説明

起倒式落下防止装置

【課題】落下防止部材が海側に向けて倒れた状態から甲板に向けて起立することを防止することができる起倒式落下防止装置を提供する。
【解決手段】船舶及び浮体構造物の甲板25の周囲に起倒可能に設けられ海側への転落を防止する落下防止部材3を備えた起倒式落下防止装置1において、甲板25と落下防止部材3との間に、落下防止部材3の海側に向けて倒れた状態の位置を規制する規制部材9を設け、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態から甲板25に向けて起立されることを防止するあおり止め部材11が係合される甲板側固定部材5を甲板25に設け、甲板側固定部材5に、落下防止部材3が甲板25に向けて引き起こされた状態で落下防止部材3の位置を保持する保持部材を係合すると共に、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態であおり止め部材11を係合する被係合部7を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶及び浮体構造物に適用される起倒式落下防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に取り付けられる起倒式落下防止装置としては、船舶の船尾側にヘリコプターなどの航空機が離発着可能な甲板が設けられ、この甲板の海側の側面に甲板から海側へ作業者などが落下することを防止する落下防止部材としての網が起倒可能に設けられたものが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような起倒式落下防止装置では、落下防止部材が船舶の船尾側に設けられているので、落下防止部材が波風の影響を直接受けることが少ない。このため、落下防止部材は、海側に向けて倒れた状態で、落下防止部材をチェーンなどで吊るような簡易な構成で固定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岡田幸和著,「艦艇工学入門−理論と実際−」,世界の艦船別冊,海人社,1997年11月,p.192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、船舶の船首から船尾に亘って航空機などが離発着可能な甲板を設けた全通甲板型の船舶がある。このような全通甲板型の船舶にも、甲板から海側へ作業者などが落下することを防止するため、甲板の周囲に起倒式の落下防止装置を装備する必要がある。
【0006】
しかしながら、上記のような起倒式落下防止装置では、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で、チェーンのみで吊られるような簡易な構成であるので、波風の影響を強く受ける船首側の落下防止部材が倒れた状態を維持できず、甲板に向けて起立して落下防止部材に破損などが生じてしまう恐れがあった。
【0007】
このような船舶と同様に、リグなどのヘリポートなどの浮体構造物に起倒式落下防止装置が設けられている場合においても、落下防止部材がチェーンのみで吊られるような簡易な構成であるので、浮体構造物の上下動による波風などによって落下防止部材が海側に向けて倒れた状態から甲板に向けて起立してしまう可能性があった。
【0008】
そこで、この発明は、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態から甲板に向けて起立することを防止することができる起倒式落下防止装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、船舶及び浮体構造物の甲板の周囲に起倒可能に設けられ海側への転落を防止する起倒式の落下防止部材を備えた起倒式落下防止装置であって、前記甲板と前記落下防止部材との間には、前記落下防止部材の海側に向けて倒れた状態の位置を規制する規制部材が設けられ、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態から前記甲板に向けて起立されることを防止するあおり止め部材が係合される甲板側固定部材が前記甲板に設けられ、前記甲板側固定部材には、前記落下防止部材が前記甲板に向けて引き起こされた状態で前記落下防止部材の位置を保持する保持部材が係合されると共に、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記あおり止め部材が係合される被係合部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
この起倒式落下防止装置では、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態から甲板に向けて起立されることを防止するあおり止め部材が係合される甲板側固定部材が甲板に設けられているので、波風の影響が強い船舶の船首側や浮体構造物の周囲において、落下防止部材の海側に向けて倒れた状態を確実に保持することができ、落下防止部材の破損を防止することができる。
【0011】
また、甲板側固定部材には、落下防止部材が甲板に向けて引き起こされた状態で落下防止部材の位置を保持する保持部材が係合されると共に、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態であおり止め部材が係合される被係合部が設けられているので、1つの被係合部に2つの機能を持たせることができ、構造を簡易化して部品点数を削減することができる。
【0012】
