走査型プローブ顕微鏡装置、ナノピンセット装置および試料表面形状観察方法
【課題】別体の探針を把持して試料観察を行うことができる走査型プローブ顕微鏡装置の提供。
【解決手段】ナノピンセット1に設けられた観察プローブ10および可動アーム20は、熱アクチュエータとして機能する駆動レバーにより開閉駆動される。ナノピンセット1と別体で設けられた探針であるCNT401を用いてAFM観察を行う場合には、CNTカートリッジに設けられたCNT401をナノピンセット1で把持する。そして、把持したCNT401の試料面に対する姿勢が適切となるように、ナノピンセット1を反転駆動機構により180度反転する。その後、CNT401の先端を試料面に近接させ、タッピングモードによりAFM観察する。
【解決手段】ナノピンセット1に設けられた観察プローブ10および可動アーム20は、熱アクチュエータとして機能する駆動レバーにより開閉駆動される。ナノピンセット1と別体で設けられた探針であるCNT401を用いてAFM観察を行う場合には、CNTカートリッジに設けられたCNT401をナノピンセット1で把持する。そして、把持したCNT401の試料面に対する姿勢が適切となるように、ナノピンセット1を反転駆動機構により180度反転する。その後、CNT401の先端を試料面に近接させ、タッピングモードによりAFM観察する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探針をナノピンセットで把持して試料観察を行う走査型プローブ顕微鏡装置、ナノピンセット装置および試料表面形状観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、探針先端部分にカーボンナノチューブ(以下では、CNTと記載する)を備えた走査型プローブ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−4619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CNTが一体で形成されたカンチレバーでは、作業中にCNTが破損して使用不能になった場合、CNTが形成されているカンチレバー全体を交換する必要がある。そのため、交換作業に時間を要し、走査型プローブ顕微鏡による観察作業の効率低下が問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明による走査型プローブ顕微鏡装置は、開閉駆動機構により開閉自在な一対のアームを備えたナノピンセットと、ナノピンセットに把持される探針と、探針を把持したナノピンセットを所定周波数で振動させる振動手段と、試料表面との作用に基づくアームの振動の変化を検出する検出手段と、検出手段の検出結果に基づいて試料表面形状を演算する演算部とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、探針としてカーボンナノチューブを用いたものである。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、ナノピンセットに把持された探針の試料表面に対する姿勢を変更する姿勢変更手段を設けたものである。
請求項4の発明は、請求項3に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、姿勢変更手段が、ナノピンセットを180度回転させて上下反転させる反転機構であることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、ナノピンセットは、駆動電圧非印加時が閉状態で、駆動電圧を印加することにより開状態となるように構成されていることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、一対のアームのいずれか一方には探針部が一体に形成されており、振動手段によって探針部が形成されたアームの共振周波数でナノピンセットを振動させて、探針部により試料表面形状の観察を行うようにしたものである。
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、探針の被把持部またはナノピンセットの把持部に探針把持性向上部を設けたものである。
請求項8の発明によるナノピンセット装置は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置を構成するナノピンセットと、振動手段と、検出手段とを備えることを特徴とする。
請求項9の発明による試料表面形状観察方法は、開閉駆動機構により開閉自在な一対のアームを備えたナノピンセットで探針を把持し、探針を把持したナノピンセットを所定周波数で振動させ、試料表面との作用に基づくアームの振動の変化を検出し、検出手段の検出結果に基づいて試料表面形状を演算し、その演算結果を可視化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ナノピンセットにより探針を把持し、その探針を用いて試料表面観察を行うようにしたので、探針が破損した場合でも探針を交換するだけで良く、交換作業の短縮および交換コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
―第1の実施の形態―
図1は本発明による走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)装置の第1の実施の形態を示す図であり、原子間力顕微鏡装置(以下、AFM装置と言う)の概略構成を模式的に示す図である。AFM装置100は、ナノピンセット1と、レーザ光源2と、2分割フォトダイオード3と、制御演算部4と、励振部5と、電源部6と、3次元ステージ8と、反転駆動機構9と、CNTカートリッジ400とを備えている。また、AFM装置100において、ナノピンセット1、レーザ光源2、2分割フォトダイオード3、励振部5、電源部6および反転駆動機構9はナノピンセット装置を構成している。ナノピンセット1は、支持体25に一体に形成された観察プローブ10および可動アーム20を有し、後述するように、フォトリソグラフィー技術を利用してSOIウエハを加工することにより形成される。
【0008】
観察プローブ10は、図のX方向に延在するレバー11と、レバー11の先端からX方向に延在する探針部12とを有している。観察プローブ10と並設されている可動アーム20は、X方向に延在するレバー21とレバー21の先端からX方向に延在する把持部22とを有している。ほぼ平行に延在する探針部12と把持部22とは、距離dを隔てて設けられている。支持体25と一体に設けられている駆動レバー23,24は、可動アーム20を駆動するための熱アクチュエータとして機能するものである。駆動レバー23,24は、それぞれの端部が可動アーム20に接続されてリンク機構を形成している。駆動レバー23,24には、電源部6から電力が供給される。
【0009】
支持体25は、AFM装置100に設けられたホルダー(不図示)に着脱可能に保持されている。なお、図1では、支持体25の一部のみが図示されている。支持体25が保持されるホルダーは、AFM装置100に設けられた3次元ステージ8に固定される。3次元ステージ8を駆動することにより、ナノピンセット1全体を3次元方向に移動させることができる。また、ナノピンセット1は反転駆動機構9により180度反転される。支持体25のホルダーへの装着方法としては、例えば、ホルダーに形成された溝部または凹部に支持体25をスライドさせて嵌め込んだり、ホルダーに取り付けられた板バネで支持体25を挟持するなど、種々の方法がある。
【0010】
2分割フォトダイオード3からの検出信号は、制御演算部4に入力される。制御演算部4は、検出信号に基づいて観察プローブ10の振幅を算出し、試料Sの表面形状を演算する。その演算結果はモニタ7に表示される。励振部5は、ナノピンセット1全体を振動させて観察プローブ10を共振させるためのピエゾ素子(不図示)と、その駆動回路とを備えている。また、制御演算部4は、励振部5、電源部6、3次元ステージ8および反転駆動機構9を制御する。
【0011】
図2は、図1のAFM装置100に設けられたナノピンセット1の主要部を示す図であり、(a)は観察プローブ10と可動アーム20とを示し、(b)は観察プローブ10の探針部12を示している。観察プローブ10のレバー11および可動アーム20のレバー21はYZ断面の形状が矩形となっており、後述する共振周波数は各々のX方向長さとZ方向厚さに依存する。また、観察プローブ10の探針部12と可動アーム20の把持部22は、X方向の長さ、Y方向の幅、Z方向の高さのすべてが等しく設定されている。探針部12および把持部22は、−Z方向に先細りとなったウエッジ型形状をしており、それぞれのYZ断面の形状は直角三角形になっている。
【0012】
距離dを隔てて配置された探針部12および把持部22の断面形状は、Z軸に関して対称となっている。探針部12および把持部22の対向する面(以下では、直交面と呼ぶ)12a,22aは、互いに平行となっている。探針部12の直交面12aと斜面12bが交わる稜線12cと、把持部22の直交面22aと斜面22bが交わる稜線22cとは、それぞれX軸に対して平行に延在しており、これらは試料Sに近接または接触する先鋭部(刃先)として機能する部分である。
【0013】
本実施の形態のナノピンセット1においては、従来の試料把持および運搬に加えて、試料のAFM観察を行うことができる。試料を把持する際には、静止している観察プローブ10に対して可動アーム20を開閉駆動する。その際、駆動レバー23,24が可動アーム20を開閉させる熱アクチュエータとして機能する。また、AMF観察を行う場合には、観察プローブ10を用いた観察、および、把持したCNTプローブを用いた観察のいずれかを採用することができる。
【0014】
図3は、駆動レバー23,24を説明する図であり、図1に示した観察プローブ10,可動アーム20,駆動レバー23,24および電源部6の部分を拡大して示したものである。熱アクチュエータは駆動レバー23,24と電源部6とで構成され、駆動レバー23の梁部23aと駆動レバー24の梁部24aとが可動アーム20にそれぞれ接続されている。梁部23a,24aのZ方向の厚さは同一であるが、梁部24aのX方向の幅は梁部23aのそれよりも狭く設定されている。電源部6は直列に接続された2つの可変電源6a,6bを有し、可変電源6aの負極は駆動レバー23に、可変電源6bの正極は駆動レバー24に接続されている。可変電源6aと可変電源6bとの接続点、および可動アーム20は接地電位とされている。
【0015】
《製造方法》
次に、図1,2に示したナノピンセットの製造方法について説明する。ナノピンセット1は、SOI(Silicon on Insulator)ウエハから一体で作製される。SOIウエハは、2枚のSi単結晶板の一方にSiO2層を形成し、そのSiO2層を挟むように貼り合わせたものである。図1に示されるように、支持体25は、SOIウエハを構成する上部Si層31、SiO2層32および下部Si層33で形成されている。また、観察プローブ10、可動アーム20および駆動レバー23,24は、電源部6を接続するための電極などを除くと上部Si層31で形成されている。本実施の形態では、各層31,32,33の厚さが順に6μm,1μm,300μmであるSOIウエハが用いられているが、このような寸法組み合わせに限定されるものではない。
【0016】
図4〜13は、本実施の形態のナノピンセット1の製造工程を示す図であり、工程aからhまで順に処理される。図4の(a1),(a2)は工程aを説明する図であり、(a1)は斜視図、(a2)は断面図である。工程aでは、上部Si層31、SiO2層32および下部Si層33から成るSOIウエハ30を用意し、上部Si層31の上に厚さ50nmの窒化珪素(SiN)膜34を形成する。なお、SOIウエハ30の上部Si層31は、表面がSi単結晶の主面(001)となるように構成されている。
【0017】
図4の(b1)および(b2)は工程bを説明する図であり、(b1)は斜視図、(b2)はI−I断面図である。工程bでは、図5に示すマスクAを用いて、C2F6によるRIEでSiN膜34を部分的にエッチング除去し、上部Si層31の一部(白抜きの領域A1,A2)を露出させる。SiN膜34がエッチング除去された領域A1は、概略、観察プローブ10の先端および可動アーム20の先端が形成される領域である。一方、領域A2は、観察プローブ10および可動アーム20の基端側と駆動レバー23,24が形成される領域である。観察プローブ10および可動アーム20が延在する方向には、すなわち、細長い領域Aの伸延方向には、上部Si層31の<110>方向を選ぶ。
【0018】
なお、図5に示したマスクAは支持体25も含めたマスクとなっており、図1や図4(b1)に示す部分は、図5のR1−R1線よりも上側の領域が関係している。以下の説明では、R1−R1線よりも上側の領域について説明する。
【0019】
図4の(c1),(c2)に示す工程cでは、領域A1およびA2の上部Si層31の表面に厚さ0.1μmの酸化膜35を形成する。酸化方法は水蒸気酸化であり、酸素ガスと水素ガスを高温で反応させて生成した水蒸気を用いて、上部Si層31の露出面を酸化する。
【0020】
図6の(a),(b)は、工程dを説明する図である。工程dでは、図8に示すマスクBを用いて、ICP−RIE(inductively coupled plasma - reactive ion etching)によりエッチングを行う。図8に示すように、マスクBには、図4(c1)の領域A1を覆う部分である先端遮蔽領域B1が形成されている。その先端遮蔽領域B1には、図示上下方向(上部Si層31の<110>方向)に延在するスリットSL1が形成されている。また、スリットSL2,SL3は、駆動レバー23,24を作製するためのものである。なお、図8に示すマスクBのR2−R2線より上部領域が、図6(a),(b)に示した部分に対応している。
【0021】
