説明

走行制御装置および車両

【課題】物体の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両を提供すること。
【解決手段】物体80の衝突回避を行う領域として、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71を設定できるようになっており、車両感覚のつかみやすい方向にある仮想バンパー領域71の外縁71a(外縁71a1〜71a6)ほど、車両1からの距離が短く設定される。これにより、車両感覚のつかみやすい方向に物体80がある場合には、物体80が車両1の近くまで迫った場合に反発力Frが仮想的に車両1に加えられるが、物体80までの距離感をつかみやすいので、安心して運転を行うことができる。また、車両感覚のつかみにくい方向に物体80がある場合には、早めに車両1に加えられた反発力Frを感じることができ、安心して運転を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御装置および車両に関し、特に、物体の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動車椅子などの移動体の周辺に設定した所定領域に何らかの物体(障害物)が存在する場合に、その物体を回避するための反発力が仮想的に移動体に加えられたものとして、移動体の走行を制御することで、その物体との衝突を回避する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−110711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される技術では、物体の衝突回避が行われる前記所定領域として、移動体(電動車椅子1)の外縁から一定距離(規準距離z)離れた地点までの領域を設定している。この技術を車両に適用した場合に、次の問題が生ずるおそれがある。
【0005】
即ち、車両では、該車両を運転する場合に、車両に設けられた運転席の位置や車両の形状によって、運転者から車両感覚をつかみやすい方向と車両感覚がつかみにくい方向とがある。例えば、人間は、自分の位置から遠くある物体ほど、その物体との距離感覚がつかみにくくなる。よって、運転席の位置に近い方向は車両感覚がつかみやすいが、運転席の位置から遠い方法は車両感覚がつかみにくい。
【0006】
ここで、物体の衝突回避が行われる所定領域を広く設定すると、物体が遠くにある段階から反発力が仮想的に車両に加えられる。これにより、車両感覚のつかみにくい方向に物体がある場合には、運転者がその物体と車両との位置関係が把握しにくくても早めに車両に加えられた反発力を感じることができるので、安心して運転できる一方、車両感覚のつかみやすい方向に物体がある場合には、運転者が十分に衝突回避可能と判断できる距離に物体があっても、車両に加えられた反発力を運転者に感じさせてしまう可能性があるので、運転者に違和感を生じさせるおそれがある。
【0007】
また、物体の衝突回避が行われる所定領域を狭く設定すると、物体が近くまで迫った場合に限り反発力が仮想的に車両に加えられる。これにより、車両感覚のつかみやすい方向に物体がある場合には、運転者がその物体と車両との位置関係を容易につかむことができるので、物体の近くでようやく車両に加えられた反発力を感じたとしても、安心して運転できる一方、車両感覚のつかみにくい方向に物体がある場合には、運転者がその物体と車両との位置関係が把握しにくいので、反発力を感じる前に、運転者はその物体に衝突するかもしれないという不安感を覚えてしまうおそれがある。
【0008】
このように、物体の衝突回避が行われる所定領域として、車両の外縁から一定距離離れた地点までの領域を一律に設定すると、その物体の位置によっては運転者に違和感や不安感といったストレスを感じさせるおそれがあるという問題点があった。
【0009】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、物体の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0010】
この目的を達成するために請求項1記載の走行制御装置によれば、検出手段により検出された物体が、領域設定手段により車両の少なくとも進行方向に設定された所定領域内に存在していると、その物体との衝突を回避するための仮想的な反発力が、その物体と車両との位置関係に基づいて算出手段により算出される。そして、その算出された反発力が車両に加えられたものとして、制御手段によって、車両の走行に伴う制御が行われる。これにより、物体が所定領域内に存在すると、その物体との衝突を回避するように反発力が仮想的に車両に加えられ、その反発力に基づいて車両の走行に伴う制御が行われるので、容易に且つ速やかにその物体を回避して車両を走行させることができる。
【0011】
また、車両の少なくとも進行方向に設定される所定領域として、車両の運転者から見て車両感覚がつかみやすい方向における車両から所定領域の外縁までの距離よりも、車両感覚がつかみにくい方向における車両から所定領域の外縁までの距離を長くした領域が、領域設定手段により設定される。これにより、車両感覚のつかみやすい方向に物体がある場合には、車両から所定領域の外縁までの距離が短いので、物体が近くまで迫った場合に反発力が仮想的に車両に加えられる。車両感覚のつかみやすい方向は、運転者がその物体と車両との距離感を容易につかむことができるので、物体の近くでようやく車両に加えられた反発力を感じたとしても、安心して運転を行うことができる。一方、車両感覚のつかみにくい方向に物体がある場合には、車両から所定領域の外縁までの距離が長いので、運転者がその物体と車両との距離感が把握しにくくても、早めに車両に加えられた反発力を感じることができ、安心して運転を行うことができる。よって、物体の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0012】
なお、請求項1記載の「車両感覚」とは、車両の前後左右方向に対する距離感であり、例えば、車両の先端,後端の位置や、右側面,左側面の位置、車幅等を運転者が認識することを含む概念である。また、請求項1記載の「車両の走行に伴う制御」とは、反発力の車両の前後方向成分によって生じる車両の加速度に応じて車両の速度を制御したり、その反発力の車両の左右方向成分によって変化する車両の反モーメント力に応じて車両の操舵角を制御したりするなど、直接的に車両の走行を制御するものを含む概念である。また、「車両の走行に伴う制御」には、車両の走行を直接制御するものだけでなく、例えば、その反発力の車両の左右方向成分によって変化する車両の反モーメント力に応じてステアリングホイール(ハンドル)に力を加え、その加えられた力の方向や大きさによってステアリングホイールを回転操作するように運転者の操作を促す、間接的に車両の走行を制御なものを含む概念である。
【0013】
請求項2記載の走行制御装置によれば、請求項1記載の走行制御装置の効果に加えて、次の効果を奏する。即ち、算出手段によって車両に加えられる反発力を算出する場合に、一端が車両に取着され他端が所定領域の外縁に位置するバネが複数並設されているものと想定し、検出手段により検出された物体であって所定領域内に存在する物体によって、所定領域の外縁に位置していたバネの他端が物体の位置まで縮められるものとして、そのバネに加えられる弾性力を算出する。そして、その弾性力の反作用として車両に加えられる力を反発力とする。これにより、物体が車両に近いほど、所定領域に想定上並設されているバネの一部がその物体によって大きく縮められる。バネの弾性力はバネの縮み量(変化量)が大きいほど大きいので、物体が車両に近いほど、大きな反発力を車両に加えることができる。よって、物体が車両に近いほど大きくなる反発力によって、確実に物体との衝突を回避できるという効果がある。
【0014】
また、所定領域が、車両の少なくとも進行方向に設定される所定領域として、車両の運転者から見て車両感覚がつかみやすい方向よりも車両感覚がつかみにくい方向に車両から所定領域の外縁までの距離が長い領域が、領域設定手段により設定されるので、上記の効果に加え、次の効果を奏する。即ち、車両感覚のつかみやすい方向に物体がある場合に、車両から所定領域の外縁までの距離が長いと、運転者が十分に衝突回避可能と判断できる距離に物体があったとしても、大きな反発力が車両に加えられるおそれがある。これに対し、請求項2記載の走行制御装置では、車両感覚のつかみやすい方向に物体がある場合には、車両から所定領域の外縁までの距離が短いので、運転者が十分に衝突回避可能と判断できる距離に物体がある場合には、反発力が車両に加えられないか、若しくは、小さな反発力が車両に加えられる。よって、運転者に不満感を与えることなく、物体の衝突回避を適切に行うことができる。また、車両感覚のつかみにくい方向に物体がある場合には、車両から所定領域の外縁までの距離が長いので、早くから車両に反発力を加えることができ、その物体が車両に近づくと、より大きな反発力を車両に加えることができる。よって、この場合、運転者がその物体と車両との距離感が把握しにくくても、その反発力を運転者が感じることによって、安心して運転を行うことができる。従って、物体がどの位置にあったとしても、物体との衝突回避を運転者の車両感覚に合わせて適切に行うことができるという効果がある。
【0015】
請求項3記載の走行制御装置によれば、請求項2記載の走行制御装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、算出手段によって車両に加えられる反発力を算出する場合に、その算出手段において想定する複数のバネに対し、自然長の長いバネよりも自然長の短いバネのバネ定数を大きく設定して、車両に加えられる反発力を算出する。これにより、車両感覚のつかみにくい方向に物体がある場合、その方向には自然長が長くバネ定数の小さいバネが想定されるので、そのバネが物体によって縮められたとして算出される弾性力(反発力)は、物体が車両に近づくにつれて少しずつ大きくなる。よって、車両感覚のつかみにくい方向にある物体については、早くから車両に反発力が加えられ、物体が車両に近づくにつれてその反発力が少しずつ大きくなるので、位置関係のつかみにくい物体との衝突回避が確実に行われるだろうとの安心感を運転者に与えることができる。また、車両感覚のつかみやすい方向に物体がある場合、その方向には自然長が短くバネ定数の大きなバネが想定されるので、そのバネが物体によって縮められたとして算出される弾性力(反発力)は、物体が車両に接近するとすぐに大きなものとなる。よって、車両感覚のつかみやすい方向にある物体については、その物体が近くまで迫った場合に反発力が車両に加えられることになるが、更に物体が車両に接近した場合には、大きな反発力でその物体との衝突を回避するよう車両の走行に伴う制御が行われる。従って、この場合には、近くに迫った物体との衝突回避が確実に行われるだろうとの安心感を運転者に与えることができる。その結果、より運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0016】
