説明

赤外線吸収性組成物、赤外線吸収性インキ、記録物、画像記録方法、及び画像検出方法

【課題】耐光性に優れた赤外線吸収性組成物の提供。
【解決手段】下記(A)成分と下記(B)成分とを含有し、且つ(B)成分の赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が50ppm以上100000ppm以下である赤外線吸収性組成物。
(A)特定の一般式で表されるアリールチオ基を有する銅フタロシアニン赤外線吸収色素より選択される少なくとも1種
(B)特定の一般式で表されるアリールチオ基を有し金属を含まないフタロシアニン赤外線吸収色素、又は特定の一般式で表されるアリールチオ基を有し銅以外の金属を含むフタロシアニン赤外線吸収色素からなる群より選択される少なくとも1種

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収性組成物、並びにこれを用いた赤外線吸収性インキ、記録物、画像記録方法、及び画像検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実質的に可視光を吸収しないが、赤外光を吸収する近赤外線吸収色素は、近赤外線吸収フィルター等、種々のオプトエレクトロニクス製品に広く用いられている。
【0003】
オプトエレクトロニクス製品には、例えば文字や画像の認証などのセキュリティ関連機器などのように、屋外で使用される等の使用態様によって、高温、高湿、又は光照射下に曝される場合がある。そのため、用いられる近赤外線吸収色素は、長期間に亘って安定であることが重要であり、経時で分解する等して性能低下を来しにくい安定性が求められる。特に、色素自体が光に対する耐性を具えていることが、製品品質を長期間高く維持する上で不可欠である。
【0004】
上記に関連する技術として、耐光性、耐候性、耐熱性に優れた近赤外線吸収剤として、特定の構造を持つナフタロシアニン近赤外線吸収剤やアルキルフタロシアニン近赤外線吸収剤が提案されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0005】
また、可視光に殆ど吸収を示さない近赤外線吸収性のインキとして、特定のナフタロシアニン化合物を含むことにより耐光性に優れる近赤外線吸収インキが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−43269号公報
【特許文献2】特開平2−138382号公報
【特許文献3】特開平3−79683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の赤外線吸収剤では、吸収波長や耐候性など、赤外線吸収剤に要求される性能は充分でなく、特に耐光性は更なる性能向上が求められている。
【0008】
しかし、これまで光による色素分解を抑制する技術については種々提案されているものの、光による色素の分解が充分に抑制できるまでに至っていないのが実状である。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、耐光性に優れた赤外線吸収性組成物、並びに長期に亘り安定的に画像情報の読み取りが可能な赤外線吸収性インキ、記録物、画像記録方法、及び画像検出方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記(A)成分と下記(B)成分とを含有し、且つ下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が50ppm以上100000ppm以下である赤外線吸収性組成物である。
(A)下記一般式(1)で表される赤外線吸収色素より選択される少なくとも1種
(B)下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される少なくとも1種
【0011】
【化1】



【0012】
〔一般式(1)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、それぞれ独立にアリール基を表す。〕
【0013】
【化2】



【0014】
〔一般式(2)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、それぞれ独立にアリール基を表す。〕
【0015】
【化3】



【0016】
〔一般式(3)中、Mは、水素原子及び1価の金属原子からなる群より選択される2個の原子、2価の金属原子、又は3価もしくは4価の金属原子を含む2価の置換金属原子を表す。但し前記Mとしては、銅原子を除く。Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、それぞれ独立にアリール基を表す。〕
【0017】
<2> 前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が100ppm以上100000ppm以下である前記<1>に記載の赤外線吸収性組成物である。
<3> さらに有機溶剤を含む前記<1>又は<2>に記載の赤外線吸収性組成物である。
<4> 前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が、前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素の含有量に対し0.0001倍以上0.1倍以下である前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の赤外線吸収性組成物である。
【0018】
<5> 前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の赤外線吸収性組成物を含有する赤外線吸収性インキである。
<6> 被記録媒体上に前記<5>に記載の赤外線吸収性インキからなる画像を有する記録物である。
<7> 被記録媒体上に前記<5>に記載の赤外線吸収性インキを付与して画像を形成する工程を有する画像記録方法である。
<8> 前記<7>に記載の画像記録方法により被記録媒体上に形成された前記画像の画像情報を赤外線検出器により検出する工程を有する画像検出方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐光性に優れた赤外線吸収性組成物を提供することができる。また、
本発明によれば、長期に亘り安定的に画像情報の読み取りが可能な赤外線吸収性インキ、記録物、画像記録方法、及び画像検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の赤外線吸収性組成物、並びに赤外線吸収性インキ、記録物、画像記録方法、及び画像検出方法について詳細に説明する。
【0021】
<赤外線吸収性組成物>
本発明に係る赤外線吸収性組成物は、下記(A)成分と下記(B)成分とを含有し、且つ下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が50ppm以上100000ppm以下との構成を有する。
(A)以下に示す一般式(1)で表される赤外線吸収色素より選択される少なくとも1種
(B)以下に示す一般式(2)又は以下に示す一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される少なくとも1種
【0022】
本発明においては、赤外線吸収剤として、前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素より選択される少なくとも1種((A)成分)に加え、前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される少なくとも1種((B)成分)を含有し、且つ前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素の総含有量を一定量に制御することで、組成物又はそれを用いたインキ等の液中あるいはそれによる画像中において、光に対する耐性(耐光性)を飛躍的に向上させることができる。
【0023】
(a)一般式(1)で表される赤外線吸収色素((A)成分)
本発明の赤外線吸収性組成物は、下記一般式(1)で表される赤外線吸収色素より選択される少なくとも1種((A)成分)を含有する。
【0024】
【化4】



