説明

超電導コイルの冷却装置

【課題】ケーブル・イン・コンジット導体を用いた強制冷却超電導コイルにおける熱負荷を効率的に除去して冷却能力を高めることができ、所定の極低温での超電導状態に到達するまでの予冷時間を大幅に短縮することが可能な超電導コイルの冷却装置を提供する。
【解決手段】コイル導体内部に冷媒を流通せしめて冷却する超電導コイルの冷却装置において、冷凍機5から供給される第1の冷媒と超電導コイル3,3からの熱負荷を受けた第1の冷媒との熱交換を行う第1熱交換器7と、第1の冷媒系統とは異なる冷媒源11から供給された第2の冷媒と第1熱交換器7から排出された第1の冷媒との熱交換を行う第2熱交換器10とを備えたことを特徴とする超電導コイルの冷却装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導コイルの冷却装置に係り、特に強制冷却超電導コイルにおける熱負荷を効率的に除去して冷却能力を高めることができ、所定の極低温での超電導状態に到達するまでの予冷時間を大幅に短縮することが可能な超電導コイルの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブとチタンとの合金など、ある種の導電体を絶対零度(-273℃)付近まで冷却すると電気抵抗が殆どなくなるという超伝導現象を生じる超電導体で巻き線(コイル)を形成した超電導コイルは、極低温に冷却すると、大きな電流を流すことができ、強力な磁界を発生させることが可能である。そのため、この超電導コイルは核融合実験装置や磁気浮上列車、電磁流体(MHD)発電装置などに応用することが期待されている。特にコイルとして発熱量が大きい超電導体を使用した場合には、導体内部に冷媒を流通せしめて強制的に冷却を行う強制冷却超電導コイルが、電流容量が大きい上記各用途に応用されている。
【0003】
一般に、上記強制冷却超電導コイルを構成する導体としては、比較的に径が細い超電導素線を多数本撚り合わせることにより電流容量を大きく高めた導体が用いられる。また、このような高電流容量の導体を使用した強制冷却型超電導コイルは、超電導エネルギー貯蔵装置等の大型の超電導コイルとして装備される。
【0004】
このような強制冷却型超電導コイルに用いられる導体の構造例を、図2に断面図で示す。図2に示す導体において、超電導ケーブル1は、例えばステンレス鋼等で形成された矩形の断面を有する鞘管(コンジット)2内に収納されて構成されている。このような構造形式を有する導体は、一般にケーブル・イン・コンジット導体と呼称されている。この導体を冷却するための低温度の冷媒は、例えば冷凍機等の低温源から供給され、超電導ケーブル(素線)の周囲および導体断面の中央に配設した冷却管を流れる。その冷媒は、外部に設置された冷凍機などの冷却装置から供給される。また、このような構成を有する導体を用いて製作した超電導コイルにおいては、外部からの熱の侵入を防止するために、その超電導コイルは断熱空間に配置して使用される。そして、超電導コイルの冷却操作は、発熱した導体内部を流れて熱負荷を受けた冷媒と、外部の冷却装置から供給された低温度の冷媒との熱交換を行う熱交換器によって実施される(例えば特許文献1参照)。
【0005】
図3は従来の強制冷却型超電導コイルの冷却装置の構成を示す系統図である。この従来の強制冷却型超電導コイルの冷却装置は、2基の強制冷却超電導コイル3と、1基の電磁力支持構造物4と、冷媒を供給する冷凍機5と、ジュールトムソン効果によって低温度の冷媒と高温度の冷媒との熱交換を行う1基の熱交換器7とを備えて構成されている。上記2基の強制冷却超電導コイル3および1基の電磁力支持構造物4の冷却回路は、直列に接続されている。
【0006】
この強制冷却型超電導コイルの冷却装置において、外部に配設された冷凍機5から2基の強制冷却超電導コイル3に、低温度の冷媒が供給される。超電導コイル3における超電導状態を迅速に達成し維持するためには、冷凍機5から供給される冷媒が、冷媒供給配管6における熱負荷によって、その温度が上昇することを防止する必要がある。そのため、冷媒は熱交換器7において再冷却される。すなわち、強制冷却超電導コイル3および電磁力支持構造物4を冷却した後に冷媒は熱交換器7に還流され、ジュールトムソン膨張弁(JT弁)8によって、断熱膨張作用を受けることにより液化して熱交換器7に貯液され、冷凍機5から供給された冷媒をさらに冷却した後に、冷媒戻り配管9を経由して冷凍機5へ還流される。熱交換器7においてさらに低温度に冷却された冷媒は、超電導コイル3および電磁力支持構造物4を冷却した後に熱交換器7に還流される。