図6(a)の破線は、図4(c1)で形成されたウエハ30上にマスクBを配置して示したものである。図6(a)において、マスクBで覆われていない部分は、ICP−RIEにより、SiO2層32までエッチングされる。このICP−RIEでは、エッチングはSiO2層32で停止するので、観察プローブ10および可動アーム20の厚さを均一かつ高精度に形成することができる。
【0022】
図6(b)はエッチング後のウエハ30を示したものである。マスクBのスリットSL1の部分からのエッチングにより、<110>方向に延在するスリット溝40が形成される。スリット溝40の両側面は、SiN膜34の表面に対して垂直になっており、スリット溝40の深さは、SiN膜34と上部Si層31の厚さの和に相当する。スリット溝40の両側面は、ナノピンセット1の完成段階で、探針部12の直交面12aと把持部22の直交面22a(図2参照)となる。
【0023】
図7は、エッチング前後のウエハ30の断面を示したものであり、(a)は図6のII−II断面図で、(b)は図6のI−I断面図である。マスクBで覆われていない部分では、窒化珪素(SiN)膜34,酸化膜35,Si層31がエッチングされている。その結果、エッチングされた部分では、SiO2層32の表面およびSi層31の側面が露出することになる。
【0024】
図9は工程eを説明する図であり、(a)は図6のI−I断面と同様の断面を示す図であり、(b)は図6のII−II断面同様の断面を示す図である。工程eでは、工程dのエッチングにより露出した上部Si層31の側面に、表面保護のための酸化膜36を形成する。この酸化処理は、工程(c)と同様の水蒸気酸化である。
【0025】
図10は工程fを説明する図であり、(a)は図9(a)と同様のI−I断面図であり、(b)は図9(b)と同様のII−II断面図である。工程fでは、C2F6を用いたRIEによりSiN膜34をエッチング除去する。その結果、図10(a),(b)に示すように、上部Si層31の上面が露出する。このRIE処理はマスクを使用しないで行われるが、C2F6のガス圧力を高めることによって、SiN膜34を酸化膜35,36よりも大きいエッチングレートで除去できるようなエッチング条件に設定し、SiN膜34だけを除去する。そのため、上部Si層31上の酸化膜35および上部Si層31側面の酸化膜36はエッチングされずに残ることになる。図11は処理後のウエハ30を示す斜視図であり、ドットのハッチングを施した部分が酸化膜35,36の部分である。
【0026】
図12において、(a1),(a2)は工程gを説明する図であり、(b1)は工程hを説明する図である。図12(a2)は、図12(a1)のIII−III断面図である。工程gでは、30%KOH水溶液を用いて上部Si層31を異方性エッチングする。この場合、図10に示すように、上部Si層31は酸化膜35,36が形成されていない上面部分のみが露出しているので、上部Si層31はその部分から異方性エッチングされ、斜面11b、21b、12b、22bが形成される。前述したように、上部Si層31の表面を単結晶Siの主面(001)に選んでいるので、異方性エッチングによって形成される斜面12b、22bは単結晶Siの{111}面になっている。
【0027】
なお、後述するように、観察プローブ10および可動アーム20の共振周波数設定の関係上、観察プローブ10のレバー11の厚さを可動アーム20のレバー21の厚さよりも厚く形成する場合は、レバー21の領域以外をレジストで保護して、レバー21の領域のみを所定厚さになるまで熱酸化あるいはエッチングすればよい。
【0028】
次いで、図13(a)に示すマスクCを用いてICP−RIEにより、観察プローブ10および可動アーム20の原型が形成されている周辺領域に残存する上部Si層31を、SiO2層32の表面が露出するまで厚さ方向にエッチング除去する。その後、酸化膜35,36をエッチング除去する。このマスクCを用いたエッチングにより、探針部12および把持部22の長さを調節することができる。また、端面12e,22eが探針部12および把持部22の延在方向と位置を揃えて垂直になるので、試料Sの把持をより一層確実に行うことができる。
【0029】
図12(b1)に示す工程hでは、図13(b)に示すマスクDを用いてSOIウエハ30の裏面から、下部Si層33側の不要部分をICP−RIEによりエッチング除去する。このエッチングは、SiO2層32で停止する。そして、フッ酸溶液によりSiO2層32の不要部分を除去すればナノピンセット1の形状となる。なお、工程hで除去された部分は、図12(b1)に示すように二点鎖線で示した部分である。なお、図12で示した部分の処理には、マスクC、DのR3−R3線より上部領域が対応している。
【0030】
以上により、支持体25と一体に観察プローブ10および可動アーム20が同一方向に延在するナノピンセット1が完成する。このとき、駆動レバー23,24も、観察プローブ10および可動アーム20の製造工程中において同様の手法により作製される。
【0031】
上記の製造工程では、1個のナノピンセット1についての一連の作製手順を説明したが、実際の製造工程は、SOIウエハ単位で行われる、いわゆるバッチ処理である。このバッチ処理では、フォトリソグラフィー法により、1枚のSOIウエハから多数のナノピンセット1を一括で作製することができ、大幅な製造コストの削減をもたらすものである。
【0032】
《動作説明》
次に、ナノピンセット1の動作について説明する。本実施の形態のナノピンセット1においては、試料を把持する把持動作と、AFM観察の際のプローブとして用いられる観察動作とを行うことができる。
【0033】
[把持動作]
まず、図3を参照しながら、試料表面上にある試料Sを把持する場合を例に説明する。最初に、ナノピンセット1を試料Sの位置へと移動する。この際、後述する観察プローブ10を用いた観察動作により試料Sを探す。観察動作により試料Sが検出されたならば、探針部12と把持部22との間に試料Sが位置するように、ナノピンセット1を移動する。
【0034】
そして、観察プローブ10による観察動作(タッピング動作)を停止した後に、駆動レバー23,24を駆動して可動アーム20を図のH方向に撓ませることにより把持部22を探針部12へ接近させ、試料Sを把持部22と探針部12の間に挟み込む。このとき、可動アーム20だけが駆動レバー23,24により撓み、観察プローブ10は動かない。
【0035】
具体的な把持手順は、まず、試料Sに観察プローブ10の探針部12の直交面12a(図2(b)参照)を接触させる。その後、可動アーム20を撓ませて把持部22の直交面22a(図2(b)参照)を試料Sに接近させ、直交面22aが試料Sに適切な押圧力で接触するように可変電源6a,6bを調節する。その結果、試料Sがナノピンセット1により把持される。
【0036】
直交面12a,22aは平行状態で互いに対向するように構成されているので、試料Sは平行な面12a,22により確実に把持される。試料Sを把持した後は、3次元ステージを駆動することにより、試料Sを3次元的に移動させることができる。また、把持した試料Sを解放するときには、電源部6による印加電圧を零にして、把持部22と探針部12との間隔を元の距離dに戻せばよい。
【0037】
[観察動作]
次に、観察動作について説明する。本実施の形態のAFM装置では、(a)ナノピンセット1に設けられた観察プローブ10を用いた第1の観察動作と、(b)ナノピンセット1により別体で形成された観察用プローブをを把持し、その把持したプローブによる第2の観察動作とを行うことができる。
【0038】
先ず、第1の観察動作について説明する。本実施の形態では、励振部5に設けられた不図示のピエゾ素子を駆動して、観察プローブ10を図2の矢印Vで示す方向(Z方向)に撓み振動させつつナノピンセット1をXY方向に走査し、試料Sの表面形状を計測する。この方式は、一般にタッピングモードと呼ばれる。このとき、観察プローブ10の探針部12を試料表面に対して原子オーダーの距離に近接させた上で、Z方向に振動させながら2次元的に試料表面を走査する。
【0039】
試料表面の凹凸により、探針部12の先端と試料Sとの距離(探針部12は振動しているので平均距離)が変化すると、試料表面および探針部12間の相互作用の変化によってレバー11の振幅が変化する。この振幅の変化量をレーザ光源2と2分割フォトダイオードとを利用した光てこ方式の計測方法により測定する。
【0040】
光てこ方式の計測方法では、レーザ光源2からのレーザ光L1をレバー11の上面に入射させ、レバー11の上面からの反射光L2を受光部である2分割フォトダイオード3で受光する。2分割フォトダイオード3は、その受光位置に応じた検出信号を制御演算部4へ送出する。制御演算部4は、2分割フォトダイオード3からの検出信号に基づいてレバー11の振幅の変化量を算出し、さらに、振幅変化量に基づいて試料Sの表面形状を演算する。この表面形状はモニタ7に表示される。
【0041】
上述したタッピングモードによる観察では、ピエゾ素子で支持体25全体をZ方向に振動して観察プローブ10を共振させる必要がある。そのためには、観察プローブ10のレバー11および可動アーム20のレバー21の長さや厚さを調整することにより、観察プローブ10の厚さ方向の振動の共振周波数が可動アーム20の共振周波数よりも高くなるように設計する。なお、厚さを調整する場合には、共振周波数は厚さの3乗で変化するので、厚さをわずかに変えるだけで共振周波数を変化させることができる。励振部5により観察プローブ10の共振周波数で支持体25全体を振動させると、観察プローブ10のみが共振してZ方向に振動する。
【0042】
図14は、観察プローブ10の共振周波数を説明する図であり、縦軸は振幅を、横軸は周波数をそれぞれ表している。図14において、V1は観察プローブ10の振動曲線であり、V2は可動アーム20の振動曲線である。励振部5により加える振動の周波数がf1のときに、観察プローブ10は共振して振幅のピークが発生する。この周波数f1が観察プローブ10の共振周波数である。
【0043】
一方、可動アーム20の共振周波数はf2であり、周波数f2に振幅のピークが現れる。周波数がf2よりも高くなると振幅は急激に小さくなり、可動アーム20の周波数f1における振幅量kは観察プローブ10の振幅に比べてはるかに小さい値となる。このように、観察プローブ10の共振周波数f1が可動アーム20の共振周波数f2よりも高くなるように、レバー11、21の幅を設定することにより、観察プローブ10のみを振動させることができる。
【0044】
別体の探針を把持して行う第2の観察動作について説明する。上述した第1の観察動作では、観察プローブ10に形成された断面が三角柱形状の探針部12を用いて観察を行った。観察に用いる探針は、微少であればある程、より細かな微細構造を測定することができる。例えば、従来技術のように針状のCNTをプローブに用いることで、微少構造の測定が可能となる。別体の探針としては、CNTの他にDNA、DNA束、微小管、アクチン等を用いることができる。以下では、別体の探針としてCNTを使用し、CNTによりAFM観察を行う場合を例に説明する。
【0045】
図15は、プローブとして用いるCNT401を示す図であり、複数のCNT401が形成されたCNTカートリッジ400を模式的に示したものである。CNTカートリッジ400は、複数のCNT401が半導体基板402上に形成されたものであり、形成方法の詳しい内容は文献(Y.Takei、K.Hoshino、K.Matsumoto、I.Shimoyama、「Control the CNT growing by applying electric field」、Proceedings of the 22nd Sensor Symposium,2005.pp.65〜68)に記載されている。CNT401は、基板402の階段状部分402aに橋渡しされるような形状で形成されている。AFM装置にはこのCNTカートリッジ400が搭載されている。
【0046】
まず、図16(a)に示すように、搭載されたCNTカートリッジ400までナノピンセット1を粗動移動させ、CNT401の一端が接している基板領域RをAFM観察し、CNT401の位置を検出する。CNT401の位置が検出されたならば、図16(b)に示すように、ナノピンセット1によるCNT401の把持動作を行う。すなわち、可動アーム20を開いて、CNT401が探針部12と把持部22との間に入るようにナノピンセット1を移動し、図16(b)の状態から可動アーム20を閉じて、CNT401を把持する。把持した状態でナノピンセット1を移動させることにより、CNT401がCNTカートリッジ400から分離される。
【0047】
CNT401を把持したならば、図1の反転駆動機構9を用いて図17(a)に示すようにナノピンセット1を180度反転し、CNT401の先端が下方(試料方向)を向くようにする。反転した状態で、ナノピンセット1を試料面まで移動し、その後、把持状態にあるナノピンセット1全体を励振部5により振動させる。この場合、観察プローブ10および可動アーム20がほぼ一体で振動する共振周波数を求め、その周波数でナノピンセット1を振動させるようにする。
【0048】
このように、探針として機能するCNT401を振動させながら試料S上を走査することにより、AFM観察を行うことができる(図17(b))。この場合、反転されたレバー11または21の上面側(本来の裏面側)にレーザ光L1を照射し、その反射光L2を2分割フォトダイオード3(図1参照)で検出することにより、レバー11,21の振幅変化量を検出し、表面形状を測定する。
【0049】
本実施の形態では、別体で備えられたプローブであるCNT401をナノピンセット1で把持し、把持したCNTでAFM観察をできるような構成とした。その結果、より微細な構造がAFM観察可能となるだけでなく、別体の探針(CNT401)が破損した場合でも、容易に探針の交換ができる。従来の場合、探針部に形成されたCNTプローブが破損したときには、CNTプローブが形成されたカンチレバー全体を交換する必要があり交換時間がかかっていたが、本実施の形態によれば、交換時間の短縮を図ることができるとともに、交換コストの低減を図ることができる。
【0050】