【0025】
一般式(1)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、それぞれ独立にアリール基を表す。Ar〜Arは、同一でもよいし、互いに異なる基であってもよい。
【0026】
前記Ar〜Arで表されるアリール基は、無置換でも置換基を有していてもよく、総炭素数6〜16のアリール基が好ましく、総炭素数6〜12のアリール基がより好ましい。中でも、アルキルフェニル基及び/又はアルコキシフェニル基(好ましくは、いずれもアルキル部位の炭素数は1〜10)が好ましい。アリール基の例としては、フェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−オクチルオキシフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、2,4−ジメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、ナフチル基が特に好ましい。
【0027】
以下、前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素の具体例を示す。但し、本発明においては、これらの化合物に制限されるものではない。
【0028】
【化5】



【0029】
(b)一般式(2)又は一般式(3)で表される赤外線吸収色素((B)成分)
本発明の赤外線吸収性組成物は、下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される少なくとも1種((B)成分)を含有する。
【0030】
【化6】



【0031】
一般式(2)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、前記一般式(1)中のものと同義である。Ar〜Arは、同一でもよいし、互いに異なる基であってもよい。
【0032】
前記一般式(2)において前記Ar〜Arで表されるアリール基としては、前記一般式(1)におけるAr〜Arで表されるアリール基として列挙したものと同様のものが挙げられる。それらの中でも、2,4−ジメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、ナフチル基が特に好ましい。
【0033】
以下、前記一般式(2)で表される赤外線吸収色素の具体例を示す。但し、本発明においては、これらの化合物に制限されるものではない。
【0034】
【化7】



【0035】
【化8】



【0036】
一般式(3)中、Mは、水素原子及び1価の金属原子からなる群より選択される2個の原子、2価の金属原子、又は3価もしくは4価の金属原子を含む2価の置換金属原子を表す。但し前記Mとしては、銅原子を除く。Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、前記一般式(1)中のものと同義である。尚、Ar〜Arは、同一でもよいし、互いに異なる基であってもよい。
【0037】
前記一般式(3)において、好ましいMとしては、2個の水素原子、2価の金属原子、2価の金属酸化物、2価の金属水酸化物、又は2価の金属塩化物が挙げられる。
【0038】
Mの具体例としては、Li、Na、Ca、Al(OH)、AlCl、FeCl、Fe(OH)、VO、TiO、Zn、Mg、Si、Sn、Rh、Pt、Pd、Mo、Mn、Pb、Ni、Mg、Sn、Pd、Co、Fe、InCl、TiCl、SnCl、SiCl、GeCl、Si(OH)、H等が挙げられる。
中でも、Mは、Li、Na、Ca、Al(OH)、AlCl、FeCl、Fe(OH)である態様が好ましい。
【0039】
前記一般式(3)において前記Ar〜Arで表されるアリール基としては、前記一般式(1)におけるAr〜Arで表されるアリール基として列挙したものと同様のものが挙げられる。それらの中でも、2,4−ジメチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、ナフチル基が特に好ましい。
【0040】
以下、前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素の具体例を示す。但し、本発明においては、これらの化合物に制限されるものではない。
【0041】
【化9】



【0042】
本発明の赤外線吸収性組成物は、前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が50ppm以上100000ppm以下であり、更に100ppm以上100000ppm以下が好ましく、120ppm以上100000ppm以下がより好ましい。更には200ppm以上50000ppm以下が好ましく、250ppm以上10000ppm以下が特に好ましい。
上記総含有量が50ppm未満であると、良好な分散安定性が得られず、画像記録した際の読み取り性に劣り、一方100000ppmを超えると、良好な耐光性が得られず、画像記録した際の読み取り性に劣るとの欠点がある。
【0043】
(本発明における赤外線吸収色素の合成方法)
前記(A)成分および(B)成分を含有する本発明における赤外線吸収色素は、下記一般式(X)で表される化合物を原料として合成される。好ましくは、有機溶剤中、下記一般式(X)で表される化合物をハロゲン化リチウムの存在下で反応させ、前記赤外線吸収材料を合成する工程を設ける方法である。
原料として前記一般式(X)で表される化合物を用いる合成方法は下記式で表される。
【0044】
【化10】