従って、このような起倒式落下防止装置では、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態から甲板に向けて起立することを防止することができる。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の起倒式落下防止装置であって、前記落下防止部材には、前記落下防止部材が前記甲板に向けて引き起こされた状態で前記被係合部と前記保持部材を介して係合される落下防止側固定部材が設けられていることを特徴とする。
【0014】
この起倒式落下防止装置では、落下防止部材が甲板に向けて引き起こされた状態で被係合部と保持部材を介して係合される落下防止側固定部材が落下防止部材に設けられているので、必要時以外に落下防止部材が海側に向けて倒されることがなく、落下防止部材の甲板に向けて引き起こされた状態を確実に保持することができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の起倒式落下防止装置であって、前記あおり止め部材は、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記被係合部と前記落下防止側固定部材とに両端部が係合されるロッドであることを特徴とする。
【0016】
この起倒式落下防止装置では、あおり止め部材が、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で被係合部と落下防止側固定部材とに両端部が係合されるロッドであるので、落下防止部材が波風を受けたとしてもロッドで落下防止部材を固定させることができ、落下防止部材が甲板に向けて起立されることを防止することができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の起倒式落下防止装置であって、前記被係合部と前記ロッドとの間には、前記被係合部から前記落下防止側固定部材までの前記ロッドの長さを調整する調整部が設けられていることを特徴とする。
【0018】
この起倒式落下防止装置では、被係合部とロッドとの間に被係合部から落下防止側固定部材までのロッドの長さを調整する調整部が設けられているので、ロッドの長さを調整することによって複数の落下防止部材の製作誤差等により落下防止部材の海側に向けて倒れた状態における距離の違いを吸収することができる。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項1又は2記載の起倒式落下防止装置であって、前記規制部材は、前記落下防止部材に一端側が第1軸支部で軸支された第1リンクと、一端側が前記第1リンクの他端側に第2軸支部で軸支されると共に他端側が前記甲板側固定部材に第3軸支部で軸支された第2リンクとを有し、前記第1リンクと前記第2リンクとは、前記落下防止部材が前記甲板に向けて引き起こされた状態で前記甲板側に前記第2軸支部で折り曲げられて格納され、前記あおり止め部材は、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記被係合部と前記第2リンクに設けられたリンク側固定部材とに係合されるピンであることを特徴とする。
【0020】
この起倒式落下防止装置では、規制部材が第1リンクと第2リンクとからなり、これらの第1リンクと第2リンクとが落下防止部材が甲板に向けて引き起こされた状態で甲板側に第2軸支部で折り曲げられて格納される。また、あおり止め部材は、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で被係合部と第2リンクに設けられたリンク側固定部材とに係合されるピンとなっている。
【0021】
このため、あおり止め部材としてロッドのような比較的大きな部材を別部材として取り扱うことがなく、あおり止め部材の運搬性及び格納性を向上することができる。加えて、被係合部とリンク側固定部材とにあおり止め部材としてのピンを係合させればよいので、甲板上で係合を行うことができ、組付作業性を向上することができる。
【0022】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の起倒式落下防止装置であって、前記第1リンクと前記第2リンクとの間には、一端側が前記第2軸支部で前記第1リンクに軸支されると共に他端側が前記第2リンクの一端側に第4軸支部で軸支された第3リンクが設けられ、前記第1リンクと前記第2リンクと前記第3リンクとは、前記落下防止部材が前記甲板に向けて引き起こされた状態で前記甲板側に前記第2軸支部と前記第4軸支部とで折り曲げられて格納され、前記第2リンクと前記第3リンクとの間には、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記第2リンクと前記第3リンクとを固定する固定部が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この起倒式落下防止装置では、規制部材が第1リンクと第2リンクと第3リンクとからなり、これらの第1リンクと第2リンクと第3リンクとが落下防止部材が甲板に向けて引き起こされた状態で甲板側に第2軸支部と第4軸支部とで折り曲げられて格納されるので、規制部材の格納状態をコンパクト化することができ、甲板上における規制部材の格納スペースを削減することができる。
【0024】
