説明

赤外線反射繊維

【課題】赤外線反射機能を持つ物質の大きさを適性なものとし、繊維の機械的強度を保ちながら、着衣下の温度上昇を防ぐことのできる赤外線反射繊維を提供する。
【解決手段】本発明にかかる赤外線反射繊維は、粒径0.2〜0.7μmの酸化チタン粒子が練り込まれたものである。該酸化チタン粒子は金属酸化物の膜で覆われ、該膜は、波長が1000nm以上の赤外線のプラズマ反射が生じる厚みとなっていてもよい。なお、該金属酸化物はInO、SnO又はZnOの何れかであることが好ましく、該厚みは60nm〜500nmであることが好ましい。また、該酸化チタン粒子は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。更に、本発明にかかる赤外線反射繊維は、天然繊維と混紡されたものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線反射繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炎天下で着衣下の温度上昇を防止するため、太陽からの赤外線の着衣下への侵入を防ぐ方法が以前から研究されている。そして、そのような方法の一つとして、衣料品の素材である繊維に赤外線を反射させる機能(以下「赤外線反射機能」という)を持たせる方法が提案されている。(以下、赤外線反射機能を備えた繊維を「赤外線反射繊維」という)
【0003】
繊維に赤外線反射機能を持たせるには、二つの方法が考えられる。一つは、赤外線反射機能を備えた物質を繊維表面に付着させる方法であり、もう一つは、そのような物質を繊維に練り込む方法である。前者の方法は、例えば、特開2004−346450号や特開平9−170176号公報に開示されている。一方、後者の方法は、例えば、特開平7−189018号公報や特開平3−213536号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2004―346450号公報
【特許文献2】特開平9−170176号公報
【特許文献3】特開平7−189018号公報
【特許文献4】特開平3−213536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者の方法(繊維表面に付着させる方法)は、洗濯による剥離など、物理的に損傷するおそれがあり、耐久性に問題があった。これに対し後者の方法(繊維に練り込む方法)であれば、適応できる繊維は合成繊維に限定されるものの、耐久性の問題は解消することができる。ただし、練り込まれる物質の大きさの選定が難しいという問題があった。すなわち、練り込まれる物質の大きさは、反射機能と繊維の機械強度に大きく影響を与え、その物質の粒径が大きさくなると繊維の機械的強度の低下を招く反面、粒径が小さくなると十分な赤外線反射機能が得られなかったが、従来は繊維の機械的強度を考慮し、赤外線反射率を犠牲にして、練り込む物質はできるかぎり小さくするという傾向があった。
【0005】
そこで、本発明は、赤外線反射機能を持つ物質の大きさを適性なものとし、繊維の機械的強度を保ちながら、着衣下の温度上昇を防ぐことのできる赤外線反射繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる赤外線反射繊維は、粒径0.2〜0.7μmの酸化チタン粒子が練り込まれたものである。
【0007】
該酸化チタン粒子は金属酸化物の膜で覆われ、該膜は、波長が1000nm以上の赤外線のプラズマ反射が生じる厚みが好ましい。なお、該金属酸化物は繊維の着色に影響が少ないInO、SnO又はZnOの何れかであることが好ましく、該厚みは60〜500nmであることが好ましい。
【0008】
該酸化チタン粒子がシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0009】
本発明にかかる赤外線反射繊維は天然繊維と混紡されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる赤外線反射繊維によれば、酸化チタン粒子が、繊維フィラメントの直径(概ね15〜20μm)よりも十分小さいため、繊維の機械的強度を保つことができる。また、800〜1500nmの波長領域の赤外線を効率良く反射することができるので、着衣下の温度上昇を防ぐことができる。なお、本発明の特徴は、800〜1500nmの波長域の赤外線が体感で最も暑く感じるものであることに着目し、その波長域の赤外線を効率良く反射させることができる酸化チタン粒子の粒径が通常の繊維フィラメントよりも小さくなることを利用した点にある。なお、物質が粒径0.7μm以上の大きさになると繊維の機械的強度の低下を招き、粒径が0.2μmより小さくなると十分な赤外線反射機能が得られなくなる。
【0011】
酸化チタン粒子が導電性金属酸化物の膜で覆われたものであれば、赤外線反射機能を更に高めることができる。なお、膜は、波長が1000nm以上の赤外線のプラズマ反射が生じる厚みとなっていれば、人体から放射される赤外線が着衣の外に出ることを防止し、着衣下の表皮温度の低下を防止すること、すなわち、保温効果を得ることもできる。これは、人体から放射させる赤外線の波長領域は、上記暑く感じる日射に含まれる赤外線の波長領域と異なり、その波長がより長いものであることによる。着衣下の温度上昇を防ぐ機能を備えた赤外線反射繊維に保温機能を備えることは、空調設備が整い夏季であっても体が急激に冷やされる環境に有効である。
【0012】
酸化チタン粒子を覆う導電性金属酸化物に制限はないが、適用の容易さを考慮すると、広く市場に流通しているInO、SnO又はZnOの何れかであることが好ましく、また、これらの金属酸化物を採用する場合、波長が1000nm以上の赤外線のプラズマ反射が生じる厚みは60nm〜500nmとなる。なお、これらの金属酸化物で被覆した酸化チタン粒子が練り込まれた繊維は導電性を備えるため、静電気の帯電を防止し、静電気帯電による不快な現象を防ぐことができるという効果を得ることもできる。
【0013】
酸化チタン粒子がシランカップリング剤で表面処理されたものであれば、赤外線反射機能を更に高めることができる。
【0014】
なお、酸化チタン粒子を天然繊維に練り込むことはできないが、酸化チタン粒子を練り込んだ合成繊維を天然繊維と混紡することにより、風合いや感触など、天然繊維の特性を取り入れることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体的な例によって説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0016】
「実施例1」
280℃で溶融したポリエチレンテレフタレート樹脂PT8307(三井デュポンポリケミカル株式会社製)90重量部と、粒径が異なるよう分級した3種類の酸化チタン10重量部を、スターラーで均一になるよう分散調合し、以下の溶融樹脂を得た。
溶融樹脂A:溶融樹脂のみ
溶融樹脂B:酸化チタン粒度分布0.06〜0.2μm
溶融樹脂C:酸化チタン粒度分布0.2〜0.7μm
溶融樹脂D:酸化チタン粒度分布0.5〜1.5μm
溶融樹脂E:酸化チタン粒度分布0.2〜0.7μm(酸化チタン粒子として、表面にCVD法によってInが0.2μmコーティングされ、さらにシランカップリング剤で表面処理されたものを使用)
上記溶融樹脂を公知の溶融紡糸方法によって繊維化した。得られた繊維の繊度は2drであった。得られた繊維フィラメントA、B、C、D、Eを使用してフィラメント糸条(90テックス・30フィラメント)A−1、B−1、C−1、D−1、E−1を作成し引張・圧縮試験機RTG−1210(株式会社エー・アンド・ディー社製)で引張破壊強度を比較測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】