請求項4記載の走行制御装置によれば、請求項3記載の走行制御装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、算出手段によって車両に加えられる反発力を算出する場合に、その算出手段において想定する複数のバネにおいて、それぞれのバネが所定の限界長さまで縮められた場合にそれぞれのバネで発生する弾性力が略同一の大きさとなるように、それぞれのバネのバネ定数を設定する。これにより、車両感覚のつかみやすい方向と車両感覚のつかみにくい方向とのいずれにも物体が存在する場合、それらの物体がいずれも、それぞれの位置に想定して設けられたバネを所定の限界長さまで縮められる程度に車両に接近していれば、それぞれのバネにおいて略同一の大きさの弾性力が発生し、その弾性力の反作用が反発力として、それぞれ車両に仮想的に加えられる。よって、車両感覚のつかみやすい方向と車両感覚のつかみにくい方向とのいずれにも物体が存在し、それぞれの物体がいずれも車両に最接近しているような場合においては、それぞれの物体を回避するための反発力として略同一の大きさの反発力が、それぞれの物体から車両に対して加えられるので、どちらか一方の物体からの反発力が大きいために他方の物体へと車両が近づいていくことを抑制できる。従って、安全に物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0017】
請求項5記載の車両によれば、請求項1から4のいずれかに記載の走行制御装置が設けられているので、その車両において、対応する請求項に記載の走行制御装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態における車両を模式的に示した模式図である。
【図2】走行制御装置における物体の衝突回避方法を説明する説明図である。
【図3】走行制御装置を含む車両の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】(a)は、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域を模式的に示した模式図であり、(b)は、対称バンパー形状の仮想バンパー領域を模式的に示した模式図である。
【図5】バネ設定テーブルメモリの内容を模式的に示した模式図である。
【図6】(a)は、バネ長の異なる複数のバネを伸縮していない状態で示した図であり、(b)は、(a)で示した複数のバネが限界まで収縮されている状態を示した図であり、(c)は、(a)で示した複数のバネに発生する弾性力を示した図である。
【図7】仮想バンパー処理を示すフローチャートである。
【図8】非対称バンパー処理の一部を示すフローチャートである。
【図9】非対称バンパー処理の一部を示すフローチャートである。
【図10】物体回避処理を示すフローチャートである。
【図11】車両左右方向の反発力が加えられた場合において生じる反モーメント力と、その反モーメントによって取り得るべき車両の操舵角を算出する場合に用いるパラメータを説明する図である。
【図12】(a),(b)は、本発明を適用した仮想バンパー領域の変形例を示す図である。
【図13】本発明を適用した仮想バンパー領域の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である走行制御装置100を有する車両1を模式的に示した模式図である。
【0020】
まず、図1を参照して、車両1の構成について説明する。車両1は、その車両1の周囲に物体が存在する場合に、その物体の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるように構成されている。
【0021】
なお、図1において、矢印Fによって示される方向が車両1の前方向を示している。この矢印Fは、図4,図11,図12、図13においても同様に、矢印Fによって示される方向を車両1の前方向として示している。また、以下の説明において、車両1が矢印F方向に進行する場合を「前進」、車両1が矢印F方向とは逆方向に進行する場合を「後退」と称す。
【0022】
走行制御装置100は、車両1の走行を制御するコンピュータ装置である。この走行制御装置100によって、車両1の周囲に物体が存在する場合に、その物体の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避が行われる。
【0023】
ここで、図2を参照して、走行制御装置100における物体の衝突回避の方法について、その概略を説明する。図2は、走行制御装置100における物体の衝突回避方法を説明する説明図である。
【0024】
走行制御装置100は、車両1の進行方向となり得る前方向と後方向に、衝突を避けるべき物体を検出する領域として、仮想バンパー領域71を設定(形成)する。なお、詳細については後述するが、本実施形態では、仮想バンパー領域71の形状として、図2のような扇形をした「対称バンパー形状」の他に、図4(a)に示した「非対称バンパー形状」が用意されており、運転者の設定に従って、いずれかの形状の仮想バンパー領域71が設定される。
【0025】
走行制御装置100は、その仮想バンパー領域71に、複数のバネ72を仮想的に並設することで、仮想バンパーを構成することを想定する。このとき、バネ72は、いずれも、一端を、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸(後述する前輪2FL,2FRを結んだ直線)との交点Pf、又は、車両1中央の前後軸と車両1の後輪軸(後述する後輪2RL,2RRを結んだ直線)との交点Prの位置に取着した状態で、他端が仮想バンパー領域71の外縁71aに位置するように、衝突回避物体領域71に並設されることを、走行制御装置100にて想定する。
【0026】
走行制御装置100は、車両1に設けられた後述の第1カメラ26a,第2カメラ26b(図1参照)によって取得された画像から、車両1の周辺にある物体の位置を判断し、以下に従って、その物体80との衝突を回避するための反発力Frを算出する。
【0027】
即ち、走行制御装置100は、仮想バンパー領域71内に仮想的に並設されたバネ72のうち、物体80の存在によって収縮されたバネ72aを検索する。そして、収縮されたバネ72aがある場合、仮想バンパー領域71内に物体80が存在するとして、そのバネ72aの収縮量dを物体80と車両1との位置関係から判断し、その収縮量dに基づいて、バネ72aに生じる弾性力Feを以下の式(1)により算出する。なお、以下の式(1)において、knはバネ72aのバネ定数である。
【0028】
Fe=kn×d ・・・(1)
走行制御装置100は、弾性力Feの反作用として、車両1の交点Pf又は交点Prに、反発力Frが加えられるものとする。すなわち、車両1の交点Pf,Prが、車両1に加えられる反発力の作用点Pf,Prとなる。
【0029】
走行制御装置100は、作用点Pfに加えられた反発力Fr(以下「反発力Frf」と称す)を、車両1の前後方向の反発力Frfyと、車両1の左右方向の反発力Frfxとに分解する。また、作用点Prに加えられた反発力Fr(以下「反発力Frr」と称す)を、車両1の前後方向の反発力Frryと、車両1の左右方向の反発力Frrxとに分解する。
【0030】
そして、走行制御装置100は、前進時、作用点Pfに加えられた前後方向の反発力Frfyに基づいて、その反発力Frfyによって生じる車両1の加速度を算出し、後進時、作用点Prに加えられた前後方向の反発力Frfyに基づいて、その反発力Frryによって生じる車両1の加速度を算出する。
【0031】
走行制御装置100には、車両1に設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量に関する情報も入力される。走行制御装置100は、現在の車両1の速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量と、前後方向の反発力Frfy又はFrryによって生じる車両1の加速度とから、目標とすべき車両速度を決定し、その目標とすべき車両速度を示す制御信号を、後述する車輪駆動装置3(図1参照)へ送信する。これにより、車両1が、前後方向の反発力Frfy又はFrryによって生じる車両1の加速度を反映させた速度で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。
【0032】
また、走行制御装置100は、前進時、作用点Pfに加えられた左右方向の反発力Frfxに基づいて、その左右方向の反発力Frfxによって生じる車両1の反モーメント力を算出し、後進時、作用点Prに加えられた左右方向の反発力Frrxに基づいて、その左右方向の反発力Frrxによって生じる車両1の反モーメント力を算出する。そして、その算出した反モーメント力に応じて車両1の操舵角を算出して、その操舵角を示す制御信号を、後述する操舵駆動装置5(図1参照)へ送信する。これにより、車両1が、左右方向の反発力Frfx又はFrrxによって生じる反モーメント力を反映させた操舵角で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。
【0033】
このように、走行制御装置100は、仮想バンパー領域71内に存在する物体との衝突を回避するために、仮想的に並設したバネ72の一部(バネ72a)が物体80によって収縮されたものとし、そのバネ72aの弾性力Feを算出して、その反作用として反発力Frが車両1に加えたものとすることで、その反発力Frに基づいて、車両1の速度や操舵角を制御する。これにより、容易に且つ速やかに、その物体80を回避しながら車両1を走行させることができる。
【0034】
また、物体80が車両1に近いほど、仮想バンパー領域71内に想定上並設されているバネ72の一部(バネ72a)がその物体80によって大きく縮められる。バネの弾性力Feはバネの収縮量(縮み量)が大きいほど大きいので、物体80が車両1に近いほど、大きな反発力Frを車両1に加えることができる。よって、物体80が車両1に近いほど大きくなる反発力Frにより、確実に物体80との衝突を回避できる。
【0035】
なお、走行制御装置100には、車両1に設けられ、運転者によって回転操作される後述のステアリングホイール13(図1参照)から、ステアリングホイール13の回転角速度を示す情報も入力されている。反力Frが車両1に仮想的に加えられていない場合、即ち、仮想バンパー領域71内に物体が存在しない場合には、走行制御装置100は、ステアリングホイール13の回転角速度を積分して得られるステアリングホイール13の操舵角に応じて車両1の操舵角を決定し、その操舵角を示す制御信号を操舵駆動装置5へ送信する。
【0036】
図1に戻って、車両1の構成について説明を続ける。車両1は、走行制御装置100の他に、複数(本実施形態では4輪)の車輪2FL,2FR,2RL,2RRと、それら複数の車輪2FL〜2RRの内の一部(本実施形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、複数の車輪2FL〜2RRの内の一部(本実施形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置6および操舵駆動装置5と、運転者から車両1の操舵方向の指示を受け付けるステアリングホイール13と、車両1を始動するためのイグニッションスイッチ(スタータースイッチとも称す)24と、車両1の前方を撮像する第1カメラ26aと、車両1の後方を撮像する第2カメラ26bと、運転者(当業者)からの操作を受け付ける操作パネル25と、を主に有している。
【0037】
