説明

走行連動音発生装置

【課題】構成が簡単で、制御負荷の低い走行連動音発生装置を提供する。
【解決手段】走行連動音発生装置は、車両の走行に連動して走行連動音を発生する。この装置は、音圧の異なる複数の走行連動音データを記憶した音源LSI64と、車速に応じて音源LSI64から走行連動音データを読み出して再生する再生ユニット60とを含む。再生ユニット60は、発音判断ユニット61と、音データ選択ユニット62と、音声回路63とを含む。車速Vが発音下限車速V1以上発音上限車速V2以下のときに、走行連動音データが再生される。音データ選択ユニット62は、再生すべき走行連動音データを指定するためのテーブル番号iを生成する。音源LSI64には、フェードインパターンデータである発音開始データD1、定常音圧データD2、およびフェードアウトパターンデータである発音停止データD3が格納されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の走行状態に応じて走行連動音を発生する走行連動音発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の騒音規制を契機として、車両のエンジン音を低減するための改良が重ねられ、現在では、著しく静音化されたエンジンが実用化されている。また、ハイブリッド車や電気自動車のように電気モータを動力源とする車両においては、とくに低速走行時に動力源が発生する音が小さい。このような静粛性の高い車両は、歩行者等に気づかれにくい場合がある。また、車両の乗員にとっても、駆動源から届く音が小さく、そのため、運転の楽しみが減少するおそれがある。
【0003】
特許文献1は、車椅子の走行速度が所定速度以上となったときに、音を発生させ始める発音装置を開示している。この発音装置は、曲番号によって指定される楽曲を自動演奏しながら、走行速度に応じた音量パターンに従って音量を変化させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−26033号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許文献1の先行技術では、楽曲がそのまま再生されるのではなく、走行速度に応じて音量が制御される。そのため、構成が複雑であり、制御負荷が高く、それに応じてコスト高となることは避けられない。
そこで、この発明の一実施形態は、構成が簡単で、制御負荷の低い走行連動音発生装置を提供する。
【0006】
具体的には、この発明の一実施形態は、車両の走行に連動して走行連動音を発生する装置であって、音圧の異なる複数の走行連動音データを記憶した記憶手段と、車速に応じて前記記憶手段から走行連動音データを読み出して再生する再生手段とを含む、走行連動音発生装置を提供する。
この装置では、音圧の異なる複数の走行連動音データが記憶手段に格納されているので、車速に応じて走行音連動音データを読み出して再生すれば、車速に応じて音量が変化する走行連動音を発音できる。すなわち、読み出した音データを再生するときに、車速に応じた音量制御のための演算を実行する必要がない。これにより、構成が簡単で、制御負荷が少ない走行連動音発生装置を提供できる。
【0007】
この発明の一実施形態では、前記再生手段が、発音下限車速から発音上限車速まで車速が変化するときに、音圧が零から漸増して定常音圧(たとえば最大音圧)となった後に当該定常音圧から零まで漸減するように、前記記憶手段から走行連動音データを読み出すように構成されている。この構成により、車両が加速して、その車速が発音下限車速に達すると、走行連動音の発音が始まり、車速の増加に応じて定常音圧まで走行連動音の音圧(音量)が漸増する。さらに車両が加速すると、車速が発音上限車速に達するまでは定常音圧で走行連動音が発音され、車速が発音上限車速に達すると、走行連動音の音圧が漸減されて消音される。こうして、車速の増加に伴って、発音下限車速から発音上限車速までの車速範囲で走行連動音を発音できる。さらに、発音開始時に音圧が漸増するので、大きな走行連動音が急に発音されることがないから、走行連動音を自然に発音開始できる。また、発音停止時には音圧が漸減するので、走行連動音が急に消音されることがないから、走行連動音を自然に消音できる。定常音圧とは、複数の走行連動音データのうちで最大音圧の走行連動音データの当該音圧であってもよい。
【0008】
この発明の一実施形態では、前記再生手段が、前記発音下限車速未満および前記発音上限車速超の車速のときに走行連動音の発生を停止(より好ましくはフェードアウトした後に停止)するように構成されている。発音下限車速未満の低速走行時には、走行連動音を発音する必要性が乏しい。また、発音上限車速超の車速域では、車両が発生する走行音や機械音が十分に大きく、やはり、走行連動音を発音する必要性が乏しい。したがって、前記発音下限車速未満および前記発音上限車速超の車速のときに走行連動音の発生を停止することによって、必要時にのみ走行連動音を発音させて、不必要な騒音およびエネルギー消費を回避できる。
【0009】
この発明の一実施形態では、前記記憶手段に記憶された複数の走行連動音データが、音圧が漸増する発音開始データと、音圧が漸減する発音停止データとを含む。この構成によれば、発音開始データを読み出して再生すれば、音量制御をしなくとも、走行連動音の音圧を漸増させて、いわゆるフェードイン動作を実現できる。同様に、発音停止データを読み出して再生すれば、音量制御をしなくとも、走行連動音の音圧を漸減させて、いわゆるフェードアウト動作を実現できる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記記憶手段に記憶された複数の走行連動音データが、音圧が一定の定常音圧データをさらに含む。この構成により、定常音圧データを読み出して再生すれば、音量制御をしなくとも、音圧が一定の走行連動音を発音できる。
たとえば、前記再生手段は、車速が増加して発音下限車速に達したときに前記発音開始データを読み出して再生し、その後に定常音圧データを読み出して再生するように構成されていてもよい。また、前記再生手段は、前記定常音圧データを再生している場合において、車速が増加して前記発音上限車速に達したときに、前記発音停止データを読み出して再生し、その後は走行連動音の発音を停止するように構成されていてもよい。
【0011】
この発明の一実施形態では、前記記憶手段に記憶された複数の走行連動音データが、3段階以上の異なる音圧の走行連動音データを含む。この構成によれば、3段階以上の異なる走行連動音データを車速に応じて読み出すことにより、音量制御のための演算を要することなく、車速に応じた適切な音圧の走行連動音を発音できる。
