赤血球沈降速度測定管及び赤血球沈降速度の測定方法
【課題】 検査従事者が血液と接触するおそれを大幅に低減することができ、かつ廃棄に際しての分別作業を省略し得る赤血球沈降速度測定管及び赤血球沈降速度の測定方法を得る。
【解決手段】 両端に開口12b,12cを有する中空管状容器12の一端12cに表面が水との接触角が80°以上の材料で構成されている針状細管13を取り付けてなる赤血球沈降速度測定管11の針状細管13を真空採血管の針穴シール性部分に刺し通し、全体を倒立させて赤血球沈降速度測定管11の開口12bから気体を注入し、または吸引排気することにより、相対的に真空採血管内部の気圧を測定管11の内部の気圧よりも高めることにより、赤血球沈降速度測定管11に抗凝固血を導き、全体を正立させた後に赤血球沈降速度を測定する。
【解決手段】 両端に開口12b,12cを有する中空管状容器12の一端12cに表面が水との接触角が80°以上の材料で構成されている針状細管13を取り付けてなる赤血球沈降速度測定管11の針状細管13を真空採血管の針穴シール性部分に刺し通し、全体を倒立させて赤血球沈降速度測定管11の開口12bから気体を注入し、または吸引排気することにより、相対的に真空採血管内部の気圧を測定管11の内部の気圧よりも高めることにより、赤血球沈降速度測定管11に抗凝固血を導き、全体を正立させた後に赤血球沈降速度を測定する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、赤血球沈降速度測定管及び赤血球沈降速度の測定方法に関し、より詳細には、中空管状の容器に抗凝固血を導き、血球成分が一定時間内に沈降分離したことにより生じる上澄み成分の嵩高さを測定することにより赤血球沈降速度を測定するのに用いられる赤血球沈降速度測定管及び該測定管を用いた赤血球沈降速度の測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】臨床検査においては、疾患の存在を検出するために、赤血球沈降速度の測定が古くから行われている。赤血球沈降速度の測定は、通常、以下のようにして行われている。
【0003】まず、被採血者の血液を、例えばシリンジ等を用いて採取する。採取された血液に抗凝固剤として、例えば3.2重量%濃度のクエン酸Na3 ・2H2 O水溶液を、血液4容に対して1容加えてよく混合する。次に、図1に示す内径1〜3mm程度、外径5〜6mm程度、及び長さ30cm程度の透明な目盛り付き測定管1内に、抗凝固剤が混合された血液を注入する。上記目盛り付き測定管1は、通常はガラスからなり、一般的には、ウェスターグレン管と称されているものが汎用されている。
【0004】上記抗凝固血の目盛り付き測定管への注入は様々な方法で行われている。例えば、シリンジに吸引した抗凝固血を目盛り付き測定管の一端開口から該目盛り付き測定管内に押し出す方法、図2(a)に示すように、目盛り付き測定管1の一端を抗凝固血が収納されている容器2に浸し、他端に適当なアダプター3を付けてシリンジ4を連結し、シリンジ4により吸引する方法、並びに、目盛り付き測定管を口にくわえて吸い上げる方法などが行われていた。
【0005】次に、目盛り付き測定管に抗凝固血を注入した後、該目盛り付き測定管の下端側を粘土様材料で閉じた後、目盛り付き測定管が垂直方向に延びるように専用の架台に立てかけ、血球成分の沈降を待つ。静置してから1時間後及び2時間後に生じた透明な上澄み部分(血漿)の長さをmm単位で測定し、赤血球沈降速度とする。
【0006】臨床検査においては、上記mm単位で測定された長さを健常者の場合と比較し、疾患の有無を推定する。なお、測定後には上記目盛り付き測定管を洗浄し、再使用する。
【0007】上述した赤血球沈降速度の測定方法では、検査従事者は、目盛り付き測定管に抗凝固血を導入する際、目盛り付き測定管の下端を閉じる際、並びに使用後の目盛り付き測定管を再使用のために洗浄する際の各段階において血液に触れる危険にさらされていた。従って、検体がAIDSや血清肝炎などの感染性の強い疾患に関係している場合、検査従事者がこれらの疾患に感染するおそれがあった。
【0008】そこで、赤血球沈降速度の測定に際して検査従事者が血液に接触する可能性を低減するために、種々の方法が提案されている。実開昭61−70770号公報には、図2(b)に示すように、採血管5の内周面に接触しつつ移動され得る外周面を有するピストン6を目盛り付き測定管1の下部に外挿し、目盛り付き測定管1をピストン6と共に採血管5内に挿入し、ピストン6の圧力により血液7を目盛り付き測定管1内に導入する方法が開示されている。この方法によれば、目盛り付き測定管1への血液導入に際しての検査従事者と血液との接触を防止することができるとされている。
【0009】しかしながら、この方法でも、採血管5を開栓する際に血液飛沫が飛散し、やはり検査従事者が血液に接触するおそれがあった。さらに、ピストン6の下部に気泡を巻き込み易く、目盛り付き測定管1内まで気泡が侵入して測定不能となることがあった。
【0010】他方、実公平3−47605号公報には、真空採血管をそのまま赤血球沈降速度測定管として転用することにより、血液感染の危険を低減する方法が開示されている。
【0011】しかしながら、採血管を赤血球沈降速度測定管に転用しているため、採血管の長さが長くなる。従って、内部に予め収容されているクエン酸Na水溶液と血液との混合が十分に行われなかったり、混和中に気泡を巻き込み、測定に支障を来たしたりすることがあった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本願発明者らは、先に特公平7−69323号公報において、目盛り付き測定管の一端に採血管の栓体を貫通し得る連通具を設けてなる赤血球沈降速度測定用治具及び測定方法を提案した。この発明では、真空採血管が有する血液検体の密封性を最大限に活かすために、真空採血管を閉栓したままの状態で血液を目盛り付き測定管に導き得るように、上記連通具が用いられている。
【0013】しかしながら、真空採血管の栓体を貫通するには、比較的大きな力を必要とする。従って、多数の検体を処理する場合には、上記連通具を備えた赤血球沈降速度測定用治具は必ずしも適切なものではなかった。
【0014】また、上記発明に別の実施態様として記載されている採血針様の針状体を用いる方法では、例えば金属製採血針を用いると、栓体を貫通させるのに必要な力を低減することができる。しかしながら、金属製採血針は血液に濡れ易いので、採血管から抜針すると、採血針表面に多量の血液が付着し、検査従事者が血液に接触するおそれがあった。加えて、使用する採血針が比較的長いと、針刺し事故が起こる可能性もあった。さらに、使用済の赤血球沈降速度測定用治具の廃棄にあたっては、上記金属製採血針と目盛り付き測定管とを分別する必要があり、煩雑であった。
【0015】本発明の目的は、さらに検査従事者の血液感染の危険をより一層大幅に低減することができ、廃棄に際しての煩雑な分別作業を省略し得る赤血球沈降速度測定管及び赤血球沈降速度の測定方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を達成するためになされたものであり、請求項1に記載の発明は、予め均一に混和された抗凝固血において血球成分が沈降分離することにより生じる上澄み成分の嵩高さを測定することにより赤血球沈降速度を測定する方法に用いられる測定管であって、両端に開口を有する中空管状容器と、前記中空管状容器の一端に取り付けられており、かつ水との接触角が80°以上の表面を有する針状細管とを備えることを特徴とする。
【0017】また、請求項1に記載の発明にかかる赤血球沈降速度測定管では、好ましくは、請求項2に記載のように、上記針状細管に嵌合する保護キャップと、保護キャップを赤血球沈降速度測定管に連結しており、かつ屈曲自在な部材よりなる連結部材とがさらに備えられる。
【0018】また、請求項1に記載の発明にかかる赤血球沈降速度測定管では、好ましくは、請求項3に記載のように、大気圧と連通可能な開口部を有する中空の略円筒形状からなり、赤血球沈降速度測定管の外周面をスライドすることにより、該針状細管を覆ったり、露出させたりすることが可能とされた保護キャップが、赤血球沈降速度測定管の外周面に装着される。
【0019】また、請求項4に記載の発明は、針穴シール性部分を有する栓体により液密的に閉栓されている採血管に採取された抗凝固血を用いて赤血球沈降速度を測定する方法であって、請求項1、2または3に記載の赤血球沈降速度測定管の前記針状細管を採血管の針穴シール性部分に刺通する工程と、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に倒立させて、採血管が赤血球沈降速度測定管よりも上側となるように配置する工程と、刺通されている針状細管の先端が採血管内の抗凝固血に埋没するように刺通距離を調整する工程と、前記赤血球沈降速度測定管の他端の開口から前記針状細管を経由して採血管内部に気体を注入し、採血管内部の気圧を高めることにより、または、該測定管の他端の開口から該測定管内部の空気を排気して該測定管内部の気圧を減じることにより、相対的に採血管内部の気圧を測定管内部の気圧より高めることによって赤血球沈降速度測定管に抗凝固血を導く工程と、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に正立させた後、赤血球沈降速度を測定する工程とを備えることを特徴とする。
【0020】請求項1に記載の発明では、赤血球沈降速度を測定するための測定管本体としての中空管状容器に、上記のように水との接触角が80°以上の表面を有する針状細管が取り付けられている。上記針状細管の表面の水との接触角を80°以上とするのは、針状細管の表面に血液が付着するのを抑制するためである。
【0021】針状細管の表面を、水との接触角が80°以上とするには、針状細管を構成する材料自体を、水との接触角が80°以上の材料で構成する方法のほか、針状細管の表面に水との接触角が80°以上の材料層を構成することによって達成してもよい。
【0022】請求項1に記載の発明にかかる赤血球沈降速度測定管は、特公平7−69323号公報に開示されている赤血球沈降速度測定用治具と同様に、閉栓したままの真空採血管から抗凝固血を採取するのに好適に用いられるものである。その場合、真空採血管の栓体から針状細管を抜去した際に針状細管の表面に血液が付着するおそれがあるが、上記特定の材料で針状細管が構成されているため、針状細管表面への血液の付着が抑制される。
【0023】上記接触角は、室温で測定される値であり、後退接触角と前進接触角とに差がある場合には、前進接触角の値が用いられる。水との接触角が80°以上の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチルセルロースなどの有機材料を例示することができる。
【0024】また、水との接触角が80°未満の材料からなる針状細管の表面に水との接触角が80°以上の層を構成する場合の例としては、以下のものを挙げることができる。例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリメチレンオキサイドなどは水との接触角が80°未満の材料であるが、これらの材料により針状細管を構成し、表面に疎水性の被膜を設けて水との接触角を80°以上としてもよい。疎水性の被膜を設けるには、上記材料からなる針状細管を成形した後に、例えば、ポリジメチルシロキサン、鉱物油などの疎水性油状液体を細管表面に塗布したり、あるいはフレオンのように樹脂材質を侵し難い媒体にこれらの油状液体を溶解させたり、水中に乳化させたりした後に噴霧塗布すればよい。
【0025】また、樹脂の滑剤として周知のステアリン酸マグネシウムやワックス等を針状細管表面に塗擦してもよい。あるいは、成形前の樹脂原料に予めポリジメチルシロキサン、鉱物油、ステアリン酸マグネシウムやワックスなどを混合しておき、針状細管を成形すれば、針状細管表面にこれらの油状成分や滑剤成分が分散し表面を疎水性とすることができるため、表面の水との接触角を80°以上とすることができる。
