説明

赤外線反射部材

【課題】コレステリック構造を形成した特定の棒状化合物を含有する選択反射層が直接積層された構成を有しており、優れた反射効率を有する赤外線反射部材を提供する。
【解決手段】透明基板と、透明基板1,上に、右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層1R、および左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層1L,が直接積層されて形成される赤外線反射層2と、を有する赤外線反射部材10,であって、右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層1R,および上記左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層1L,がコレステリック構造を形成した下記構造式(I)で表される棒状化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレステリック構造を形成した棒状化合物を含有する複数の選択反射層を有し、赤外線反射特性に優れた赤外線反射部材に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光線ないし赤外線の波長領域において、所望の波長を選択的に反射できる部材として、コレステリック液晶を用いた選択反射部材が知られている。これら選択反射部材は、所望の光(電磁波)のみを選択的に反射することができるため、例えば可視光線は透過させて熱線のみを反射する熱線反射膜や透過性断熱膜としての利用が期待されている。
【0003】
コレステリック液晶を用いて赤外線を反射する赤外線反射部材については、例えば以下の文献が知られている。特許文献1には、広帯域で近赤外線を反射する薄膜コーティングを施した透明基板と、近赤外線部に鋭い波長選択反射性を有するコレステリック液晶製のフィルタとからなる積層体が開示されている。この技術は、可視光の透過率を低下させることなく、近赤外線を高効率で反射させることを目的としている。また、特許文献2には、赤外線波長範囲内において、入射する放射の少なくとも40%を反射する1種またはそれ以上のコレステリック層を含む断熱コーティングが開示されている。この技術は、コレステリック層を用いることで、所望の断熱効果を得ることを目的としている。
【0004】
さらに、特許文献3には、特定の方法により光反射率が向上された高分子液晶層と、この高分子液晶層を支持する支持体とを備える高分子液晶層構造体であって、特定波長の光に対して反射率が35%以上である高分子液晶層構造体が開示されている。この技術は、主に液晶ディスプレイ(LCD)に用いられるものであり、フッ素系非イオン性界面活性剤を用いることで、高分子液晶層の反射率を向上させるものである。また、特許文献4には、可視光を透過させ、かつ特定波長域の近赤外線を選択的に反射させる、コレステリック液晶構造を有する高分子固化体層からなる選択反射層Aを有する近赤外線遮蔽層を備えた近赤外線遮蔽用の両面粘着フィルムが開示されている。この技術は、主にプラズマディスプレイパネル(PDP)に用いられるものであり、近赤外線遮蔽用の両面粘着フィルムにより、PDPが周囲に与える電磁波の影響を抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−281403号公報
【特許文献2】特表2001−519317号公報
【特許文献3】特許第3419568号
【特許文献4】特開2008−209574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなコレステリック液晶化合物が用いられた赤外線反射部材は、通常、透明基板上に積層された選択反射層にコレステリック液晶化合物が含有され、そのコレステリック構造に依存して所定の波長領域の赤外線を選択的に反射する機能を発現するものである。
【0007】
上述したような赤外線反射部材に用いられる選択反射層は、含有する液晶化合物のコレステリック構造によって右旋回性または左旋回性の円偏光成分の赤外線を選択的に反射するため、一層の選択反射層の特定波長領域における反射率は、50%程度となる。さらに、上記赤外線反射部材が反射可能な波長領域である反射帯域は選択反射層の数によって決定されるものである。そのため、同一波長領域の右旋回および左旋回の円偏光の双方を反射させる場合、あるいは、より広範囲の光を選択反射させる場合等、赤外線反射部材に、より優れた赤外線反射特性を付与するためには、複数の選択反射層を積層して用いることが必要となる。
【0008】
複数の選択反射層を積層する方法としては、複数の選択反射層の間に接着層等を介して転写することにより積層する方法(転写法)と、他の層を介在させることなく複数の選択反射層が直接的に接するように積層する方法(直接積層法)とが考えられる。これらの方法は必要に応じて使い分けることができるものであるが、製造工程の簡略化および生産性向上等の観点から、直接積層法を好適に用いることができる。