【0045】
一般式(X),一般式(2a),及び一般式(1a)中、ArおよびAr10は、各々独立に、置換もしくは無置換のアリール基を表す。
【0046】
一般式(X)の化合物から一般式(2a)の化合物を合成する合成工程は、好ましくは、有機溶剤中、ハロゲン化リチウムの存在下で反応させることにより収率よく行うことができる。更に好ましくは、アルコラート(例えば、ナトリウムアルコラート、カリウムアルコラート等)及びハイドロキノンの共存下で行われる。
例えば、アルコラートとしてt−ブタノールアルコラート(t−BuOM、M:アルカリ金属(例えば、Na,K等))を用いる場合、t−BuOMの好ましい量としては、原料である一般式(X)の化合物に対し0.1倍モル量以上20倍モル量以下が好ましく、更には1倍モル量以上8倍モル量以下がより好ましく、2倍モル量以上4倍モル量以下が特に好ましい。また、ハロゲン化リチウムの好ましい量としては、原料である一般式(X)の化合物に対し0.1倍モル量以上50倍モル量以下が好ましく、更には1倍モル量以上15倍モル量以下がより好ましく、3倍モル量以上10倍モル量以下が特に好ましい。
【0047】
反応の溶媒としては炭素数1〜20のアルコールを用いることが好ましく、更には炭素数1〜10のアルコールを用いることが好ましく、更に好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、i−ペンタノール、t−ペンタノール、1−オクタノール、2−オクタノールが挙げられ、特に好ましくは1−ブタノールである。溶媒として用いるアルコールの量としては、原料である一般式(X)で表されるフタロニトリル化合物に対して0.1倍量以上50倍量以下が好ましく、更には1倍量以上15倍量以下がより好ましく、2倍量以上6倍量以下が特に好ましい。またこれらの溶媒に対して、更にアミド系溶媒(例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン)、スルホン系溶媒(例えばスルホラン)、スルホキシド系溶媒(例えばジメチルスルホキシド)、エーテル系溶媒(例えばジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル)、ケトン系溶媒(例えばアセトン、シクロヘキサノン)、炭化水素系溶媒(例えばトルエン、キシレン)、ハロゲン系溶媒(例えばテトラクロロエタン,クロロベンゼン)、ピリジン系溶媒(例えばピリジン、γ−ピコリン、2,6−ルチジン)を混合しても好ましい。
【0048】
更に、ハイドロキノンの存在下で反応を行うのが好ましい。ハイドロキノンの好ましい量としては、原料である一般式(X)で表される化合物に対し0.05倍モル量以上5倍モル量以下が好ましく、更には0.1倍モル量以上3倍モル量以下がより好ましく、0.2倍モル量以上2倍モル量以下が特に好ましい。ハイドロキノンの添加は、原料である一般式(X)で表される化合物、ハロゲン化リチウム、t−BuOMの投入時であっても好ましく、昇温終了後であっても、反応開始〜反応終了直前のいつであっても好ましい。
【0049】
反応温度は好ましくは−30℃〜250℃、より好ましくは0℃〜200℃、更に好ましくは20℃〜150℃、特に好ましくは50℃〜120℃であり、反応時間は5分〜30時間の範囲が好ましい。
【0050】
一般式(2a)の化合物から一般式(1a)の化合物を合成する合成工程は、従来知られているフタロシアニン核への銅(Cu)原子を導入する反応により行うことが出来る。例えば、特開昭60−209583号公報に開示されている条件により行うことが出来る。
【0051】
尚、上記合成の各工程においては、冷却や洗浄のために水が用いられる。この際、前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素((A)成分)のみでなく、前記一般式(2)で表される赤外線吸収色素や前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素((B)成分)を含有し、且つ前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量を50ppm以上100000ppm以下に調整する観点から、前記水として水道水を用いることが好ましい。
【0052】
尚、本発明の赤外線吸収性組成物中においては、前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量の、前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素の含有量に対する比率(質量基準)が、0.0001倍以上0.1倍以下であることが好ましい。更には0.001倍以上0.05倍以下がより好ましく、0.002倍以上0.01倍以下が特に好ましい。上記比率が0.0001倍以上であることにより、良好な分散性が得られ、画像記録した際の読み取り性に優れる。一方0.1倍以下であることにより、耐光性の点で有利である。
【0053】
また、本発明の赤外線吸収性組成物中における前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素の含有量としては、組成物全質量に対して、0.1〜80質量%が好ましく、1〜70質量%がより好ましい。前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素の含有量が0.1質量%以上であると、画像記録した際の読み取り性に優れるとの点で有利であり、一方80質量%以下であると、インキの分散安定性の点で有利である。
【0054】
また、本発明の赤外線吸収性組成物は有機溶剤を含んでもよい。さらに本発明の赤外線吸収性組成物は、用途や使用環境などの諸条件又は必要に応じて、樹脂を用いて構成することができ、その他、界面活性剤、他の溶媒、樹脂の硬化剤などの他の成分を用いて構成されてもよい。
【0055】
(c)有機溶剤
本発明の赤外線吸収性組成物は有機溶剤を含有してもよい。
本発明における有機溶剤としては、例えば、芳香族もしくは脂肪族の炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコール等、及び液状の重合性化合物などを挙げることができる。
【0056】
前記芳香族もしくは脂肪族の炭化水素としては、例えば、n−ヘキサン、n−オクタン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ベンゼン等が挙げられる。
【0057】
前記ケトンとしては、例えば、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン等が挙げられる。
【0058】
前記エステルとしては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BMGAC)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)等が挙げられる。
【0059】
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル等が挙げられる。
【0060】
前記アルコールとしては、例えば、n−ブタノール、n−ヘキサノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(EDG)、エチレングリコールモノエチルエーテル(EMG)等が挙げられる。
【0061】
前記重合性化合物は、エチレン性二重結合等の重合性基を有するモノマー化合物であり、例えば、(メタ)アクリル系モノマーなどを挙げることができる。
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸アリル等が挙げられる。
【0062】
前記重合性化合物として上市されている市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、日本化薬(株)製のカヤラッドシリーズ(例えば、カヤラッドTMPTA、同DPHA、同TPGDAなど)を用いることができる。
【0063】
尚、有機溶剤は、1種を単独で用いても2種以上の有機溶剤を併用してもよい。
本発明における有機溶剤の赤外線吸収性組成物中における含有量としては、前記本発明における赤外線吸収色素(前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素、一般式(2)又は一般式(3)で表される赤外線吸収色素を含む全ての赤外線吸収色素)の含有量に対して、1〜1,000,000質量%が好ましく、10〜500,000質量%がより好ましい。有機溶剤の含有量は、1質量%以上であると、赤外線吸収色素の分散性及びその経時での安定性が良好であり、1,000,000質量%以下であると、所望の赤外吸収の読み取り感度の点で有利である。
【0064】
(d)樹脂
本発明の赤外線吸収性組成物は、樹脂を含有してもよい。樹脂には、特に制限はなく、用途や目的などに応じて選択することができる。
【0065】
樹脂の例としては、ロジン及び変性ロジン並びにその誘導体ロジン及びその変性体、石油樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂及びその変性体を好適に挙げることができる。
