説明

赤血球沈降速度測定方法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、赤血球沈降速度測定方法に関するものであり、さらに詳述すれば、血液が手などに触れることなく赤血球の沈降速度を測定し得る赤血球沈降速度測定方法に関する。
(従来の技術)
臨床検査において、疾患の存在を検出するために、血液の赤血球沈降速度を測定することが古くから行われている。赤血球沈降速度検査は、通常、以下のようにして行われる。まず、被採血者の血液を、例えば、シリンジ等により採取して、採取された血液に、例えば、抗凝固剤として3.28%のクエン酸Na3・2H2O水溶液を、血液4容に対して1容加えてよく混合する。次いで、内径1〜2mm程度、外径6mm程度、長さ30cm程度の測定管(ウエスターグレン管と呼ばれる)内に、抗凝固剤が混合された血液を注入する。そして、該測定管の各端面開口部を閉塞した状態で、該測定管を鉛直状に保持して靜置する。このようにして所定時間にわたって靜置した後に、赤血球が沈降することにより生じた透明な血漿部分の長さをmm単位で測定する。
測定された血漿部分の長さが、健常者よりも長い場合、あるいは短い場合にも、何らかの疾患があるものと推察される。
(発明が解決しようとする課題)
このようにして赤血球の沈降速度を測定する場合には、血液を凝固剤と混合するとき、血液を測定管内に注入するとき、測定管の各端面開口部を閉塞するとき、あるいは、測定後に測定管を洗浄するとき等に、検査作業者が血液に触れるおそれがある。検体が感染力の強い疾患、例えば、血清肝炎、AIDS等に関係している場合には、検査作業者が危険にさらされる。
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、採血した血液が赤血球沈降速度の測定の際に手などに付着するおそれがない赤血球沈降速度測定方法を提供することにある。
(課題を解決するための手段)
請求項1記載の発明(以下、請求項1記載の発明を本発明1という。)の赤血球沈降速度測定方法は、測定管に抗凝固剤を含有する血液を導入し、所要時間静置させて、赤血球を沈降させ、生じた血漿部分の長さを測定することによる赤血球沈降速度測定方法において、(イ)内部に抗凝固剤が収容されており、気密状態に封止可能な栓体によって封止されうる採血管に採血する工程、(ロ)前記測定管の一端部に取り付けられており、前記採血管の栓体を切削貫通して該採血管の管体内と該測定管内とを連通し得る連通具によって、前記栓体を、該採血管と栓体との気密性を維持しながら切削貫通して、該連通具を前記の採血された採血管内に挿入する工程、(ハ)前記連通具を前記採血管内の血液に埋没させることにより、採血管内部の気圧を上昇せしめ、上記の血液を前記測定管内に流入させる工程、(ニ)前記の血液が流入された測定管と採血管とを互いに連通させたまま、鉛直状に保持して所定時間静置する工程、を含むことを特徴とするものであり、そのことにより上記目的が達成される。
請求項2記載の発明(以下、請求項2記載の発明を本発明2という。)の赤血球沈降速度測定方法は、測定管に抗凝固剤を含有する血液を導入し、所要時間静置させて、赤血球を沈降させ、生じた血漿部分の長さを測定することによる赤血球沈降速度測定方法において、(イ)内部に抗凝固剤が収容されており、気密状態に封止可能な栓体によって封止されうる採血管に採血する工程、(ロ)前記測定管の一端部に取り付けられており、前記採血管の栓体を貫通して該採血管の管体内と該測定管内とを連通し得る中空の針状体からなる連通具によって、前記栓体を、該採血管と栓体との気密性を維持しながら貫通して、該連通具を前記の採血された採血管内に挿入する工程、(ハ)前記連通具を前記採血管内の血液に埋没させた後、採血管内部の気圧を上昇せしめ、上記の血液を前記測定管内に流入させる工程、(ニ)前記の血液が流入された測定管と採血管とを互いに連通させたまま、鉛直状に保持して所定時間静置する工程、を含むことを特徴とするものであり、そのことにより上記目的が達成される。
(実施例)
以下に本発明を実施例について説明する。
本発明は、真空採血管と組み合わせて使用する場合に、最も効果的であるので、この場合について説明する。
本発明1の赤血球沈降速度測定方法に使用される赤血球沈降速度測定用治具は、第1図に示すように、赤血球沈降速度測定用の測定管20と、該測定管20の一端分に取り付けられた連通具30とを有しており、真空採血法により採血する際に使用される真空採血管10と組み合わせて用いられる。