【0026】また、請求項1に記載の発明で用いられる上記中空管状容器は、赤血球沈降速度測定管の測定管本体を構成するものであり、特に限定されるものではないが、透明ないしは半透明のガラスや合成樹脂などからなり、かつ好ましくは、上記上澄み成分の嵩高さを測定するための目盛りが設けられているものが用いられ、従来より公知のいわゆるウェスターグレン管が用いられ得る。
【0027】また、上記針状細管は、その先端が、真空採血管のゴム弾性を有する架橋性あるいは可塑性エラストマーからなる栓体を貫通するのに適しているように、その強度及び先端の鋭利性などが選ばれている。すなわち、後述の針穴シール性を有する栓体を刺通し得るようにその強度及び形状が選ばれている。
【0028】請求項2に記載の発明では、上記連結部材を介して保護キャップが赤血球沈降速度測定管に設けられており、それによって抗凝固血の導入後に採血管から測定管を抜去したときに針状細管の先端の孔を覆うと共に、針状細管の周囲を囲繞し得るため、検査従事者の血液感染のおそれをより一層低減することができる。
【0029】請求項3に記載の発明では、赤血球沈降速度測定管の外周面をスライドすることにより、該針状細管を覆ったり、露出させたりすることが可能とされた保護キャップが、赤血球沈降速度測定管の外周面に装着されており、それによって、抗凝固血の導入後に採血管から測定管を抜去したときに針状細管先端の後方から該細管の周囲を囲い得るため、細管先端に検査従事者の手指が触れる機会が少なく、血液感染のおそれをより一層低減することができる。
【0030】請求項4に記載の発明は、上記請求項1、2または3に記載の赤血球沈降速度測定管を用いて赤血球沈降速度を測定する方法である。この場合、後述の発明の実施形態から明らかなように、針状細管が採血管の針穴シール性を有する栓体に容易に刺通され、かつ針状細管を採血管の栓体に刺通させた後、実質的に倒立させた状態で、赤血球沈降速度測定管の他端の開口から気体を注入することにより、または、吸引排気することにより、相対的に採血管内部の気圧を測定管内部の気圧より高めることにより、抗凝固血が中空管状容器内に導かれる。
【0031】さらに、抗凝固血を赤血球沈降速度測定管内に導いた後に、全体を実質的に正立させた後に、赤血球沈降速度を測定する。すなわち、真空採血管内に収容されている抗凝固血を採取する工程、赤血球沈降速度測定管内に導く工程、接着沈降速度を測定する工程の全段階にわたり、検査従事者と血液との接触を効果的に防止することができる。
【0032】なお、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に正立させた後に、測定用架台あるいは自動測定装置等に搭載して赤血球沈降速度を測定するが、両者を分離して測定してもよく、また分離せずにそのまま測定してもよい。
【0033】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ本発明の赤血球沈降速度測定管及び赤血球沈降速度の測定方法の詳細を説明する。
【0034】図3及び図4は、本発明の一例にかかる赤血球沈降速度測定管を説明するための分解斜視図及び外観を示す斜視図である。この赤血球沈降速度測定管11は、中空管状容器12と、針状細管13とを備える。中空管状容器12は、測定管本体を構成するものであり、図3及び図4に示す例ではガラスにより構成されている。もっとも、中空管状容器12は、合成樹脂などの他の材料で構成されてもよく、好ましくは、内部に抗凝固血が導入されたことが確認し得るように透明または半透明性を有するように構成されている。
【0035】また、上記中空管状容器12の寸法は、特に限定されるものではないが、内部に導入される抗凝固血の量に応じて適宜の内容積を有する寸法に構成されている。
【0036】中空管状容器12には、目盛り12aが形成されている。目盛り12aは、好ましくは中空管状容器12の外表面に形成されるが、内表面に形成されていてもよい。目盛り12aは、後述するように血球成分の沈降により生じる上澄み成分の嵩高さを測定するために形成されている。従って、所定長さ毎に上記嵩高さを測定するために目盛り12aが配置されている。
【0037】中空管状容器12の両端には、開口12b,12cが形成されている。針状細管13は、中空管状容器12の一端の開口12cに挿入されて固定されている。すなわち、針状細管13は、開口12cの内径とほぼ同等か、開口12cの内径よりも若干大きな外径を有する円筒状の挿入部13aを有する。円筒状挿入部13aを開口12c内に挿入することにより、針状細管13が中空管状容器12に固定されるように構成されている。
【0038】円筒状挿入部13aの一端には鍔部13bが設けられている。鍔部13bはその外径が円筒状挿入部13aより大きくされており、従って、中空管状容器12の開口12cに針状細管13を挿入した際に、挿入深度が鍔部13bにより規制される。すなわち、針状細管13の全体が中空管状容器12内に入り込まないように、上記鍔部13bが設けられている。
【0039】鍔部13bの円筒状挿入部13aが設けられている側とは反対側には、針状刺通部13cが設けられている。針状刺通部13cは、先端13dが尖らされており、後述の針穴シール性を有する真空採血管の栓体に刺通され得るように構成されている。
【0040】上記円筒状挿入部13a、鍔部13b及び針状刺通部13cは、好ましくは合成樹脂により一体的に成形されるが、それぞれ別部材で構成されているものを固着してもよい。
【0041】上記円筒状挿入部13a、鍔部13b及び針状刺通部13cを貫くように貫通孔13eが形成されており、該貫通孔13eは、抗凝固血を中空管状容器12に導入するために設けられている。
【0042】また、針状細管13は、表面が水の接触角が80°以上の材料で構成されており、かつ針状刺通部13cが真空採血管の栓体を容易に刺通し得るような強度及び形状とされている。一例を挙げると、針状細管13の貫通孔13eに沿う長さ寸法は30mm以下、好ましくは20mm以下程度とされる。30mmよりも長いと、針刺し事故が生じ易くなり、好ましくない。
【0043】なお、針状細管の形状の他の例を図10に示す。針状細管13Aは、中空管状容器12の開口12cが設けられている端部の外径とほぼ同等かこれより若干小さい内径を有する円筒状の外挿部13aを有する。この外挿部13aを中空管状容器12の端部に外挿させることにより、針状細管13Aが中空管状容器12に固定されるように構成されている。
【0044】また、図11は、針状細管のさらに他の例を示す斜視図である。針状細管13Bには、円筒状挿入部に代えて、円筒状外挿部13fが設けられている。円筒状外挿部13fは、その内径が、中空管状容器12の外径と同等か、それよりも若干小さくされており、中空管状容器12の開口12c側において、中空管状容器12に外挿されるように構成されている。また、円筒状外挿部13f内に中空管状容器12の一端が挿入されるものであるため、つば部は設けられていない。円筒状外挿部13fよりも下方の部分については、図6に示した針状細管13と同様に構成されている。従って、同一部分については、同一の参照番号を付することにより、説明は省略する。
【0045】次に、上記赤血球沈降速度測定管11を用いた赤血球沈降速度の測定方法の一例を図5を参照しつつ説明する。まず、針穴シール性部分を有する栓体により液密的に閉栓されている真空採血管に、抗凝固血を常法に従って採取する。しかる後、上記栓体に、図4に示した赤血球沈降速度測定管の針状細管13の針状刺通部13cを刺通し、その状態で図5に示すように全体を倒立させる。図5において、14は真空採血管を示し、採血管本体15と、栓体16とを備える。栓体16は、中央に針穴シール性を有する部分16aを有する。
【0046】なお、本明細書において、針穴シール性とは、ゴム状弾性体または熱可塑性エラストマーのような弾性体により実現し得る性質であり、針状体を刺通させることにより形成された孔が、針状体を抜去した後に自然に閉塞され、液密性が維持される性質をいうものとする。真空採血管14に用いられる栓体16は、通常、上記針穴シール性を有するように構成されている。
【0047】次に、図5(a)に示すように、針状細管13の先端13dが採血管14内の抗凝固血17に入り込み得るように刺通距離を調整する。その状態で、中空管状容器12の開口12bにベローズポンプ18を気密に接続し、ベローズポンプ18により中空管状容器12の内容積に見合った量の空気を注入する。注入された空気は中空管状容器12及び針状細管13を介して真空採血管14内に導かれる。そのため、真空採血管14内の気圧が高まり、抗凝固血17が該圧力の高まりに伴って中空管状容器12内に流入することになる(図5(b)参照)。また、図5(a)で、予め圧縮して潰したベローズポンプを開口12bに気密に接続して、ベローズポンプの復元力を利用して中空管状容器12内部を排気しても、相対的に真空採血管14内の気圧は高まり、同じく抗凝固血が中空管状容器12内に流入することになる。なお、図5(b)ではベローズポンプの図示は省略してある。
【0048】次に、所定量の抗凝固血17が中空管状容器12内に導かれた後に、真空採血管14及び赤血球沈降速度測定管11の全体を実質的に正立させ、静置させて赤血球沈降速度を測定する。
【0049】測定に先立ち、赤血球沈降速度測定管11を真空採血管14から分離してもよく、その場合には赤血球沈降速度測定管のみを測定架台に立て掛けたり、あるいは自動測定装置に供給すればよい。また、真空採血管14から赤血球沈降速度測定管11を引き抜いた際に、針状細管13の先端13dから抗凝固血が流出し得るおそれがある場合には、反対側に位置する開口12b側に、ベローズポンプを接続したままにしたり、他の手段で閉塞することにより、内部の抗凝固血の流出を防止することができる。
【0050】また、真空採血管14に赤血球沈降速度測定管11が連結された状態のまま測定を行ってもよく、上述した工程から明らかなように、赤血球沈降速度測定管11を真空採血管14に突き刺し、赤血球沈降速度測定管11に抗凝固血17を導入し、さらに赤血球沈降速度を測定する工程に至るまで、検査従事者が血液と接触する可能性はほとんどないことがわかる。
【0051】また、針状細管13の表面は水との接触角が80°以上の材料で構成されている。従って、たとえ真空採血管14から赤血球沈降速度測定管11を引き抜いて測定する場合であっても、針状細管13の外表面に血液はほとんど付着しない。よって、この場合にも、真空採血管14に本発明の赤血球沈降速度測定管11を突き刺し、上記赤血球沈降速度を測定する工程が終了するまで、検査従事者が血液と接触するおそれがほとんどないことがわかる。
【0052】なお、図5(a)では、中空管状容器12内に空気を注入したり、排気したりする部材としてベローズポンプ18を示したが、ベローズポンプ18に代えて、シリンジ、ゴム球などの他の気体注入または排気用部材を用いてもよく、空気以外の他の気体を注入してもよい。好ましくは、上記気体の注入量は、中空管状容器12の血液の導入が予定されている部分の容積に応じた量注入され、それによって上記血液導入部に確実に所望量の抗凝固血を導入することができる。
【0053】図6は、本発明の赤血球沈降速度測定管に保護キャップをさらに設けた例を説明するための斜視図である。図6から明らかなように、針状細管13に屈曲自在な連結具19が一体的に形成されている。連結具19は、図6では薄い帯状の部材で構成されており、従って屈曲自在とされているが、紐状などの他の形状の部材であってもよい。
【0054】連結具19の他端には保護キャップ20が連ねられている。図6の例では、保護キャップ20についても上記針状細管13及び連結具19と一体に合成樹脂により成形された部材として構成されている。もっとも、保護キャップ20及び連結具19は、それぞれ別体の部材で構成されて相互に固着されていてもよい。
