説明

超微粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法

【課題】超微粒、均粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】チタン酸化物粉末、炭素粉末、およびモリブデン酸化物粉末もしくはタングステン酸化物粉末の1種類以上の粉末からなる混合粉末、また、必要に応じて、V,Cr,Zr,Nb,Ta,Hfの各酸化物粉末の1種以上をさらに添加した混合粉末を、非窒化性かつ非酸化性雰囲気中で1400℃以上まで加熱昇温し、その後、雰囲気を窒素雰囲気に切り替え、該窒素雰囲気中において、1400〜1600℃の温度範囲で熱処理することにより、一次粒子の平均粒径が200nm以下の超微粒の均粒であり、さらに、均質な固溶体組織を有する超微粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
チタン系炭窒化物は高硬度・高融点でありであり導電性を有し、高温構造材料として期待されると共に、セラミックス基複合材料もしくは金属基複合材料のフィラーあるいは、導電性ポリマーの分散相として期待されている。
この発明は、チタン系炭窒化物固溶体の微粒粉末およびその製造方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、チタン炭窒化物粉末の製造法としては、チタンの窒化物粉末とチタンの炭化物粉末との混合粉末を固溶化熱処理して得る方法が知られているが、この製造法では、炭素および窒素の拡散を十分行わせるためには長時間を有するため、効率的な反応が行われず、また、チタン水素化物粉末と炭素粉末を原料粉末とし、この混合粉末を、窒素気流中あるいは水素−窒素混合気流中で、1400℃以下で熱処理し、さらに、1400〜1700℃での熱処理(二段階での熱処理)を行うことによって、チタン炭窒化物粉末を得る方法も知られているが、この製造法においても、熱処理時に窒素ガスを多く吸収した領域とそうでない領域のアンバランスが生じるため、炭素含有量および窒素含有量の変動が大きく、均一組成のチタン炭窒化物粉末を得ることは非常に困難であり、これを解消するには、長時間かけた緩やかな窒化処理を行わざるを得なかった(特許文献1参照)。
応用面から考えた場合、チタン系炭窒化物粉末は、高硬度、高融点、導電性を有するセラミックスという点で種々の材料において微量添加物もしくはフィラーとしての適用が可能である。しかし、上述のような既存粉末は、粒子が粗大化もしくは焼結現象を起こしているため、強粉砕が必要となる。その結果得られる粉末は粗粒微粒粉が混在して粒径分布が大きく、かつ平均粒径も1μm以上である。このため、チタン系炭窒化物固有の優れた特性にもかかわらず、応用分野が限られていた。
【0003】
例えば、サーメット用粉末としての応用を念頭に、100nm以下のナノサイズを有するTiを含んだ炭窒化物固溶体粉末が提案されている(特許文献2)。しかし、当該特許においては、単にチタンを含む遷移金属からなる炭窒化物粉末の炭素熱還元合成を示したに過ぎず、実施例に示される粉末のSEM写真からも、粉末は粗大な粒を含んでおり、粒子径分布の均一性、微粒化という点で従来の知見と大きく変わる技術ではない。また、微粒化するメカニズムに関してはいっさい言及されておらず、技術の新規性・進歩性という点でも不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3869681号明細書
【特許文献2】特開2006−299396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、チタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法として、より一層微粒かつ均粒であって、しかも、均質な固溶体組織を有する超微粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、炭窒化チタン粉末を製造する際の原料粉末及びその製造工程について、鋭意研究を行なったところ、以下の知見を得たのである。
【0007】
炭窒化チタン粉末製造用の原料粉末として、チタン酸化物粉末と炭素粉末、さらに、モリブデン酸化物粉末およびタングステン酸化物粉末の1種または2種の粉末からなる粉末とを混合し、この混合粉末を、非窒化性かつ非酸化性雰囲気(例えば、アルゴン雰囲気)中で1400℃まで加熱昇温し、その後、雰囲気を窒素雰囲気に切り替え、該窒素雰囲気中において、1400〜1600℃の温度範囲で熱処理することにより、超微粒かつ均粒であって、しかも、均質な固溶体組織を有するチタン系炭窒化物固溶体粉末を製造し得ることを見出したのである。