【特許文献1】特開平08−148328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように強制冷却超電導コイルにおいては、早期に所定の低温度での超電導状態を達成したり、その超電導状態を安定した状態で維持したりするために、導体内部に冷媒を流すことにより超電導コイルの冷却を実施している。
【0008】
しかしながら、電流容量の増大に伴って超電導コイルが大型化すると、超電導コイルの冷媒流路における圧力損失が増加し、室温から極低温に冷却する際の冷媒の圧力損失が大きくなり、所定の低温度での超電導状態を達成するまでの冷却操作に要する時間(予冷時間)が長くなり、スタートアップが迅速に進行しない問題点があった。
【0009】
また、従来の強制冷却超電導コイルの冷却装置においては、冷凍機の仕様、圧縮特性、熱容量等によって、使用される冷媒が制限される場合があり、高価な冷媒を使用することが余儀なくされて超電導コイルの運転コストが増大する難点もあった。また、熱容量が小さい冷媒しか使用できないために、超電導コイルにおける熱負荷を効率良く除去することが困難であり、超電導状態が不安定になる恐れを生じたり、予冷時間の短縮が困難になったりする問題点もあった。
【0010】
特に、前述したように、強制冷却超電導コイルでは、導体内部に冷媒を流すことにより超電導コイルを冷却する構造であるために、特に予冷開始時から暫くの間においては、冷媒の密度が小さく、この段階で冷却速度を高めるべく冷媒の流量を大きくしようとしても、冷媒の圧力損失が大きくなってしまうため、いずれにしても冷却効率が低下する問題点があった。この問題点は、特に大型コイルのように冷却流路が長くなるような場合においては、特に顕著になり、必然的に冷却操作に長時間を要するという不具合も生じていた。
【0011】

本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、特にケーブル・イン・コンジット導体を用いた強制冷却超電導コイルにおける熱負荷を効率的に除去して冷却能力を高めることができ、所定の極低温での超電導状態に到達するまでの予冷時間を大幅に短縮することが可能な超電導コイルの冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明に係る超電導コイルの冷却装置は、コイル導体内部に冷媒を流通せしめて冷却する超電導コイルの冷却装置において、冷凍機から供給される第1の冷媒と超電導コイルからの熱負荷を受けた第1の冷媒との熱交換を行う第1熱交換器と、第1の冷媒系統とは異なる冷媒源から供給された第2の冷媒と第1熱交換器から排出された第1の冷媒との熱交換を行う第2熱交換器とを備えたことを特徴とする。
【0013】
上記本発明に係る超電導コイルの冷却装置においては、冷凍機から供給される第1の冷媒系統とは異なる冷媒源から供給される第2の冷媒を使用する構成としているために、冷凍機の仕様等に制限されない他の冷媒を使用することが可能になり、第一の冷媒による冷却作用に加えて、安価で熱容量が大きい第2の冷媒による冷却効果が得られることになる。そのため冷却装置全体としての冷却能力を低コストで高めることができ、所定の極低温での超電導状態に到達するまでの予冷時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0014】
上記冷凍機から供給される第1の冷媒としては、ギフォードマクマフォン(GM)型冷凍機等に一般的に使用されるヘリウム(He)が好適に使用できる一方、第2の冷媒としては、第1の冷媒と比較して安価で熱容量が大きい液体窒素(沸点:−195.8℃)などが好適に使用できる。
【0015】
したがって、上記超電導コイルの冷却装置において、冷凍機から供給される第1の冷媒がヘリウムである一方、第1の冷媒系統とは異なる冷媒源から供給された第2の冷媒が液体窒素であるように構成することが好ましい。
