域内で飼育されている豚の浮腫病への罹患を迅速かつ的確にスクリーニングすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] ベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定するELISAを用いて豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を検出することにより、豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングする方法。
[2] 一定地域内に存在する豚集団から一定数の豚を抽出し、ベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定するELISAを用いて該豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を検出することにより、豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングする方法。
[3] ベロ毒素タイプ2eのBサブユニットに対する抗体を測定する[1]又は[2]の豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による感染をスクリーニングする方法。
[4] [1]〜[3]のいずれかの豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングする方法により、豚の浮腫病をスクリーニングする方法。
[5] ベロ毒素タイプ2eのBサブユニット又はその断片を含む豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定し、豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングするためのELISAキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は、ELISAにより豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定するため、大量検体について迅速かつ簡便に豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染、及び豚の浮腫病をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
豚浮腫病は、ベロ毒素タイプ2e(VT2e; verocytotoxin type 2e)を産生する腸管出血性大腸菌(enterohaemorrhiagic E.coli; EHEC)が感染することにより引き起こされる疾患である。ベロ毒素は、志賀様毒素(Shiga-like toxin)又は志賀毒素(Shiga toxin; ST)とも呼ぶ。ベロ毒素は、毒素としての活性を持つAサブユニット(Activeサブユニット)1個と、細胞との結合活性を持つBサブユニット(Bindingサブユニット)5個から構成される、A1B5型と呼ばれる毒素タンパク質である。Bサブユニットによって宿主の細胞に結合した後、Aサブユニットが細胞質内に輸送され、このAサブユニットが真核生物のリボソームに結合してタンパク質合成を不可逆的に阻害する。この作用によってタンパク質の合成が出来なくなった細胞は死に至り、さまざまな組織で組織傷害を生じる。
【0010】
豚浮腫病(Swine edema disease)は、腸管内で産生されたベロ毒素タイプ2e(VT2e)が体内に吸収され、毒素血症を引き起こすことにより発症する。4〜12週齢の豚に好発し、後肢麻痺、痙攣、遊泳運動など中枢神経障害を示し、浮腫は眼瞼周囲、耳翼皮下、前頭部皮下などに出現する。体温はほぼ正常で、一部の豚では、出血性下痢を呈し、通常発病後、72時間以内に死に至る。
【0011】
本発明の豚浮腫病のスクリーニング方法においては、豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を検出する。生体試料としては、豚全血、血清又は血漿を用いることができる。
【0012】
ベロ毒素タイプ2eに対する抗体は、ベロ毒素タイプ2e抗原を用いた免疫学的測定法により検出することができ、例えばELISA(Enzyme Linked ImmunoSorbent Assay)により行えばよい。
【0013】
