説明

貯留雨水殺菌システム

【課題】 システムの動作に係わる費用が小さく、必要最低限度のコンパクトな構成で一定の殺菌剤濃度を維持することができる貯留雨水殺菌システムを提供する。
【解決手段】 水溶性殺菌剤9を入れた溶解器8を備え、雨水貯留槽3から雨水11を汲み上げるポンプ5が駆動されている間、このポンプ5によって汲み上げられた雨水11の一部を溶解器8へ一定時間だけ注水して水溶性殺菌剤9を溶解させ、この水溶性殺菌剤9が溶解した溶解液26を雨水貯留槽3へ環流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必要最低限度のコンパクトな構成で一定の殺菌剤濃度を維持することができ、しかも安価で大がかりな装置を必要としない貯留雨水殺菌システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水資源の有効活用に対する意識の高まりから、雨水貯留及び雨水利用の方法が多数提案されている。雨水自体は有害成分を殆ど含まないものであるが、雨水の集水面である屋根や樋に、土埃や虫の死骸などの汚染物の混入がある。このため、雨水をフィルタ等で固形成分を除去しても、貯留水に一般細菌など微生物の混入を完全には防ぎきれなかった。
【0003】
従って、雨水を貯留して使用者の触れるところに利用するシステムには、貯留槽に流入する雨水を殺菌消毒する機構を付与している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、雨水の別の殺菌消毒方法としては、貯留槽内の貯留水を取りだして殺菌処理したのち雨水を貯留槽内に循環させる手法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3151550号公報
【特許文献2】特許第2920455号公報(第5−7頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1における雨水の殺菌消毒方法においては、貯留槽に対しての雨水の流入量が一定しないので、貯留槽内の殺菌剤の濃度が一定せず、例えば時間をあけて少量の降雨が繰り返えされたりすると、殺菌剤が過剰注入となってしまう問題があった。
【0006】
また、特許文献2における雨水の殺菌消毒方法においては、雨水の循環殺菌のシステムが大がかりで場所をとると共に、循環殺菌のランニングのための費用も高くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、一定の殺菌剤濃度を維持することができ、しかも安価で大がかりな装置を必要としない貯留雨水殺菌システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述事情に鑑みなされたものであって、請求項1に記載の発明は、
雨水を貯留する雨水貯留槽と、この雨水貯留槽の雨水を汲み上げて注水するポンプとを備え、前記雨水貯留槽の雨水を殺菌する貯留雨水殺菌システムであって、水溶性殺菌剤を入れた溶解器を備え、前記ポンプが駆動されている間、このポンプによって汲み上げられた雨水の一部を前記溶解器へ一定時間だけ注水して前記水溶性殺菌剤を溶解させ、この水溶性殺菌剤が溶解した溶解液を前記雨水貯留槽へ環流させることを特徴としている。
【0009】
また、請求項2の発明は、前記ポンプの吐出口から吐出する雨水の一部を前記溶解器へ注水する分岐管と、この分岐管に設けられるとともに前記ポンプが駆動されている間一定時間だけ開成する電磁弁とを備えていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3の発明は、前記溶解器は、越流堰によって2つの容器室に仕切られ、一方の容器室に前記水溶性殺菌剤が入れられ、他方の容器室には前記分岐管によって雨水が注水され、この他方の容器室の雨水の量が所定量以上に達するとその越流堰を越えて一方の容器室へ雨水が流れていくようになっていることを特徴としている。
【0011】
また、請求項4の発明は、前記一方の容器室の底部に水切り桟を配置し、この水切り桟の上に前記水溶性殺菌剤を載置したことを特徴としている。
