説明

超臨界流体クロマトグラフィーを用いた物質の製造方法

【課題】 超臨界流体クロマトグラフィーを用いた目的物質の製造方法において、目的物質を含有する試料を連続注入する際の課題を解決し、時間あたりの分離処理量を増加させ、分離効率を上昇させる方法を提供する。
【解決手段】移動相に目的物質を含有する試料を注入した後に、移動相の組成を変化させその後移動相の組成を変化前に戻す工程を有し、前記移動相の組成を変化させその後移動相の組成を変化前に戻す工程が、前記超臨界クロマトグラフィー装置で分離される目的物質のうち、カラムからの溶出が最も遅い目的物質のピークが検出されてから、次の試料を注入するまでの間に行うことで課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界流体クロマトグラフィーを用いた物質の製造方法及び超臨界流体クロマトグラフィー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界流体クロマトグラフィー装置では超臨界流体が移動相に用いられる。超臨界流体は、通常の溶剤に比べて高い拡散性と低粘性とを有する。このため、超臨界流体クロマトグラフィー装置を用いることで、例えば分離が困難とされる光学異性体を高速で分離可能である。
【0003】
このような超臨界流体クロマトグラフィー装置は、二酸化炭素等から得られる超臨界流体を移動相として用い、該移動相中に試料を注入し試料成分を移動相に溶解させた後に、移動相の圧力、温度等を調整することによって移動相中の試料成分の分離を行ったり、あるいは超臨界流体中にエタノール等のエントレーナーあるいはモディファイアーと称される溶剤を混合して移動相とし、移動相の圧力、温度等を調整することで分離を行っている。
【0004】
特許文献1では、サンプルインジェクターの上流に第2のインジェクターを設けるとともに、低圧リリース弁の出力を光散乱検出器に結合することで、高分子で紫外吸光のない成分をカラムから洗浄・検出する技術が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、試料が吸着したカラムから、溶媒をモディファイアーとして加えた超臨界流体によって試料を溶出する際に、溶媒を順次溶媒強度の異なる溶媒に変えて溶出することで、試料を分別回収する技術が提案されている。しかしながら、これらの技術は分取効率の向上、とりわけ試料の連続注入を行うことで、試料からの目的物の分取を大量に行うという観点では検討がなされておらず、工業的大量生産に向いている技術とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−11497号公報
【特許文献2】特開平7−294503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況において、発明者らは、工業的大量生産が可能となる試料の連続注入を行うことができる技術を鋭意検討していた。従来の技術を検討していく中で、カラム吸着超臨界流体クロマトグラフィーにおいては、特に分離対象化合物を比較的大量にロードする分取操作を行う場合、カラム吸着挙動は非線形となるため、そのピーク形状はガウス型とは大きく異なり、テーリングが顕著に存在するピーク形状を示すことに着目した。ここでいうテーリングとは、図2に示すようなピーク後の緩やかな長く続く下り坂の状態を指す。このような状況において連続的に試料注入を行う場合には、テーリングが十分に減衰するまで試料の再注入を待たなければならない。テーリングが十分に減衰する前に次の試料を注入すると、テーリングしている成分が次に注入した試料のピーク成分に混入することになり、分離した化合物の純度が低下する。その結果、時間あたりの分離処理量を減らさなければならなかった。
【0008】
本発明は、上記の連続注入する際の課題を解決し、連続注入の際の試料の再注入のタイミングを早め、時間あたりの分離処理量を増加させ、分離効率を上昇させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記テーリングを早期に減衰させるための手段を鋭意検討し、カラム中における超臨界流体と溶剤とを含有する移動相の組成を変化させることで、テーリングの減衰が早まることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、
