貯水池の止水工法
【課題】網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤であっても、遮水層を形成し貯水池からの漏水を効果的に抑制する。
【解決手段】貯水池1周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池1側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔2,2…を形成し、貯水池1の水位が低水位WL1状態時に、貯水池の高水位WL2より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔2,2…からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、領域Iの地山内では相互に重ならない遮水層を形成し、領域IIの地山内では相互に重なる遮水層を形成する第1工程と、貯水池1の水位が高水位WL2状態である条件下で、第1グラウト注入孔2,2…間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔3,3…を形成し、少なくとも領域Iの地山内に第2グラウト注入孔3,3…からグラウト材を注入し、遮水層を形成する第2工程とからなる。
【解決手段】貯水池1周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池1側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔2,2…を形成し、貯水池1の水位が低水位WL1状態時に、貯水池の高水位WL2より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔2,2…からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、領域Iの地山内では相互に重ならない遮水層を形成し、領域IIの地山内では相互に重なる遮水層を形成する第1工程と、貯水池1の水位が高水位WL2状態である条件下で、第1グラウト注入孔2,2…間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔3,3…を形成し、少なくとも領域Iの地山内に第2グラウト注入孔3,3…からグラウト材を注入し、遮水層を形成する第2工程とからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム湖や調整池等の貯水池の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためのグラウチング工法に係り、詳しくは網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤に対して好適な、グラウチングによる貯水池の止水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダム湖や調整池等の貯水池から水が地盤中に漏出するのを抑制するために、地山の開口割目にグラウト材を注入するグラウチング工法が知られている。このグラウチング工法は、地盤に複数のボーリング孔を配置し、このボーリング孔から地山にセメント系グラウト材、ケミカル系グラウト材などのグラウト材を注入して遮水層を形成するものである。
【0003】
このグラウチング工法においても現在までに幾多の改良が試みられている。例えば、グラウト材の浸透性(到達距離の増大)を高めるための動的注入工法、大きな開口割目の閉塞性能を向上させるためのグラウト材の改良などを挙げることができる。
【0004】
前者の動的注入工法の例として、下記特許文献1では、セメント、ベントナイト系のグラウト材を注入ポンプにより所定の注入圧力で圧送し、末端の注入管を介して亀裂性岩盤に穿設された注入孔に該グラウト材を注入するグラウチングにおいて、前記注入圧力に5Hz〜30Hzの周波数域から選択された特定の周波数を持つ脈動圧力を重畳的に付加し、前記グラウト材の構成粒子を励起させる岩盤グラウトの施工方法が提案されている。また、下記特許文献2では、注入対象領域にグラウト材を、その注入圧力を周期的に変動させながら注入するに際し、周波数が0.05〜1Hzの周期である長波の注入圧力変動に、周波数が1〜10Hzの周期である短波の注入圧力変動を重畳した注入圧力の変動をもって前記グラウト材を注入するグラウト注入工法が提案されている。
【0005】
後者の閉塞性能を向上させるための方法としては、従来は綿繊維(例えば、商品名「ウラゴメール」)、ベントナイト(膨潤性粘土)、凝結促進剤(例えば商品名「サンコ−ハード」)を混入する方法が多く採用されてきたが、これらの方法では大きな開口割目の閉塞は不十分であるとして、下記特許文献3では、岩盤の亀裂部分に注入するために用いる岩盤のグラウト材であって、セメント、水、および水膨潤性繊維を含む混合液からなり、前記水膨潤性繊維は、その吸水量が自重の数倍以上であって、吸水により流動平滑性を帯びる繊維を予め十分に吸水膨潤させた岩盤のグラウト材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3096244号公報
【特許文献2】特開2007−247389号公報
【特許文献3】特開平8−113938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2のような動的注入工法であっても、大きな開口割目が網状に存在し深部まで伸びているような岩盤では、十分な浸透性を確保することができないとともに、グラウトポンプ自体も特殊な装置を使用することになるなどの問題があった。
【0008】
また、上記特許文献3などに提案される特殊なグラウト材を使用する工法の場合でも、大きな開口割目が網状に存在し深部まで伸びているような岩盤では、深部方向への透水性の収束性は認められないことが多く、この場合は高価なグラウト材を大量に使用することになり、工費が膨大となるなどの問題があった。
【0009】
また、網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤をグラウチング対象とした場合、貯水池からの浸透水は、最も流れやすい流路(一次流路という)が選択されて地下に流出する傾向を示す。従って、前述したグラウチング工法によって割目の閉塞を行った場合、一次流路が閉塞されたとしても、網状に水みちがあるため、この一次流路が閉塞されたことによって別の流路(二次流路)が水みちとなって浸透水が流れ、更にこれも閉塞されたとしても別の水みち(三次流路)を流れるというように、多元的に流路が形成されるため、これに対応したグラウチング工法であることが望まれる。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、グラウト材の浸透性と閉塞性能とを効率よく兼ね備えることで、網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤であっても、遮水層を形成し貯水池からの漏水を効果的に抑制し得ることが可能なグラウチング工法による貯水池の止水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、貯水池の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためのグラウチングによる貯水池の止水工法であって、
前記貯水池周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔を形成し、前記貯水池の水位が低水位状態時に、貯水池の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、前記貯水池の水位よりも以浅の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層を形成し、前記貯水池の水位よりも以深の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層を形成する第1工程と、
