説明

超純水製造用水処理装置

【課題】被処理水にガス又はガス溶解水を添加するガス成分添加手段と、該ガス成分添加手段からの水に紫外線を照射して水中の被処理物質を分解する紫外線照射装置とを有する超純水製造用水処理装置において、ガス添加量を適切なものにする。
【解決手段】超純水の原水は貯留槽2に貯められ、供給配管3、供給ポンプ4を経由して送水され、酸素供給装置5によって酸素が添加された後、UV照射装置6、膜脱気装置7、イオン交換装置8、限外濾過装置9でそれぞれ処理が行われ、ユースポイントへ超純水が供給される。UV照射装置6の一次側のTOC濃度挙動に応じて、溶存酸素計13からの信号に基づいて酸素供給装置5からの酸素量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線照射装置を備えた超純水製造用水処理装置と、この超純水製造用水処理装置を備えた超純水製造用水処理システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハの洗浄等に用いられる超純水の製造装置は、一般に、前処理系システムの処理水が導入される1次純水系システムと、1次純水系システムの処理水が導入される2次純水系システム(サブシステム)とを備えている。1次純水系システムは、イオン交換装置、逆浸透膜装置、脱気装置、紫外線殺菌装置等により構成され、被処理水中に含まれる微粒子、イオン成分、有機物、コロイダル成分等の不純物の大部分を除去するものである。2次純水系システムは、1次純水系システムの処理水導入タンク、紫外線酸化装置、カートリッジポリシャ(非再生型混床式イオン交換装置)、限外濾過膜装置等により構成され、1次純水系システムの処理水中に残存する微量の不純物を取り除くものである(例えば、特開平9−253639号)。
【0003】
この特開平9−253639号には、1次純水システムからの純水から溶存窒素を脱ガス装置で除去した後、酸素又はオゾンを添加し、次いで紫外線照射装置に供給することによりTOCの酸化分解効率を向上させることが記載されている。同号公報の0015段落には、紫外線照射装置で処理される水中に溶存酸素が存在していると、紫外線照射によってヒドロキシラジカルや過酸化水素が生成し、TOC分解効率が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−253639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、被処理水にガス又はガス溶解水を添加するガス成分添加手段と、該ガス成分添加手段からの水に紫外線を照射して水中の被処理物質を分解する紫外線照射装置とを有する超純水製造用水処理装置において、ガス成分添加量を適切なものにすることを目的とする。
【0006】
本発明は、その一態様において、適正な酸素添加量にて有機物(TOC成分)を十分に分解することができる超純水製造用水処理装置及び超純水製造用水処理システムを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、別の一態様において、適正な水素添加量にて過酸化水素を十分に分解することができる超純水製造用水処理装置及び超純水製造用水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の超純水製造用水処理装置は、被処理水にガス又はガス溶解水を添加するガス成分添加手段と、該ガス成分添加手段からの水に紫外線を照射して水中の被処理物質を分解する紫外線照射装置とを有する超純水製造用水処理装置において、該紫外線照射装置の前段又は後段に設けられた、水中の被処理物質濃度、ガス成分濃度又は生成物濃度を測定する測定手段と、該測定手段の測定結果に基づいて前記ガス成分添加手段によるガス又はガス溶解水の添加量を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の超純水製造用水処理装置は、請求項1において、前記被処理物質は有機物であり、前記ガスは酸素であり、前記測定手段は、溶存酸素濃度を前記ガス成分添加手段の前段及び前記紫外線照射装置の後段の少なくとも一方で測定するものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の超純水製造用水処理装置は、請求項1において、前記被処理物質は有機物であり、前記ガスは酸素であり、前記測定手段は、溶存酸素濃度及び溶存有機物濃度を前記添加手段の前段及び前記紫外線照射装置の後段の少なくとも一方で測定するものであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の超純水製造用水処理装置は、請求項1において、前記ガスは水素であり、前記被処理水中の被処理物質は過酸化水素であり、前記測定手段は、前記紫外線照射装置からの水中の溶存水素濃度を測定するものであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の超純水製造用水処理装置は、請求項1において、前記ガスは水素であり、前記被処理水中の被処理物質は過酸化水素であり、前記測定手段は、前記紫外線照射装置からの水中の溶存過酸化水素濃度を測定するものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の超純水製造用水処理システムは、第1の超純水製造用水処理装置と、該第1の超純水製造用水処理装置からの処理水を処理する第2の超純水製造用水処理装置とを備えてなる超純水製造用水処理システムにおいて、該第1の超純水製造用水処理装置は請求項2又は3に記載の超純水製造用水処理装置であり、該第2の超純水製造用水処理装置は請求項4又は5に記載の超純水製造用水処理装置であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の超純水製造用水処理装置によると、被処理物質濃度、ガス成分濃度又は生成物濃度に応じてガス又はガス溶解水を水に添加するので、ガス又はガス溶解水の添加量を適正量とすることができる。
【0015】
請求項2,3の超純水製造用水処理装置によれば酸素の添加量を適正量とすることができる。
【0016】
請求項4,5の超純水製造用水処理装置によれば、水素の添加量を適正量とすることができる。
【0017】
請求項6の超純水製造用水処理システムによれば、適正量の酸素及び水素を添加して有機物及び過酸化水素を十分に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態に係る超純水製造用水処理装置及び超純水製造用水処理システムの系統図である。
【図2】別の実施の形態に係る超純水製造用水処理装置及び超純水製造用水処理システムの系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下、紫外線をUVと記載することがある。
【0020】
まず、UV照射によるTOC成分分解機構とH発生抑制機構について説明する。
【0021】
通常、水はUVの照射エネルギーによって励起され次式のようにHラジカルとOHラジカルに解離し、瞬時にまた水に戻る反応を繰り返している。
【0022】
【化1】

【0023】
解離したOHラジカルの一部がTOC成分と反応し、TOC成分酸化分解に寄与するが、大部分は再結合して水に戻る。TOC成分分解量を上げるためにはTOC成分と反応するOHラジカル量を増やす必要がある。
【0024】
本発明請求項2、3のようにUV照射の一次側に酸素ガス又は酸素溶解水を注入した場合、次式のようにして、解離した一部のHラジカルと注入した酸素源が結合し、水に戻る反応が起こる。このとき水が解離して生成されたOHラジカルの一部が余り、このOHラジカルがTOC成分の酸化分解に寄与し、TOC成分分解効率を上げていると考えられる。
【0025】
【化2】

【0026】
UV照射によるH発生機構は次式のように考えられている。
【0027】
【化3】

【0028】
即ち、UV照射によって、HラジカルとOHラジカルが生成し、その大部分は再結合して水に戻るが、一部のOHラジカル同士が結合することによりHが生成する。このときHラジカル同士も結合しHが生成すると考えられる。
【0029】
このときUV照射の一次側に水素源を注入した場合の反応式を次に示す。
【0030】
【化4】

【0031】
この反応では、水の解離により生じたOHラジカルの一部が、注入したHと結合し水に戻る反応が起こるため、Hの生成量が減少すると考えられる。
【0032】
第1図は、酸素注入によってTOC成分除去効果を高めるようにした請求項2、3の実施の形態に係る超純水製造用水処理装置の説明図である。
【0033】
超純水製造の原水は貯留槽2に貯められ、供給配管3、供給ポンプ4を経由して送水され、酸素供給装置5によって酸素が添加された後、UV照射装置6、膜脱気装置7、イオン交換装置8、限外濾過装置9でそれぞれ処理が行われて超純水となり、ユースポイントへ供給される。そして、ユースポイントで使用されなかった超純水は超純水戻り配管10を経由して、貯留槽2に返送される。ユースポイントで使用された水量分は、補給配管1を経由して、貯留槽2に純水が補給される。