超臨界流体クロマトグラフィー装置を用いて、超臨界流体と溶剤とを含有する移動相に注入された試料から目的物質を分離し、目的物質を製造する方法であって、
前記移動相に試料を注入する工程と、
前記移動相に試料を注入した後に、前記移動相の組成を変化させる工程と、
前記移動相の組成を変化させた後に、前記移動相の組成を変化前に戻す工程を含み、
前記移動相の組成を変化させる工程及び前記移動相の組成を変化前に戻す工程が、前記超臨界クロマトグラフィー装置で分離される目的物質のうち、カラムからの溶出が最も遅い目的物質のピークが検出されてから、次の試料を注入するまでの間に行われることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、ピークテーリングの減衰が通常の方法と比較して早く、そのため試料の再注入のタイミングを早めることができる。このため、試料の時間当たりの処理量を増やすことができ、超臨界クロマトグラフィーの分離性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の超臨界流体クロマトグラフィー装置の一例である。
【図2】実施例1に係るピークテーリングの減衰を示した図である。
【図3】実施例1の方法と通常注入の方法とでピークを比較した図である。
【図4】実施例2に係るピークテーリングの減衰を示した図である。
【図5】実施例2に係るピークテーリングの減衰部分の拡大図である。
【図6】実施例2−(2)の方法と通常注入の方法とでピークを比較した図である。
【図7】参考例に係るピークを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法は、超臨界流体と溶剤とを含有する移動相に注入された試料から目的の物質を分離するための超臨界流体クロマトグラフィー装置に適用される。
【0013】
本発明に用いられる移動相は、超臨界流体と溶剤とを含有する移動相であれば特に限定されない。上記移動相は、超臨界流体と溶剤とを混合して生成することができ、あるいは超臨界流体原料の液化ガスと溶剤とを含有する混合流体の圧力及び温度の一方又は両方を高めて生成することができる。上記移動相は、例えば公知の熱交換器及び高圧ポンプを用いて生成することができる。
【0014】
上記超臨界流体は、臨界圧力以上及び臨界温度以上のいずれか一方又は両方の状態(すなわち超臨界状態)にある物質である。超臨界流体として用いられる物質としては、例えば二酸化炭素、アンモニア、二酸化イオウ、ハロゲン化水素、亜酸化窒素、硫化水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ハロゲン化炭化水素、水等が挙げられる。
【0015】
上記溶剤は、目的の物質の種類や超臨界流体の種類等に応じて、公知の種々の溶剤の中から一種又は二種以上が選ばれる。上記溶剤としては、例えばメタノール、エタノールや
2−プロパノール等の低級アルコール、アセトン等のケトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、水等が挙げられる。
【0016】
移動相中の超臨界流体と溶剤の混合比は、超臨界流体クロマトグラフィーの移動相に通常用いられる混合比とすることができ、用いる超臨界流体の物質と溶剤の種類を勘案し、適当な混合比とすることができる。とりわけ60:40〜95:5の範囲の混合比とすることが好ましく、80:20〜95:5とすることがより好ましい。
【0017】
上記超臨界流体クロマトグラフィー装置は、移動相に注入された試料から目的の物質を分離することができる装置であれば特に限定されず、通常の超臨界流体クロマトグラフィー装置に、後述する、移動相の組成を変化させた後に移動相の組成を変化前に戻す工程を実施するための装置を適用することによって構成することができる。
【0018】
<本発明の移動相に試料を注入する工程>
本発明の試料注入工程は、超臨界クロマトグラフィーで通常行われている操作と同様に行うことができ、また公知の技術を利用して行うことができる。例えば、特開平5−307026号公報に記載されているような、注入時に圧力の変動が生じない注入方法を採用したり、特開2006−58146号公報に記載されているような、移動相に注入される試料の圧力を簡易な構成で自在に調整することができる注入方法を採用することができる。