貯水池の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔からグラウト材を注入し、遮水層を形成する第2工程とからなることを特徴とする貯水池の止水工法が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明は、2段階的にグラウチングを行い、貯水池から浸透流出する水を無くす遮水層を形成するものである。先ず、第1工程では、貯水池周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔を形成し、前記貯水池の水位が低水位状態時に、貯水池の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、前記貯水池の水位よりも以浅の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層を形成し、前記貯水池の水位よりも以深の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層を形成する。なお、本明細書において、「低水位」とは、止水処理したい範囲の最上位よりも低い水位をいうものとする。また、「高水位」とは、止水処理したい範囲の最上位よりも高いか同じ水位をいうものとする。
【0013】
そして、その後の第2工程では、貯水池の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔からグラウト材を注入し、遮水層を形成する。
【0014】
本願発明者等は、従来一般のグラウト材の注入圧力に依存したグラウチングでは、浸透範囲の拡大に限界があり、広範な開口割目にグラウト材を侵入させることはできないとの考え方の下、セメント粒子を貯水池から浸透流出する水の浸透流速に乗せてやればグラウト材の浸透性が向上され、広範な範囲に亘ってグラウト材を注入できるようになるとの着想に至った。圧力に依存したグラウチングの場合、セメント粒子が限界沈降速度(セメント粒子の有効径を10%粒径とすればD10=5μmであり、Vc=1cm/sec程度)になると沈降し、凝結して割目を塞ぐことになる。試験によれば、仮に開口幅が3mmの割目の場合、注入圧力10kgf/cm2でセメントミルクの到達距離は10m程度である。
【0015】
これに対して、浸透水の流速が限界沈降速度以上であれば、セメント粒子の沈降は抑制され、浸透流速により遠方まで輸送され沈降することになり、広範囲にグラウト材を注入できるようになる。浸透流速の程度にもよるが、概ね1cm/sec程度の浸透流速があれば、同条件で到達距離は15〜20m程度に拡大することが可能である。
【0016】
また、本発明では、貯水池から地山に流出する浸透水の流速を活用するべく、グラウト注入孔は、貯水池周囲の地山から貯水池側に傾斜する方向に形成される。すなわち、貯水池から漏出する浸透水がある程度(限界沈降速度以上)の流速をもって流れる地下流域に対してグラウト注入孔を形成し、グラウト注入対象領域が前記貯水池の水位より以深である条件の下で、この領域に前記グラウト注入孔からセメント系グラウト材を地山に注入して浸透水の流速を活用したグラウチングを行う。
【0017】
本願発明では、注入圧力に浸透水の流速を活用したグラウチングを指向するものであるが、注入圧力に依存したグラウチングを巧みに利用することによって、効率的なグラウチング施工を実現したものである。
【0018】
前記第1工程では、第1グラウト注入孔を形成し、前記貯水池の水位が低水位状態時に、貯水池の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行う。この場合、貯水池の水位よりも以浅の地山内(領域I)では注入圧力に依存したグラウチングが行われ、グラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層が形成される。また、前記貯水池の水位よりも以深の地山内(領域II)では、注入圧力に浸透水の流速を活用したグラウチングによってグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層が形成されることになる。
【0019】
前記領域Iでは等間隔毎若しくは断続的に遮水層未形成領域が存在することになるが、形成された遮水層の分だけ貯水池からの水の流出が抑えられることになり、水位を極力維持することが可能となる。従って、浸透流出の多い貯水池であっても、次の第2工程における「貯水池の水位が高水位状態である条件」を容易かつ短期間に満足することが可能となる。
【0020】
前記第2工程では、貯水池の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔からグラウト材を注入し、浸透水の流速を活用したグラウチングを行い、遮水層を形成する。
【0021】
以上より、たとえ網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤であっても、後述するメカニズムにより、浸透水の流速を活用したグラウチングでは地山の深部側から順に流路の閉塞を行うため、効果的に割目を塞いで地山中に遮水層を形成し、貯水池から水の流出を防ぐことが可能となる。
【0022】
請求項2に係る本発明として、前記第1グラウト注入孔は、貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成し、その先端部が同じく対岸の貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成されたグラウト注入孔と縦断面的に交差するように形成されている請求項1記載の貯水池の止水工法が提供される。
【0023】
上記請求項2記載の発明は、前記第1グラウト注入孔として、貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成し、その先端部が同じく対岸の貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成されたグラウト注入孔と縦断面的に交差するように形成することにより、貯水池を囲むように断面略V字形に遮水層を形成するものである。貯水池の漏水箇所が全体に亘っている場合は、このような態様で遮水層を形成するのが効果的である。
【発明の効果】
【0024】
以上詳説のとおり本発明によれば、グラウト材の浸透性と閉塞性能とを効率よく兼ね備えることで、網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤であっても、遮水層を形成し貯水池からの漏水を効果的に抑制し得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】貯水池1に対する第1グラウト注入孔2及び第2グラウト注入孔3の配置図である。
【図2】そのII−II線矢視図である。
【図3】第1グラウト注入孔2及び第2グラウト注入孔3の配置図である。
【図4】最大注入圧力の設定例を示す貯水池1の断面図である。
【図5】グラウト材の配合割合の切替要領を示す流れ図である。
【図6】本発明グラウチングによる第1工程の注入要領を示す縦断面図である。
【図7】本発明グラウチングによる第2工程の注入要領を示す縦断面図である。
【図8】注入圧のみに依存した注入メカニズムを説明するための概念図である。
【図9】注入圧力Pとセメント到達距離Rの関係を示すグラフである。
【図10】セメントの粒度分布を示すグラフである。
【図11】本発明の浸透流速を活用した注入メカニズムを説明するための概念図である。
【図12】浸透流速を活用した本発明グラウチングの閉塞過程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0027】