また、上記の混合粉末に、さらに、バナジウム酸化物粉末、クロム酸化物粉末、ジルコニウム酸化物粉末、ニオブ酸化物粉末、タンタル酸化物粉末、ハフニウム酸化物粉末のうちの1種または2種以上を添加した混合粉末を用いた場合にも、超微粒かつ均粒であって、しかも、均質な固溶体組織を有するチタン系炭窒化物固溶体粉末を製造し得ることを見出したのである。
【0008】
上記アルゴン雰囲気等の非窒化性かつ非酸化性雰囲気中で1400℃以上まで昇温することにより、混合粉末中のチタン酸化物は、還元されると同時に炭化されてチタン炭化物を生成し、次いで、窒素雰囲気中、1400〜1600℃の温度範囲で熱処理されることによって上記チタン炭化物が窒化されてチタン炭窒化物が生成する。
そして、この発明では、原料粉末として所定含有割合のモリブデン粉末、タングステン酸化物粉末を加えていることから、モリブデン化合物、タングステン化合物が気相を通してチタン酸化物の表面に新たな化合物として析出し、炭窒化反応前のチタン酸化物の粒成長を抑制し、結果としてチタン系炭窒化物の粒子径は均一で微細なものとなる。すなわち、蒸気圧が高くなりかつ、最終的にチタン炭窒化物に固溶する金属を含む酸化物(不活性雰囲気中1000℃でその酸化物上での金属種を含むガス相の平衡蒸気圧が10−10atm以上となる金属元素)を選択することが本技術の中心となる。
さらに、チタン系炭窒化物の一次粒子径が小さいため、チタン以外の金属元素が固溶するための拡散距離が短くなり、従来に比べ低い温度での固溶化反応が容易になる。すなわち、微粒化することで合成温度を従来に比べ低くすることが可能となり、結果として後工程で強粉砕が必要となるような焼結現象はほとんど現れない。
上記原理を発現させるためには、原料となるチタン酸化物が微細であることが必要となる。また、炭素も主原料であるチタン酸化物と同程度の細かさが必要とされる。また、Mo、Wがチタン炭窒化物への固溶限があり、その上限はおよそ30mol%である。また、実験により、本メカニズムを発現させるために必要なMoもしくはW量は2mol%であった。
本発明で得られた一次粒子の平均粒径が200nm以下の超微粒であって、かつ500nm以上の粒子を含まない均粒粉末が得られる。
さらに、X線回折装置による結晶相評価の結果、得られた粉末はNaCl型の回折パターンのみを示しており、ほぼ単相粉末であることが確認された。上記チタン炭窒化物は、均質な固溶体組織を有するチタンとモリブデンの炭窒化物、均質な固溶体組織を有するチタンとタングステンの炭窒化物、あるいは、均質な固溶体組織を有するチタンとモリブデンとタングステンの炭窒化物(以下、チタン系炭窒化物という)固溶体粉末として形成されていることが確認される。
また、混合粉末として、さらに、バナジウム酸化物粉末、クロム酸化物粉末、ジルコニウム酸化物粉末、ニオブ酸化物粉末、タンタル酸化物粉末、ハフニウム酸化物粉末のうちの1種または2種以上を添加した場合でも、チタン系炭窒化物粉の平均粒径は200nm以下の超微粒であって、かつ500nm以上の粒子を含まない均粒粉末が得られる。
【0009】
すなわち、この発明によれば、アルゴン雰囲気等の非窒化性非酸化性雰囲気中でのチタン酸化物の還元と炭化、また、これに続く高温窒素雰囲気中での窒化によって、均質な固溶体組織を有し、同時に、超微粒かつ均粒であるチタン系炭窒化物固溶体粉末を得ることができ、さらには従来に比べ合成温度を下げることができることを見出したのである。
【0010】
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 平均粒径がそれぞれ10〜200nmのチタン酸化物粉末、炭素粉末、および、モリブデン酸化物粉末もしくはタングステン酸化物粉末の1種または2種の粉末からなる混合粉末を、0.1atm以上の非窒化性かつ非酸化性雰囲気中において、1400℃以上まで加熱昇温し、その後、雰囲気を窒素雰囲気に切り替え、該窒素雰囲気中において、1400〜1600℃の温度範囲で熱処理することを特徴とする組成式(Ti1−XM1)CN(但し、M1は、MoとWのうちの1種または2種。Xは原子比で、0.02≦X≦0.3)で表されるチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法。