ELISAにおいては、ベロ毒素タイプ2e抗原をマイクロプレートに物理吸着や化学結合により固相化する。固相化量は、特に限定されないが担体がマイクロプレートの場合、1ウエル当たり数ngから数十μgが望ましい。固相化は固相化すべきベロ毒素タイプ2e抗原を適切な緩衝液に溶解し、担体と接触させて行うことができる。例えば、マイクロタイターウエルを用いる場合、抗原溶液をマイクロタイタープレートのウエルに分注し一定時間置くことにより固相化することができる。抗原を固相化した後は、アッセイ中の非特異的結合を防ぐためにウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、卵白アルブミン等を含んだブロッキング溶液を用いてブロッキングを行うのが好ましい。次いで、固相化マイクロプレートと試料を反応させ、洗浄後、標識した抗豚IgG抗体又は標識したベロ毒素タイプ2e抗原を反応させる。標識はβ−D−ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼやグルコースオキシダーゼ等の酵素を用いて行うことができる。抗豚IgG抗体は、例えばマウス、ウサギ、ヤギ等を用いて作製することができる。この際、ベロ毒素タイプ2e抗原として、例えば、ベロ毒素タイプ2e抗原のBサブユニット又はその部分ペプチドを用いることができる。ベロ毒素タイプ2e抗原は、ベロ毒素タイプ2eを産生する腸管出血性大腸菌を培養して、培養物から単離精製することもできるし、ベロ毒素タイプ2e抗原のアミノ酸配列情報に基づいて化学合成してもよいし、ベロ毒素タイプ2e抗原をコードする遺伝子の塩基配列情報又は遺伝子工学の技術によりリコンビナントタンパク質として作製することもできる。配列番号1にベロ毒素タイプ2e抗原のBサブユニットの塩基配列を示す。抗原として用いる断片ペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列及び該断片ペプチドのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2及び3に示す。また、マイクロプレートの代わりに、樹脂ビーズ、磁性化ビーズ等の担体を用いてもよい。ベロ毒素タイプ2e抗原を担体に固定化する際には、抗原を可溶化する必要がある。抗原の可溶化は、例えば0.1〜5%SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)、1M〜10Mグアニジン塩酸、1M〜15M尿素を用いればよく、この中でもSDSが好ましい。
【0014】
ELISA等の免疫学的測定法により豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2eに対する抗体測定は迅速かつ簡便に多数個体について行われるので、一定地域に存在している豚集団中におけるベロ毒素タイプ2e(VT2e; verocytotoxin type 2e)を産生する腸管出血性大腸菌の感染について迅速にスクリーニングを行うことができ、豚浮腫病に感染している豚及び過去に豚浮腫病に感染した豚のスクリーニングを行うことができる。ELISAによれば、数時間で感染の有無を検出することができる。
【0015】
豚浮腫病のスクリーニングは、一定の地域に存在する豚、例えば飼育されている豚の集団中に、ベロ毒素タイプ2eを産生する腸管出血性大腸菌に感染している豚又は過去に感染歴を有する豚がいないかどうかを測定することをいう。「一定の地域」は限定されないが、例えば、1つの農場、1つの農業協同組合等の団体が管理する領域、一つの村、町、市、県、地方、国、大陸等をいう。また、一定地域で養殖されている豚が集められると畜場に集められた豚について検査を行ってもよい。一定地域が1つの農場の場合、豚集団の頭数は、通常数百等〜数千等である。豚に感染しているベロ毒素タイプ2eを産生する腸管出血性大腸菌を直接検出する場合、現に感染している豚を検出することしかできない。一方、ベロ毒素タイプ2eに対する抗体を検出した場合、集団中の豚の少なくとも1頭が現在又は過去にベロ毒素タイプ2eを産生する腸管出血性大腸菌に感染していることを示す。
【0016】
ある地域の豚の集団中に感染豚がいることは、感染が既に蔓延していること、または今後蔓延する可能性があることを示す。従って、該集団内の感染が他の地域に存在する豚の集団に感染することを防止するための処置、又は集団内の感染がさらに集団内に蔓延することを防止するための処置を迅速かつ的確にとることができる。
【0017】
スクリーニングには、一定地域内の豚の全個体について、ベロ毒素タイプ2eを産生する腸管出血性大腸菌の感染の有無を検出する全体的スクリーニングと一部個体について検出する選択的スクリーニングがある。選択的スクリーニングの場合、例えば一定の地域に存在する豚を一定の割合で無作為抽出し、検出を行えばよい。一定の割合は、例えば少なくとも1頭、好ましくは少なくとも5%の豚、さらに好ましくは10%の豚である。スクリーニングは、一定頻度で行えばよく、例えば1年に1回、2年に1回、又は5年に1回の頻度で行えばよい。