この発明の一実施形態では、前記再生手段が、走行連動音発生指令に応答して音圧が漸増し、走行連動音停止指令に応答して音圧が漸増するように、前記記憶手段から走行連動音データを読み出すように構成されている。この構成によれば、走行連動音発生指令に応じてフェードイン動作を行わせることができ、走行連動音停止指令に応じてフェードアウト動作を行わせることができる。たとえば、操作者(典型的には運転者)により操作される発音スイッチの操作に応じて走行連動音発生指令が発生されるようになっていてもよい。同様に、操作者によって操作される消音スイッチの操作に応じて走行連動音停止指令が発生されるようになっていてもよい。発音スイッチおよび消音スイッチは、共通のスイッチであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明の一実施形態に係る走行連動音発生装置を搭載した車両を示す図解的な側面図である。
【図2】図2は、この発明の第1の実施形態に係る走行連動音発生装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図3】図3は、走行連動音生成ユニットの構成例を示すブロック図である。
【図4】図4は、音源LSIに格納された走行連動音データの例を示す。
【図5】図5は、走行連動音生成ユニットの動作例を説明するためのフローチャートである。
【図6】図6Aおよび図6Bは、走行連動音の音圧の変化を説明するための図である。
【図7】図7は、第2の実施形態に係る走行音連動装置において用いられる走行連動音データの例を示す。
【図8】図8は、車速Vに応じた走行連動音データの選択を説明するための図である。
【図9】図9は、第2の実施形態における走行連動音生成ユニットの動作例を説明するためのフローチャートである。
【図10】図10は、車速推定ユニットの構成例を説明するためのブロック図である。
【図11】図11は、傾斜した路面上における電動二輪車に働く力を示す説明図である。
【図12】図12は、車速推定ユニットによる処理内容を示すフローチャートである。
【図13A】図13Aは、GPS受信機が出力する位置データを用いた車速推定を示す。
【図13B】図13Bは、GPS受信機が出力する位置データを用いた車速推定の一例を説明するためのフローチャートである。
【図14】図14は、GPS受信機が出力する移動速度データを用いた車速推定の他の例を示すフローチャートである。
【図15】図15は、この発明の第3の実施形態に係る走行連動音発生装置の構成を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る走行連動音発生装置を搭載した車両を示す図解的な側面図である。この車両は、たとえば、電動二輪車1である。より具体的には、電動二輪車1は、スクータ型の電動二輪車であり、車体フレーム2、前輪3、後輪4、電気モータ5、バッテリ6および車体カバー7を備えている。電動二輪車1は、バッテリ6から供給される電力によって、電気モータ5を駆動し、電気モータ5の出力によって駆動輪としての後輪4を駆動するように構成されている。
【0014】
車体フレーム2の前上部に配置されたヘッドパイプ8には、ステアリング軸9が回動自在に挿入されている。ステアリング軸9の下端部には、左右一対のフロントフォーク10が取り付けられている。前輪3は、フロントフォーク10に取り付けられている。ステアリング軸9の上端部には、ハンドル11が取り付けられている。ライダーは、ハンドル11を操作することにより、ステアリング軸9、フロントフォーク10および前輪3をステアリング軸9の軸線回りに回すことができる。
【0015】
ハンドル11の左右両端部には、それぞれ、グリップ12が設けられている(左側のグリップのみを図示)。右側のグリップはアクセルグリップ(アクセル操作子)を構成している。ライダーは、このアクセルグリップを回すことにより、電気モータ5の出力を調整することができる。
車体フレーム2は、ヘッドパイプ8から後方に延びている。車体フレーム2は、ダウンチューブ19と、ダウンチューブ19の後方に配置された左右一対のフレーム本体20とを含む。ダウンチューブ19は、ヘッドパイプ8の下部から後斜め下方に延びている。フレーム本体20は、側面視においてほぼS字形状を成しており、ダウンチューブ19の下端部から後方に延び、さらに後方に向かって斜め上方に向かい、その後、ほぼ水平に後方へと延びている。
【0016】
車体カバー7は、車体フレーム2に取り付けられている。車体カバー7は、ヘッドパイプ8を覆う前カバー25と、前カバー25の下部から後方に延びる下カバー26と、前カバー25の後方に配置された後カバー27とを含んでいる。前カバー25は、ステアリング軸9の一部およびヘッドパイプ8を取り囲み、かつ、ダウンチューブ19を取り囲んでいる。下カバー26は、前カバー25の下部から後方に延びており、フレーム本体20の一部を下方および左右両側方から覆っている。下カバー26の上面には、足載せ部28が配置されている。足載せ部28は、ライダーが足を載せるために設けられており、ほぼ平坦に形成されている。後カバー27は、全体として、下カバー26の後部から後斜め上方に延びた形状に形成されている。後カバー27は、フレーム本体20の一部を前方および左右両側方から覆っている。
【0017】
ライダーが着座するためのシート29は、フレーム本体20の上部に取り付けられている。シート29の下方には、左右一対のフレーム本体20の間に収容空間が形成されている。この収容空間には、電気モータ5の電源としてのバッテリ6が配置されている。バッテリ6は、充電可能な二次電池である。
走行連動音発生装置30は、装置本体31と、スピーカ32とを含む。図1の例では、装置本体31は、シート29の下方に配置されて、フレーム本体20に取り付けられている。スピーカ32は、たとえば、ヘッドパイプ8に取り付けられている。装置本体31とスピーカ32とは、配線33で接続されている。配線33は、車体カバー7内で配索されており、装置本体31が発生する音声信号をスピーカ32に伝える。
【0018】
図2は、この発明の第1の実施形態に係る走行連動音発生装置30の電気的構成を説明するためのブロック図である。装置本体31は、電動二輪車1のバッテリ6に電源配線を介して接続されていて、バッテリ6からの電力供給を受けて動作するようになっている。むろん、装置本体31にバッテリを内蔵し、その内蔵バッテリによって装置本体31が作動する構成を採用することもできる。
【0019】
装置本体31は、音合成回路35と、アンプ36と、センサ類40とを含む。センサ類40は、装置本体31の筐体に内蔵されている。
センサ類40は、この実施形態では、加速度センサ41および角速度センサ42(ジャイロセンサ)を含む。加速度センサ41は、直交する3つの軸(X軸、Y軸およびZ軸)の方向に沿う加速度を検出して出力するように構成された3軸加速度センサであってもよい。この実施形態では、加速度センサ41のX軸が電動二輪車1の前後方向に整合し、そのY軸が電動二輪車1の左右方向に整合し、そのZ軸が電動二輪車1の上下方向に整合している。すなわち、このような位置関係となるように、装置本体31が車体フレーム2に取り付けられている。角速度センサ42は、3つの軸(X軸、Y軸およびZ軸)のまわりの角速度(ロール角速度、ピッチ角速度、ヨー角速度)を検出するように構成されている。この実施形態では、角速度センサ42のX軸、Y軸およびZ軸は、加速度センサ41のX軸、Y軸およびZ軸と一致している。すなわち、このような位置関係となるように、加速度センサ41および角速度センサ42が、装置本体31の筐体に組み付けられている。よって、角速度センサ42のX軸が電動二輪車1の前後方向に整合し、そのY軸が電動二輪車1の左右方向に整合し、そのZ軸が電動二輪車1の上下方向に整合している。
