説明

貯湯タンク及びそれを備えた給湯機

【課題】断熱保温性及び耐久性を向上させた貯湯タンクを提供すること。
【解決手段】筒型形状の胴部1と、前記胴部1の両端を閉塞するように形成した鏡板2とからなるステンレス製タンクを備え、前記ステンレス製タンクの胴部にステンレスワイヤを溶かし込んで凸状のビ−ド4を形成したことを特徴とする貯湯タンクで、補強部が位置ずれすることなく、タンク内部に隙間を発生することなく、また胴部の板厚を減少させることなく、過負圧による変形を防止する貯湯タンクを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給湯機の貯湯タンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒータやヒートポンプ機構で温水をつくり貯湯する貯湯式電気給湯機には、鉄にガラスを溶着させたホーロー製やステンレス製で、筒型形状の胴部とこの胴部の両端を閉塞するように鏡板を取り付けて一体化した貯湯タンクが用いられてきた。
【0003】
図3および図4は、上記従来の貯湯タンクの概略構成図および概略断面図であり、図5は他の従来の貯湯タンクの概略断面図である。
【0004】
これらの貯湯タンクは円筒形状であり、胴中央部が過負圧で変形しやすいため、タンク胴部7および9に補強リング8および10を設けていた(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
または、タンク胴部11に補強リブ12を設けることで過負圧に対する強度を向上した(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
【0006】
また、これら貯湯タンクにおいては、タンクの周囲にグラスウ−ルや発泡スチロ−ルや真空断熱材を配設して、断熱保温性を高める提案がなされてきた(例えば、特許文献5参照)。図6は補強リングを外側に配設したタンクにおける断熱材の構成概略図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3436011号公報
【特許文献2】実開昭62−76863号公報
【特許文献3】特開平2−64359号公報
【特許文献4】特許第2562060号公報
【特許文献5】特開2007−212062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような前記従来の胴部7外周に補強リング8を構成した貯湯タンクでは、胴部7と補強リング8が別部品で構成されているため、補強リング8が熱膨張や振動で緩んだ場合には、補強が必要な位置からずれてしまうという欠点があった。また胴部7周囲に断熱材13を適切に配設するために、断熱材内側に補強リング8を収納する空間14を設けると、断熱材の厚みが部分的に減少し、断熱保温性が低下するという課題があった。
【0009】
また、胴部9内部に補強リング10を溶接した構成においては、胴部9と補強リング10の間で隙間腐食が発生し、耐用年数が短くなるという課題があった。
【0010】
また、胴部11に補強リブ12を構成した場合は、補強リブ12の板厚が加工により減少し、補強リブ12部に疲労破壊が発生しやすくなることや、補強リブ12の機械加工時に割れが発生しやすいという課題があった。
【0011】
また、胴部11に補強リブ12を設けるための設備や金型は、胴部11を内外から押さえる必要があるため、大型化するという課題があった。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、断熱保温性及び耐久性を向上させた貯湯タンクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために本発明の貯湯タンクは、筒型形状の胴部と、前記胴部の両端を閉塞するように形成した鏡板とからなるステンレス製タンクを備え、前記ステンレス製タンクの胴部にステンレスワイヤを溶かし込んで凸状のビ−ドを形成したことを特徴とする貯湯タンクである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、断熱保温性及び耐久性を向上させた貯湯タンクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態における貯湯タンク概略構成図
【図2】本発明の第2の実施の形態における貯湯タンク概略構成図
【図3】従来のタンク外側に補強リングを構成した図
【図4】従来のタンク内側に補強リングを構成した図