【0055】保護キャップ20は、略円筒状のスリーブ20aを有し、スリーブ20aの一端が閉塞されており、閉塞されている部分において周囲にフランジ部20bが設けられている。上記スリーブ20aの内径は、針状細管13の針状刺通部13cの外径とほぼ同等とされており、針状細管13の先端13dから被せられることにより、スリーブ20aが針状細管13の針状刺通部13cの外表面を被覆し得るように構成されている。従って、抗凝固血17を測定管11に導入した後、測定管11を真空採血管14から引き抜いたときに、該保護キャップ20を針状細管13に装着することにより、血液感染の危険を一層低減できる。
【0056】また、連結具19の長さは、保護キャップ20により針状細管13の針状刺通部13cを被せる作業を行い得るように充分長くされている。図6に示した例では、連結具19及び保護キャップ20が針状細管13と一体に構成されていたが、連結具19及び保護キャップ20は、赤血球沈降速度測定管に連結されてさえおればよく、針状細管13に直接固定されておらずともよい。保護キャップを測定管に連結しておくことにより、キャップの紛失を効果的に防止できる。
【0057】例えば、図7(a)及び(b)に示すように、連結具19の保護キャップ20が設けられている側とは反対側にリング21を一体的に形成しておき、リング21を針状細管13の鍔部13bと中空管状容器12の端部との間において針状細管13の円筒状挿入部13aの周囲に外挿してもよい。この場合には、針状細管13を中空管状容器12に挿入することにより、上記連結具19の一端が赤血球沈降速度測定管11に固定されることになる。
【0058】また、より好ましい実施態様として図8及び図9に示すように、本発明にかかる赤血球沈降速度測定管11には、中空管状容器12に設けられた目盛りの零点に、血液止めフィルター31を挿入し固定したものであってもよい。血液止めフィルター31は、乾燥状態では気体は通過させるが、実質的に液体を通過させず、湿潤状態では気体も液体も実質的に通過させない疎水性の連続多孔体により構成されている。この血液止めフィルター31を用いることにより、図9(a),(b)に示されているように、ベローズポンプによる送気量あるいは排気量が、中空管状容器12の内容積の大きさに比べて過大になったとしても、中空管状容器12内に導入された抗凝固血の液面の設定を極めて容易に行うことができる。また、抗凝固血17の導入後に、測定管11を真空採血管14から引き抜いたときにも抗凝固血の流出のおそれがなくなる。
【0059】図12は、赤血球沈降速度測定管の他の好ましい実施態様を示す斜視図である。この態様では、両端に開口部21aを有する中空円筒形状の保護キャップ21が、血液止めフィルター31付き赤血球沈降速度測定管11の針状細管13取付部の上側の外周面に密着して装着されており、該保護キャップ21は、該測定管11の外周面をスライドすることにより、針状細管13を覆ったり〔図12(b)〕、露出させたり〔図12(a)〕することができるようにされている。このスライド操作は、針状細管13を覆うときには針状細管13の先端13dとは反対方向からのスライド操作となるため、針刺し事故に対する不安感を低減させることができる。
【0060】また、図8に示した赤血球沈降速度測定管の場合、赤血球沈降速度測定管11に抗凝固血を導入し、保護キャップ20を針状細管13に被せると細管先端13dを気密に封止し、血液汚染を封じ込めることができる点では都合がよいが、冬季の低湿度の環境では長時間放置した時、血液止めフィルター31側から血液中の水分が蒸発し、時として該フィルター下部に気泡が溜まることがある。しかしながら、図12に示した赤血球沈降速度測定管の場合では、針状細管先端13dが大気圧に対して開放状態であるため、該細管13側から測定管11内に水分蒸発量に見合った空気の流入が可能であり、長時間放置する場合でもフィルター下部に気泡が溜まるのを防止することができる。
【0061】前述したように、本発明にかかる赤血球沈降速度測定管は、針穴シール性部分を有する栓体により液密的に封止されている真空採血管に適用する場合に最も好ましい効果を発揮し得るが、他の形式の採血管にも好適に用いることができる。すなわち、ポリエチレンやポリプロピレンのように、それ自体は針穴シール性を有しない熱可塑性樹脂からなる栓体が嵌着されている採血管を用いて赤血球沈降速度の測定を行う場合にも、本発明にかかる赤血球沈降速度測定管を用いることができ、その場合には、例えば栓体に針状細管の外径相当のピンホールを予め設けておけばよい。
【0062】
【実施例】以下、本発明の赤血球沈降速度測定管及び沈降速度測定方法の具体的な実施例及び比較例を挙げて、本発明を明らかにする。
【0063】(実施例1)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表1の材質欄に記載した材料を用い、図6に示した寸法A〜Hが、それぞれ、A=2.5mm、B=1.5mm、C=6mm、D=0.4mm、E=1mm、F=5mm、G=3mm、H=10mmであり、鍔部13bの厚みI=1mmである針状細管を射出成形により作製した。
【0064】また、図7(a)に示した連結具19の両端にキャップ20及びリング21が設けられた部材をポリプロピレンを射出成形することにより作製した。この場合、キャップ20におけるスリーブ20aの内径は1mm、長さ寸法は6mm、フランジ部20bの外径は6mmとし、連結具19は厚み0.3mm×幅1mm×長さ25mmとなるように構成し、リング21については、内径3mm×外径6mm×厚み1mmとした。
【0065】次に、長さ300mm、外径6mm、内径2.5mmであり、零点目盛りに血液止めフィルタ31を挿入してなる図8に示したポリスチレン製赤血球沈降速度測定管(サンモア社製)の下端に、図7(a),(b)に示したようにしてリング21を挟み込むようにして針状細管13を挿入し、赤血球沈降速度測定管を組み立てた。
【0066】評価赤血球沈降速度測定用プラスチック真空採血管(積水化学工業社製、商品名:インセパック−R(SP−0402R))に2mlのうさぎ新鮮血を採取した。この採血管のゴム栓の採血針孔に沿って、赤血球沈降速度測定管の針状細管を刺通し、全体を倒立させた状態で、赤血球沈降速度測定管の他端からピペット用ゴム球を用い、約2mlの空気を注入した。
【0067】次に、赤血球沈降速度測定管中に血液が導入されてくる様子を目視にて観察した。この血液導入状況を下記の表1に示す。血液が血液止めフィルタに達し、血液導入が終了した赤血球沈降速度測定管を、真空採血管から抜去し、針状細管表面の血液付着状況を目視観察した。この血液付着状況を下記の表1に示す。
【0068】結果また、ピペット用ゴム球を外しキャップを針状細管に被せ、赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表1の沈降速度欄に示す。
【0069】下記の表1から明らかなように、表1に示した何れの材料により針状細管を構成した場合であっても、赤血球沈降速度測定管に血液が良好に導入され、かつ赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去した場合の針状細管表面への血液付着もほとんどみられなかった。さらに、血液沈降速度測定値についても、対照として併せて実施した血液止めフィルタや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法により得られた値32mmと比べて差がなく、良好な測定結果の得られることが確かめられた。
【0070】
【表1】
【0071】(比較例1)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表2の材質欄に記載した材質のうち、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート及びポリメチレンオキサイドについては、射出成形により、実施例1で用意したのと同じ寸法の針状細管を得た。ステンレスの場合については、太さ25G、長さ1″の市販のステンレス製採血針を流用した。ガラスについては、市販のガラス製パスツールピペットのくびれ部分を中心に両側1.5cmの箇所で切断し、計3cmの長さの針状細管を作製し、これを用いた。
【0072】上記のようにして用意した各針状細管について、射出成形した針状細管については実施例1で用いたキャップ及びリングが両端に設けられた連結具を用い、実施例1と同様にして、また、ステンレス製、ガラス製針状細管については、市販の内径が約6mmの軟質塩化ビニルチューブを1cmの長さに輪切りしたものを接続固定用部材として利用して、比較例の赤血球沈降速度測定管を作製した。
【0073】評価比較例1で用意した各赤血球沈降速度測定管につき、実施例1の場合と同様にして評価した。結果を下記の表2に示す。
【0074】結果表2から明らかなように、比較例1で用意した赤血球沈降速度測定管を用いた場合、血液の導入状況や沈降速度測定値は、実施例1の場合と比べて遜色なかった。しかしながら、赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去したときの針状細管表面に、実施例1の場合と比べて多くの血液が付着し、手指や赤血球沈降速度測定用架台を汚染するなどの問題が生じ、従来法と比べて作業性が改善されたとは言い難かった。
【0075】
【表2】
【0076】(実施例2)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表3の材質欄に記載したポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリメチレンオキサイドを用い、射出成形により、実施例1と同寸法の針状細管を得た。また、上記針状細管と、実施例1で用いたキャップ及びリング付きの連結具とを用い、実施例1と同様にして赤血球沈降速度測定管を作製した。しかる後、下記の表3の表面塗布剤に記載したポリジメチルシロキサン、鉱物油、ステアリン酸マグネシウムを針状細管の表面に塗布または塗擦し、過剰付着物を紙ウェスで拭き取った。
【0077】評価実施例2で用意した各赤血球沈降速度測定管につき、実施例1と同様にして評価を行った。結果を下記の表3の対応の欄に示す。なお、針状細管表面の接触角は、上記表面処理された部分に極小量の水滴を付着させた場合に得られた値を記載した。
【0078】結果下記の表3から明らかなように、実施例2の全ての針状細管において、血液導入状況は良好であり、かつ表面処理を行ったためか、赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去した採血管の針状細管表面における血液付着もほとんど生じなかった。さらに、赤血球沈降速度測定値についても、対照として併せて実施した、血液止めフィルタや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法により得られた値32mmと比べて差がなく、良好な結果を得ることができた。
【0079】
【表3】
【0080】(実施例3)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表4の材質欄に記載した材料を用い、図11に示した寸法A〜Hが、それぞれ、A=8mm、B=6mm、C=3.1mm、D=0.4mm、E=1mm、F=5mm、G=3mm、H=10mmの針状細管13Bを射出成形により作製した。また、図7(a)に示した連結具19の両端にキャップ20及びリング21が設けられた部材を実施例1と同様にしてポリエチレンで作製した。