【0020】
音合成回路35は、センサ類40の出力信号に基づいて電動二輪車1の走行状態を推定し、その推定した走行状態に応じた走行連動音を表す音声信号を生成する。この音声信号がアンプ36によって増幅され、その増幅された音声信号が配線33を介してスピーカ32に与えられる。これにより、スピーカ32が駆動され、走行連動音が発生する。この走行連動音は、電動二輪車1の周囲の人に向けて発生され、かつライダーによって聴取される。音合成回路35は、専ら装置本体31に備えられたセンサ類40の出力信号を用いて走行連動音信号を生成するように構成されており、電動二輪車1側(走行連動音発生装置30外)に備えられたセンサ類からの信号を入力するようには構成されていない。
【0021】
装置本体31に備えられたセンサ類40は、加速度センサ41および角速度センサ42の他にも、GPS(Global Positioning System)受信機45(二点鎖線で示す。)を含んでいてもよい。GPS受信機45は、地球のまわりを周回するGPS衛星からの信号を受信して位置データ等を生成する装置である。
音合成回路35は、マイクロコンピュータを含み、このマイクロコンピュータによる演算処理によって実現される複数の機能処理ユニットを含む。より具体的には、音合成回路35は、車速推定ユニット37と、走行連動音生成ユニット39とを含む。車速推定ユニット37は、センサ類40の出力信号に基づいて、電動二輪車1の車速を推定する。すなわち、電動二輪車1側に備えられたセンサからの信号を用いることなく、電動二輪車1の車速を推定する。走行連動音生成ユニット39は、車速推定ユニット37によって推定された車速に基づいて、走行連動音信号を生成する。
【0022】
図3は、走行連動音生成ユニット39の構成例を示すブロック図である。走行連動音生成ユニット39は、車速推定ユニット37によって推定された車速Vを用いて、電動二輪車1の走行状態に応じた走行連動音信号を発生する。具体的には、走行連動音生成ユニット39は、再生ユニット60と、音源LSI64とを含む。音源LSI64は、音圧の異なる複数の走行連動音データを記憶した記憶手段である。再生ユニット60は、電動二輪車1の車速に応じて音源LSI64から走行連動音データを読み出して再生する再生手段である。再生ユニット60は、発音判断ユニット61と、音データ選択ユニット62と、音声回路63と、発音/停止指令インタフェース65とを含む。
【0023】
発音判断ユニット61は、車速推定ユニット37によって推定された現在の車速Vと、発音下限車速V1(たとえば0km/h)および発音上限車速V2(たとえば20km/h)とを比較する。発音下限車速V1および発音上限車速V2は、音合成回路35に含まれるマイクロコンピュータのメモリに予め格納されている。発音判断ユニット61は、車速Vが発音下限車速V1以上発音上限車速V2以下のときに、走行連動音発生指令を発生する。また、発音判断ユニット61は、車速Vが発音下限車速V1未満または発音上限車速V2超のときに、走行連動音停止指令を発生する。
【0024】
音データ選択ユニット62は、音源LSI64から発生させるべき走行連動音データの識別情報として、テーブル番号i(iは自然数)を生成し、音声回路63に供給する。音声回路63は、音データ選択ユニット62から与えられるテーブル番号iに対応する走行連動音データを音源LSI64から読み出し、その読み出した走行連動音データを再生することにより、走行連動音信号としての音声信号を生成する。この音声が、アンプ36(図2参照)に供給される。
【0025】
発音/停止指令インタフェース65は、発音判断ユニット61が走行連動音発生指令を生成すると音声発生信号を音声回路63に供給し、発音判断ユニット61が走行連動音停止指令を生成すると停止信号を音声回路63に供給するように構成されている。
図4は、音源LSI64に格納された走行連動音データの例を示す。音源LSI64には、音圧の異なる複数種類の走行連動音データ(テーブル)D1,D2,D3が格納されている。これらの走行連動音データD1,D2,D3は、エンジン音を模擬したエンジン音データであってもよい。エンジン音データは、コンピュータ上でエンジン音を模して作成されたデータであってもよいし、実際のエンジン音を録音して作成されたデータであってもよい。むろん、走行連動音データは、エンジン音以外の音であってもよい。
【0026】
この実施形態では、音圧が漸増する発音開始データD1と、音圧が一定の定常音圧データD2と、音圧が漸減する発音停止データD3とが音源LSI64に格納されている。発音開始データD1は、音圧が時間経過とともに零から所定の定常音圧Pまで漸増(図4の例ではリニアに漸増)するように定められた一定時間長(たとえば7秒)のフェードインパターンデータである。定常音圧データD2は、音圧が定常音圧Pで一定に定められた一定時間長(たとえば2秒)のデータである。発音停止データD3は、音圧が時間経過とともに定常音圧Pから零まで漸減(図4の例ではリニアに漸減)するように定められた一定時間長(たとえば2秒)のフェードアウトパターンデータである。
【0027】
図5は、走行連動音生成ユニット39の動作例を説明するためのフローチャートである。走行連動音生成ユニット39(より具体的には発音判断ユニット61)は、車速推定ユニット37によって推定された現在の車速Vと発音下限車速V1および発音上限車速V2とを比較する(ステップS51)。
V1≦V≦V2のとき、走行連動音生成ユニット39(より具体的には音データ選択ユニット62)は、音発生ステータスを調べる(ステップS52)。走行連動音を発生していないときには、走行連動音生成ユニット39(より具体的には音データ選択ユニット62)は、発音開始データD1を指定するためのテーブル番号「1」を生成する(ステップS53)。さらに、走行連動音生成ユニット39は、走行連動音データ再生のためのタイマを零にリセットし、タイマ最大値を発音開始データD1の音声発生最大時間Max(図4参照)に設定して(ステップS54)、音声回路63に音発生指令信号を供給する(ステップS55)。これに応答して、音声回路63は、音源LSI64から発音開始データD1を読み出して再生する(ステップS56)。
【0028】
走行連動音生成ユニット39は、タイマをカウントアップする(ステップS57)。その後、走行連動音生成ユニット39は、システム終了(電源遮断)かどうかを判断し(ステップS58)、終了するときには、音声回路63に停止指令信号を与えて(ステップS59)、処理を終える。システム終了しないときは、走行連動音生成ユニット39は、ステップS51からの処理を繰り返す。
【0029】