また、ナノピンセット1自体も観察プローブ10を備えていて、CNT401の位置を正確に測定することができるため、ナノピンセット1のCNT把持位置への移動を正確に素早く行うことができる。さらに、ナノピンセット1を反転する反転駆動機構9を備えているので、試料面に対するCNT401の姿勢をより適切に設定することができる。
【0051】
−第2の実施の形態−
図18は、本発明による走査型プローブ顕微鏡装置の第2の実施の形態を示す図であり、AFM装置のブロック図である。なお、図1に示した装置と同一部分には同一の符号を付した。すなわち、1は、観察プローブ10と可動アーム20を有するナノピンセットであり、ナノピンセット1は3次元ステージ8により3次元方向に並進移動させられるとともに、反転駆動機構9により反転駆動される。
【0052】
本実施の形態では、励振部5の駆動機構には図19に示すような櫛歯駆動機構50が採用され、櫛歯駆動機構50のアドミッタンスを検出することにより探針と試料との距離を求めるようにした。そのため、図1に示した光てこ方式の検出手段を構成するレーザ光源2および2分割フォトダイオード3は省略されている。
【0053】
図19は励振部5を説明するブロック図である。励振部5は、櫛歯駆動機構50、直流電源51、交流電源52およびアドミッタンス検出器53を備えている。交流電源52と直流電源51とは直列に接続され、交流電源52が櫛歯駆動機構50に電気的に接続されている。アドミッタンス検出器53は、交流電源52と櫛歯駆動機構50を含む電気回路に接続されるとともに、制御演算部4にも接続されている。
【0054】
櫛歯駆動機構50は静止部500および可動部501を備えており、可動部501は静止部500に設けられた支持部500aにより弾性支持されている。可動部501の端部(下端部)はナノピンセット1に接続されている。静止部500および可動部501の対向部には、櫛歯状凹凸部502,503が形成されている。静止部500側に形成された櫛歯状凹凸部502と可動部501側に形成された櫛歯状凹凸部503とは、隙間を介して噛合している。櫛歯状凹凸部502,503の一方に、直流電圧に交流電圧が重畳された電圧を印加することにより、静電力によって可動部501を上下に駆動することができる。
【0055】
アドミッタンス検出器53は、交流電圧が加えられている櫛歯駆動機構50のアドミッタンスを検出し、検出データを制御演算部4へ送出する。制御演算部4はアドミッタンス検出値から外力の大きさあるいは外力を及ぼす物体との距離を演算し、その演算結果をモニタ7に表示させる。AFM観察時には探針と試料との間に働く原子間力を検出することにより表面形状の測定を行うが、この原子間力は探針と試料との距離に依存する物理量であり、原子間力を櫛歯駆動機構50のアドミッタンスとして検出することができる。
【0056】
《アドミッタンスを用いた測定方法についての説明》
次に、アドミッタンスを用いた測定方法の概略について説明する。図20は、平行平板型アクチュエータモデルにおける電気・機械結合系の等価回路を示す図である。一般に、電気・機械結合系においては、電気的エネルギーおよび機械的エネルギーの保存則が成立する。ここでは、外力f、励起電圧eが小さく、変位量、電荷量の変動も小さいとしてモデル化した。
【0057】
Mは電気系と機械系の結合係数であり、平行平板型アクチュエータ部にガウスの定理を適用することにより、M=E0C0/ε0Sと表される。ここで、E0直流バイアス電圧、C0は初期状態のコンデンサ容量、ε0真空の誘電率、Sは平行平板の電極面積である。図20に示す電気系の式と機械系の式において、R、i、v、CSは、それぞれ平行平板型アクチュエータの抵抗、電流、振動速度、浮遊容量であり、m、k、rfは、それぞれ平行平板型アクチュエータの等価質量、バネ定数、機械系の摩擦抵抗(機械抵抗)である。
【0058】
上述した櫛歯型アクチュエータにこの平行平板型アクチュエータモデルを適用すると、線形近似基本方程式は式(1),(2)のように表される。
i1=jω(C0+CS)e1+(E0C0/X0)ν1 (1)
f1=jωmν1+rfν1+kν1/jω+E0C0e1/X0 (2)
但し、i1は交流電流値、e1は入力交流電圧の振幅、ν1は可動部2の振動速度であり、f1、m、k、rfは、それぞれ櫛歯駆動機構50に作用する外力、等価質量、バネ定数、機械系の摩擦抵抗(機械抵抗)である。また、E0は櫛歯駆動機構50に加わる直流バイアス電圧、C0は初期状態の櫛歯状凹凸部のコンデンサ容量、CSは電極パッド等の浮遊容量、X0は初期状態の櫛歯間距離である。
【0059】
式(1),(2)より、外力が零の場合、櫛歯駆動機構50のアドミッタンスの絶対値|Y|と角周波数ωの関係は最終的に式(3)のように表すことができる。ここで、A=E0C0/X0と置いた。
【数1】
【0060】
図21は、この実施の形態による櫛歯型プローブのアドミッタンスの角周波数依存性を表すグラフであり、(a)はグラフ全体を示し、(b)は(a)の円内を拡大して示したものである。曲線y1は式(3)の|Y|を示すアドミッタンス曲線であり、アドミッタンス曲線y1は電気・機械結合系の特性曲線になっている。一方、アドミッタンス曲線y2は機械系がない電気系のみの場合の特性曲線であり、|Y|=ω(C0+CS)で表される。
【0061】
すなわち、アドミッタンス曲線y2は、式(3)において次式(4)が成り立つ場合の特性曲線を表している。
A2−2ω(C0+CS)(ωm−k/ω)=0 (4)
式(4)を満たす角周波数ω、すなわち、アドミッタンス曲線y1およびy2の交点における角周波数を、ここでは発振角周波数ω1と呼ぶことにする。この発振角周波数ω1は共振角周波数ω0に近い値であり、発振角周波数ω1で櫛歯駆動機構50を駆動すると、上述したように機械系の特性がキャンセルされて電気系のみのアドミッタンス計測が可能となる。
【0062】
なお、共振角周波数ω0はアドミッタンス曲線y1のピーク位置より僅かに高いところに位置しており、アドミッタンス曲線y1のピーク角周波数をωp、凹カーブを示す部分のボトムの角周波数をωbとすれば、共振角周波数ω0と発振角周波数ω1との関係は次式(5)のように表される。発振角周波数ω1、ピーク角周波数ωpおよびボトム角周波数ωbとの間には、2/ω1=1/ωp+1/ωbという関係がある。
【数2】
【0063】
発振角周波数ω1で櫛歯駆動機構50を駆動しているときに、櫛歯駆動機構50にナノピンセット1を介して外力が作用すると、図21(b)に示すように、外力が無い場合のアドミッタンス曲線y1から外力が作用した場合のアドミッタンス曲線y3へと変化する。その結果、発振角周波数ω1におけるアドミッタンスはΔYだけ変化する。このときの可動部501の変位量は、後述するようにアドミッタンス変化の検出値から算出される。従来は、共振角周波数ω0において角周波数のシフト量Δωを検出していたが、上述したように発振角周波数ω1(またはその近傍)においてアドミッタンス変化ΔYを検出することにより、より高感度な測定が可能となる。
【0064】
なお、櫛歯駆動機構50に作用する外力の変化は、櫛歯駆動機構50のバネ定数kが僅かに変化してバネ定数(k+Δk)となったときのアドミッタンスの変化ΔYとして求められる。すなわち、式(3)から導かれる近似式により、発振角周波数ω1でのアドミッタンスの絶対値|Y|とアドミッタンスの変化ΔYは、それぞれ式(6)、式(7)で表される。
|Y|=ω1(C0+CS) (6)
ΔY=A2Δk/ω1rf2 (7)
【0065】
したがって、アドミッタンスの変化ΔYを検出することによりバネ定数の変化Δkが求まり、その結果、櫛歯駆動機構50に作用する外力の大きさあるいは可動部501の変位量を求めることができる。
【0066】
また、櫛歯駆動機構50のアドミッタンスから、プローブとして機能しているナノピンセット1の変位量を直接的に求めることも可能である。ここで変位量をx1とすると、櫛歯型のアクチュエータの線形近似基本方程式である式(1),(2)において、正弦波駆動の場合はν1=jωx1と書けるので、式(1)は次式(8)のように変形できる。
i1/e1=jω[C0{1+(x1/X0)(E0/e1)}+CS] (8)
【0067】
さらに、式(8)を用いることにより、アドミッタンスの絶対値|Y|は次式(9)のようになる。
|Y1|=|i1/e1|
=ω[C0{1+(x1/X0)(E0/e1)}+CS] (9)
式(9)から変位量x1は式(10)のように表せる。
x1={(|Y1|−ωCS)/ωC0−1}(e1/E0)X0 (10)
【0068】
前述したように、A=E0C0/X0であるから、式(10)を変形して式(11)を得る。なお、複数の櫛歯を有するアクチュエータでは、Aは、A=nbE0/dと書ける。ここで、nは櫛歯駆動機構50の櫛歯の数、bは櫛歯の厚さ、dは対向する櫛歯間のギャップである。
x1={(|Y1|−ωCS)/ωC0−1}(C0e1/A) (11)
ここで、Y0=ω(C0+CS)とおけば、式(11)を変形して式(12)を得る。
x1={(|Y1|−|Y0|)/ωC0}(C0e1/A)
=ΔY/ω(e1/A) (12)
【0069】
以上の変位量算出手順をまとめると以下のようになる。
(a)櫛歯駆動機構50に振動を与え、その共振角周波数ω0を測定する。
(b)共振角周波数ω0に近い機械系の特性がキャンセルされる発振角周波数ω1で櫛歯駆動機構50を振動させて、可動部501に加わる外力が零のときの基準アドミッタンス値|Y0|を検出する。
(c)角周波数ωを発振角周波数ω1に定めて櫛歯駆動機構50に振動を与え、可動部501に外力が加わったときのアドミッタンス値|Y1|を検出する。
(d)アドミッタンスの変化ΔY(=|Y1|−|Y0|)から、可動部501の外力による変位量を算出する。
【0070】
ここで、アドミッタンス検出器を用いたアドミッタンス|Y|の検出について具体的に説明する。図22は、櫛歯駆動機構50のアドミッタンス検出から信号処理までの装置構成の概略を示すブロック図である。アドミッタンスを検出するLCRメータ300は、ロックインアンプ301と、電流測定用回路302と、電圧測定用回路303とを有する。
【0071】
櫛歯駆動機構50には交流電圧が加えられており、電流測定用回路302により櫛歯駆動機構50の電流の絶対値と位相が測定され、電圧測定用回路303により櫛歯駆動機構50の電圧の絶対値と位相が測定される。これら2つの物理量の絶対値と位相からアドミッタンスの絶対値|Y|と位相をロックインアンプ301で演算する。LCRメータ300からアドミッタンスの絶対値|Y|に比例する電圧VYを出力し、比較器304で電圧VYを基準電圧と比較する。基準電圧とは、発振角周波数ω1におけるアドミッタンスに対応する電圧である。
【0072】
電圧VYと基準電圧との偏差分は、電圧ブースター305で増幅されて電圧信号ΔVとなり、ピエゾアクチュエータ306へフィードバックされる。ピエゾアクチュエータ306は櫛歯駆動機構50全体をZ軸方向(試料に垂直方向)に微少駆動するアクチュエータである。そして、このピエゾアクチュエータ306の駆動量が可動部501の変位量に対応する。
【0073】
上述したように、本実施の形態では励振部5に櫛歯駆動機構50が採用し、櫛歯駆動機構50のアドミッタンスを検出することにより探針と試料との距離を求めるようにした。アドミッタンス検出法では、従来の共振角周波数測定の場合よりもバネ定数の変化Δkに対する変化率が大きいので、可動部501の変位を高精度で測定できる。特に、共振角周波数が低くても高い感度が得られるので、マイクロマシン分野に最適である。
【0074】
−第3の実施形態−
上述した第1および第2の実施の形態では、駆動電圧を印加しない場合にナノピンセット1が開状態となるノーマリーオープンタイプのナノピンセットについて説明した。一方、本実施の形態では、駆動電圧を印加しない場合にナノピンセット1が閉状態となるノーマリークローズタイプのナノピンセットについて説明する。なお、検出方法は光てこ方式でも良いし、アドミッタンス検出方式でも良い。
【0075】
図23は第3の実施形態におけるナノピンセット1を説明する図であり、(a)はナノピンセット1の試料面側を示す平面図であり、(b)、(c)はナノピンセット1の先端部Rの構造を説明する拡大図である。支持体25にはアーム201,202が形成されている。203,204は、アーム201,202を図の矢印方向に開閉駆動する駆動部である。駆動部203,204はジュール熱によって膨張動作を行う熱膨張アクチェータであり、電源209からの電力によって動作する。205,206は駆動部203,204の電極であり、電源209が接続されている。なお、電源209は図1において電源6と示されたものであるが、ここでは符号を変えて表示した。
【0076】
アーム201、202の先端部Rの構造としては、図23(b)に示すような構造としても良いし、図23(c)に示すような構造としても良い。なお、図23(b),(c)では、先端部の構造が分かりやすいように、アームが開いた状態で図示してある。図23(b)では、上述した第1の実施形態のナノピンセットと同様の構造を有しており、直角三角形の断面形状を有する把持部201a,202aが形成されている。一方、図23(c)に示すナノピンセットでは、アーム201,202の試料側平面上に角錐形状の突部201b,202bが形成されている。
【0077】
図24はアーム201,202による試料Sの把持動作を説明する図である。電源209がオフ状態では、図23(a)に示すようにアーム201,202は閉じている。本実施の形態では、駆動部203,204のシリコン層にはボロンがドーピングされていて、電源209がオフの状態では、図20の上下方向の矢印で示すように駆動部203,204が収縮する方向に応力が働いている。
【0078】
試料Sの把持を行う場合には、ナノピンセット1を閉じた状態で試料Sの近傍まで移動する。次に、電源209をオンして電極205,206に電圧を印加すると、電極205→駆動部203→アーム201→アーム202→駆動部204→電極206のように電流が流れる。断面積が小さくなっている駆動部203,204ではジュール熱の発生が大きく、駆動部203,204は図24(a)の矢印方向(図示上下方向)に熱膨張する。その結果、アーム201は右方向に、アーム202は左方向にそれぞれ移動し、アーム201,202が開いた状態となる。