【0066】
前記ロジンは、ロジン酸を主成分とする天然樹脂である。変性ロジン及び変性ロジンの誘導体としては、例えば、重合ロジン(例えば、ロジン酸エステル樹脂等)、不均化ロジン、水添ロジン、マレイン酸変性ロジン等が挙げられる。
【0067】
前記石油樹脂は、ナフサを分解した際の炭素数の多い不飽和化合物を重合したもので、C5留分を原料とする脂肪族系、C9留分を原料とする芳香族系、共重合系が含まれる。石油樹脂としては、例えば、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、芳香族系石油樹脂などが挙げられる。
【0068】
前記ジシクロペンタジエン樹脂の変性体としては、例えば、不飽和ポリエステル変性、フェノール変性などの変性体が挙げられる。
【0069】
樹脂の赤外線吸収性組成物中における含有量としては、組成物の全固形分に対して、質量比で1%以上99%以下が好ましく、10%以上98%以下がより好ましい。樹脂の含有量は、1質量%以上であると、印刷物の耐溶剤性の点で有利あり、印刷物の赤外光による読み取り感度の点から99質量%以下とすることができる。
【0070】
(e)他の成分
本発明の赤外線吸収性組成物は、上記の成分以外に、必要に応じて、界面活性剤、上記有機溶剤以外の溶媒、樹脂の硬化剤などを用いて調製することができる。
【0071】
前記界面活性剤としては、例えば、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウム又はスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤、或いは、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸又はリン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤、等を用いることができる。
【0072】
また、本発明の赤外線吸収性組成物は、予め赤外線吸収色素を有機溶剤に分散し、これに樹脂を加えて調製してもよい。このとき、赤外線吸収色素を分散する分散剤を含有することができる。この場合において、前記界面活性剤を上記添加剤として添加するほか、該界面活性剤を分散剤として使用してもよい。分散剤として用いる界面活性剤として好ましくは、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、又はカチオン系界面活性剤であり、更に好ましくはノニオン系界面活性剤又はアニオン系界面活性剤であり、更に好ましくはアニオン系界面活性剤である。また更に、好ましくは炭素数40以下の有機スルホン酸金属塩であり、更に好ましくは炭素数30以下の有機スルホン酸金属塩であり、最も好ましくは炭素数25以下の有機スルホン酸のナトリウム又はカリウム塩である。
なお、分散剤を添加する場合、分散剤の添加のタイミングは、色素粒子を分散する過程において、赤外線吸収色素と共に分散剤を溶媒中に添加するか、あるいは赤外線吸収色素を溶媒中で分散処理した後に添加することが好ましく、中でも、前者のように分散する過程で分散剤を添加する方法が最も好ましい。
【0073】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記した(c)有機溶剤以外の溶媒を含有してもよい。ここでの溶媒としては、特開2008−105958号公報の段落番号[0071]に記載の分散媒が挙げられる。
【0074】
また本発明の赤外線吸収性組成物は、前記(d)樹脂の硬化剤を含有してもよい。硬化剤としては、例えば、ウレタン樹脂向けにはポリイソシアネート樹脂などが挙げられる。硬化剤は、樹脂に対して1〜70質量%の範囲で使用することができる。
【0075】
本発明の赤外線吸収性組成物は、本発明における赤外線吸収色素を樹脂中に分散させて、紙、樹脂シートもしくはフィルム、ガラス、金属板などの表面に塗布もしくはハードコートして赤外線吸収層を形成する方法、モノマーなどの樹脂原料に添加して混合物を重合させることにより赤外線吸収性樹脂を調製するか、あるいは樹脂中に添加して加熱溶融させて溶融状態の樹脂中に分散させることにより赤外線吸収性樹脂を調製する方法、等に適用することで所望とする赤外線吸収材料を作製することができる。
このうち、本発明の赤外線吸収性組成物を用いた赤外線吸収性インキについて、以下に説明する。
【0076】
<赤外線吸収性インキ及び記録物>
本発明の赤外線吸収性インキは、既述の本発明の赤外線吸収性組成物を用いて構成されたものである。この赤外線吸収性インキは、既述の赤外線吸収性組成物が用いられるので、耐光性に優れる。
【0077】
本発明の赤外線吸収性インキは、少なくとも前記本発明における赤外線吸収性組成物を含有し、用途や目的等に応じて、更に、着色剤、重合開始剤、上記有機溶剤に含まれない重合性化合物、その他添加剤を用いて構成することができる。
【0078】
前記着色剤を含有することで、所望の色相に着色されたインキとすることができる。着色剤としては、顔料、染料などが挙げられる。着色剤は、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0079】
また、インキ中の重合性化合物や樹脂などが重合性基を有しているときには、重合開始剤を含有することで、インキ中に含まれる重合性基を重合反応させてインキを硬化させることができる。これにより、記録画像の強度(例えば耐擦過性)を向上できる。
重合開始剤は、モノマー成分等の重合性基の重合反応を開始する活性種を発生し得る化合物であれば使用可能であり、公知の光重合開始剤などから適宜選択することができる。例えば、トリハロメチル基含有化合物、アクリジン系化合物、アセトフェノン系化合物、ビスイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α−ジケトン系化合物、多核キノン系化合物、キサントン系化合物、ジアゾ系化合物、等を挙げることができる。
【0080】
本発明の記録物は、上記の赤外線吸収性インキを用いてなる画像を設けて構成されている。本発明の記録物は、既述の赤外線吸収性組成物が用いられるので、従来に比べてより良好な耐光性を有している。
【0081】
画像としては、記号や点等のマーク(例:複写防止用マーク)、文字(例:セキュリティ用の認証文字)、絵、バーコードなど種々が含まれる。
【0082】
<画像記録方法>
本発明に係る画像記録方法は、被記録媒体上に、既述の本発明の赤外線吸収性インキを付与して画像を記録する工程を設けて構成されたものである。本発明の画像記録方法では、既述の赤外線吸収性組成物を用いた赤外線吸収性インキで画像が形成されるので、記録された画像は耐光性に優れる。
【0083】
画像記録する際の赤外線吸収性インキの付与は、塗布法、印刷法、インクジェット法などの公知の方法を利用して行なうことができる。塗布法としては、例えばバーコート等を適用できる。印刷法としては、グラビア印刷、リソグラフ印刷等を適用できる。また、インクジェット法としては、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、インクを加熱して気泡を形成し生じた圧力を利用するサーマル(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれも適用することができる。
【0084】
インキを付与した後には、インキを乾燥する工程や記録画像を(熱)圧着する工程などの他の工程を設けることもできる。
【0085】
<画像検出方法>
本発明に係る画像検出方法は、既述の本発明の画像記録方法により被記録媒体上に形成された画像の画像情報を赤外線検出器により検出する工程を設けて構成したものである。被検出対象である画像は良好な耐光性を有しているので、赤外線検出器により検出する際の検出能(読み取り性など)を長期に亘り安定に保つことができる。
【0086】
画像中の画像情報の検出は、画像が記録されている記録物の記録面を赤外線検出器により赤外線を照射して種々の画像情報を検知することにより行なわれる。赤外線吸収色素が含まれた画像部は着色されていない組成では視覚的に認識されない又は認識され難いが、赤外線が照射された際に赤外線吸収色素が含まれている領域は赤外線を吸収するため、照射時の反射光や蛍光を検出して、記号や点等のマーク、文字、絵、バーコード等のパターン情報や、位置情報などの画像情報を読み取ることができる。
【0087】
赤外線検出器は、赤外線を照射し、照射時の反射光等を受光して検出することができる装置を使用することができる。検出は、波長が800〜1200nmの波長光を用いて好適に行なえる。光源としては、赤外線を照射する光源を用いてもよいし、赤外線以外の波長光を含む光を照射する光源に赤外線透過フィルタを配したものを用いてもよい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0089】
<実施例1>
−赤外線吸収色素混合物粉末1の合成−
下記の合成ルートにより、下記例示化合物(1)(前述の化合物1)を含有し、且つ前述の化合物6、化合物14および化合物22を含有する赤外線吸収色素混合物粉末1を合成した。
【0090】
【化11】