【0018】
検査した豚において、ベロ毒素タイプ2eを産生する腸管出血性大腸菌の感染が認められた場合、豚に感染症に対する処置を施す。処置方法としては、例えば数ヶ月から数年間にわたって、集団内の豚に抗生物質を投与することが挙げられる。
【実施例】
【0019】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0020】
実施例1 ベロ毒素2e抗原に対する抗体を測定するためのELISA
遺伝子組換えタンパク質の作出
ベロ毒素2e産生大腸菌は浮腫病野外発症豚から分離し、Stx2e(VT2e)をコードしているプラスミドはQuick Plasmid Miniprep Kit (invitrogen社)を用いて精製した。Stx2e B subunit遺伝子の一部分を、フォワードプライマーに、5’-AGAGCATATGGCGGATTGTGCTAAAGGTAAAATTG-3’(配列番号4)を、リバースプライマーに、5’-CGCTCGAGGTTAAACTTCACCTGGGCAAAG-3’(配列番号5)を用いてPCR法で増幅させた。PCRのプログラムは、94℃で5分間熱変性させ、94℃を30秒間、65℃を30秒間そして72℃を30秒間のサイクルを25回繰り返し、最後に72℃を7分間行った。Stx2eのBサブユニットをコードする遺伝子(配列番号1に示す配列の58番目のgから261番目のcまで)をPCRで増幅した。PCR法で増幅した遺伝子はC-末端にHis-tagを含むように設計されたpET-23b発現用ベクター(Novagen社)に組み換えた。組み換えた発現用ベクターは、(DE3) pLysS コンピテント細胞(Novagen社)に塩化カルシウム法で導入した。培養は200μg/mlカルベニシリンを含むLB培地を用いて37℃で行い、組換えタンパク質の発現はOD600が0.8〜1.0に到達した時点で1mM IPTG、30℃、3時間で誘導した。遺伝子組換えタンパク質用試料は以下のように調製した。組換えタンパク質の発現を誘導した大腸菌は4,500×gで15分間、4℃で遠心し回収した。回収した大腸菌に6Mグアニジン塩酸加平衡化溶液(50mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、10mMトリス-塩酸、pH8.0)を加え、超音波破砕機(TOMY ULTORASONIC DISRUPTOR UD-201)で破砕した。破砕後の溶液は4,500×gで15分間遠心し、上清を遺伝子組換えタンパク質精製用試料とした。発現したタンパク質をコードする遺伝子配列を配列番号2に示し、発現タンパク質のアミノ酸配列を配列番号3に示す。該タンパク質の分子量は8783.76であった。
【0021】
遺伝子組換えタンパク質の精製
遺伝子組換えタンパク質試料の精製は「TALON(登録商標)Metal Affinity Resins」(TALON社)の使用説明書の方法を一部変更しておこなった。以下に方法を示す。
1. TALON Resinを十分に再懸濁する。
2. 滅菌遠心管に、1mlの樹脂懸濁液を直ちに移す。
3. 700×gで2分間遠心して、樹脂を沈める。
4. 上清を除去して廃棄する。
5. 5mlの6Mグアニジン塩酸加平衡化溶液(50mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、10mM トリス-塩酸、pH8.0)を添加し、短時間混和して樹脂を予備的に平衡化する。
6. 再度700×gで2分間遠心し、樹脂を沈める。上清を廃棄する。
7. 手順5と6を繰り返す。
8. 遺伝子組換えタンパク質試料を樹脂に添加する。
9. プラットフォームシェーカーを使用し、室温にて30分間撹拌し、ポリヒスチジンタグ付タンパク質を樹脂に結合させる。
10. 700×gで5分間遠心する。
11. 樹脂ペレットを乱さないように、慎重に上清をできる限り除去する。
12. 5mlの6Mグアニジン塩酸加平衡化溶液を添加して、樹脂を洗浄する。プラットフォームシェーカーを使用し、室温にて10分間穏やかに撹拌して、十分洗浄する。
13. 700×gで5分間遠心する。
14. 上清を除去して廃棄する。
15. 手順12〜14を繰り返す。
16. 5mlの6Mグアニジン塩酸加平衡化溶液を樹脂に添加し、ボルテックスで再懸濁する。
17. エンドキャップを付けた10mlの重力流カラムに樹脂を移し、懸濁液から樹脂を沈める。
18. エンドキャップを外し、樹脂ベッドの上部に来るまでバッファーを流出させ、樹脂ベッドに気泡が出来ていないことを確認する。
