説明

費用対効果の高いリチウム蓄電池生産用の乾燥工程

【課題】ドライルームが不要で費用対効果の高い(大型)リチウム電池パックの製造方法の提供。
【解決手段】1つ以上の電気化学セル12をポーチに入れ、該ポーチを部分的に密閉した後乾燥オーブン2に入れる。一定時間置き乾燥したポーチをオーブン2から取り出して、電解液フィリングステーションに移動し、ポーチに電解液を充填後ポーチを密閉する。該製造ステップは通常の製造環境条件下で行われ、選択された重要なステップのみドライルーム条件下で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池パック用大型リチウムセルの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムセルが最小限の水分しか含んではならないことは電池パック用リチウムセルの製造では公知の問題である。なぜなら、水は腐食や副反応の原因となり、それにより容量の損失や電力性能の欠損などそれぞれのセルの性能を失う可能性があるからである。
【0003】
リチウムセル中の水分は通常30 ppm未満であることが望ましい。一般的に、これは、材料や工程を厳しい乾燥条件下で取り扱うことにより達成できる。機械や材料は湿度を減少させたドライルームに持ち込まれる。しかし、必要な製造設備を収容できるフルサイズのドライルームの設置及び維持は非常にコストがかかる。
【0004】
ドライルームの別の問題は、製造工程に必要な材料をドライルームに持ち込むのと同様に製造機械を操作する人員がドライルーム条件を妨げることなくドライルームを出入りしなければならないことである。人体はかなりの量の湿気をドライルームに持ち込む。例えば機械、材料又は人が入るために、一度開放されると、再びリチウムの作業条件に戻るまで長時間を要し、非生産的で全ての工程に非常にコストがかかる。さらに、湿気は製造工程のコントロールを難しくするので、製品のグレードを下げることになる。また、長時間極度の乾燥状態にさらされている従業員にとってより困難な作業条件になる。
【0005】
上記の問題を解決するために提案されたのは、リチウムセルの製造に使用される材料をドライルームに運ぶ前に予め乾燥しておき、入り込む水分の量を減少させることである。しかし、非常に大きな容積のドライルームを設置し、維持しなければならないという事実から生じる一般的な問題を解消するに至っていない。
【0006】
したがって、上記の問題を効果的に解消する大型リチウムセルの製造に関する解決策を提供することがなお必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
提案されたのは、電気化学セルスタックを組み立て、組み立てられたスタックをポーチに入れ、電気化学セルスタックを備えたポーチを部分的に密閉し、乾燥オーブンに電気化学セルスタックを備えたポーチを入れ、ポーチを乾燥オーブンの中に一定時間置き、乾燥したポーチを電解液フィリングステーションに移し、電解液をポーチに充填し、ポーチを完全に密閉する工程を有する大型リチウム電池パックの製造方法である。この方法は、製造ステップが通常の製造環境条件下で行われ、選択された重要な製造ステップのみがドライルーム条件下で行われる点で、公知の技術水準とは異なる。
【0008】
この方法は通常の作業環境で取り扱うことができる大型リチウムセルの製造を効果的に可能にするものであり、ドライルームを必要としない。なぜなら製造工程の重要な部分のみが、不活性ガス又は乾燥した空気の下に保たれた乾燥オーブン及び/又は電解液フィリングステーションなどの選ばれた機械のみに限定されたドライルーム環境を備えたドライルーム条件下に保たれるからである。
【0009】
好ましくは、製造ステップの上記した部分は、ポーチを乾燥オーブンに入れ、乾燥オーブンの中に置き、乾燥オーブンから移動するステップからなるが、ポーチを電解液で充填することを含んでもよい。乾燥オーブンは200℃までの温度範囲を有するが、一般的には120℃に保たれる。圧力範囲は0-400 mbar absであり、一般的には50 mbar absで一定又は変数にされる。そして、乾燥時間は1時間から100時間に及ぶが、一般的には12時間から48時間の間である。
【0010】
これらの条件下では、付着水、間隙水又は結晶水といった水がセルの外へと拡散する。
【0011】
オーブンは真空技術用に構築された中心室から構成できる。その形状は重要ではない。コンセプトとしてはモジュール型でもよい。乾燥オーブンからセルを出し入れするのに、2つのエアーロックを備えてよい。
【0012】
乾燥オーブン内ではセルを都合のよい方法で収容されれば、乾燥中に移動させてもさせなくてもよい。
【0013】