車輪2FL,2FRは、車両1の前方側に配置される左右の前輪であり、車輪駆動装置3によって回転駆動される駆動輪として構成されている。一方、車輪2RL,2RRは、車両1の後方側に配置される左右の後輪であり、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。
【0038】
車輪駆動装置3は、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与するものであり、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。車輪駆動装置3は、走行制御装置100から通知された、目標とすべき車両速度を示す制御信号に基づき、ドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する。これにより、車両1は、走行制御装置100から通知された車両速度に応じた速度で走行する。
【0039】
なお、車輪駆動装置3は、走行制御装置100から、その走行制御装置100によって算出された反発力Fr(Frf又はFrr)の車両1の前後方向の反発力Frfy又はFrryによって生じる車両1の加速度を示す制御信号を受け取り、その車両1の加速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量と、現在の車両1の速度とから目標とすべき車両速度を算出して、その未来表とすべき車両速度となるように、ドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与してもよい。
【0040】
操舵駆動装置5は、左右の前輪2FL,2FRを操舵するための装置であり、ステアリング装置6に回転駆動力を付与する電動モータ5a(図3参照)を備えて構成されている。ステアリング装置6は、ステアリングシャフト61と、フックジョイント62と、ステアリングギヤ63と、タイロッド64と、ナックルアーム65とを主に備えて構成されている。なお、ステアリング装置6は、ステアリングギヤ63がピニオン(図示せず)とラック(図示せず)とを備えたラックアンドピニオン機構によって構成されている。
【0041】
操舵駆動装置5は、走行制御装置100から車両1の操舵角を示す制御信号を受信すると、その操舵角に応じて電動モータ5aを駆動し、電動モータ5aの回転駆動力がステアリング装置6のステアリングシャフト61に付与される。その回転駆動力は、ステアリングシャフト61を介してフックジョイント62に伝達されると共にフックジョイント62によって角度を変えられ、ステアリングギヤ63のピニオンに回転運動として伝達される。そして、ピニオンに伝達された回転運動はラックの直線運動に変換され、ラックが直線運動することで、ラックの両端に接続されたタイロッド64が移動し、ナックルアーム65を介して前輪2FL,2FRが操舵される。これにより、車両1は、走行制御装置100から指示された操舵角で、前輪2FL,2FRが操舵される。
【0042】
ステアリングホイール13は、車両1の搭乗者から回転操作されることで、車両1の操舵方向の指示を受け付けるものである。ステアリングホイール13は、搭乗者によって回転操作されると、その回転角速度を走行制御装置100へ送信する。なお、ステアリングホイール13は、搭乗者によって回転操作された回転角を走行制御装置100へ送信してもよい。そして、走行制御装置100が、ステアリングホイール13から取得した回転角を微分して、回転角速度を算出してもよい。
【0043】
イグニッションスイッチ24は、車両1を始動するために運転者により操作されるスイッチである。車両1が非稼働状態にある場合に、イグニッションスイッチ24が運転者によって操作されると、車両1に搭載されたバッテリ(図示せず)から車両1の各種装置に電力が供給され、それぞれの装置にて動作可能な状態とする初期化処理等が行われる。そして、初期化処理等が終了した後、車両1が稼働状態、即ち、走行可能な状態となる。
【0044】
なお、詳細については後述するが、走行制御装置100にて行われる上述の仮想バンパー領域71(図2参照)の設定(形成)は、走行制御装置100において、イグニッションスイッチ24が操作されたことを契機として行われる初期化処理の中で実行される。
【0045】
操作パネル25は、走行制御装置100における衝突回避動作に関する各種設定を含め、車両1の走行に拘わる各種設定を、運転者(搭乗者)から受け付けるためのものである。操作パネル25は、タッチパネルによって構成され、走行制御装置100からの制御によって、各種設定に対応した画像が操作パネル25の表示画面に表示される。運転者(搭乗者)が、この表示画面に表示された画像に基づいて操作パネル25のタッチパネルの操作面を指や指示棒等で触れると、その触れられた位置情報が操作パネル25から走行制御装置100へ送信される。走行制御装置100は、その位置情報に基づいて、運転者(搭乗者)の操作内容を判断し、その操作内容に基づいて、車両1の走行に拘わる各種の設定を行う。
【0046】
第1カメラ26a,第2カメラ26bは、車両1の前方または後方を撮像するための撮像装置であり、CCDイメージセンサや、CMOSイメージセンサなどの撮像素子が搭載されたデジタルカメラで構成されている。第1カメラ26aは、車両1の前方中央に配設され、第2カメラ26bは、車両1の後方中央に配設されている。本実施形態では、第1カメラ26aにより、車両1を中心として車両1の少なくとも前方方向15mの範囲を撮像可能に構成され、第2カメラ26bにより、車両1を中心として車両1の少なくとも後方方向15mの範囲を撮像可能に構成されている。なお、第1カメラ26a及び第2カメラ26bによって撮像可能な範囲は、適宜設定されるものであってよい。
【0047】
各第1,第2カメラ26a,bは、撮像した画像を画像データに変換して走行制御装置100へ出力する。走行制御装置100へ出力された画像データは、その走行制御装置100によって解析され、車両1の周囲に存在する物体と、車両1を基準としたその物体の位置とが検出される。そして、検出された物体の位置から、仮想バンパー領域71内に物体が存在するか否かが判断される。また、仮想バンパー領域71内に物体が存在する場合には、走行制御装置100において、その物体の位置から収縮されるバネ72a(図2参照)が検索され、そのバネ72aにかかる弾性力が算出されて、車両1に加えられる反発力が求められる。
【0048】
次いで、図3を参照して、走行制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、走行制御装置100を含む車両1の電気的構成を示したブロック図である。
【0049】
走行制御装置100は、CPU91、フラッシュメモリ92及びRAM93を有しており、それらがバスライン94を介して入出力ポート95に接続されている。入出力ポート95には、上述した、車輪駆動装置3,操舵駆動装置5、ステアリングホイール13、操作パネル25、第1カメラ26a、第2カメラ26b、及び、その他の入出力装置99などが接続されている。
【0050】
CPU91は、入出力ポート95に接続されたステアリングホイール13、操作パネル25、第1カメラ26a、第2カメラ26b等から送信された各種の情報に基づいて、車輪駆動装置3や操舵駆動装置5等を制御する演算装置である。
【0051】
フラッシュメモリ92は、CPU91によって実行される制御プログラムや固定値データ等を記憶するための書き換え可能な不揮発性のメモリである。このフラッシュメモリ92には、プログラムメモリ92a、非対称バンパーフラグ92b、右前コーナー半径メモリ92c、左前コーナー半径メモリ92d、右後コーナー半径メモリ92e、左後コーナー半径メモリ92f、及び、通常バネ長メモリ92gが設けられている。
【0052】
プログラムメモリ92aは、CPU91にて実行される各種のプログラムが格納されたフラッシュメモリ92上の領域である。後述する図7のフローチャートに示す仮想バンパー設定処理、図8,図9のフローチャートに示す非対称バンパー設定処理、図11のフローチャートに示す物体回避処理をCPU91にて実行されるための各プログラムは、このプログラムメモリ92aに格納されている。CPU91は、このプログラムメモリ92aに格納された各プログラムに従って各種処理を実行することで、車両1の周囲に物体が存在する場合に、その物体の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うよう、車両1の走行を制御する。
【0053】
非対称バンパーフラグ92bは、車両1の進行方向となり得る前方向と後方向に、衝突を避けるべき物体を検出する領域として設定(形成)する上述の仮想バンパー領域71の形状を、「非対称バンパー形状」とするか、「対称バンパー形状」とするかを示すフラグである。この非対称バンパーフラグ92bは、オンの場合に、仮想バンパー領域71の形状を「非対称バンパー形状」とすることを示し、オフの場合に、仮想バンパー領域71の形状を「対称バンパー形状」とすることを示す。
【0054】
イグニッションスイッチ24が操作されて走行制御装置100に電力が供給された場合に実行される初期化処理の中で、CPU91は、図7のフローチャートに示す仮想バンパー設定処理を実行するが、その仮想バンパー設定処理において、非対称バンパーフラグ92bは参照される。そして、その非対称バンパーフラグ92bで示される形状で、仮想バンパー領域71が設定(形成)される。
【0055】
非対称バンパーフラグ92bは、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作することで「オン」と「オフ」のいずれかが設定される。つまり、運転者(搭乗者)が、仮想バンパー領域71の形状を「非対称バンパー形状」と「対称バンパー形状」とから選択できるようになっている。非対称バンパーフラグ92bの設定が運転者(搭乗者)によって変更されると、その設定変更が行われたことを契機として、再び図7のフローチャートに示す仮想バンパー設定処理がCPU91によって実行され、運転者(搭乗者)によって設定された非対称バンパーフラグ92bで示される形状で仮想バンパー領域71が再設定(再形成)される。
【0056】
なお、車両1の工場出荷時、若しくは、走行制御装置100の工場出荷時には、非対称バンパーフラグ92bは、初期値として「オン」が設定される。これにより、運転者(搭乗者)が非対称バンパーフラグ92bの設定を変更しないかぎり、「非対称バンパー形状」の仮想バンパー領域71が設定(形成)されることになる。
【0057】
右前コーナー半径メモリ92cは、仮想バンパー領域71の一形状である「非対称バンパー形状」を規定するパラメータである右前コーナー半径Rfrを格納するメモリである。左前コーナー半径メモリ92dは、仮想バンパー領域71の「非対称バンパー形状」を規定するパラメータであ左前コーナー半径Rflを格納するメモリである。
【0058】
右後コーナー半径メモリ92eは、仮想バンパー領域71の「非対称バンパー形状」を規定するパラメータである右後コーナー半径Rrrを格納するメモリである。左後コーナー半径メモリ92fは、仮想バンパー領域71の「非対称バンパー形状」を規定するパラメータである左後コーナー半径Rrlを格納するメモリである。
【0059】
ここで、図4(a)を参照して、「非対称バンパー形状」の仮想バンパー領域71と、その非対称バンパー形状を規定するパラメータである右前コーナー半径Rfr,左前コーナー半径Rfl,右後コーナー半径Rrr,左後コーナー半径Rrlとを説明する。図4(a)は、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71を模式的に示した模式図である。