しかしながら、特定の棒状化合物を含有する選択反射層を直接積層法により積層させる場合、所望の選択反射性能を実現することが困難であった。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、コレステリック構造を形成した特定の棒状化合物を含有する選択反射層が直接積層された構成を有した場合であっても、優れた反射効率を有する赤外線反射部材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の棒状化合物を含有する選択反射層においては、直接積層して形成される場合に、右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層に対して、左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層の方が、含有される棒状化合物の配向が乱れやすい、すなわち、配向規制力が弱いことを新たに見出し、積層する選択反射層の順序を制御することにより本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、透明基板と、上記透明基板上に、右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層および左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層が直接積層されて形成される赤外線反射層と、を有する赤外線反射部材であって、上記右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層および上記左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層がコレステリック構造を形成した下記構造式(I)で表される棒状化合物を含有しており、上記赤外線反射層のうち、最も上記透明基板側に形成される選択反射層が上記右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層であることを特徴とする赤外線反射部材を提供する。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明によれば、上記赤外線反射層のうち、最も上記透明基板側に形成される選択反射層が上記右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層となることから、上記右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層上に直接積層された他の選択反射層に含有される上記棒状化合物の配向の乱れを防止することができるからである。そのため、高い反射効率を有する赤外線反射部材とすることができる。
【0014】
上記発明においては、最外層が左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層である赤外線反射層を有することが好ましい。
上記発明においては、直接積層した場合に、左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層に対して、右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層の方が高い配向規制力を有するからである。そのため、左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層上に右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層を配置しないことで、赤外線反射層全体の配向の乱れを抑制することができる。したがって、最外層を左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層とすることにより、高い配向規制力を有する赤外線反射層とすることができ、反射効率に優れた赤外線反射部材とすることができるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の赤外線反射部材は、コレステリック構造を形成した特定の棒状化合物を含有する選択反射層が直接積層された構成を有した場合であっても、優れた反射効率を有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の赤外線反射部材の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の赤外線反射部材の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の赤外線反射部材の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の赤外線反射部材について詳細に説明する。