(2) 前記(1)に記載のチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法において、混合粉末中に、さらに、平均粒径がそれぞれ10〜200nmのバナジウム酸化物粉末、クロム酸化物粉末、ジルコニウム酸化物粉末、ニオブ酸化物粉末、タンタル酸化物粉末、ハフニウム酸化物粉末のうちの1種以上の酸化物粉末を添加混合することによる、組成式(Ti1−X−YM1M2)CN(但し、M1は、MoとWのうちの1種または2種。M2は、V,Cr,Zr,Nb,Ta,Hfのうちの1種または2種以上。X,Yは、いずれも原子比で、X=0.02〜0.3,0<Y<0.1)で表されるチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法。
(3) 前記(1)または(2)に記載の製造方法により製造したチタン系炭窒化物固溶体粉末であって、一次粒子の平均粒径が200nm以下の超微粒であり、かつ、500nm以上の粒子を含まない均粒粉末であり、さらに、均質な固溶体組織を有することを特徴とする超微粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末。」
に特徴を有するものである。
【0011】
以下に、本発明について、より具体的かつ詳細に説明する。
【0012】
まず、チタン系炭窒化物固溶体粉末の一例として、チタンとモリブデンの炭窒化物固溶体粉末の製造法について述べる。
本発明では、チタン系炭窒化物固溶体粉末を製造するに当たり、いずれも平均粒径が200nm以下であるチタン酸化物(例えば、TiO)粉末、炭素粉末、モリブデン酸化物(MoO,MoO)粉末の混合粉末を原料粉末として用い、これを、非窒化性かつ非酸化性雰囲気(好ましくは、アルゴン雰囲気)中で1400℃以上まで昇温速度10〜40℃/minで昇温する。この昇温時に、チタン酸化物は、炭素粉末による還元および炭化が進行し、チタン炭化物が形成される。さらに、チタン酸化物の一部は、炭素粉末、モリブデン酸化物粉末が共存していることにより、部分的に、チタンとモリブデンとの酸化物固溶体を形成し、また、形成された酸化物固溶体の還元および炭化が進行し、チタンとモリブデンとの炭化物固溶体が形成される。しかも、ここで形成されるチタンとモリブデンとの炭化物固溶体は、粒成長が抑制され、微粒状態を維持したままである。
上記還元、炭化反応を1400℃までの昇温時に行わせるのは、1400℃を超える温度にまで昇温した場合には、粒が粗大化し、均質な固溶体組織を形成できなるばかりか、このような粉末で焼結体を作製した場合に、焼結体の硬度、靭性の向上が期待できなくなるからである。
また、1400℃まで昇温速度を10℃/min未満とした場合には、還元反応前にチタン酸化物粉末およびモリブデン酸化物粉末が粒成長しやすくなり、所望の粒度の超微粒固溶体粉末を得ることができなくなる。一方、昇温速度が40℃/minを超えると、出発原料にMoOを使用した場合に、MoOの還元よりも早くMoOが昇華してしまい、狙い組成の固溶体粉末を得ることが困難になることから、1400℃まで昇温速度は10〜40℃/minの範囲内とすることが望ましい。
【0013】
上記混合粉末の配合割合は、例えば、チタン酸化物粉末を51.1〜68.2重量部、炭素粉末を25.9〜27.5重量部、モリブデン酸化物粉末を4.3〜23.0重量部とし、しかも、チタンとの合量に占めるモリブデンの配合割合が5〜20原子%となるようにすることができる。
チタン酸化物粉末、炭素粉末およびモリブデン酸化物粉末の配合割合が、上記数値範囲を外れる場合には、組成式(Ti1−XM1)CN(但し、M1は、MoとWのうちの1種または2種。Xは、原子比で、0.02≦X≦0.3)を満足する所望の組成・粒度のチタンとモリブデンの炭窒化物固溶体粉末を得ることができず、またこれら粉末を使用し作製したサーメット合金の特性向上を図ることができなくなることから望ましくない。
つまり、チタンとの合量に占めるモリブデンの配合割合が2原子%未満であると、粉末形成時の粒成長抑制効果の低下により粒子が粗大化してしまい、一方、モリブデンの配合割合が30原子%を超えると、形成される固溶体粉末が単一相でなく未固溶相が出現し均質な固溶体粉末を得ることが困難であるから、チタンとの合量に占めるモリブデンの配合割合は2〜30原子%とすることが必要である。
【0014】
1400℃までの昇温過程で、上記チタンとモリブデンとの炭化物固溶体、あるいは、チタンの炭化物を形成した後、非窒化性かつ非酸化性雰囲気(例えば、アルゴン雰囲気)から窒素雰囲気に切り替え、該窒素雰囲気中において、1400〜1600℃の温度範囲で、好ましくは、60〜120分間熱処理を行う。