【0060】
仮想バンパー領域71は、車両1の前方向に設定される前方仮想バンパー領域71Fと、車両1の後方向に設定される後方仮想バンパー領域71Fとによって構成される。非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71では、線分PfA,円弧AB,直線BC,円弧BD,線分DPfによって囲まれた領域を、前方仮想バンパー領域71Fとして設定され、線分PrE,円弧EF,線分FG,円弧GH,線分HPrによって囲まれた領域を、後方仮想バンパー領域71Rとして設定される。ここで、点Pf,Prは、上述した反発力Frの作用点であり、作用点Pfは車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点に位置し、作用点Prは車両1中央の前後軸と車両1の後輪軸との交点に位置する。
【0061】
円弧ABは、車両1の右前コーナーを中心とし、右前コーナー半径メモリ92cに格納されている右前コーナー半径Rfrを半径として規定される円弧であり、線分PfAと前輪軸とのなす角度がαfrとなるように点Aの位置を定め、線分PfBと前輪軸とのなす角度がβfrとなるように点Bの位置を定めている。走行制御装置100では、この円弧ABを、前方仮想バンパー領域71Fの第1外縁71a1として設定する。
【0062】
なお、αfrは設計段階で任意に設定される値であってよい。また、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作して、αfrの設定を変更可能に構成してもよい。βfrは、βfr=tan−1((Rfr+Lf2)/(W/2))によって算出される角度、即ち、車両1の右側面を車両1の前方へ伸ばしたところに点Bが位置する角度とする。ここで、Lf2は、作用点Pfから車両1の前方先端までの距離であり、Wは、車両1の車幅である。ただし、αfrと同様に、設計段階で任意に設定される値であってもよいし、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作して、βfrの設定を変更可能に構成してもよい。
【0063】
円弧CDは、車両1の左前コーナーを中心とし、左前コーナー半径メモリ92dに格納されている左前コーナー半径Rflを半径として規定される円弧であり、線分PfCと前輪軸とのなす角度がβflとなるように点Cの位置を定め、線分PfDと前輪軸とのなす角度がαflとなるように点Dの位置を定めている。走行制御装置100では、この円弧CDを、前方仮想バンパー領域71Fの第3外縁71a3として設定する。
【0064】
なお、αflは設計段階で任意に設定される値であってよい。また、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作して、αflの設定を変更可能に構成してもよい。βflは、βfl=tan−1((Rfl+Lf2)/(−W/2))によって算出される角度、即ち、車両1の左側面を車両1の前方へ伸ばしたところに点Cが位置する角度とする。ただし、αflと同様に、設計段階で任意に設定される値であってもよいし、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作して、βflの設定を変更可能に構成してもよい。
【0065】
線分BCは、円弧ABの点Bと、円弧CDの点Cとを結んだ線分である。走行制御装置100では、この線分BCを、前方仮想バンパー領域71Fの第2外縁71a2として設定する。
【0066】
円弧EFは、車両1の左後コーナーを中心とし、左後コーナー半径メモリ92fに格納されている右前コーナー半径Rrlを半径として規定される円弧であり、線分PrEと後輪軸とのなす角度がαrlとなるように点Eの位置を定め、線分PrFと後輪軸とのなす角度がβrlとなるように点Fの位置を定めている。走行制御装置100では、この円弧EFを、後方仮想バンパー領域71Rの第4外縁71a4として設定する。
【0067】
なお、αrlは設計段階で任意に設定される値であってよい。また、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作して、αrlの設定を変更可能に構成してもよい。βrlは、βrl=tan−1(−(Rrl+Lr)/(−W/2))によって算出される角度、即ち、車両1の左側面を車両1の後方へ伸ばしたところに点Fが位置する角度とする。ここで、Lrは、作用点Prから車両1の後端までの距離である。ただし、αrlと同様に、設計段階で任意に設定される値であってもよいし、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作して、βrlの設定を変更可能に構成してもよい。
【0068】
円弧GHは、車両1の右後コーナーを中心とし、右後コーナー半径メモリ92eに格納されている左前コーナー半径Rrrを半径として規定される円弧であり、線分PrGと前輪軸とのなす角度がβrrとなるように点Gの位置を定め、線分PrHと前輪軸とのなす角度がαrrとなるように点Gの位置を定めている。走行制御装置100では、この円弧GHを、後方仮想バンパー領域71Rの第6外縁71a6として設定する。
【0069】
なお、αrrは設計段階で任意に設定される値であってよい。また、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作して、αrrの設定を変更可能に構成してもよい。βrrは、βrr=tan−1(−(Rrr+Lr)/(W/2))によって算出される角度、即ち、車両1の右側面を車両1の後方へ伸ばしたところに点Gが位置する角度とする。ただし、αrrと同様に、設計段階で任意に設定される値であってもよいし、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作して、βrrの設定を変更可能に構成してもよい。
【0070】
線分FGは、円弧EFの点Fと、円弧GHの点Gとを結んだ線分である。走行制御装置100では、この線分FGを、後方仮想バンパー領域71Rの第5外縁71a5として設定する。
【0071】
ここで、車両1の運転位置が前方右側である場合(即ち、車両1が右ハンドルの車両である場合)、運転者は、右前方が左前方よりも車両感覚をつかみやすく、右後方が左後方よりも車両感覚をつかみやすい。また、右前方が右後方よりも車両感覚をつかみやすく、左前方が左後方よりも車両感覚をつかみやすい。
【0072】
そこで、走行制御装置100では、右前コーナー半径Rfrよりも左前コーナー半径Rflが長くなるように、右後コーナー半径Rrrよりも左後コーナー半径Rrlが長くなるように、右前コーナー半径Rfrよりも右後コーナー半径Rrrが長くなるように、左前コーナー半径Rflよりも左後コーナー半径Rflが長くなるように、それぞれの半径を、車両1の工場出荷時、又は、走行制御装置100の工場出荷時に、対応する右前コーナー半径メモリ92c、左前コーナー半径メモリ92d、右後コーナー半径メモリ92e、左後コーナー半径メモリ92fに格納している。
【0073】
これにより、車両感覚のつかみやすい方向にある仮想バンパー領域71の外縁71a(外縁71a1〜71a6)ほど、車両1からの距離が短く設定される。これにより、車両感覚のつかみやすい方向に物体80(図2参照)がある場合には、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が短いので、物体80が車両1の近くまで迫った場合に反発力Frが仮想的に車両1に加えられる。車両感覚のつかみやすい方向は、運転者がその物体80と車両1との距離感を容易につかむことができるので、物体80の近くでようやく車両1に加えられた反発力Frを運転者が感じたとしても、安心して運転を行うことができる。一方、車両感覚のつかみにくい方向に物体80がある場合には、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が長いので、運転者がその物体80と車両1との距離感が把握しにくくても、早めに車両1に加えられた反発力Frを感じることができ、安心して運転を行うことができる。よって、物体80の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0074】
なお、右前コーナー半径メモリ92c,左前コーナー半径メモリ92d,右後コーナー半径メモリ92e、左後コーナー半径メモリ92fに格納されている右前コーナー半径Rfr,左前コーナー半径Rfl,右後コーナー半径Rrr、左後コーナー半径Rrlの値は、それぞれ、非対称バンパーフラグ92bがオンであり、仮想バンパー領域71の形状が非対称バンパー形状に設定されている場合に、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作することで変更可能である。ただし、これらの変更は、必ず、右前コーナー半径Rfrよりも左前コーナー半径Rflが長くなる範囲で、右後コーナー半径Rrrよりも左後コーナー半径Rrlが長く範囲で、右前コーナー半径Rfrよりも右後コーナー半径Rrrが長くなる範囲で、左前コーナー半径Rflよりも左後コーナー半径Rflが長くなる範囲で行われるように、設定可能な値を制限している。
【0075】
また、車両1の左前方向と右後後方とを比較した場合、それぞれの車両感覚のつかみやすさは運転者によって異なる場合がある。本実施形態では、車両1の工場出荷時、又は、走行制御装置100の工場出荷時に、便宜上、左前コーナー半径Rflよりも右後コーナー半径Rrrが長くなるように、それぞれの半径を対応する左前コーナー半径メモリ92d、右後コーナー半径メモリ92eに格納している。
【0076】
ただし、左前コーナー半径Rflと右後コーナー半径Rrrとの関係では、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作することによって、右後コーナー半径Rrrよりも左前コーナー半径Rflが長く設定されることを許可している。これにより車両1の左前方向よりも右後方向の距離感がつかみやすい運転者に対しても、安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0077】
右前コーナー半径メモリ92c,左前コーナー半径メモリ92d,右後コーナー半径メモリ92e、左後コーナー半径メモリ92fに格納されている右前コーナー半径Rfr,左前コーナー半径Rfl,右後コーナー半径Rrr、左後コーナー半径Rrlのいずれかの設定が変更されると、その設定変更が行われたことを契機として、再び図7のフローチャートに示す仮想バンパー設定処理がCPU91によって実行され、運転者(搭乗者)によって設定された右前コーナー半径Rfr,左前コーナー半径Rfl,右後コーナー半径Rrr、左後コーナー半径Rrlを用いて、仮想バンパー領域71が再設定(再形成)される。
【0078】
図3に戻って、説明を続ける。対称バンパー半径メモリ92gは、仮想バンパー領域71の一形状である「対称バンパー形状」を規定するパラメータである対称バンパー半径Rsを格納するメモリである。
【0079】
ここで、図4(b)を参照して、「対称バンパー形状」の仮想バンパー領域71と、その対称バンパー形状を規定するパラメータである対称バンパー半径Rsとを説明する。図4(b)は、対称バンパー形状の仮想バンパー領域71を模式的に示した模式図である。