ステップS52において、走行連動音を発生中(走行連動音データ再生中)であると判断されると、走行連動音生成ユニット39は、テーブル番号を調べる(ステップS60)。テーブル番号が「1」または「2」のとき、すなわち発音開始データD1または定常音圧データD2を再生中であれば、走行連動音生成ユニット39は、タイマの計測時間がタイマ最大値に達したかどうかを判断する(ステップS61)。タイマの計測時間がタイマ最大値未満であれば、再生中の走行連動音データの再生が継続され(ステップS56)、さらに、ステップS57からの処理が繰り返される。一方、タイマの計測時間がタイマ最大値に達すると、走行連動音生成ユニット39(より具体的には音データ選択ユニット62)は、テーブル番号「2」を生成する(ステップS62)。そして、走行連動音生成ユニット39は、走行連動音データ再生のためのタイマを零にリセットし、タイマ最大値を発音開始データD2の音声発生最大時間Max(図4参照)に設定する(ステップS63)。これに応答して、音声回路63は、音源LSI64から定常音圧データD2を読み出して再生する(ステップS56)。その後は、ステップS57からの処理が繰り返される。
【0030】
したがって、V1≦V≦V2の条件が満たされると、発音開始データD1が一回だけ再生され、その後は、当該条件が満たされている期間中、定常音圧データD2が繰り返し再生されることになる。
一方、ステップS51において、V<V1またはV2<Vであると判断されると、走行連動音生成ユニット39(より具体的には音データ選択ユニット62)は、音発生ステータスを調べる(ステップS64)。走行連動音を発生していないときには、走行連動音生成ユニット39は、ステップS57からの処理を行う。走行連動音を発生しているときには、走行連動音生成ユニット39は、テーブル番号を調べる(ステップS65)。テーブル番号が「1」または「2」のとき、すなわち発音開始データD1または定常音圧データD2を再生中であれば、走行連動音生成ユニット39(より具体的には音データ選択ユニット62)は、発音停止データD3を指定するためのテーブル番号「3」を生成する(ステップS66)。さらに、走行連動音生成ユニット39は、走行連動音データ再生のためのタイマを零にリセットし、タイマ最大値を発音停止データD3の音声発生最大時間Maxに設定する(ステップS67)。これに応答して、音声回路63は、音源LSI64から発音停止データD3を読み出して再生する(ステップS56)。その後は、ステップS57からの処理が実行される。
【0031】
ステップS65において、テーブル番号が「3」のとき、すなわち、発音停止データD3を再生中であれば、走行連動音生成ユニット39は、タイマの計測時間がタイマ最大値に達したかどうかを判断する(ステップS68)。タイマの計測時間がタイマ最大値未満であれば、再生中の走行連動音データ(すなわち発音停止データD3)の再生が継続される(ステップS56)。一方、タイマの計測時間がタイマ最大値に達すると、走行連動音生成ユニット39は、音声回路63に対して停止指令信号を与える(ステップS69)。これにより、走行連動音の発生が停止する。その後は、ステップS57からの処理が行われる。
【0032】
したがって、「V<V1またはV2<V」の条件が満たされると、発音停止データD3が一回だけ再生されて、走行連動音の発生が停止することになる。
図6Aおよび図6Bは、走行連動音の音圧の変化を説明するための図である。発音条件(V1≦V≦V2)が満たされると、発音開始データD1が一回だけ、再生され、その後は、発音条件が満たされている期間の長さに応じて、定常音圧データD2が再生される。図6Aは定常音圧データD2が一回だけ再生される場合を示し、図6Bは定常音圧データD2が複数回繰り返し再生(ループ再生)される場合を示す。発音条件(V1≦V≦V2)が満たされなくなると、発音停止データD3が一回だけ再生されて、走行連動音データの発生が停止する。
【0033】
以上のように、この実施形態によれば、音源LSI64には、音圧の異なる複数の走行連動音データとして、発音開始データD1、定常音圧データD2および発音停止データD3が格納されている。走行連動音生成ユニット39は、車速Vに応じてそれらの走行連動音データを読み出して再生することにより、走行連動音を発生させる。これにより、車速Vに応じて音量が変化する走行連動音を発音できる。すなわち、読み出した音データを再生するときに、車速に応じた音量制御のための演算を実行する必要がない。これにより、構成が簡単で、制御負荷が少ない走行連動音発生装置を提供できる。
【0034】
また、発音開始データD1を読み出して再生すれば、音量制御をしなくとも、走行連動音の音圧を漸増させて、いわゆるフェードイン動作を実現できる。同様に、発音停止データD3を読み出して再生すれば、音量制御をしなくとも、走行連動音の音圧を漸減させて、いわゆるフェードアウト動作を実現できる。さらに、定常音圧データD2を読み出して再生すれば、音量制御をしなくとも、音圧が一定の走行連動音を発音できる。
【0035】
この実施形態では、車速Vが増加して発音下限車速V1に達すると、発音開始データD1が読み出されて1回だけ再生され、その後に定常音圧データD2が読み出されて再生される。また、定常音圧データD2が再生されている場合において、車速Vが増加して発音上限車速V2に達したときに、発音停止データD3が読み出されて一回だけ再生され、その後は走行連動音の発音が停止される。これにより、発音下限車速V1から発音上限車速V2まで車速Vが変化するときに、音圧が零から漸増して定常音圧となった後に当該定常音圧から零まで漸減する。すなわち、電動二輪車1が加速して、その車速Vが発音下限車速V1に達すると、走行連動音の発音が始まり、定常音圧まで走行連動音の音圧(音量)が漸増する。さらに電動二輪車1が加速すると、車速Vが発音上限車速V2に達するまでは定常音圧で走行連動音が発音され、車速Vが発音上限車速V2に達すると、走行連動音の音圧が漸減されて消音される。こうして、車速Vの増加に伴って、発音下限車速V1から発音上限車速V2までの車速範囲で走行連動音を発音できる。さらに、発音開始時に音圧が漸増するので、大きな走行連動音が急に発音されることがないから、走行連動音を自然に発音開始できる。また、発音停止時には音圧が漸減するので、走行連動音が急に消音されることがないから、走行連動音を自然に消音できる。
【0036】
また、この実施形態では、車速Vが発音下限車速V1未満および発音上限車速V2超のときに、走行連動音をフェードアウトし、その後にその発生を停止するように構成されている。発音下限車速V1未満の低速走行時には、走行連動音を発音する必要性が乏しい。また、発音上限車速V2超の車速域では、電動二輪車1が発生する走行音や機械音が十分に大きく、やはり、走行連動音を発音する必要性が乏しい。したがって、車速Vが発音下限車速V1未満および発音上限車速V2超のときに走行連動音の再生を停止することによって、必要時にのみ走行連動音を発音させて、不必要な騒音およびエネルギー消費を回避できる。
【0037】