【0091】
1)Z1−Bの合成
2,3−ジシアノ−1,4−ジハイドロキノン(Z1−D)100g、炭酸カリウム259g、アセトン900mLを3Lの3つ口フラスコに入れ、内温20℃以下でp−トルエンスルホン酸クロライド262gを分割添加後、還流下で2時間攪拌した。内温50℃まで冷却後、水道水1000mLを滴下し、2時間かけて10℃まで冷却した。得られたスラリーをろ過し、メタノール300mLおよび水道水300mLで洗浄することで、上記化合物(Z1−C)214gを得た(収率73%)。次いで、4−メチルチオフェノール50g、炭酸カリウム55.8g、DMAc(ジメチルアセトアミド)590mLを2Lの三口フラスコに入れ、内温30℃以下で上記化合物(Z1−C)90gを分割添加し、2時間攪拌した。水道水1200mLを10分間かけて滴下し、室温下で1時間攪拌後、得られたスラリーをろ過し、水道水4Lで洗浄することで、上記化合物(Z1−B)46.6gを得た(収率65%)
【0092】
2)赤外線吸収色素混合物の合成
上記化合物(Z1−B)30g、塩化リチウム16.4g、t−ブトキシカリウム21.7g、ブタノール300mLを1000mLの三口フラスコに入れ、100℃で6時間加熱を行った。その後ハイドロキノンを1.3g添加して1時間攪拌後、50℃まで冷却を行い、水道水210mL、酢酸105mLを添加した。得られたスラリーをろ過し、水道水200mL、メタノール300mLで洗浄することにより、上記化合物(Z1−A)30g(収率64.6%)が得られた。得られた化合物をMSスペクトルで測定したところ分子量と一致するピークが得られた。
上記化合物(Z1−A)15gを1LのTHF(テトラヒドロフラン)へ溶解し、酢酸銅3.65g(2.0等量)を加え、30℃にて4時間攪拌した。反応液を冷却後、水道水を加え、得られたスラリーをろ過し、メタノール100mLで洗浄し乾燥することで赤外線吸収色素混合物14.7gを得た(収率94%)。得られた粉末を赤外線吸収色素混合物粉末1とする。
【0093】
3)赤外線吸収色素混合物粉末の組成の分析
高速液体クロマトグラフィーを用いて、赤外線吸収色素混合物粉末1中に含まれている化合物を分析し、且つその含有量を測定した。
上記の通り、赤外線吸収色素混合物粉末1中には、例示化合物(1)(前述の化合物1)が含有され、且つ前述の化合物6、化合物14および化合物22が含有されている。それぞれの含有量を、下記表1に示す。
【0094】
−赤外線吸収色素混合物粉末2〜5の合成−
前記赤外線吸収色素混合物粉末1と同様の方法で、合成のスケールのみを変えたロットを赤外線吸収色素混合物粉末2〜5とした。混合物の組成を下記表1に示す。
【0095】
−赤外線吸収色素混合物粉末6(比較用)の合成−
また、赤外線吸収色素混合物粉末1の合成において、用いた「水道水」を全て「イオン交換水」に変更し、且つ合成のスケールを変えた以外は同様にして合成したロットを赤外線吸収色素混合物粉末6とした。混合物の組成を下記表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
−印刷インキの調製−
前記より得た赤外線吸収色素混合物粉末1〜6をそれぞれ用い、以下に示す組成中の成分を混合して赤外線吸収性印刷インキを調製した。
<赤外線吸収性印刷インキの組成>
・下記表2に示す赤外線吸収色素混合物粉末 ・・・5部
・塩酢酸ビニル系樹脂 ・・・15部
(商品名:エレックスA、積水化学(株)製)
・飽和ポリエステル(商品名:バイロン103、東洋紡(株)製)・・・5部
・ポリウレタンエラストマー ・・・12部
(商品名:N−2304、日本ポリウレタン(株)製)
・イソシアナート硬化剤 ・・・3部
(商品名:JA−960、十条ケミカル(株)製)
・トリエチレンジアミン ・・・0.5部
・溶剤 ・・・70部
(トルエン/メチルイソブチルケトン=70/30[質量比])
【0098】
−画像記録−
上記より得られた各赤外線吸収性印刷インキを用い、ベース紙である普通紙MP−120(プラス(株)製)の上に、グラビア印刷によりバーコードパターンを形成した。
【0099】
次に、上記のように形成したバーコードパターンの上に、更に、赤外線透過性を有する3種類のプロセスインキ(FDOLイエロー、FDOLマゼンタ、FDOLシアン、東洋インキ製造(株)製)をグラビア印刷により付与し、3色の可視色(藍、紅、黄)で構成された着色層を形成することにより、バーコードパターンが内部に配された印刷物を作製した。
【0100】
得られた印刷物は、可視色(藍、紅、黄)の着色層の全面が可視状態であるが、バーコードパターンはほとんど目視不可能なため、バーコードパターンの存在自体が肉眼で判別できないものであった。
【0101】
上記の印刷物に対して、波長830nm及び波長905nmの2種の半導体レーザ光を照射し、発せられた波長950nm以下の光をカットするフィルターを通して検出した。このとき、赤外線吸収性インキにより形成されたパターンを読み取ることができた。
【0102】
次いで、この印刷物に対して、キセノンランプにより7万ルクスのキセノン光を200時間、連続照射した。その後、照射後のバーコードパターンの読み取りの具合を評価した。評価では、PCS(プリント・コントラスト・シグナル)が0.6以上である場合を「良好」と評し、PCS(プリント・コントラスト・シグナル)が0.6未満である場合を「不良」と評した。評価結果を下記表2に示す。
【0103】
【表2】