【図5】従来のタンクに補強リブを構成した図
【図6】従来の補強リングを外側に配設したタンクと断熱材の概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、筒型形状の胴部と、前記胴部の両端を閉塞するように形成した鏡板とからなるステンレス製タンクを備え、前記ステンレス製タンクの胴部にステンレスワイヤを溶かし込んで凸状のビ−ドを形成したことを特徴とする貯湯タンクで、補強部が位置ずれすることなく、タンク内部に隙間を発生することなく、また胴部の板厚を減少させることなく、過負圧による変形を防止する貯湯タンクを提供するものである。
【0017】
第2の発明は、前記凸状のビ−ド部は、前記筒型形状の胴部の周面上に、らせん状に形成されたことを特徴とするもので、補強部が位置ずれすることなく、タンク内部に隙間を発生することなく、また胴部の板厚を減少させることなく、過負圧による変形を防止する貯湯タンクを提供するものである。
【0018】
また、凸状のビードを筒型形状の胴部周上にらせん状に構成することで、筒型形状の胴部の円周方向の変形防止に加えて、円筒長さ方向の変形も防止することができる。また、胴部周上にらせん状に構成した凸状のビ−ド部は、1本で構成されているため、複数のビードを構成する場合に比べて、1回の加工作業で構成することができる。
【0019】
第3の発明は、前記筒型形状の胴部はフェライト系ステンレスから形成され、前記ステンレスワイヤにはフェライト系ステンレスを用いたことを特徴とするもので、胴部に用いられているステンレスと同種の溶接用ワイヤを用いることで、鋭敏化等の組織不良が発生しにくい安定した凸状のビードを構成することができる。
【0020】
第4の発明は、前記筒型形状の胴部はフェライト系ステンレスから形成され、前記ステンレスワイヤにはオーステナイト系ステンレスを用いたことを特徴とするもので、(社)溶接学会:溶接・接合便覧に記載のシェフラ−の組織図にもあるように、フェライト系材料にオーステナイト系材料を溶かし込むことで、マルテンサイト化した組織が現れ、硬度が増すことが知られている。
【0021】
SUS444等のフェライト系ステンレスで構成された胴部に、SUS316L等のオ
ーステナイト系材料を溶かし込んで凸状のビードを構成することで、SUS444等のフェライト系材料を溶かし込んで凸状のビードを構成した第3の発明よりも、強度が高く、過負圧によって変形しにくい貯湯タンクを提供することができる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における貯湯タンク概略構成図である。図1において、筒型形状の胴部1とこの胴部の両端を閉塞するように鏡板2を溶接して、円筒形状のステンレス製貯湯タンクを構成してある。鏡板2には給湯口3aおよび給水口3bが溶接してある。
【0024】
貯湯タンクの筒型形状の胴部にはステンレスのTIG自動溶接用ワイヤをTIG溶接機を用いて溶かし込み、凸状のビード4を胴部1中央付近に1本ないしは複数本形成してある。ビード4の形成にはプレス機等の機械加工でなく、溶接機で形成できるため、胴部1を内側と外側からプレスするような設備や金型を必要としない。
【0025】
胴部1と鏡板2はフェライト系ステンレスであるSUS444を使用する場合もあり、SUS445J1やSUS445J2を使用する場合もある。これらのステンレスは高クロムで低炭素の鋼種であり、一般に耐水腐食性と溶接性に優れた鋼種として知られている。
【0026】
ステンレスの溶接用ワイヤは通常、胴部1と同種の材料を用い、胴部1がSUS444の場合はSUS444の溶接用ワイヤを使用し、胴部1がSUS445J1やSUS445J2の場合は、溶接用ワイヤもSUS445J1やSUS445J2を使用する。
【0027】
貯湯タンクの大きさや板厚によっては、特に強度を必要とする場合があり、その場合はSUS444やSUS445J1やSUS445J2の胴部1にオーステナイト系ステンレスのSUS316Lの溶接用ワイヤ使用している。
【0028】
凸状のビード4は胴部1の板厚両側に凸となる断面形状をしており、ビード4の厚みは板厚の約3倍程度である。本発明の実施の形態1における貯湯タンクの胴部1の板厚は1mm程度であり、ビード4の胴部外側の凸形状の高さも1mm程度である。
【0029】