本発明に係るグラウチングによる止水工法は、図1及び図2に示されるように、ダム湖、調整池等の貯水池1の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためのものであり、貯水池1周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池1側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔2,2…を形成し、前記貯水池1の水位が低水位状態時に、貯水池1の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔2,2…からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、前記貯水池の水位よりも以浅の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層を形成し、前記貯水池1の水位よりも以深の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層を形成する第1工程と、
貯水池1の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔2,2…間の中央位置に貯水池1側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔3,3…を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池1の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔3,3…からグラウト材を注入し、遮水層を形成する第2工程とからなるものである。
【0028】
本発明では、特には、網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤を対象として、効果的なグラウチングを可能とするべく、注入に際して、後段の〔グラウチングのメカニズム〕の欄で詳述するように、グラウト材の注入圧力に加えて、浸透水の流速を活用して水みちに対する効果的な注入を指向したものである。浸透水の流速が限界沈降速度以上であれば、セメント粒子の沈降は抑制され、浸透流速により遠方まで輸送され沈降することになり、広範囲にグラウト材を注入できるようになる。また、前記網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤では、前述したように多元的に流路が形成されるため、グラウト材の浸透性を上げて、閉塞の度に形成される流路を順に閉塞させていくようにすることで割目の閉塞を効果的に行えるようになる。
【0029】
本グラウチングでは、前記グラウト注入孔2、3は貯水池1周囲の地山から貯水池1側に傾斜する方向に形成される。すなわち、浸透水の流速は貯水池1の池底面に近い方が、或いは直下の方が相対的に高い流速値を示すため、グラウト注入孔2は前記浸透水の流速を活用するために、地山から貯水池1側に傾斜する方向に向けて形成される。
【0030】
前記第1工程におけるグラウチングは、前記貯水池1の水位が低水位WL1状態時に、貯水池1の高水位WL2より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔2,3…からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行う。ここで、貯水池1の水位より以浅の地山内では注入圧力に依存したグラウチングが行われ、貯水池1の水位よりも以深の地山内では注入圧力に加え浸透水の流速を活用したグラウチングが行われる。
【0031】
前記第1グラウト注入孔2は、ボーリングマシンを用いて孔径約40〜80mm程度で形成されるものであり、ノンコアボーリング又はコアボーリングのいずれでもよい。該注入孔2の口元位置は、貯水池2の高水位WL2の標高よりも高い位置に設定するのが望ましい。図2に示されるように、前記注入孔2は、貯水池1の高水位WL2以上の地点から貯水池1側に傾斜する方向に形成され、その先端部が対岸方向から形成されたグラウト注入孔2の先端部と重なるように形成されるようにすることが好ましい。これにより、貯水池1の下側には両岸から縦断面でV字状に遮水層が形成されるようになる。本形態例では、貯水池1の全体に漏水箇所が点在しているものとし、平面視で貯水池1の下側地山全体に断面V字状の遮水層を形成するようにしたが、漏水箇所が一部区域に特定されているならば、その部分だけに遮水層を形成すればよい。
【0032】
浸透水の流速を活用したグラウチングの場合は、後述するメカニズムより、第1グラウト注入孔2を中心として水平方向に15〜20m程度の範囲までのグラウト材注入が可能と考えられるので、隣接する第1グラウト注入孔2,2によるグラウト材注入範囲に重なり代ができるような間隔で前記第1グラウト注入孔2、2…を形成する。具体的には、図3に示されるように、第1グラウト注入孔2,2…の間隔は、25m程度の間隔で形成している。
【0033】
前記グラウト材としては、工費及び本グラウチングのメカニズムの点から、セメントミルクやモルタルなどのセメント系グラウト材を用いることとする。濃度は、注入箇所のルジオン値に応じてセメント:水の配合割合を任意に調整できるようにするのが望ましい。
【0034】
以上の第1工程におけるグラウチングの結果、図6に示されるように、前記貯水池1の低水位WL1よりも以浅の地山内(領域I)では浸透水の流速は活用できないため、注入圧力に依存したグラウチングとなりグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層が形成されるようになる。また、前記貯水池1の低水位WL1よりも以深の地山内(領域II)では、注入圧力に浸透水の流速を活用したグラウチングが行われることになり、グラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層が形成されるようになる。
【0035】
前記領域Iでは等間隔毎若しくは断続的に遮水層未形成領域が存在することになるが、形成された遮水層の分だけ貯水池からの水の流出が抑えられることになり、貯水池1の水位を極力維持することが可能となる。従って、浸透流出の多い貯水池であっても、次の第2工程における「貯水池の水位が高水位状態である条件」を容易かつ短期間に満足することが可能となる。
【0036】
次に、第2工程では、図7に示されるように、貯水池1の水位が高水位状態WL2である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔2,2…間の中央位置に貯水池1側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔3,3…を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池1の低水位WL1よりも以浅の地山内(領域I)に第2グラウト注入孔3,3…からグラウト材を注入し、浸透水の流速を活用したグラウチングを行い、遮水層を形成する。なお、貯水池1の水位を高水位状態WL2とするには、雨量の多い梅雨等の時期にグラウチングを行うか、例えば揚水発電所の調整池において揚水や発電等により、人為的に水位を上昇させるようにする。高水位WL2状態とした条件下でグラウチングを行うことにより、注入圧力に加え浸透水の流速を活用したグラウチングが行われ、該領域Iにおいても、グラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層が形成されるようになる。
【0037】
以上の手順により、図7に示されるように、全深さ範囲に亘ってグラウト材が充填された改良範囲が形成されるようになる。隣接するグラウト注入孔2…(3…)は、グラウト材の水平方向の到達範囲、即ち各注入孔による改良範囲が相互に重なるように設けられている。これら領域I、IIにおけるグラウチングは、浸透水の流速を活用したグラウチングであり、後述するように、地山の深部側から順に流路の閉塞を行うため、貯水池1の周囲に形成された開口割目に隙間無くグラウト材が充填され、水みちが閉塞されることにより、貯水池1の水の浸透流出が抑制できるようになる。