なお、図3に示すように、操作者によって操作される発音/消音スイッチ70を設け、この発音/消音スイッチ70の出力信号を発音判断ユニット61に入力するようにしてもよい。発音判断ユニット61は、発音/消音スイッチ70から発音指令信号が入力されると、走行連動音発生指令を生成する。走行連動音を生成していないときに走行連動音発生指令が生成されると、それに応答して、音データ選択ユニット62は、テーブル番号「1」を生成する。これにより、フェードインパターンデータである走行連動音データD1が音源LSI64から読み出されて再生される。その後は、車速Vに応じて走行連動音データの再生が行われることが好ましい。これにより、操作者の操作に応じて、走行連動音を発生できる。また、発音判断ユニット61は、発音/消音スイッチ70から消音指令信号が入力されると、走行連動音停止指令を生成する。走行連動音を生成しているときに走行連動音発生指令が生成されると、それに応答して、音データ選択ユニット62は、テーブル番号「3」を生成する。これにより、フェードアウトパターンデータである走行連動音データD3が音源LSI64から読み出されて再生される。これにより、操作者の操作に応じて、走行連動音を停止できる。
【0038】
図7は、この発明の第2の実施形態に係る走行連動音発生装置において用いられる走行連動音データの例を示す。この走行連動音データは、図4に示した走行連動音データに代えて音源LSI64に格納されるべきデータである。この実施形態の説明において、前述の図1〜図3を再び参照する。
この実施形態では、音源LSI64には、音圧の異なる複数種類の走行連動音データD1〜Dn(nは自然数で、たとえば3以上。図7の例ではn=7)が格納されている。走行連動音データD1〜Dnは、それぞれ一定の音圧P1,P2,……,Pnで一定時間長(たとえば1秒間)だけ継続する音データであって、それらの音圧は、P1<P2<…P<m>…>Pn−1>Pn(mは自然数であり、1<m<n)なる関係を満たしている。図7の例では、m=4、n=7であって、走行連動音データD4の音圧P4が最大音圧(たとえば、第1の実施形態における定常音圧Pに相当)を有している。
【0039】
音圧P1,P2,…,Pm,…,Pnは、発音下限車速V1と発音上限車速V2との間の区間を複数の車速区間v1,v2,v3,…,vm,…,vnに区分したときに、各車速区間v1,v2,v3,……,vnの車速に対して適切な音圧レベルの走行連動音が生成されるように定められている。たとえば、各車速区間v1,v2,v3,…,vm,…,vnの車速Vv1,Vv2,…,Vvm,…,Vvnに関して、Vv1<Vv2<…<Vvm<…<Vvnが成立している。
【0040】
走行連動音データD1〜Dnは、音程の等しい音データであってもよいが、車速が高くなるほど音程が高くなるように各走行連動音データD1〜Dnの音程が定められていることがより好ましい。具体的には、走行連動音データD1〜Dnの音程PI(Di)(ただし、i=1,2,…,m,…,n)に関して、PI(D1)<PI(D2)<……<PI(Dm)<PI(Dn)なる関係が成立していることが好ましい。これにより、車速Vの変化に応じて自然な音程変化が生じる走行連動音を発生できる。
【0041】
走行連動音データD1〜nは、テーブル番号1〜nによって選択されて、音源LSI64から読み出される。
図8は、車速Vに応じた走行連動音データの選択を説明するための図である。走行連動音生成ユニット39の音データ選択ユニット62は、車速推定ユニット37によって推定された現在の車速Vが属する車速区間vi(i=1,2,…,m,…,n)に応じて、テーブル番号iを生成する。車速Vが大きくなるほどテーブル番号iが大きくなる。したがって、低速域においては、車速Vが大きくなるほど、それに応じて選択される走行連動音データDiの音圧レベルPiが高くなる。中速域に対応した車速区間vm(図8の例ではv4)は、比較的広い車速域に渡っており、したがって、中速域ではテーブル番号m(=4)が選択される。よって、中速域の車速区間vm(=v4)では、最も高い音圧レベルPm(=P4)の走行連動音データDm(=D4)が読み出されて再生される。高速域においては、車速Vが大きくなるほどテーブル番号iが大きくなり、それに応じて選択される走行連動音データDiの音圧レベルPiが低くなる(図7参照)。
【0042】
図9は、この実施形態における走行連動音生成ユニット39の動作例を説明するためのフローチャートである。走行連動音生成ユニット39(より具体的には発音判断ユニット61)は、車速推定ユニット37によって推定された現在の車速Vと発音下限車速V1および発音上限車速V2とを比較する(ステップS81)。
V1≦V≦V2のとき、走行連動音生成ユニット39(より具体的には音データ選択ユニット62)は、音発生ステータスを調べる(ステップS82)。走行連動音を発生していないときには、音声回路63に音発生指令信号を供給する(ステップS83)。走行連動音発生中であれば、ステップS83の処理が省かれ、走行連動音生成ユニット39は、走行連動音データの再生時間を計測するタイマの計測時間がタイマ最大値(たとえば1秒)に達したかどうかを判断する(ステップS84)。タイマの計測時間がタイマ最大値に達していれば(ステップS84:YES)、走行連動音生成ユニット39は、車速推定ユニット37によって推定された現在の車速Vが車速区間v1〜vnのいずれに属するかを特定する(ステップS85)。ステップS83で音発生指令信号が生成された後も、ステップS85での車速区間特定が行われる。
【0043】
車速区間が特定されると(ステップS85)、走行連動音生成ユニット39は、その特定された車速区間viに対応するテーブル番号iを生成することにより、走行連動音データDiを選択する(ステップS86)。さらに、走行連動音生成ユニット39は、走行連動音データ再生のためのタイマを零にリセットし、タイマ最大値を走行連動音データDiの音声発生最大時間Max(図7参照。たとえば1秒)に設定する(ステップS87)。これに応答して、音声回路63は、音源LSI64から走行連動音データDiを読み出して再生する(ステップS88)。走行連動音生成ユニット39は、タイマをカウントアップする(ステップS89)。その後、走行連動音生成ユニット39は、システム終了(電源遮断)かどうかを判断し(ステップS90)、終了するときには、音声回路63に停止指令信号を与えて(ステップS91)、処理を終える。システム終了しないときは、走行連動音生成ユニット39は、ステップS81からの処理を繰り返す。
【0044】
ステップS84において、タイマの計測時間がタイマ最大値に達していなければ(ステップS84:NO)、ステップS85〜S87の処理が省かれ、再生中の走行連動音データの再生が継続される(ステップS88)。
したがって、V1≦V≦V2の条件が満たされると、車速Vが属する車速区間viが特定され、その特定された車速区間viに対応する走行連動音データDiを再生する動作が繰り返される。車速Vが変動して車速区間viが変動すれば、それに応じて、選択される走行連動音データDiが変化することになる。
【0045】
