説明

超電導ケーブル

【課題】超電導シールド層と常電導シールド層とを備える超電導ケーブルにおいて、定常時には常電導シールド層に電流が実質的に流れないようにできる超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】超電導線材をらせん状に巻回した超電導シールド層と、超電導シールド層の外側に常電導線材をらせん状に巻回した常電導シールド層とを有する。常電導シールド層を構成する常電導線材は、次の条件にて巻回する。(1)常電導線材の巻回方向は、超電導シールド層の最外層を構成する超電導線材の巻回方向と同一とする。(2)常電導線材のピッチは、超電導シールド層の最外層を構成する超電導線材のピッチに対する常電導線材のピッチのずれ比が-20〜50%となるようなピッチとする。
ずれ比(%)={(常電導線材のピッチ−超電導線材のピッチ)/超電導線材のピッチ}×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルに関するものである。特に、超電導シールド層と常電導シールド層を備える超電導ケーブルにおいて、定常的に常電導シールド層に電流が流れることを抑制できる超電導ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルとして、中心から順に、フォーマ、超電導導体層、絶縁層、シールド層、保護層を備えるものが知られている。特に、交流用超電導ケーブルの短絡電流対策として、シールド層を、内側の超電導シールド層と、外側の常電導シールド層とから構成したケーブルも知られている(特許文献1)。通常、超電導導体層及び超電導シールド層は、超電導線材をらせん状に巻回して多層に形成される。
【0003】
このシールド層のうち、定常時は超電導シールド層に電流が流れ、短絡事故時には短絡電流のバイパス流路として常電導シールド層が利用される。
【0004】
【特許文献1】特開2006-331894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
交流用超電導ケーブルでは、超電導導体層・超電導シールド層に流れる電流を超電導線材の巻回ピッチで調整することが行われている。このようなピッチ調整型超電導ケーブルでは、運転時にケーブル軸方向に大きな磁界が発生する。通常は、超電導線材の抵抗が非常に小さいため、電流はほぼ超電導線材に流れ、常電導シールド層には流れない。ところが、特に定格電流の大きな超電導ケーブルでは、軸方向の磁界に起因して、定常時であっても常電導シールド層に電流が流れ、大きな損失が発生する場合があるということがわかった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、超電導シールド層と常電導シールド層とを備える超電導ケーブルにおいて、定常時には常電導シールド層に電流が実質的に流れないようにできる超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、超電導シールド層を構成する超電導線材の巻回方向・ピッチと、常電導シールド層を構成する常電導線材の巻回方向・ピッチとを変えたケーブルに通電した際に、常電導シールド層に電流が流れるか否かを検討した。その結果、常電導線材に電流が流れるか否かは、超電導シールド層における最外層の超電導線材の巻回方向・ピッチと、常電導線材の巻回方向・ピッチに大きく関係しているとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の超電導ケーブルは、超電導線材をらせん状に巻回した超電導シールド層と、超電導シールド層の外側に常電導線材をらせん状に巻回した常電導シールド層とを有する。そして、この常電導シールド層を構成する常電導線材は、次の条件にて巻回することを特徴とする。
(1)常電導線材の巻回方向は、超電導シールド層の最外層を構成する超電導線材の巻回方向と同一とする。
(2)常電導線材のピッチは、超電導シールド層の最外層を構成する超電導線材のピッチに対する常電導線材のピッチのずれ比が-20〜50%となるようなピッチとする。このずれ比は、下記の式で表わされる。
ずれ比(%)={(常電導線材のピッチ−超電導線材のピッチ)/超電導線材のピッチ}×100
【0009】
この構成によれば、定常時に常電導シールド層に流れる電流を極わずかに抑制でき、損失を低減することができる。