【0038】
〔グラウチングの施工要領〕
はじめに、必要に応じて地山のボーリング調査を行い、開口割目の分布状態、透水試験、地下水挙動等、地山の水理・地質的特徴を把握しておく。このとき形成された調査孔は、グラウト注入孔2、2…の内の一部として利用することができる。
【0039】
グラウチングでは、注入管に1個のパッカーを設けてグラウト材を圧入するシングルパッカー方式又は注入区間の上下部にパッカーを設けるダブルパッカー方式のいずれをも用いることができる。また、グラウチング工法としては、深度をいくつかのステージに分けて、孔口から孔底に向かって、ボーリングとグラウト注入を繰返して行うステージグラウチングが好ましく、注入ステージは原則1ステージ5mとする。但し、透水試験の結果、注入前ルジオン値が1Lu以下のステージは、次ステージとあわせて注入してもよい(1ステージ10m)。
【0040】
本発明に係る第1工程のグラウチングでは、前述の通り、第1グラウト注入孔2、2…から貯水池の高水位より以深部分を対象領域としてグラウト材を注入する。前記グラウト材の注入圧力は、最小地山被り厚さd(グラウト注入孔2と貯水池1の水底との最小距離)に応じて3kgf/cm2〜30kgf/cm2とするのが好ましい。例えば、図4及び表1に示されるように、最小地山被り厚さdの増加に対して段階的に増加させることができる。なお、注入時に貯水池1内を常時監視し、貯水池1側にグラウト材が漏れ出たときは、そのときの圧力を注入圧力とする。
【表1】
【0041】
グラウト材の注入に際しては、図5に示されるように、グラウト注入孔2の穿孔及び水押し後、注入するセメントミルクの配合割合(セメント(C):水(W))の切り替えを行う。この初期配合は、地山の注入前ルジオン値に応じてC:W=1:6〜1:2とし、この初期配合のセメントミルクを所定量(図示例では400リットル)注入したら、段階的に配合割合を高濃度セメントミルクに切り替えていく。そして、所定の配合割合(図示例ではC:W=1:1)となったらこの配合割合で無制限に注入する。その後、総セメント量、注入流量Q及び長時間注入によるパッカー事故や地山リークの懸念などに応じて、注入を完了するか、更に高濃度セメントミルクへの切り替え(図示例ではC:W=1:0.8)を行う。これでも注入流量Qが収束せず、パッカー事故や地山リークが懸念される場合には、注入を中断し、水洗い後、再度初期段階から注入を繰り返す。なお、注入圧力Pが上昇傾向にあり、P>0.8Pmaxの場合は配合切り替えを行わないことが好ましい。また、注入圧力が規定圧に達し流量が減少傾向にある場合は配合切り替えを行わないことが好ましい。
【0042】
〔グラウチングのメカニズム〕
本発明の前記第1工程に係るグラウチングは、(1)注入圧力に依存したグラウチングと、(2)注入圧力に加え浸透水の流速を活用したグラウチングの組合せとされ、前記第2工程におけるグラウチングは、(2)注入圧力に加え浸透水の流速を活用したグラウチングとされる。貯水池1の水位を境界として、これよりも以浅部分の領域にグラウト材を注入した場合は、(1)注入圧力に依存したグラウチングが実行され、貯水池1の水位より以深部分の領域にグラウト材を注入した場合は、(2)注入圧力に加えて浸透水の流速を活用したグラウチングが実行され、浸透水の流速によってグラウト材が水平方向に遠方まで到達できるようになる。
【0043】
以下、これらのグラウチングメカニズムについて、(1)注入圧力のみに依存したグラウチングと、(2)注入圧力に浸透流速が加わったグラウチングとに分けて詳述する。
【0044】
(1)注入圧力のみに依存したグラウチング
この場合の開口割目に対するグラウト材充填メカニズムは、図8の概念図に示されるように、開口割目(水平な平行平板を仮定、開口幅a)内をセメントミルク(粘性係数μ)が注入孔(注入圧力P、注入流量Q、半径r)から同心円状に拡がるものと考えれば、先端部までの距離Rと先端部流速Vの関係は次式(1)のように表される。
【0045】
Q=2πRaV ・・・・・ (1)
つまり、Rが大きくなるとVが小さくなり、セメント粒子の限界沈降流速Vc以下になった箇所から沈降が始まり、注入孔に向けてセメントの沈降が進展して開口割目を閉塞する。
【0046】
この場合、層流を仮定すれば、注入圧力と注入流量の関係は次式(2)となる。
【0047】
P=[6μQ/(πa3)]・log(R/r) ・・・・・ (2)
しかしながら、セメントミルクは水のようなニュートン性流体ではなく、非ニュートン性の流動特性を有することから、上の2式より直接、注入圧力に応じたセメントミルクの到達距離Rを算定することはできない。そこで、実験的なせん断速度と粘度との関係から、壁面が平滑な水平平行平板について層流・乱流を考慮して、開口割目の開口幅a、注入圧力P、セメントミルク到達距離Rの関係が従来より知られている(図9)。なお、開口幅a=3mmは補間により求めたものである。
【0048】
これによれば、開口幅a=3mmの開口割目の場合、注入圧力10kgf/cm2でセメントミルク到達距離は水平方向に10m程度となる。
【0049】
なお、使用するセメントの種類によっては、セメント粒子の有効径である10%粒径D10が大きいものもあり(図10参照)、限界沈降速度Vcが速くなることも予想される。このため、セメントミルクの到達距離は、水平方向に10mよりも短くなる場合も十分に考えられる。
【0050】
(2)注入圧力に浸透流速が加わったグラウチング
注入圧力のみに依存したグラウチングの場合、上述の通りセメントミルク先端部の流速がセメント粒子の限界沈降速度(有効径を10%粒径とすればVc=1cm/sec程度)となった距離でセメント粒子は沈降を開始し、注入孔に向けて閉塞が進行する。
【0051】
しかし、図11に示されるように、上述の注入圧力に加えて浸透水の流速vが加わった場合、セメントミルクの先端部で浸透水の流速vが限界沈降速度Vc以上であれば、セメント粒子の沈降は抑制され、浸透流速vにより更に遠方に輸送され、開口割目のネットワーク交叉部等の浸透流速低下部(限界沈降速度以下)で沈降し、上流側への閉塞が進展する。セメントミルクの到達距離は、注入圧力10kgf/cm2でセメントミルク到達距離は水平方向に15〜20m程度となる。
【0052】
この浸透流速が加わった場合の割目の閉塞過程を図12に基づいて説明する。 先ず、注入初期においてセメント粒子は浸透水により最も流れやすい流路A〜Bにより開口割目を移動する。この際、セメント粒子の移動可能領域はセメント粒子の限界沈降速度Vc以上の範囲である。仮に、分岐点AからDに至る流路があっても、この流路には浸透水があまり流れず流速vはセメント粒子の限界沈降速度Vc未満である。流路A〜Bの領域において、セメント粒子の沈降〜目詰まり〜凝結し、この割目を閉塞させる。流路A〜Bが閉塞すると、注入過程の欄に示されるように、閉塞箇所の上流側ポテンシャルが上昇し、上流側で交差する開口割目A〜Dの浸透流速が上昇する。上昇した流速が限界沈降速度Vc以上であれば、セメント粒子は流路A〜Dの方向に新たに移動する。この流路でもセメント粒子の限界沈降速度Vc未満となる位置でセメント粒子の沈降が始まり、目詰まりを起こし、凝結し、この流路A〜Dを閉塞させる。このような閉塞を順次繰り返し、ほとんどの割目で限界沈降速度Vc未満となれば、注入終了段階の欄に示されるように、注入圧力に依存した注入のみが行われ注入が収束する。
【符号の説明】
【0053】
1…貯水池、2…第1グラウト注入孔、3…第2グラウト注入孔、WL1…低水位、WL2…高水位
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム湖や調整池等の貯水池の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためのグラウチング工法に係り、詳しくは網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤に対して好適な、グラウチングによる貯水池の止水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダム湖や調整池等の貯水池から水が地盤中に漏出するのを抑制するために、地山の開口割目にグラウト材を注入するグラウチング工法が知られている。このグラウチング工法は、地盤に複数のボーリング孔を配置し、このボーリング孔から地山にセメント系グラウト材、ケミカル系グラウト材などのグラウト材を注入して遮水層を形成するものである。