ポーチを乾燥オーブンからフィリングステーションへ移動するのに、ドライルーム条件下のトンネルを使用してよい。
【0014】
別の好ましい態様では、製造工程を通してポーチを連続的に移動してよい。
【0015】
大型リチウムセルでは、特に水抽出が問題として指摘できる。なぜなら、リチウムセルが大型になると水抽出がますます難しくなるからである。大型リチウムセルは少なくとも1つの寸法が約10 cm以上のものだと考えてよい。寸法はさらに大きくてもよい。大型リチウムセルの一般的な例としてDIN A5型又はそれ以上の寸法を有するものがあるが、可能な型は特定の幅長比に限定されない。大型リチウムセルは一般的に少なくとも2つの電極、アノード及びカソード、そして前記アノードと前記カソードとの間に配置されたセパレータを備えてなる。バイセル型では、大型リチウムセルは一般的に1つの両面アノード、アノードの両側に配置された2つのセパレータ及び2つのカソード、又は1つの両面カソード、両面カソードの両側に配置された2つのセパレータ及び2つのアノードを備えてなる。それぞれの電極は、例えば金属ホイルの形態のコレクターと活性電極材料とを備えてなる。コレクターの材料、活性電極材料及びセパレータ材料として非常に多くのものが公知である。本発明は特定の材料又は材料の組み合わせに限定されない。コレクターの間の隙間の幅は一般的に1 mm未満である。電極の中間から縁までの一般的な側方拡散距離は10から20 cmの間である。目標は、セルを均一に乾燥した状態にすることである。
【0016】
乾燥度をより高めるには、「水蒸気をセルからポンプ出しする」という特別な効果を応用することができる。圧力変化をオーブンに適用する。例えば、圧力を200 mbar absに減圧する。一定時間後、構成中の水蒸気圧により平衡状態となる。遅いプロセスではあるが、水分の一定部分はセルの外に拡散する。水の輸送を向上させるには、オーブン内の圧力が減圧され、水蒸気がセルの外へ輸送される。このサイクルの繰り返しによりセル中の水分を徐々に減少できる。
【0017】
さらに、乾燥工程では完全な乾燥状態にするものでなくてもよい。ほんのわずかな水分であればセルに残ってもよい。これは例えば、300 ppm程度の量でよい。残留水分は後に電解液を充填することにより30 ppm未満に低減される。
【0018】
提案された方法はリチウムバッテリー技術の中に適用可能ないずれのアノード材料、いずれのカソード材料、いずれのセパレータ材料及びいずれの電解液を含むいずれの材料に対しても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
さらなる特色や特長は、本発明の方法及びそこで使用される乾燥オーブンの好ましい態様の下記非限定的記述に下記の付属の図面を参照することにより理解できる。
【図1】丸型真空乾燥オーブンの模式図。
【図2】真空管付き乾燥オーブンのモジュール概念の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は丸型真空乾燥オーブン2の模式図を示し、底が閉じていて上が開いたオーブンバレル4と、オーブンバレル4を密閉するオーブン蓋6とを備えている。
【0021】
背面には入口管8が示されており、前面には同様の出口管10が示されており、そこを通ってリチウム電池セル12を載せたトレイ(図示せず)がオーブンバレル4に入ることができる。この特定の態様では、電池セルはトレイとともに連続的に動くベルト14上で、オーブンバレルを出入りする。ベルト14はもちろん電池セルをオーブン2に出入りさせるための他の手段に置き換えることができる。
【0022】
オーブン2を出入りする図1の大型リチウム電池セルは、乾燥オーブン2に入る時には部分的に密閉されているポーチに入っている電極スタックを含んでなる。
【0023】
図1に示される態様では、電池セルを形成する電極スタックを有する部分的に密閉されたポーチは、入口管8を通ってオーブン2に入っていく移動ベルト14と出口管10を通ってオーブンを出ていくベルト14との間を、120℃の温度及び一定又は可変の圧力50 mbar absの下で時間制御された方法で12時間から48時間の乾燥時間をかけてゆっくりと移動する。
【0024】
図2は真空管18から構成される乾燥オーブン16のモジュール概念の模式図を示している。図2の後方に見られるように、電池セル12は再び移動ベルト14の上に載って、入口ゲート22及び出口ゲート24を有する入口ロック20を経由してオーブン16内、すなわち、真空管18内へ移動する。図1を参照してすでに上記したように、電池セル12は次にオーブン16の真空管18の中を一定時間で移動し、入口ゲート28及び出口ゲート30を有する別の出口ロック26を通ってオーブンの外に出る。
【0025】