【0016】
第2の冷媒としての液体窒素は、第1の冷媒としてのヘリウムと比較して、原料コストが安価であり冷却能力を経済的に高めることができる上に、熱容量もヘリウムより大きいために、特に所定の超伝導状態を達成する極低温度までに至る予冷操作途中の比較的に高い温度領域において、第1の冷媒を効果的に冷却することが可能であり、予冷操作時における冷却能力を迅速に向上させることができ、予冷時間を大幅に短縮することが可能となり、超電導コイルの起動特性が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる超電導コイルの冷却装置によれば、冷凍機から供給される第1の冷媒系統とは異なる冷媒源から供給される第2の冷媒を使用する構成としているために、冷凍機の仕様等に制限されない他の冷媒を使用することが可能になり、第一の冷媒による冷却作用に加えて、安価で熱容量が大きい第2の冷媒による冷却効果が得られることになる。そのため冷却装置全体としての冷却能力を低コストで高めることができ、所定の極低温での超電導状態に到達するまでの予冷時間を大幅に短縮することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明に係る強制冷却型超電導コイルの冷却装置の一実施形態について、添付図面を参照して以下に具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る強制冷却型超電導コイルの冷却装置の一実施形態を示す系統図である。なお、図3に示す従来の超電導コイルの冷却装置の構成要素と同一の構成要素には同一符号を付している。
【0020】
すなわち、本実施形態に係る強制冷却型超電導コイルの冷却装置は、コイル導体内部に冷媒を流通せしめて冷却する超電導コイルの冷却装置において、冷凍機5から供給される第1の冷媒としてのヘリウムと超電導コイル3,3からの熱負荷を受けた第1の冷媒との熱交換を行う第1熱交換器7と、第1の冷媒系統とは異なる冷媒源としての冷媒貯槽11から供給された第2の冷媒としての液体窒素と第1熱交換器7から排出された第1の冷媒との熱交換を行う第2熱交換器10とを備えて構成される。
【0021】
また、冷凍機5から供給されたヘリウムによる冷却系統は、冷凍機5から冷媒供給配管6を経て、順次第1熱交換器7、第2熱交換器10、超伝導コイル3,3を通り、さらにジュールトムソン膨張弁(JT弁)8を介して第1熱交換器7に戻り、最後に冷媒戻り配管9を経て冷凍機5に還流するように構成されている。
【0022】
さらに、冷媒貯槽11から供給される液体窒素による冷却系統は、冷媒貯槽11から第2熱交換器10に至る冷媒供給配管12と、第2熱交換器10において熱交換して揮発した窒素を図示しない回収装置に供給する回収配管13とから構成されている。
【0023】
上記本実施形態に係る強制冷却型超電導コイルの冷却装置において、冷凍機5から供給された第1の冷媒としてのヘリウムは冷媒供給配管6を通り第1熱交換器7に供給され、ここでジュールトムソン膨張弁(JT弁)8によって断熱膨張作用を受けて液化した戻りの冷媒と熱交換されて冷却される。冷却されたヘリウムは、さらに第1熱交換器7とは別に設置された第2熱交換器10に移送され、ここで冷媒貯槽11から供給された液体窒素と熱交換されてさらに迅速に冷却される。熱交換して気化した窒素ガスは、図示されていない回収系へと排出される。一方、第2熱交換器10で冷却されたヘリウムは、超伝導コイル3,3の超電導ケーブル(素線)の周囲および導体断面の中央に配設した冷却管および電磁力支持構造物4に配設した冷却管を流れて超電導コイル3、3および電磁力支持構造物4を冷却した後に第1熱交換器7に還流される。
【0024】
強制冷却超電導コイル3および電磁力支持構造物4を冷却した後に、第1の冷媒としてのヘリウムは第1熱交換器7に還流され、ジュールトムソン膨張弁(JT弁)8によって、断熱膨張作用を受けることにより液化して第1熱交換器7に貯液され、冷凍機5から供給されたヘリウムをさらに冷却した後に、冷媒戻り配管9を経由して冷凍機5へ還流される。
【0025】
