説明

赤外線撮像素子、障害物検出装置及び方法

【課題】コントラストの高い画像を得て障害物を安定して検出する。
【解決手段】 障害物検出装置は、被写体からの遠赤外線に応じた画像を生成する撮像素子22と、撮像素子22に入射させる遠赤外線を2種類以上の検出波長に変える検出波長帯域変調用フィルタ21と、検出波長毎に撮像素子22により生成された画像に基づいて障害物を検出する画像処理部30と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線撮像素子、障害物検出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における年間交通死亡事故の中で、夜間歩行者の死亡事故は約3割を占めている。これらの事故の多くは、運転者が前方歩行者の存在に気付くのが遅れたために発生していると考えられる。
【0003】
そこで、遠赤外線カメラを用いて前方の横断歩行者や走路上の歩行者を検出して運転者に報知する歩行者認知支援システムが開発されている。歩行者認知支援システムとして、遠赤外線画像を用いて歩行者、車両等の障害物を抽出する技術が開示されている(特許文献1、2参照。)。
【0004】
特許文献1の歩行者検知装置は、撮像手段により得られる画像から、人間と推定される領域を切り出し、切り出した人間推定領域の面積を特徴量として算出し、特徴量の時系列データからそのばらつきを示す統計量を算出し、算出した統計量が判定閾値より大きいときに人間推定領域に対応する像が歩行者であると判定する。
【0005】
特許文献2の車両周辺監視装置は、CPUを備えた画像処理ユニットを有している。画像処理ユニットは、特許文献2の図1に示すように、遠赤外線を検出可能な2つの遠赤外線カメラ、ヨーレートセンサ、車速センサ、ブレーキセンサにそれぞれ接続され、車両の周辺の遠赤外画像と車両の走行状態を示す信号とから、車両前方の歩行者や動物等の動く物体を検出し、衝突の可能性が高いと判断したときに警報を発する。
【特許文献1】特開2001−28050号公報
【特許文献2】特開2005−354597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば夏場に気温が上がり、歩行者と路面や外壁などの背景と温度差が小さくなる場合、あるいは雨により背景と歩行者の温度差が小さくなる場合などでは、輻射率及び温度がそれぞれ異なっていても、歩行者と背景のコントラストが低下する、あるいは同化することがある。このような条件下では、特許文献1及び2に記載されたように遠赤外画像を用いても、歩行者等の障害物を検出できなくなる問題がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、コントラストの高い画像を得て障害物を安定に検出する赤外線撮像素子、障害物検出装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る赤外線撮像素子は、被写体からの赤外線に応じた画像を生成する撮像素子と、前記撮像素子に入射させる赤外線を2種類以上の検出波長帯域に変えるバンドパスフィルタと、を備えている。これにより、上記発明は、2種類以上の検出波長帯域に基づく画像を生成することができる。
【0009】
本発明に係る障害物検出装置は、被写体からの赤外線に応じた画像を生成する撮像素子と、前記撮像素子に入射させる赤外線を2種類以上の検出波長帯域に変えるバンドパスフィルタと、検出波長帯域毎に前記撮像素子により生成された画像に基づいて障害物を検出する障害物検出手段と、を備えている。
【0010】
これにより、上記発明は、2種類以上の検出波長帯域に基づく画像を用いることができるので、一方の画像のコントラストが低下しても他方の画像を用いて障害物を安定して検出することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、コントラストの高い画像を得て障害物を安定して検出する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[発明の原理]
絶対ゼロ度以上の物体は、全てシュテファンボルツマンの法則に従い、赤外線を放出する。輻射率1.0の黒体は以下の(1)式の放射エネルギーを放出し、それ以外の物体は(2)式のように物体表面の輻射率を乗じた放射エネルギーを放出する。
・黒体の場合
E=σT[W/m] ・・・(1)
・それ以外の物体の場合
E=εσT[W/m] ・・・(2)
なお、
σ:シュテファンボルツマン定数 5.67e−8[W/mK]
ε:輻射率(0〜1.0)
T:温度[K]
である。
【0014】