【0003】
このグラウチング工法においても現在までに幾多の改良が試みられている。例えば、グラウト材の浸透性(到達距離の増大)を高めるための動的注入工法、大きな開口割目の閉塞性能を向上させるためのグラウト材の改良などを挙げることができる。
【0004】
前者の動的注入工法の例として、下記特許文献1では、セメント、ベントナイト系のグラウト材を注入ポンプにより所定の注入圧力で圧送し、末端の注入管を介して亀裂性岩盤に穿設された注入孔に該グラウト材を注入するグラウチングにおいて、前記注入圧力に5Hz〜30Hzの周波数域から選択された特定の周波数を持つ脈動圧力を重畳的に付加し、前記グラウト材の構成粒子を励起させる岩盤グラウトの施工方法が提案されている。また、下記特許文献2では、注入対象領域にグラウト材を、その注入圧力を周期的に変動させながら注入するに際し、周波数が0.05〜1Hzの周期である長波の注入圧力変動に、周波数が1〜10Hzの周期である短波の注入圧力変動を重畳した注入圧力の変動をもって前記グラウト材を注入するグラウト注入工法が提案されている。
【0005】
後者の閉塞性能を向上させるための方法としては、従来は綿繊維(例えば、商品名「ウラゴメール」)、ベントナイト(膨潤性粘土)、凝結促進剤(例えば商品名「サンコ−ハード」)を混入する方法が多く採用されてきたが、これらの方法では大きな開口割目の閉塞は不十分であるとして、下記特許文献3では、岩盤の亀裂部分に注入するために用いる岩盤のグラウト材であって、セメント、水、および水膨潤性繊維を含む混合液からなり、前記水膨潤性繊維は、その吸水量が自重の数倍以上であって、吸水により流動平滑性を帯びる繊維を予め十分に吸水膨潤させた岩盤のグラウト材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3096244号公報
【特許文献2】特開2007−247389号公報
【特許文献3】特開平8−113938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2のような動的注入工法であっても、大きな開口割目が網状に存在し深部まで伸びているような岩盤では、十分な浸透性を確保することができないとともに、グラウトポンプ自体も特殊な装置を使用することになるなどの問題があった。
【0008】
また、上記特許文献3などに提案される特殊なグラウト材を使用する工法の場合でも、大きな開口割目が網状に存在し深部まで伸びているような岩盤では、深部方向への透水性の収束性は認められないことが多く、この場合は高価なグラウト材を大量に使用することになり、工費が膨大となるなどの問題があった。
【0009】
また、網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤をグラウチング対象とした場合、貯水池からの浸透水は、最も流れやすい流路(一次流路という)が選択されて地下に流出する傾向を示す。従って、前述したグラウチング工法によって割目の閉塞を行った場合、一次流路が閉塞されたとしても、網状に水みちがあるため、この一次流路が閉塞されたことによって別の流路(二次流路)が水みちとなって浸透水が流れ、更にこれも閉塞されたとしても別の水みち(三次流路)を流れるというように、多元的に流路が形成されるため、これに対応したグラウチング工法であることが望まれる。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、グラウト材の浸透性と閉塞性能とを効率よく兼ね備えることで、網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤であっても、遮水層を形成し貯水池からの漏水を効果的に抑制し得ることが可能なグラウチング工法による貯水池の止水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、貯水池の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためのグラウチングによる貯水池の止水工法であって、
前記貯水池周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔を形成し、前記貯水池の水位が低水位状態時に、貯水池の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、前記貯水池の水位よりも以浅の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層を形成し、前記貯水池の水位よりも以深の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層を形成する第1工程と、
貯水池の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔からグラウト材を注入し、遮水層を形成する第2工程とからなることを特徴とする貯水池の止水工法が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明は、2段階的にグラウチングを行い、貯水池から浸透流出する水を無くす遮水層を形成するものである。先ず、第1工程では、貯水池周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔を形成し、前記貯水池の水位が低水位状態時に、貯水池の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、前記貯水池の水位よりも以浅の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層を形成し、前記貯水池の水位よりも以深の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層を形成する。なお、本明細書において、「低水位」とは、止水処理したい範囲の最上位よりも低い水位をいうものとする。また、「高水位」とは、止水処理したい範囲の最上位よりも高いか同じ水位をいうものとする。
【0013】
そして、その後の第2工程では、貯水池の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔からグラウト材を注入し、遮水層を形成する。
【0014】
本願発明者等は、従来一般のグラウト材の注入圧力に依存したグラウチングでは、浸透範囲の拡大に限界があり、広範な開口割目にグラウト材を侵入させることはできないとの考え方の下、セメント粒子を貯水池から浸透流出する水の浸透流速に乗せてやればグラウト材の浸透性が向上され、広範な範囲に亘ってグラウト材を注入できるようになるとの着想に至った。圧力に依存したグラウチングの場合、セメント粒子が限界沈降速度(セメント粒子の有効径を10%粒径とすればD10=5μmであり、Vc=1cm/sec程度)になると沈降し、凝結して割目を塞ぐことになる。試験によれば、仮に開口幅が3mmの割目の場合、注入圧力10kgf/cm2でセメントミルクの到達距離は10m程度である。
【0015】
これに対して、浸透水の流速が限界沈降速度以上であれば、セメント粒子の沈降は抑制され、浸透流速により遠方まで輸送され沈降することになり、広範囲にグラウト材を注入できるようになる。浸透流速の程度にもよるが、概ね1cm/sec程度の浸透流速があれば、同条件で到達距離は15〜20m程度に拡大することが可能である。
【0016】
また、本発明では、貯水池から地山に流出する浸透水の流速を活用するべく、グラウト注入孔は、貯水池周囲の地山から貯水池側に傾斜する方向に形成される。すなわち、貯水池から漏出する浸透水がある程度(限界沈降速度以上)の流速をもって流れる地下流域に対してグラウト注入孔を形成し、グラウト注入対象領域が前記貯水池の水位より以深である条件の下で、この領域に前記グラウト注入孔からセメント系グラウト材を地山に注入して浸透水の流速を活用したグラウチングを行う。