請求項7記載の発明は、請求項2記載の起倒式落下防止装置であって、前記規制部材は、一端側が前記落下防止部材に固定されたチェーンと、一端側に前記チェーンの他端側が固定されると共に他端側が前記甲板側固定部材に軸支されたリンクとを有し、前記リンクの一端側には、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記落下防止側固定部材と当接するストッパが設けられ、前記あおり止め部材は、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記被係合部と前記リンクに設けられたリンク側固定部材とに係合されるピンであることを特徴とする。
【0025】
この起倒式落下防止装置では、規制部材がチェーンとリンクとからなり、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態でリンクに設けられたストッパが落下防止部材に設けられた落下防止側固定部材と当接するので、落下防止側固定部材を落下防止部材の引き起こし状態の保持と、落下防止部材の倒れた状態でのあおり止めとして機能させることができ、構造を簡易化することができる。
【0026】
請求項8記載の発明は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の起倒式落下防止装置であって、前記落下防止部材は、網からなることを特徴とする。
【0027】
この起倒式落下防止装置では、落下防止部材が網からなるので、甲板から海側に向けて落下する落下物の損傷を軽減することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態から甲板に向けて起立することを防止することができる起倒式落下防止装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る起倒式落下防止装置の側面図である。(b)は図1(a)の平面図である。
【図2】(a)は本発明の第1実施形態に係る起倒式落下防止装置の落下防止部材が甲板に向けて引き起こされた状態の拡大図である。(b)は本発明の第1実施形態に係る起倒式落下防止装置の落下防止部材が海側に向けて倒れた状態の拡大図である。
【図3】(a)は本発明の第1実施形態に係る起倒式落下防止装置のロッドと調整部との上面図である。(b)は本発明の第1実施形態に係る起倒式落下防止装置のロッドと調整部との側面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る起倒式落下防止装置の落下防止部材が海側に向けて倒れた状態の拡大図である。
【図5】(a)は本発明の第2実施形態に係る起倒式落下防止装置の側面図である。(b)は図5(a)の拡大図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る起倒式落下防止装置の側面図である。
【図7】(a)は本発明の第4実施形態に係る起倒式落下防止装置の側面図である。(b)は本発明の第4実施形態に係る起倒式落下防止装置の落下防止部材が海側に向けて倒れた状態の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1〜図7を用いて本発明の実施の形態に係る起倒式落下防止装置について説明する。
【0031】
本実施の形態に係る起倒式落下防止装置は、ヘリコプターなどの航空機が離発着可能な甲板が船首から船尾に亘って設けられた全通甲板型の船舶やリグなどのヘリポートなどの浮体構造物に設けられている。詳細には、落下防止部材は、甲板の周囲に起倒可能に設けられている。このような起倒式落下防止装置は、落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で、甲板から海側へ作業者などが転落することを防止している。以下、各実施形態における起倒式落下防止装置について説明する。なお、各図面において、実線は落下防止部材が海側に向けて倒れた状態を示し、2点鎖線は落下防止部材が甲板に向けて引き起こされた状態を示すものとする。
【0032】
(第1実施形態)
図1〜図4を用いて第1実施形態について説明する。
【0033】
本実施の形態に係る起倒式落下防止装置1は、図1(a)に示すように、落下防止部材3と、甲板側固定部材5と、被係合部7と、規制部材としてのチェーン9と、あおり止め部材としてのロッド11と、調整部13とを備えている。
【0034】
図1(a),(b)に示すように、落下防止部材3は、本体部15と、落下防止側固定部材17と、網部19とを備えている。本体部15は、四角形状の枠体からなる。この本体部15の海側側面21側は、海側側面21に設けられたアイプレート22と連結部23とを介して海側側面21に連結されており、本体部15が甲板25に向けて引き起こされる方向、及び海側に向けて倒れる方向に起倒式に設けられている。この本体部15には、落下防止側固定部材17が設けられている。
【0035】
落下防止側固定部材17は、本体部15が甲板25に向けて引き起こされた状態で、甲板25に設けられた甲板側固定部材5の被係合部7と係合する位置に本体部15と一体に設けられている。この落下防止側固定部材17は、先端側に係合孔27が設けられており、図2(a)に示すように、本体部15が甲板25に向けて引き起こされた状態で、ピンなどの保持部材29が被係合部7と共に係合され、落下防止部材3の位置を保持する。
【0036】
図1(b)に示す網部19は、本体部15に引張力を有して取り付けられている。この網部19は、図1(a)に実線で示すように、本体部15が海側に向けて倒れた状態で、作業者や荷物などの落下物が甲板25から海側へ転落することを防止する。このように落下防止部材3は、主として網部19からなる。このような落下防止部材3は、図1(a)に想像線で示すように甲板25に向けて引き起こされた状態と、実線で示すように海側に向けて倒れた状態とが、甲板25に設けられた甲板側固定部材5を用いて保持される。
