説明

超伝導材料

【課題】高い超伝導転移温度を有するLnFeAsOを提供すること。
【解決手段】本発明は、強ZrCuSiAs型の結晶構造を有するLnFeAsO(LnはYまたは希土類)であって、FeAs四面体中のAs−Fe−As角度が106°以上113°以下であることを特徴とする超伝導材料である。LnがNdの場合、As−Fe−As角度は111°以下であることが好ましく、LnがLaである場合、As−Fe−As角度は113°以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導材料に関し、特に、LnFeAsOである超伝導材料に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導転移温度Tcの高い超伝導材料として、ZrCuSiAs型の結晶構造を有するLnFeAsO(LnはYまたは希土類)が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−320829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ZrCuSiAs型の結晶構造を有するLnFeAsOが超伝導体であることは知られているものの、どのような条件でLnFeAsOの超伝導転移温度Tcが高くなるのかは知られていない。このため、LnFeAsOを作製しても、高い超伝導転移温度Tcを有する場合と、超伝導転移温度Tcが低い場合がある。本発明は、高い超伝導転移温度を有するLnFeAsOを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ZrCuSiAs型の結晶構造を有するLnFeAsO(LnはYまたは希土類)であって、FeAs四面体中のAs−Fe−As角度が106°以上113°以下であることを特徴とする超伝導材料である。
【0005】
上記構成において、前記LnはNdであり、前記As−Fe−As角度は111°以下である構成とすることができる。また、上記構成において、前記LnはLaであり、前記As−Fe−As角度は113°以下である構成とすることができる。
【0006】
上記構成において、前記As−Fe−As角度は108°以上111°以下である構成とすることができる。また、上記構成において、前記LnFeAsOをNdLnFeAsO1−yとしたとき、yは0.08以上である構成とすることができる。さらに、上記構成において、前記Lnは、La、Ce、Pr、Nd、TbおよびDyのいずれかである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い超伝導転移温度を有する超伝導材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、ZrCuSiAs型の結晶構造を有するLnFeAsOの結晶構造を示す図である。Lnは、Y(イットリウム)または3価の希土類(La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム))である。Feは鉄、Asは砒素、Oは酸素である。図1の破線はユニットセルを示している。結晶構造中には、図2で示すFeAsからなる四面体が形成されている。四面体中のAs−Fe−As角度を角度αおよびβとする。FeAsからなる四面体が正四面体の場合、角度αおよびβはいずれも109.47°となる。本発明者は、FeAsからなる四面体が正四面体に近い場合、つまり角度αおよびβが109.47°に近い場合、LnFeAsOの超伝導転移温度Tcが高くなることを見出した。以下に、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0009】
LnFeAsOの製造方法を説明する。材料としては、LnAs、FeおよびFe粉末を用いた。粉末をBN坩堝中に入れ、2GPa、1200℃において2時間加熱し、粉末を焼結させた。各粉末の量はLnFeAsO1−yにおける酸素欠損率yが約0.3となるように、粉末の混合量を調整した。酸素欠損率yはLnFeAsO結晶からの酸素の欠損率を示している。y=0は酸素が欠損していないことを示している。y=1は酸素がないことを示している。なお、焼結の際の圧力は、例えば常圧〜5.5GPaでもよく、温度は例えば800〜1400℃でもよい。
【0010】