【0017】
本願発明では、注入圧力に浸透水の流速を活用したグラウチングを指向するものであるが、注入圧力に依存したグラウチングを巧みに利用することによって、効率的なグラウチング施工を実現したものである。
【0018】
前記第1工程では、第1グラウト注入孔を形成し、前記貯水池の水位が低水位状態時に、貯水池の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行う。この場合、貯水池の水位よりも以浅の地山内(領域I)では注入圧力に依存したグラウチングが行われ、グラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層が形成される。また、前記貯水池の水位よりも以深の地山内(領域II)では、注入圧力に浸透水の流速を活用したグラウチングによってグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層が形成されることになる。
【0019】
前記領域Iでは等間隔毎若しくは断続的に遮水層未形成領域が存在することになるが、形成された遮水層の分だけ貯水池からの水の流出が抑えられることになり、水位を極力維持することが可能となる。従って、浸透流出の多い貯水池であっても、次の第2工程における「貯水池の水位が高水位状態である条件」を容易かつ短期間に満足することが可能となる。
【0020】
前記第2工程では、貯水池の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔からグラウト材を注入し、浸透水の流速を活用したグラウチングを行い、遮水層を形成する。
【0021】
以上より、たとえ網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤であっても、後述するメカニズムにより、浸透水の流速を活用したグラウチングでは地山の深部側から順に流路の閉塞を行うため、効果的に割目を塞いで地山中に遮水層を形成し、貯水池から水の流出を防ぐことが可能となる。
【0022】
請求項2に係る本発明として、前記第1グラウト注入孔は、貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成し、その先端部が同じく対岸の貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成されたグラウト注入孔と縦断面的に交差するように形成されている請求項1記載の貯水池の止水工法が提供される。
【0023】
上記請求項2記載の発明は、前記第1グラウト注入孔として、貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成し、その先端部が同じく対岸の貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成されたグラウト注入孔と縦断面的に交差するように形成することにより、貯水池を囲むように断面略V字形に遮水層を形成するものである。貯水池の漏水箇所が全体に亘っている場合は、このような態様で遮水層を形成するのが効果的である。
【発明の効果】
【0024】
以上詳説のとおり本発明によれば、グラウト材の浸透性と閉塞性能とを効率よく兼ね備えることで、網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤であっても、遮水層を形成し貯水池からの漏水を効果的に抑制し得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】貯水池1に対する第1グラウト注入孔2及び第2グラウト注入孔3の配置図である。
【図2】そのII−II線矢視図である。
【図3】第1グラウト注入孔2及び第2グラウト注入孔3の配置図である。
【図4】最大注入圧力の設定例を示す貯水池1の断面図である。
【図5】グラウト材の配合割合の切替要領を示す流れ図である。
【図6】本発明グラウチングによる第1工程の注入要領を示す縦断面図である。
【図7】本発明グラウチングによる第2工程の注入要領を示す縦断面図である。
【図8】注入圧のみに依存した注入メカニズムを説明するための概念図である。
【図9】注入圧力Pとセメント到達距離Rの関係を示すグラフである。
【図10】セメントの粒度分布を示すグラフである。
【図11】本発明の浸透流速を活用した注入メカニズムを説明するための概念図である。
【図12】浸透流速を活用した本発明グラウチングの閉塞過程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0027】
本発明に係るグラウチングによる止水工法は、図1及び図2に示されるように、ダム湖、調整池等の貯水池1の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためのものであり、貯水池1周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池1側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔2,2…を形成し、前記貯水池1の水位が低水位状態時に、貯水池1の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔2,2…からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、前記貯水池の水位よりも以浅の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層を形成し、前記貯水池1の水位よりも以深の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層を形成する第1工程と、
貯水池1の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔2,2…間の中央位置に貯水池1側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔3,3…を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池1の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔3,3…からグラウト材を注入し、遮水層を形成する第2工程とからなるものである。
【0028】
本発明では、特には、網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤を対象として、効果的なグラウチングを可能とするべく、注入に際して、後段の〔グラウチングのメカニズム〕の欄で詳述するように、グラウト材の注入圧力に加えて、浸透水の流速を活用して水みちに対する効果的な注入を指向したものである。浸透水の流速が限界沈降速度以上であれば、セメント粒子の沈降は抑制され、浸透流速により遠方まで輸送され沈降することになり、広範囲にグラウト材を注入できるようになる。また、前記網状に繋がった開口割目が深部まで存在する岩盤では、前述したように多元的に流路が形成されるため、グラウト材の浸透性を上げて、閉塞の度に形成される流路を順に閉塞させていくようにすることで割目の閉塞を効果的に行えるようになる。
【0029】
本グラウチングでは、前記グラウト注入孔2、3は貯水池1周囲の地山から貯水池1側に傾斜する方向に形成される。すなわち、浸透水の流速は貯水池1の池底面に近い方が、或いは直下の方が相対的に高い流速値を示すため、グラウト注入孔2は前記浸透水の流速を活用するために、地山から貯水池1側に傾斜する方向に向けて形成される。
【0030】