【0079】
図24(a)のようにアーム201,202が開状態となったならば、アーム201,202間に試料Sが位置するようにナノピンセット1を移動する。ところで、アーム201,202が開状態となると、アーム201とアーム202との接触が解除され電流が流れなくなる。その結果、駆動部203,204の温度が降下し、膨張していた駆動部203,204が元の状態に戻ろうとする。温度降下とともにアーム201,202は閉じる方向に移動し、図24(b)に示すように試料Sを把持することになる。そして、駆動部203,204が収縮しようとする応力によって、試料Sを把持する把持力が発生する。なお、アーム201,202が開状態となったならば電源209をオフし、電源オフ状態で試料Sを把持する。
【0080】
また、ナノピンセット1をAFM観察に用いる場合には、電源209をオフにして図23(a)のようにアームを閉じた状態とし、支持体25をAFM装置の励振部5により振動させる。レーザ光はアーム201,202のいずれに照射しても良い。この場合、アーム201,202の先端部分、すなわち、図23(a)に示した把持部201a,202aの先端や、図23(b)に示した突部201b,202bの先端が探針として機能する。
【0081】
ナノピンセット1の製造工程については、ボロンをドーピングする工程やボロンドーピングされた駆動部203,204をアニールして応力を発生させる工程が加わる他は、第1と同様の製造方法が適用される。駆動部203,204は、第1の実施の形態と同様にSOIウエハの上部Si層31(図1参照)から形成される。
【0082】
そこで、用意されたSOIウエハの上部Si層31上にマスクパターンを形成し、駆動部203,204が形成される領域にボロンのドーピングを行う。具体的には、イオン注入装置を用いて駆動部領域にボロンイオンをイオン注入する。その後、第1の実施の形態と同様の製造方法により、ナノピンセット1を構成する支持部25、アーム201,202、駆動部203,204等を形成する。SOIウエハ上にナノピンセット1が形成されたならば、エッチングによりSOIウエハからナノピンセット1を分離し、熱処理を施すことにより駆動部203,204のアニーリングを行う。
【0083】
図25の(a)はSOIウエハから分離されたナノピンセット1を示したものであり、この段階ではアーム201,202は開いた状態となっている。すなわち、アーム201,202をエッチングにより形成する際には、開いた状態の形状にエッチングする。その後、アニーリングすることによって、注入されたボロンがSiの格子サイトに置換される。ボロンの原子半径はSiに比べて小さいので、ボロンを格子サイトに置換すると圧縮方向に応力が働く。その結果、熱処理後は、図25(b)に示すように駆動部203,204が収縮してアーム201,202の先端が閉じた状態となる。なお、駆動部203,204のボロンドーピングは、ナノピンセット1の構造をエッチングした後にレジストでマスクをかけて行っても良い。
【0084】
図24に示すナノピンセットでは、駆動部203,204に電流を流して駆動部203,204を熱膨張させてアーム201,202を開いたが、ボロンがドープされた駆動部203,204とは別に、アーム201,202を開方向に駆動する駆動機構をさらに設けるようにしても良い。この場合、駆動部203,204はアーム201,202に閉方向の付勢力を与える付勢機構としてのみ機能する。また、アーム201,202の一方のみを開閉動作させるようにしても良い。
【0085】
一方、図24に示したナノピンセットは、駆動部203,204が付勢機構と駆動機構とを兼ねている。駆動機構としては、熱膨張を利用した熱アクチェータでも良いし、静電力を利用した静電アクチュエータ等でも良い。また、付勢機構と駆動機構とを別構成とした場合、アニーリングを行う前のアーム201,202の間隔をゼロと見なせるくらい狭くしても、駆動機構によりアーム201,202を開状態とすることが可能である。
【0086】
ところで、前述したようにCNT401をナノピンセット1で把持してAFM観察を行う場合、ナノピンセット1をクローズ状態に保持する必要がある。第3の実施の形態のようにノーマリークローズタイプのナノピンセットの場合、電源オフ状態で試料をアーム201,202間に把持することができる。そのため、第1,2の実施の形態に示したノーマリーオープンタイプのナノピンセットに比べて電力消費を低減することができる。
【0087】
なお、上述した第1の実施の形態では、観察プローブを備えたナノピンセットを例に説明したが、単に把持のみが可能なナノピンセットに対しても本発明を適用することができる。その場合、CNT401の位置までナノピンセットを移動する際にAFM観察を行うことができないので、予め設定した移動量だけ粗動移動させた後に、例えば、SEM等により観察しながら位置の微調整を行うようにしても良い。
【0088】
また、CNT401でAMF観察を行う場合、CNT401が試料表面に対して垂直となるのが好ましい。そこで、図17に示すように先端が下がるように配置されたナノピンセット1のナノピンセット1の上下傾き角度を調整する機構を設けて、把持したCNT401が試料表面に対して垂直となるように調整できるようにしても良い。例えば、圧電素子等を用いてナノピンセット1の先端と基部の高さを変え、傾きを調節する。
【0089】
ところで、第1の実施の形態においては、CNT401をナノピンセット1で把持した後に、試料面に対するCNT401の角度が適切になるようにナノピンセット1を反転駆動機構9により反転させた。しかしながら、ナノピンセット1に対するCNTカートリッジ400の配設姿勢を、例えば図26に示すような状態とすることにより、CNT401をほぼ垂直状態で把持することができ、反転駆動機構9が不要となる。
【0090】
上述した第1〜第3の実施の形態は、次のような作用効果を奏する。
(a)ナノピンセット1によりCNT401等の別体の探針を把持し、その探針を用いて試料表面観察を行うようにしたので、探針が破損した場合でも探針を交換するだけで良く、交換作業の短縮および交換コストの低減を図ることができる。
(b)探針として非常に細いCNTを用いることにより、試料のより微細な構造まで観察することが可能となる。
(c)探針の試料表面に対する姿勢を調整するための調整機構(反転機構等)を設けたことにより、試料表面に対する探針の角度をより適切に設定することができる。
(d)ノーマリークローズタイプのナノピンセット1を用いることにより、観察中に把持用電圧を印加しなくても探針を一定の把持力で把持することができるとともに、電力消費の低減を図ることができる。
(e)ナノピンセット1にもAFM観察用の探針部12が形成され、ナノピンセット単体でもAFM観察が行えるような構成としているので、別体の探針(CNT401)に対して観察プローブ10および可動アーム20を正確に位置決めすることができ、ナノピンセット1によるCNT401の確実な把持を行うことができる。
【0091】
上述した実施の形態では、シリコン基板を加工してナノピンセットを形成したが、このような形成方法に限らず、種々の形成方法により形成したナノピンセットも本発明のナノピンセット装置に適用できる。ナノピンセットの開閉駆動機構に関しては、熱アクチュエータに限らず、静電アクチュエータなどの種々のものが適用できる。さらに、検出方法に関しても光てこ方式やアドミッタンス検出方式に限らず、種々の方法が可能である。
【0092】
また、別体の探針をナノピンセットで把持してAFM観察を行うので、把持性を高めるために、探針の被把持部分の形状を角柱状にして把持しやすい形状にしたり、滑りにくい形状としたりしても良い。加えて、ナノピンセットの把持部形状を単に平行面とするだけでなく、例えば、探針に応じた形状とする等して把持しやすいようにしても良い。
【0093】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、観察プローブ10および可動アーム20は一対のアームを、駆動レバー23,24は開閉駆動機構を、励振部5は振動手段を、レーザ光源2と2分割フォトダイオード3および第2実施形態におけるアドミッタンス検出器53は検出手段をそれぞれ構成する。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明による走査型プローブ顕微鏡装置の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】ナノピンセット1の主要部を示す図であり、(a)は観察プローブ10と可動アーム20とを示し、(b)は観察プローブ10の探針部を示す。
【図3】観察プローブ10,可動アーム20,駆動レバー23,24および電源部6の拡大図である。
【図4】(a1),(a2)は工程aを説明する図であり、(b1),(b2)は工程bを説明する図であり、(c1),(c2)は工程cを説明する図である。
【図5】マスクAを示す平面図である。
【図6】(a),(b)は、工程dを説明する図である。
【図7】工程dにおけるエッチング前後のウエハ30の断面を示したものであり、(a)は図6のII−II断面図で、(b)は図6のI−I断面図である。
【図8】マスクBを示す平面図である。
【図9】工程eを説明する図であり、(a)はI−I断面図、(b)はII−II断面図である。
【図10】工程fを説明する図であり、(a)はI−I断面図、(b)はII−II断面図である。
【図11】工程fの処理後のウエハ30を示す斜視図である。
【図12】(a1),(a2)は工程gを説明する図であり、(b1)は工程hを説明する図である。
【図13】(a)はマスクCの平面図、(b)はマスクDの平面図である。
【図14】観察プローブの共振周波数を説明する図である。
【図15】複数のCNT401が形成されたCNTカートリッジ400の模式図である。
【図16】(a)はCNT401を検出する工程を説明する図であり、(b)は把持工程を説明する図である。
【図17】(a)ナノピンセット1の反転工程を説明する図であり、(b)はAMF観察工程を示す図である。
【図18】走査型プローブ顕微鏡装置の第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図19】励振部5を説明するブロック図である。
【図20】電気・機械結合系の等価回路を示す図である。
【図21】(a)はアドミッタンス曲線を示す図であり、(b)は(a)の破線で囲まれた部分の拡大図である。
【図22】アドミッタンス検出から信号処理までを説明するブロック図である。
【図23】第3の実施形態を説明する図であり、(a)はナノピンセット1の試料面側を示す平面図であり、(b)、(c)はナノピンセット1の先端部Rの構造を説明する拡大図である。
【図24】アーム201,202による試料Sの把持動作を説明する図であり、(a)は開状態、(b)は閉状態を示す。
【図25】(a)はSOIウエハから分離されたナノピンセット1を示す図であり、(b)はアニール処理後のナノピンセット1を示す図である。
【図26】装置内におけるCNTカートリッジ400の配設姿勢を説明する図である。
【符号の説明】
【0095】
1:ナノピンセット 2:レーザ光源 3:2分割フォトダイオード
4:制御演算部 5:励振部 6,209:電源部
8:3次元ステージ 9:反転駆動機構 10:観察プローブ
12:探針部 20:可動アーム 22:把持部
23,24:駆動レバー 50:櫛歯駆動機構 53:アドミッタンス検出器
100:AFM装置 201,202:アーム 203,204:駆動部
400:CNTカートリッジ 401:CNT
【技術分野】
【0001】
本発明は、探針をナノピンセットで把持して試料観察を行う走査型プローブ顕微鏡装置、ナノピンセット装置および試料表面形状観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、探針先端部分にカーボンナノチューブ(以下では、CNTと記載する)を備えた走査型プローブ顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−4619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CNTが一体で形成されたカンチレバーでは、作業中にCNTが破損して使用不能になった場合、CNTが形成されているカンチレバー全体を交換する必要がある。そのため、交換作業に時間を要し、走査型プローブ顕微鏡による観察作業の効率低下が問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明による走査型プローブ顕微鏡装置は、開閉駆動機構により開閉自在な一対のアームを備えたナノピンセットと、ナノピンセットに把持される探針と、探針を把持したナノピンセットを所定周波数で振動させる振動手段と、試料表面との作用に基づくアームの振動の変化を検出する検出手段と、検出手段の検出結果に基づいて試料表面形状を演算する演算部とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、探針としてカーボンナノチューブを用いたものである。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、ナノピンセットに把持された探針の試料表面に対する姿勢を変更する姿勢変更手段を設けたものである。
請求項4の発明は、請求項3に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、姿勢変更手段が、ナノピンセットを180度回転させて上下反転させる反転機構であることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、ナノピンセットは、駆動電圧非印加時が閉状態で、駆動電圧を印加することにより開状態となるように構成されていることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、一対のアームのいずれか一方には探針部が一体に形成されており、振動手段によって探針部が形成されたアームの共振周波数でナノピンセットを振動させて、探針部により試料表面形状の観察を行うようにしたものである。