【0034】
酸素供給装置5としては、酸素ガスを注入するものであっても良く、酸素水を注入するものであっても良いが、酸素水を注入するタイプの方が、酸素添加量の制御が容易であり、好ましい。
【0035】
酸素供給装置5によって酸素が添加される前のUV照射装置6の一次側の水の一部は、サンプリング配管11からサンプリング弁12にて流量調整され、溶存酸素計13とTOC計14に送られる。溶存酸素計13とTOC計14に特に制限はない。
【0036】
この実施の形態では、UV照射装置6からの処理水の一部を、サンプリング配管15及び流量調整弁16を介して溶存酸素計13及びTOC計14に導入し、UV処理水中の溶存酸素濃度及びTOC濃度を測定する。さらに、限外濾過装置9を透過した超純水の一部をサンプリング配管17及び流量調整弁18を介して溶存酸素計13及びTOC計14に導入し、超純水中の酸素濃度及びTOC濃度を測定する。
【0037】
この実施の形態では、UV照射装置6の一次側のTOC濃度挙動に応じて、溶存酸素計13からの信号に基づいて酸素供給装置5からの酸素量を制御する。具体的には、例えばUV照射装置6からの流出水中の溶存酸素濃度が約0.5〜50ppbとなるように酸素供給装置5を制御する。
【0038】
酸素注入量は、システム構成などによるため一概ではないが、未反応の酸素や酸素を注入して増加した分のHが分解することによって生じる酸素などが、後段の膜脱気装置18で除去できる範囲で、システム出口溶存酸素濃度に影響を及ぼさない範囲に限られる。その注入量は上記の通りUV照射装置6からの流出水中の溶存酸素濃度が約0.5〜50ppb、例えば概ね10ppb程度となる量が好ましいが、1ppb程度でも効果が見込まれる。
【0039】
第2図は、水素注入によって過酸化水素を除去するようにした請求項4、5の超純水製造用水処理装置の系統図である。
【0040】
この実施の形態では、ポンプ4からUV照射装置6へ送られる純水に対し、水素供給装置20から水素を添加する。この水素は、ガスであってもよく、水素溶解水であってもよいが、水素溶解水の方が、注入量制御が容易であり、好ましい。
【0041】
この実施の形態では、UV照射装置6からの流出水の一部をサンプリング配管15及び流量調整弁16を介して溶存水素計21及び溶存過酸化水素計22へ送り、溶存水素濃度及び溶存過酸化水素濃度を測定している。
【0042】
この溶存水素計21及び溶存過酸化水素計22の測定値に基づいて、水素供給装置20からの水素注入量を制御する。この制御は、溶存水素計21における水素濃度が1〜50ppb特に2〜10ppbとなるように行われるのが好ましい。
【0043】
第2図のその他の構成及び作動は第1図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0044】
本発明では、上記第1図の超純水製造用水処理装置の限外濾過装置9からの流出水を第2図の装置に供給し、水素添加UV照射処理を行って超純水を製造するようにしてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0046】
実施例1
第1図に示すシステムを次の条件で稼動させた。
【0047】
補給水中のTOC濃度…9ppb
補給水中の溶存酸素濃度…1.5ppb
低圧UVランプ…日本フォトサイエンス社製 低圧UVランプ
酸素供給装置…栗田工業(株)製酸素水供給装置
TOC計…シーバース社シーバース500RL
溶存酸素計…ハックウルトラアナリティクスジャパン製溶存酸素計モデル3610
ポンプ4からの送水量…6m/h
超純水中要求酸素濃度…5ppb以下
超純水中要求TOC濃度…3ppb以下
この実施例1では、溶存酸素計13でポンプ4吐出水中の溶存酸素濃度を測定し、この測定値に基づいて、酸素供給装置5からの注入量を制御し、UV照射装置一次側の溶存酸素濃度から1ppb増加させた。UV照射装置一次側の溶存酸素濃度は1ppbであった。
【0048】
酸素注入の結果、UV照射装置一次側のTOC濃度が5ppbのとき、ユースポイントへ送水される超純水中のTOC濃度は1ppb、溶存酸素濃度は1ppb以下であった。
【0049】
比較例1
実施例1の運転を継続した後、酸素供給装置5から酸素注入を停止して比較例の運転を行った。酸素注入を停止した時点から、ユースポイントへ供給される超純水中のTOC濃度は上がり始め、最終的には超純水中のTOC濃度は4ppbにまで上昇した。