前記第1工程におけるグラウチングは、前記貯水池1の水位が低水位WL1状態時に、貯水池1の高水位WL2より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔2,3…からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行う。ここで、貯水池1の水位より以浅の地山内では注入圧力に依存したグラウチングが行われ、貯水池1の水位よりも以深の地山内では注入圧力に加え浸透水の流速を活用したグラウチングが行われる。
【0031】
前記第1グラウト注入孔2は、ボーリングマシンを用いて孔径約40〜80mm程度で形成されるものであり、ノンコアボーリング又はコアボーリングのいずれでもよい。該注入孔2の口元位置は、貯水池2の高水位WL2の標高よりも高い位置に設定するのが望ましい。図2に示されるように、前記注入孔2は、貯水池1の高水位WL2以上の地点から貯水池1側に傾斜する方向に形成され、その先端部が対岸方向から形成されたグラウト注入孔2の先端部と重なるように形成されるようにすることが好ましい。これにより、貯水池1の下側には両岸から縦断面でV字状に遮水層が形成されるようになる。本形態例では、貯水池1の全体に漏水箇所が点在しているものとし、平面視で貯水池1の下側地山全体に断面V字状の遮水層を形成するようにしたが、漏水箇所が一部区域に特定されているならば、その部分だけに遮水層を形成すればよい。
【0032】
浸透水の流速を活用したグラウチングの場合は、後述するメカニズムより、第1グラウト注入孔2を中心として水平方向に15〜20m程度の範囲までのグラウト材注入が可能と考えられるので、隣接する第1グラウト注入孔2,2によるグラウト材注入範囲に重なり代ができるような間隔で前記第1グラウト注入孔2、2…を形成する。具体的には、図3に示されるように、第1グラウト注入孔2,2…の間隔は、25m程度の間隔で形成している。
【0033】
前記グラウト材としては、工費及び本グラウチングのメカニズムの点から、セメントミルクやモルタルなどのセメント系グラウト材を用いることとする。濃度は、注入箇所のルジオン値に応じてセメント:水の配合割合を任意に調整できるようにするのが望ましい。
【0034】
以上の第1工程におけるグラウチングの結果、図6に示されるように、前記貯水池1の低水位WL1よりも以浅の地山内(領域I)では浸透水の流速は活用できないため、注入圧力に依存したグラウチングとなりグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層が形成されるようになる。また、前記貯水池1の低水位WL1よりも以深の地山内(領域II)では、注入圧力に浸透水の流速を活用したグラウチングが行われることになり、グラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層が形成されるようになる。
【0035】
前記領域Iでは等間隔毎若しくは断続的に遮水層未形成領域が存在することになるが、形成された遮水層の分だけ貯水池からの水の流出が抑えられることになり、貯水池1の水位を極力維持することが可能となる。従って、浸透流出の多い貯水池であっても、次の第2工程における「貯水池の水位が高水位状態である条件」を容易かつ短期間に満足することが可能となる。
【0036】
次に、第2工程では、図7に示されるように、貯水池1の水位が高水位状態WL2である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔2,2…間の中央位置に貯水池1側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔3,3…を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池1の低水位WL1よりも以浅の地山内(領域I)に第2グラウト注入孔3,3…からグラウト材を注入し、浸透水の流速を活用したグラウチングを行い、遮水層を形成する。なお、貯水池1の水位を高水位状態WL2とするには、雨量の多い梅雨等の時期にグラウチングを行うか、例えば揚水発電所の調整池において揚水や発電等により、人為的に水位を上昇させるようにする。高水位WL2状態とした条件下でグラウチングを行うことにより、注入圧力に加え浸透水の流速を活用したグラウチングが行われ、該領域Iにおいても、グラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層が形成されるようになる。
【0037】
以上の手順により、図7に示されるように、全深さ範囲に亘ってグラウト材が充填された改良範囲が形成されるようになる。隣接するグラウト注入孔2…(3…)は、グラウト材の水平方向の到達範囲、即ち各注入孔による改良範囲が相互に重なるように設けられている。これら領域I、IIにおけるグラウチングは、浸透水の流速を活用したグラウチングであり、後述するように、地山の深部側から順に流路の閉塞を行うため、貯水池1の周囲に形成された開口割目に隙間無くグラウト材が充填され、水みちが閉塞されることにより、貯水池1の水の浸透流出が抑制できるようになる。
【0038】
〔グラウチングの施工要領〕
はじめに、必要に応じて地山のボーリング調査を行い、開口割目の分布状態、透水試験、地下水挙動等、地山の水理・地質的特徴を把握しておく。このとき形成された調査孔は、グラウト注入孔2、2…の内の一部として利用することができる。
【0039】
グラウチングでは、注入管に1個のパッカーを設けてグラウト材を圧入するシングルパッカー方式又は注入区間の上下部にパッカーを設けるダブルパッカー方式のいずれをも用いることができる。また、グラウチング工法としては、深度をいくつかのステージに分けて、孔口から孔底に向かって、ボーリングとグラウト注入を繰返して行うステージグラウチングが好ましく、注入ステージは原則1ステージ5mとする。但し、透水試験の結果、注入前ルジオン値が1Lu以下のステージは、次ステージとあわせて注入してもよい(1ステージ10m)。
【0040】
本発明に係る第1工程のグラウチングでは、前述の通り、第1グラウト注入孔2、2…から貯水池の高水位より以深部分を対象領域としてグラウト材を注入する。前記グラウト材の注入圧力は、最小地山被り厚さd(グラウト注入孔2と貯水池1の水底との最小距離)に応じて3kgf/cm2〜30kgf/cm2とするのが好ましい。例えば、図4及び表1に示されるように、最小地山被り厚さdの増加に対して段階的に増加させることができる。なお、注入時に貯水池1内を常時監視し、貯水池1側にグラウト材が漏れ出たときは、そのときの圧力を注入圧力とする。
【表1】
【0041】
グラウト材の注入に際しては、図5に示されるように、グラウト注入孔2の穿孔及び水押し後、注入するセメントミルクの配合割合(セメント(C):水(W))の切り替えを行う。この初期配合は、地山の注入前ルジオン値に応じてC:W=1:6〜1:2とし、この初期配合のセメントミルクを所定量(図示例では400リットル)注入したら、段階的に配合割合を高濃度セメントミルクに切り替えていく。そして、所定の配合割合(図示例ではC:W=1:1)となったらこの配合割合で無制限に注入する。その後、総セメント量、注入流量Q及び長時間注入によるパッカー事故や地山リークの懸念などに応じて、注入を完了するか、更に高濃度セメントミルクへの切り替え(図示例ではC:W=1:0.8)を行う。これでも注入流量Qが収束せず、パッカー事故や地山リークが懸念される場合には、注入を中断し、水洗い後、再度初期段階から注入を繰り返す。なお、注入圧力Pが上昇傾向にあり、P>0.8Pmaxの場合は配合切り替えを行わないことが好ましい。また、注入圧力が規定圧に達し流量が減少傾向にある場合は配合切り替えを行わないことが好ましい。
【0042】
〔グラウチングのメカニズム〕
本発明の前記第1工程に係るグラウチングは、(1)注入圧力に依存したグラウチングと、(2)注入圧力に加え浸透水の流速を活用したグラウチングの組合せとされ、前記第2工程におけるグラウチングは、(2)注入圧力に加え浸透水の流速を活用したグラウチングとされる。貯水池1の水位を境界として、これよりも以浅部分の領域にグラウト材を注入した場合は、(1)注入圧力に依存したグラウチングが実行され、貯水池1の水位より以深部分の領域にグラウト材を注入した場合は、(2)注入圧力に加えて浸透水の流速を活用したグラウチングが実行され、浸透水の流速によってグラウト材が水平方向に遠方まで到達できるようになる。