次に、大気の透過特性を図1に示す。大気は、水や二酸化炭素などの吸収により、図1に示すような透過特性を持つ。熱型赤外線センサは、波長依存性を持たないという特徴を持つ。しかし、大気の透過特性が図1のような特性を持つため、通常の熱型赤外線センサでは、波長8〜14μm帯を受光して、画像を生成する。
【0015】
熱型赤外線カメラは、この物体からの放射エネルギー吸収による微量な温度変化を電気信号に変換し、映像化するものである。なお、物体はそれぞれ材料、色、表面状態などにより、異なる輻射率をもつ。同一材料であっても、色や表面の凹凸・平坦性や吸収率で異なる値になる。
【0016】
図2は、輻射率の一例を示す図である。例えば、皮膚は0.98、アスファルトは0.95、繊維は0.9、レンガは0.8などの値をもつ。
【0017】
このように現実の物体は、全て異なる輻射率を持つ。しかし、赤外線カメラは、全ての被写体の輻射率を一定値(例えば0.95など)として画像を生成する。
【0018】
このような遠赤外線カメラでは、夏場の路面や外壁の温度が上昇し、歩行者と背景の温度差が小さくなる場合や、雨で路面、外壁、歩行者全てが冷やされ、歩行者と背景の温度差が小さくなる場合など、歩行者と背景のコントラストが低下し、歩行者を認識できないという問題があった。
【0019】
図3は、プランクの分光放射特性を示す図である。黒体、あるいは輻射率が同一であれば、温度の高いものほど放射エネルギーが高いため、波長8〜14μmを受光して画像を生成する遠赤外線カメラで高温物体と低温物体の識別が可能になる。
【0020】
しかし、現実の物体は、先に述べたとおり、それぞれ異なる輻射率を持つ。その結果、輻射率の高い低温物体と、輻射率の低い高温物体から、センサが受光する放射エネルギーが等しくなり、両者を識別できなくなることがある。
【0021】
図4(A)は高温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、同図(B)は低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、同図(C)は高温物体及び低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、同図(D)は高温物体及び低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図である。ただし、いずれの場合も輻射率は同一である。
【0022】
図4(A)〜(C)によると、同一の輻射率では、(1)式あるいは(2)式に示したように、高温物体からの放射エネルギーの方が低温物体からの放射エネルギーより大きいため、両者の識別が可能になる。すなわち、ここでは、輻射率が同一であるので、
高温物体からの光の強度>低温物体からの光の強度
となり、その結果、
高温物体に対する出力>低温物体に対する出力
となる。
【0023】
ところで、実際の物体は、それぞれ異なる輻射率を持つ。しかし、遠赤外線カメラは、全ての物体の輻射率を一定値として画像を生成する。
【0024】
図5(A)は輻射率の低い高温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、同図(B)は輻射率の高い低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、同図(C)は高温物体及び低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、同図(D)は高温物体及び低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図である。ただし、いずれの場合も輻射率を同一とみなした結果である。
【0025】
(2)式から分かるように、同一温度の物体でも、輻射率の低い物体は、輻射率の高い物体より放射エネルギーが低くなる。このため、輻射率の高い物体より輻射率の低い物体は低温として扱われる。このように、物体からの放射エネルギーは物体表面の輻射率に依存するため、輻射率の高い低温物体と、輻射率の低い高温物体の放射エネルギーが等しくなり、両者を識別できなくなることがある。
【0026】
すなわち、
輻射率の低い高温物体からの光の強度≒輻射率の高い低温物体からの光の強度
となると、その結果、
輻射率の低い高温物体に対する出力≒輻射率の高い低温物体に対する出力
となり、両者を識別できなくなることがある。
【0027】
(輻射率の高い低温物体と輻射率の低い高温物体の具体的な識別手法)
次式に示すウィーンの変位則により、物体から放射される赤外線のピーク波長は、高温物体ほど短波長になる。
【0028】
λ=2897/T (λ:ピーク波長[μm]、T:温度[K])
図6に示すように、−10℃で11.02μm、0℃で10.61μm、20℃で9.89μm、30℃で9.56μm、40℃で9.26μmになるように、高温になるに従い、放射エネルギーが増加し、ピーク波長が短波長にシフトする。