【0104】
前記表2に示すように、本発明の印刷物は、印刷物中のバーコードパターンの耐光性が高いことが明らかである。
【0105】
<実施例2>
前記より得た赤外線吸収色素混合物粉末1〜6をそれぞれ用い、以下に示す組成中の成分を混練して赤外線吸収性を有する紫外線硬化性インキを調製した。
<紫外線硬化性インキの組成>
・フォトマー5018 ・・・60部
(脂肪族ポリエステルテトラアクリレート;サンノプコ社製)
・カヤラッドTMPTA ・・・14部
(トリメチロールプロパントリアクリレート;日本化薬(株)製)
・カヤキュアーMBP ・・・1部
(3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン;日本化薬(株)製)
・ニッソキュアーTX(チオキサントン;日本曹達(株)製)・・・8部
・サンドリー1000 ・・・1部
(4−フェノキシジクロロアセトフェノン:サンド社製)
・白色ワセリン ・・・4部
・下記表3に示す赤外線吸収色素混合物粉末 ・・・12部
【0106】
得られた紫外線硬化性インキを用い、実施例1と同様のベース紙上に複写防止マークをグラビア印刷した。印刷された複写防止マーク上に、プロセスインキ(FDOLイエロー、FDOLマゼンタ、FDOLシアン、東洋インキ製造(株)製)のそれぞれを、グラビア印刷で層状に形成したり、あるいはこれら3種のプロセスインキを混合した混合インキをグラビア印刷で層状に設けることによって、複写防止マークを隠蔽し、印刷物とした。
【0107】
プロセスインキにより隠蔽された複写防止マークに対し、検出装置としてリニヤセンサー(TCD1500C、東芝(株)製)をその赤外線カットフィルターを赤外線透過フィルター(IR83、HOYA社製)に替えて用いて赤外線照射すると共に、その反射光を検出した。
【0108】
複写防止マークは、プロセスインキの着色層で視認することができなかったが、上記の検出装置を用いることにより、赤外線領域において、3種のプロセスインキからなる印刷層を検知することなく複写防止マークのみを検知することができた。つまり、3種のプロセスインキは赤外線領域に吸収を有しないため、その下部に存在する赤外線吸収性を有する複写防止マークのみを検知することができた。
【0109】
複写防止マークを検知した際の複写防止マークの領域の反射光強度を、複写防止マーク以外の領域の反射光強度で除算した値を、比較用の赤外線吸収色素混合物粉末3を用いた場合を「1」に規格化してその比率を算出した。結果を下記表3に示す。
【0110】
また、得られた印刷物に対して、キセノンランプにより7万ルクスのキセノン光を144時間、連続照射した。照射後、上記と同様に複写防止マークの領域の反射光強度を、複写防止マーク以外の領域の反射光強度で除算した値を求め、照射前の値からの変化率[%]を算出して耐光性を評価する指標とした。結果を下記表3に示す。
【0111】
【表3】