【0019】
<本発明の移動相の組成を変化させる工程及び移動相の組成を変化前に戻す工程>
本発明の移動相の組成を変化させる工程は、超臨界流体と溶剤を含有する移動相の組成を変化させるものである。本発明では、この工程により移動相の組成を変化させることで、ピークのテーリングの減衰を早めることができる。既に述べたように、カラム吸着超臨界流体クロマトグラフィーでは、特に比較的大量の分離対象化合物をロードする分取操作を行う場合には、図2に見られるようにピークが顕著なテーリングを示す。このテーリングが減衰する前に次の試料を注入すると、テーリングしている成分が次に注入した試料のピーク成分に混入することとなり、分離した化合物の純度が低下し、不都合が生じる。そのためテーリングの完全な減衰を待ってから次の試料の注入を行わなければならない。したがって、テーリングの減衰を早めることで次の試料注入のタイミングを早めることができることとなるが、本発明においては移動相の組成を変化させることで、ピーク成分のカラムからの押し出しを促進させ、テーリングの減衰を早めることができる。
【0020】
本発明では、移動相中の組成を変化させることで、液体クロマトグラフィーでいうステップグラジエント法と同様の効果を生じさせ、ピーク成分のカラムからの押し出しを促進させることで、テーリングの減衰を早めている。超臨界流体クロマトグラフィーは、高拡散性・低粘度の超臨界流体を用いていることから、移動相の流速が大きく、カラムの平衡化も早い。そのため、移動相中の組成が一時的に変化しても、移動相中の組成を元に戻すとカラムは迅速に変化前の環境に復元することから、テーリングを減衰させた後直ちに次の試料を注入することができる。結果として、試料の時間当たりの処理量を増やすことができ、効率性・生産性が向上する。
【0021】
本発明の移動相の組成を変化させる工程は、超臨界クロマトグラフィー装置で行うことができる限り、どのような手法によるものでも良い。例えば、移動相中の溶剤比率を増加させることで、移動相の組成の変化を生じさせることができる。以下、具体的な移動相の組成の変化の手法を説明する。
【0022】
上記移動相中の溶剤比率を増加させる手法としては、超臨界クロマトグラフィー装置に移動相の組成を変化させるための溶剤注入装置を移動相生成装置とは別に設置することが
挙げられる。移動相中には既に溶剤が含まれているが、移動相中に含ませる溶剤とは別途、カラムの上流で移動相生成装置の下流に溶剤注入装置を設け、移動相中の溶剤比率を増加させることができる。溶剤注入装置は、例えば注入する溶剤を保持するためのループ配管と流路切替弁、溶剤注入ポンプで構成される溶剤注入装置とすることができる。
【0023】
上記溶剤注入装置に用いるループ配管は、所定の容積を有する管である。ループ配管を有すると、試料の注入の定量性が向上し、またより多量の試料を注入することが可能となり好ましい。本発明において、ループ配管の容積は、超臨界流体クロマトグラフィー装置で用いられるカラムの種類やカラムの内径、目的の物質の種類、移動相の組成等の条件に応じて異なるが、一度に多量の溶剤を注入する必要があるため、溶剤注入装置が有するループ配管は試料注入装置が有するループ配管よりも大型で、多量の溶剤を保持できるものが適する。
【0024】
上記溶剤注入装置に用いる流路切替弁は移動相の流路に設けられる開閉自在な弁やコックであれば特に限定されない。例えば、二方弁やバタフライ弁を組み合わせて用いたり、三方弁を用いて移動相の流路の切り替えを行う弁が挙げられる。上記溶剤注入装置に用いる溶剤注入ポンプは、超臨界クロマトグラフィー装置の試料注入などで用いられる高圧ポンプを用いることができる。
【0025】
上記溶剤注入装置を用いた場合、溶剤の注入は、流路切替弁を切り替え溶剤注入ポンプによりカラムの移動相に溶剤を送りこむことで行われる。溶剤の注入は、試料の注入容積以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは5倍以上の溶剤を瞬時に注入することが好ましい。上限値としては、試料の注入容積の30倍以下、好ましくは20倍以下、より好ましくは15倍以下の溶剤を注入することが好ましい。このような溶剤注入量とすることで、ピークのテーリングの減衰が更に早まることとなる。