【0029】
遠赤外線カメラが輻射率の低い高温物体と輻射率の高い低温物体とからの8〜14μmの放射エネルギーが近い値になって両者を識別できない場合であっても、次のように検出波長を変えることで両者を識別可能にできる。
【0030】
図7(A)は8〜14μmにおいて輻射率の低い高温物体に対する出力と輻射率の高い低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度が等しい状態を示す図、同図(B)は波長をカットする前の両者の光の強度を示す図、同図(C)は長波長側をカットしたときの遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、同図(D)は短波長側をカットしたときの遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図である。
【0031】
高温物体の中心波長は低温物体の中心波長よりも短いので、両者の8〜14μmの放射エネルギーが等しい場合でも、図7(C)に示すように、8〜12μmの帯域になるように長波長側をカットすると、低温物体の放射エネルギーは高温物体放射エネルギーより小さくなる。逆に、図7(D)に示すように、10〜14μmの帯域になるように短波長側をカットすると、高温物体の放射エネルギーが低温物体の放射エネルギーより小さくなり、遠赤外線カメラによる両者の識別が可能になる。
【0032】
ここでは、8〜12μm、あるいは10〜14μmを例に挙げて説明したが、検出波長帯域を限定するものではない。例えば、7〜10μm、9〜14μmなど、検出対象、検出環境に合わせて、コントラスト低下、あるいは同化を防げる有効な検出波長帯域に切り替えて、2種類以上の異なる検出波長帯域での撮像ができればよい。
【0033】
検出波長帯域の種類に関しても、数を限定するものではなく、3種類以上であってもよい。また、バンドパスフィルタは、1枚のフィルタで構成する必要はなく、ハイパスフィルタとローパスフィルタの組み合わせ等、2種類以上のフィルタで構成してもよい。
【0034】
(付加価値)
ウィーンの変位則により、物体から放射される赤外線のピーク波長は、高温物体ほど短波長になる。この特徴を使い、赤外線カメラの検出波長帯域を切り替えることで、高温物体や低温物体を見えにくくすることができる。具体的には、短波長側の入射をカットすることで高温物体からセンサが受光する放射エネルギーを低減でき、高温物体を見えにくくすることができる。逆に長波長側の入射をカットすることで低温物体からセンサが受光する放射エネルギーを低減でき、低温物体を見えにくくすることができる。
【0035】
歩行者検出など、高速に複雑な画像処理を行う場合、ターゲット以外の情報は信号処理の負荷を増加し、信号処理時間を長くしたり、誤検出の要因になったりする。そのため、不要な情報を間引くことができるとメリットになる。
【0036】
また、従来の遠赤外線カメラでは、同一視野内に高温物体と低温物体が混在する場合、高温物体を白、低温物体を黒に表示する表示方法では、例えば8ビット(256階調)など有限の階調で画像化するため、高温物体が真っ白くレンジオーバーしたり、逆に低温物体が真っ黒に黒低温物が見えにくくなる、全てが見えるように画像調整すると低温物体が見えにくくなる、あるいは見えなくなることがあった。
【0037】
信号処理(表示レンジ設定)で高温物体を見えやすく、低温物体を見えにくくすることはできる。しかし、視野内に高温物体がある場合、高温物体の影響なく低温物体を鮮明に写すことが信号処理では困難である。ただし、本手法(検出波長の変調、短波長側の入力をカット)では、フィルタを使うことで容易に実現することができる。
【0038】
[具体的な実施形態]
図8は、本発明の実施の形態に係る障害物検出装置の構成を示すブロック図である。障害物検出装置は、遠赤外光を集光する遠赤外線レンズ10と、撮像対象物の温度に対応した熱画像を生成する遠赤外線イメージセンサ20と、遠赤外画像に基づいて画像処理を行い、障害物を検出する画像処理部30と、を備えている。
【0039】
遠赤外線イメージセンサ20は、検出波長帯域変調用フィルタ21と、検出波長帯域変調用フィルタ21を通過した遠赤外線に応じて熱画像を生成する撮像素子22と、を備えている。
【0040】
検出波長帯域変調用フィルタ21は、全遠赤外線帯域(8〜14μm)、第1の赤外線帯域、第2の赤外線帯域の3種類の帯域特性を有している。なお、第1及び第2の赤外線帯域は、互いに異なる帯域である。なお、フィルタ数(帯域特性の数)は3種類に限らず、図9に示すように2種類でもよいし、図10に示すように4種類又はそれ以上であってもよい。検出波長帯域変調用フィルタ21は、図示しない制御機構によって、帯域特性が切り替えられる。