【0018】
本発明の赤外線反射部材は、透明基板と、上記透明基板上に、右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層(以下、右円偏光選択反射層と称して説明する場合がある。)および左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層(以下、左円偏光選択反射層と称して説明する場合がある。)が直接積層されて形成される赤外線反射層と、を有する赤外線反射部材であって、上記右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層および上記左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層がコレステリック構造を形成した下記構造式(I)で表される棒状化合物を含有しており、上記赤外線反射層のうち、最も上記透明基板側に形成される選択反射層が上記右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層であることを特徴とするものである。
なお、本発明における赤外線とは、波長が780nm以上の光(電磁波)をいう。
【0019】
【化2】

【0020】
このような赤外線反射部材について図を参照しながら説明する。図1は、本発明の赤外線反射部材の一例を示す概略断面図である。図1に示される赤外線反射部材10は、透明基板1と、透明基板1上に形成される赤外線反射層2と、を有するものであり、赤外線11を反射するものである。また、赤外線反射層2は、最も透明基板1側に形成される選択反射層(以下、第1選択反射層として説明する場合がある。)である右円偏光選択反射層1R、および第1選択反射層1R上に形成される選択反射層(以下、第2選択反射層として説明する場合がある。)である左円偏光選択反射層1Lを有するものである。このとき、第2選択反射層である左円偏光選択反射層1Lが最外層となる。
【0021】
また、図2(a)、(b)は、本発明の赤外線反射部材の他の例を示す概略断面図である。赤外線反射部材10における赤外線反射層2としては、図2(a)に例示するように、第1選択反射層として右円偏光選択反射層1Rが形成され、第1選択反射層1R上に形成される第2選択反射層として右円偏光選択反射層2Rが形成され、さらに第2選択反射層2R上に最外層となる左円偏光選択反射層1Lが形成されてなるものであっても良く、図2(b)に例示するように、第1選択反射層として右円偏光選択反射層1Rが形成され、上記第1選択反射層1R上に第2選択反射層として左円偏光選択反射層1Lが形成され、さらに第2選択反射層1L上に最外層となる左円偏光選択反射層2Lが形成されてなるものであっても良い。
なお、図2において、説明していない符号は、図1と同様のものとする。
【0022】
さらに、図3(a)〜(c)は、本発明の赤外線反射部材の他の例を示す概略断面図である。赤外線反射部材10における赤外線反射層2としては、図3(a)に例示するように、第1選択反射層として右円偏光選択反射層1Rが形成され、第1選択反射層1R上に第2選択反射層として右円偏光選択反射層2Rが形成され、また第2選択反射層2R上に左円偏光選択反射層1Lが形成され、さらに左円偏光選択反射層1L上に最外層となる左円偏光選択反射層2Lが形成されてなるものであっても良い。また赤外線反射層2としては、図3(b)に例示するように、第1選択反射層として右円偏光選択反射層1Rが形成され、第1選択反射層1R上に第2選択反射層として右円偏光選択反射層2Rが形成され、また右円偏光選択反射層2R上に右円偏光選択反射層3Rが形成され、さらに右円偏光選択反射層3R上に最外層となる左円偏光選択反射層1Lが形成されてなるものであっても良い。さらに赤外線反射層2としては、図3(c)に例示するように、第1選択反射層として右円偏光選択反射層1Rが形成され、第1選択反射層1R上に第2選択反射層として左円偏光選択反射層1Lが形成され、第2選択反射層1L上に左円偏光選択反射層2Lが形成され、さらに左円偏光選択反射層2L上に最外層となる左円偏光選択反射層3Lが形成されてなるものであっても良い。
なお、図3において説明していない符号は、図1と同様のものとする。
【0023】
本発明によれば、上記赤外線反射層のうち、第1選択反射層が上記右円偏光選択反射層となることから、上記右円偏光選択反射層上に直接積層された他の選択反射層に含有される上記棒状化合物の配向の乱れを防止することができるからである。そのため、配向規制力に優れた赤外線反射層を形成することができることから、高い反射効率を有する赤外線反射部材とすることができる。
以下、本発明の赤外線反射部材の各構成について説明する。
【0024】
1.赤外線反射層
本発明に用いられる赤外線反射層について説明する。本発明における赤外線反射層は、右円偏光選択反射層および左円偏光選択反射層が直接積層されて形成されるものであり、第1選択反射層が上記右円偏光選択反射層となるものである。