真空採血管10は、一端部が開放された円筒状の管体11と、該管体11の開放された一端部に気密に装着されるゴム等の弾性力を有する栓体12とにより構成されている。真空採血管10は、第2図に示すように、真空採血時において、円筒状のホルダー41により保持される。該ホルダー41は、一方の端面が開放された状態になっており、他方の端面に、採血針42が同軸状に保持されている。
このような真空採血管10を使用した真空採血は、次のように行われる。該真空採血管10をホルダー41内に栓体12側から順次挿入する。そして、該栓体12に採血針42のホルダー41内に位置する後端部を嵌入させる。そして、該採血針42の後端部が、栓体12を貫通しない状態で、該採血針42の先端部を、被採血者の血管内に挿入する。その後に、真空採血管10をさらにホルダー41内に挿入して、採血針42を栓体12に貫通させる。これにより、減圧状態の真空採血管10の管体11内に、被採血者の血液が流入する。
このようにして、真空採血管10内に所定量の血液が採取されると、採血針42が、被採血者の血管からはずされた後に、真空採血管10がホルダー41から抜き取られる。これにより、採血者は、被採血者の血液に触れることなく、真空採血管10内に所定量の血液を採取できる。
上記の赤血球沈降速度検査用治具と組み合わせて使用される真空採血管10内には、採血前に、予め、抗凝固剤として、3.28%のケエン酸Na32H2O水溶液が収容されており、該抗凝固剤1容に血液が4容が採取されるように、該真空採血管10内の減圧状態が調整されている。そして、該真空採血管10内に、所定量の血液が採取された状態で、赤血球沈降速度測定が実施される。
測定管20は、ガラス、プラスチック製のいずれでもよいが、使い捨てできるように、例えば、硬質塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル、ポリエステル等の透明あるいは半透明のプラスチックを用いることが好ましく、内径1〜2mm程度、外径6mm程度、長さが30cm程度の細管状に構成されている。
該測定管20の一端部には、連通具30が装着されている。該連通具30は、例えば、測定管20の端部に、一端部が嵌合固定された管状をしており、その他端部は、相互に対向する部分が半円弧状に切欠されてその縁部が切削刃状になった穿孔部になっている。該管状の連通具30内には、直径部分に沿った邪魔板31が設けられていると、栓体12を穿孔する際の穿孔くずが測定管20に詰まるのを防止する上で都合がよい。
測定管20の他端部内には、発泡体、焼結体、圧縮繊維体等により微細な連続気孔構造となったフィルタ21を嵌合させることができる。該フィルタ21は、空気を通過させることは可能であるが、血液、水等の液体を通過させることはできないようになっている。該フィルタ21としては、疎水性であることが好ましい。そして、該測定管20のフィルタ21が嵌合された端部から、所定のピッチで目盛りが設けられている。
このような構成の赤血球沈降速度測定用治具を用いて、本発明1の赤血球沈降速度の測定方法は次のように実施される。
前述したように、予め、例えば、抗凝固剤としてクエン酸Na32H2O水溶液が所定量収容された真空採血管10内に採血針42が保持されたホルダー41を用いて、所定量の血液を採取する。所定量の血液が採取された真空採血管10は、転倒させる等して、血液と抗凝固剤であるクエン酸Na32H2O水溶液とをよく混合させる。
その後、該真空採血管10の栓体12内に、該測定管20の端部に装着されている連通具30の穿孔部を順次嵌入させる。これにより、該連通具30の穿孔部は、栓体12を穿孔しつつ順次嵌入し、該穿孔部が該栓体12を貫通すると、真空採血管10の管体11内と測定管20内とが、管状の連通具30を介して連通状態になる。このとき、連通具30の穿孔部が栓体12を貫通すると、該穿孔部により切削された栓体12の一部は、該連通具30内に設けられた邪魔板31により、連通具30内に嵌入するおそれがなく、真空採血管10の管体11内と測定管20内とが、確実に連通状態とされる。