19. 5mlの6Mグアニジン塩酸加平衡化溶液を使用して、カラムを1回洗浄する。
20. 6Mグアニジン塩酸加平衡化溶液に5mMイミダゾールを添加し、強い洗浄条件で手順19を繰り返す。
21. 6Mグアニジン塩酸加平衡化溶液に200mMイミダゾールを加えた溶液をカラムに500μl添加する。
22. 再度6Mグアニジン塩酸加平衡化溶液に200mMイミダゾールを加えた溶液をカラムに500μl添加しカラムより流出した溶液を精製遺伝子組換えタンパク質とする。
【0022】
ELISA用抗原の調製
精製した試料は、MWCO:3,500のセルロース透析膜(Membrane Filtration Products Cellu-Step T1)を用い、4℃、一晩、リン酸緩衝液(pH7.4)で透析した。4,500×g、15分間、4℃で遠心し、沈殿物に1%SDSリン酸緩衝液(pH7.4)を加えて可溶化した。可溶化したタンパク質は0.05M炭酸緩衝液(pH9.6)で5μg/mlに調製し抗原とした。
【0023】
抗原固相化ELISAプレートの作製
調製した抗原は、96穴マイクロプレート(Nunc Polysorp)の各穴に100μlずつ添加し、4℃で一晩静置した。溶液除去後、ブロッキング溶液(0.5%スキムミルク加リン酸緩衝液、pH7.4)を各穴に200μlずつ添加し、室温で2時間静置した。溶液除去後、洗浄液(0.05%Tween20加リン酸緩衝液、pH7.4)でマイクロプレート穴を3回洗浄したものを、固相化マイクロプレートとした。
【0024】
ELISA法による抗体の測定
被検血清は希釈溶液(0.05%Tween20、0.5%スキムミルク加リン酸緩衝液、pH7.4)で1:100に希釈し、固相化マイクロプレートの各穴に100μlずつ添加した。室温で1時間静置後、溶液を除去し、洗浄液でマイクロプレート穴を3回洗浄した。洗浄液を除去した後、2次血清(DaKo:HRP標識抗豚IgGウサギ抗体)を希釈溶液で1:7,000に希釈し、各穴に100μlずつ添加した。室温で1時間静置後、溶液を除去し、洗浄液でマイクロプレート穴を3回洗浄した。洗浄液を除去した後、発色基質(DaKo:TMB+Substrate-Chromogen)を100μlずつ各穴に添加し、室温で15分間反応させた。反応は2N硫酸を各穴に100μlずつ添加し停止させた。吸光度は、450nmの波長でマイクロプレートリーダー(Molecular Devices SPECTRAmax)で測定し、得られた吸光度値をELISA値とした。
【0025】
中和抗体検査法(比較例)
中和抗体検査は、Mohamedら(J Infect Dis 1985;151:775-182; The Lancet, 1983; March 19:619-620)の方法を一部変更して実施した。細胞の固相はベロ細胞浮遊液を96穴マイクロプレートに100μlずつ添加し、37℃、5%CO2で一晩静置して行った。抗原抗体反応は2倍階段希釈した25μlの被検血清に、調製したStx2eを25μlずつ添加して、37℃、1時間静置した。全量を細胞固相済みプレートに添加し37℃、5%CO2、3日から5日間静置観察し、CD50を示した最終抗体希釈濃度を中和抗体価とした。中和抗体陽性血清は中和抗体価4倍以上を有したものとした(J. Clin. Microbiol. 1994;32:1457-1463. 173)。
【0026】
検査に使用したStx2eは以下のように調製した。浮腫病野外発症豚より分離したStx2e産生大腸菌を5%めん羊脱線維血添加トリプトソイ寒天培地(パールコアトリプトソイ寒天培地‘栄研)で37℃、一晩培養した。増殖した大腸菌は12,500単位のポリミキシンB硫酸塩添加リン酸緩衝液(pH7.4)で集菌し、37℃、30分間静置した。その後、10,000×g、15分間遠心し、上清を0.22μmのメンブレンフィルターでろ過したものをStx2eとした(J Infect Dis 1985;151:775-182)。
【0027】
被検血清
被検血清は地域のと畜場の、肉豚由来血清569検体を用いた。
【0028】
ELISAカットオフ値の設定
浮腫病未発症農場由来血清34検体のELISA値の平均に、標準偏差の2倍を加えた値をカットオフ値とし、カットオフ値以上のELISA値を示した被検血清をELISA抗体陽性血清とした。
【0029】
ELISA値と中和抗体価の相関
ELISA法および中和抗体法による抗体検査結果の比較は、118検体を用いた。両者の値に統計学的に有意な正の相関(相関係数0.59、p<0.01)が認められた。
【0030】
ELISA法の特異度および敏感度