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、探針の被把持部またはナノピンセットの把持部に探針把持性向上部を設けたものである。
請求項8の発明によるナノピンセット装置は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置を構成するナノピンセットと、振動手段と、検出手段とを備えることを特徴とする。
請求項9の発明による試料表面形状観察方法は、開閉駆動機構により開閉自在な一対のアームを備えたナノピンセットで探針を把持し、探針を把持したナノピンセットを所定周波数で振動させ、試料表面との作用に基づくアームの振動の変化を検出し、検出手段の検出結果に基づいて試料表面形状を演算し、その演算結果を可視化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ナノピンセットにより探針を把持し、その探針を用いて試料表面観察を行うようにしたので、探針が破損した場合でも探針を交換するだけで良く、交換作業の短縮および交換コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
―第1の実施の形態―
図1は本発明による走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)装置の第1の実施の形態を示す図であり、原子間力顕微鏡装置(以下、AFM装置と言う)の概略構成を模式的に示す図である。AFM装置100は、ナノピンセット1と、レーザ光源2と、2分割フォトダイオード3と、制御演算部4と、励振部5と、電源部6と、3次元ステージ8と、反転駆動機構9と、CNTカートリッジ400とを備えている。また、AFM装置100において、ナノピンセット1、レーザ光源2、2分割フォトダイオード3、励振部5、電源部6および反転駆動機構9はナノピンセット装置を構成している。ナノピンセット1は、支持体25に一体に形成された観察プローブ10および可動アーム20を有し、後述するように、フォトリソグラフィー技術を利用してSOIウエハを加工することにより形成される。
【0008】
観察プローブ10は、図のX方向に延在するレバー11と、レバー11の先端からX方向に延在する探針部12とを有している。観察プローブ10と並設されている可動アーム20は、X方向に延在するレバー21とレバー21の先端からX方向に延在する把持部22とを有している。ほぼ平行に延在する探針部12と把持部22とは、距離dを隔てて設けられている。支持体25と一体に設けられている駆動レバー23,24は、可動アーム20を駆動するための熱アクチュエータとして機能するものである。駆動レバー23,24は、それぞれの端部が可動アーム20に接続されてリンク機構を形成している。駆動レバー23,24には、電源部6から電力が供給される。
【0009】
支持体25は、AFM装置100に設けられたホルダー(不図示)に着脱可能に保持されている。なお、図1では、支持体25の一部のみが図示されている。支持体25が保持されるホルダーは、AFM装置100に設けられた3次元ステージ8に固定される。3次元ステージ8を駆動することにより、ナノピンセット1全体を3次元方向に移動させることができる。また、ナノピンセット1は反転駆動機構9により180度反転される。支持体25のホルダーへの装着方法としては、例えば、ホルダーに形成された溝部または凹部に支持体25をスライドさせて嵌め込んだり、ホルダーに取り付けられた板バネで支持体25を挟持するなど、種々の方法がある。
【0010】
2分割フォトダイオード3からの検出信号は、制御演算部4に入力される。制御演算部4は、検出信号に基づいて観察プローブ10の振幅を算出し、試料Sの表面形状を演算する。その演算結果はモニタ7に表示される。励振部5は、ナノピンセット1全体を振動させて観察プローブ10を共振させるためのピエゾ素子(不図示)と、その駆動回路とを備えている。また、制御演算部4は、励振部5、電源部6、3次元ステージ8および反転駆動機構9を制御する。
【0011】
図2は、図1のAFM装置100に設けられたナノピンセット1の主要部を示す図であり、(a)は観察プローブ10と可動アーム20とを示し、(b)は観察プローブ10の探針部12を示している。観察プローブ10のレバー11および可動アーム20のレバー21はYZ断面の形状が矩形となっており、後述する共振周波数は各々のX方向長さとZ方向厚さに依存する。また、観察プローブ10の探針部12と可動アーム20の把持部22は、X方向の長さ、Y方向の幅、Z方向の高さのすべてが等しく設定されている。探針部12および把持部22は、−Z方向に先細りとなったウエッジ型形状をしており、それぞれのYZ断面の形状は直角三角形になっている。
【0012】
距離dを隔てて配置された探針部12および把持部22の断面形状は、Z軸に関して対称となっている。探針部12および把持部22の対向する面(以下では、直交面と呼ぶ)12a,22aは、互いに平行となっている。探針部12の直交面12aと斜面12bが交わる稜線12cと、把持部22の直交面22aと斜面22bが交わる稜線22cとは、それぞれX軸に対して平行に延在しており、これらは試料Sに近接または接触する先鋭部(刃先)として機能する部分である。
【0013】
本実施の形態のナノピンセット1においては、従来の試料把持および運搬に加えて、試料のAFM観察を行うことができる。試料を把持する際には、静止している観察プローブ10に対して可動アーム20を開閉駆動する。その際、駆動レバー23,24が可動アーム20を開閉させる熱アクチュエータとして機能する。また、AMF観察を行う場合には、観察プローブ10を用いた観察、および、把持したCNTプローブを用いた観察のいずれかを採用することができる。
【0014】
図3は、駆動レバー23,24を説明する図であり、図1に示した観察プローブ10,可動アーム20,駆動レバー23,24および電源部6の部分を拡大して示したものである。熱アクチュエータは駆動レバー23,24と電源部6とで構成され、駆動レバー23の梁部23aと駆動レバー24の梁部24aとが可動アーム20にそれぞれ接続されている。梁部23a,24aのZ方向の厚さは同一であるが、梁部24aのX方向の幅は梁部23aのそれよりも狭く設定されている。電源部6は直列に接続された2つの可変電源6a,6bを有し、可変電源6aの負極は駆動レバー23に、可変電源6bの正極は駆動レバー24に接続されている。可変電源6aと可変電源6bとの接続点、および可動アーム20は接地電位とされている。
【0015】
《製造方法》
次に、図1,2に示したナノピンセットの製造方法について説明する。ナノピンセット1は、SOI(Silicon on Insulator)ウエハから一体で作製される。SOIウエハは、2枚のSi単結晶板の一方にSiO2層を形成し、そのSiO2層を挟むように貼り合わせたものである。図1に示されるように、支持体25は、SOIウエハを構成する上部Si層31、SiO2層32および下部Si層33で形成されている。また、観察プローブ10、可動アーム20および駆動レバー23,24は、電源部6を接続するための電極などを除くと上部Si層31で形成されている。本実施の形態では、各層31,32,33の厚さが順に6μm,1μm,300μmであるSOIウエハが用いられているが、このような寸法組み合わせに限定されるものではない。
【0016】
図4〜13は、本実施の形態のナノピンセット1の製造工程を示す図であり、工程aからhまで順に処理される。図4の(a1),(a2)は工程aを説明する図であり、(a1)は斜視図、(a2)は断面図である。工程aでは、上部Si層31、SiO2層32および下部Si層33から成るSOIウエハ30を用意し、上部Si層31の上に厚さ50nmの窒化珪素(SiN)膜34を形成する。なお、SOIウエハ30の上部Si層31は、表面がSi単結晶の主面(001)となるように構成されている。
【0017】
図4の(b1)および(b2)は工程bを説明する図であり、(b1)は斜視図、(b2)はI−I断面図である。工程bでは、図5に示すマスクAを用いて、C2F6によるRIEでSiN膜34を部分的にエッチング除去し、上部Si層31の一部(白抜きの領域A1,A2)を露出させる。SiN膜34がエッチング除去された領域A1は、概略、観察プローブ10の先端および可動アーム20の先端が形成される領域である。一方、領域A2は、観察プローブ10および可動アーム20の基端側と駆動レバー23,24が形成される領域である。観察プローブ10および可動アーム20が延在する方向には、すなわち、細長い領域Aの伸延方向には、上部Si層31の<110>方向を選ぶ。
【0018】
なお、図5に示したマスクAは支持体25も含めたマスクとなっており、図1や図4(b1)に示す部分は、図5のR1−R1線よりも上側の領域が関係している。以下の説明では、R1−R1線よりも上側の領域について説明する。
【0019】
図4の(c1),(c2)に示す工程cでは、領域A1およびA2の上部Si層31の表面に厚さ0.1μmの酸化膜35を形成する。酸化方法は水蒸気酸化であり、酸素ガスと水素ガスを高温で反応させて生成した水蒸気を用いて、上部Si層31の露出面を酸化する。
【0020】
図6の(a),(b)は、工程dを説明する図である。工程dでは、図8に示すマスクBを用いて、ICP−RIE(inductively coupled plasma - reactive ion etching)によりエッチングを行う。図8に示すように、マスクBには、図4(c1)の領域A1を覆う部分である先端遮蔽領域B1が形成されている。その先端遮蔽領域B1には、図示上下方向(上部Si層31の<110>方向)に延在するスリットSL1が形成されている。また、スリットSL2,SL3は、駆動レバー23,24を作製するためのものである。なお、図8に示すマスクBのR2−R2線より上部領域が、図6(a),(b)に示した部分に対応している。
【0021】
図6(a)の破線は、図4(c1)で形成されたウエハ30上にマスクBを配置して示したものである。図6(a)において、マスクBで覆われていない部分は、ICP−RIEにより、SiO2層32までエッチングされる。このICP−RIEでは、エッチングはSiO2層32で停止するので、観察プローブ10および可動アーム20の厚さを均一かつ高精度に形成することができる。
【0022】
図6(b)はエッチング後のウエハ30を示したものである。マスクBのスリットSL1の部分からのエッチングにより、<110>方向に延在するスリット溝40が形成される。スリット溝40の両側面は、SiN膜34の表面に対して垂直になっており、スリット溝40の深さは、SiN膜34と上部Si層31の厚さの和に相当する。スリット溝40の両側面は、ナノピンセット1の完成段階で、探針部12の直交面12aと把持部22の直交面22a(図2参照)となる。
【0023】
図7は、エッチング前後のウエハ30の断面を示したものであり、(a)は図6のII−II断面図で、(b)は図6のI−I断面図である。マスクBで覆われていない部分では、窒化珪素(SiN)膜34,酸化膜35,Si層31がエッチングされている。その結果、エッチングされた部分では、SiO2層32の表面およびSi層31の側面が露出することになる。
【0024】
図9は工程eを説明する図であり、(a)は図6のI−I断面と同様の断面を示す図であり、(b)は図6のII−II断面同様の断面を示す図である。工程eでは、工程dのエッチングにより露出した上部Si層31の側面に、表面保護のための酸化膜36を形成する。この酸化処理は、工程(c)と同様の水蒸気酸化である。
【0025】
図10は工程fを説明する図であり、(a)は図9(a)と同様のI−I断面図であり、(b)は図9(b)と同様のII−II断面図である。工程fでは、C2F6を用いたRIEによりSiN膜34をエッチング除去する。その結果、図10(a),(b)に示すように、上部Si層31の上面が露出する。このRIE処理はマスクを使用しないで行われるが、C2F6のガス圧力を高めることによって、SiN膜34を酸化膜35,36よりも大きいエッチングレートで除去できるようなエッチング条件に設定し、SiN膜34だけを除去する。そのため、上部Si層31上の酸化膜35および上部Si層31側面の酸化膜36はエッチングされずに残ることになる。図11は処理後のウエハ30を示す斜視図であり、ドットのハッチングを施した部分が酸化膜35,36の部分である。
【0026】
図12において、(a1),(a2)は工程gを説明する図であり、(b1)は工程hを説明する図である。図12(a2)は、図12(a1)のIII−III断面図である。工程gでは、30%KOH水溶液を用いて上部Si層31を異方性エッチングする。この場合、図10に示すように、上部Si層31は酸化膜35,36が形成されていない上面部分のみが露出しているので、上部Si層31はその部分から異方性エッチングされ、斜面11b、21b、12b、22bが形成される。前述したように、上部Si層31の表面を単結晶Siの主面(001)に選んでいるので、異方性エッチングによって形成される斜面12b、22bは単結晶Siの{111}面になっている。
【0027】
なお、後述するように、観察プローブ10および可動アーム20の共振周波数設定の関係上、観察プローブ10のレバー11の厚さを可動アーム20のレバー21の厚さよりも厚く形成する場合は、レバー21の領域以外をレジストで保護して、レバー21の領域のみを所定厚さになるまで熱酸化あるいはエッチングすればよい。
【0028】