【0041】
また、検出波長帯域変調用フィルタ21は、回転することによってフィルタ特性を変える回転型に限定されるものに限らず、図11に示すように平行移動することによってフィルタ特性を2種類に切り替える平行移動型であってもよいし、図12に示すようにフィルタ特性を3種類に切り替える平行移動型であってもよい。
【0042】
なお、検出波長帯域変調用フィルタ21を用いる代わりに、図13に示すように透過帯域の異なる遠赤外線レンズ10を切り替えてもよい。
【0043】
撮像素子22は、検出波長帯域変調用フィルタ21のいずれかの帯域を通過した遠赤外線に応じて熱画像を生成する。ここで、撮像素子22は、例えば、被写体からの光線に応じて画像を生成する遠赤外線イメージセンサ基板と、遠赤外線イメージセンサ基板21に貼り付けられた状態で当該遠赤外線イメージセンサ基板の温度を制御する温度制御装置と、外界温度の影響を受けないように遠赤外線イメージセンサ基板21の周囲を真空状態にして封止する真空封止パッケージと、真空封止パッケージの開口部に設けられ被写体からの遠赤外線を透過して遠赤外線イメージセンサ基板の受光面に入射させる遠赤外線透過窓と、を備えている。
【0044】
なお、検出波長帯域変調用フィルタ21を用いる代わりに、図14に示すように透過帯域の異なる遠赤外線透過窓22aを有する真空封止パッケージを用いてもよい。また、上記構成の撮像素子22の代わりに、ウエハレベル封止による撮像素子にも適用可能である。
【0045】
図15は、第1及び第2の赤外線帯域の組み合わせの一例を示す図である。Aタイプは3〜5μmと8〜14μm、Bタイプは8〜12μmと8〜14μm、Cタイプは8〜14μmと10〜14μm、Dタイプは8〜12μmと10〜14μmと8〜14μm、Eタイプは7〜12μmと9〜14μmである。
【0046】
なお、遠赤外線イメージセンサ20は、波長依存性を持たないので、遠赤外線レンズ10、遠赤外線透過窓、赤外線吸収膜の組み合わせにより、3〜5μmの中赤外線帯の熱画像を用いてもよい。また、Dタイプのように3種類のフィルタを用いてもよいし、その他のタイプのように2種類のフィルタを用いてもよい。
【0047】
以上のように構成された障害物検出装置は、次のルーチンを実行することにより、障害物を検出する。
【0048】
図16は、画像処理部30による障害物検出ルーチンを示すフローチャートである。本実施形態では、障害物として歩行者を検出する場合を例に挙げて説明する。
【0049】
ステップS1では、画像処理部30は、図12に示すように、第1の赤外線帯域で遠赤外線イメージセンサ20により生成された熱画像に基づいて、歩行者を検出する。
【0050】
例えば、最初に画像処理部30は、熱画像に対してフィルタ処理を行い、熱画像内の歩行者に相当する輝度範囲を抽出する。次に画像処理部30は、抽出した輝度範囲において、歩行者の大きさや形を示す歩行者テンプレートを用いてテンプレートマッチングを行い、歩行者を検出する。なお、歩行者と背景の輝度差が小さくコントラストが低下している場合は、テンプレートマッチングを正確に行えない場合がある。
【0051】
ステップS2では、画像処理部30は、歩行者を検出できたか否かを検出し、肯定判定のときはコントラストの低下がなかったので歩行者を検出でき、歩行者検出を終了し、否定判定のときはステップS3に進む。
【0052】
ステップS3では、画像処理部30は、第2の赤外線帯域で遠赤外線イメージセンサ20により生成された熱画像に基づいて歩行者を検出して、ステップS4に進む。
【0053】
ステップS4では、画像処理部30は、歩行者を検出できたか否かを検出し、肯定判定のときはコントラストの低下がなかったので歩行者検出を終了し、否定判定のときは歩行者がドライバの視野内にないものと判断して歩行者検出を終了する。
【0054】
図17は、検出波長帯域とコントラスト低下の関係を示す図である。同図によれば、第1及び第2の赤外線帯域で共に歩行者が検出された場合、コントラスト低下は発生していない。但し、第1の赤外線帯域のときに歩行者が検出されたものの、第2の赤外線帯域のときに歩行者が検出されない場合、第2の赤外線帯域でコントラスト低下が発生している。逆に、第2の赤外線帯域のときに歩行者が検出されたものの、第1の赤外線帯域のときに歩行者が検出されない場合、第1の赤外線帯域でコントラスト低下が発生している。なお、第1及び第2の赤外線帯域のいずれでも歩行者が検出されない場合は、視野内に検出対象である歩行者がいない(コントラスト低下の判断不可能)と考えられる。
【0055】