【0010】
本発明の超電導ケーブルにおいて、前記常電導シールド層は、ずれ比が-10〜20%となるようなピッチで常電導線材を巻回することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、定常時に常電導シールド層に流れる電流を実質的にない状態とすることができ、さらに損失の少ない超電導ケーブルとすることができる。
【0012】
本発明の超電導ケーブルにおいて、前記常電導線材のピッチが、前記超電導シールド層の最外層を構成する超電導線材のピッチと同一であってもよい。
【0013】
この構成によれば、定常時に常電導シールド層に流れる電流を実質的にない状態とすることができ、超電導ケーブルの損失を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超電導ケーブルによれば、定常時に常電導シールド層に電流が流れることを可及的に抑制でき、損失を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
〔超電導ケーブル〕
本発明の超電導ケーブル1は、図1に示すように、コア10と、コア10を収納する断熱管50とを備える。ここでは、3心のコア10を一括して断熱管内に収納する3心一括型超電導ケーブルを示す。
【0017】
{コアの構成}
各コア10は、中心側から順に、フォーマ11、超電導導体層12、内部半導電層13、絶縁層14、外部半導電層15、超電導シールド層16、常電導シールド層17、保護層18を備える。
【0018】
フォーマ11は、銅等からなる常電導線材を撚り合せたものや、ステンレス等からなる常電導パイプが好適に利用できる。交流用途においては、常電導線材は素線絶縁されていることが好ましい。
【0019】
内部半導電層13、外部半導電層15には、カーボンテープを超電導導体層12の外側又は絶縁層14の外側に巻回することで構成される。
【0020】
絶縁層14は、クラフト紙などの絶縁紙、絶縁紙とプラスチックテープとをラミネートした半合成紙及びプラスチックテープを単独で又は組み合わせて構成することができる。特に、ポリプロピレンフィルムとクラフト紙とをラミネートした半合成紙が絶縁特性の点で好ましい。
【0021】
超電導導体層12は、超電導線材をらせん状に巻回して構成する。超電導線材としては、銀合金などの安定化材中にBi系酸化物超電導体からなるフィラメントが埋設されたテープ線材が好適に利用できる。その他、基材上にYBCOの薄膜を形成した薄膜超電導線材も利用することが期待できる。通常、この超電導導体層12は多層に形成される。超電導導体層12が多層となっている場合、各層又は各線材における電流値を調整して交流損失を低減するために、各層毎又は一部の層に対して超電導線材の巻回方向やピッチを調整することがある。このようなピッチ調整を行った超電導ケーブル1(ピッチ調整型超電導ケーブル)では、ケーブル軸方向に大きな磁界を生じる場合があり、その磁界に起因する電流が常電導シールド層17に流れる場合がある。特に、定格電流が大きな超電導ケーブル1では、常電導シールド層17に流れる電流による損失が大きくなる。
【0022】
超電導シールド層16には、超電導導体層12に交流電流が流れた際、誘導電流が流れる。この超電導シールド層16も、超電導導体層12と同様な超電導線材が好適に利用できる。また、超電導シールド層16の構成も、超電導導体層12と同様に、超電導線材をらせん状に巻回して形成される。通常、超電導シールド層16も多層に形成される。この超電導シールド層16も、交流損失の低減のため、各層毎又は一部の層に対して超電導線材の巻回方向やピッチを調整することがある。
【0023】
常電導シールド層17は、超電導ケーブル1の定常運転時には実質的に電流が流れないが、短絡電流などの事故電流が超電導シールド層16に流れる際の分流路となる。常電導シールド層17は、銅線などの常電導線材をらせん状に巻回して構成される。通常、常電導シールド層17も多層に形成される。
【0024】
ここで、この常電導シールド層17を構成する常電導線材の巻回方向を超電導シールド層16の最外層を構成する超電導線材(以下、外層線材という)と同一方向とする。一般に、線材の巻回方向には、S巻きとZ巻きがある。例えば、外層線材の巻回方向がS巻き(Z巻き)であれば、常電導シールド層17を構成する常電導線材もS巻き(Z巻き)とする。