【0025】
(1)赤外線反射層の構成
本発明における赤外線反射層は、上述したように右円偏光選択反射層および左円偏光選択反射層を有するものであり、すなわち、上記赤外線反射層を構成する右円偏光選択反射層および左円偏光選択反射層は、層の一方の面から入射する光(電磁波)のうち右円偏光成分または左円偏光成分を各々選択反射し、残りの成分を透過する機能を有する。したがって、上記右円偏光選択反射層および上記左円偏光選択反射層を有することにより、選択反射特性に優れた赤外線反射層とすることが可能である。
【0026】
また、本発明における赤外線反射層は、最も透明基板側に形成される第1選択反射層が右円偏光選択反射層となるものである。ここで、上記構造式(I)で表される棒状化合物を含有する右円偏光選択反射層および左円偏光選択反射層を同様の膜厚となるように形成した場合、左円偏光選択反射層に比べて、右円偏光選択反射層の方が高い配向規制力を有する。そのため、上記第1選択反射層を右円偏光選択反射層とすることによって第1選択反射層上に他の選択反射層を直接積層して赤外線反射層を形成する際に、上層となる選択反射層内に含有される棒状化合物の配向を容易に制御することができるからである。そのため、高い配向制御力を有する赤外線反射層を形成することができる。
【0027】
上記赤外線反射層としては、上述したように、右円偏光選択反射層および左円偏光選択反射層を有するものであれば特に限定されるものではないが、最外層が左円偏光選択反射層であることが好ましい。
上述したように、本発明に用いられる選択反射層としては、左円偏光選択反射層と比較して、右円偏光選択反射層の方が高い配向規制力を有することから、左円偏光選択反射層上に右円偏光選択反射層を配置しないことで、配向の乱れを抑制することができる。したがって、最外層を左円偏光選択反射層とすることにより、高い配向規制力を有する赤外線反射層とすることができるからである。
ここで、最外層とは、赤外線反射層のうち最も透明基板から離れた位置に形成される選択反射層を指すものであり、例えば、赤外線反射層が第1選択反射層および上記第1選択反射層上に形成される第2選択反射層から構成される場合、第2選択反射層を示すものである(図1参照)。
【0028】
また本発明における赤外線反射層の構成としては、少なくとも上記右円偏光選択反射層および上記左円偏光選択反射層を1層ずつ有するものであれば特に限定されるものではなく、上記右円偏光選択反射層を複数有するものであっても良く、上記左円偏光選択反射層を複数有するものであっても良く、あるいは上記右円偏光選択反射層および上記左円偏光選択反射層の両方を複数ずつ有するものであっても良い。
【0029】
上記赤外線反射層が、上記右円偏光選択反射層および上記左円偏光選択反射層の少なくとも一方の選択反射層を複数有する場合、上記選択反射層の構成としては、第1選択反射層が右円偏光選択反射層となるものであれば特に限定されるものではないが、同方向の円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層は連続して形成されることが好ましい。同方向の円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層を連続して積層することにより、選択反射層を直接積層させることに起因する選択反射層に含有される棒状化合物の配向の乱れを抑制することができるからである。
したがって、上述したように形成することにより、左円偏光選択反射層上に右円偏光選択反射層を配置しない赤外線反射層を形成することができるため、配向の乱れを抑制することができ、高い配向規制力を有する赤外線反射層を形成することができる。
【0030】
また、上記赤外線反射層の構成としては、上述したように、少なくとも上記右円偏光選択反射層および上記左円偏光選択反射層を1層ずつ有するものであれば限定されるものではなく、所望の赤外線反射機能に応じて適宜設定されるものである。また、上記赤外線反射層を構成する右円偏光選択反射層および左円偏光選択反射層の数が同一であっても良く(図3(a)参照)、異なるものであっても良い(図2(a)、(b)および図3(b)、(c)参照)。
【0031】
(2)選択反射層
次に、本発明に用いられる選択反射層について説明する。本発明における選択反射層は、右円偏光成分または左円偏光成分の赤外線を反射するものであり、コレステリック構造を形成した下記構造式(I)で表される棒状化合物を含有するものである。
【0032】
【化3】

【0033】
ここで、一般的な選択反射層は、上記棒状化合物のコレステリック構造を形成するために、カイラル剤を含有する。本発明における選択反射層にも、通常、このようなカイラル剤が用いられる。
【0034】
本発明に用いられるカイラル剤としては、上述した棒状化合物に所望の旋回性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。