次いで、図13(a)に示すマスクCを用いてICP−RIEにより、観察プローブ10および可動アーム20の原型が形成されている周辺領域に残存する上部Si層31を、SiO2層32の表面が露出するまで厚さ方向にエッチング除去する。その後、酸化膜35,36をエッチング除去する。このマスクCを用いたエッチングにより、探針部12および把持部22の長さを調節することができる。また、端面12e,22eが探針部12および把持部22の延在方向と位置を揃えて垂直になるので、試料Sの把持をより一層確実に行うことができる。
【0029】
図12(b1)に示す工程hでは、図13(b)に示すマスクDを用いてSOIウエハ30の裏面から、下部Si層33側の不要部分をICP−RIEによりエッチング除去する。このエッチングは、SiO2層32で停止する。そして、フッ酸溶液によりSiO2層32の不要部分を除去すればナノピンセット1の形状となる。なお、工程hで除去された部分は、図12(b1)に示すように二点鎖線で示した部分である。なお、図12で示した部分の処理には、マスクC、DのR3−R3線より上部領域が対応している。
【0030】
以上により、支持体25と一体に観察プローブ10および可動アーム20が同一方向に延在するナノピンセット1が完成する。このとき、駆動レバー23,24も、観察プローブ10および可動アーム20の製造工程中において同様の手法により作製される。
【0031】
上記の製造工程では、1個のナノピンセット1についての一連の作製手順を説明したが、実際の製造工程は、SOIウエハ単位で行われる、いわゆるバッチ処理である。このバッチ処理では、フォトリソグラフィー法により、1枚のSOIウエハから多数のナノピンセット1を一括で作製することができ、大幅な製造コストの削減をもたらすものである。
【0032】
《動作説明》
次に、ナノピンセット1の動作について説明する。本実施の形態のナノピンセット1においては、試料を把持する把持動作と、AFM観察の際のプローブとして用いられる観察動作とを行うことができる。
【0033】
[把持動作]
まず、図3を参照しながら、試料表面上にある試料Sを把持する場合を例に説明する。最初に、ナノピンセット1を試料Sの位置へと移動する。この際、後述する観察プローブ10を用いた観察動作により試料Sを探す。観察動作により試料Sが検出されたならば、探針部12と把持部22との間に試料Sが位置するように、ナノピンセット1を移動する。
【0034】
そして、観察プローブ10による観察動作(タッピング動作)を停止した後に、駆動レバー23,24を駆動して可動アーム20を図のH方向に撓ませることにより把持部22を探針部12へ接近させ、試料Sを把持部22と探針部12の間に挟み込む。このとき、可動アーム20だけが駆動レバー23,24により撓み、観察プローブ10は動かない。
【0035】
具体的な把持手順は、まず、試料Sに観察プローブ10の探針部12の直交面12a(図2(b)参照)を接触させる。その後、可動アーム20を撓ませて把持部22の直交面22a(図2(b)参照)を試料Sに接近させ、直交面22aが試料Sに適切な押圧力で接触するように可変電源6a,6bを調節する。その結果、試料Sがナノピンセット1により把持される。
【0036】
直交面12a,22aは平行状態で互いに対向するように構成されているので、試料Sは平行な面12a,22により確実に把持される。試料Sを把持した後は、3次元ステージを駆動することにより、試料Sを3次元的に移動させることができる。また、把持した試料Sを解放するときには、電源部6による印加電圧を零にして、把持部22と探針部12との間隔を元の距離dに戻せばよい。
【0037】
[観察動作]
次に、観察動作について説明する。本実施の形態のAFM装置では、(a)ナノピンセット1に設けられた観察プローブ10を用いた第1の観察動作と、(b)ナノピンセット1により別体で形成された観察用プローブをを把持し、その把持したプローブによる第2の観察動作とを行うことができる。
【0038】
先ず、第1の観察動作について説明する。本実施の形態では、励振部5に設けられた不図示のピエゾ素子を駆動して、観察プローブ10を図2の矢印Vで示す方向(Z方向)に撓み振動させつつナノピンセット1をXY方向に走査し、試料Sの表面形状を計測する。この方式は、一般にタッピングモードと呼ばれる。このとき、観察プローブ10の探針部12を試料表面に対して原子オーダーの距離に近接させた上で、Z方向に振動させながら2次元的に試料表面を走査する。
【0039】
試料表面の凹凸により、探針部12の先端と試料Sとの距離(探針部12は振動しているので平均距離)が変化すると、試料表面および探針部12間の相互作用の変化によってレバー11の振幅が変化する。この振幅の変化量をレーザ光源2と2分割フォトダイオードとを利用した光てこ方式の計測方法により測定する。
【0040】
光てこ方式の計測方法では、レーザ光源2からのレーザ光L1をレバー11の上面に入射させ、レバー11の上面からの反射光L2を受光部である2分割フォトダイオード3で受光する。2分割フォトダイオード3は、その受光位置に応じた検出信号を制御演算部4へ送出する。制御演算部4は、2分割フォトダイオード3からの検出信号に基づいてレバー11の振幅の変化量を算出し、さらに、振幅変化量に基づいて試料Sの表面形状を演算する。この表面形状はモニタ7に表示される。
【0041】
上述したタッピングモードによる観察では、ピエゾ素子で支持体25全体をZ方向に振動して観察プローブ10を共振させる必要がある。そのためには、観察プローブ10のレバー11および可動アーム20のレバー21の長さや厚さを調整することにより、観察プローブ10の厚さ方向の振動の共振周波数が可動アーム20の共振周波数よりも高くなるように設計する。なお、厚さを調整する場合には、共振周波数は厚さの3乗で変化するので、厚さをわずかに変えるだけで共振周波数を変化させることができる。励振部5により観察プローブ10の共振周波数で支持体25全体を振動させると、観察プローブ10のみが共振してZ方向に振動する。
【0042】
図14は、観察プローブ10の共振周波数を説明する図であり、縦軸は振幅を、横軸は周波数をそれぞれ表している。図14において、V1は観察プローブ10の振動曲線であり、V2は可動アーム20の振動曲線である。励振部5により加える振動の周波数がf1のときに、観察プローブ10は共振して振幅のピークが発生する。この周波数f1が観察プローブ10の共振周波数である。
【0043】
一方、可動アーム20の共振周波数はf2であり、周波数f2に振幅のピークが現れる。周波数がf2よりも高くなると振幅は急激に小さくなり、可動アーム20の周波数f1における振幅量kは観察プローブ10の振幅に比べてはるかに小さい値となる。このように、観察プローブ10の共振周波数f1が可動アーム20の共振周波数f2よりも高くなるように、レバー11、21の幅を設定することにより、観察プローブ10のみを振動させることができる。
【0044】
別体の探針を把持して行う第2の観察動作について説明する。上述した第1の観察動作では、観察プローブ10に形成された断面が三角柱形状の探針部12を用いて観察を行った。観察に用いる探針は、微少であればある程、より細かな微細構造を測定することができる。例えば、従来技術のように針状のCNTをプローブに用いることで、微少構造の測定が可能となる。別体の探針としては、CNTの他にDNA、DNA束、微小管、アクチン等を用いることができる。以下では、別体の探針としてCNTを使用し、CNTによりAFM観察を行う場合を例に説明する。
【0045】
図15は、プローブとして用いるCNT401を示す図であり、複数のCNT401が形成されたCNTカートリッジ400を模式的に示したものである。CNTカートリッジ400は、複数のCNT401が半導体基板402上に形成されたものであり、形成方法の詳しい内容は文献(Y.Takei、K.Hoshino、K.Matsumoto、I.Shimoyama、「Control the CNT growing by applying electric field」、Proceedings of the 22nd Sensor Symposium,2005.pp.65〜68)に記載されている。CNT401は、基板402の階段状部分402aに橋渡しされるような形状で形成されている。AFM装置にはこのCNTカートリッジ400が搭載されている。
【0046】
まず、図16(a)に示すように、搭載されたCNTカートリッジ400までナノピンセット1を粗動移動させ、CNT401の一端が接している基板領域RをAFM観察し、CNT401の位置を検出する。CNT401の位置が検出されたならば、図16(b)に示すように、ナノピンセット1によるCNT401の把持動作を行う。すなわち、可動アーム20を開いて、CNT401が探針部12と把持部22との間に入るようにナノピンセット1を移動し、図16(b)の状態から可動アーム20を閉じて、CNT401を把持する。把持した状態でナノピンセット1を移動させることにより、CNT401がCNTカートリッジ400から分離される。
【0047】
CNT401を把持したならば、図1の反転駆動機構9を用いて図17(a)に示すようにナノピンセット1を180度反転し、CNT401の先端が下方(試料方向)を向くようにする。反転した状態で、ナノピンセット1を試料面まで移動し、その後、把持状態にあるナノピンセット1全体を励振部5により振動させる。この場合、観察プローブ10および可動アーム20がほぼ一体で振動する共振周波数を求め、その周波数でナノピンセット1を振動させるようにする。
【0048】
このように、探針として機能するCNT401を振動させながら試料S上を走査することにより、AFM観察を行うことができる(図17(b))。この場合、反転されたレバー11または21の上面側(本来の裏面側)にレーザ光L1を照射し、その反射光L2を2分割フォトダイオード3(図1参照)で検出することにより、レバー11,21の振幅変化量を検出し、表面形状を測定する。
【0049】
本実施の形態では、別体で備えられたプローブであるCNT401をナノピンセット1で把持し、把持したCNTでAFM観察をできるような構成とした。その結果、より微細な構造がAFM観察可能となるだけでなく、別体の探針(CNT401)が破損した場合でも、容易に探針の交換ができる。従来の場合、探針部に形成されたCNTプローブが破損したときには、CNTプローブが形成されたカンチレバー全体を交換する必要があり交換時間がかかっていたが、本実施の形態によれば、交換時間の短縮を図ることができるとともに、交換コストの低減を図ることができる。
【0050】
また、ナノピンセット1自体も観察プローブ10を備えていて、CNT401の位置を正確に測定することができるため、ナノピンセット1のCNT把持位置への移動を正確に素早く行うことができる。さらに、ナノピンセット1を反転する反転駆動機構9を備えているので、試料面に対するCNT401の姿勢をより適切に設定することができる。
【0051】
−第2の実施の形態−
図18は、本発明による走査型プローブ顕微鏡装置の第2の実施の形態を示す図であり、AFM装置のブロック図である。なお、図1に示した装置と同一部分には同一の符号を付した。すなわち、1は、観察プローブ10と可動アーム20を有するナノピンセットであり、ナノピンセット1は3次元ステージ8により3次元方向に並進移動させられるとともに、反転駆動機構9により反転駆動される。
【0052】
本実施の形態では、励振部5の駆動機構には図19に示すような櫛歯駆動機構50が採用され、櫛歯駆動機構50のアドミッタンスを検出することにより探針と試料との距離を求めるようにした。そのため、図1に示した光てこ方式の検出手段を構成するレーザ光源2および2分割フォトダイオード3は省略されている。
【0053】
図19は励振部5を説明するブロック図である。励振部5は、櫛歯駆動機構50、直流電源51、交流電源52およびアドミッタンス検出器53を備えている。交流電源52と直流電源51とは直列に接続され、交流電源52が櫛歯駆動機構50に電気的に接続されている。アドミッタンス検出器53は、交流電源52と櫛歯駆動機構50を含む電気回路に接続されるとともに、制御演算部4にも接続されている。
【0054】
櫛歯駆動機構50は静止部500および可動部501を備えており、可動部501は静止部500に設けられた支持部500aにより弾性支持されている。可動部501の端部(下端部)はナノピンセット1に接続されている。静止部500および可動部501の対向部には、櫛歯状凹凸部502,503が形成されている。静止部500側に形成された櫛歯状凹凸部502と可動部501側に形成された櫛歯状凹凸部503とは、隙間を介して噛合している。櫛歯状凹凸部502,503の一方に、直流電圧に交流電圧が重畳された電圧を印加することにより、静電力によって可動部501を上下に駆動することができる。
【0055】
アドミッタンス検出器53は、交流電圧が加えられている櫛歯駆動機構50のアドミッタンスを検出し、検出データを制御演算部4へ送出する。制御演算部4はアドミッタンス検出値から外力の大きさあるいは外力を及ぼす物体との距離を演算し、その演算結果をモニタ7に表示させる。AFM観察時には探針と試料との間に働く原子間力を検出することにより表面形状の測定を行うが、この原子間力は探針と試料との距離に依存する物理量であり、原子間力を櫛歯駆動機構50のアドミッタンスとして検出することができる。
【0056】
《アドミッタンスを用いた測定方法についての説明》
次に、アドミッタンスを用いた測定方法の概略について説明する。図20は、平行平板型アクチュエータモデルにおける電気・機械結合系の等価回路を示す図である。一般に、電気・機械結合系においては、電気的エネルギーおよび機械的エネルギーの保存則が成立する。ここでは、外力f、励起電圧eが小さく、変位量、電荷量の変動も小さいとしてモデル化した。
【0057】
Mは電気系と機械系の結合係数であり、平行平板型アクチュエータ部にガウスの定理を適用することにより、M=E0C0/ε0Sと表される。ここで、E0直流バイアス電圧、C0は初期状態のコンデンサ容量、ε0真空の誘電率、Sは平行平板の電極面積である。図20に示す電気系の式と機械系の式において、R、i、v、CSは、それぞれ平行平板型アクチュエータの抵抗、電流、振動速度、浮遊容量であり、m、k、rfは、それぞれ平行平板型アクチュエータの等価質量、バネ定数、機械系の摩擦抵抗(機械抵抗)である。