以上のように、本発明の実施の形態に係る障害物検出装置は、第1の赤外線帯域で生成されたときの熱画像において障害物と背景との輝度差があまりなくコントラスト低下が発生している場合に、第2の赤外線帯域で生成されたときの熱画像を用いることにより、障害物と背景との輝度差を大きくしてコントラスト低下を防止する。この結果、障害物検出装置は、障害物と背景とのコントラストの低下によって障害物が検出できなくなることを防止して、確実に障害物を検出することができる。
【0056】
すなわち、上記障害物検出装置は、適宜、環境によるコントラスト低下があった場合は、赤外線帯域を変えることにより、コントラストを上げることができる。このため、異なる輻射率異なる温度で同一あるいは非常に近い放射エネルギーを出す物体であっても、その物体を確実に検出することができる。
【0057】
なお、路面や外壁などは、材質、日の当たり具合、凹凸などの影響で、必ずしも均一の輝度には映らない。同様に、歩行者も衣服の影響や、重ね着の枚数、体からの熱の伝わり具体、日の当たり具合、風向きなどの影響で、均一の輝度には映らず、体の部位ごとに異なる輝度として映る。このように、背景も歩行者も必ずしも均一の輝度ではなく、むしろお互いがバラツキを持つことが多い。
【0058】
このため、背景と歩行者のコントラスト低下(同化)は、歩行者全体には起こらず、顔や腕、あるいは被服など局所的に起こることが多い。図18及び図19は、顔や腕と路面のコントラストが低下した例を示す図である。図20及び図21は、被服と路面のコントラストが低下した例を示す図である。
【0059】
しかし、上記障害物検出装置は、図22に示すように、第1の赤外線帯域で生成されたときの熱画像でコントラストが低下しても、図23に示すように、第2の赤外線帯域で生成されたときのコントラストの低下していない熱画像を用いることにより、安定して障害物を検出することができる。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で設計上の変更をされたものにも適用可能であるのは勿論である。
【0061】
例えば、第1及び第2の赤外線帯域は自由に設定可能である。また、異なる赤外線帯域を有するフィルタは2種類に設定される場合に限らず、3段種類以上であってもよい。この場合、画像処理部30は、各赤外線帯域で生成された熱画像の中から、コントラスト低下の最も少ない熱画像を用いて障害物を検出すればよい。
【0062】
上述した実施形態では、障害物として歩行者を例に挙げて説明したが、その他、車両、落下物、水たまり、凍結路面などであってもよい。
【0063】
また、上述した障害物検出装置は、テンプレートマッチング手法を用いて障害物を検出したが、熱画像の濃度ヒストグラムを用いて障害物を検出してもよいし、それらを組み合わせた手法を用いてもよい。さらに、形状特徴に基づいて特定の大きさと縦横比をもつ障害物を検出したり、頭部、肩などの部分特徴から障害物の1つである歩行者を検出したりしてもよい。
【0064】
また、遠赤外線イメージセンサ20を2つ設け、各遠赤外線イメージセンサ20に第1及び第2の赤外線帯域のフィルタを設けてもよい。このとき、障害物検出装置は、2つの遠赤外線イメージセンサ20を使うことでフィルタの切り替えを省くことができ、高速にコントラスト低下の判断が可能になる。また、上記障害物検出装置は、ステレオ画像を得ることができるので、一方の遠赤外線イメージセンサ20が故障したとしても、他方の遠赤外線イメージセンサ20により生成される熱画像を用いて障害物を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】大気の透過特性を示す図である。
【図2】輻射率の一例を示す図である。
【図3】プランクの分光放射特性を示す図である。
【図4】(A)は高温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、(B)は低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、(C)は高温物体及び低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、(D)は高温物体及び低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図である。
【図5】(A)は輻射率の低い高温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、(B)は輻射率の高い低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、(C)は高温物体及び低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、(D)は高温物体及び低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図である。