【0037】
甲板側固定部材5は、甲板25上に一体に固定されている。この甲板側固定部材5には、孔からなる被係合部7が設けられている。被係合部7は、落下防止部材3が甲板25に向けて引き起こされた状態で落下防止側固定部材17と共に保持部材29が係合されると共に、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態でロッド11が係合される。このような2通りの係合により、落下防止部材3の起立状態の保持と、落下防止部材3のあおり止めとの2つの機能を1箇所の被係合部7に持たせることができる。このような甲板側固定部材5の被係合部7の上部には、落下防止部材3の海側に向けて倒れた状態の位置を規制するチェーン9が固定されている。
【0038】
チェーン9は、一端が落下防止部材3の本体部15に固定され、他端が甲板側固定部材5に固定されている。このチェーン9は、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で、落下防止部材3がさらに海側に向けて倒れることを規制して落下防止部材3の位置決めを行う。このようなチェーン9によって海側に向けて倒れた状態が維持された落下防止部材3は、ロッド11によって甲板25に向けて起立されることが防止されている。
【0039】
ロッド11は、図3(a)に示すように、一端がL字状に形成された係合ピン11aとなっている。このロッド11は、図2(b)に示すように、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で、作業者H(図1(a)参照)が甲板25上で他端を蝶ナット31及び取付用ボルト31aによって甲板側固定部材5の孔からなる被係合部7に固定させ、一端の係合ピン11aを落下防止側固定部材17の係合孔27に係合させる。このロッド11により、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で、図1(a)の矢印で示すような波風の影響を落下防止部材3が受けても、落下防止部材3が甲板25に向けて起立されることを防止することができる。このようなロッド11と被係合部7との間には、被係合部7から落下防止側固定部材17までの長さを調整する調整部13が設けられている。
【0040】
図3(b)に示すように、調整部13は、ロッド11と被係合部7との間にリンク33と、ロッド11の上面から下面に向けて挿通された調整ボルト35と、この調整ボルト35に締結されロッド11の上面に当接する蝶ナット37とからなる。リンク33は、W字状に形成され、ロッド11側の端部が軸支部39でロッド11に軸支され、被係合部7側の端部が被係合部7に係合され、中央部が調整ボルト35の端部に軸支部41で軸支されている。
【0041】
このような調整部13は、図4に示すように、ロッド11を落下防止部材3に組み付ける前の状態で、蝶ナット37を締め込むことにより、リンク33が軸支部39を中心に矢印Aの方向に回動し、ロッド11とリンク33とがなす角度αが大きくなる。これにより、ロッド11の落下防止側固定部材17に係合される係合ピン11aから被係合部7までの距離(長さ)が徐々に大きくなり、落下防止側固定部材17の係合孔27と被係合部7との間の距離Lに合わせることができ、ロッド11の落下防止側固定部材17側の係合ピン11aを落下防止側固定部材17の係合孔27に係合させることができる。
【0042】
また、ロッド11を落下防止部材3に組み付けた状態では、図4に示すように、さらに蝶ナット37を締め込むことにより、ロッド11の長さ、詳細には距離Lが伸びると共に落下防止側固定部材17に荷重Dが作用する。この荷重Dの分力D1により、落下防止部材3を下方に押し、ガタつきを抑制して、落下防止部材3のあおりを抑制することができる。
【0043】
なお、従来から船舶や浮体構造物に装備されている落下防止部材には、落下防止部材が甲板25に向けて引き起こされた状態を保持するために落下防止側固定部材17が設けられており、上述したようなロッド11を適用することにより、既存の起倒式落下防止装置にあおり止め機能を付与することができる。
【0044】
このような起倒式落下防止装置1では、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態から甲板25に向けて起立されることを防止するロッド11が係合される甲板側固定部材5が甲板25に設けられているので、波風の影響が強い船舶の船首側や浮体構造物の周囲において、落下防止部材3の海側に向けて倒れた状態を確実に保持することができ、落下防止部材3の破損を防止することができる。
【0045】
また、甲板側固定部材5には、落下防止部材3が甲板25に向けて引き起こされた状態で落下防止部材3の位置を保持する保持部材29が係合されると共に、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態でロッド11が係合される被係合部7が設けられているので、1つの被係合部7に2つの機能を持たせることができ、構造を簡易化して部品点数を削減することができる。
【0046】
従って、このような起倒式落下防止装置1では、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態から甲板25に向けて起立することを防止することができる。
【0047】