一方、ステップS81において、V<V1またはV2<Vであると判断されると、走行連動音生成ユニット39(より具体的には音データ選択ユニット62)は、音発生ステータスを調べる(ステップS92)。走行連動音を発生していないときには、走行連動音生成ユニット39は、ステップS89からの処理を行う。走行連動音を発生しているときには、走行連動音生成ユニット39は、タイマの計測時間がタイマ最大値に達したかどうかを判断する(ステップS93)。タイマの計測時間がタイマ最大値未満であれば、再生中の走行連動音データ(すなわち発音停止データD3)の再生が継続される(ステップS88)。一方、タイマの計測時間がタイマ最大値に達すると、走行連動音生成ユニット39は、音声回路63に対して停止指令信号を与える(ステップS94)。これにより、走行連動音の発生が停止する。
【0046】
したがって、「V<V1またはV2<V」の条件が満たされると、再生中の走行連動音データの再生完了を待って、走行連動音の発生が停止することになる。
このように、この実施形態によれば、V1≦V≦V2を満たす発音車速域内の低速域(車速区間v1〜v3)において、車速Vが大きいほど音圧の大きい走行連動音データが読み出されて再生される。これにより、電動二輪車1が加速して、その車速が発音下限車速V1に達すると、走行連動音が発生され、その発生当初において、音圧が漸増する。すなわち、フェードイン動作が可能となる。そして、車速Vの増加に伴って、たとえば最大音圧P4まで音圧が増加する。また、車速Vが減少すると、走行連動音の音圧レベルがそれに応じて低くなり、フェードアウト動作が行われる。また、電動二輪車1が中速域(車速区間v4)からさらに加速して高速域(車速区間v5〜v7)の車速Vとなると、車速Vが高いほど音圧の低い走行連動音データが読み出されて再生される。これにより、電動二輪車1が加速して、その車速Vが発音上限車速V2を超えて変化する過程で、フェードアウト動作が行われる。また、車速Vが発音上限車速V2を超えた状態から低下してくると、発音上限車速V2以下への減速に伴って、走行連動音が発生し、その音圧が漸増する。これにより、フェードイン動作が可能となる。
【0047】
このように、この実施形態によれば、音源LSI64には、3段階以上の異なる音圧の走行連動音データD1〜Dnが格納されている。そして、その3段階以上の異なる走行連動音データを車速Vに応じて読み出すことにより、音量制御のための演算を要することなく、車速Vに応じた適切な音圧の走行連動音を発音できる。
なお、図9の動作例では、各走行連動音データを音声発生最大時間Maxまで再生するようにしているけれども、車速区間に変動があったときには、音声発生最大時間Maxの経過前であっても、走行連動音データを切り換えるようにしてもよい。具体的には、図9の動作例において、ステップS84,S93を省いてもよい。ただし、車速区間に変動がなければ、同じ走行連動音データを最初から再生しなおすのではなく、その再生を継続することが好ましい。したがって、ステップS85における車速区間判定の結果、車速区間に変動がないときには、タイマの計測時間がタイマ最大値(音声発生最大時間Max)に達するまでは、ステップS86,87の処理を省いて、ステップS88からの処理を実行することが好ましい。この構成の場合、車速変動に応じて走行連動音データが速やかに切り換わるので、車両の走行状態に密接に対応した走行連動音データを優れた応答性で発生させることができる。
【0048】
次に、車速推定ユニット37(図2参照)の構成例について説明する。
図10は、車速推定ユニット37の構成例を説明するためのブロック図である。車速推定ユニット37は、路面勾配推定ユニット50と、車両加速度計算ユニット54と、車速計算ユニット55とを含む。路面勾配推定ユニット50は、電動二輪車1が走行している路面の勾配を推定する勾配推定手段であり、初期路面勾配角度計算ユニット51と、路面勾配角度計算ユニット52とを含む。
【0049】
初期路面勾配角度計算ユニット51は、走行連動音発生装置30に電源が投入された直後に、加速度センサ41の出力信号に基づいて、電動二輪車1が置かれた路面の初期勾配角度θを計算する。走行連動音発生装置30は、たとえば、電動二輪車1の電源が投入されたときに、同時に電源投入されるようになっていてもよい。路面勾配角度計算ユニット52は、角速度センサ42が検出するピッチ角速度(Y軸回りの角速度)を積分することによって、路面勾配角度θを求める。より具体的には、初期勾配角度θを初期値として、走行連動音発生装置30に電源が投入されてからのピッチ角速度を時間積分することによって、路面勾配角度θを求める。すなわち、θ=θ+∫(ピッチ角速度)dt(tは時間)である。
【0050】
車両加速度計算ユニット54は、加速度センサ41によって検出される前後方向加速度(X軸方向加速度)に対して、路面勾配角度θに基づく補正を施すことによって、電動二輪車1の前後方向加速度αを求める加速度推定手段である。車速計算ユニット55は、前後方向加速度αを時間積分することによって、電動二輪車1の車速Vを求める。より具体的には、車速計算ユニット55は、走行連動音発生装置30への電源投入時から前後方向加速度αを積分する。積分初期値は、零(電源投入に伴って零にクリア)とされる。すなわち、V=∫αdtである。
【0051】
図11は、傾斜した路面57上における電源投入直後の状態を示す説明図である。電動二輪車1には、その質量Mに比例する重力Mg(gは重力加速度)が鉛直下方に作用する。この重力MgのX軸方向分力は、初期路面勾配角度θを用いてMg・sinθと表すことができる。また、Z軸方向分力は、初期路面勾配角度θを用いてMg・cosθと表すことができる。加速度センサ41は、たとえば、電動二輪車1の前方(+X方向。進行方向)を正として、前後方向加速度を検出する。路面57で停止しているとき、X軸方向に関して、重力のX軸方向分力Mg・sinθ(−X方向への力)と、電動二輪車1の前方(+X方向)に働く力Mα′とが釣り合っている。また、Z軸方向に関して、重力のZ軸方向分力Mg・cosθと、垂直抗力Mβ′とが釣り合っている。ただし、α′は加速度センサ41によって検出されるX軸方向加速度であり、β′は加速度センサ41によって検出されるZ方向加速度である。電動二輪車1が停止しているときは、その実際の加速度αは零であるが、重力のX方向分力Mgsinθのために、見かけ上の加速度α′(=gsinθ)が検出される。
【0052】
加速度センサ41は、傾斜した路面57上において、前後方向加速度α′(=gsinθ)と、上下方向(Z軸方向)加速度β′(=gcosθ)とを検出する。したがって、初期勾配角度θは、θ=Tan−1(α′/β′)として求めることができる。この計算が、初期路面勾配角度計算ユニット51において実行される。