そして、連通具30を、真空採血管10内の血液内に埋没するまで測定管20を真空採血管10内へと挿入すると、気密状態の真空採血管10内に挿入される測定管20および連通具30による真空採血管10内の容積減少に対応して、該真空採血管10内の気圧が上昇する。このとき、真空採血管10内は、連通具30を介して測定管20内と連通状態になっており、また、該測定管20の上端部に装着されたフィルタ21が、空気を通過させることができるために、真空採血管10内の血液が、連通具30の下端部における半円弧状に切欠された部分から順次連通具30を介して測定管20内に流入する。測定管20内に流入した血液は、該測定管20内に充填され、その上端部に装着されたフィルタ21にまで達する。該フィルタ21は、液体を通過させることができないために、血液は、測定管20から流出するおそれがない。
このような状態で、測定管20を鉛直状に保持して、一定温度の雰囲気下に、1〜2時間にわたって放置した後に、赤血球が沈降することにより生じる透明な血漿部分の長さを、測定管20の周面に設けられた目盛りにより測定する。これにより、赤血球の沈降量が測定される。このとき、真空採血管10を発泡スチロール等の断熱材により構成されたラックにて保持すれば、真空採血管10内の血液の温度変化を抑制することができる。
このように、本発明1の赤血球沈降速度測定方法は、測定する血液に触れることなく確実に赤血球の沈降速度を測定することができる。測定が終了した後には、真空採血管10、測定管20、および連通具30は、血液とともにすべて廃棄される。
なお、上記実施例では、測定管20の端部に装着される連通具30として、一端部に穿孔部が設けられた管状物により構成したが、例えば、第3図に示すように、円錐状であって、その周面にドリル刃が設けられた連通具30′を使用してもよい。該連通具30′は、測定管20の下端部に嵌合固定されている。該連通具30′には、該測定管20内部に一端が連通するとともにその周面に開口部を有する連通孔32が、内部に設けられている。このような連通具30′を使用する場合には、測定管20を回転させることにより連通具30′を回転させつつ栓体12内に嵌入させることにより、該連通具30′が、該栓体12内を貫通する。そして、該連通具30′が、真空採血管10内の血液内に浸漬されることにより、連通孔32を介して、測定管20内に血液が流入する。
第4図は、本発明2の赤血球沈降速度測定方法に使用される赤血球沈降速度測定用治具を示している。本発明2では、第4図に示すように、連通具30″として、測定管20の端部に嵌合固定された、採血針42とほぼ同様の中空の針状体を使用する。該針状体は、接着剤、あるいはねじ込みにより測定管20の端部に固定されて該測定管20内と連通状態になっている。この場合には、針状体を使用した連通具30″は、真空採血管10の栓体12を貫通して該真空採血管10内の血液内に進入し得る長さを有している。このような連通具30″は、真空採血管10内の血液内に挿入された場合にも、該真空採血管10内の気圧の上昇がごくわずかであるために、血液が自然に測定管20内に流入しないおそれがあるので、例えば、測定管10のフィルタ21装着部である上端部にシリンジ50を装着して、該シリンジ50により、真空採血管10内に、測定管20内の容積に相当する所定量の空気を注入して、該真空採血管10内の気圧を上昇させる。そして、真空採血管10内の気圧を上昇させた状態で、シリンジ50を速やかに取り外すと、真空採血管10内の血液が、順次、測定管20内に流入し、該測定管20内が血液により充填される。シリンジ50に替えて、第5図に示す弾性体球50′を用いてもよい。
また、本発明1および2において、測定管20の上端部にフィルター21を用いない場合には、第6図に示す塞栓具60を、測定管20への血液導入後にその上端開口に嵌合させ、密封することが望ましい。このようにすれば、測定中の外気温の変化による血液面の上下動を抑止することができる。また、第7図に示すように、弾性体球50′と塞栓具60を組み合わせたもの60′を使用することもできる。さらに、この弾性体球50′を蛇腹構造としたもの60″(第8図)も使用可能である。
以上の実施例では真空採血管の場合について説明したが、採血管が真空採血管でない場合にも、採血管の栓体を、連通具30によって連通可能で、かつ気密性を保持し得るものとすれば、本発明1および2を適用することができるのは、言うまでもない。
また、前記の赤血球沈降速度測定用治具の連通具30は、測定管20の一端部に予め取り付けられていてもよいが、使用直前に取り付けてもよいのは勿論である。
(発明の効果)