また、落下防止部材3が甲板25に向けて引き起こされた状態で被係合部7と保持部材29を介して係合される落下防止側固定部材17が落下防止部材3に設けられているので、必要時以外に落下防止部材3が海側に向けて倒されることがなく、落下防止部材3の甲板25に向けて引き起こされた状態を確実に保持することができる。
【0048】
さらに、あおり止め部材は、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で被係合部7と落下防止側固定部材17とに両端部が係合されるロッド11であるので、落下防止部材3が波風を受けたとしてもロッド11で落下防止部材3を固定させることができ、落下防止部材3が甲板25に向けて起立されることを防止することができる。
【0049】
また、被係合部7とロッド11との間に被係合部7から落下防止側固定部材17までのロッド11の長さを調整する調整部13が設けられているので、ロッド11の長さを調整することによって複数の落下防止部材3の製作誤差等により落下防止部材3の海側に向けて倒れた状態における距離Lの違いを吸収することができる。
【0050】
(第2実施形態)
図5を用いて第2実施形態について説明する。
【0051】
本実施の形態に係る起倒式落下防止装置101は、図5(a)に示すように、規制部材103が、第1リンク105と第2リンク107とからなる。また、あおり止め部材は、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で、被係合部7と第2リンク107に設けられたリンク側固定部材109とに係合されるピン111となっている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略する。また、第1実施形態と同一の構成の部分について得られる効果は第1実施形態と同一である。
【0052】
図5(a),(b)に示すように、規制部材103は、第1リンク105の一端が第1軸支部113で落下防止部材3に軸支され、第2リンク107の一端が第1リンク105の他端に第2軸支部115で軸支されると共に他端が甲板側固定部材5に第3軸支部117で軸支されている。また、第2リンク107の第3軸支部117近傍には、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で被係合部7とピン111を介して係合されるリンク側固定部材109が設けられている。この規制部材103は、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で、チェーン9(例えば、図1参照)と同様に、落下防止部材3がさらに海側に向けて倒れることを規制して落下防止部材3の位置決めを行う。
【0053】
このような規制部材103は、図5(a)の想像線で示すように、落下防止部材3が甲板25に向けて引き起こされた状態で、甲板25上で第1リンク105と第2リンク107とが第2軸支部115の位置で折れ曲がり、落下防止部材3よりも甲板25側に格納される。なお、このとき、落下防止部材3は、落下防止側固定部材17と甲板側固定部材5の被係合部7とに保持部材29(図2(a)参照)が係合されて引き起こし状態が保持される。
【0054】
また、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態では、第1リンク105と第2リンク107とが直線となって落下防止部材3を支持すると共に、図5(b)に示すように、第2リンク107のリンク側固定部材109と被係合部7とにピン111を係合して第2リンク107を固定することにより、第2軸支部115の位置が固定され落下防止部材3のあおりを防止する。なお、図5(a)の実線で示すように、落下防止部材3が波風を受けた場合には、落下防止部材3には上向きの荷重Fが作用し、これにより第1リンク105及び第2リンク107には荷重Fの分力F1が作用する。このため、第2リンク107のリンク側固定部材109にピン111を係合して第2リンク107を固定することにより、第1リンク105と第2リンク107との直線状態が固定され、落下防止部材3のあおり止めを行うことができる。
【0055】
このような起倒式落下防止装置101では、規制部材103が第1リンク105と第2リンク107とからなり、これらの第1リンク105と第2リンク107とが落下防止部材3が甲板25に向けて引き起こされた状態で甲板25側に第2軸支部115で折り曲げられて格納される。また、あおり止め部材は、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で被係合部7と第2リンク107に設けられたリンク側固定部材109とに係合されるピン111となっている。
【0056】
このため、あおり止め部材としてロッド11(例えば、図1参照)のような比較的大きな部材を別部材として取り扱うことがなく、あおり止め部材の運搬性及び格納性を向上することができる。加えて、被係合部7とリンク側固定部材109とにあおり止め部材としてのピン111を係合させればよいので、甲板25上で係合を行うことができ、組付作業性を向上することができる。
【0057】
(第3実施形態)
図6を用いて第3実施形態について説明する。
【0058】
本実施の形態に係る起倒式落下防止装置201は、図6に示すように、規制部材203が、第1リンク105と第2リンク107、第3リンク205とからなる。なお、他の実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略する。また、他の実施形態と同一の構成の部分について得られる効果は他の実施形態と同一である。
【0059】