【0043】
以下、これらのグラウチングメカニズムについて、(1)注入圧力のみに依存したグラウチングと、(2)注入圧力に浸透流速が加わったグラウチングとに分けて詳述する。
【0044】
(1)注入圧力のみに依存したグラウチング
この場合の開口割目に対するグラウト材充填メカニズムは、図8の概念図に示されるように、開口割目(水平な平行平板を仮定、開口幅a)内をセメントミルク(粘性係数μ)が注入孔(注入圧力P、注入流量Q、半径r)から同心円状に拡がるものと考えれば、先端部までの距離Rと先端部流速Vの関係は次式(1)のように表される。
【0045】
Q=2πRaV ・・・・・ (1)
つまり、Rが大きくなるとVが小さくなり、セメント粒子の限界沈降流速Vc以下になった箇所から沈降が始まり、注入孔に向けてセメントの沈降が進展して開口割目を閉塞する。
【0046】
この場合、層流を仮定すれば、注入圧力と注入流量の関係は次式(2)となる。
【0047】
P=[6μQ/(πa3)]・log(R/r) ・・・・・ (2)
しかしながら、セメントミルクは水のようなニュートン性流体ではなく、非ニュートン性の流動特性を有することから、上の2式より直接、注入圧力に応じたセメントミルクの到達距離Rを算定することはできない。そこで、実験的なせん断速度と粘度との関係から、壁面が平滑な水平平行平板について層流・乱流を考慮して、開口割目の開口幅a、注入圧力P、セメントミルク到達距離Rの関係が従来より知られている(図9)。なお、開口幅a=3mmは補間により求めたものである。
【0048】
これによれば、開口幅a=3mmの開口割目の場合、注入圧力10kgf/cm2でセメントミルク到達距離は水平方向に10m程度となる。
【0049】
なお、使用するセメントの種類によっては、セメント粒子の有効径である10%粒径D10が大きいものもあり(図10参照)、限界沈降速度Vcが速くなることも予想される。このため、セメントミルクの到達距離は、水平方向に10mよりも短くなる場合も十分に考えられる。
【0050】
(2)注入圧力に浸透流速が加わったグラウチング
注入圧力のみに依存したグラウチングの場合、上述の通りセメントミルク先端部の流速がセメント粒子の限界沈降速度(有効径を10%粒径とすればVc=1cm/sec程度)となった距離でセメント粒子は沈降を開始し、注入孔に向けて閉塞が進行する。
【0051】
しかし、図11に示されるように、上述の注入圧力に加えて浸透水の流速vが加わった場合、セメントミルクの先端部で浸透水の流速vが限界沈降速度Vc以上であれば、セメント粒子の沈降は抑制され、浸透流速vにより更に遠方に輸送され、開口割目のネットワーク交叉部等の浸透流速低下部(限界沈降速度以下)で沈降し、上流側への閉塞が進展する。セメントミルクの到達距離は、注入圧力10kgf/cm2でセメントミルク到達距離は水平方向に15〜20m程度となる。
【0052】
この浸透流速が加わった場合の割目の閉塞過程を図12に基づいて説明する。 先ず、注入初期においてセメント粒子は浸透水により最も流れやすい流路A〜Bにより開口割目を移動する。この際、セメント粒子の移動可能領域はセメント粒子の限界沈降速度Vc以上の範囲である。仮に、分岐点AからDに至る流路があっても、この流路には浸透水があまり流れず流速vはセメント粒子の限界沈降速度Vc未満である。流路A〜Bの領域において、セメント粒子の沈降〜目詰まり〜凝結し、この割目を閉塞させる。流路A〜Bが閉塞すると、注入過程の欄に示されるように、閉塞箇所の上流側ポテンシャルが上昇し、上流側で交差する開口割目A〜Dの浸透流速が上昇する。上昇した流速が限界沈降速度Vc以上であれば、セメント粒子は流路A〜Dの方向に新たに移動する。この流路でもセメント粒子の限界沈降速度Vc未満となる位置でセメント粒子の沈降が始まり、目詰まりを起こし、凝結し、この流路A〜Dを閉塞させる。このような閉塞を順次繰り返し、ほとんどの割目で限界沈降速度Vc未満となれば、注入終了段階の欄に示されるように、注入圧力に依存した注入のみが行われ注入が収束する。
【符号の説明】
【0053】
1…貯水池、2…第1グラウト注入孔、3…第2グラウト注入孔、WL1…低水位、WL2…高水位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水池の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためのグラウチングによる貯水池の止水工法であって、
前記貯水池周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔を形成し、前記貯水池の水位が低水位状態時に、貯水池の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、前記貯水池の水位よりも以浅の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層を形成し、前記貯水池の水位よりも以深の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層を形成する第1工程と、
貯水池の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔からグラウト材を注入し、遮水層を形成する第2工程とからなることを特徴とする貯水池の止水工法。
【請求項2】
前記第1グラウト注入孔は、貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成し、その先端部が同じく対岸の貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成されたグラウト注入孔と縦断面的に交差するように形成されている請求項1記載の貯水池の止水工法。
【請求項1】
貯水池の水が地山の開口割目を通じて浸透流出するのを抑制するためのグラウチングによる貯水池の止水工法であって、
前記貯水池周囲の地山から略汀線方向に沿って所定の間隔で、貯水池側に傾斜する方向に複数の第1グラウト注入孔を形成し、前記貯水池の水位が低水位状態時に、貯水池の高水位より以深部分の地山領域に前記第1グラウト注入孔からグラウト材を注入し、全深さ範囲に亘ってグラウチングを行い、前記貯水池の水位よりも以浅の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重ならない遮水層を形成し、前記貯水池の水位よりも以深の地山内ではグラウト材の水平方向の到達範囲が相互に重なる遮水層を形成する第1工程と、
貯水池の水位が高水位状態である条件の下で、前記第1工程における第1グラウト注入孔間の中央位置に貯水池側に傾斜する方向に第2グラウト注入孔を形成し、少なくとも前記第1工程時の貯水池の水位よりも以浅の地山内に第2グラウト注入孔からグラウト材を注入し、遮水層を形成する第2工程とからなることを特徴とする貯水池の止水工法。
【請求項2】
前記第1グラウト注入孔は、貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成し、その先端部が同じく対岸の貯水池の高水位以上の標高位置から貯水池側に傾斜する方向に形成されたグラウト注入孔と縦断面的に交差するように形成されている請求項1記載の貯水池の止水工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−256534(P2011−256534A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129543(P2010−129543)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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