説明

赤外線ミラー

【目的】 基体材料としてガラスを使用し、この基体側から光を入射させるため、金膜の汚れや傷に左右されることなく、安定して高い反射率を得ることが可能であり、しかも低コストで生産可能な赤外線ミラーを提供することを目的とする。
【構成】 図1は、半球レンズ10の平面部にクロム膜(厚み16Å)11が形成され、さらにその上に金膜(厚み2500Å)12が形成された赤外線ミラーを使用したレーザーダイオード(LD)部品を示す断面図である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半球レンズやプリズム等の光学部品として適用できる赤外線ミラーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より赤外線ミラーの反射材料として、赤外線域において非常に高い反射率を有する金が利用されている。
【0003】ただし金からなる膜(以下、金膜という)は、ガラス等の誘電体からなる基体への付着力が非常に弱く、これを基体に成膜しても簡単に剥がれてしまう。そのため、これを基体上に成膜する場合には、まず基体の表面に、誘電体との付着力が強いクロム膜を成膜した後、さらにその上に金膜を成膜する方法が採られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記したような基体上にクロム膜と金膜が形成されてなる赤外線ミラーは、金膜側から光を入射させ、金膜で反射させるものであるが、金膜が埃や露結によって汚れても、金膜は極めて傷に弱いため、クリーニング方法は、エアーや有機溶剤の吹き付けに限られていた。また、万一、金膜に傷が入ると、反射特性が損なわれて使用不可能になった。
【0005】そのため金膜の上に誘電体の膜を成膜して、金膜に汚れや傷が発生するのを防止することが試みられているが、このような方法を採用すると、生産コストが大幅に上昇することになる。
【0006】本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、基体材料としてガラスを使用し、この基体側から光を入射させるため、金膜の汚れや傷に左右されることなく、安定して高い反射率を得ることが可能であり、しかも低コストで生産可能な赤外線ミラーを提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の赤外線ミラーは、ガラス基体上にクロム膜が形成され、さらにその上に金膜が形成されてなる赤外線ミラーにおいて、該クロム膜の厚みが、10〜50Åであることを特徴とする。
【0008】
【作用】本発明の赤外線ミラーは、クロム膜の厚みが、50Å以下であるため、金膜側ではなく、ガラス基体側から光を入射させ、クロム膜を通して、金膜で光を反射させることが可能となる。
【0009】すなわち従来の赤外線ミラーにおいては、基体上にクロム膜を成膜する場合、成膜の作業性だけを配慮しているため、約100〜1000Å程度の厚みのものが一般的であり、このようなクロム膜に光が入射しても、クロム粒子間を通る光は非常に少ない。
【0010】従って基体の材料として透明なガラスを使用し、この基体上に約100〜1000Å程度の厚みを有するクロム膜を成膜し、さらにその上に金膜を成膜してなる赤外線ミラーを使用し、基体側から光を入射させても、クロム膜で光が反射しやすくなり、金膜に光が到達し難くなるため、高い反射率が得られない。
【0011】しかしながら本発明の赤外線ミラーのように、クロム膜の厚みを50Å以下にすると、ガラス基体側から入射した光のほとんどがクロム膜のクロム粒子間を通過することになり、それらが金膜で反射するため、反射率が高くなる。ただしクロム膜の厚みが、10Å以下になると、基体との付着力が低下し、膜はがれが生じやすくなるため好ましくない。本発明において、より好ましいクロム膜の厚みは、15〜25Åである。
【0012】尚、本発明におけるクロム膜及び金膜の成膜方法としては、スパッタリング法や真空蒸着法等が使用可能である。
【0013】
【実施例】以下、本発明の赤外線ミラーを実施例に基づいて詳細に説明する。
【0014】表1は、本発明の実施例(試料No.1〜4)及び比較例(試料No.5〜7)を示すものである。
【0015】
【表1】


【0016】表中のNo.1〜6の各試料は、以下のようにして作製した。
【0017】まず基体としてホウケイ酸ガラス基板(50×50×0.8mm)を作製した後、その上に、表に示した厚みのクロム膜をスパッタリング法で成膜した。次いでこのクロム膜の上に、表に示した厚みの金膜をスパッタリング法で成膜した。
【0018】また表中のNo.7の試料は、上記と同様のホウケイ酸ガラス基板を準備した後、その上に2700Åの厚みの金膜をスパッタリング法で成膜することによって作製したものである。
【0019】このようにして作製した各試料について、1300nmおよび1550nmの波長における反射率を測定すると共に、金膜の剥がれ試験を行い、その結果を表1に示した。
【0020】表1から明らかなように、実施例の各試料は、1300nmの波長における反射率が90.3%以上、1550nmの波長における反射率が90.8%以上といずれも高く、しかも膜剥がれ試験においても、金膜が剥がれることは全くなかった。
【0021】それに対し、No.5の試料は、反射率は高かったが、金膜の半分の面積で剥がれが生じた。またNo.6の試料は、金膜の剥がれは生じなかったが、実施例の各試料に比べて反射率が低かった。さらにNo.7の試料は、反射率は高かったが、金膜の全てが簡単に剥がれた。
【0022】尚、上記の反射率は、自記分光光度計(株式会社日立製作所製U−4000)によって測定したものであり、また膜剥がれ試験は、各試料の金膜をダイヤモンドカッターで約2mm間隔の格子状に傷を付け、その全表面にわたって♯610スコッチテープ(スリーエム株式会社製)を貼り付けた後、テープを真上方向に引き剥がし、金膜の剥がれ具合を観察したものである。
【0023】図1は、半球レンズ10の平面部にクロム膜(厚み16Å)11が形成され、さらにその上に金膜(厚み2500Å)12が形成された赤外線ミラーを使用したレーザーダイオード(LD)部品を示す断面図である。
【0024】図中、半球レンズ10は、BK−7(光ガラス株式会社製)から作製され、その球面部には、TiO2 膜層とSiO2 膜層からなる反射防止膜13が形成されている。この半球レンズ10は、球面部の一部が金属製キャップ14にはめ込まれ、この金属製キャップ14の内部には、LD素子15が取り付けられている。
【0025】このようなLD部品において、LD素子15から光線が発せられると、光線のほとんどは、反射防止膜13とクロム膜11を通過し、金膜12に到達して矢印のように90°の角度で反射することになるため、平板上に集光させて光学システムを組むことが可能である。
【0026】また本発明の赤外線ミラーは、プリズムに利用して光量の反射損失を少なくすることも可能である。
【0027】
【発明の効果】以上のように本発明の赤外線ミラーは、ガラス基体側から光を入射させるため、金膜の表面が汚れたり、傷が付いたとしても、反射率が低下することがなく、しかも金膜の上に誘電体の膜を成膜する必要がないため、低コストで生産することが可能であり、光学部品として広範囲の用途が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】球面レンズを金属製キャップにはめ込んだLD部品を示す断面図である。
【符号の説明】
10 半球レンズ
11 クロム膜
12 金膜
13 反射防止膜
14 金属製キャップ
15 LD素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス基体上にクロム膜が形成され、さらにその上に金膜が形成されてなる赤外線ミラーにおいて、該クロム膜の厚みが、10〜50Åであることを特徴とする赤外線ミラー。

【図1】
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【公開番号】特開平8−54504
【公開日】平成8年(1996)2月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−211844
【出願日】平成6年(1994)8月11日
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)