上記窒素雰囲気中での熱処理により、上記チタンとモリブデンとの炭化物固溶体あるいは上記チタン炭化物が窒化され、チタンとモリブデンの炭窒化物固溶体が形成される。
ここで、窒素雰囲気中における熱処理温度が1400℃未満では、チタンの酸化物粉末の還元反応が進み難くなるためであり、一方、1600℃を超える熱処理温度では、粉末の粒子成長が進み、所望の粒度の粉末を得ることができなくなることから、窒化反応を行わせる熱処理温度は、1400〜1600℃と定めた。また、この温度範囲における熱処理時間が60分未満では、窒化反応が十分に進行せず所望の窒素量の粉末を得ることができず、また不均質なC/N組成の粉末となってしまい、一方、120分を超えると窒化反応が進み過ぎてしまい、窒素含有量の高い粉末となり、また長時間の処理は粒子の粗大化を引き起こすこと
から、熱処理時間は60〜120分とすることが望ましい。
【0015】
本発明で製造したチタン系炭窒化物固溶体粉末について、走査型電子顕微鏡で観察測定したところ、一次粒子の平均粒径は200nm以下の超微粒粉末が得られることを確認した。
また、比表面積測定結果から求めた等価粒子径が約0.13μmであり、SEM観察結果とほぼ同じであることなどから、粉末全体がほぼ同じ粒子径であることが分かる。
【0016】
チタン系炭窒化物固溶体粉末を、組成式(Ti1−XM1)CNで表した場合、M1成分としてMoを選択したチタンとモリブデンの炭窒化物固溶体粉末の製造については上記したとおりであるが、M1成分として、W単独添加の場合あるいはMoとWの両者を添加した場合についても、前記と同様、超微粒かつ均粒であって、しかも、タングステン成分、モリブデン成分の偏析がなく均質な固溶体組織を有するチタン系炭窒化物固溶体粉末を製造することができる。
M1成分としてW単独添加した場合、MoとWの両者を添加した場合も、M1成分としてMoを選択した場合と同様に、Tiに対するM1成分の含有割合を表すXの値(原子比)は、0.02〜0.3であることが必要であり、Xの値がこの数値範囲を外れると、粉末形成時の粒成長抑制効果の低下による粒子の粗大化あるいは形成される固溶体粉末が単一相でなく未固溶相が出現し均質な固溶体粉末を得ることが困難となる。
【0017】
本願の請求項2では、チタン系炭窒化物固溶体粉末について、これを組成式(Ti1−X−YM1M2)CNで表した場合、M2成分として、V,Cr,Zr,Nb,Ta,Hfのうちの1種または2種以上を、0<Y<0.1の範囲内で添加するとしているが、M2成分の添加によって、チタン系炭窒化物固溶体粉末の微粒化、均粒性、固溶体としての均質性に悪影響を及ぼすことはない。
むしろ、V添加は熱伝導率の向上、Cr添加は耐摩耗性の向上、Zr添加は溶融温度の上昇、Nb添加はヤング率の向上、Ta添加はヤング率の向上と溶融温度の上昇、Hf添加は硬度の向上と溶融温度の上昇という、チタン系炭窒化物固溶体粉末の特性を改善するという効果がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の超微粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法によれば、超微粒かつ均粒であって、しかも、Mo、WからなるM1成分、また、V,Cr,Zr,Nb,Ta,HfからなるM2成分の偏析がなく均質な固溶体組織を有するチタン系炭窒化物固溶体粉末を製造することができ、さらに、本発明により製造したチタン系炭窒化物固溶体粉末を用いることによって、例えば、すぐれた特性を備えるサーメット、超硬合金、セラミックス等焼結材料を得ることができるので、工業的な価値は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明について、実施例を用いて説明する
【実施例】
【0020】
《実施例1》
表1に示す平均粒径20nmのチタン酸化物(TiO)粉末、平均粒径50nmの炭素粉末、モリブデン酸化物(MoO)粉末、タングステン酸化物(WO)粉末を、表1に示すチタン系炭窒化物固溶体組成となるように原料配合・混合して、混合粉末1〜5を用意した。
【0021】
混合粉末1〜5(100g)を電気炉内に装入し、アルゴン雰囲気中で、所定の昇温速度で所定の温度まで昇温加熱し、その後、雰囲気を窒素雰囲気に切り替え、該窒素雰囲気中において、所定の温度で所定時間熱処理し、熱処理終了後室温にまで徐冷することにより、チタンとモリブデン,タングステンの炭窒化物固溶体超微粒粉末からなる本発明のチタン系炭窒化物固溶体粉末(以下、本発明粉末という)1〜5を作製した。