右旋回性を付与するカイラル剤は、上述した棒状化合物に右旋回性を付与してコレステリック構造を有するものである。このようなカイラル剤としては、例えば、下記の一般式(A)、(B)、(C)で表されるような、分子内に軸不斉を有する低分子化合物を用いることが好ましい。
【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
【化6】

【0038】
上記一般式(A)または(B)において、Rは水素またはメチル基を示す。Yは上記に示す式(i)〜(xxiv)の任意の一つであるが、中でも式(i)、(ii)、(iii)、(v)、および(vii)のいずれか一つであることが好ましい。また、アルキレン基の鎖長を示すcおよびdは、それぞれ個別に2〜12の範囲で任意の整数を取り得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。また、カイラル剤として、以下のような化学式で表されるものも用いることができる。
【0039】
【化7】

【0040】
また左旋回性を付与するカイラル剤は、上記棒状化合物に左旋回性を与えて、コレステリック構造を形成するものである。このようなカイラル剤は、特に限定されるものではないが、例えばADEKA社製CNL−716等を挙げることができる。
【0041】
本発明においては上記カイラル剤の含有量によって、選択反射層が反射する光の波長を調整することができる。棒状化合物および上記カイラル剤の合計に対する上記カイラル剤の割合は、例えば、1.0質量%〜10.0質量%の範囲内、中でも2.0質量%〜5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0042】
また、本発明における選択反射層としては、上述した棒状化合物およびカイラル剤以外に、必要に応じて他の添加剤を含有しても良く、例えば、レベリング剤等を挙げることができる。
【0043】
本発明に用いられる選択反射層の厚みとしては、所定の波長領域の赤外線を選択的反射する機能を実現できる範囲内であれば特に限定されるものではなく、上記棒状化合物の種類等に応じて適宜決定される。なかでも本発明における選択反射層の厚みとしては、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、5μm〜40μmの範囲内であることがより好ましく、10μm〜30μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0044】
また、上記選択反射層の厚みとしては、通常、らせんピッチが1ピッチ以上、好ましくは5ピッチ以上となるように形成されることが好ましい。具体的なピッチ数は、所望する選択反射層の厚さから計算することができる(K.Kashima et al. ,IDW ’02, 413(2002)参照)。
ここで、コレステリック構造とは、棒状化合物が透明基板表面の法線方向に、多層構造を形成する一定周期(ピッチ)のらせん構造を指すものであり、1ピッチとは棒状化合物がらせん構造を描いて360°回転する軸の長さであるが、実際には180°回転するごとに繰り返しの層構造を形成することから、層間ピッチは、棒状化合物のらせんピッチの1/2であり、例えば断面観察した際に見える層間ピッチが250nmである場合、棒状化合物のピッチは500nmとなる。
【0045】
2.透明基板
次に、本発明に用いられる透明基板について説明する。本発明に用いられる透明基板は、上述した赤外線反射層を支持できるものであれば特に限定されるものではない。中でも本発明に用いられる透明基板は、可視光領域における透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ここで、透明基板の透過率は、JIS K7361−1(プラスチック−透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
【0046】
上記透明基板としては、所望の透明性を具備するものであれば、可撓性を有するフレキシブル材であっても良く、可撓性のないリジッド材であっても良い。このような透明基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、(メタ)アクロニトリル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の樹脂からなるものを挙げることができる。なかでも本発明においては、ポリエチレンテレフタレートからなる透明基板を用いられることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは汎用性が高く、入手が容易であるからである。
また、透明基板としてガラス等のリジット材を用い、上述した赤外線反射層の片面または両面にリジット材を配置しても良い。
【0047】