【0081】次に、長さ300mm、外径6mm、内径2.5mmで、零点目盛りに血液止めフィルタ31を嵌挿したポリスチレン製の赤血球沈降速度測定管(サンモア社製)の下端に強制的に被せるようにして針状細管を装着固定し、本発明の赤血球沈降速度測定管を組み立てた。さらにリング21を針状細管の外径Cの部分に嵌め込み固定することにより、キャップ20を連結させた。しかる後、表4の表面塗布剤欄に記載した一般用シリコーン離型剤(KF96SP、信越化学工業社製)を針状細管の表面にスプレー塗布した。
【0082】評価針状細管表面の接触角は、上記表面処理された部分に極少量の水滴を付着させた場合に得られた値を記載した。
【0083】実施例1と同様にして、新鮮血を採取し、この採血管のゴム栓の採血針孔に沿って、前述の赤血球沈降速度測定管の針状細管を刺通し、全体を倒立させた状態で、該赤血球沈降速度測定管の他端にシリンジを気密に接続し、シリンジ目盛で約4ml分プランジャーを引き、赤血球沈降速度測定管内を排気した。続いて、該赤血球沈降速度測定管中に血液が導入されてくる様子を目視観察した。この血液導入状況を下記の表4に示す。血液が血液止めフィルタに達し、血液導入が終わった後に該赤血球沈降速度測定管を真空採血管から抜去したときの針状細管表面の血液付着状況を目視観察した。この血液付着状況を下記の表4に示す。シリンジを外し、キャップを針状細管に被せて赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表4の沈降速度欄に示す。
【0084】結果下記の表4から明らかなように、表4に示した何れの材料、及び表面塗布処理により針状細管を構成した場合であっても、血液導入状況は良好であり、また、赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去したときの針状細管表面の血液付着もほとんどなかった。さらに、沈降速度測定値についても、対照として併せて実施した、血液止めフィルタや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法で得られた値24mmと比べて差がなく、良好な測定結果の得られることが確かめられた。
【0085】
【表4】
【0086】(実施例4)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表5の材質欄に記載した材料を用い、図11に示した寸法A〜Hが、それぞれ、A=8mm、B=6mm、C=3.1mm、D=0.4mm、E=1mm、F=5mm、G=3mm、H=10mmの針状細管13Bを射出成形により作製した。また、図7(a)に示した連結具19の両端にキャップ20及びリング21が設けられた部材を実施例1と同様にしてポリエチレンで作製した。
【0087】次に、長さ300mm、外径6mm、内径2.5mmのポリスチレン製の赤血球沈降速度測定管(サンモア社製)の下端に強制的に被せるようにして針状細管13Bを装着固定し、本発明の赤血球沈降速度測定管を組み立てた。さらにリング21を針状細管の外径Cの部分に嵌め込み固定することによりキャップ20を連結させた。しかる後、表5の表面塗布剤欄に記載した一般用シリコーン離型剤(KF96SP、信越化学工業社製)を針状細管の表面にスプレー塗布した。
【0088】評価針状細管表面の接触角は、上記表面処理された部分に極少量の水滴を付着させた場合に得られた値を記載した。
【0089】実施例1と同様にして、新鮮血を採取し、この採血管のゴム栓の採血針孔に沿って、前述の赤血球沈降速度測定管の針状細管を刺通し、全体を倒立させた状態で、該赤血球沈降速度測定管の他端にベローズポンプを気密に接続し、約1ml分の空気を注入した。なお、ベローズポンプは装着したままにした。続いて、ベローズポンプの復元に合わせて該赤血球沈降速度測定管中に血液が導入されてくる様子を目視観察した。この血液導入状況を下記の表5に示す。血液導入が終わった後、該赤血球沈降速度測定管を真空採血管から抜去したときの針状細管表面の血液付着状況を目視観察した。この血液付着状況を下記の表5に示す。
【0090】キャップを針状細管に被せて、ベローズポンプを外し、赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表5の沈降速度欄に示す。
【0091】結果下記の表5から明らかなように、表5に示した何れの材料や表面塗布処理を用いて針状細管を構成した場合であっても、良好な血液導入状況を示し、また、赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去したときの針状細管表面の血液付着もほとんどなかった。さらに、沈降速度測定値についても、対照として併せて実施した、血液止めフィルタや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法で得られた値21mmと比べて差がなく、良好な測定結果の得られることが確かめられた。
【0092】
【表5】
【0093】(実施例5)
赤血球沈降速度測定管の作製実施例3で用いたポリメチレンオキサイド製針状細管を同じく実施例3で用いた赤血球沈降速度測定管(サンモア社製)の下端に強制的に被せるようにして針状細管を装着固定した。さらに図12に示したタイプの保護キャップとして、内径8mmφ、肉厚1.5mm、長さ30mmの軟質塩化ビニール製のチューブを針状細管のFの部分と測定管に股がるように装着して、本発明の赤血球沈降速度測定管を組み立てた。しかる後に実施例3と同様にしてシリコーン離型剤を針状細管の表面に塗布した。接触角は105°であった。
【0094】評価実施例1と同様にして、新鮮血を採取し、この採血管のゴム栓の採血針孔に沿って、前述の赤血球沈降速度測定管の針状細管を刺通し、全体を倒立させた状態で、該赤血球沈降速度測定管の他端にシリンジを気密に接続し、シリンジ目盛りで約2ml分の空気を注入した。血液が血液止めフィルターに達し、血液導入が終わった後にシリンジを外し、次いで測定管を採血管から抜去し、保護キャップをスライドさせて針状細管を覆った。しかる後に、赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表6の沈降速度欄に示す。さらに24時間、架台に載置し続け、血液止めフィルター下部への気泡の侵入の有無を観察した。結果を表6の気泡欄に示す。
【0095】(実施例6)
赤血球沈降速度測定管の作製実施例3で作製した、ポリメチレンオキサイド製針状細管(シリコーン離型剤塗布)及びポリエチレン製保護キャップ付の本発明の赤血球沈降速度測定管を用意した。
【0096】評価実施例5と同様にして血液を測定管に導入し、保護キャップを針状細管に被せて気密に封止した。しかる後に、赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表6の沈降速度欄に示す。さらに24時間、架台に載置し続け、血液止めフィルター下部への気泡の侵入の有無を観察した。結果を表6の気泡欄に示す。
【0097】結果表6から明らかなように、1時間後の血液沈降速度測定値については、保護キャップの構造によらず、対照として併せて実施した血液止めフィルターや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法で得られた値18mmと比べて差のない良好な測定結果が得られた。しかしながら、24時間放置後の血液止めフィルター下部への気泡の侵入については、実施例5では、全く侵入しなかったのに対し、実施例6では気泡が侵入し、血液面が若干下降していた。
【0098】
【表6】
【0099】
【発明の効果】本発明にかかる赤血球沈降速度測定管では、両端に開口を有する中空管状容器の一端に表面が水との接触角が80°以上とされている針状細管が備えられており、採血管の栓体に針状細管を利用して容易に刺通することができ、かつ栓体から針状細管を抜去した場合、該針状細管の表面に血液が付着し難い。
【0100】また、本発明の赤血球沈降速度測定管を用いれば、請求項4に記載のように、採血管に針状細管を刺通させる工程から、赤血球沈降速度を測定する工程に至るまで、検査従事者が血液と接触するおそれを大幅に低減し得る。
【0101】よって、検査従事者の血液感染の危険を大幅に低減することが可能となり、かつ針状細管を金属ではなく合成樹脂により構成した場合では、赤血球沈降速度測定管の廃棄にあたり煩雑な分別作業を実施する必要もない。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の赤血球沈降速度測定管を示す斜視図。
【図2】(a)及び(b)は、従来の赤血球沈降速度測定方法の一例を説明するための各斜視図。
【図3】本発明の赤血球沈降速度測定管の一例を説明するための分解斜視図。
【図4】本発明の赤血球沈降速度測定管の一例を説明するための斜視図。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の赤血球沈降速度測定管を用いた測定方法を説明するための各斜視図であり、図5(a)は採血管及び赤血球沈降速度測定管を実質的に倒立させて赤血球沈降速度測定管の開口から気体を注入する工程を示す図であり、(b)は血液を赤血球沈降速度測定管に導いた状態を示す図。
【図6】針状細管に連結具及び保護キャップを一体的に連結した例を示す斜視図。
【図7】(a)及び(b)は、連結具及び保護キャップを赤血球沈降速度測定管に連結する構造の他の例を示す各斜視図。
【図8】血液止めフィルターを設けた本発明にかかる赤血球沈降速度測定管を示す斜視図。
【図9】(a)及び(b)は、血液止めフィルターを用いた赤血球沈降速度測定管を利用した赤血球沈降速度の測定方法を説明するための各斜視図。
【図10】本発明に用いられる針状細管の他の例を示す斜視図。
【図11】本発明に用いられる針状細管のさらに他の例を示す斜視図。
【図12】本発明の、保護キャップを備えた赤血球沈降速度測定管の他の例を説明するための斜視図であり、(a)は保護キャップが針状細管を露出させている状態を示す図であり、(b)は保護キャップが針状細管を覆っている状態を示す図である。
【符号の説明】
11…赤血球沈降速度測定管
12…中空管状容器
12a…目盛り
12b,12c…開口
13,13A,13B…針状細管
14…真空採血管
15…採血管本体
16…栓体
16a…針穴シール性を有する部分
19…連結具
20…保護キャップ
21…保護キャップ
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、赤血球沈降速度測定管及び赤血球沈降速度の測定方法に関し、より詳細には、中空管状の容器に抗凝固血を導き、血球成分が一定時間内に沈降分離したことにより生じる上澄み成分の嵩高さを測定することにより赤血球沈降速度を測定するのに用いられる赤血球沈降速度測定管及び該測定管を用いた赤血球沈降速度の測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】臨床検査においては、疾患の存在を検出するために、赤血球沈降速度の測定が古くから行われている。赤血球沈降速度の測定は、通常、以下のようにして行われている。
【0003】まず、被採血者の血液を、例えばシリンジ等を用いて採取する。採取された血液に抗凝固剤として、例えば3.2重量%濃度のクエン酸Na3 ・2H2 O水溶液を、血液4容に対して1容加えてよく混合する。次に、図1に示す内径1〜3mm程度、外径5〜6mm程度、及び長さ30cm程度の透明な目盛り付き測定管1内に、抗凝固剤が混合された血液を注入する。上記目盛り付き測定管1は、通常はガラスからなり、一般的には、ウェスターグレン管と称されているものが汎用されている。
【0004】上記抗凝固血の目盛り付き測定管への注入は様々な方法で行われている。例えば、シリンジに吸引した抗凝固血を目盛り付き測定管の一端開口から該目盛り付き測定管内に押し出す方法、図2(a)に示すように、目盛り付き測定管1の一端を抗凝固血が収納されている容器2に浸し、他端に適当なアダプター3を付けてシリンジ4を連結し、シリンジ4により吸引する方法、並びに、目盛り付き測定管を口にくわえて吸い上げる方法などが行われていた。