焼結したLnFeAsOについて、中性子線回折を用いたリートベルト法による結晶構造解析により角度αを測定した。測定は室温で行なった。また、LnFeAsOの超伝導転移温度Tcについても測定した。図3は、LnとしてLa、Ce、Pr、Nd、TbおよびDyのいずれかを用いたLnFeAsOにおける超伝導転移温度Tcと角度αとの関係を示した図である。黒丸は測定点を示し、実線は黒丸を繋いだ線である。破線は、実線を109.47°を中心に対称に記載している。超伝導転移温度Tcは、角度αが109.47°付近で最も大きくなる。つまり、FeAsからなる四面体が正四面体に近い場合、超伝導転移温度Tcが大きくなる。これまで、LnFeAsOの結合はイオン結合性を有していると考えられていた。LnFeAsO結晶にFを添加したり、Oを欠損させることによりキャリアを生成し、LnFeAsOの超伝導転移温度Tcが向上すると考えられていた。しかしながら、LnFeAsOの結合、結合長を考慮するとイオン結晶性というよりは共有結合性を有しており、FeAsからなる四面体を正四面体とすることによりLnFeAsOの超伝導転移温度Tcを向上できることがわかった。
【実施例2】
【0011】
NdFeAsOについて、超伝導転移温度Tcが高くなる範囲をより詳細に測定した。NdFeAsOの製造方法は実施例1と同じである。図4は、NdAs、FeおよびFe粉末の混合量より計算したNdFeAsO1−yにおける酸素欠損率yと超伝導転移温度Tcの関係を示す図である。図4より、酸素欠損率yが0、0.2、1.0の場合、超伝導転移温度Tcはほぼ0である。すなわち、この材料は超伝導とはならない。一方、酸素欠損率yが0.3〜0.8の場合、超伝導転移温度Tcが高くなる。
【0012】
上述のように図4で示した酸素欠損率yはNdAs、FeおよびFe粉末の混合量より計算したものであり、実際の結晶の酸素欠損率ではない。そこで、中性子線回折法によるリートベルト解析により、NdFeAsO1−yの酸素欠損率yを測定した。なお、酸素欠損率を測定する方法としてX線回折法も考えられるが、X線回折法を用いる場合、酸素の組成比の測定誤差が大きくなる。図5は、中性子線回折法を用い測定した酸素欠損率yと超伝導転移温度Tcの関係を示す図である。y≧0.08において超伝導転移温度Tcが高くなっている。図5では、中性子線回折法を用いることにより、酸素欠損率yと超伝導転移温度Tcとの関係を正確に測定することができた。
【0013】
図6は、中性子線回折法を用い測定した酸素欠損率yと角度α、βの関係を示す図である。黒丸は室温で測定した角度α、βである。白丸は酸素欠損率yが約0.175のNdFeAsOを10Kで測定した角度α、βである。黒丸より酸素欠損率yが大きくなると角度αが小さくなり、角度βが大きくなる。これにより、角度αおよびβは109.47°に近づく。つまり、FeAsからなる四面体を正四面体に近づく。このように、酸素欠損率yを変化させることにより、角度αを制御することができる。なお、10Kで測定した角度αは室温に比べ約0.7°小さくなる。一方、10Kで測定した角度βは室温に比べ約0.3°大きくなる。角度αと角度βとは対称であるから、10Kの角度αおよびβは室温に対し約0.5°(0.7°と0.3°の平均)変化している。つまり、10Kの角度αは室温に対し約0.5°小さく、10Kの角度βは室温に対し約0.5°大きい。
【0014】
図7は、NdFeAsO1−yおよびLaFeAsO1−yにおける角度αと超伝導転移温度Tcの関係を示す図である。黒丸および白丸はそれぞれ室温および10Kで測定したNdFeAsO1−yの角度αを示している。一番右側の黒丸と白丸とは同じ試料を測定している。黒四角および白四角は室温で測定したLaFeAsO1−yにおける角度αを示している。なお、黒四角はhttp://arxic.org/abs/0804.3569(”Crystallographic phase transition and high-Tc superconductivity in LaFeAsO:F” T Nomura, S W Kim, Y Kamihara, M Hirano, P V Sushko, K Kato, M Takata, A L Shluger and H Hosono)に掲載されている論文中のF(フッ素)を意図的に添加していないLaFeAsOのデータであり、角度αはこの論文の格子位置より計算した角度αを用いている。NdFeAsO1−yにおいては、角度αが111°以上で超伝導転移温度Tcが高くなる。角度αが109.47°に近づくと超伝導転移温度Tcがさらに高くなる。一方、LaFeAsO1−yにおいては角度αが113°以上で超伝導転移温度Tcが高くなる。
【0015】
図3および図7より、角度αが109.47°に近づくと超伝導転移温度Tcが高くなる。図3より、角度αの好ましい範囲は、超伝導転移温度Tcを30K以上となる室温での角度αは106°以上113°以下である。超伝導転移温度Tcを40K以上とするためには、角度αは107°以上112°以下が好ましい。さらに、超伝導転移温度Tcを50K以上とするためには、角度αは、108°以上111°以下がより好ましい。また、Lnとしては、Pr、Nd、TbおよびDyがより好ましい。図7より、特にNdFeAsOにおいては、室温での角度αが111°以下であることが好ましい。製造余裕を確保するためには、角度αは110.5°以下が好ましく、110°以下がより好ましい。またLaFeAsOにおいては、室温での角度αが113°以下であることが好ましい。製造余裕を確保するためには、角度αは112°以下が好ましく、111°以下がより好ましい。