また本発明に用いられる透明基板としては、配向性を有するものであることが好ましい。透明基板が配向性を有することにより、上述した赤外線反射層を構成する選択反射層の配向を維持することができるからである。
このような配向性を有する透明基板としては、例えば、高分子延伸フィルム等を挙げることができ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂からなる延伸フィルム等を好適に用いることができる。
【0048】
なお、透明基板の厚みについては、赤外線反射部材の用途および透明基板を構成する材料等に応じて適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。
【0049】
3.赤外線反射部材
次に、本発明の赤外線反射部材について説明する。上述したように、本発明の赤外線反射部材は、透明基板と、赤外線反射層とを有するものであるが、必要に応じて他の構成を有しても良い。このような他の構成としては、本発明の赤外線反射部材の用途等に応じて所望の機能を有する構成を適宜選択して用いることができ、例えば、赤外線吸収層、配向膜、ガスバリア層、紫外線吸収層、断熱層、低放射層等を挙げることができる。
【0050】
このような赤外線吸収層としては、所望の赤外線吸収性を発揮できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、本発明に用いられる赤外線反射層がガラス板に挟持され、赤外線吸収層とガラス板との間にポリビニルブチラール(PVB)等の中間層が用いられる場合に、PVB層内に赤外線吸収剤を含有させたもの等を挙げることができる。
また、上記配向膜としては、公知の配向膜を用いることができるが、上述した透明基板が配向性を有するものである場合、配向膜の機能を兼ねることも可能である。
【0051】
また、本発明の赤外線反射部材としては、ガラス等のリジット材が、上述した赤外線反射層の両面または片面に配置されたものであっても良い。なお、上記赤外線反射層の片面のみに配置される場合、上記リジット材を配置していない側に上記ガスバリア層を形成しても良い。
【0052】
本発明の赤外線反射部材の製造方法としては、上述した赤外線反射部材を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、棒状化合物およびカイラル剤を含有する選択反射層形成用塗工液を調製し、透明基板上に順次塗布し、必要に応じて紫外線照射等の硬化処理を施す方法等を挙げることができる。
【0053】
上記透明基板上に選択反射層形成用塗工液を塗布する方法としては、一般的な塗布方法を用いることができ、具体的にはバーコート法、スピンコート法、ブレードコート法等を挙げることができる。また、通常は、透明基板上に塗布した選択反射層形成用塗工液を乾燥し、溶媒を除去することにより、選択反射層形成用塗工液からなる塗膜を得る。
【0054】
選択反射層形成用塗工液からなる塗膜に照射するエネルギーの種類としては、棒状化合物の分子内に含まれる重合性官能基の種類によって異なるものであるが、例えば、紫外線、電子線等の電離放射線、および熱等を挙げることができる。エネルギー照射の強度としては、塗膜を実質的に硬化できる範囲内であれば特に限定されるものではなく、棒状化合物の種類等によって適宜決定されるものである。上記エネルギーとして紫外線が用いられる場合は、通常、照射強度は、25mJ/cm〜800mJ/cmの範囲内であることが好ましく、25mJ/cm〜400mJ/cmの範囲内であることがより好ましく、50mJ/cm〜200mJ/cmの範囲内であることが特に好ましい。
上記照射強度が上記範囲に満たない場合、選択反射層に含まれる棒状化合物の重合が不十分になり、結果として後工程で選択反射層を形成する際に、下層となる選択反射層における棒状化合物のコレステリック構造が乱される可能性を有するからである。また一方、上記照射強度が上記範囲を超える場合、選択反射層に含有されるレベリング剤が選択反射層の表面にブリードアウトして、後工程で選択反射層を形成する際に塗工液をはじいてしまう可能性を有するからである。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。^
【0057】
(塗布液の調製)
下記に示す組成の円偏光選択反射層形成用の塗布液(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、および(F)をそれぞれ調製した。
【0058】
<右円偏光選択反射層形成用塗布液(A)>
・棒状化合物 (下記構造式(I)、以下同じ) 95.3質量%
・右旋回性カイラル剤 CNL715(ADEKA社製、以下同じ) 4.7質量%
・光重合開始剤 イルガキュア184 5質量%
・レベリング剤 BYK−361N 0.03質量%
・シクロヘキサノン 420.12質量%
【0059】
<右円偏光選択反射層形成用塗布液(B)>
・棒状化合物 95.81質量%