【0012】
また、請求項5の発明は、前記水溶性殺菌剤はトリクロロイソシアヌル酸系錠剤であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1及び請求項2に係わる発明によれば、水溶性殺菌剤を入れた溶解器を備え、雨水貯留槽内の貯留水を汲み上げるポンプが駆動されている間、このポンプによって汲み上げられた雨水の一部を溶解器へ一定時間だけ注水して前記水溶性殺菌剤を溶解させ、この水溶性殺菌剤が溶解した溶解液を前記雨水貯留槽へ環流させるので、一定濃度の殺菌液を雨水貯留槽内に一定量づつ注入することができ、
しかもポンプによって汲み上げられた雨水の一部を溶解器へ一定時間だけ注水するようにしたものであるから、必要最低限度のコンパクトな構成で一定の殺菌剤濃度を維持することができる貯留雨水殺菌システムを実現することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明によれば、前記溶解器は、越流堰によって2つの容器室に仕切られ、一方の容器室に前記水溶性殺菌剤が入れられ、他方の容器室には前記分岐管によって雨水が注水され、この他方の容器室の雨水の量が所定量以上に達するとその越流堰を越えて一方の容器室へ雨水が流れていくようになっているので、雨水の注水時に一方の容器室に流れる水量を一定にできると共に、殺菌剤にかかる波を一定にすることができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記一方の容器室の底部に水切り桟を配置し、この水切り桟の上に前記水溶性殺菌剤を載置したので、水溶性殺菌剤と一方の容器室の底面とが接触して界面に水が残ることによる濃厚な溶解液の発生を抑制することができる。また、水溶性殺菌剤を一方の底面から嵩上げすることで、容器室に注入された一定水位の雨水により一定量だけ殺菌剤を溶解させることができる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明によれば、前記水溶性殺菌剤であるトリクロロイソシアヌル酸系錠剤は、塩素系殺菌剤の中でも水への溶解度が小さいので、低い塩素濃度を長期間安定的に生成して、塩素系殺菌剤を用いる貯留雨水殺菌システムを好適に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明に係わる貯留雨水殺菌システムを示している。
【0019】
図1において、符号1は集水部、2は集水部1により集水された雨水を送る竪樋、3は集水された雨水を貯留する雨水貯留槽である。
【0020】
集水部1は、屋根10,10に降った雨水11a,11aを軒樋12,12により集め、さらに軒樋12,12にそれぞれ接続されている竪樋2,2により排水管13に流している。
【0021】
排水管13の途中には下方に延びる貯留管15が接続されており、この貯留管15と排水管13との接続部に沿ってフィルタ16が配設されている。したがって、排水管13を流れる雨水11aは、大部分はフィルタ16により濾過されて雨水貯留槽3に貯留されると共に、一部の雨水11aは下水に流れるようになっている。
【0022】
雨水貯留槽3には、この雨水貯留槽3内に貯留された雨水11を汲み上げるための汲み上げ管17が設けられており、この汲み上げ管17の上部は主管4に接続されている。
【0023】
主管4にはポンプ(以下利水用ポンプという)5が接続され、この利水用ポンプ5の吐出口5aには、ニップル管18を介して給水口19aを有する利用管19と、分岐配管6と、が接続されている。分岐配管6の一端部が注水管20とされて溶解器8に接続されている。
【0024】
分岐配管6には電磁弁7が設けられており、電磁弁7は利水用ポンプ5の動作に連動して一定時間だけ作動して開成する。これにより、雨水貯留槽3内の雨水11が注水管20から溶解器8へ注入されるようになっている。
【0025】
溶解器8は、越流堰21により2つの容器室、すなわち注水室22と殺菌剤溶解室23とに区画されている。
【0026】