【0058】
上述した櫛歯型アクチュエータにこの平行平板型アクチュエータモデルを適用すると、線形近似基本方程式は式(1),(2)のように表される。
i1=jω(C0+CS)e1+(E0C0/X0)ν1 (1)
f1=jωmν1+rfν1+kν1/jω+E0C0e1/X0 (2)
但し、i1は交流電流値、e1は入力交流電圧の振幅、ν1は可動部2の振動速度であり、f1、m、k、rfは、それぞれ櫛歯駆動機構50に作用する外力、等価質量、バネ定数、機械系の摩擦抵抗(機械抵抗)である。また、E0は櫛歯駆動機構50に加わる直流バイアス電圧、C0は初期状態の櫛歯状凹凸部のコンデンサ容量、CSは電極パッド等の浮遊容量、X0は初期状態の櫛歯間距離である。
【0059】
式(1),(2)より、外力が零の場合、櫛歯駆動機構50のアドミッタンスの絶対値|Y|と角周波数ωの関係は最終的に式(3)のように表すことができる。ここで、A=E0C0/X0と置いた。
【数1】
【0060】
図21は、この実施の形態による櫛歯型プローブのアドミッタンスの角周波数依存性を表すグラフであり、(a)はグラフ全体を示し、(b)は(a)の円内を拡大して示したものである。曲線y1は式(3)の|Y|を示すアドミッタンス曲線であり、アドミッタンス曲線y1は電気・機械結合系の特性曲線になっている。一方、アドミッタンス曲線y2は機械系がない電気系のみの場合の特性曲線であり、|Y|=ω(C0+CS)で表される。
【0061】
すなわち、アドミッタンス曲線y2は、式(3)において次式(4)が成り立つ場合の特性曲線を表している。
A2−2ω(C0+CS)(ωm−k/ω)=0 (4)
式(4)を満たす角周波数ω、すなわち、アドミッタンス曲線y1およびy2の交点における角周波数を、ここでは発振角周波数ω1と呼ぶことにする。この発振角周波数ω1は共振角周波数ω0に近い値であり、発振角周波数ω1で櫛歯駆動機構50を駆動すると、上述したように機械系の特性がキャンセルされて電気系のみのアドミッタンス計測が可能となる。
【0062】
なお、共振角周波数ω0はアドミッタンス曲線y1のピーク位置より僅かに高いところに位置しており、アドミッタンス曲線y1のピーク角周波数をωp、凹カーブを示す部分のボトムの角周波数をωbとすれば、共振角周波数ω0と発振角周波数ω1との関係は次式(5)のように表される。発振角周波数ω1、ピーク角周波数ωpおよびボトム角周波数ωbとの間には、2/ω1=1/ωp+1/ωbという関係がある。
【数2】
【0063】
発振角周波数ω1で櫛歯駆動機構50を駆動しているときに、櫛歯駆動機構50にナノピンセット1を介して外力が作用すると、図21(b)に示すように、外力が無い場合のアドミッタンス曲線y1から外力が作用した場合のアドミッタンス曲線y3へと変化する。その結果、発振角周波数ω1におけるアドミッタンスはΔYだけ変化する。このときの可動部501の変位量は、後述するようにアドミッタンス変化の検出値から算出される。従来は、共振角周波数ω0において角周波数のシフト量Δωを検出していたが、上述したように発振角周波数ω1(またはその近傍)においてアドミッタンス変化ΔYを検出することにより、より高感度な測定が可能となる。
【0064】
なお、櫛歯駆動機構50に作用する外力の変化は、櫛歯駆動機構50のバネ定数kが僅かに変化してバネ定数(k+Δk)となったときのアドミッタンスの変化ΔYとして求められる。すなわち、式(3)から導かれる近似式により、発振角周波数ω1でのアドミッタンスの絶対値|Y|とアドミッタンスの変化ΔYは、それぞれ式(6)、式(7)で表される。
|Y|=ω1(C0+CS) (6)
ΔY=A2Δk/ω1rf2 (7)
【0065】
したがって、アドミッタンスの変化ΔYを検出することによりバネ定数の変化Δkが求まり、その結果、櫛歯駆動機構50に作用する外力の大きさあるいは可動部501の変位量を求めることができる。
【0066】
また、櫛歯駆動機構50のアドミッタンスから、プローブとして機能しているナノピンセット1の変位量を直接的に求めることも可能である。ここで変位量をx1とすると、櫛歯型のアクチュエータの線形近似基本方程式である式(1),(2)において、正弦波駆動の場合はν1=jωx1と書けるので、式(1)は次式(8)のように変形できる。
i1/e1=jω[C0{1+(x1/X0)(E0/e1)}+CS] (8)
【0067】
さらに、式(8)を用いることにより、アドミッタンスの絶対値|Y|は次式(9)のようになる。
|Y1|=|i1/e1|
=ω[C0{1+(x1/X0)(E0/e1)}+CS] (9)
式(9)から変位量x1は式(10)のように表せる。
x1={(|Y1|−ωCS)/ωC0−1}(e1/E0)X0 (10)
【0068】
前述したように、A=E0C0/X0であるから、式(10)を変形して式(11)を得る。なお、複数の櫛歯を有するアクチュエータでは、Aは、A=nbE0/dと書ける。ここで、nは櫛歯駆動機構50の櫛歯の数、bは櫛歯の厚さ、dは対向する櫛歯間のギャップである。
x1={(|Y1|−ωCS)/ωC0−1}(C0e1/A) (11)
ここで、Y0=ω(C0+CS)とおけば、式(11)を変形して式(12)を得る。
x1={(|Y1|−|Y0|)/ωC0}(C0e1/A)
=ΔY/ω(e1/A) (12)
【0069】
以上の変位量算出手順をまとめると以下のようになる。
(a)櫛歯駆動機構50に振動を与え、その共振角周波数ω0を測定する。
(b)共振角周波数ω0に近い機械系の特性がキャンセルされる発振角周波数ω1で櫛歯駆動機構50を振動させて、可動部501に加わる外力が零のときの基準アドミッタンス値|Y0|を検出する。
(c)角周波数ωを発振角周波数ω1に定めて櫛歯駆動機構50に振動を与え、可動部501に外力が加わったときのアドミッタンス値|Y1|を検出する。
(d)アドミッタンスの変化ΔY(=|Y1|−|Y0|)から、可動部501の外力による変位量を算出する。
【0070】
ここで、アドミッタンス検出器を用いたアドミッタンス|Y|の検出について具体的に説明する。図22は、櫛歯駆動機構50のアドミッタンス検出から信号処理までの装置構成の概略を示すブロック図である。アドミッタンスを検出するLCRメータ300は、ロックインアンプ301と、電流測定用回路302と、電圧測定用回路303とを有する。
【0071】
櫛歯駆動機構50には交流電圧が加えられており、電流測定用回路302により櫛歯駆動機構50の電流の絶対値と位相が測定され、電圧測定用回路303により櫛歯駆動機構50の電圧の絶対値と位相が測定される。これら2つの物理量の絶対値と位相からアドミッタンスの絶対値|Y|と位相をロックインアンプ301で演算する。LCRメータ300からアドミッタンスの絶対値|Y|に比例する電圧VYを出力し、比較器304で電圧VYを基準電圧と比較する。基準電圧とは、発振角周波数ω1におけるアドミッタンスに対応する電圧である。
【0072】
電圧VYと基準電圧との偏差分は、電圧ブースター305で増幅されて電圧信号ΔVとなり、ピエゾアクチュエータ306へフィードバックされる。ピエゾアクチュエータ306は櫛歯駆動機構50全体をZ軸方向(試料に垂直方向)に微少駆動するアクチュエータである。そして、このピエゾアクチュエータ306の駆動量が可動部501の変位量に対応する。
【0073】
上述したように、本実施の形態では励振部5に櫛歯駆動機構50が採用し、櫛歯駆動機構50のアドミッタンスを検出することにより探針と試料との距離を求めるようにした。アドミッタンス検出法では、従来の共振角周波数測定の場合よりもバネ定数の変化Δkに対する変化率が大きいので、可動部501の変位を高精度で測定できる。特に、共振角周波数が低くても高い感度が得られるので、マイクロマシン分野に最適である。
【0074】
−第3の実施形態−
上述した第1および第2の実施の形態では、駆動電圧を印加しない場合にナノピンセット1が開状態となるノーマリーオープンタイプのナノピンセットについて説明した。一方、本実施の形態では、駆動電圧を印加しない場合にナノピンセット1が閉状態となるノーマリークローズタイプのナノピンセットについて説明する。なお、検出方法は光てこ方式でも良いし、アドミッタンス検出方式でも良い。
【0075】
図23は第3の実施形態におけるナノピンセット1を説明する図であり、(a)はナノピンセット1の試料面側を示す平面図であり、(b)、(c)はナノピンセット1の先端部Rの構造を説明する拡大図である。支持体25にはアーム201,202が形成されている。203,204は、アーム201,202を図の矢印方向に開閉駆動する駆動部である。駆動部203,204はジュール熱によって膨張動作を行う熱膨張アクチェータであり、電源209からの電力によって動作する。205,206は駆動部203,204の電極であり、電源209が接続されている。なお、電源209は図1において電源6と示されたものであるが、ここでは符号を変えて表示した。
【0076】
アーム201、202の先端部Rの構造としては、図23(b)に示すような構造としても良いし、図23(c)に示すような構造としても良い。なお、図23(b),(c)では、先端部の構造が分かりやすいように、アームが開いた状態で図示してある。図23(b)では、上述した第1の実施形態のナノピンセットと同様の構造を有しており、直角三角形の断面形状を有する把持部201a,202aが形成されている。一方、図23(c)に示すナノピンセットでは、アーム201,202の試料側平面上に角錐形状の突部201b,202bが形成されている。
【0077】
図24はアーム201,202による試料Sの把持動作を説明する図である。電源209がオフ状態では、図23(a)に示すようにアーム201,202は閉じている。本実施の形態では、駆動部203,204のシリコン層にはボロンがドーピングされていて、電源209がオフの状態では、図20の上下方向の矢印で示すように駆動部203,204が収縮する方向に応力が働いている。
【0078】
試料Sの把持を行う場合には、ナノピンセット1を閉じた状態で試料Sの近傍まで移動する。次に、電源209をオンして電極205,206に電圧を印加すると、電極205→駆動部203→アーム201→アーム202→駆動部204→電極206のように電流が流れる。断面積が小さくなっている駆動部203,204ではジュール熱の発生が大きく、駆動部203,204は図24(a)の矢印方向(図示上下方向)に熱膨張する。その結果、アーム201は右方向に、アーム202は左方向にそれぞれ移動し、アーム201,202が開いた状態となる。
【0079】
図24(a)のようにアーム201,202が開状態となったならば、アーム201,202間に試料Sが位置するようにナノピンセット1を移動する。ところで、アーム201,202が開状態となると、アーム201とアーム202との接触が解除され電流が流れなくなる。その結果、駆動部203,204の温度が降下し、膨張していた駆動部203,204が元の状態に戻ろうとする。温度降下とともにアーム201,202は閉じる方向に移動し、図24(b)に示すように試料Sを把持することになる。そして、駆動部203,204が収縮しようとする応力によって、試料Sを把持する把持力が発生する。なお、アーム201,202が開状態となったならば電源209をオフし、電源オフ状態で試料Sを把持する。
【0080】
また、ナノピンセット1をAFM観察に用いる場合には、電源209をオフにして図23(a)のようにアームを閉じた状態とし、支持体25をAFM装置の励振部5により振動させる。レーザ光はアーム201,202のいずれに照射しても良い。この場合、アーム201,202の先端部分、すなわち、図23(a)に示した把持部201a,202aの先端や、図23(b)に示した突部201b,202bの先端が探針として機能する。
【0081】
ナノピンセット1の製造工程については、ボロンをドーピングする工程やボロンドーピングされた駆動部203,204をアニールして応力を発生させる工程が加わる他は、第1と同様の製造方法が適用される。駆動部203,204は、第1の実施の形態と同様にSOIウエハの上部Si層31(図1参照)から形成される。
【0082】
そこで、用意されたSOIウエハの上部Si層31上にマスクパターンを形成し、駆動部203,204が形成される領域にボロンのドーピングを行う。具体的には、イオン注入装置を用いて駆動部領域にボロンイオンをイオン注入する。その後、第1の実施の形態と同様の製造方法により、ナノピンセット1を構成する支持部25、アーム201,202、駆動部203,204等を形成する。SOIウエハ上にナノピンセット1が形成されたならば、エッチングによりSOIウエハからナノピンセット1を分離し、熱処理を施すことにより駆動部203,204のアニーリングを行う。
【0083】
図25の(a)はSOIウエハから分離されたナノピンセット1を示したものであり、この段階ではアーム201,202は開いた状態となっている。すなわち、アーム201,202をエッチングにより形成する際には、開いた状態の形状にエッチングする。その後、アニーリングすることによって、注入されたボロンがSiの格子サイトに置換される。ボロンの原子半径はSiに比べて小さいので、ボロンを格子サイトに置換すると圧縮方向に応力が働く。その結果、熱処理後は、図25(b)に示すように駆動部203,204が収縮してアーム201,202の先端が閉じた状態となる。なお、駆動部203,204のボロンドーピングは、ナノピンセット1の構造をエッチングした後にレジストでマスクをかけて行っても良い。
【0084】
図24に示すナノピンセットでは、駆動部203,204に電流を流して駆動部203,204を熱膨張させてアーム201,202を開いたが、ボロンがドープされた駆動部203,204とは別に、アーム201,202を開方向に駆動する駆動機構をさらに設けるようにしても良い。この場合、駆動部203,204はアーム201,202に閉方向の付勢力を与える付勢機構としてのみ機能する。また、アーム201,202の一方のみを開閉動作させるようにしても良い。