乾燥した電池セルは、出口ゲート30から不活性ガス又はドライエアにより乾燥大気下に保たれたトランスファートンネル32を通って電解液フィリングステーション34へ移動する。この電解液フィリングステーション34は、図2に示される態様では、ガラスのコンパートメントであり、これもまた乾燥雰囲気下に保たれている。
【0026】
電池セルは、この電解液フィリングステーション34からハンドリングステーション36へ移動する。
【0027】
図2の装置では、オーブン16、トランスファートンネル32及び電解液フィリングステーション34のみドライルーム条件下で保たれているので、電池パックの製造にフルサイズのドライルームを設置する必要はもうない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
‐1つ以上の電気化学セルを用意し、
‐前記1つ以上の電気化学セルをポーチに入れ、
‐前記1つ以上の電気化学セルを備えたポーチを部分的に密閉し、
‐前記1つ以上の電気化学セルを備えたポーチを乾燥オーブンに入れ、
‐前記ポーチを前記乾燥オーブンの中に一定時間置き、
‐前記ポーチを前記乾燥オーブンから取り出し、
‐前記乾燥したポーチを電解液フィリングステーションに移動し、
‐前記ポーチに電解液を充填し、
‐前記ポーチを密閉する、
ステップを含んでなり、前記製造ステップは通常の製造環境条件下で行われ、選択された重要な製造ステップのみドライルーム条件下で行われる、(大型)リチウム電池パックの製造方法。
【請求項2】
前記の選択された重要な製造ステップは前記ポーチを乾燥オーブンに入れ、乾燥オーブンの中に置き、乾燥オーブンから取り出すステップを含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、ポーチに電解液を充填する製造ステップはドライルーム条件下で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ドライルーム条件下で、ポーチがトンネルを通って前記乾燥オーブンから前記フィリングステーションに移動する請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポーチは、製造工程中連続的に移動する請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ドライルーム条件は乾燥ガス又は乾燥空気により保たれている請求項1乃至5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥オーブンは真空下で保たれ、前記ポーチを乾燥オーブンに入れるステップおよび前記ポーチを乾燥オーブンから取り出すステップはそれぞれのエアーロックを通して行われる請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の電気化学セルのそれぞれが少なくとも2つの電極及び少なくとも1つのセパレータを含んでなる請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
ポンプ効果を達成するために、ポーチがオーブンの中に置かれる時間の間に乾燥オーブン内の真空度を変化させる
請求項1乃至8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
乾燥オーブン、
電解液フィリングステーション、
ポーチ密閉ステーション、
を少なくとも含んでなり、これらの全てがポーチコンベイヤーシステムにより接続され、前記乾燥オーブン、前記電解液フィリングステーション及び前記ポーチ密閉ステーションは乾燥空気又は不活性ガスを満たすために密閉された製造容積を備える、(大型)リチウム電池パックの製造装置。
【請求項11】
前記オーブンは入口及び出口のそれぞれにエアーロックを備えた真空圧力オーブンである請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記乾燥オーブンは真空圧力可変型オーブンである請求項11に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−8668(P2013−8668A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−128426(P2012−128426)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【出願人】(511202757)レクランシェ エスエイ (4)
【氏名又は名称原語表記】Leclanche SA
【住所又は居所原語表記】Av. des Sports 42, 1400 YVERDON−LES−BAINS, Switzerland
【Fターム(参考)】