【0050】
実施例2
第2図に示すシステムを次の条件で稼動させた。その他の条件は実施例1と同一である。
【0051】
水素供給装置…栗田工業(株)製水素水供給装置
溶存水素計…ハックウルトラアナリティクスジャパン製溶存水素計モデル3600
溶存過酸化水素計…栗田工業(株)製過酸化水素モニター
貯留槽2からの純水中の溶存水素濃度…0ppb
貯留槽2からの純水中の溶存過酸化水素濃度…0ppb
溶存水素計21の検出値が10ppbとなるように水素溶解水を水素供給装置20から添加した。その結果、過酸化水素計22の検出過酸化水素濃度は5ppbとなった。
【0052】
比較例2
実施例2の運転を継続した後、水素供給装置20からの水素添加を停止した。その結果、過酸化水素計22の検出値は20ppbにまで上昇した。
【0053】
以上の実施例及び比較例より明らかな通り、低溶存酸素(5ppb以下)状態において、低濃度(5ppb以下)までTOCをUV照射装置により分解する場合、本発明によると、従来技術よりもUV照射出力を低くすることが可能となる。また、UV照射にともなって発生するH濃度を低減することが可能となった。
【符号の説明】
【0054】
5 酸素供給装置
6 紫外線照射装置
7 膜脱気装置
8 イオン交換装置
9 限外濾過装置
20 水素供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水にガス又はガス溶解水を添加するガス成分添加手段と、
該ガス成分添加手段からの水に紫外線を照射して水中の被処理物質を分解する紫外線照射装置と
を有する超純水製造用水処理装置において、
該紫外線照射装置の前段又は後段に設けられた、水中の被処理物質濃度、ガス成分濃度又は生成物濃度を測定する測定手段と、
該測定手段の測定結果に基づいて前記ガス成分添加手段によるガス又はガス溶解水の添加量を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする超純水製造用水処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記被処理物質は有機物であり、
前記ガスは酸素であり、
前記測定手段は、溶存酸素濃度を前記ガス成分添加手段の前段及び前記紫外線照射装置の後段の少なくとも一方で測定するものであることを特徴とする超純水製造用水処理装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記被処理物質は有機物であり、
前記ガスは酸素であり、
前記測定手段は、溶存酸素濃度及び溶存有機物濃度を前記添加手段の前段及び前記紫外線照射装置の後段の少なくとも一方で測定するものであることを特徴とする超純水製造用水処理装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記ガスは水素であり、
前記被処理水中の被処理物質は過酸化水素であり、
前記測定手段は、前記紫外線照射装置からの水中の溶存水素濃度を測定するものであることを特徴とする超純水製造用水処理装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記ガスは水素であり、
前記被処理水中の被処理物質は過酸化水素であり、
前記測定手段は、前記紫外線照射装置からの水中の溶存過酸化水素濃度を測定するものであることを特徴とする超純水製造用水処理装置。
【請求項6】
第1の超純水製造用水処理装置と、該第1の超純水製造用水処理装置からの処理水を処理する第2の超純水製造用水処理装置とを備えてなる超純水製造用水処理システムにおいて、
該第1の超純水製造用水処理装置は請求項2又は3に記載の超純水製造用水処理装置であり、
該第2の超純水製造用水処理装置は請求項4又は5に記載の超純水製造用水処理装置であることを特徴とする超純水製造用水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−240344(P2011−240344A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171580(P2011−171580)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【分割の表示】特願2007−108417(P2007−108417)の分割
【原出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】