従って、貯湯タンク周囲に配設する断熱材にビード4を収納する空間を設ける必要はなく、断熱材が部分的に薄くならない。貯湯タンクは給湯口3aからタンク内のお湯を給湯し、給水口3bから減圧弁(図示せず)で一定の圧力に保たれた水が給水される構造となっている。貯湯タンク内には一定の圧力がかかるが、鏡板2と胴部1は溶接ですきまなく接合しているため、内部の水またはお湯が漏れることはない。
【0030】
給湯口3aからの給湯量が給水口3bからの給水量よりも多い場合、貯湯タンク内は負圧になり変形しようとするが、変形しやすい胴部1には凸状のビード4が胴部1の強度体となり、補強リブや補強リングによる強度補強を必要とせず、変形を防止することができる。
【0031】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における貯湯タンク概略構成図を示す。図2において、貯湯タンクの筒型形状の胴部5にらせん状に凸状のビード6を形成してある。凸状のビード6は、ステンレスの溶接用ワイヤを、TIG溶接機を用いて溶かし込むことで形成して
ある。
【0032】
本発明の実施の形態1における貯湯タンクの胴部1にビード4を形成する場合は、ビード4の本数と同じ回数だけTIG溶接機を作動させることが必要であるが、らせん状に形成された凸状のビード6は、連続した1本のビードであるため、1回の加工作業で済むという長所がある。また、ビード6は胴部5にらせん状に形成しているため、円周方向の変形に加え、胴部の円筒長さ方向の変形も防止することができる。
【0033】
また、実施の形態1と同様に、胴部5には、SUS444、SUS445J1、SUS445J2を用い、ステンレスの溶接用ワイヤにはSUS444、SUS445J1、SUS445J2を使用する場合とSUS316Lを使用する場合がある。
【0034】
なお、前記胴部の材料と溶接用ワイヤのステンレス材料の組み合わせは、胴部にオーステナイト系ステンレス、溶接用ワイヤにフェライト系ステンレスまたはオーステナイト系ステンレスを使用しても良い。また、前記鋼種に限らず、良好な耐水腐食性と溶接性を有する鋼種であれば、使用しても良い。
【0035】
また、本発明では凸状のビードを形成するために、TIG溶接機を使用したが、MIG溶接機やその他、ステンレスを良好に溶かすことができる手段であれば、何を使用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように本発明にかかる貯湯タンクは、ステンレス製タンクの胴部に、ステンレスの溶接用ワイヤを溶かし込んで凸状のビ−ドを構成してあり、補強リブや補強リングによる強度補強を用いなくても、簡素な構成で十分に過負圧での変形を防止することができる安全性の高い構成として、熱源が電気ヒータやヒートポンプの給湯機に特に有用である。
【符号の説明】
【0037】
1、5 胴部
2 鏡板
3a 給湯口
3b 給水口
4、6 ビード
8 補強リング
10 補強リング
12 補強リブ
13 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒型形状の胴部と、前記胴部の両端を閉塞するように形成した鏡板とからなるステンレス製タンクを備え、前記ステンレス製タンクの胴部にステンレスワイヤを溶かし込んで凸状のビ−ドを形成したことを特徴とする貯湯タンク。
【請求項2】
前記凸状のビ−ド部は、前記筒型形状の胴部の周面上に、らせん状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の貯湯タンク。
【請求項3】
前記筒型形状の胴部はフェライト系ステンレスから形成され、前記ステンレスワイヤにはフェライト系ステンレスを用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の貯湯タンク。
【請求項4】
前記筒型形状の胴部はフェライト系ステンレスから形成され、前記ステンレスワイヤにはオーステナイト系ステンレスを用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の貯湯タンク。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の貯湯タンクを備えた給湯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−13351(P2012−13351A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151782(P2010−151782)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】