表2に、処理条件を示す。
【0022】
上記方法で作製した本発明粉末1〜5について、以下の測定法で、粒径、粒度分布、固溶体の均質性を測定し、また、Mo,Wの含有割合を測定し、X値を算出した。
粒径:平均粒径は比表面積測定結果から等価粒子径を計算により求めた。
粒度分布:SEMによる画像解析処理で500nm以上の粒子を含まないことを確認した。
固溶体の均質性:X線回折装置により(Ti,M)CNの回折パターンとMoC、WCの回折パターンから其々の最強線強度から,I[Mo2C+WC]/I[(Ti,M)CN] 比を算出し、その強度比が0.05以下であることを確認した。
Mo,Wの含有割合:それぞれICP発光分光分析装置によりMo、W含有割合を測定した。
なお、C,Nの含有割合についても、赤外線吸収法で炭素含有割合を、また、熱伝導法で窒素含有割合を測定した。
これらの値を表3に示す。
【0023】
表3に示すように、本発明の製造方法によれば、一次粒子の平均粒径が200nm以下の超微粒であって、かつ、500nm以上の粒子を含まない均粒粉末であり、さらに、均質な固溶体組織を有する超微粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末を得られることがわかる。
【0024】
《比較例1》
比較のために、表1に示す平均粒径のチタン酸化物(TiO)粉末、炭素粉末および金属酸化物(例えば、MoO,WO,V,Cr,Nb,Ta)粉末を、表1に示すチタン系炭窒化物固溶体組成となるように原料配合・混合して、混合粉末6〜13を用意した。
ついで、混合粉末6〜13(100g)を電気炉内に装入し、所定の雰囲気中で、所定の昇温速度で所定の温度にまで昇温加熱し、その後、所定の雰囲気中で、所定の温度で所定時間熱処理し、熱処理終了後室温にまで徐冷することにより、比較例のチタン系炭窒化物粉末(以下、比較例粉末という)6〜13を作製した。
表2に、処理条件を示す。
ついで、本発明粉末1〜5と同様にして、一次粒子の平均粒径および粉末中におけるTiとの合量に占めるM1成分(但し、M1は、MoあるいはW)の含有割合(M1/(Ti+M1))を求めた。
これらの値を表3に示す。
【0025】
表3に示されるように、比較例の製造方法によって得た比較例粉末1では昇温中の雰囲気による微粒化の効果が、比較例粉末7,8,10,11では平均粒径200nm以下の超微粒粉末を合成するための適正処理温度とM1金属の適正添加量、また微細原料粉末の有効性を確認することができる。また、比較例粉末9,12,13では超微粒粉末を合成するためにはMo,W添加が有効であることを確認することができる。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
《実施例2》
平均粒径20nmのチタン酸化物(TiO)粉末、平均粒径50nmの炭素粉末、モリブデン酸化物(MoO)粉末、タングステン酸化物(WO)粉末に対して、さらに、M2成分の酸化物粉末(即ち、V,Cr,Nb,Taの各酸化物粉末)を、表4に示すチタン系炭窒化物固溶体組成となるように原料配合・混合して、混合粉末14〜17を用意した。
【0030】
混合粉末14〜17(100g)を電気炉内に装入し、アルゴン雰囲気中で、所定の昇温速度で所定の温度まで昇温加熱し、その後、雰囲気を窒素雰囲気に切り替え、該窒素雰囲気中において、所定の温度で所定時間熱処理し、熱処理終了後室温にまで徐冷することにより、チタンとM1成分とM2成分の炭窒化物固溶体超微粒粉末からなる本発明のチタン系炭窒化物固溶体粉末(以下、本発明粉末という)14〜17を作製した。
表5に、処理条件を示す。
【0031】
上記方法で作製した本発明粉末14〜17について、以下の測定法で、粒径、粒度分布、固溶体の均質性を測定し、また、M1成分,M2成分の含有割合を測定し、X値,Y値を算出した。
粒径:平均粒径は比表面積測定結果から等価粒子径を計算により求めた。
粒度分布:SEMによる画像解析処理で500nm以上の粒子を含まないことを確認した。
固溶体の均質性:X線回折装置により(Ti,M1,M2)CNの回折パターンとM1成分の炭化物相(MoC、WC)、M2成分の炭化物相(VC、Cr3C2、NbC、TaC等)の回折パターンから其々の最強線強度から,I[M1C+M2C]/I[(Ti,M1、M2)CN] 比を算出し、その強度比が0.05以下であることを確認した。