【0112】
前記表3に示すように、本発明の紫外線硬化性インキは、検出感度が高く、極めて耐光性に優れていた。
【0113】
<実施例3>
−赤外線吸収色素混合物粉末7の合成−
実施例1中の赤外線吸収色素混合物粉末1を作製するにあたり化合物(Z1−B)を合成する際に用いた4−メチルチオフェノールの変わりに4−t−ブチルチオフェノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、前述の化合物2を含有し、且つ前述の化合物7、化合物15を含有する赤外線吸収色素混合物粉末7を合成した。
【0114】
・赤外線吸収色素混合物粉末の組成の分析
高速液体クロマトグラフィーを用いて、赤外線吸収色素混合物粉末7中に含まれている化合物を分析し、且つその含有量を測定した。
上記の通り、赤外線吸収色素混合物粉末7中には、前述の化合物2が含有され、且つ前述の化合物7、化合物15が含有されている。それぞれの含有量を、下記表4に示す。
【0115】
−赤外線吸収色素混合物粉末8、9の合成−
前記赤外線吸収色素混合物粉末7と同様の方法で、合成のスケールのみを変えたロットを赤外線吸収色素混合物粉末8、9とした。混合物の組成を下記表4に示す。
【0116】
−赤外線吸収色素混合物粉末10(比較用)の合成−
また、赤外線吸収色素混合物粉末7の合成において、用いた「水道水」を全て「イオン交換水」に変更し、且つ合成のスケールを変えた以外は同様にして合成したロットを赤外線吸収色素混合物粉末10とした。混合物の組成を下記表4に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
−印刷インキの調製−
前記より得た赤外線吸収色素混合物粉末7〜10をそれぞれ用いたこと以外、実施例1と全く同様に赤外線吸収性印刷インキを調製した。
得られた各赤外線吸収性印刷インキを用い、ベース紙である普通紙MP−120(プラス(株)製)の上に、グラビア印刷によりバーコードパターンを形成した。
【0119】
次に、上記のように形成したバーコードパターンの上に、実施例1と同様に、更に、赤外線透過性を有する3種類のプロセスインキ(FDOLイエロー、FDOLマゼンタ、FDOLシアン、東洋インキ製造(株)製)をグラビア印刷により付与し、3色の可視色(藍、紅、黄)で構成された着色層を形成することにより、バーコードパターンが内部に配された印刷物を作製した。
【0120】
得られた印刷物は、可視色(藍、紅、黄)の着色層の全面が可視状態であるが、バーコードパターンはほとんど目視不可能なため、バーコードパターンの存在自体が肉眼で判別できないものであった。
【0121】
上記の印刷物に対して、波長830nm及び波長905nmの2種の半導体レーザ光を照射し、発せられた波長950nm以下の光をカットするフィルターを通して検出した。このとき、赤外線吸収性インキにより形成されたパターンを読み取ることができた。
【0122】
次いで、この印刷物に対して、キセノンランプにより7万ルクスのキセノン光を200時間、連続照射した。その後、照射後のバーコードパターンの読み取りの具合を評価した。評価では、PCS(プリント・コントラスト・シグナル)が0.6以上である場合を「良好」と評し、PCS(プリント・コントラスト・シグナル)が0.6未満である場合を「不良」と評した。評価結果を下記表5に示す。
【0123】
【表5】