【0025】
また、常電導線材のピッチを外層線材のピッチに対するずれ比が-20〜50%となるようにする。ずれ比は、{(常電導線材のピッチ−超電導線材のピッチ)/超電導線材のピッチ}×100で表される。
【0026】
後述する計算例から明らかなように、このような巻回方向とピッチを満たすように常電導シールド層17を形成すれば、ピッチ調整型ケーブルであっても、定常運転時に常電導シールド層17に電流が殆ど流れず、損失が生じることを可及的に抑制できる。
【0027】
そして、保護層18は、クラフト紙などを常電導シールド層17の上に巻回して構成され、常電導シールド層17を保護する。
【0028】
{断熱管の構成}
断熱管50は、内管52と外管54から構成される二重管構造のものが利用される。内管52・外管54のいずれも、ステンレス製のコルゲート管が好適に利用される。内管52と外管54の間は、輻射熱を反射するためのスーパーインシュレーション56が介在され、かつ真空引きされている。この断熱管50のうち、例えば内管52の内部に液体窒素などの冷媒が循環流通される。そして、外管54の外側はポリエチレンなどの防食層60で覆われている。
【0029】
〔試算例〕
次に、上述した超電導ケーブルに準じた構成をモデルとして、超電導シールド層を構成する超電導線材の巻回方向・ピッチと、常電導シールド層を構成する常電導線材の巻回方向・ピッチを変え、常電導シールド層に流れる電流値に対してどのような関係があるかを試算した。
【0030】
<計算条件>
ケーブルモデルを図2に示す。このモデルでは、4層の超電導導体層C1〜C4を備え、その外側に2層の超電導シールド層S1、S2と、4層の常電導シールド層D1〜D4とを備える。超電導導体層C1〜C4及び超電導シールド層S1、S2を構成する超電導線材は、Bi2223系酸化物高温超電導テープ線材であり、常電導線材は銅テープ線材である。このモデルにおいて、超電導導体層に電流が並列に流れ、超電導シールド層と常電導シールド層に誘導電流が流れる回路を基に試算を行う。試算は、各層の内径に依存する径方向のインダクタンスと、ピッチに依存する軸方向のインダクタンス及び各層の抵抗を計算して、各層の電流分布を求めることとする。ケーブルモデルの各層の仕様を表1及び2に示す。このうち、常電導線材D1〜D4のピッチや巻回方向を変えて以下の試算を行う。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
<常電導線材の巻回方向に対する各層の電流分布の依存性>
常電導シールド層D1〜D4を構成する常電導線材のピッチを全て0.31mとし、各層の常電導線材の巻回方向をSSSS、SZSZ、ZZZZ(左から右に向かってD1〜D4の巻回方向を示す)とした3タイプのモデルを考え、各層の電流分布を試算した。その結果を表3、4に示す。表4の「ID all」は常電導シールド層の全電流値である。また、これら巻回方向の異なる3モデルの各層の電流分布を図3〜図5に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
表3、4から明らかなように、常電導線材の巻回方向をSSSSとした場合には、常電導シールド層D1〜D4に殆ど電流が流れていない。これに対して、常電導線材の巻回方向をSZSZとした場合には、Z巻きとした常電導シールド層D2、D4に大きな電流が流れ、常電導線材の巻回方向をZZZZとした場合には、全ての常電導シールド層D1〜D4に大きな電流が流れることがわかる。
【0037】
このことは、図3〜図5からもわかる。常電導線材の巻回方向をSSSSとした場合、図3に示すように、超電導シールド層S1、S2には電流が流れているが、常電導シールド層D1〜D4には殆ど電流が流れていない。この図では、常電導シールド層の各層D1〜D4の電流がほぼ0であるため、そのグラフは全て重なって水平状に示されている。一方、常電導線材の巻回方向をSZSZとした場合には、図4に示すように、(1)S巻きとした常電導シールド層D1、D3の電流グラフには非常に小さな波形が認められて極僅かな電流が流れていることがわかり、(2)Z巻きとした(常電導シールド層D2、D4の電流グラフには、超電導シールド層S1、S2の電流グラフよりは小さいが、S巻きとした常電導シールド層D1、D3の電流グラフより大きな波形が認められて比較的大きな電流が流れていることがわかる。さらに、図5に示すように、常電導線材の巻回方向をZZZZとした場合には、全ての常電導シールド層D1〜D4に大きな電流の波形が認められる。