図6に示すように、規制部材203は、第1リンク105と第2リンク107との間に、第3リンク205を設けて構成されている。この第3リンク205は、一端側が第2軸支部115で第1リンク105に軸支されると共に他端側が第2リンク107の一端側に第4軸支部207で軸支されている。また、第2リンク107と第3リンク205との第4軸支部207近傍には、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で第2リンク107と第3リンク205とを固定するためのピンが係合される固定部209が設けられている。
【0060】
このような規制部材203は、図6の想像線で示すように、落下防止部材3が甲板25に向けて引き起こされた状態で、甲板25上で第1リンク105と第2リンク107と第3リンク205とが第2軸支部115と第4軸支部207の位置で折れ曲がり、落下防止部材3よりも甲板25側に格納される。特に、第2リンク107と第3リンク205とが第4軸支部207の位置で折れ曲がるので、規制部材203が甲板25上に格納された状態で、甲板25の内側に向けて張り出すことが抑制され、甲板25上の作業スペースを広くすることができる。
【0061】
また、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態では、第2リンク107と第3リンク205との固定部209にピンを係合することにより、第1リンク105と第2リンク107と第3リンク205とが直線となって落下防止部材3を支持する。また、第2リンク107のリンク側固定部材109と被係合部7とにピン111を係合して第2リンク107を固定することにより、第2軸支部115の位置が固定され落下防止部材3のあおりを防止する。
【0062】
このような起倒式落下防止装置201では、規制部材203が第1リンク105と第2リンク107と第3リンク205とからなり、これらの第1リンク105と第2リンク107と第3リンク205とが落下防止部材3が甲板25に向けて引き起こされた状態で甲板25側に第2軸支部115と第4軸支部207とで折り曲げられて格納されるので、規制部材203の格納状態をコンパクト化することができ、甲板25上における規制部材203の格納スペースを削減することができる。
【0063】
(第4実施形態)
図7を用いて第4実施形態について説明する。
【0064】
本実施の形態に係る起倒式落下防止装置301は、図7(a)に示すように、規制部材303がチェーン305と、リンク307とからなる。また、あおり止め部材は、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で被係合部7とリンク307に設けられたリンク側固定部材309とに係合されるピン311となっている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略する。また、第1実施形態と同一の構成の部分について得られる効果は第1実施形態と同一である。
【0065】
図7(a),(b)に示すように、規制部材303は、チェーン305の一端が落下防止部材3に固定され、リンク307の一端がチェーン305の他端に固定される共に他端が甲板側固定部材5に軸支部313で軸支されている。また、リンク307のチェーン305との固定部近傍には、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で落下防止側固定部材17と当接するストッパ315が設けられている。また、リンク307の軸支部313近傍には、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で被係合部7とピン311を介して係合されるリンク側固定部材309が設けられている。
【0066】
このような規制部材303は、図7(a)の実線で示すように、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態で、リンク307のストッパ315と落下防止側固定部材17とが当接してチェーン305とリンク307とが直線となって落下防止部材3を支持する。また、リンク307のリンク側固定部材309と被係合部7とにピン311を係合してリンク307を固定することにより、ストッパ315と落下防止側固定部材17との当接位置が固定され落下防止部材3のあおりを防止する。なお、落下防止部材3が波風を受けた場合には、図7(b)に示すように、落下防止部材3には上向きの荷重Fが作用し、リンク307のストッパ315には軸支部313の方向に荷重F1が作用すると共に、軸支部313の方向と垂直の方向に荷重F2が作用する。この荷重F2による軸支部313を中心とするモーメントMを支えるため、甲板側固定部材5の被係合部7とリンク307のリンク側固定部材309とにピン311を係合させて固定する。これにより、リンク307が固定され、落下防止部材3のあおり止めを行うことができる。
【0067】
このような起倒式落下防止装置301では、規制部材303がチェーン305とリンク307とからなり、落下防止部材3が海側に向けて倒れた状態でリンク307に設けられたストッパ315が落下防止部材3に設けられた落下防止側固定部材17と当接するので、落下防止側固定部材17を落下防止部材3の引き起こし状態の保持と、落下防止部材3の倒れた状態でのあおり止めとして機能させることができ、構造を簡易化することができる。加えて、被係合部7とリンク側固定部材309とにあおり止め部材としてのピン311を係合させればよいので、甲板25上で係合を行うことができ、組付作業性を向上することができる。
【0068】