【0124】
前記表5に示すように、本発明の印刷物は、印刷物中のバーコードパターンの耐光性が高いことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、文字や画像の認証等のセキュリティ関連分野、記号や点、バーコード等のマークを付して情報交換を行なう分野に適用することができ、例えば、複写防止や隠し情報付与などに利用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分と下記(B)成分とを含有し、且つ下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が50ppm以上100000ppm以下である赤外線吸収性組成物。
(A)下記一般式(1)で表される赤外線吸収色素より選択される少なくとも1種
(B)下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される少なくとも1種
【化1】


〔一般式(1)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、それぞれ独立にアリール基を表す。〕
【化2】


〔一般式(2)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、それぞれ独立にアリール基を表す。〕
【化3】



〔一般式(3)中、Mは、水素原子及び1価の金属原子からなる群より選択される2個の原子、2価の金属原子、又は3価もしくは4価の金属原子を含む2価の置換金属原子を表す。但し前記Mとしては、銅原子を除く。Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、及びArは、それぞれ独立にアリール基を表す。〕
【請求項2】
前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が100ppm以上100000ppm以下である請求項1に記載の赤外線吸収性組成物。
【請求項3】
さらに有機溶剤を含む請求項1又は請求項2に記載の赤外線吸収性組成物。
【請求項4】
前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表される赤外線吸収色素からなる群より選択される赤外線吸収色素の総含有量が、前記一般式(1)で表される赤外線吸収色素の含有量に対し0.0001倍以上0.1倍以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の赤外線吸収性組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の赤外線吸収性組成物を含有する赤外線吸収性インキ。
【請求項6】
被記録媒体上に請求項5に記載の赤外線吸収性インキからなる画像を有する記録物。
【請求項7】
被記録媒体上に請求項5に記載の赤外線吸収性インキを付与して画像を形成する工程を有する画像記録方法。
【請求項8】
請求項7に記載の画像記録方法により被記録媒体上に形成された前記画像の画像情報を赤外線検出器により検出する工程を有する画像検出方法。


【公開番号】特開2011−241332(P2011−241332A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115799(P2010−115799)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】