・右旋回性カイラル剤 CNL715 4.19質量%
・光重合開始剤 イルガキュア184 5質量%
・レベリング剤 BYK−361N 0.03質量%
・シクロヘキサノン 420.12質量%
【0060】
<右円偏光選択反射層形成用塗布液(C)>
・棒状化合物 96.4質量%
・右旋回性カイラル剤 CNL715 3.6質量%
・光重合開始剤 イルガキュア184 5質量%
・レベリング剤 BYK−361N 0.03質量%
・シクロヘキサノン 420.12質量%
【0061】
<左円偏光選択反射層形成用塗布液(D)>
・棒状化合物 95.3質量%
・左旋回性カイラル剤 CNL716(ADEKA社製、以下同じ) 4.7質量%
・光重合開始剤 イルガキュア184 5質量%
・レベリング剤 BYK−361N 0.03質量%
・シクロヘキサノン 420.12質量%
【0062】
<左円偏光選択反射層形成用塗布液(E)>
・棒状化合物 95.81質量%
・左旋回性カイラル剤 CNL716 4.19質量%
・光重合開始剤 イルガキュア184 5質量%
・レベリング剤 BYK−361N 0.03質量%
・シクロヘキサノン 420.12質量%
【0063】
<左円偏光選択反射層形成用塗布液(F)>
・棒状化合物 96.4質量%
・左旋回性カイラル剤 CNL716 3.6質量%
・光重合開始剤 イルガキュア184 5質量%
・レベリング剤 BYK−361N 0.03質量%
・シクロヘキサノン 420.12質量%
【0064】
【化8】

【0065】
[実施例1]
透明基板として、ポリエチレンテレフタレートからなる二軸延伸フィルムを準備した。次に、上記の二軸延伸フィルムに、配向膜を介さずにバーコーターにて、第1選択反射層用に上記塗布液(A)を塗布した。次いで、100℃で2分間保持し、塗布液(A)中のシクロヘキサノンを蒸発させて、棒状化合物を配向させた。そして、得られた上記塗膜に、紫外線照射装置(フュージョン社製、Hバルブ)を用いて紫外線を100mJ/cm(紫外線照射量はオーク製作所社製、UV−351にて測定)照射し、塗膜中の光重合開始剤から発生するラジカルによって配向した棒状化合物のアクリレートおよびカイラル剤のアクリレートを3次元架橋してポリマー化し、二軸延伸フィルム上にコレステリック構造を固定化することにより、第1選択反射層(膜厚5μm)を形成した。
【0066】
さらに、上記第1選択反射層の上に、バーコーターにて塗布液(D)を塗布し、上記第1選択反射層と同様にして第2選択反射層(膜厚5μm)を形成し、赤外線反射部材を得た。
【0067】
[比較例1]
第1選択反射層用に上記塗布液(D)、第2選択反射層用に上記塗布液(A)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、第1選択反射層(膜厚5μm)、第2選択反射層(膜厚5μm)を備える赤外線反射部材を得た。
【0068】
[実施例2]
第1選択反射層用に上記塗布液(A)、第2選択反射層用に上記塗布液(B)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、第1選択反射層(膜厚5μm)および第2選択反射層(膜厚5μm)を形成した。
【0069】
さらに上記第2選択反射層の上にバーコーターにて、第3選択反射層用に上記塗布液(D)を塗布した。次いで、第2選択反射層と同様にして第3選択反射層(膜厚5μm)を形成し、赤外線反射部材を得た。
【0070】
[実施例3]
第1選択反射層用に上記塗布液(A)、第2選択反射層用に上記塗布液(D)および第3選択反射層用に上記塗布液(E)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、赤外線反射部材を得た。
【0071】
[実施例4]
第1選択反射層用に上記塗布液(A)、第2選択反射層用に上記塗布液(D)および第3選択反射層用に上記塗布液(B)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、赤外線反射部材を得た。
【0072】
[実施例5]
実施例2と同様にして、第1選択反射層(膜厚5μm)、第2選択反射層(膜厚5μm)および第3選択反射層(膜厚5μm)を形成した。
【0073】
さらに上記第3選択反射層の上にバーコーターにて、第4選択反射層用に上記塗布液(E)を塗布した。次いで、第3選択反射層作製と同じ方法で第4選択反射層(膜厚5μm)を形成し、赤外線反射部材を得た。
【0074】
[実施例6]
第1選択反射層用に上記塗布液(A)、第2選択反射層用に上記塗布液(B)、第3選択反射層用に上記塗布液(C)および第4選択反射層用に上記塗布液(D)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、赤外線反射部材を得た。
【0075】
[実施例7]