M1成分,M2成分の含有割合:ICP発光分光分析装置によりM1、M2含有割合を測定した。
なお、C,Nの含有割合についても、赤外線吸収法で炭素含有割合を、また、熱伝導法で窒素含有割合を測定した。
これらの値を表6に示す。
【0032】
表6に示すように、本発明の製造方法によれば、一次粒子の平均粒径が200nm以下の超微粒であって、かつ、500nm以上の粒子を含まない均粒粉末であり、さらに、均質な固溶体組織を有する超微粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末を得られることがわかる。
【0033】
《比較例2》
比較のために、表4に示す平均粒径400nmのチタン酸化物(TiO)粉末、平均粒径80nmの炭素粉末、モリブデン酸化物(MoO)粉末、タングステン酸化物(WO)粉末に対して、さらに、M2成分の酸化物粉末(即ち、V,Cr,Nb,Taの各酸化物粉末)を、表4に示すチタン系炭窒化物固溶体組成となるように原料配合・混合して、混合粉末14〜17を用意した。
ついで、混合粉末14〜17(100g)を電気炉内に装入し、所定の雰囲気中で、所定の昇温速度で所定の温度にまで昇温加熱し、その後、所定の雰囲気中で、所定の温度で所定時間熱処理し、熱処理終了後室温にまで徐冷することにより、比較例のチタン系炭窒化物粉末(以下、比較例粉末という)18〜21を作製した。
表5に、処理条件を示す。
ついで、本発明粉末14〜17と同様にして、一次粒子の平均粒径および粉末中におけるTiとの合量に占めるM1成分、M2成分の含有割合(M1/(Ti+M1+M2),M2/(Ti+M1+M2)。但し、原子比)を求めた。
これらの値を表6に示す。
【0034】
表6に示されるように、比較例の製造方法によって得た比較例粉末18〜21では、一次粒子の平均粒径は約1.5μm以上であって、本発明粉末14〜17の平均粒径200nmと比較して平均粒径が大きく粗粒である。
また、本発明粉末14〜17は、TiとM1,M2成分が均質な固溶体組織を有するのに対して、比較例粉末18〜21では、粉末中におけるTiとM1,M2成分との固溶体組織は均質であるとはいえない。
【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のとおり、本発明の製造方法によれば、超微粒で均粒、しかも、均質な固溶体組織を有するチタン系炭窒化物固溶体粉末を製造し得るものである。
そして、本発明により得たチタン系炭窒化物固溶体粉末を、例えば、金属基複合材料、セラミックス材料の特性改善のための分散材、あるいは、サーメット製造用の原料粉末等として用いることによって、すぐれた特性を備える複合材料、セラミックス、サーメット等を得ることができるので、本発明の工業的な価値は非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径がそれぞれ10〜200nmのチタン酸化物粉末、炭素粉末、さらに、モリブデン酸化物粉末およびタングステン酸化物粉末の1種または2種の粉末からなる混合粉末を、0.1atm以上の非窒化性かつ非酸化性雰囲気中において、1400℃以上まで加熱昇温し、その後、雰囲気を窒素雰囲気に切り替え、該窒素雰囲気中において、1400〜1600℃の温度範囲で熱処理することを特徴とする組成式(Ti1−XM1)CN(但し、M1は、MoとWのうちの1種または2種。Xは、原子比で、0.02≦X≦0.3)で表されるチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法において、混合粉末中に、さらに、平均粒径がそれぞれ10〜200nmのバナジウム酸化物粉末、クロム酸化物粉末、ジルコニウム酸化物粉末、ニオブ酸化物粉末、タンタル酸化物粉末、ハフニウム酸化物粉末のうちの1種以上の酸化物粉末を添加混合することによる、組成式(Ti1−X−YM1M2)CN(但し、M1は、MoとWのうちの1種または2種。M2は、V,Cr,Zr,Nb,Ta,Hfのうちの1種または2種以上。X,Yは、いずれも原子比で、X=0.02〜0.3,0<Y<0.1)で表されるチタン系炭窒化物固溶体粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造したチタン系炭窒化物固溶体粉末であって、一次粒子の平均粒径が200nm以下の超微粒であって、かつ、500nm以上の粒子を含まない均粒粉末であり、さらに、均質な固溶体組織を有することを特徴とする超微粒かつ均質なチタン系炭窒化物固溶体粉末。