上記本実施形態に係る超電導コイルの冷却装置においては、冷凍機5から供給される第1の冷媒系統とは異なる冷媒源(冷媒貯槽11)から供給される第2の冷媒としての液体窒素を使用する構成としているために、冷凍機5の仕様等に制限されない他の冷媒を使用することが可能になり、第一の冷媒としてのヘリウムによる冷却作用に加えて、安価で熱容量が大きい第2の冷媒としての液体窒素による冷却効果が得られることになる。そのため冷却装置全体としての冷却能力を低コストで高めることができ、所定の極低温での超電導状態に到達するまでの予冷時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0026】
特に、第2の冷媒としての液体窒素は、第1の冷媒としてのヘリウムと比較して、原料コストが安価であり冷却能力を経済的に高めることができる上に、熱容量もヘリウムより大きいために、特に所定の超伝導状態を達成する極低温度までに至る予冷操作途中の比較的に高い温度領域において、ヘリウムを効果的に冷却することが可能であり、予冷操作時における冷却能力を迅速に向上させることができ、予冷時間を大幅に短縮することが可能となり、超電導コイル3,3の起動特性が向上する。また、冷却能力の変動に伴う超電導特性の不安定化も解消することができる。
【0027】
すなわち、上記実施形態のように構成することにより、第二熱交換器10における冷却用冷媒として、冷凍機5で用いられる冷媒とは特性が異なる冷媒を積極的に使用することが可能になる。例えば、冷凍機5ではヘリウムを使用することが一般的であるが、上記実施形態のように、第2の冷媒源として冷媒貯槽11に液体窒素を貯留しておき、予冷操作途中においてヘリウム温度が比較的高い温度領域で、液体窒素を使用してヘリウムを効果的かつ迅速に冷却することも可能になるのである。特に液体窒素は、安価であるとともに熱容量が大きいために、予冷の効果を高めて予冷時間を効果的に短縮することが可能となる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態に係る超電導コイルの冷却装置によれば、ケーブル.イン.コンジット導体によって超電導コイルを構成した強制冷却超電導コイルにおいて、予冷操作時における冷却能力を向上させることができ、予冷時間の短縮が可能となる強制冷却型超電導コイルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る強制冷却型超電導コイルの冷却装置の一実施形態を示す系統図。
【図2】強制冷却型超電導コイルを構成する導体の一般的な構造を示す断面図。
【図3】従来の強制冷却型超電導コイルの冷却装置の構成を示す系統図。
【符号の説明】
【0030】
1 超電導ケーブル
2 鞘管(コンジット)
3 超電導コイル
4 構造物(電磁力支持構造体)
5 冷凍機
6 冷媒供給配管
7 熱交換器、第1熱交換器
8 JT弁(ジュールトムソン膨張弁)
9 冷媒戻り配管
10 第2熱交換器
11 冷媒貯槽(液体窒素貯槽),冷媒源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル導体内部に冷媒を流通せしめて冷却する超電導コイルの冷却装置において、冷凍機から供給される第1の冷媒と超電導コイルからの熱負荷を受けた第1の冷媒との熱交換を行う第1熱交換器と、第1の冷媒系統とは異なる冷媒源から供給された第2の冷媒と第1熱交換器から排出された第1の冷媒との熱交換を行う第2熱交換器とを備えたことを特徴とする超電導コイルの冷却装置。
【請求項2】
冷凍機から供給される第1の冷媒がヘリウムである一方、第1の冷媒系統とは異なる冷媒源から供給された第2の冷媒が液体窒素であることを特徴とする請求項1記載の超電導コイルの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−128465(P2006−128465A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316128(P2004−316128)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)