【0026】
また、本発明の移動相の組成を変化前に戻す工程は、上記のような方法で移動相の組成を変化させた後に、定常状態の移動相の組成に戻す工程である。本工程も超臨界クロマトグラフィー装置で行うことができる限り、どのような手法によるものでも良い。その中でも、上記溶剤注入装置を用いた場合には、流路切替弁を切り替え、溶剤注入ポンプによりカラムの移動相に溶剤を送り込んだ後流路切替弁を元の状態に戻すことで、移動相生成装置からの移動相の流路に切り替わる。先に述べたように、超臨界流体クロマトグラフィーは移動相の流速が大きくカラムの平衡も早いため、移動相の流路に切り替わることで、移動相の組成が迅速に変化前の組成に戻る。上記溶剤注入装置を用いることが、移動相の組成の変化が簡易に行うことができ、また元の組成に戻すことも簡易に行うことができるため、好ましく例示できる。
【0027】
本発明の移動相の組成を変化させる工程及び移動相の組成を変化前に戻す工程の両工程は、瞬時に行うことが好ましい。ここでいう瞬時とは、移動相の変化を生じさせるのに十分な時間であれば良い。早く移動相を平衡化させることで、次の試料注入のタイミングも早くなることから、両工程を30秒以内、好ましくは10秒以内に行う。上記溶剤注入装置を用いる場合には、上記流路切替弁を切り替え、溶剤を注入した後、流路切替弁を元に戻し移動相を平衡化させる操作を行うが、所定の溶剤を注入可能な時間を勘案しなるべく素早く切替操作を行うことが好ましい。
【0028】
本発明の移動相の組成を変化させる工程及び移動相の組成を変化前に戻す工程の両工程は、試料中の分離成分のうち最も溶出の遅いピークが検出されてから、次の試料を注入するまでの間に行われる。このタイミングで行うことで、ピーク成分のカラムからの押し出しを促進させ、テーリングの減衰を早めることができる。
【0029】
上記のピーク検出の方法は、特段限定はされるものではないが、通常超臨界流体クロマトグラフィーが有する検出器、例えば紫外吸光分光計により検出されたピークによりタイミングを計ることができる。上記のタイミングで移動相の組成変化を生じさせることにより本願発明の効果を奏することができるが、移動相の組成変化に溶媒注入装置を使用した場合であれば、通常装置に死容積が発生するため、溶媒注入からカラム出口を移動相が通過するための時間(t0)を考慮し、組成変化を行う。
【0030】
上記溶剤注入装置により注入される溶剤は特段限定されるものではなく、移動相中に含有される溶剤と同一の溶剤を注入しても良いし、異なる溶剤を注入しても良い。また注入される溶剤は、一種でも良く、二種以上を混合しても良い。溶剤の種類としては、例えば、メタノール、エタノールや2−プロパノール等の低級アルコール、アセトン等のケトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、水等が挙げられる。
この中でも、テーリングの減衰を更に早めることから、極性の高い溶剤が好ましく用いられる。また、移動相中に含有される溶剤と比較して、より極性の高い溶剤を採用することも好ましい態様である。
【0031】
本発明の方法では、上記移動相に試料を注入する工程を短い間隔で続けて実施することができるようになるため、上記の3つの工程を連続して次々と行う試料の連続注入により目的物質を分離する方法とすることが好ましい。このような試料の連続注入を行う際の試料注入の間隔が、従来の方法よりも短くできることから、その結果試料の時間当たりの処理量を増やすことができる。
本発明においては、試料中の目的物質のピークのテーリングが減衰し終わった時点で次の試料注入を行う。したがって、試料注入の間隔は、その目的物質に応じて適宜判断される。
【0032】
<本発明の超臨界流体クロマトグラフィー装置>
本発明の超臨界流体クロマトグラフィー装置は、移動相に試料を注入するための試料注入装置と、移動相の組成を変化させるため溶剤注入装置とを含み、その他、通常の超臨界流体クロマトグラフィー装置が有する、移動相を生成する移動相生成装置やカラム、その他検出器や圧力調整装置等の他の構成を一般に有する。
【0033】
移動相生成装置は、超臨界流体と溶剤とを含有する移動相を生成することができる手段であれば特に限定されない。移動相生成装置は、例えば熱交換器等の温度調整手段と高圧ポンプとによって構成することができる。
【0034】