【0080】
対称バンパー形状の仮想バンパー領域71では、車両1の前方向に設定された扇形の領域を前方仮想バンパー領域71Fとして設定し、車両1の後方向に設定された扇形の領域を後方仮想バンパー領域71Rとして設定する。
【0081】
前方仮想バンパー領域71Fは、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点に位置し、前方仮想バンパー領域71F内の物体80の存在によって加えられる反発力Frの作用点Pfを中心とし、対称バンパー半径メモリ92gに格納されている対称バンパー半径Rsを半径として規定される扇形であり、その扇形を構成する線分PfIと前輪軸とのなす角度がαf1となるように点Iの位置を定め、扇形を構成する線分PfJと前輪軸とのなす角度がαf2となるように点Jの位置を定めている。走行制御装置100では、この扇形の円弧IJを、前方仮想バンパー領域71Fの第1外縁71a7として設定する。
【0082】
後方仮想バンパー領域71Rは、車両1中央の前後軸と車両1の後輪軸との交点に位置し、後方仮想バンパー領域71R内の物体80の存在によって加えられる反発力Frの作用点Prを中心とし、対称バンパー半径メモリ92gに格納されている対称バンパー半径Rsを半径として規定される扇形であり、その扇形を構成する線分PrKと後輪軸とのなす角度がαr1となるように点Kの位置を定め、扇形を構成する線分PfMと後輪軸とのなす角度がαr2となるように点Mの位置を定めている。走行制御装置100では、この扇形の円弧KMを、後方仮想バンパー領域71Rの第1外縁71a8として設定する。
【0083】
対称バンパー半径メモリ92gに格納されている対称バンパー半径Rsの値は、非対称バンパーフラグ92bがオフであり、仮想バンパー領域71の形状が対称バンパー形状に設定されている場合に、運転者(搭乗者)が操作パネル25を操作することで変更可能である。対称バンパー半径メモリ92gの対称バンパー変形Rsの設定が変更されると、その設定変更が行われた時点で、再び図7のフローチャートに示す仮想バンパー設定処理がCPU91によって実行され、運転者(搭乗者)によって設定された対称バンパー変形Rsを用いて、仮想バンパー領域71が再設定(再形成)される。
【0084】
図3に戻り説明を続ける。RAM93は、書き換え可能な揮発性のメモリであり、CPU91によって実行される制御プログラムの実行時に各種のデータを一時的に記憶するためのメモリである。RAM93には、バネ設定テーブルメモリ93aが設けられている。
【0085】
バネ設定テーブルメモリ93aは、仮想バンパー領域71に仮想的に並設した複数のバネ72に関する情報を記憶するメモリである。ここで、図5を参照して、バネ設定テーブルメモリ93aの詳細について説明する。図5は、バネ設定テーブルメモリ93aの内容を模式的に示した模式図である。
【0086】
走行制御装置100(CPU91)は、仮想バンパー領域71を設定(形成)すると、その仮想バンパー領域71内に複数のバネ72を仮想的に並設する。その並設されたバネ72の情報として、図5に示す通り、バネ72毎に、バネ72の識別情報であるバネ番号nに対応付けて、そのバネ番号nで示されるバネの取付角度αnと、外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnと、バネ定数knとを格納する。
【0087】
ここで、前方仮想バンパー領域71Fにおいては、その形状が非対称バンパー形状および対称バンパー形状のいずれであっても、作用点Pfから0.5度間隔で放射状に前方仮想バンパー領域71F内に複数のバネ72が配設される。つまり、各バネ72は、一端が作用点Pfに接続され、0.5度の間隔をおきながら、他端が前方仮想バンパー領域71Fの外縁71a(非対称バンパー形状の場合は71a1〜71a3、対称バンパー形状の場合は71a7)に位置するように、配設される。
【0088】
また、後方仮想バンパー領域71Rにおいては、その形状が非対称バンパー形状および対称バンパー形状のいずれであっても、作用点Prから0.5度間隔で放射状に後方仮想バンパー領域71R内に複数のバネ72が配設される。つまり、各バネ72は、一端が作用点Prに接続され、0.5度の間隔をおきながら、他端が後方仮想バンパー領域71Rの外縁71a(非対称バンパー形状の場合は71a4〜71a6、対称バンパー形状の場合は71a8)に位置するように、配設される。
【0089】
バネ番号nは、並設されたバネ1本1本を識別するための情報である。前方仮想バンパー領域71Fの一番右側に配設されたバネ(非対称バンパー形状の場合は線分PfAに配設されたバネ、対称バンパー形状の場合は線分PfIに配設されたバネ)のバネ番号nを1とする。そして、前方仮想バンパー領域71Fに配設された各バネについては、右側から左側に向けて順にバネ番号nを1ずつ大きくする。
【0090】
また、前方仮想バンパー領域71Fの一番左側に配設されたバネのバネ番号nをnrとした場合、続いて、後方仮想バンパー領域71Rの一番左側に配設されたバネ(非対称バンパー形状の場合は線分PrEに配設されたバネ、対称バンパー形状の場合は線分PrKに配設されたバネ)のバネ番号nをnr+1とする。そして、後方仮想バンパー領域71Rに配設された各バネについては、左側から右側に向けて順にバネ番号nを1ずつ大きくする。
【0091】
取付角度αnは、バネ番号nのバネ72の車両1に対する取付角度を示すものである。ここでは、車両1中央の前後軸から車両1の右方向に伸びる半直線と、各バネ72の一端と他端とを結んだ直線とのなす角度を取付角度αnとして規定する。つまり、前方仮想バンパー領域71Fにおいては、作用点Pfにおいて、その作用点Pfから車両1の右方向に伸びる半直線と、各バネ72の一端と他端とを結んだ直線とのなす角度を取付角度αnとしている。また、前方仮想バンパー領域71Fにおいては、作用点Pfにおいて、その作用点Pfから車両1の右方向に伸びる半直線と、各バネ72の一端と他端とを結んだ直線とのなす角度を取付角度αnとしている。
【0092】
外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnは、バネ番号nのバネ72における他端、つまり、仮想バンパー領域71の外郭に位置する他端の座標を示すものである。本実施形態では、車両1中央の前後軸をY軸(車両1の前方向、即ち、矢印Fで示す方向を正方向)とし、車両1の後輪軸(後輪2RL,2RRを結んだ直線)をX軸(車両1の右方向を正方向)として、X軸とY軸との交点となる作用点Prを原点とした所謂車両座標系で、外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnを表す。
【0093】
バネ長Lvbnは、バネ番号nのバネ72の自然長(バネ72を伸縮させない状態におけるバネ72の長さ)を示すものである。対称バンパー形状の仮想バンパー領域71に並設されたバネ72については、図4(b)に示す通り、すべてのバネ72において、対称バンパー半径メモリ92gに格納された対称バンパー半径Rsがバネ長Lvbnとなる。
【0094】
一方、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71に並設されたバネ72については、バネ72毎にバネ長Lvbnが異なるため、以下のように各バネ72のバネ長Lvbnを算出する。即ち、前方仮想バンパー領域71F内に配設されたバネ72のバネ長Lvbnは、バネ72の一端が接続される作用点Pfと、バネ72の他端が位置する外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnで示される点との距離によって算出される。また、後方仮想バンパー領域71R内に配設されたバネ72のバネ長Lvbnは、バネ72の一端が接続される作用点Prと、バネ72の他端が位置する外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnで示される点との距離によって算出される。
【0095】
ここで、上述した通り、車両感覚のつかみやすい方向にある仮想バンパー領域71の外縁71a(外縁71a1〜71a6)ほど、車両1からの距離が短く設定される。これにより、車両間隔のつかみにくい方向には、バネ長Lvbnの長いバネ72が設けられることになり、車両間隔のつかみやすい方向には、バネ長Lvbnの短いバネ72が設けられることになる。
【0096】
ここで、車両感覚のつかみやすい方向に物体80がある場合に、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が長く、バネ長Lvbnの長いバネ72が設定されると、運転者が十分に衝突回避可能と判断できる距離に物体80があったとしても、大きな反発力Frが車両に加えられるおそれがある。これに対し、車両感覚のつかみやすい方向に物体80がある場合には、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が短く、バネ長Lvbnの短いバネ72が設定されるので、運転者が十分に衝突回避可能と判断できる距離に物体80がある場合には、反発力Frが車両に加えられないか、若しくは、小さな反発力Frが車両に加えられる。よって、運転者に不満感を与えることなく、物体80の衝突回避を適切に行うことができる。
【0097】
また、車両感覚のつかみにくい方向に物体80がある場合には、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が長く、バネ長Lvbnの長いバネ72が設定されるので、早くから車両1に反発力Frを加えることができ、その物体80が車両1に近づくと、より大きな反発力Frを車両1に加えることができる。よって、この場合、運転者がその物体80と車両1との距離感が把握しにくくても、その反発力Frを運転者が感じることによって、安心して運転を行うことができる。従って、物体80がどの位置にあったとしても、物体80との衝突回避を運転者の車両感覚に合わせて適切に行うことができる。
【0098】
バネ定数knは、バネ番号nのバネ72のバネ定数を示すものである。対称バンパー形状の仮想バンパー領域71に並設されたバネ72については、すべてのバネ72において、バネ定数knを一定の大きさ(例えば、100N/m)とする。
【0099】
一方、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71に並設されたバネ72については、各バネ72のバネ長Lvbnの大きさに応じて異なるバネ定数knを設定し、バネ番号nのバネ72について設定したバネ定数knの大きさを、そのバネ番号nに対応付けて、バネ設定テーブルメモリ93aに格納する。
【0100】
ここで、図6を参照して、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71に並設されたバネ72のバネ定数kvbnの算出方法について説明する。まず、図6(a)は、バネ長Lvbnの異なる複数のバネ72(ここでは、代表してバネ番号n1及びn2のバネ)を伸縮していない状態で示した図であり、図6(b)は、図6(a)で示した複数のバネ72が限界まで収縮されている状態を示した図である。また、図6(a),(b)には、仮想的に設定されたバネ72とは別に、バネ定数knを決定するための基準となるバネ(以下「基準バネ」と称す)を示している。基準バネのバネ長をLvbbaseとし、基準バネのバネ定数をkbaseとする。