A−1を必要基準とするとB−1、C−1、E−1は繊維製品の必要強度を満足し、D−1は強度が弱く繊維製品の用途は限定されることが判明した。
【0017】
「実施例2」
実施例1で試作したフィラメント糸条(90テックス・30フィラメント)を使用して、縦密度50本/cm、横密度50本/cmで製織し得られた平織物A−2、B−2、C−2、D−2、E−2の日射反射率を、JISA5759法によって分光反射率として測定した。測定結果を図1に示す。
この結果、A−2、B−2は日射反射率が低くC−2、D−2は反射率が高く、E−2の反射率が最も高くなることが判明した。
【0018】
「実施例3」
実施例2で作成した平織物A−2、B−2、C−2、D−2、E−2の電気抵抗値を絶縁抵抗計ST−3(SIMCO株式会社製)で測定した。測定結果を表2に示す。なお、測定環境は、温度20℃、相対湿度40%であった。
【表2】

【0019】
実施例1と実施例2の結果を考察すると、酸化チタン粒子の粒径を0.2〜0.7μmとすることで、繊維の実用強度を維持しながら、日射反射率の高い繊維を得られることが判明した。更に、酸化チタン粒子の表面に導電性金属酸化物をコーティングすることによりさらに反射率の高い繊維を得られることが判明した。また、実施例3の結果を考察すると、表面に導電性金属酸化物をコーティングした酸化チタン粒子を調合した繊維の織物は導電性があり、空気が乾燥した環境でも静電気帯電防止機能を有することが判明した。
【0020】
本発明にかかる赤外線反射繊維は衣料品の素材に好適であるが、その用途は衣料品に限定されるものではなく、強度的に問題が無ければ他の用途に使用することもでき、例えば、自動車シートにも有効である。自動車シートに使用した場合、駐車時に直射日光を受けたシートの昇温を抑制し、結果として車内温度の上昇を抑制する効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】分光反射率の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径0.2〜0.7μmの酸化チタン粒子が練り込まれたことを特徴とする赤外線反射繊維。
【請求項2】
該酸化チタン粒子は導電性金属酸化物の膜で覆われ、該膜は、波長が1000nm以上の赤外線のプラズマ反射が生じる厚みとなっている請求項1に記載の赤外線反射繊維。
【請求項3】
該金属酸化物は導電性のInO、SnO又はZnOの何れかで、該厚みは60nm〜500nmである請求項2に記載の赤外線反射繊維。
【請求項4】
該酸化チタン粒子がシランカップリング剤で表面処理された請求項1、2又は3に記載の赤外線反射繊維。
【請求項5】
天然繊維と混紡された請求項1、2、3又は4に記載の赤外線反射繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2008−75184(P2008−75184A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251994(P2006−251994)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(598164371)
【Fターム(参考)】