殺菌剤溶解室23内には、専用薬筒24内に収納された水溶性殺菌剤9が配設されている。水溶性殺菌剤9としては、例えば、固形錠剤状で塩素系殺菌剤のトリクロロイソシアヌル酸系錠剤(四国化成(株)製ポンシロールB−90H)を積層して用いられる。
【0027】
専用薬筒24は、溶解器8の底部8a上に配置された水切り用の桟25上に載置されている。なお、専用薬筒24の底部24aには、殺菌剤溶解室23内の雨水が専用薬筒24内に進入することが可能な図示しない複数の穴が設けられている。
【0028】
また、殺菌剤溶解室23の底部8aには、殺菌剤溶解室23内の溶解液26を雨水貯留槽3内に循環させる戻し管27が接続されている。
【0029】
[作用]
次に、上述のように構成された貯留雨水殺菌システムの作用について説明する。
【0030】
屋根10に降水した雨水11aは軒樋12及び竪樋2により集水されてフィルタ16により濾過されたのち雨水貯留槽3内に貯留されていく。
【0031】
雨水貯留槽3内の雨水11を利用するために利水用ポンプ5が作動されると、これに連動して電磁弁7が一定時間だけ作動して、雨水11の一定量が分岐配管6を介して溶解器8の注水室22へ注水される。
【0032】
注水室22に注入された雨水11が所定量以上になると、越流堰21の上部から溢れて殺菌剤溶解室23側に流入する。この流入した雨水11が専用薬筒24内に入り、水溶性殺菌剤9を溶解していく。水溶性殺菌剤9を溶解した溶解液26は、戻し管27を介して雨水貯留槽3内に環流される。これにより、雨水貯留槽3内の雨水11は、殺菌消毒される。
【0033】
ところで、水溶性殺菌剤9と溶解器8の底部8aとが接していると、界面に水が残って濃厚な溶解液26が形成されてしまう。水切り用の桟25により水溶性殺菌剤9を底部8aから嵩上げすることで、溶解器8に注入された一定水位の雨水11により、一定量だけの水溶性殺菌剤9を溶解させることができる。
【0034】
水切り用の桟25の高さは、必要とする溶解量に応じて調整されるが、水切り用の桟25の高さが低すぎると実質的に水切りが行われなくなるため、少なくとも5mm以上、好ましくは8mm以上確保することが必要である。
【0035】
本実施例では、軒樋12、竪樋2等を介し建物の屋根10面に降った雨を集水貯留した雨水の殺菌システムであって、屋根10や軒樋12、竪樋2に付着し混入した微量の殺菌類を殺菌するので、高濃度の溶解液26は必要ない。逆に、塩素殺菌剤を使用した場合、塩素濃度が高くなると、臭気やトリハロメタンの発生の問題が生じて好ましくない。
【0036】
年間を通じて、平均塩素濃度で上水と同等レベルの0.1ppm以上を確保し、溶解液26の濃度が高くなってもプールの塩素濃度許容限界である1.0ppm以下になるように溶解液26の濃度が設定されている。
【0037】
例えば、トイレの清浄用に雨水11を利用する等、定期的にほぼ決まった回数使用するものに連動して、低濃度の溶解液26を繰り返し雨水貯留槽3に注入することで、低濃度の溶解液26でも混入細菌数の制菌から徐々に殺菌状態へと導くことができる。
【0038】
上記低濃度状態を安定的に作るために、雨水11への溶解度が小さい塩素系殺菌剤が好ましく、特にトリクロロイソシアヌル酸系のものが溶解度が小さくて好ましい。
【0039】
次に、溶解器8の貯留容積、殺菌剤溶解室23に対する雨水注入量、を種々に変えて雨水貯留槽3内の平均塩素濃度及び最高塩素濃度をシミュレーションした。
【0040】
また、溶解液26の殺菌効果のシミュレーションには、条件として以下のデータを使用した。
【0041】
[条件]
ここで、上記の貯留雨水殺菌システムの配管系に係わる部品の使用例を説明する。
【0042】
主管4はφ16、分岐配管6はφ13のものを使用した。溶解器8内に注水する注水管20はφ26のものを使用した。
【0043】
溶解器8の底面積は175cm2 、注水室22の越流堰21の高さは20mm、水切り用の桟25の高さは8mm、溶解器8の戻し管27はφ22のものを使用した。
【0044】
雨水集水部面積(屋根10の面積):100m2
集水効率 : 90%
貯留容積 : 下記に設定
最低確保水量 : 1000L(無降雨時期対応のため、これ以下であると上水が補 充されることとした)。