なお、本発明の実施の形態に係る起倒式落下防止装置では、規制部材としてチェーンを適用しているが、これに限らず、ワイヤなど落下防止部材が海側に向けて倒れた状態を保持できるものであればどのような形態であってもよい。
【0069】
また、本発明の起倒式落下防止装置は、全通甲板型の船舶や浮体構造物に限らず、甲板を有する船舶や海上に設置された海上構造物などに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1,101,201,301…起倒式落下防止装置
3…落下防止部材
5…甲板側固定部材
7…被係合部
9,103,203,303…チェーン(規制部材)
11…ロッド(あおり止め部材)
13…調整部
17…落下防止側固定部材
25…甲板
29…保持部材
105…第1リンク
107…第2リンク
109,309…リンク側固定部材
111,311…ピン(あおり止め部材)
113…第1軸支部
115…第2軸支部
117…第3軸支部
205…第3リンク
207…第4軸支部
209…固定部
305…チェーン
307…リンク
315…ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶及び浮体構造物の甲板の周囲に起倒可能に設けられ海側への転落を防止する起倒式の落下防止部材を備えた起倒式落下防止装置であって、
前記甲板と前記落下防止部材との間には、前記落下防止部材の海側に向けて倒れた状態の位置を規制する規制部材が設けられ、
前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態から前記甲板に向けて起立されることを防止するあおり止め部材が係合される甲板側固定部材が前記甲板に設けられ、
前記甲板側固定部材には、前記落下防止部材が前記甲板に向けて引き起こされた状態で前記落下防止部材の位置を保持する保持部材が係合されると共に、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記あおり止め部材が係合される被係合部が設けられていることを特徴とする起倒式落下防止装置。
【請求項2】
請求項1記載の起倒式落下防止装置であって、
前記落下防止部材には、前記落下防止部材が前記甲板に向けて引き起こされた状態で前記被係合部と前記保持部材を介して係合される落下防止側固定部材が設けられていることを特徴とする起倒式落下防止装置。
【請求項3】
請求項2記載の起倒式落下防止装置であって、
前記あおり止め部材は、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記被係合部と前記落下防止側固定部材とに両端部が係合されるロッドであることを特徴とする起倒式落下防止装置。
【請求項4】
請求項3記載の起倒式落下防止装置であって、
前記被係合部と前記ロッドとの間には、前記被係合部から前記落下防止側固定部材までの前記ロッドの長さを調整する調整部が設けられていることを特徴とする起倒式落下防止装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の起倒式落下防止装置であって、
前記規制部材は、前記落下防止部材に一端側が第1軸支部で軸支された第1リンクと、一端側が前記第1リンクの他端側に第2軸支部で軸支されると共に他端側が前記甲板側固定部材に第3軸支部で軸支された第2リンクとを有し、
前記第1リンクと前記第2リンクとは、前記落下防止部材が前記甲板に向けて引き起こされた状態で前記甲板側に前記第2軸支部で折り曲げられて格納され、
前記あおり止め部材は、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記被係合部と前記第2リンクに設けられたリンク側固定部材とに係合されるピンであることを特徴とする起倒式落下防止装置。
【請求項6】
請求項5記載の起倒式落下防止装置であって、
前記第1リンクと前記第2リンクとの間には、一端側が前記第2軸支部で前記第1リンクに軸支されると共に他端側が前記第2リンクの一端側に第4軸支部で軸支された第3リンクが設けられ、
前記第1リンクと前記第2リンクと前記第3リンクとは、前記落下防止部材が前記甲板に向けて引き起こされた状態で前記甲板側に前記第2軸支部と前記第4軸支部とで折り曲げられて格納され、
前記第2リンクと前記第3リンクとの間には、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記第2リンクと前記第3リンクとを固定する固定部が設けられていることを特徴とする起倒式落下防止装置。
【請求項7】
請求項2記載の起倒式落下防止装置であって、
前記規制部材は、一端側が前記落下防止部材に固定されたチェーンと、一端側に前記チェーンの他端側が固定されると共に他端側が前記甲板側固定部材に軸支されたリンクとを有し、
前記リンクの一端側には、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記落下防止側固定部材と当接するストッパが設けられ、
前記あおり止め部材は、前記落下防止部材が海側に向けて倒れた状態で前記被係合部と前記リンクに設けられたリンク側固定部材とに係合されるピンであることを特徴とする起倒式落下防止装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の起倒式落下防止装置であって、
前記落下防止部材は、網からなることを特徴とする起倒式落下防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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