【図6】ウィーンの変位則によるピーク波長の変化を示す図である。
【図7】(A)は8〜14μmにおいて輻射率の低い高温物体に対する出力と輻射率の高い低温物体から遠赤外線カメラに入射する光の強度が等しい状態を示す図、(B)は波長をカットする前の両者の光の強度を示す図、(C)は長波長側をカットしたときの遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図、(D)は短波長側をカットしたときの遠赤外線カメラに入射する光の強度を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る障害物検出装置の構成を示すブロック図である。
【図9】フィルタ数が2つの例を示す図である。
【図10】フィルタ数が4つの例を示す図である。
【図11】平行移動することによってフィルタ特性を2種類に切り替える状態を示す図である。
【図12】平行移動することによってフィルタ特性を3種類に切り替える状態を示す図である。
【図13】透過帯域の異なる遠赤外線レンズを切り替える状態を示す図である。
【図14】透過帯域の異なる遠赤外線透過窓を有する真空封止パッケージを用いた状態を示す図である。
【図15】第1及び第2の赤外線帯域の組み合わせの一例を示す図である。
【図16】画像処理部による障害物検出ルーチンを示すフローチャートである。
【図17】基板温度とコントラスト低下の関係を示す図である。
【図18】顔や腕と路面のコントラストが低下した例を示す図である。
【図19】顔や腕と路面のコントラストが低下した例を示す図である。
【図20】被服と路面のコントラストが低下した例を示す図である。
【図21】被服と路面のコントラストが低下した例を示す図である。
【図22】第1の赤外線帯域で生成されたときの熱画像でコントラストが低下した状態を示す図である。
【図23】第2の赤外線帯域で生成されたときのコントラストの低下していない熱画像を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
10 遠赤外線レンズ
20 遠赤外線イメージセンサ
21 検出波長帯域変調用フィルタ
22 撮像素子
30 画像処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体からの赤外線に応じた画像を生成する撮像素子と、
前記撮像素子に入射させる赤外線を2種類以上の検出波長帯域に変えるバンドパスフィルタと、
を備えた赤外線撮像素子。
【請求項2】
被写体からの赤外線に応じた画像を生成する撮像素子と、
前記撮像素子に入射させる赤外線を2種類以上の検出波長帯域に変えるバンドパスフィルタと、
検出波長帯域毎に前記撮像素子により生成された画像に基づいて障害物を検出する障害物検出手段と、
を備えた障害物検出装置。
【請求項3】
前記障害物検出手段は、第1の検出波長帯域で前記撮像素子により生成された画像に基づいて障害物が検出されなかったときに、第2の検出波長帯域で前記撮像素子により生成された画像に基づいて障害物を検出する
請求項2に記載の障害物検出装置。
【請求項4】
被写体から第1の検出波長帯域の赤外線に応じた画像を生成する第1の撮像素子と、
前記被写体から第2の検出波長帯域の赤外線に応じた画像を生成する第2の撮像素子と、
前記第1及び第2の撮像素子により生成された各々の画像に基づいて障害物を検出する障害物検出手段と、
を備えた障害物検出装置。
【請求項5】
前記障害物検出手段は、前記第1の撮像素子により生成された画像に基づいて障害物が検出されなかったときに、前記第2の撮像素子により生成された画像に基づいて障害物を検出する
請求項4に記載の障害物検出装置。
【請求項6】
被写体から第1の検出波長帯域の赤外線に応じて撮像素子により生成された画像に基づいて障害物を検出し、
障害物が検出されなかったときに、撮像素子に入射される赤外線を第2の検知波長に切り替え、
被写体から第2の検出波長帯域の赤外線に応じて撮像素子により生成された画像に基づいて障害物を検出する
障害物検出方法。
【請求項7】
被写体から第1の検出波長帯域の赤外線に応じて第1の撮像素子により生成された画像に基づいて障害物を検出し、
障害物が検出されなかったときに、被写体から第2の検出波長帯域の赤外線に応じて第2の撮像素子により生成された画像に基づいて障害物を検出する
障害物検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2008−256367(P2008−256367A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95370(P2007−95370)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】