路面勾配角度θで傾斜した路面57上を電動二輪車1が走行しているとき、加速度センサ41が検出する前後方向加速度α′は、電動二輪車1の実際の前後方向加速度αの成分に、重力加速度gによる寄与分gsinθを加えた値となる。そこで、車両加速度計算ユニット54は、加速度センサ41が検出する前後方向加速度α′から重力加速度gによる寄与分gsinθを減じることにより、電動二輪車1の実際の前後方向加速度α(=α′−gsinθ)を求める。すなわち、車両加速度計算ユニット54は、加速度センサ41の出力信号に対して路面勾配角度θに応じた補正を施すことにより、電動二輪車1の前後方向加速度αを求める。路面勾配角度θは、たとえば、電動二輪車1の進行方向に向かって、水平面に対して仰角の場合を正、水平面に対して俯角の場合を負とすればよい。
【0053】
電動二輪車1が走行しているとき、加速度センサ41は、とりわけ、Z軸方向に関して、路面の凹凸や電動二輪車1の振動によるノイズ成分を検出しやすい。さらに、X軸方向に関して、走行中は、加速度センサ41の出力信号中に、路面傾斜による加速度成分と車速変化による加速度成分との両方が含まれ、それらの成分を区別することは困難である。そのため、走行中の路面の勾配角度θを検出するときに加速度センサ41の出力信号を用いるのは実際的でない。そこで、この実施形態では、初期路面勾配角度θを加速度センサ41の出力信号に基づいて計算した後は、それを積分初期値として、角速度センサ42が出力するピッチ角速度を時間積分することによって、路面勾配角度θを求めている。このような積分演算が、路面勾配角度計算ユニット52によって実行される。こうして求められた路面勾配角度θが、加速度センサ41の出力信号の補正のために、車両加速度計算ユニット54に供給される。
【0054】
車速計算ユニット55は、車両加速度計算ユニット54による補正演算によって得られた前後方向加速度αを時間積分して、車速Vを求める。
図12は、車速推定ユニット37による処理内容を示すフローチャートである。
車速推定ユニット37は、電源投入直後かどうかを判断する(ステップS1)。電源投入直後であれば、車速推定ユニット37は、加速度センサ41の出力信号を読み込み(ステップS2)、車速Vを零にクリアする(ステップS3)。さらに、車速推定ユニット37は、加速度センサ41から取り込んだ前後方向加速度α′および上下方向加速度β′に基づいて、初期路面勾配角度θを計算する(ステップS4)。ステップS2〜S4の動作は、電源投入直後の一回だけ実行される。
【0055】
電源投入直後でないときは(ステップS1:NO)、車速推定ユニット37は、加速度センサ41および角速度センサ42の出力信号を読み込む(ステップS5,S6)。そして、車速推定ユニット37は、角速度センサ42の出力信号を積分することによって、電動二輪車1が走行中の路面の勾配角度θを求める(ステップS7)。さらに、車速推定ユニット37は、求められた路面勾配角度θを用いて、加速度センサ41が出力する前後方向加速度α′を補正(重力加速度成分を補償)して、電動二輪車1の実際の前後方向加速度αを求める(ステップS8)。さらに、車速推定ユニット37は、その前後方向加速度αを時間積分することによって、電動二輪車1の現在の車速Vを求める(ステップS9)。
【0056】
以後、電源が遮断されてシステムが停止するまで、ステップS1〜S9の動作が繰り返される。
図13Aおよび図13Bは、車速推定のための他の構成例を示す。より具体的には、この構成例では、図2に二点鎖線で示すように、走行連動音発生装置30には、GPS受信機45が備えられており、装置本体31の筐体に内蔵されている。そして、車速推定ユニット37は、GPS受信機45の出力信号を用いて、電動二輪車1の車速を推定するように構成されている。GPS受信機45は、地球を周回する複数のGPS衛星のうち、3つのGPS衛星46−1,46−2,46−3からの電波を受信して測位を実行し、その現在位置を表す位置データを出力する。
【0057】
GPS受信機45は、第1の地点AでGPS衛星46−1,46−2,46−3からの信号を受信し(ステップS21)、その受信した信号に基づいて第1の地点Aの位置を表す第1位置データを生成する(ステップS22)。第1位置データは、第1の地点Aの位置情報と、GPS受信機45が第1の地点Aで電波を受信した時間(測位時間)の情報とを含む。車速推定ユニット37は、その第1位置データを取得する(ステップS23)。
【0058】
さらに、ある時間が経過した後、GPS受信機45は、第2の地点BでGPS衛星46−1,46−2,46−3からの信号を受信し(ステップS24)、その受信した信号に基づいて第2の地点Bの位置を表す第2位置データを生成する(ステップS25)。第2位置データは、第2の地点Bの位置情報と、GPS受信機45が第2の地点Bで電波を受信した時間(測位時間)の情報とを含む。車速推定ユニット37は、その第2位置データを取得する(ステップS26)。
【0059】
車速推定ユニット37は、第1位置データおよび第2位置データに基づいて、第1の地点Aと第2の地点Bとの間の距離(移動距離)を計算し(ステップS27)、さらにそれらの間の移動に要した時間(移動時間)を計算する(ステップS28)。車速推定ユニット37は、移動距離を移動時間で除することにより、車速V(=移動距離/移動時間)を計算する(ステップS29)。この動作が、システム終了、すなわち、走行連動音発生装置30の電源遮断まで繰り返される(ステップS30)。
【0060】
このような構成によっても、走行連動音発生装置30は、電動二輪車1の車体側から車速推定のための信号を取得することなく、電動二輪車1の車速を推定できる。
図14は、車速推定のためのさらに他の構成例を示す。この構成例も、図13Aおよび図13Bを参照して説明した構成例と同様に、GPS受信機45の出力を用いる。ただし、この実施形態では、GPS受信機45は、位置データだけでなく、移動速度データも出力する。より具体的には、GPS受信機45は、GPS衛星46−1,46−2,46−3(図13A参照)からの搬送波のドップラー効果を利用して、当該GPS受信機45の移動速度を計算する速度計算機能を有している。
【0061】
より具体的に説明すると、図13Bの場合と同様のステップS21〜S29によって、GPS受信機45が生成する位置データを用いて、第1の車速V1が推定される。さらに、車速推定ユニット37は、第2の地点BにおいてGPS受信機45が生成する移動速度データを第2の車速V2として取得する(ステップS31)。さらに、車速推定ユニット37は、第1の車速V1と第2の車速V2との差|V1−V2|が、予め定める許容値(一定値)未満かどうかを判断する(ステップS32)。その差が許容値未満(または許容値以下)なら、第2の車速V2を現在の車速Vとする(ステップS33)。その差が許容値以上(または許容値超)であれば、第1の車速V1が現在の車速Vとされる(ステップS34)。この動作が、システム終了、すなわち、走行連動音発生装置30の電源遮断まで繰り返される(ステップS30)。
【0062】
第1の車速V1は、第1の地点Aから第2の地点Bまで移動した時点で計算されるので、誤差が少ない反面、車速を推定できるまでに時間がかかる。すなわち、更新に時間がかかる。第2の車速V2は、GPS受信機45から即座に取得できる反面、GPS衛星からの電波の受信状況等によっては、大きな誤差を含む場合がある。そこで、この実施形態では、第1および第2の車速V1,V2の差が許容値未満のときには、ドップラー効果を利用して計測された第2の車速V2の値が信頼できるとみなして、当該第2の車速V2を車速Vとして用いることにしている。第1および第2の車速V1,V2の差が許容値以上のときは、第2の車速V2が信頼できないとみなされて、第1の車速V1が用いられる。