カラムは、移動相に注入された試料中の目的の物質を分離することができる分離剤を有するカラムであれば特に限定されない。分離剤は、目的の物質に応じて種々の分離剤の中から選ばれる。分離剤の形態は特に限定されない。例えば、粒子状の担体に担持されている状態でカラムに充填されていても良いし、カラムに収容される一体型の担体に担持されている状態でカラムに収容されていても良いし、分離剤からなる一体型の成形物としてカラムに収容されていても良い。
【0035】
例えば目的の物質が光学異性体である場合では、分離剤には、光学活性を有する多糖、又はその誘導体を用いることが好ましい。多糖としては、例えばセルロースやアミロースが挙げられ、多糖の誘導体としては、セルロースやアミロースのエステル誘導体、及びセルロースやアミロースのカルバメート誘導体等が挙げられる。
【0036】
検出器は、カラムを通過した移動相中の目的の物質を検出することができる手段であれば特に限定されない。検出器としては、例えば紫外吸収分光計、示差屈折計、及び旋光検出器等が挙げられる。
【0037】
圧力調整装置は、移動相生成装置から検出器までの移動相の流路の圧力を、移動相生成装置で生成した移動相を維持する圧力に調整することができる手段であれば特に限定されない。圧力調整装置には、例えば公知の背圧弁(背圧調整弁)を用いることができる。
【0038】
本発明の超臨界流体クロマトグラフィー装置は、試料中の目的の物質を分離するための機器以外の他の手段をさらに有していても良い。このような他の手段には、例えば圧力調整装置を通過して移動相中の超臨界流体の超臨界状態が解除された移動相中から目的の物質を取り出すための取り出し部や、超臨界状態が解除された移動相から超臨界流体を形成していた成分をガスとして回収して移動相生成装置に供給するガス回収手段等が挙げられる。
【0039】
上記取り出し部は、カラムによって分離された目的の物質を含有し、超臨界状態が解除された移動相から目的の物質を取り出すことができる装置であれば特に限定されない。取り出し部には、具体的には、超臨界流体の超臨界状態が解除された移動相を気液分離するためのサイクロン等の気液分離装置や、分離された液相が収容される、より低圧の密閉容器等によって構成することができる。
【0040】
本発明においては、上記圧力調整装置に対して、一つの取り出し部を設けても良いし、複数の取り出し部を並列に受けても良い。複数の取り出し部を並列に設けることは、複数の目的の物質を取り出す観点から好ましい。
【0041】
上記ガス回収手段は、超臨界流体の超臨界状態が解除された移動相から超臨界流体を形成する成分をガスとして回収し、回収したガスを超臨界流体の原料として上記移動相生成装置に供給することができる手段であれば特に限定されない。前記ガス回収手段は、例えば前記取り出し部と前記移動相生成装置とを接続するガス回収管と、ガス回収管を流れる流体からガスと液相とを分離する回収用気液分離装置とによって構成することができる。
【0042】
上記回収用気液分離装置としては、例えばサイクロン、回収ガス中から溶剤を吸収する吸収液又は溶剤を吸着する固体の吸着剤をガスの流路中に有する装置等が挙げられる。
【0043】
本発明の超臨界流体クロマトグラフィー装置が上記ガス回収手段を有する場合では、回収ガスを移動相用の超臨界流体の生成に再利用することが可能となる。このような場合では、移動相生成装置に供給される回収ガスの圧力が移動相生成装置に供給される新規のガスの圧力よりも高いときに、回収ガスを新規のガスに優先して移動相生成装置に供給することが、回収ガスの再利用効率を高める観点から好ましい。このような回収ガスの供給は、例えば、適当な圧力(初期圧力)のときに新規のガスを供給するレギュレータ等の手段を介して、新規のガスの供給源と移動相生成装置とを接続することによって行うことができる。
【0044】
以下、本実施の形態で用いられる超臨界流体クロマトグラフィー装置の構成について説明する。
【0045】
本実施の形態で用いられる超臨界流体クロマトグラフィー装置は、図1に示すように、高圧の二酸化炭素が充填されているボンベ1と、ボンベ1から供給される二酸化炭素を冷却して液化ガスとするための熱交換器2と、熱交換器2で生成した液化ガスを定量的に圧送する高圧ポンプ3と、溶剤を収容する溶剤タンク4と、高圧ポンプ3で送られる液化ガスに溶剤タンク4から溶剤を定量的に供給するための高圧ポンプ5と、液化ガスと溶剤との混合流体を加熱して混合流体中の液化ガスを超臨界流体にするための熱交換器6とを有する。ボンベ1は新規のガスの供給源である。熱交換器2から熱交換器6は、移動相生成