このように、本発明1および2の赤血球沈降速度測定方法によると、測定管の端部に装着された連通具を介して、採血管の血液が測定管内に流入するため、測定者が測定用の血液に触れるおそれがなく、従って、血清肝炎、AIDS等に感染するおそれがなく、安全に測定できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明1の赤血球沈降速度測定方法による一実施例の、赤血球沈降速度測定用治具を用いて測定している状態を示す一部破断側面図、第2図は真空採血管を用いた真空採血器の一部破断側面図、第3図は連通具の他の例の一部破断側面図、第4図は本発明2の赤血球沈降速度測定方法による実施例の、赤血球沈降速度測定用治具を用いての測定状態を示す一部破断側面図、第5図は弾性体球の一例を示す斜視図、第6図(a)は塞栓具の一例を示す斜視図、第6図(b)その縦断面図、第7図(a)は弾性体球と塞栓具を組み合わせたものを示す斜視図、第7図(b)はその縦断面図、第8図(a)は第7図7図における弾性体球を蛇腹構造としたものを示す斜視図、第8図(b)はその縦断面図である。
10…真空採血管、11…管体、12…栓体、20…測定管、21…フィルタ、30,30′,30″…連通具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】測定管に抗凝固剤を含有する血液を導入し、所要時間静置させて、赤血球を沈降させ、生じた血漿部分の長さを測定することによる赤血球沈降速度測定方法において、(イ)内部に抗凝固剤が収容されており、気密状態に封止可能な栓体によって封止されうる採血管に採血する工程、(ロ)前記測定管の一端部に取り付けられており、前記採血管の栓体を切削貫通して該採血管の管体内と該測定管内とを連通し得る連通具によって、前記栓体を、該採血管と栓体との気密性を維持しながら切削貫通して、該連通具を前記の採血された採血管内に挿入する工程、(ハ)前記連通具を前記採血管内の血液に埋没させることにより、採血管内部の気圧を上昇せしめ、上記の血液を前記測定管内に流入させる工程、(ニ)前記の血液が流入された測定管と採血管とを互いに連通させたまま、鉛直状に保持して所定時間静置する工程、を含むことを特徴とする赤血球沈降速度測定方法。
【請求項2】測定管に抗凝固剤を含有する血液を導入し、所要時間静置させて、赤血球を沈降させ、生じた血漿部分の長さを測定することによる赤血球沈降速度測定方法において、(イ)内部に抗凝固剤が収容されており、気密状態に封止可能な栓体によって封止されうる採血管に採血する工程、(ロ)前記測定管の一端部に取り付けられており、前記採血管の栓体を貫通して該採血管の管体内と該測定管内とを連通し得る中空の針状体からなる連通具によって、前記栓体を、該採血管と栓体との気密性を維持しながら貫通して、該連通具を前記の採血された採血管内に挿入する工程、(ハ)前記連通具を前記採血管内の血液に埋没させた後、採血管内部の気圧を上昇せしめ、上記の血液を前記測定管内に流入させる工程、(ニ)前記の血液が流入された測定管と採血管とを互いに連通させたまま、鉛直状に保持して所定時間静置する工程、を含むことを特徴とする赤血球沈降速度測定方法。

【第2図】
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【第3図】
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【第5図】
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【第1図】
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【第4図】
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【第6図】
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【第7図】
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【第8図】
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【公告番号】特公平7−69323
【公告日】平成7年(1995)7月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−97296
【出願日】平成2年(1990)4月11日
【公開番号】特開平3−293562
【公開日】平成3年(1991)12月25日
【出願人】(999999999)積水化学工業株式会社
【参考文献】
【文献】特公昭59−32732(JP,B2)
【文献】実公昭57−17318(JP,Y2)