ELISA法および中和法で浮腫病未発症農場由来血清40検体および発症農場由来血清40検体の抗体検査を実施。その結果、ELISA法は中和法と同等の特異度を有し、かつ、敏感度が高く、優れた方法であった(表1及び表2)。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
実施例2 豚浮腫病のスクリーニング
農場診断
未発症農場A由来血清40検体、発症農場B由来血清20検体、発症農場C由来血清20検体について、ELISA法を実施した結果、それぞれの抗体陽性率は2.5%(1/40)、85%(17/20)、95%(19/20)であった。未発症農場と発症農場の陽性率の差のχ検定を行った結果、未発症農場と発症農場の抗体陽性率には、いずれも統計学的に有意な差が認められた。このことよりELISA法による抗体検査で農場診断が可能と考えられた。
【0034】
野外試験
地域約99農場の内、約85%に当たる83農場415検体(5検体/1農場)についてELISA法による抗体検査を実施した。抗体陽性豚は検査した全農場の79.5%に当たる66農場で認められた(図1)。また、主要な23農場において、各農場の死亡事故率と抗体陽性率に統計学的に有意な正の相関が認められた(相関係数0.61、p<0.01)。以上のことから浮腫病は死亡事故発生に関与していると推察された。
【0035】
本方法は既存の方法(中和抗体法)と比較し、判定までに要する時間が短く、判定に熟練を必要とせず、作業が簡便で多検体処理に適している。さらに抗原に無毒タンパク質を使用しているため安全性が高く、敏感度も高かった(表3)。また、得られた農場の抗体陽性率は浮腫病の発生状況を反映していた。これらの条件から、本方法はスクリーニング検査法に適していると考えられた。
【0036】
【表3】

【0037】
一方、本方法で野外試験を実施した地域では、浮腫病が高率に浸潤していると共に、大きな経済的損失を与えていることが、はじめて判明した。本疾病は全国で散発していることから、全国的に同様な傾向があると推察される。本方法は、本病の実態解明に重要かつ不可欠な方法になると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は豚の養殖において、飼育豚が浮腫病に罹患しているか否かを検出し、かつある地域の豚における浮腫病に罹患している豚をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】検査した農場中の抗体陽性の豚の割合を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0040】
配列番号4及び5 プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定するELISAを用いて豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を検出することにより、豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングする方法。
【請求項2】
一定地域内に存在する豚集団から一定数の豚を抽出し、ベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定するELISAを用いて該豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を検出することにより、豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングする方法。
【請求項3】
ベロ毒素タイプ2eのBサブユニットに対する抗体を測定する請求項1又は2に記載の豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による感染をスクリーニングする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングする方法により、豚の浮腫病をスクリーニングする方法。
【請求項5】
ベロ毒素タイプ2eのBサブユニット又はその断片を含む豚から採取した生体試料中のベロ毒素タイプ2e(VT2e)に対する抗体を測定し、豚のベロ毒素タイプ2e(VT2e)産生大腸菌による豚の感染をスクリーニングするためのELISAキット。

【図1】
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【公開番号】特開2008−292242(P2008−292242A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136783(P2007−136783)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】