装置に相当する。
【0046】
また、超臨界流体クロマトグラフィー装置は、生成した移動相に目的の物質(例えば光学異性体)を含有する試料を注入するための試料注入装置7と、注入された試料中の目的の物質を分離するためのカラム8と、カラム8を通った移動相中の物質を検出する検出器9と、高圧ポンプ3から検出器9までの系内の圧力を所定の圧力に保つための背圧弁10とを有する。背圧弁10は上記圧力調整装置に相当する。なお、試料注入装置7を介して熱交換器6とカラム8とを接続する管を管14とする。管14は移動相の流路に相当する。
【0047】
そして、超臨界流体クロマトグラフィー装置は、背圧弁10を通過した移動相を気液分離するための複数の気液分離装置11と、各気液分離装置11で分離された液相を収容する複数の第一の槽12と、各第一の槽12に対応して接続されている複数の第二の槽13とを有する。気液分離装置11から第二の槽13は上記取り出し部に相当する。
【0048】
さらに、超臨界流体クロマトグラフィー装置は、各気液分離装置11と熱交換器2とを接続するガス回収管15と、ガス回収管15を流れる回収ガスから液体を分離するための気液分離装置16と、気液分離装置16で分離された液相を収容する第三の槽17と、第三の槽17に接続されている第四の槽18とを有する。気液分離装置16は上記回収用気液分離装置に相当する。ガス回収管15から第四の槽18は前記ガス回収手段に相当する。
【0049】
加えて、本発明の超臨界流体クロマトグラフィー装置は、ボンベ1から所定の圧力で二酸化炭素のガスを供給するためのレギュレータ19と、熱交換器2からボンベ1へのガスの逆流を防止するための逆止弁20と、熱交換器2で生成した液化ガスを収容するバッファタンク21と、背圧弁10と各気液分離装置11との間に設けられた二方弁22と、第一の槽12と第二の槽13との間に設けられた二方弁23と、各気液分離装置11へのガスの逆流を防止するための逆止弁26と、第三の槽17と第四の槽18との間に設けられた二方弁27とを有する。
【0050】
溶剤タンク30、高圧ポンプ31、流路切替弁32及び好ましくはループ配管33を備えた溶剤注入装置は、本発明の移動相の組成を変化させるために備えられる。溶剤注入装置は、切替弁32の切替操作により、特定のタイミングで上記溶剤注入装置中の溶剤をカラムに注入する。そして溶媒注入後すぐに切替弁32を切替え、元の流路に戻す。切替弁の操作により溶剤が瞬時に注入されるように、高圧ポンプ31により溶剤注入装置中は高圧の状態で保持される。ループ配管33を有すると、試料注入の定量性が向上するため、好ましい。
【0051】
次に、前記超臨界流体クロマトグラフィー装置による目的の物質の分離について説明する。
【0052】
まずボンベ1から適当な初期圧力で二酸化炭素が熱交換器2に供給される。熱交換器2で冷却された二酸化炭素は液化ガスとなり、バッファタンク21に収容される。バッファタンク21に収容された液化ガスは、高圧ポンプ3によって定量的に圧送され、背圧弁10で規定される所定の圧力(例えば臨界圧力)まで加圧されながら熱交換器6に供給される。
【0053】
一方で溶剤タンク5からは、溶剤(例えばエタノール)が前記液化ガスに向けて高圧ポンプ5によって定量的に圧送される。前記溶剤は熱交換器6に供給される前に液化ガスと合流し、混合される。液化ガスと溶剤との混合流体は熱交換器6に供給されて所定の温度
(例えば臨界温度又はカラム8の設定温度)まで加熱される。この加熱により、混合流体中の液化ガスが超臨界流体となり、超臨界流体と溶剤とを含有する移動相が生成される。
【0054】
生成した移動相には、目的の物質(例えば光学異性体)を含有する試料が試料注入装置7から管14に注入される。
【0055】
試料が注入された移動相は、目的の物質に応じた分離剤(例えば多糖誘導体)を収容するカラム8に送られる。カラム8では試料中から目的の物質が分離される。目的の物質は検出器9で検出される。検出器9で目的の物質が検出されると、いずれか一つの二方弁22が開き、他の二方弁22は閉じる。目的の物質を含有する移動相は、背圧弁10に送られる。