第1選択反射層用に上記塗布液(A)、第2選択反射層用に上記塗布液(D)、第3選択反射層用に上記塗布液(E)および第4選択反射層用に上記塗布液(F)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、赤外線反射部材を得た。
【0076】
[評価]
実施例1〜7および比較例1において作製した電磁波反射フィルムについて分光光度計(島津製作所製UV−3100PC)を用いて赤外線領域の反射率を測定した。また、ヘイズメーター(村上色彩研究所製HM−150)を用いてヘイズを測定した。その結果を下記表1に示す。
ここで、下記表1における反射率/ピーク波長における評価は、以下の通りである。すなわち、すべての選択反射層の反射率が40%以上を示すと考えられる赤外線反射部材を○、少なくとも1つ以上の選択反射層の反射率が30%以上40%未満を示すと考えられる赤外線反射部材を△、すべての選択反射層の反射率が30%未満を示すと考えられる赤外線反射部材を×として評価している。また、表1においては、赤外線反射部材のヘイズ値の評価として、上記ヘイズ値が1.0%未満である場合を○、上記ヘイズ値が1.0%以上1.5%未満である場合を△、ヘイズ値が1.5%以上である場合を×として評価している。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果から、実施例1および比較例1で得られた赤外線反射部材を比較した。実施例1で得られた赤外線反射部材では、波長780nmの赤外線の反射率が80%以上となることが確認できた。これは、最も透明基板側に形成される選択反射層が右円偏光選択反射層1Rであることから、選択反射層を積層しても配向の乱れを防ぐことができ、選択反射層1Rおよび1Lのいずれの選択反射層も40%以上の高い反射率を示すことができたためと考えられる。また一方、比較例1で得られた赤外線反射部材では、波長780nmの赤外線の反射率が40%であることが確認できた。これは、最も透明基板側に形成される選択反射層が左円偏光選択反射層1Lであることから、選択反射層を積層することにより棒状化合物の配向が乱れたためと考えられる。これより、最も透明基板側に形成される選択反射層が右円偏光選択反射層であることにより、赤外線反射部材の反射効率が向上することが示唆された。
【0079】
また、実施例3および実施例4で得られた赤外線反射部材を比較すると、実施例3および実施例4のいずれも1層目および2層目の選択反射層は同様であるが、最外層である3層目の選択反射層が異なる。すなわち、実施例3では左円偏光選択反射層(1L)であり、実施例4では右円偏光選択反射層(2R)である。このとき、波長880nmにおける赤外線の反射率は、実施例3では40%以上であるのに対し、実施例4では40%未満であることが確認できる。これは、直接積層した場合に、左円偏光選択反射層に対して、右円偏光選択反射層の方が高い配向規制力を有すると考えられるため、左円偏光選択反射層上に右円偏光選択反射層を配置しないことで、赤外線反射部材の配向の乱れを抑制することができると考えられる。したがって、最外層を左円偏光選択反射層とすることにより、反射効率に優れた赤外線反射部材とすることができることが示唆された。
【符号の説明】
【0080】
1 … 透明基板
2 … 赤外線反射層
10 … 赤外線反射部材
11 … 赤外線
1R、2R、3R … 右円偏光選択反射層
1L、2L、3L … 左円偏光選択反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板上に、右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層および左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層が直接積層されて形成される赤外線反射層と、
を有する赤外線反射部材であって、
前記右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層および前記左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層がコレステリック構造を形成した下記構造式(I)で表される棒状化合物を含有しており、
前記赤外線反射層のうち、最も前記透明基板側に形成される選択反射層が前記右円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層であることを特徴とする赤外線反射部材。
【化1】

【請求項2】
最外層が左円偏光成分の赤外線を反射する選択反射層である赤外線反射層を有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−76936(P2013−76936A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217990(P2011−217990)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】