【0038】
以上のことからすれば、常電導シールド層を構成する常電導線材の巻回方向を、超電導シールド層のうち、最外層を構成する超電導線材(S巻き)と同一方向にすれば、定常運転時に常電導シールド層に電流が殆ど流れないことがわかる。
【0039】
<常電導線材のピッチに対する各層の電流分布の依存性>
次に、常電導シールド層D1〜D4を構成する常電導線材の巻回方向をSSSSとし、これら常電導線材のピッチを変えて、各層D1〜D4の電流分布を試算した。ここでは、超電導シールド層S1、S2の最外層を構成する超電導線材のピッチ0.31mを基準とし、この基準に対して常電導線材のピッチをずらしたモデルを用いて試算を行った。そのピッチのずれ比を{(常電導線材のピッチ−超電導線材のピッチ)/超電導線材のピッチ}×100とした。結果を表5に示す。また、試算結果を図6に示す。
【0040】
【表5】

【0041】
表5及び図6から明らかなように、常電導シールド層D1〜D4に流れる合計電流量ID allは、常電導線材のピッチを320mmとしたときに最小となることがわかる。また、図6のグラフから、常電導シールド層D1〜D4での発熱を1W/m以下にしようとすれば、ずれ比を-20〜50%にすればよいことがわかる。特に、ずれ比を-10〜20%とすれば、ほぼ無視できる程度の低損失とできることがわかる。
【0042】
尚、本発明は上記の実施例に限定されるわけではなく、種々の変更を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の超電導ケーブルは、大容量の送電に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る超電導ケーブルの端部斜視図である。
【図2】計算例で用いた超電導ケーブルのモデルを示す説明図である。
【図3】計算例において、常電導線材の巻回方向をSSSSとした場合のケーブル各層の電流波形を示すグラフである。
【図4】計算例において、常電導線材の巻回方向をSZSZとした場合のケーブル各層の電流波形を示すグラフである。
【図5】計算例において、常電導線材の巻回方向をZZZZとした場合のケーブル各層の電流波形を示すグラフである。
【図6】計算例において、常電導電材のピッチを変えた場合における常電導シールド層の電流と発熱量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1 超電導ケーブル
10 コア
11 フォーマ 12 超電導導体層 13 内部半導電層 14 絶縁層
15 外部半導電層 16 超電導シールド層 17 常電導シールド層
18 保護層
50 断熱管
52 内管 54 外管 56 スーパーインシュレーション
60 防食層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材をらせん状に巻回した超電導シールド層と、超電導シールド層の外側に常電導線材をらせん状に巻回した常電導シールド層とを有する超電導ケーブルであって、
前記常電導シールド層は、
常電導線材の巻回方向を、超電導シールド層の最外層を構成する超電導線材の巻回方向と同一とし、
常電導線材のピッチを、その超電導線材のピッチに対する常電導線材のピッチのずれ比が-20〜50%となるようなピッチとして構成されることを特徴とする超電導ケーブル。
ずれ比(%)={(常電導線材のピッチ−超電導線材のピッチ)/超電導線材のピッチ}×100
【請求項2】
前記常電導シールド層は、ずれ比が-10〜20%となるようなピッチで常電導線材を巻回してなることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項3】
前記常電導線材のピッチが、前記超電導シールド層の最外層を構成する超電導線材のピッチと同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−20969(P2010−20969A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179044(P2008−179044)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】