上水塩素濃度 : 0.1ppm
トイレ消費量 : 10L/回×20回/日=200L/日
気温降雨データ : 1984年東京のもの(1964〜2004年で最小雨年)
貯留水温 : 日平均気温に同じ。
投入殺菌剤濃度 : 下記に設定。
20℃時点の水溶性殺菌剤9の溶解量で表記する。
溶解量は溶解器8において電磁弁7の開時間で調整する。
溶解器8において、1分間隔で100回毎に200回まで溶解させてその平均値を溶 解量とした。
例えば、30mg/日、を溶解させる場合の電磁弁7の開時間は2秒である。
【0045】
前記データをもとに、毎日の雨水貯留槽3内の貯留塩素濃度を日毎に算出し、毎日の塩素濃度の1年間の平均濃度と、最も塩素濃度が高くなったときの塩素濃度をシミュレーションした。このシミュレーションの結果を図2に示す。
【0046】
図2のシミュレーション結果に示すように、本発明に係わる貯留雨水殺菌システムを使用することによって、雨水貯留槽3内の貯留容量(貯留容積)が3000〜10000Lと変わっても、上水同等レベルの平均塩素濃度0.1ppmの塩素濃度が得られ、且つ、最も塩素濃度が高くなった場合でもプールの許容塩素濃度である1.0ppmを越えない範囲に塩素濃度を制御できることが確認できた。
【0047】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態の実施例に係わる貯留雨水殺菌システムの構成図である。
【図2】雨水貯留槽内の平均塩素濃度及び最高塩素濃度をシミュレーションして表に纏めた図である。
【符号の説明】
【0049】
3 雨水貯留槽
5 利水用ポンプ(ポンプ)
5a ポンプの吐出口
6 分岐配管
7 電磁弁
8 溶解器
8a 殺菌剤溶解室(一方の容器室)の底部
9 水溶性殺菌剤
11,11a 雨水
19a 給水口
21 越流堰
22 注水室(他方の容器室)
23 殺菌剤溶解室(一方の容器室)
25 水切り用の桟
26 溶解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨水を貯留する雨水貯留槽と、この雨水貯留槽の雨水を汲み上げて注水するポンプとを備え、前記雨水貯留槽の雨水を殺菌する貯留雨水殺菌システムであって、
水溶性殺菌剤を入れた溶解器を備え、
前記ポンプが駆動されている間、このポンプによって汲み上げられた雨水の一部を前記溶解器へ一定時間だけ注水して前記水溶性殺菌剤を溶解させ、
この水溶性殺菌剤が溶解した溶解液を前記雨水貯留槽へ環流させることを特徴とする貯留雨水殺菌システム。
【請求項2】
前記ポンプの吐出口から吐出する雨水の一部を前記溶解器へ注水する分岐管と、
この分岐管に設けられるとともに前記ポンプが駆動されている間一定時間だけ開成する電磁弁とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の貯留雨水殺菌システム。
【請求項3】
前記溶解器は、越流堰によって2つの容器室に仕切られ、一方の容器室に前記水溶性殺菌剤が入れられ、他方の容器室には前記分岐管によって雨水が注水され、この他方の容器室の雨水の量が所定量以上に達するとその越流堰を越えて一方の容器室へ雨水が流れていくようになっていることを特徴とする請求項2に記載の貯留雨水殺菌システム。
【請求項4】
前記一方の容器室の底部に水切り桟を配置し、この水切り桟の上に前記水溶性殺菌剤を載置したことを特徴とする請求項3に記載の貯留雨水殺菌システム。
【請求項5】
前記水溶性殺菌剤はトリクロロイソシアヌル酸系錠剤であることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の貯留雨水殺菌システム。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−314969(P2006−314969A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142736(P2005−142736)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】