【0056】
ここで、検出器9において目的の物質が検出されるが、目的物質のうち、カラムからの溶出が最も遅い目的物質のピークが検出されてから、次の試料を注入するまでの間に、溶剤注入装置の流路切替弁32を操作し、ループ配管33に保持された加圧された溶剤を瞬時にカラムに注入する。注入後は切替弁32を戻し、移動相の流路に戻す。
【0057】
そして、検出されたピークのテーリングが減衰した後、再び試料注入装置7から試料が管14に注入される。切替弁32及び試料注入装置7のこれらの制御は、別途設ける制御システムにより、一定間隔で、自動で行うこともできる。
【0058】
背圧弁10を通過した移動相は、背圧弁10による圧力調整から解除され、減圧され、所定の気液分離装置11に供給される。気液分離装置11に送られた移動相は、気液分離される。超臨界流体を形成していた二酸化炭素は気相として分離され、目的の物質及び溶剤は液相として分離される。液相は、第一の槽12に収容され、さらに低圧の第二の槽13に収容される。第二の槽13に収容された液相は、第二の槽13から取り出される。減圧濃縮や真空蒸留等の公知の方法によって溶剤と目的の物質とが前記液相から分けられ、目的の物質が得られる。溶剤は、必要に応じて精製し、移動相に再利用しても良い。
【0059】
気液分離装置11で分離された二酸化炭素は、逆止弁26を介して気液分離装置16に送られる。
【0060】
他の目的の物質が検出器9によって検出されると、前記気液分離装置11に対応する二方弁22は閉じる。そして、他の気液分離装置11に対応する二方弁22が開き、他の目的の物質を含有する移動相の気液分離が他の気液分離装置11によって同様に行われる。
【0061】
気液分離装置16に送られた二酸化炭素(回収ガス)は、気液分離装置16によって気液分離される。回収ガスに含まれていた微量の液相(溶剤)は、第三の槽17に収容され、次いで第四の槽18に収容され、廃棄される。
【0062】
気液分離装置16によって精製された回収ガスは、ガス回収管15を通って熱交換器2へ送られる。回収ガスの圧力がレギュレータ19で規定されている初期圧力よりも高い場合は、回収ガスが熱交換器2に供給され、液化される。回収ガスの圧力がレギュレータ19で規定されている初期圧力よりも低い場合は、ボンベ1からの新規の二酸化炭素のガスが熱交換器2に供給され、液化される。
【0063】
なお、本実施の形態では、それぞれの第二の容器13と気液分離装置16とを管で接続し、第二の容器13において液相から放出された二酸化炭素をさらに回収することも可能である。このような構成によれば、超臨界流体の原料となるガスの回収率が向上し、特に目的の物質の製造コストを削減する観点からより一層効果的である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明するが、これにより本発明が実施例に限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
図1に示した超臨界流体クロマトグラフィー装置を用い、以下の条件において、フルルビプロフェンを含有する試料中からフルルビプロフェンを分離した。
フルルビプロフェン含有試料を注入後6.4min後にエタノール100μLを切替弁の切り替えにより瞬時に注入し、弁を元に戻した。ここで、装置の死容積のため、エタノールが溶出するのは7.3minであった。
エタノール注入により、ピーク成分が急激に押し出されたためピークが先鋭化し、テーリングの減衰が1分早まった。ピークの様子を図2及び図3に示す。
カラム:CHIRALPK AD−H(ダイセル化学工業株式会社製) 0.46×25cm
移動相:CO2/EtOH=95/5
移動相流量:4mL/min
温度:25℃
圧力:10MPa
検出:290nm
試料:フルルビプロフェン含有エタノール溶液40μL(250mg/mL in EtOH)
注入溶剤:EtOH
溶剤注入量:100μL
【0066】
<実施例2−(1)>
実施例1と同様に、図1に示した超臨界流体クロマトグラフィー装置を用い、以下の条件において、ベンゾインエチルエーテルを含有する試料中からベンゾインエチルエーテルを分離した。
ベンゾインエチルエーテル含有試料を注入後3.2min後にテトラヒドロフラン(THF)300μLを切替弁の切り替えにより瞬時に注入し、弁を元に戻した。ここで、装置の死容積のため、THFが溶出するのは4.1minであった。