【0101】
図6(a)によって示す通り、バネ番号n1のバネはバネ長LvbnはLvbn1であり、バネ番号n2のバネLvbnはバネ長はLvbn2である。そして、これらのバネ長と、基準バネのバネ長とは、Lvbn1<Lvbbase<Lvbn2となっている。
【0102】
走行制御装置100(CPU91)では、図6(b)に示す通り、仮想バンパー領域71に並設されたすべてのバネ(バネ番号n1、n2のバネ)と、基準バネとは、いずれも限界長さLlimまで収縮可能であり、限界長さLlimを超えて収縮されることはないものとして取り扱う。
【0103】
そして、走行制御装置100(CPU91)では、バネ番号nのバネ定数knを以下の式(2)により算出する。
【0104】
kn=kbase×(Lvbbase−Llim)/(Lvbn−Llim) ・・・(2)
つまり、バネ番号n1のバネ定数kn1は式(3)により算出され、バネ番号n2のバネ定数kn2は式(4)により算出される。
【0105】
kn1=kbase×(Lvbbase−Llim)/(Lvbn1−Llim) ・・・(3)
kn2=kbase×(Lvbbase−Llim)/(Lvbn2−Llim) ・・・(4)
上述した通り、バネ番号n1,n2のバネのバネ長Lvbn1,Lvbn2と、基準バネのバネ長Lvbbaseとの間には、Lvbn1<Lvbbase<Lvbn2の関係にあるので、式(2)により、バネ番号n1,n2のバネ定数kn1,kn2と、基準バネのバネ定数kbaseとは、kn2<kbase<kn1となる。
【0106】
従って、仮想バンパー領域71内に存在する物体80と車両1(実際には、車両1の作用点Pf又はPr)との距離に対してバネに加えられる弾性力Feは、図6(c)に示す通りとなる。図6(c)は、図6(a)で示した複数のバネに発生する弾性力Feを示した図である。
【0107】
まず、基準バネのバネについては、物体80と車両1(作用点Pf又はPr)との距離がバネ長Lvbaseとなった場合に、弾性力Feが発生しはじめ、物体80と車両1(作用点Pf又はPr)との距離が短くなるにつれて、徐々に弾性力Feが大きくなる。
【0108】
これに対し、基準バネよりもバネ長の長いバネ番号n2のバネについては、物体80と車両1(作用点Pf又はPr)との距離がバネ長Lvbn2となった場合に、弾性力Feが発生しはじめ、物体80と車両1(作用点Pf又はPr)との距離が短くなるにつれて、基準バネよりも緩やかな傾きで弾性力Feが大きくなる。また、基準バネよりもバネ長の短いバネ番号n1のバネについては、物体80と車両1(作用点Pf又はPr)との距離がバネ長Lvbn1となった場合に、弾性力Feが発生しはじめ、物体80と車両1(作用点Pf又はPr)との距離が短くなるにつれて、基準バネよりも急な傾きで弾性力Feが大きくなる。
【0109】
ここで、バネ長の長いバネ72が設けられるのは、上述した通り、車両間隔のつかみにくい方向となる。また、バネ長の短いバネ72が設けられるのは、車両間隔のつかみやすい方向となる。つまり、車両間隔のつかみにくい方向に設けられたバネ72のバネ定数は小さなものとなり、車両間隔のつかみやすい方向に設けられたバネ72のバネ定数は大きなものとなる。
【0110】
これにより、車両感覚のつかみにくい方向にある物体80については、早くから弾性力Feの反作用として車両1に反発力Frが加えられ、物体80が車両1に近づくにつれてその反発力Frが少しずつ大きくなるので、距離感のつかみにくい物体80との衝突回避が確実に行われるだろうとの安心感を運転者に与えることができる。また、車両感覚のつかみやすい方向にある物体80については、その物体80が近くまで迫った場合に弾性力Feの反作用として反発力Frが車両1に加えられることになるが、更に物体80が車両1に接近した場合には、大きな反発力Frでその物体80との衝突を回避するよう車両1の走行に伴う制御が行われる。従って、この場合には、近くに迫った物体80との衝突回避が確実に行われるだろうとの安心感を運転者に与えることができる。その結果、より運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0111】
また、バネ番号n1,n2のバネと、基準バネとが限界長さLlimまで収縮された場合、それぞれのバネによって発生する弾性力Fen1,Fen2,Febaseは、次に示す式(5)〜(7)となる。
【0112】
Fen1=kn1×(Lvbn1−Llim)
=kbase×(Lvbbase−Llim) ・・・(5)
Fen2=kn2×(Lvbn2−Llim)
=kbase×(Lvbbase−Llim) ・・・(6)
Febase=kbase×(Lvbbase−Llim) ・・・(7)
つまり、図6(c)にも示す通り、バネ番号nのバネ定数knを式(2)によって算出するので、バネ番号n1,n2のバネと、基準バネとが限界長さLlimまで収縮された場合にそれぞれのバネによって発生する弾性力Fen1,Fen2,Febaseはすべて同じ大きさとなる。
【0113】
これにより、車両感覚のつかみやすい方向と車両感覚のつかみにくい方向とのいずれにも物体80が存在する場合、それらの物体80がいずれも、それぞれの位置に想定して設けられたバネ72を限界長さLlimまで縮められる程度に車両1に接近していれば、それぞれのバネ72において略同一の大きさの弾性力Feが発生し、その弾性力Feの反作用が反発力Frとして、それぞれ車両1に仮想的に加えられる。
【0114】
よって、車両感覚のつかみやすい方向と車両感覚のつかみにくい方向とのいずれにも物体80が存在し、それぞれの物体80がいずれも車両1に最接近しているような場合においては、それぞれの物体80を回避するための反発力Frとして略同一の大きさの反発力Frが、それぞれの物体80から車両1に対して加えられるので、どちらか一方の物体80からの反発力Frが大きいために他方の物体80へと車両1が近づいていくことを抑制できる。従って、安全に物体80の衝突回避を行うことができる。
【0115】
次いで、図7〜図14までのフローチャートと模式図とを参照して、車両1に搭載された走行制御装置100のCPU91により実行される各種処理について説明する。まず、図7は、そのCPU91により実行される仮想バンパー設定処理を示すフローチャートである。
【0116】
仮想バンパー設定処理は、車両1の進行方向となり得る前方向と後方向に、衝突を避けるべき物体を検出する領域として、仮想バンパー領域71を設定(形成)し、その仮想バンパー領域71に並設される複数のバネ72を設定する処理である。
【0117】
この仮想バンパー設定処理は、次の場合に実行される。まず、第1に、イグニッションスイッチ24が操作されて、走行制御装置100に電力が供給された場合に実行される初期化処理の中で、その初期化処理の一処理として実行される。第2に、非対称バンパーフラグ92bが運転者(搭乗者)によって設定変更された場合に、その設定変更が行われたことを契機として実行される。
【0118】
第3に、非対称バンパーフラグ92bがオンであり、仮想バンパー領域71の形状が非対称バンパー形状に設定されている場合に、右前コーナー半径メモリ92c,左前コーナー半径メモリ92d,右後コーナー半径メモリ92e、左後コーナー半径メモリ92fに格納されている右前コーナー半径Rfr,左前コーナー半径Rfl,右後コーナー半径Rrr、左後コーナー半径Rrlのいずれかの設定が変更されると、その設定変更が行われたことを契機として実行される。
【0119】
第4に、非対称バンパーフラグ92bがオフであり、仮想バンパー領域71の形状が対称バンパー形状に設定されている場合に、対称バンパー半径メモリ92gの対称バンパー変形Rsの設定が変更されると、その設定変更が行われたことを契機として実行される。
【0120】
仮想バンパー設定処理がCPU91により実行されると、CPU91は、まず、非対称バンパーフラグ92aがオンか否かを判断する(S11)。非対称バンパーフラグ92aがオンである場合(S11:Yes)、非対称バンパー設定処理を実行し(S12)、仮想バンパー設定処理を終了する。この非対称バンパー設定処理の詳細については、図8,図9を参照して、後述する。
【0121】
S11の処理の結果、非対称バンパーフラグ92aがオンではなく、オフであると判断される場合(S11:No)、通常バンパー設定処理を実行する(S13)。通常バンパー設定処理(S13)では、図4(b)に示す対象バンパー形状の仮想バンパー領域71を設定し、その仮想バンパー領域71内に並設される複数のバネ72を、図5を参照しながら説明した方法で仮想的に設定する。そして、仮想的に設定された各バネ72の情報を、バネ設定テーブルメモリ93aに格納する。通常バンパー設定処理(S13)を実行すると、CPU91は、仮想バンパー設定処理を終了する。
【0122】
次に、図8,図9を参照して、CPU91により実行される非対称バンパー設定処理(S12)について説明する。図8,図9は、この非対称バンパー設定処理を示すフローチャートである。この非対称バンパー設定処理は、上述した通り、仮想バンパー設定処理(図7参照)の一処理であり、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71を設定し、その仮想バンパー領域71内に並設される複数のバネ72を仮想的に設定する処理である。
【0123】
非対称バンパー設定処理が実行されると、CPU91は、まず、非対称バンパー形状を規定するパラメータである右前コーナー半径Rfr,左前コーナー半径Rfl,右後コーナー半径Rrr、左後コーナー半径Rrlの値を、それぞれ、右前コーナー半径メモリ92c,左前コーナー半径メモリ92d,右後コーナー半径メモリ92e、左後コーナー半径メモリ92fから読み出す(S21)。
【0124】
次に、バネ番号nを1に設定し(S22)、取付角度αnをαfr(図4(a)参照)に設定して(S23)、S24の処理へ移行する。
【0125】
S24の処理では、取付角度αnがβfr(図4(a)参照)以下かを判断し(S24)、取付角度がβfr以下である場合は(S24:Yes)、バネ72の他端が第1外郭71a1(図4(a)参照)にあるとして、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnとを算出し(S25)、S26の処理へ移行する。なお、外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnとは、上述した通り、車両1中央の前後軸をY軸(車両1の前方向、即ち、矢印Fで示す方向を正方向)とし、車両1の後輪軸(後輪2RL,2RRを結んだ直線)をX軸(車両1の右方向を正方向)として、X軸とY軸との交点となる作用点Prを原点とした所謂車両座標系で表す。
【0126】
ここで、作用点Prから車両1の前方先端までの距離をLf1とし、作用点Prと作用点Pfとの距離をLwbとし、車両1の車幅をWとすると(いずれも図4(a)参照)、第1外郭71a1は、(x−W/2)+(y−Lf1))=Rfrの式で表される円弧であり、取付角度αnのバネ72は、y=(tanα)x+Lwbで表される。
【0127】
よって、第1外郭71a1を表す式と、バネ72を表す式との連立方程式を解くことにより、S25の処理では、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcn、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnとを、次の式で算出する。
