説明

豚肉加工品

【目的】 本発明は、肉本来の食感や味を充分に備えた状態で摂食でき、かつ摂食時に血中コレステロール値の上昇を抑制し得る豚肉加工品とする。
【構成】 豚肉を原材料としてペプシン、トリプシン、またはパパインを0.1〜2.0%添加し、50℃で15分間加水分解反応させた後に、90℃で失活させて可食性のペプチドを含有する豚肉とする。これら豚肉加工品を餌料とした実験用ラットの血中コレステロール値は有意に上昇抑制され、その効果は大豆蛋白質と同程度であり、また、ペプチドは豚肉由来であるため、肉本来の味や食感を損なわないことが判明した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は食用豚肉およびハム、ソーセージ等の原料肉として用いる豚肉加工品に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、食用豚肉またはハム、ソーセージ等の原料となる豚肉は、脂肪やコレステロールを比較的多く含有する。したがって、このような豚肉またはこれを加工した食品を過剰に食すれば、血中のコレステロールが上昇し、ひいては高脂血症、動脈硬化症、高血圧症などの疾病を誘発することともなる。
【0003】一方、豚肉または豚肉加工食品の過剰な摂食に伴う上記弊害を防止するため、豚肉または豚肉加工食品に大豆ペプチドまたは食物繊維等の植物性副材料を添加して、コレステロールを体外へ排出し易くし、または、ハム、ソーセージ等の原料として配合する豚肉脂肪量をできるだけ少量とする工夫もなされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、豚肉に食物繊維や大豆蛋白を配合すると、このものが純粋な豚肉またはその加工品とはいえなくなって商品価値が低下する。また、脂肪含有量を少量にすると、肉本来の柔軟な歯応えや肉の味が劣化するという問題点がある。
【0005】この発明は、低コレステロール化に対応する低脂肪化または植物性副材料の添加処理を行なった豚肉の食感や肉の味が劣化するという問題点を解決し、肉本来の食感や味を充分に備えて摂食でき、かつ血中コレステロール値の上昇を抑制し得る豚肉加工品とすることを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため。この発明においては、豚肉に豚肉由来のペプチドを添加したのである。
【0007】また、上記ペプチドがパパイン、トリプシンおよびペプシンから選ばれる一種以上のプロテアーゼを豚肉に配合して得られたペプチドであってよく、上記プロテアーゼの豚肉に対する配合割合は、0.1重量%以上であってよい。
【0008】
【作用】この発明の豚肉加工品は、豚肉を所定の蛋白質分解酵素で加水分解して得られる比較的苦みの少ない可食性のペプチドを含有しており、肉本来の味や食感に全く影響がない。また、後述の実験結果から明らかなように、このような豚肉加工品を食した場合には、コレステロールの血中濃度の上昇が抑制される。
【0009】
【実施例】この発明で用いるパパイン、トリプシンまたはペプシンは、それぞれ天然にはパパイヤ果実の乳液、脊椎動物の膵液、同胃液中に存在するプロテアーゼであって、その化学構造やPHその他の特異性については、比較的よく明らかにされており、それぞれ市販の精製された試薬を用いることができる。
【0010】上記したパパイン、トリプシン、ペプシンの配合量は、豚肉の単位重量当たり0.1重量%(以下、単に%と記す)以上で有意な血中コレステロール上昇抑制効果が確認されている。この効果は前記配合量の増加に対応して顕著となるが、加工食品の利用形態すなわち食習慣による摂食の多少に合わせて適宜に配合割合を変化させ得る。
【0011】なお、豚肉加工食品の呈味を阻害しない限りにおいて、パパイン、トリプシンまたはペプシンと共に、大豆等の植物性蛋白質、食物繊維等を添加してもよく、副材料として用いるラード等の脂肪に代えて植物性油脂を配合することもできる。
【0012】〔実験例1〜3〕豚背最長筋を原材料としてペプシン、トリプシンまたはパパインをそれぞれ0.1%添加し、50℃で15分間反応させた後に90℃で失活させてペプチドを含有する3種類の豚肉を得た。
【0013】得られた各豚肉を餌として、4週令の雄Wistar−Slc/STラット20匹のうち3群(1群5匹)に与え、各ラット群の摂餌量(g/day)、3週経過後の血中コレステロール値(総コレステロールおよび遊離コレステロール;mg/dl)を測定し、この結果を表1に示した。
【0014】〔比較例1〕プロテアーゼを添加しなかった豚背最長筋を餌料として、実験例1〜3で用いた残り一群(5匹)のラットに与え、3週経過後の血中コレステロール値を測定し、結果を表1中に併記した。
【0015】
【表1】