【0063】
このように、この構成例によっても、電動二輪車1の車体側から情報を取得することなく、車速を推定できる。
なお、図14の構成例においては、GPS受信機45が生成する位置データおよび速度データを用いることとしているけれども、位置データを生成する第1のGPS受信機の他に、速度データを生成する第2のGPS受信機を備えてもよい。この場合、第1のGPS受信機から位置データを取得し、第2のGPS受信機から速度データを取得すればよい。GPS受信機が生成する速度データは、電動二輪車1の走行制御に用いられるわけではなく、走行連動音の生成のために用いられるにすぎない。したがって、速度データが多少の誤差を含んでいても問題はない。したがって、専らGPS受信機が生成する速度データを用いて電動二輪車1の車速を推定してもよい。
【0064】
図15は、この発明の第3の実施形態に係る走行連動音発生装置の構成を説明するためのブロック図である。図15において、前述の図2に示された各部の対応部分は同一参照符号で示す。この実施形態では、加速度センサ41、角速度センサ42およびGPS受信機45が省かれており、車速センサ43の出力信号が音合成回路35に供給されるようになっている。よって、音合成回路35は、車速推定ユニット37を有している必要がない。車速センサ43は、電動二輪車1に備えられた既設の車速センサであってもよい。換言すれば、電動二輪車1が有する車速情報が走行連動音発生装置30に供給されるようになっていてもよい。
【0065】
このような構成によっても、第1および第2の実施形態と同様の動作が可能となる。さらに、車速推定のための演算を省くことができるので、音合成回路35の演算負荷を軽減できる。ただし、電動二輪車1の車体側との間に車速情報取得のための配線を設ける必要があるので、配線の構成および配線接続の手間は多くなる。したがって、第1または第2の実施形態の構成の方が、車体に対する取り付け作業が容易であり、とくに走行連動音発生装置30を既存の車体に後付けする場合に好ましい。
【0066】
以上、この発明の実施形態について説明してきたけれども、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、車両の一例として電動二輪車1を示したけれども、エンジン(内燃機関)を動力源として有する車両に対してもこの発明を適用できる。むろん、電気モータおよびエンジンの両方を動力源として有するハイブリッド型の車両にこの発明が適用されてもよい。むろん、二輪車以外の車両に対しても、この発明を適用することができる。
【0067】
また、前述の実施形態では、走行連動音として、エンジン音(エンジン擬似音)を生成する走行連動音発生装置について説明したけれども、走行連動音はエンジン音以外であってもよい。たとえば、電気モータの作動音を模擬した走行連動音(モータ擬似音)であってもよいし、原動機が発生する音とは別の種類の音であってもよい。さらに、生成される走行連動音は、一種類である必要はなく、複数種類の走行連動音を選択して生成できるようにしてもよい。
【0068】
さらに、前述の実施形態では、装置本体31とスピーカ32とを配線33で接続した構成の走行連動音発生装置30を示したけれども、装置本体31とスピーカ32とが一体化されていてもよい。このようにすれば、装置本体31とスピーカ32との間の配線を省くことができるので、構成が一層簡単になり、車体への組み付け作業も一層容易になる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 電動二輪車
2 車体フレーム
3 前輪
4 後輪
5 電気モータ
6 バッテリ
11 ハンドル
12 グリップ
30 走行連動音発生装置
31 装置本体
32 スピーカ
33 配線
35 音合成回路
36 アンプ
37 車速推定ユニット
38 アクセル指令値推定ユニット
39 走行連動音生成ユニット
40 センサ類
41 加速度センサ
42 角速度センサ
43 車速センサ
45 GPS受信機
46−1,46−2,46−3 GPS衛星
50 路面勾配推定ユニット
51 初期路面勾配角度計算ユニット
52 路面勾配角度計算ユニット
54 車両加速度計算ユニット
55 車速計算ユニット
57 傾斜した路面
61 発音判断ユニット
62 音データ選択ユニット
63 音声回路
64 音源LSI
65 発音/停止指令インタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行に連動して走行連動音を発生する装置であって、
音圧の異なる複数の走行連動音データを記憶した記憶手段と、
車速に応じて前記記憶手段から走行連動音データを読み出して再生する再生手段とを含む、走行連動音発生装置。
【請求項2】
前記再生手段が、発音下限車速から発音上限車速まで車速が変化するときに、音圧が零から漸増して定常音圧となった後に当該定常音圧から零まで漸減するように、前記記憶手段から走行連動音データを読み出すように構成されている、請求項1に記載の走行連動音発生装置。
【請求項3】
前記再生手段が、前記発音下限車速未満および前記発音上限車速超の車速のときに走行連動音の発生を停止するように構成されている、請求項2に記載の走行連動音発生装置。
【請求項4】
前記記憶手段に記憶された複数の走行連動音データが、音圧が漸増する発音開始データと、音圧が漸減する発音停止データとを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の走行連動音発生装置。
【請求項5】
前記記憶手段に記憶された複数の走行連動音データが、音圧が一定の定常音圧データをさらに含む、請求項4に記載の走行連動音発生装置。
【請求項6】
前記記憶手段に記憶された複数の走行連動音データが、3段階以上の異なる音圧の走行連動音データを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の走行連動音発生装置。
【請求項7】
前記再生手段が、走行連動音発生指令に応答して音圧が漸増し、走行連動音停止指令に応答して音圧が漸増するように、前記記憶手段から走行連動音データを読み出すように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の走行連動音発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−52806(P2013−52806A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193080(P2011−193080)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)