【0016】
図5より、NdFeAsO1−yにおいては、酸素欠損率yは0.08以上が好ましい。より好ましい酸素欠損率yは0.14以上である。また、NdFeAsOであるためには、酸素欠損率yは1未満であることが必要である。図4より、より好ましくは、酸素欠損率yは0.8以下である。
【0017】
図5および図6のように、LnFeAsOのOを欠損させることにより角度αを制御し、超伝導転移温度Tcの高い超伝導材料を得ることができる。Oを欠損させる以外にも、F(フッ素)を意図的に添加することによっても超伝導転移温度Tcの高い超伝導材料を得ることができる。しかし、反応性の高いFによる反応容器や合成装置への腐食や汚染を抑制できること、使用元素を減らすことで合成プロセスを簡略化できることから、実施例1および実施例2のようにFを意図的に添加しないことが好ましい。Oを欠損させることにより、Fを意図的に添加なくとも超伝導転移温度Tcの高い超伝導材料を得ることができる。
【0018】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、LnFeAsOの結晶構造を示す図である。
【図2】図2は、FeAsからなる四面体を示す図である。
【図3】図3は、角度αに対する超伝導転移温度Tcを示す図である。
【図4】図4は、粉末の混合量より計算した酸素欠損率yに対する超伝導転移温度Tcを示し図である。
【図5】図5は、NdFeAsOにおける中性子線回折を用い測定した酸素欠損率yに対する超伝導転移温度Tcを示す図である。
【図6】図6は、NdFeAsOにおける角度α、βに対する超伝導転移温度Tcを示す図である。
【図7】図7は、NdFeAsOおよびLaFeAsOにおける角度αに対する超伝導転移温度Tcを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrCuSiAs型の結晶構造を有するLnFeAsO(LnはYまたは希土類)であって、FeAs四面体中のAs−Fe−As角度が106°以上113°以下であることを特徴とする超伝導材料。
【請求項2】
前記LnはNdであり、前記As−Fe−As角度は111°以下であることを特徴とする請求項1記載の超伝導材料。
【請求項3】
前記LnはLaであり、前記As−Fe−As角度は113°以下であることを特徴とする請求項1記載の超伝導材料。
【請求項4】
前記As−Fe−As角度は108°以上111°以下であることを特徴とする請求項1記載の超伝導材料。
【請求項5】
前記LnFeAsOをNdLnFeAsO1−yとしたとき、yは0.08以上であることを特徴とする請求項1記載の超伝導材料。
【請求項6】
前記Lnは、La、Ce、Pr、Nd、TbおよびDyのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の超伝導材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−126388(P2010−126388A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301827(P2008−301827)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月10日 The Physical Society of Japan発行の「Journal of the Physical Society of Japan, Vol.77, No.6」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月11日 The Physical Society of Japan発行の「Journal of the Physical Society of Japan,Vol.77,No.8」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月15日 株式会社アグネ技術センター発行の「「固体物理」第43巻 第10号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月27日 The Physical Society of Japan発行の「Proc.Int.Symp.Fe−Pnictide Superconductors J.Phys.Soc.Jpn.77」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人科学技術振興機構「鉄ヒ素系超伝導体の転移温度決定因子の解明と物質設計への適用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】