【0016】表1のコレステロール値からも明らかなように、実験例1〜3の可食性ペプチドを含有する豚肉を食餌とした各ラット群の総コレステロールおよび遊離コレステロールの値は、比較例1の未処理豚肉を食餌とするラット群のそれらに比べて低く、ペプチドを含有する豚肉加工食品の血中コレステロール上昇抑制効果が優れることが認められた。このうち、パパインを蛋白質分解酵素とした実験例3の効果が特に顕著であった。
【0017】〔実験例4および5〕ペプシン、トリプシンに代えてパパインを0.1%または2.0%添加する以外は、実験例1〜3と全く同様にして可食性ペプチドを含有する2種類の豚肉を得た。
【0018】得られた各豚肉を餌として、実験例1〜3と全く同様にしてラットを用いた実験を行ない、この結果を表2に示した。
【0019】〔比較例2および3〕プロテアーゼを添加しなかった豚背最長筋またはプロテアーゼによる豚肉の完全水解を想定したアミノ酸混合物を餌料とし、実験例4および5と全く同様にして残り2群(各5匹)のラットに3週間与え、この結果を表2中に併記した。
【0020】
【表2】


【0021】表2の測定値からも明らかなように、アミノ酸混合物を餌料とした比較例3のコレステロール値に比べて、パパインによる可食性ペプチドを含有した豚肉を餌料とする実験例4または5のコレステロール値が特に低く、またパパインの添加料が増すほど顕著にコレステロール値が低下した。
【0022】〔実験例6〕パパインを0.1%添加して実験例1〜3と全く同様にしてペプチドを含有する豚肉加工食品を調製し、これを40重量%と、大豆蛋白質60重量%とを配合して餌料とした。この餌料を実験例1〜3と全く同様に、ラットに与えて血中コレステロール値の測定試験を行ない、結果を表3に示した。
【0023】〔比較例4および5〕大豆蛋白質を餌料とする比較例4、未処理豚肉40重量%と大豆蛋白質60重量%とを配合したものを餌料とする比較例5について、実験例1〜3と全く同様にしてラットによる実験を行ない、この結果を表3に併記した。
【0024】
【表3】


【0025】表3の測定値からも明らかなように、実験例6のコレステロール値は、コレステロールを上昇させない食品として知られる大豆蛋白質(比較例4)と同程度に抑制されており、豚肉由来のペプチドの血中のコレステロール上昇抑制力が大豆蛋白質と同程度であることが判明した。
【0026】
【効果】この発明は、以上説明したように、豚肉由来の可食性のペプチドを豚肉に含有させたものであって、肉本来の柔らかさや味を充分に保ちながら、これを食する者の血中コレステロールの上昇を抑制することができる。
【0027】したがって、このような豚肉加工品を食肉とするかまたはハム、ソーセージ等の原材料として用い、コレステロールの害が少ない健康食品とすることができ、この発明の産業上の利用価値はきわめて高いものであるということができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 豚肉に豚肉由来のペプチドを添加してなる豚肉加工品。
【請求項2】 上記ペプチドがパパイン、トリプシンおよびペプシンから選ばれる一種以上のプロテアーゼを豚肉に添加し加水分解反応にて得られたペプチドである請求項1記載の豚肉加工品。
【請求項3】 プロテアーゼの豚肉に対する配合割合が0.1重量%以上である請求項2記載の豚肉加工品。

【公開番号】特開平5−30944
【公開日】平成5年(1993)2月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−195310
【出願日】平成3年(1991)8月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成3年4月10日 日本栄養・食糧学会発行の「第45回日本栄養・食糧学会総会講演要旨集」に発表
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)