【0128】
【数1】

【0129】
【数2】

【0130】
【数3】

S26の処理では、S25の処理(又は、後述するS31,S33,S36,39,S41の各処理)によって算出された、バネ番号nのバネ72のバネ長Lvbnから、式(2)を用いて、バネ番号nのバネ72のバネ定数knを算出する(S26)。そして、バネ設定テーブルメモリ93aに、バネ番号nの値に対応付けて、バネ情報として、取付角度αn,外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycn,バネ長Lvbn,バネ定数knを書き込む(S27)。
【0131】
その後、バネ番号nに1を加算し(S28)、取付角度αnに0.5度を加算して(S29)、S24の処理へ戻る。これにより、次のバネ番号nに対し、S24〜S29,及び、後述するS30〜S41の処理が実行され、仮想的に仮想バンパー領域71に並設される複数のバネ72が設定される。
【0132】
S24の処理により、取付角度αnがβfrよりも大きいと判断される場合(S24:No)、図9に示すS30の処理へ移行する。S30の処理では、取付角度αnがβfl(図4(a)参照)以下かを判断する(S30)。その結果、取付角度αnがβfl以下であると判断される場合は(S30:Yes)、バネ72の他端が第2外郭71a2(図4(a)参照)にあるとして、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnとを算出し(S31)、図8のS26の処理へ移行する。
【0133】
ここで、第2外郭71a2は、y=((Rfr−Rfl)/W)x+Lf1+(Rfr+Rfl)/2の式で表される直線であり、また、取付角度αnのバネ72は、y=(tanα)x+Lwbで表される。
【0134】
よって、第2外郭71a2を表す式と、バネ72を表す式との連立方程式を解くことにより、S31の処理では、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnは、次の式で算出する。
【0135】
【数4】

なお、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnは、上述の[数2],[数3]と同一の式で算出する。
【0136】
S30の処理の結果、取付角度αnがβflよりも大きいと判断される場合(S30:No)、次いで、取付角度αnがαfl(図4(a)参照)以下かを判断する(S32)。その結果、取付角度αnがαfl以下であると判断される場合は(S32:Yes)、バネ72の他端が第3外郭71a3(図4(a)参照)にあるとして、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnとを算出し(S33)、図8のS26の処理へ移行する。
【0137】
ここで、第3外郭71a3は、(x+W/2)+(y−Lf1)=Rflの式で表される円弧であり、また、取付角度αnのバネ72は、y=(tanα)x+Lwbで表される。
【0138】
よって、第3外郭71a3を表す式と、バネ72を表す式との連立方程式を解くことにより、S33の処理では、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnは、次の式で算出する。
【0139】
【数5】

なお、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnは、上述の[数2],[数3]と同一の式で算出する。
【0140】
S32の処理の結果、取付角度αnがαflよりも大きいと判断される場合(S32:No)、次いで、取付角度αnがαrl(図4(a)参照)以下かを判断する(S34)。その結果、取付角度αnがαrl以下であると判断される場合は(S34:Yes)、取付角度αnをαrlに設定して(S35)、S37の処理へ進む。
【0141】
また、S34の処理の結果、取付角度αnがαrlよりも大きいと判断される場合(S34:Yes)、次いで、取付角度αnがβrl(図4(a)参照)以下かを判断する(S36)。その結果、取付角度αnがαrl以下であると判断される場合は(S34:Yes)、S37の処理へ移行する。
【0142】
S37の処理では、バネ72の他端が第4外郭71a4(図4(a)参照)にあるとして、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnとを算出し(S37)、図8のS26の処理へ移行する。
【0143】
ここで、第4外郭71a4は、(x+W/2)+(y+Lr))=Rrlの式で表される円弧であり、また、取付角度αnのバネ72は、y=(tanα)x+Lwbで表される。
【0144】
よって、第4外郭71a4を表す式と、バネ72を表す式との連立方程式を解くことにより、S37の処理では、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnは、次の式で算出する。
【0145】
【数6】

なお、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnは、上述の[数2],[数3]と同一の式で算出する。
【0146】
S36の処理の結果、取付角度αnがβrlよりも大きいと判断される場合(S36:No)、次いで、取付角度αnがβrr(図4(a)参照)以下かを判断する(S38)。その結果、取付角度αnがβrr以下であると判断される場合は(S38:Yes)、バネ72の他端が第5外郭71a5(図4(a)参照)にあるとして、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnとを算出し(S39)、図8のS26の処理へ移行する。
【0147】
ここで、第5外郭71a5は、y=((−Rrr+Rrl)/W)x−Lr−(Rrr+Rrl)/2の式で表される直線であり、また、取付角度αnのバネ72は、y=(tanα)x+Lwbで表される。
【0148】
よって、第2外郭71a2を表す式と、バネ72を表す式との連立方程式を解くことにより、S39の処理では、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnは、次の式で算出する。
【0149】
【数7】

なお、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnは、上述の[数2],[数3]と同一の式で算出する。
【0150】
S38の処理の結果、取付角度αnがβrrよりも大きいと判断される場合(S38:No)、次いで、取付角度αnがαrr(図4(a)参照)以下かを判断する(S40)。その結果、取付角度αnがαrr以下であると判断される場合は(S40:Yes)、バネ72の他端が第6外郭71a6(図4(a)参照)にあるとして、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnとを算出し(S41)、図8のS26の処理へ移行する。
【0151】
ここで、第6外郭71a6は、(x−W/2)+(y+Lr)=Rrrの式で表される円弧であり、また、取付角度αnのバネ72は、y=(tanα)x+Lwbで表される。
【0152】
よって、第6外郭71a6を表す式と、バネ72を表す式との連立方程式を解くことにより、S41の処理では、バネ番号nのバネ72の外郭X座標Xcnは、次の式で算出する。
【0153】
【数8】

なお、外郭Y座標Ycnと、バネ長Lvbnは、上述の[数2],[数3]と同一の式で算出する。
【0154】
S40の処理の結果、取付角度αnがαrrよりも大きいと判断される場合(S40:No)、すべてのバネ72について設定が終了したことを意味するので、非対称バンパー設定処理を終了する。これにより、図4(a)に示すような非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71が設定され、その仮想バンパー領域71内に複数のバネ72が並設される。
【0155】
次いで、図10を参照して、CPU91により実行される物体回避処理について説明する。図10は、この物体回避処理を示すフローチャートである。この物体回避処理は、仮想バンパー領域71内に物体80が存在する場合に、その仮想バンパー領域71内に仮想的に並設させた複数のバネ72の一部(バネ72a)が、物体80によって収縮されたとして、そのバネ72aに生じる弾性力Feの反作用として車両1に反発力Frを加え、車両1の走行を制御するものである。この物体回避処理は、所定時間間隔(例えば、50ミリ秒毎)に実行される。
【0156】
物体回避処理が実行されると、CPU91は、まず、第1カメラ26a及び第2カメラ26bにて撮像された画像の画像データから、車両1の周囲に存在する物体80と、車両1を基準としたその物体80の位置とを判断する(S51)。次に、S51の処理にて判断された物体80の位置と、バネ設定テーブルメモリ93aに格納された各バネ72のバネ情報とから、物体80の存在によって、仮想バンパー71内に仮想的に並設されたバネ72の中から収縮されたバネ72aを検索する(S52)。
【0157】
そして、S52の処理の結果、収縮されたバネ72aがあるか否かを判断する(S53)。その結果、収縮されたバネ72aがなければ(S53:No)、仮想バンパー領域71内に物体80がないと判断し、そのまま物体回避処理を終了する。
【0158】
一方、収縮されたバネ72aがあると判断された場合(S53:Yes)、仮想バンパー71内に物体80があると判断できるので、次に説明するS54〜S59の処理を実行して、物体80を回避するよう、車両1の走行を制御する。
【0159】
まず、S54の処理では、前進時においては、収縮したバネ72aから車両1の作用点Pfに対して加えられる反発力Fr(Frf)を算出し、後進時においては、収縮したバネ72aから車両1の作用点Prに対して加えられる反発力Fr(Frr)を算出する(S54)。反発力Frの大きさは上述の式(1)によって算出される。このとき、式(1)で用いるバネ定数は、収縮したバネ72aのバネ定数をバネ設定テーブルメモリ93aより取得する。
【0160】
なお、収縮したバネ72aが複数ある場合は、それぞれのバネ72aから加えられる反発力の向きも考慮して、すべてのバネ72aから車両1の作用点Pf又はPrに加えられる反発力を合成して、作用点Pf又はPrにおける反発力Frf又はFrrを算出する。
【0161】
次に、S54の処理にて算出した反発力Fr(Frf又はFrr)から、車両前後方向の反発力Frfy又はFrrxと、車両左右方向の反発力Frfx又はFrrxと(図2参照)に分解する(S55)。
【0162】
そして、前進時においては、S55の処理にて求めた車両前後方向の反発力Frfyから、以下の式(8)により、車両1の加速度aを算出し、後進時においては、S55の処理にて求めた車両戦後方向の反発力Frryから、以下の式(9)により、車両1の加速度aを算出する(S56)。
【0163】
a=Frfy/m ・・・(8)
a=Frry/m ・・・(9)
ここで、mは、車両1の重量(質量)である。
【0164】
続くS57の処理では、前進時において、S55の処理にて求めた車両左右方向の反発力Frfxから、以下の式(10)により、車両1に生じる反モーメント力Mを算出し、また、後進時において、S55の処理にて求めた車両左右方向の反発力Frrxから、以下の式(11)により、車両1に生じる反モーメント力Mを算出する。