【0005】次に、目盛り付き測定管に抗凝固血を注入した後、該目盛り付き測定管の下端側を粘土様材料で閉じた後、目盛り付き測定管が垂直方向に延びるように専用の架台に立てかけ、血球成分の沈降を待つ。静置してから1時間後及び2時間後に生じた透明な上澄み部分(血漿)の長さをmm単位で測定し、赤血球沈降速度とする。
【0006】臨床検査においては、上記mm単位で測定された長さを健常者の場合と比較し、疾患の有無を推定する。なお、測定後には上記目盛り付き測定管を洗浄し、再使用する。
【0007】上述した赤血球沈降速度の測定方法では、検査従事者は、目盛り付き測定管に抗凝固血を導入する際、目盛り付き測定管の下端を閉じる際、並びに使用後の目盛り付き測定管を再使用のために洗浄する際の各段階において血液に触れる危険にさらされていた。従って、検体がAIDSや血清肝炎などの感染性の強い疾患に関係している場合、検査従事者がこれらの疾患に感染するおそれがあった。
【0008】そこで、赤血球沈降速度の測定に際して検査従事者が血液に接触する可能性を低減するために、種々の方法が提案されている。実開昭61−70770号公報には、図2(b)に示すように、採血管5の内周面に接触しつつ移動され得る外周面を有するピストン6を目盛り付き測定管1の下部に外挿し、目盛り付き測定管1をピストン6と共に採血管5内に挿入し、ピストン6の圧力により血液7を目盛り付き測定管1内に導入する方法が開示されている。この方法によれば、目盛り付き測定管1への血液導入に際しての検査従事者と血液との接触を防止することができるとされている。
【0009】しかしながら、この方法でも、採血管5を開栓する際に血液飛沫が飛散し、やはり検査従事者が血液に接触するおそれがあった。さらに、ピストン6の下部に気泡を巻き込み易く、目盛り付き測定管1内まで気泡が侵入して測定不能となることがあった。
【0010】他方、実公平3−47605号公報には、真空採血管をそのまま赤血球沈降速度測定管として転用することにより、血液感染の危険を低減する方法が開示されている。
【0011】しかしながら、採血管を赤血球沈降速度測定管に転用しているため、採血管の長さが長くなる。従って、内部に予め収容されているクエン酸Na水溶液と血液との混合が十分に行われなかったり、混和中に気泡を巻き込み、測定に支障を来たしたりすることがあった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本願発明者らは、先に特公平7−69323号公報において、目盛り付き測定管の一端に採血管の栓体を貫通し得る連通具を設けてなる赤血球沈降速度測定用治具及び測定方法を提案した。この発明では、真空採血管が有する血液検体の密封性を最大限に活かすために、真空採血管を閉栓したままの状態で血液を目盛り付き測定管に導き得るように、上記連通具が用いられている。
【0013】しかしながら、真空採血管の栓体を貫通するには、比較的大きな力を必要とする。従って、多数の検体を処理する場合には、上記連通具を備えた赤血球沈降速度測定用治具は必ずしも適切なものではなかった。
【0014】また、上記発明に別の実施態様として記載されている採血針様の針状体を用いる方法では、例えば金属製採血針を用いると、栓体を貫通させるのに必要な力を低減することができる。しかしながら、金属製採血針は血液に濡れ易いので、採血管から抜針すると、採血針表面に多量の血液が付着し、検査従事者が血液に接触するおそれがあった。加えて、使用する採血針が比較的長いと、針刺し事故が起こる可能性もあった。さらに、使用済の赤血球沈降速度測定用治具の廃棄にあたっては、上記金属製採血針と目盛り付き測定管とを分別する必要があり、煩雑であった。
【0015】本発明の目的は、さらに検査従事者の血液感染の危険をより一層大幅に低減することができ、廃棄に際しての煩雑な分別作業を省略し得る赤血球沈降速度測定管及び赤血球沈降速度の測定方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を達成するためになされたものであり、請求項1に記載の発明は、予め均一に混和された抗凝固血において血球成分が沈降分離することにより生じる上澄み成分の嵩高さを測定することにより赤血球沈降速度を測定する方法に用いられる測定管であって、両端に開口を有する中空管状容器と、前記中空管状容器の一端に取り付けられており、かつ水との接触角が80°以上の表面を有する針状細管とを備えることを特徴とする。
【0017】また、請求項1に記載の発明にかかる赤血球沈降速度測定管では、好ましくは、請求項2に記載のように、上記針状細管に嵌合する保護キャップと、保護キャップを赤血球沈降速度測定管に連結しており、かつ屈曲自在な部材よりなる連結部材とがさらに備えられる。
【0018】また、請求項1に記載の発明にかかる赤血球沈降速度測定管では、好ましくは、請求項3に記載のように、大気圧と連通可能な開口部を有する中空の略円筒形状からなり、赤血球沈降速度測定管の外周面をスライドすることにより、該針状細管を覆ったり、露出させたりすることが可能とされた保護キャップが、赤血球沈降速度測定管の外周面に装着される。
【0019】また、請求項4に記載の発明は、針穴シール性部分を有する栓体により液密的に閉栓されている採血管に採取された抗凝固血を用いて赤血球沈降速度を測定する方法であって、請求項1、2または3に記載の赤血球沈降速度測定管の前記針状細管を採血管の針穴シール性部分に刺通する工程と、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に倒立させて、採血管が赤血球沈降速度測定管よりも上側となるように配置する工程と、刺通されている針状細管の先端が採血管内の抗凝固血に埋没するように刺通距離を調整する工程と、前記赤血球沈降速度測定管の他端の開口から前記針状細管を経由して採血管内部に気体を注入し、採血管内部の気圧を高めることにより、または、該測定管の他端の開口から該測定管内部の空気を排気して該測定管内部の気圧を減じることにより、相対的に採血管内部の気圧を測定管内部の気圧より高めることによって赤血球沈降速度測定管に抗凝固血を導く工程と、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に正立させた後、赤血球沈降速度を測定する工程とを備えることを特徴とする。
【0020】請求項1に記載の発明では、赤血球沈降速度を測定するための測定管本体としての中空管状容器に、上記のように水との接触角が80°以上の表面を有する針状細管が取り付けられている。上記針状細管の表面の水との接触角を80°以上とするのは、針状細管の表面に血液が付着するのを抑制するためである。
【0021】針状細管の表面を、水との接触角が80°以上とするには、針状細管を構成する材料自体を、水との接触角が80°以上の材料で構成する方法のほか、針状細管の表面に水との接触角が80°以上の材料層を構成することによって達成してもよい。
【0022】請求項1に記載の発明にかかる赤血球沈降速度測定管は、特公平7−69323号公報に開示されている赤血球沈降速度測定用治具と同様に、閉栓したままの真空採血管から抗凝固血を採取するのに好適に用いられるものである。その場合、真空採血管の栓体から針状細管を抜去した際に針状細管の表面に血液が付着するおそれがあるが、上記特定の材料で針状細管が構成されているため、針状細管表面への血液の付着が抑制される。
【0023】上記接触角は、室温で測定される値であり、後退接触角と前進接触角とに差がある場合には、前進接触角の値が用いられる。水との接触角が80°以上の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチルセルロースなどの有機材料を例示することができる。
【0024】また、水との接触角が80°未満の材料からなる針状細管の表面に水との接触角が80°以上の層を構成する場合の例としては、以下のものを挙げることができる。例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリメチレンオキサイドなどは水との接触角が80°未満の材料であるが、これらの材料により針状細管を構成し、表面に疎水性の被膜を設けて水との接触角を80°以上としてもよい。疎水性の被膜を設けるには、上記材料からなる針状細管を成形した後に、例えば、ポリジメチルシロキサン、鉱物油などの疎水性油状液体を細管表面に塗布したり、あるいはフレオンのように樹脂材質を侵し難い媒体にこれらの油状液体を溶解させたり、水中に乳化させたりした後に噴霧塗布すればよい。
【0025】また、樹脂の滑剤として周知のステアリン酸マグネシウムやワックス等を針状細管表面に塗擦してもよい。あるいは、成形前の樹脂原料に予めポリジメチルシロキサン、鉱物油、ステアリン酸マグネシウムやワックスなどを混合しておき、針状細管を成形すれば、針状細管表面にこれらの油状成分や滑剤成分が分散し表面を疎水性とすることができるため、表面の水との接触角を80°以上とすることができる。
【0026】また、請求項1に記載の発明で用いられる上記中空管状容器は、赤血球沈降速度測定管の測定管本体を構成するものであり、特に限定されるものではないが、透明ないしは半透明のガラスや合成樹脂などからなり、かつ好ましくは、上記上澄み成分の嵩高さを測定するための目盛りが設けられているものが用いられ、従来より公知のいわゆるウェスターグレン管が用いられ得る。
【0027】また、上記針状細管は、その先端が、真空採血管のゴム弾性を有する架橋性あるいは可塑性エラストマーからなる栓体を貫通するのに適しているように、その強度及び先端の鋭利性などが選ばれている。すなわち、後述の針穴シール性を有する栓体を刺通し得るようにその強度及び形状が選ばれている。
【0028】請求項2に記載の発明では、上記連結部材を介して保護キャップが赤血球沈降速度測定管に設けられており、それによって抗凝固血の導入後に採血管から測定管を抜去したときに針状細管の先端の孔を覆うと共に、針状細管の周囲を囲繞し得るため、検査従事者の血液感染のおそれをより一層低減することができる。
【0029】請求項3に記載の発明では、赤血球沈降速度測定管の外周面をスライドすることにより、該針状細管を覆ったり、露出させたりすることが可能とされた保護キャップが、赤血球沈降速度測定管の外周面に装着されており、それによって、抗凝固血の導入後に採血管から測定管を抜去したときに針状細管先端の後方から該細管の周囲を囲い得るため、細管先端に検査従事者の手指が触れる機会が少なく、血液感染のおそれをより一層低減することができる。
【0030】請求項4に記載の発明は、上記請求項1、2または3に記載の赤血球沈降速度測定管を用いて赤血球沈降速度を測定する方法である。この場合、後述の発明の実施形態から明らかなように、針状細管が採血管の針穴シール性を有する栓体に容易に刺通され、かつ針状細管を採血管の栓体に刺通させた後、実質的に倒立させた状態で、赤血球沈降速度測定管の他端の開口から気体を注入することにより、または、吸引排気することにより、相対的に採血管内部の気圧を測定管内部の気圧より高めることにより、抗凝固血が中空管状容器内に導かれる。
【0031】さらに、抗凝固血を赤血球沈降速度測定管内に導いた後に、全体を実質的に正立させた後に、赤血球沈降速度を測定する。すなわち、真空採血管内に収容されている抗凝固血を採取する工程、赤血球沈降速度測定管内に導く工程、接着沈降速度を測定する工程の全段階にわたり、検査従事者と血液との接触を効果的に防止することができる。
【0032】なお、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に正立させた後に、測定用架台あるいは自動測定装置等に搭載して赤血球沈降速度を測定するが、両者を分離して測定してもよく、また分離せずにそのまま測定してもよい。
【0033】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ本発明の赤血球沈降速度測定管及び赤血球沈降速度の測定方法の詳細を説明する。