THF注入により、ピーク成分が急激に押し出されたためピークが先鋭化し、テーリングの減衰が1分早まった。ピークの様子を図4及び図5に示す。
カラム:CHIRALPK IA(ダイセル化学工業株式会社製) 0.46×25cm移動相:CO2/THF=90/10
移動相流量:4mL/min
温度:25℃
圧力:10MPa
検出:360nm
試料:ベンゾインエチルエーテル含有エタノール溶液40μL(500mg/mL in
EtOH)
注入溶剤:THF
溶剤注入量:300μL
【0067】
<実施例2−(2)>
注入溶媒をTHFからメタノールに変更した以外は実施例2−(1)と同様に、ベンゾインエチルエーテルを含有する試料中からベンゾインエチルエーテルを分離した。
メタノール注入により、ピーク成分が急激に押し出されたためピークが先鋭化し、テーリングの減衰が2分早まった。ピークの様子を図4及び図5に示す。
【0068】
<参考例1>
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)において、本発明の移動相の組成を変化させる方法を適用させ、以下の条件において、トランススチルベノキシド(t−SO)を含有する試料中からt−SOを分離した。
t−SO含有試料を注入後5.8min後にn−ヘキサン/2−プロパノール(IPA)30μLを切替弁の切り替えにより瞬時に注入し、弁を元に戻した。ここで、装置の死容積のため、THFが溶出するのは13.5minであった。
HPLCでは、IPAを注入したあと、カラムの内部環境がもとに戻るまでの時間が長く、次の試料注入以降の分離に影響が残ってしまう。ピークの様子を図6に示す。
カラム:CHIRALPK AS−H(ダイセル化学工業株式会社製) 0.46×25cm
移動相:n−ヘキサン/IPA=95/5
移動相流量:0.4mL/min
温度:25℃
圧力:常圧
検出:254nm
試料:t−SO含有MP溶液30μL(3mg/mL in MP)
注入溶剤:IPA
溶剤注入量:30μL
【符号の説明】
【0069】
1 ボンベ
2、6 熱交換器
3、5、31 高圧ポンプ
4、30 溶剤タンク
7 試料注入装置
8 カラム
9 検出器
10 背圧弁
11、16 気液分離装置
12 第一の槽
13 第二の槽
14 管
15 ガス回収管
17 第三の槽
18 第四の槽
19 レギュレータ
20、26 逆止弁
21 バッファタンク
22、23 二方弁
32 切替弁
33 配管ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体クロマトグラフィー装置を用いて、超臨界流体と溶剤とを含有する移動相に注入された試料から目的物質を分離し、目的物質を製造する方法であって、
前記移動相に試料を注入する工程と、
前記移動相に試料を注入した後に、前記移動相の組成を変化させる工程と、
前記移動相の組成を変化させた後に、前記移動相の組成を変化前に戻す工程とを含み、
前記移動相の組成を変化させる工程及び前記移動相の組成を変化前に戻す工程が、前記超臨界クロマトグラフィー装置で分離される目的物質のうち、カラムからの溶出が最も遅い目的物質のピークが検出されてから、次の試料を注入するまでの間に行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記移動相の組成を変化させる工程が、溶剤の注入により行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶剤の注入量が、試料の注入容積以上、注入容積の30倍以下の注入量であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記移動相の組成を変化させる工程で注入される溶剤の極性が、前記移動相に含まれる溶剤の極性よりも高いことを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−243258(P2010−243258A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90398(P2009−90398)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)