【0165】
M=Frfx×Lf ・・・(10)
M=Frrx×Lr ・・・(11)
そして、S57の処理において、式(10)又は(11)により算出した反モーメント力Mから、以下の[数9]により、車両1の操舵角δfを算出する。
【0166】
【数9】

なお、車両1が前進する場合、後進する場合のいずれにおいても、その車両速度が毎秒0.5m以下である場合、次の式(12)により、車両1の操舵角δfを算出する。
【0167】
δf=−M/(2・Kf・Lf) ・・・(12)
ここで、式(10),式(11),[数9]の各式で用いられる各種パラメータの意味について、図11を参照して説明する。図11は、作用点Pf又はPrに、車両左右方向の反発力Frfy又はFrryが加えられた場合において生じる反モーメント力Mと、その反モーメント力によって取り得るべき車両1の操舵角δfを算出する場合に用いるパラメータを説明する図である。
【0168】
まず、Lfは、前輪軸(作用点Pf)と車両1の重心との距離であり、Lrは、後輪軸(作用点Pr)と車両1の重心との距離である。Kfは、前輪等価コーナーリングスティフネスであり、Krは、後輪等価コーナーリングスティフネスである。βは、重心位置における車両1の横滑り角であり、γは車両1のヨーレートである。Vは、車両速度である。なお、図11において、δrは、後輪における操舵角であるが、本実施形態における車両1は、前輪のみ操舵可能であるので、δrを0として取り扱っている。
【0169】
図10に戻り説明を続ける。S57の処理が終了すると、続いて、S58の処理を実行する。S58の処理では、S56の処理により算出した加速度aと、現在の車両1の速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量とから、目標とすべき車両速度を決定し、その目標とすべき車両速度を示す制御信号を、後述する車輪駆動装置3(図1参照)へ送信する。また、S58の処理では、S57の処理により算出した操舵角δfを示す制御信号を、後述する操舵駆動装置5(図1参照)へ送信する。そして、S58の処理の終了後、物体回避処理を終了する。
【0170】
このS58の処理により、車両1が、前後方向の反発力Frfy又はFrryによって生じる車両1の加速度を反映させた速度で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。また、車両1が、左右方向の反発力Frfx又はFrrxによって生じる反モーメント力を反映させた操舵角で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。よって、容易に且つ速やかに、その物体80を回避しながら車両1を走行させることができる。
【0171】
以上説明したように、本実施形態によれば、物体80の衝突回避を行う領域として、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71を設定できるようになっており、車両感覚のつかみやすい方向にある仮想バンパー領域71の外縁71a(外縁71a1〜71a6)ほど、車両1からの距離が短く設定される。これにより、車両感覚のつかみやすい方向に物体80がある場合には、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が短いので、物体80が車両1の近くまで迫った場合に反発力Frが仮想的に車両1に加えられる。車両感覚のつかみやすい方向は、運転者がその物体80と車両1との距離感を容易につかむことができるので、物体80の近くでようやく車両1に加えられた反発力Frを運転者が感じたとしても、安心して運転を行うことができる。一方、車両感覚のつかみにくい方向に物体80がある場合には、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が長いので、運転者がその物体80と車両1との距離感が把握しにくくても、早めに車両1に加えられた反発力Frを感じることができ、安心して運転を行うことができる。よって、物体80の位置に拘わらず、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0172】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0173】
例えば、上記実施形態では、非対称バンパー形状の仮想バンパー領域71として、図4(a)に示す形状を例に説明したが、必ずしもこの形状に限られるものではない。例えば、図12(a)に示すように、線分BCが円弧AB及び円弧CDの接線となり、線分FGが円弧EF及び円弧GHの接線となるようにして、仮想バンパ領域71を設定してもよい。また、図12(b)に示すように、点Bと点Cを線分ではなく曲線で結び、点Aから点Dまでを滑らかな線で構成し、また、点Fと点Gを線分ではなく曲線で結び、点Eから点Hまでを滑らかな線で構成して、仮想バンパ領域71を設定してもよい。また、上記実施形態における仮想バンパー領域71は、反発力Frが作用する作用点を点Pf及び点Prの2カ所に集中させる形状として設定したが、必ずしもこれに限られるものではなく、図13に示すように、反発力Frが作用する作用点を車両1の外周に分散させ、その分散させた作用点から仮想バンパー領域71の外縁71aに向けて仮想的にバネ72aを並設する形状の仮想バンパー領域71を設定してもよい。
【0174】
また、仮想バンパー領域71は、これら以外の形状であってもよく、車両の運転者から見て車両感覚がつかみやすい方向よりも車両感覚がつかみにくい方向に車両から外縁までの距離が長くなるような形状であれば、仮想バンパー領域71の形状は任意なものであってもよい。このような形状の仮想バンパー領域71を設定することにより、車両感覚のつかみやすい方向に物体80がある場合には、物体80が車両1の近くまで迫った場合に反発力Frが仮想的に車両1に加えられるが、物体80までの距離感をつかみやすいので、安心して運転を行うことができる。また、車両感覚のつかみにくい方向に物体80がある場合には、早めに車両1に加えられた反発力Frを感じることができ、安心して運転を行うことができる。
【0175】
上記実施形態において、仮想バンパー領域71内に存在する物体80によって車両1に反発力Frが加えられた場合に、前輪2FL,2FRの操舵角がその反発力Frに基づいて算出した操舵角δfとなるよう、走行制御装置100が操舵駆動装置5を制御する場合について説明したが、車両1にステアリングホイール13に回転力を加える駆動装置を設け、走行制御装置100は、その駆動装置を制御して、操舵角δfの方向に、操舵角δfの大きさに応じた回転力をステアリングホイール13に加えるようにしてもよい。運転者は、ステアリングホイール13に加えられた回転力によってステアリングホイール13を回転操作することにより、物体80との衝突回避を行うことができる。
【0176】
上記各実施形態では、第1,第2カメラ26a,26bを搭載して、車両1の周辺情報を取得する場合について説明したが、周辺情報を取得する手段として、ステレオカメラ、赤外線カメラを用いてもよいし、ミリ波レーダ、レーザレーダ、UWB(Ultra Wide Band)レーダ等の各種レーダや、ソナーを用いてもよい。また、道路と車両との間の通信である路車間通信や、他車との間の通信による車車間通信によって、物体の位置情報を取得してもよい。またこれらを複数組み合わせて使用してもよい。
【0177】
例えば、レーザレーダは、レーザビームを車両1の周囲へ照査し、その反射の有無や反射を検出した方向およびレーザビームを照射してから反射を検出するまでの時間に基づいて、車両1の周辺にある道路や物体の形状等を把握するものである。走行制御装置100は、このレーザレーダを用いることにより、レーザレーダにより照射したレーザビームの反射の検出結果から、車両1の周辺に存在する物体等の形状をマップ化し、それに基づいて、物体の位置等を検出するように構成してもよい。
【0178】
上記各実施形態では、操舵装置5がラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ボールナット式等の他のステアリングギヤ機構を採用することは当然可能である。
【符号の説明】
【0179】
1 車両
26a 第1カメラ(検出手段の一部)
26b 第2カメラ(検出手段の一部)
71 仮想バンパー領域(所定領域)
80 物体
100 走行制御装置
Fr 反発力
Fe 弾性力
kn バネ定数
S12 非対称バンパー設定処理(領域設定手段)
S54 (算出手段)
S58 (制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
その検出手段により検出された物体であって、前記車両の少なくとも進行方向に設定された所定領域内に存在する物体との衝突を回避するための仮想的な反発力を、前記物体と前記車両との位置関係に基づいて算出する算出手段と、
その算出手段により算出された反発力が前記車両に加えられたものとして、前記車両の走行に伴う制御を行う制御手段と、
前記車両の少なくとも進行方向に設定される前記所定領域として、前記車両の運転者から見て車両感覚がつかみやすい方向における前記車両から前記所定領域の外縁までの距離よりも、車両感覚がつかみにくい方向における前記車両から前記所定領域の外縁までの距離を長くした領域を設定する領域設定手段とを備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記算出手段は、一端が前記車両に取着され他端が前記所定領域の外縁に位置するバネが複数並設されているものと想定し、前記検出手段により検出された物体であって前記所定領域内に存在する物体によって、前記所定領域の外縁に位置していたバネの他端が前記物体の位置まで縮められるものとして、そのバネに加えられる弾性力を算出することで、その弾性力の反作用として前記車両に加えられる反発力を算出するものであることを特徴とする請求項1記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記算出手段は、その算出手段において想定する前記複数のバネに対し、伸縮させない状態でのバネの長さである自然長が長いバネよりも、その自然長が短いバネのバネ定数を大きく設定して、車両に加えられる反発力を算出するものであることを特徴とする請求項2記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記算出手段は、その算出手段において想定する前記複数のバネにおいて、それぞれのバネが所定の限界長さまで縮められた場合にそれぞれのバネで発生する弾性力が略同一の大きさとなるように、それぞれのバネのバネ定数を設定するものであることを特徴とする請求項3記載の走行制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の走行制御装置を備えることを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−77264(P2013−77264A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218095(P2011−218095)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】