【0034】図3及び図4は、本発明の一例にかかる赤血球沈降速度測定管を説明するための分解斜視図及び外観を示す斜視図である。この赤血球沈降速度測定管11は、中空管状容器12と、針状細管13とを備える。中空管状容器12は、測定管本体を構成するものであり、図3及び図4に示す例ではガラスにより構成されている。もっとも、中空管状容器12は、合成樹脂などの他の材料で構成されてもよく、好ましくは、内部に抗凝固血が導入されたことが確認し得るように透明または半透明性を有するように構成されている。
【0035】また、上記中空管状容器12の寸法は、特に限定されるものではないが、内部に導入される抗凝固血の量に応じて適宜の内容積を有する寸法に構成されている。
【0036】中空管状容器12には、目盛り12aが形成されている。目盛り12aは、好ましくは中空管状容器12の外表面に形成されるが、内表面に形成されていてもよい。目盛り12aは、後述するように血球成分の沈降により生じる上澄み成分の嵩高さを測定するために形成されている。従って、所定長さ毎に上記嵩高さを測定するために目盛り12aが配置されている。
【0037】中空管状容器12の両端には、開口12b,12cが形成されている。針状細管13は、中空管状容器12の一端の開口12cに挿入されて固定されている。すなわち、針状細管13は、開口12cの内径とほぼ同等か、開口12cの内径よりも若干大きな外径を有する円筒状の挿入部13aを有する。円筒状挿入部13aを開口12c内に挿入することにより、針状細管13が中空管状容器12に固定されるように構成されている。
【0038】円筒状挿入部13aの一端には鍔部13bが設けられている。鍔部13bはその外径が円筒状挿入部13aより大きくされており、従って、中空管状容器12の開口12cに針状細管13を挿入した際に、挿入深度が鍔部13bにより規制される。すなわち、針状細管13の全体が中空管状容器12内に入り込まないように、上記鍔部13bが設けられている。
【0039】鍔部13bの円筒状挿入部13aが設けられている側とは反対側には、針状刺通部13cが設けられている。針状刺通部13cは、先端13dが尖らされており、後述の針穴シール性を有する真空採血管の栓体に刺通され得るように構成されている。
【0040】上記円筒状挿入部13a、鍔部13b及び針状刺通部13cは、好ましくは合成樹脂により一体的に成形されるが、それぞれ別部材で構成されているものを固着してもよい。
【0041】上記円筒状挿入部13a、鍔部13b及び針状刺通部13cを貫くように貫通孔13eが形成されており、該貫通孔13eは、抗凝固血を中空管状容器12に導入するために設けられている。
【0042】また、針状細管13は、表面が水の接触角が80°以上の材料で構成されており、かつ針状刺通部13cが真空採血管の栓体を容易に刺通し得るような強度及び形状とされている。一例を挙げると、針状細管13の貫通孔13eに沿う長さ寸法は30mm以下、好ましくは20mm以下程度とされる。30mmよりも長いと、針刺し事故が生じ易くなり、好ましくない。
【0043】なお、針状細管の形状の他の例を図10に示す。針状細管13Aは、中空管状容器12の開口12cが設けられている端部の外径とほぼ同等かこれより若干小さい内径を有する円筒状の外挿部13aを有する。この外挿部13aを中空管状容器12の端部に外挿させることにより、針状細管13Aが中空管状容器12に固定されるように構成されている。
【0044】また、図11は、針状細管のさらに他の例を示す斜視図である。針状細管13Bには、円筒状挿入部に代えて、円筒状外挿部13fが設けられている。円筒状外挿部13fは、その内径が、中空管状容器12の外径と同等か、それよりも若干小さくされており、中空管状容器12の開口12c側において、中空管状容器12に外挿されるように構成されている。また、円筒状外挿部13f内に中空管状容器12の一端が挿入されるものであるため、つば部は設けられていない。円筒状外挿部13fよりも下方の部分については、図6に示した針状細管13と同様に構成されている。従って、同一部分については、同一の参照番号を付することにより、説明は省略する。
【0045】次に、上記赤血球沈降速度測定管11を用いた赤血球沈降速度の測定方法の一例を図5を参照しつつ説明する。まず、針穴シール性部分を有する栓体により液密的に閉栓されている真空採血管に、抗凝固血を常法に従って採取する。しかる後、上記栓体に、図4に示した赤血球沈降速度測定管の針状細管13の針状刺通部13cを刺通し、その状態で図5に示すように全体を倒立させる。図5において、14は真空採血管を示し、採血管本体15と、栓体16とを備える。栓体16は、中央に針穴シール性を有する部分16aを有する。
【0046】なお、本明細書において、針穴シール性とは、ゴム状弾性体または熱可塑性エラストマーのような弾性体により実現し得る性質であり、針状体を刺通させることにより形成された孔が、針状体を抜去した後に自然に閉塞され、液密性が維持される性質をいうものとする。真空採血管14に用いられる栓体16は、通常、上記針穴シール性を有するように構成されている。
【0047】次に、図5(a)に示すように、針状細管13の先端13dが採血管14内の抗凝固血17に入り込み得るように刺通距離を調整する。その状態で、中空管状容器12の開口12bにベローズポンプ18を気密に接続し、ベローズポンプ18により中空管状容器12の内容積に見合った量の空気を注入する。注入された空気は中空管状容器12及び針状細管13を介して真空採血管14内に導かれる。そのため、真空採血管14内の気圧が高まり、抗凝固血17が該圧力の高まりに伴って中空管状容器12内に流入することになる(図5(b)参照)。また、図5(a)で、予め圧縮して潰したベローズポンプを開口12bに気密に接続して、ベローズポンプの復元力を利用して中空管状容器12内部を排気しても、相対的に真空採血管14内の気圧は高まり、同じく抗凝固血が中空管状容器12内に流入することになる。なお、図5(b)ではベローズポンプの図示は省略してある。
【0048】次に、所定量の抗凝固血17が中空管状容器12内に導かれた後に、真空採血管14及び赤血球沈降速度測定管11の全体を実質的に正立させ、静置させて赤血球沈降速度を測定する。
【0049】測定に先立ち、赤血球沈降速度測定管11を真空採血管14から分離してもよく、その場合には赤血球沈降速度測定管のみを測定架台に立て掛けたり、あるいは自動測定装置に供給すればよい。また、真空採血管14から赤血球沈降速度測定管11を引き抜いた際に、針状細管13の先端13dから抗凝固血が流出し得るおそれがある場合には、反対側に位置する開口12b側に、ベローズポンプを接続したままにしたり、他の手段で閉塞することにより、内部の抗凝固血の流出を防止することができる。
【0050】また、真空採血管14に赤血球沈降速度測定管11が連結された状態のまま測定を行ってもよく、上述した工程から明らかなように、赤血球沈降速度測定管11を真空採血管14に突き刺し、赤血球沈降速度測定管11に抗凝固血17を導入し、さらに赤血球沈降速度を測定する工程に至るまで、検査従事者が血液と接触する可能性はほとんどないことがわかる。
【0051】また、針状細管13の表面は水との接触角が80°以上の材料で構成されている。従って、たとえ真空採血管14から赤血球沈降速度測定管11を引き抜いて測定する場合であっても、針状細管13の外表面に血液はほとんど付着しない。よって、この場合にも、真空採血管14に本発明の赤血球沈降速度測定管11を突き刺し、上記赤血球沈降速度を測定する工程が終了するまで、検査従事者が血液と接触するおそれがほとんどないことがわかる。
【0052】なお、図5(a)では、中空管状容器12内に空気を注入したり、排気したりする部材としてベローズポンプ18を示したが、ベローズポンプ18に代えて、シリンジ、ゴム球などの他の気体注入または排気用部材を用いてもよく、空気以外の他の気体を注入してもよい。好ましくは、上記気体の注入量は、中空管状容器12の血液の導入が予定されている部分の容積に応じた量注入され、それによって上記血液導入部に確実に所望量の抗凝固血を導入することができる。
【0053】図6は、本発明の赤血球沈降速度測定管に保護キャップをさらに設けた例を説明するための斜視図である。図6から明らかなように、針状細管13に屈曲自在な連結具19が一体的に形成されている。連結具19は、図6では薄い帯状の部材で構成されており、従って屈曲自在とされているが、紐状などの他の形状の部材であってもよい。
【0054】連結具19の他端には保護キャップ20が連ねられている。図6の例では、保護キャップ20についても上記針状細管13及び連結具19と一体に合成樹脂により成形された部材として構成されている。もっとも、保護キャップ20及び連結具19は、それぞれ別体の部材で構成されて相互に固着されていてもよい。
【0055】保護キャップ20は、略円筒状のスリーブ20aを有し、スリーブ20aの一端が閉塞されており、閉塞されている部分において周囲にフランジ部20bが設けられている。上記スリーブ20aの内径は、針状細管13の針状刺通部13cの外径とほぼ同等とされており、針状細管13の先端13dから被せられることにより、スリーブ20aが針状細管13の針状刺通部13cの外表面を被覆し得るように構成されている。従って、抗凝固血17を測定管11に導入した後、測定管11を真空採血管14から引き抜いたときに、該保護キャップ20を針状細管13に装着することにより、血液感染の危険を一層低減できる。
【0056】また、連結具19の長さは、保護キャップ20により針状細管13の針状刺通部13cを被せる作業を行い得るように充分長くされている。図6に示した例では、連結具19及び保護キャップ20が針状細管13と一体に構成されていたが、連結具19及び保護キャップ20は、赤血球沈降速度測定管に連結されてさえおればよく、針状細管13に直接固定されておらずともよい。保護キャップを測定管に連結しておくことにより、キャップの紛失を効果的に防止できる。
【0057】例えば、図7(a)及び(b)に示すように、連結具19の保護キャップ20が設けられている側とは反対側にリング21を一体的に形成しておき、リング21を針状細管13の鍔部13bと中空管状容器12の端部との間において針状細管13の円筒状挿入部13aの周囲に外挿してもよい。この場合には、針状細管13を中空管状容器12に挿入することにより、上記連結具19の一端が赤血球沈降速度測定管11に固定されることになる。
【0058】また、より好ましい実施態様として図8及び図9に示すように、本発明にかかる赤血球沈降速度測定管11には、中空管状容器12に設けられた目盛りの零点に、血液止めフィルター31を挿入し固定したものであってもよい。血液止めフィルター31は、乾燥状態では気体は通過させるが、実質的に液体を通過させず、湿潤状態では気体も液体も実質的に通過させない疎水性の連続多孔体により構成されている。この血液止めフィルター31を用いることにより、図9(a),(b)に示されているように、ベローズポンプによる送気量あるいは排気量が、中空管状容器12の内容積の大きさに比べて過大になったとしても、中空管状容器12内に導入された抗凝固血の液面の設定を極めて容易に行うことができる。また、抗凝固血17の導入後に、測定管11を真空採血管14から引き抜いたときにも抗凝固血の流出のおそれがなくなる。
【0059】図12は、赤血球沈降速度測定管の他の好ましい実施態様を示す斜視図である。この態様では、両端に開口部21aを有する中空円筒形状の保護キャップ21が、血液止めフィルター31付き赤血球沈降速度測定管11の針状細管13取付部の上側の外周面に密着して装着されており、該保護キャップ21は、該測定管11の外周面をスライドすることにより、針状細管13を覆ったり〔図12(b)〕、露出させたり〔図12(a)〕することができるようにされている。このスライド操作は、針状細管13を覆うときには針状細管13の先端13dとは反対方向からのスライド操作となるため、針刺し事故に対する不安感を低減させることができる。