【0085】
一方、図24に示したナノピンセットは、駆動部203,204が付勢機構と駆動機構とを兼ねている。駆動機構としては、熱膨張を利用した熱アクチェータでも良いし、静電力を利用した静電アクチュエータ等でも良い。また、付勢機構と駆動機構とを別構成とした場合、アニーリングを行う前のアーム201,202の間隔をゼロと見なせるくらい狭くしても、駆動機構によりアーム201,202を開状態とすることが可能である。
【0086】
ところで、前述したようにCNT401をナノピンセット1で把持してAFM観察を行う場合、ナノピンセット1をクローズ状態に保持する必要がある。第3の実施の形態のようにノーマリークローズタイプのナノピンセットの場合、電源オフ状態で試料をアーム201,202間に把持することができる。そのため、第1,2の実施の形態に示したノーマリーオープンタイプのナノピンセットに比べて電力消費を低減することができる。
【0087】
なお、上述した第1の実施の形態では、観察プローブを備えたナノピンセットを例に説明したが、単に把持のみが可能なナノピンセットに対しても本発明を適用することができる。その場合、CNT401の位置までナノピンセットを移動する際にAFM観察を行うことができないので、予め設定した移動量だけ粗動移動させた後に、例えば、SEM等により観察しながら位置の微調整を行うようにしても良い。
【0088】
また、CNT401でAMF観察を行う場合、CNT401が試料表面に対して垂直となるのが好ましい。そこで、図17に示すように先端が下がるように配置されたナノピンセット1のナノピンセット1の上下傾き角度を調整する機構を設けて、把持したCNT401が試料表面に対して垂直となるように調整できるようにしても良い。例えば、圧電素子等を用いてナノピンセット1の先端と基部の高さを変え、傾きを調節する。
【0089】
ところで、第1の実施の形態においては、CNT401をナノピンセット1で把持した後に、試料面に対するCNT401の角度が適切になるようにナノピンセット1を反転駆動機構9により反転させた。しかしながら、ナノピンセット1に対するCNTカートリッジ400の配設姿勢を、例えば図26に示すような状態とすることにより、CNT401をほぼ垂直状態で把持することができ、反転駆動機構9が不要となる。
【0090】
上述した第1〜第3の実施の形態は、次のような作用効果を奏する。
(a)ナノピンセット1によりCNT401等の別体の探針を把持し、その探針を用いて試料表面観察を行うようにしたので、探針が破損した場合でも探針を交換するだけで良く、交換作業の短縮および交換コストの低減を図ることができる。
(b)探針として非常に細いCNTを用いることにより、試料のより微細な構造まで観察することが可能となる。
(c)探針の試料表面に対する姿勢を調整するための調整機構(反転機構等)を設けたことにより、試料表面に対する探針の角度をより適切に設定することができる。
(d)ノーマリークローズタイプのナノピンセット1を用いることにより、観察中に把持用電圧を印加しなくても探針を一定の把持力で把持することができるとともに、電力消費の低減を図ることができる。
(e)ナノピンセット1にもAFM観察用の探針部12が形成され、ナノピンセット単体でもAFM観察が行えるような構成としているので、別体の探針(CNT401)に対して観察プローブ10および可動アーム20を正確に位置決めすることができ、ナノピンセット1によるCNT401の確実な把持を行うことができる。
【0091】
上述した実施の形態では、シリコン基板を加工してナノピンセットを形成したが、このような形成方法に限らず、種々の形成方法により形成したナノピンセットも本発明のナノピンセット装置に適用できる。ナノピンセットの開閉駆動機構に関しては、熱アクチュエータに限らず、静電アクチュエータなどの種々のものが適用できる。さらに、検出方法に関しても光てこ方式やアドミッタンス検出方式に限らず、種々の方法が可能である。
【0092】
また、別体の探針をナノピンセットで把持してAFM観察を行うので、把持性を高めるために、探針の被把持部分の形状を角柱状にして把持しやすい形状にしたり、滑りにくい形状としたりしても良い。加えて、ナノピンセットの把持部形状を単に平行面とするだけでなく、例えば、探針に応じた形状とする等して把持しやすいようにしても良い。
【0093】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、観察プローブ10および可動アーム20は一対のアームを、駆動レバー23,24は開閉駆動機構を、励振部5は振動手段を、レーザ光源2と2分割フォトダイオード3および第2実施形態におけるアドミッタンス検出器53は検出手段をそれぞれ構成する。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明による走査型プローブ顕微鏡装置の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】ナノピンセット1の主要部を示す図であり、(a)は観察プローブ10と可動アーム20とを示し、(b)は観察プローブ10の探針部を示す。
【図3】観察プローブ10,可動アーム20,駆動レバー23,24および電源部6の拡大図である。
【図4】(a1),(a2)は工程aを説明する図であり、(b1),(b2)は工程bを説明する図であり、(c1),(c2)は工程cを説明する図である。
【図5】マスクAを示す平面図である。
【図6】(a),(b)は、工程dを説明する図である。
【図7】工程dにおけるエッチング前後のウエハ30の断面を示したものであり、(a)は図6のII−II断面図で、(b)は図6のI−I断面図である。
【図8】マスクBを示す平面図である。
【図9】工程eを説明する図であり、(a)はI−I断面図、(b)はII−II断面図である。
【図10】工程fを説明する図であり、(a)はI−I断面図、(b)はII−II断面図である。
【図11】工程fの処理後のウエハ30を示す斜視図である。
【図12】(a1),(a2)は工程gを説明する図であり、(b1)は工程hを説明する図である。
【図13】(a)はマスクCの平面図、(b)はマスクDの平面図である。
【図14】観察プローブの共振周波数を説明する図である。
【図15】複数のCNT401が形成されたCNTカートリッジ400の模式図である。
【図16】(a)はCNT401を検出する工程を説明する図であり、(b)は把持工程を説明する図である。
【図17】(a)ナノピンセット1の反転工程を説明する図であり、(b)はAMF観察工程を示す図である。
【図18】走査型プローブ顕微鏡装置の第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図19】励振部5を説明するブロック図である。
【図20】電気・機械結合系の等価回路を示す図である。
【図21】(a)はアドミッタンス曲線を示す図であり、(b)は(a)の破線で囲まれた部分の拡大図である。
【図22】アドミッタンス検出から信号処理までを説明するブロック図である。
【図23】第3の実施形態を説明する図であり、(a)はナノピンセット1の試料面側を示す平面図であり、(b)、(c)はナノピンセット1の先端部Rの構造を説明する拡大図である。
【図24】アーム201,202による試料Sの把持動作を説明する図であり、(a)は開状態、(b)は閉状態を示す。
【図25】(a)はSOIウエハから分離されたナノピンセット1を示す図であり、(b)はアニール処理後のナノピンセット1を示す図である。
【図26】装置内におけるCNTカートリッジ400の配設姿勢を説明する図である。
【符号の説明】
【0095】
1:ナノピンセット 2:レーザ光源 3:2分割フォトダイオード
4:制御演算部 5:励振部 6,209:電源部
8:3次元ステージ 9:反転駆動機構 10:観察プローブ
12:探針部 20:可動アーム 22:把持部
23,24:駆動レバー 50:櫛歯駆動機構 53:アドミッタンス検出器
100:AFM装置 201,202:アーム 203,204:駆動部
400:CNTカートリッジ 401:CNT
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉駆動機構により開閉自在な一対のアームを備えたナノピンセットと、
前記ナノピンセットに把持される探針と、
前記探針を把持した前記ナノピンセットを所定周波数で振動させる振動手段と、
試料表面との作用に基づく前記アームの振動の変化を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて試料表面形状を演算する演算部とを備えたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記探針としてカーボンナノチューブを用いたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記ナノピンセットに把持された探針の試料表面に対する姿勢を変更する姿勢変更手段を設けたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項4】
請求項3に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記姿勢変更手段は、前記ナノピンセットを180度回転させて上下反転させる反転機構であることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記ナノピンセットは、駆動電圧非印加時が閉状態で、駆動電圧を印加することにより開状態となるように構成されていることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記一対のアームのいずれか一方には探針部が一体に形成されており、
前記振動手段によって前記探針部が形成されたアームの共振周波数で前記ナノピンセットを振動させて、前記探針部により試料表面形状の観察を行うことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記探針の被把持部または前記ナノピンセットの把持部に探針把持性向上部を設けたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置を構成する前記ナノピンセットと、前記振動手段と、前記検出手段とを備えることを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項9】
開閉駆動機構により開閉自在な一対のアームを備えたナノピンセットで探針を把持し、前記探針を把持した前記ナノピンセットを所定周波数で振動させ、試料表面との作用に基づく前記アームの振動の変化を検出し、前記検出手段の検出結果に基づいて試料表面形状を演算し、その演算結果を可視化することを特徴とする試料表面形状観察方法。
【請求項1】
開閉駆動機構により開閉自在な一対のアームを備えたナノピンセットと、
前記ナノピンセットに把持される探針と、
前記探針を把持した前記ナノピンセットを所定周波数で振動させる振動手段と、
試料表面との作用に基づく前記アームの振動の変化を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて試料表面形状を演算する演算部とを備えたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記探針としてカーボンナノチューブを用いたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記ナノピンセットに把持された探針の試料表面に対する姿勢を変更する姿勢変更手段を設けたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項4】
請求項3に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記姿勢変更手段は、前記ナノピンセットを180度回転させて上下反転させる反転機構であることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記ナノピンセットは、駆動電圧非印加時が閉状態で、駆動電圧を印加することにより開状態となるように構成されていることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記一対のアームのいずれか一方には探針部が一体に形成されており、
前記振動手段によって前記探針部が形成されたアームの共振周波数で前記ナノピンセットを振動させて、前記探針部により試料表面形状の観察を行うことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置において、
前記探針の被把持部または前記ナノピンセットの把持部に探針把持性向上部を設けたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の走査型プローブ顕微鏡装置を構成する前記ナノピンセットと、前記振動手段と、前記検出手段とを備えることを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項9】
開閉駆動機構により開閉自在な一対のアームを備えたナノピンセットで探針を把持し、前記探針を把持した前記ナノピンセットを所定周波数で振動させ、試料表面との作用に基づく前記アームの振動の変化を検出し、前記検出手段の検出結果に基づいて試料表面形状を演算し、その演算結果を可視化することを特徴とする試料表面形状観察方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2007−212331(P2007−212331A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33531(P2006−33531)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
[ Back to top ]