【0060】また、図8に示した赤血球沈降速度測定管の場合、赤血球沈降速度測定管11に抗凝固血を導入し、保護キャップ20を針状細管13に被せると細管先端13dを気密に封止し、血液汚染を封じ込めることができる点では都合がよいが、冬季の低湿度の環境では長時間放置した時、血液止めフィルター31側から血液中の水分が蒸発し、時として該フィルター下部に気泡が溜まることがある。しかしながら、図12に示した赤血球沈降速度測定管の場合では、針状細管先端13dが大気圧に対して開放状態であるため、該細管13側から測定管11内に水分蒸発量に見合った空気の流入が可能であり、長時間放置する場合でもフィルター下部に気泡が溜まるのを防止することができる。
【0061】前述したように、本発明にかかる赤血球沈降速度測定管は、針穴シール性部分を有する栓体により液密的に封止されている真空採血管に適用する場合に最も好ましい効果を発揮し得るが、他の形式の採血管にも好適に用いることができる。すなわち、ポリエチレンやポリプロピレンのように、それ自体は針穴シール性を有しない熱可塑性樹脂からなる栓体が嵌着されている採血管を用いて赤血球沈降速度の測定を行う場合にも、本発明にかかる赤血球沈降速度測定管を用いることができ、その場合には、例えば栓体に針状細管の外径相当のピンホールを予め設けておけばよい。
【0062】
【実施例】以下、本発明の赤血球沈降速度測定管及び沈降速度測定方法の具体的な実施例及び比較例を挙げて、本発明を明らかにする。
【0063】(実施例1)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表1の材質欄に記載した材料を用い、図6に示した寸法A〜Hが、それぞれ、A=2.5mm、B=1.5mm、C=6mm、D=0.4mm、E=1mm、F=5mm、G=3mm、H=10mmであり、鍔部13bの厚みI=1mmである針状細管を射出成形により作製した。
【0064】また、図7(a)に示した連結具19の両端にキャップ20及びリング21が設けられた部材をポリプロピレンを射出成形することにより作製した。この場合、キャップ20におけるスリーブ20aの内径は1mm、長さ寸法は6mm、フランジ部20bの外径は6mmとし、連結具19は厚み0.3mm×幅1mm×長さ25mmとなるように構成し、リング21については、内径3mm×外径6mm×厚み1mmとした。
【0065】次に、長さ300mm、外径6mm、内径2.5mmであり、零点目盛りに血液止めフィルタ31を挿入してなる図8に示したポリスチレン製赤血球沈降速度測定管(サンモア社製)の下端に、図7(a),(b)に示したようにしてリング21を挟み込むようにして針状細管13を挿入し、赤血球沈降速度測定管を組み立てた。
【0066】評価赤血球沈降速度測定用プラスチック真空採血管(積水化学工業社製、商品名:インセパック−R(SP−0402R))に2mlのうさぎ新鮮血を採取した。この採血管のゴム栓の採血針孔に沿って、赤血球沈降速度測定管の針状細管を刺通し、全体を倒立させた状態で、赤血球沈降速度測定管の他端からピペット用ゴム球を用い、約2mlの空気を注入した。
【0067】次に、赤血球沈降速度測定管中に血液が導入されてくる様子を目視にて観察した。この血液導入状況を下記の表1に示す。血液が血液止めフィルタに達し、血液導入が終了した赤血球沈降速度測定管を、真空採血管から抜去し、針状細管表面の血液付着状況を目視観察した。この血液付着状況を下記の表1に示す。
【0068】結果また、ピペット用ゴム球を外しキャップを針状細管に被せ、赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表1の沈降速度欄に示す。
【0069】下記の表1から明らかなように、表1に示した何れの材料により針状細管を構成した場合であっても、赤血球沈降速度測定管に血液が良好に導入され、かつ赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去した場合の針状細管表面への血液付着もほとんどみられなかった。さらに、血液沈降速度測定値についても、対照として併せて実施した血液止めフィルタや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法により得られた値32mmと比べて差がなく、良好な測定結果の得られることが確かめられた。
【0070】
【表1】
【0071】(比較例1)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表2の材質欄に記載した材質のうち、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート及びポリメチレンオキサイドについては、射出成形により、実施例1で用意したのと同じ寸法の針状細管を得た。ステンレスの場合については、太さ25G、長さ1″の市販のステンレス製採血針を流用した。ガラスについては、市販のガラス製パスツールピペットのくびれ部分を中心に両側1.5cmの箇所で切断し、計3cmの長さの針状細管を作製し、これを用いた。
【0072】上記のようにして用意した各針状細管について、射出成形した針状細管については実施例1で用いたキャップ及びリングが両端に設けられた連結具を用い、実施例1と同様にして、また、ステンレス製、ガラス製針状細管については、市販の内径が約6mmの軟質塩化ビニルチューブを1cmの長さに輪切りしたものを接続固定用部材として利用して、比較例の赤血球沈降速度測定管を作製した。
【0073】評価比較例1で用意した各赤血球沈降速度測定管につき、実施例1の場合と同様にして評価した。結果を下記の表2に示す。
【0074】結果表2から明らかなように、比較例1で用意した赤血球沈降速度測定管を用いた場合、血液の導入状況や沈降速度測定値は、実施例1の場合と比べて遜色なかった。しかしながら、赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去したときの針状細管表面に、実施例1の場合と比べて多くの血液が付着し、手指や赤血球沈降速度測定用架台を汚染するなどの問題が生じ、従来法と比べて作業性が改善されたとは言い難かった。
【0075】
【表2】
【0076】(実施例2)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表3の材質欄に記載したポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリメチレンオキサイドを用い、射出成形により、実施例1と同寸法の針状細管を得た。また、上記針状細管と、実施例1で用いたキャップ及びリング付きの連結具とを用い、実施例1と同様にして赤血球沈降速度測定管を作製した。しかる後、下記の表3の表面塗布剤に記載したポリジメチルシロキサン、鉱物油、ステアリン酸マグネシウムを針状細管の表面に塗布または塗擦し、過剰付着物を紙ウェスで拭き取った。
【0077】評価実施例2で用意した各赤血球沈降速度測定管につき、実施例1と同様にして評価を行った。結果を下記の表3の対応の欄に示す。なお、針状細管表面の接触角は、上記表面処理された部分に極小量の水滴を付着させた場合に得られた値を記載した。
【0078】結果下記の表3から明らかなように、実施例2の全ての針状細管において、血液導入状況は良好であり、かつ表面処理を行ったためか、赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去した採血管の針状細管表面における血液付着もほとんど生じなかった。さらに、赤血球沈降速度測定値についても、対照として併せて実施した、血液止めフィルタや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法により得られた値32mmと比べて差がなく、良好な結果を得ることができた。
【0079】
【表3】
【0080】(実施例3)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表4の材質欄に記載した材料を用い、図11に示した寸法A〜Hが、それぞれ、A=8mm、B=6mm、C=3.1mm、D=0.4mm、E=1mm、F=5mm、G=3mm、H=10mmの針状細管13Bを射出成形により作製した。また、図7(a)に示した連結具19の両端にキャップ20及びリング21が設けられた部材を実施例1と同様にしてポリエチレンで作製した。
【0081】次に、長さ300mm、外径6mm、内径2.5mmで、零点目盛りに血液止めフィルタ31を嵌挿したポリスチレン製の赤血球沈降速度測定管(サンモア社製)の下端に強制的に被せるようにして針状細管を装着固定し、本発明の赤血球沈降速度測定管を組み立てた。さらにリング21を針状細管の外径Cの部分に嵌め込み固定することにより、キャップ20を連結させた。しかる後、表4の表面塗布剤欄に記載した一般用シリコーン離型剤(KF96SP、信越化学工業社製)を針状細管の表面にスプレー塗布した。
【0082】評価針状細管表面の接触角は、上記表面処理された部分に極少量の水滴を付着させた場合に得られた値を記載した。
【0083】実施例1と同様にして、新鮮血を採取し、この採血管のゴム栓の採血針孔に沿って、前述の赤血球沈降速度測定管の針状細管を刺通し、全体を倒立させた状態で、該赤血球沈降速度測定管の他端にシリンジを気密に接続し、シリンジ目盛で約4ml分プランジャーを引き、赤血球沈降速度測定管内を排気した。続いて、該赤血球沈降速度測定管中に血液が導入されてくる様子を目視観察した。この血液導入状況を下記の表4に示す。血液が血液止めフィルタに達し、血液導入が終わった後に該赤血球沈降速度測定管を真空採血管から抜去したときの針状細管表面の血液付着状況を目視観察した。この血液付着状況を下記の表4に示す。シリンジを外し、キャップを針状細管に被せて赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表4の沈降速度欄に示す。
【0084】結果下記の表4から明らかなように、表4に示した何れの材料、及び表面塗布処理により針状細管を構成した場合であっても、血液導入状況は良好であり、また、赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去したときの針状細管表面の血液付着もほとんどなかった。さらに、沈降速度測定値についても、対照として併せて実施した、血液止めフィルタや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法で得られた値24mmと比べて差がなく、良好な測定結果の得られることが確かめられた。
【0085】
【表4】
【0086】(実施例4)
赤血球沈降速度測定管の作製下記の表5の材質欄に記載した材料を用い、図11に示した寸法A〜Hが、それぞれ、A=8mm、B=6mm、C=3.1mm、D=0.4mm、E=1mm、F=5mm、G=3mm、H=10mmの針状細管13Bを射出成形により作製した。また、図7(a)に示した連結具19の両端にキャップ20及びリング21が設けられた部材を実施例1と同様にしてポリエチレンで作製した。
【0087】次に、長さ300mm、外径6mm、内径2.5mmのポリスチレン製の赤血球沈降速度測定管(サンモア社製)の下端に強制的に被せるようにして針状細管13Bを装着固定し、本発明の赤血球沈降速度測定管を組み立てた。さらにリング21を針状細管の外径Cの部分に嵌め込み固定することによりキャップ20を連結させた。しかる後、表5の表面塗布剤欄に記載した一般用シリコーン離型剤(KF96SP、信越化学工業社製)を針状細管の表面にスプレー塗布した。
【0088】評価針状細管表面の接触角は、上記表面処理された部分に極少量の水滴を付着させた場合に得られた値を記載した。
【0089】実施例1と同様にして、新鮮血を採取し、この採血管のゴム栓の採血針孔に沿って、前述の赤血球沈降速度測定管の針状細管を刺通し、全体を倒立させた状態で、該赤血球沈降速度測定管の他端にベローズポンプを気密に接続し、約1ml分の空気を注入した。なお、ベローズポンプは装着したままにした。続いて、ベローズポンプの復元に合わせて該赤血球沈降速度測定管中に血液が導入されてくる様子を目視観察した。この血液導入状況を下記の表5に示す。血液導入が終わった後、該赤血球沈降速度測定管を真空採血管から抜去したときの針状細管表面の血液付着状況を目視観察した。この血液付着状況を下記の表5に示す。
【0090】キャップを針状細管に被せて、ベローズポンプを外し、赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表5の沈降速度欄に示す。
【0091】結果下記の表5から明らかなように、表5に示した何れの材料や表面塗布処理を用いて針状細管を構成した場合であっても、良好な血液導入状況を示し、また、赤血球沈降速度測定管を採血管から抜去したときの針状細管表面の血液付着もほとんどなかった。さらに、沈降速度測定値についても、対照として併せて実施した、血液止めフィルタや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法で得られた値21mmと比べて差がなく、良好な測定結果の得られることが確かめられた。
【0092】
【表5】
【0093】(実施例5)
赤血球沈降速度測定管の作製実施例3で用いたポリメチレンオキサイド製針状細管を同じく実施例3で用いた赤血球沈降速度測定管(サンモア社製)の下端に強制的に被せるようにして針状細管を装着固定した。さらに図12に示したタイプの保護キャップとして、内径8mmφ、肉厚1.5mm、長さ30mmの軟質塩化ビニール製のチューブを針状細管のFの部分と測定管に股がるように装着して、本発明の赤血球沈降速度測定管を組み立てた。しかる後に実施例3と同様にしてシリコーン離型剤を針状細管の表面に塗布した。接触角は105°であった。
【0094】評価実施例1と同様にして、新鮮血を採取し、この採血管のゴム栓の採血針孔に沿って、前述の赤血球沈降速度測定管の針状細管を刺通し、全体を倒立させた状態で、該赤血球沈降速度測定管の他端にシリンジを気密に接続し、シリンジ目盛りで約2ml分の空気を注入した。血液が血液止めフィルターに達し、血液導入が終わった後にシリンジを外し、次いで測定管を採血管から抜去し、保護キャップをスライドさせて針状細管を覆った。しかる後に、赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表6の沈降速度欄に示す。さらに24時間、架台に載置し続け、血液止めフィルター下部への気泡の侵入の有無を観察した。結果を表6の気泡欄に示す。
【0095】(実施例6)
赤血球沈降速度測定管の作製実施例3で作製した、ポリメチレンオキサイド製針状細管(シリコーン離型剤塗布)及びポリエチレン製保護キャップ付の本発明の赤血球沈降速度測定管を用意した。
【0096】評価実施例5と同様にして血液を測定管に導入し、保護キャップを針状細管に被せて気密に封止した。しかる後に、赤血球沈降速度測定用架台に載置し、1時間後の沈降速度測定値を測定した。結果を下記の表6の沈降速度欄に示す。さらに24時間、架台に載置し続け、血液止めフィルター下部への気泡の侵入の有無を観察した。結果を表6の気泡欄に示す。
【0097】結果表6から明らかなように、1時間後の血液沈降速度測定値については、保護キャップの構造によらず、対照として併せて実施した血液止めフィルターや針状細管を備えていない通常のウェスターグレン管で従来法で得られた値18mmと比べて差のない良好な測定結果が得られた。しかしながら、24時間放置後の血液止めフィルター下部への気泡の侵入については、実施例5では、全く侵入しなかったのに対し、実施例6では気泡が侵入し、血液面が若干下降していた。
【0098】
【表6】
【0099】
【発明の効果】本発明にかかる赤血球沈降速度測定管では、両端に開口を有する中空管状容器の一端に表面が水との接触角が80°以上とされている針状細管が備えられており、採血管の栓体に針状細管を利用して容易に刺通することができ、かつ栓体から針状細管を抜去した場合、該針状細管の表面に血液が付着し難い。
【0100】また、本発明の赤血球沈降速度測定管を用いれば、請求項4に記載のように、採血管に針状細管を刺通させる工程から、赤血球沈降速度を測定する工程に至るまで、検査従事者が血液と接触するおそれを大幅に低減し得る。
【0101】よって、検査従事者の血液感染の危険を大幅に低減することが可能となり、かつ針状細管を金属ではなく合成樹脂により構成した場合では、赤血球沈降速度測定管の廃棄にあたり煩雑な分別作業を実施する必要もない。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の赤血球沈降速度測定管を示す斜視図。
【図2】(a)及び(b)は、従来の赤血球沈降速度測定方法の一例を説明するための各斜視図。
【図3】本発明の赤血球沈降速度測定管の一例を説明するための分解斜視図。
【図4】本発明の赤血球沈降速度測定管の一例を説明するための斜視図。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の赤血球沈降速度測定管を用いた測定方法を説明するための各斜視図であり、図5(a)は採血管及び赤血球沈降速度測定管を実質的に倒立させて赤血球沈降速度測定管の開口から気体を注入する工程を示す図であり、(b)は血液を赤血球沈降速度測定管に導いた状態を示す図。
【図6】針状細管に連結具及び保護キャップを一体的に連結した例を示す斜視図。
【図7】(a)及び(b)は、連結具及び保護キャップを赤血球沈降速度測定管に連結する構造の他の例を示す各斜視図。
【図8】血液止めフィルターを設けた本発明にかかる赤血球沈降速度測定管を示す斜視図。
【図9】(a)及び(b)は、血液止めフィルターを用いた赤血球沈降速度測定管を利用した赤血球沈降速度の測定方法を説明するための各斜視図。
【図10】本発明に用いられる針状細管の他の例を示す斜視図。
【図11】本発明に用いられる針状細管のさらに他の例を示す斜視図。
【図12】本発明の、保護キャップを備えた赤血球沈降速度測定管の他の例を説明するための斜視図であり、(a)は保護キャップが針状細管を露出させている状態を示す図であり、(b)は保護キャップが針状細管を覆っている状態を示す図である。
【符号の説明】
11…赤血球沈降速度測定管
12…中空管状容器
12a…目盛り
12b,12c…開口
13,13A,13B…針状細管
14…真空採血管
15…採血管本体
16…栓体
16a…針穴シール性を有する部分
19…連結具
20…保護キャップ
21…保護キャップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】 予め均一に混和された抗凝固血から血球成分が沈降分離することにより生じる上澄み成分の嵩高さを測定することにより赤血球沈降速度を測定する方法に用いられる測定管であって、両端に開口を有する中空管状容器と、前記中空管状容器の一端に取り付けられており、かつ水との接触角が80°以上の表面を有する針状細管とを備えることを特徴とする赤血球沈降速度測定管。
【請求項2】 前記針状細管に嵌合する保護キャップと、前記保護キャップを赤血球沈降速度測定管に連結しており、かつ屈曲自在な部材よりなる連結部材とをさらに備える請求項1に記載の赤血球沈降速度測定管。
【請求項3】 大気圧と連通可能な開口部を有する中空の略円筒形状からなり、赤血球沈降速度測定管の外周面をスライドすることにより、該針状細管を覆ったり、露出させたりすることが可能とされた保護キャップが、赤血球沈降速度測定管の外周面に装着された請求項1に記載の赤血球沈降速度測定管。
【請求項4】 針穴シール性部分を有する栓体により液密的に閉栓されている採血管に採取された抗凝固血を用いて赤血球沈降速度を測定する方法であって、請求項1、2または3に記載の赤血球沈降速度測定管の前記針状細管を採血管の針穴シール性部分に刺通する工程と、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に倒立させて、採血管が赤血球沈降速度測定管よりも上側となるように配置する工程と、刺通されている針状細管の先端が採血管内の抗凝固血に埋没するように刺通距離を調整する工程と、前記赤血球沈降速度測定管の他端の開口から前記針状細管を経由して採血管内部に気体を注入し、採血管内部の気圧を高めることにより、または該測定管の他端の開口から該測定管内部の空気を排気して該測定管内部の気圧を減じることにより、相対的に採血管内部の気圧を測定管内部の気圧より高めることによって赤血球沈降速度測定管に抗凝固血を導く工程と、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に正立させた後、赤血球沈降速度を測定する工程とを備えることを特徴とする赤血球沈降速度測定方法。
【請求項1】 予め均一に混和された抗凝固血から血球成分が沈降分離することにより生じる上澄み成分の嵩高さを測定することにより赤血球沈降速度を測定する方法に用いられる測定管であって、両端に開口を有する中空管状容器と、前記中空管状容器の一端に取り付けられており、かつ水との接触角が80°以上の表面を有する針状細管とを備えることを特徴とする赤血球沈降速度測定管。
【請求項2】 前記針状細管に嵌合する保護キャップと、前記保護キャップを赤血球沈降速度測定管に連結しており、かつ屈曲自在な部材よりなる連結部材とをさらに備える請求項1に記載の赤血球沈降速度測定管。
【請求項3】 大気圧と連通可能な開口部を有する中空の略円筒形状からなり、赤血球沈降速度測定管の外周面をスライドすることにより、該針状細管を覆ったり、露出させたりすることが可能とされた保護キャップが、赤血球沈降速度測定管の外周面に装着された請求項1に記載の赤血球沈降速度測定管。
【請求項4】 針穴シール性部分を有する栓体により液密的に閉栓されている採血管に採取された抗凝固血を用いて赤血球沈降速度を測定する方法であって、請求項1、2または3に記載の赤血球沈降速度測定管の前記針状細管を採血管の針穴シール性部分に刺通する工程と、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に倒立させて、採血管が赤血球沈降速度測定管よりも上側となるように配置する工程と、刺通されている針状細管の先端が採血管内の抗凝固血に埋没するように刺通距離を調整する工程と、前記赤血球沈降速度測定管の他端の開口から前記針状細管を経由して採血管内部に気体を注入し、採血管内部の気圧を高めることにより、または該測定管の他端の開口から該測定管内部の空気を排気して該測定管内部の気圧を減じることにより、相対的に採血管内部の気圧を測定管内部の気圧より高めることによって赤血球沈降速度測定管に抗凝固血を導く工程と、採血管及び赤血球沈降速度測定管の全体を実質的に正立させた後、赤血球沈降速度を測定する工程とを備えることを特徴とする赤血球沈降速度測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開平10−96726
【公開日】平成10年(1998)4月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−92222
【出願日】平成9年(1997)4月10日
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【公開日】平成10年(1998)4月14日
【国際特許分類】
【出願日】平成9年(1997)4月10日
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
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