説明

超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法及びその台車組立体

【課題】 台車枠への超電導磁石装置の取付状態の診断が確実に実施できる、超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法及びその台車組立体を提供する。
【解決手段】 超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法において、超電導磁石装置1,2を対にして配置し、この対にして配置された超電導磁石装置1,2の内側に台車枠の側梁3,4をそれぞれ配置し、この台車枠の側梁3,4の間に台車枠の横梁5を配置して、前記超電導磁石装置1,2を前記台車枠の側梁3,4に取付ボルト6,7によって規定トルク値にて締結して取り付けた台車組立体を準備し、前記取付ボルト6,7の端部付近に取り付けた振動センサ8によって前記台車組立体の振動特性を把握し、前記取付ボルト6,7の締結トルク値が変化した場合の前記台車組立体の振動特性を把握し、運用後の前記台車組立体の振動特性を把握することにより、前記取付ボルト6,7の締結トルクの実効値を推定して、前記超電導磁石装置1,2の台車枠取付状態を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法及びその台車組立体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の超電導磁石装置が搭載される台車組立体を示す図である(下記非特許文献1参照)。
この図において、台車の両側に超電導磁石装置(SCM)101,102が配置され、それらのSCM101,102の内側に台車枠の側梁103,104が配置され、それらの台車枠の側梁103,104の間には、台車枠の横梁105が配置されており、また、SCM101,102と台車枠の側梁103,104とはSCM101,102の取付ボルト106,107により固定されるようになっている。
【0003】
このように、超電導磁石装置は、対にして台車枠の両側へ取り付けることにより、台車の構成要素となる。その取付方法はボルトによる締結である。そのため、従来は、超電導磁石装置の台車枠取付状態の管理を締結トルク値の規定化などによって実施してきた。
なお、台車には図5に示すようにその他の装置が実装されている。例えば、アンカ装置108、緊急着地装置109、案内脚フェアリング110、台車上部フェアリング111、支持脚装置112、液体ヘリウム溜,液体窒素溜113、ヘリウム冷凍機114、ヘリウム車載冷凍システム圧縮機ユニット115、先頭台車用左右補助ばね116、油圧パワーユニット117、案内脚装置118、案内ストッパ輪装置119、車体支持空気ばね120、台車枠内蔵型油タンク121、車体支持上下動ダンパ122、台車火災検知センサ123が実装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−258278号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄道総研報告 Vol.10,No.1,1996.1,pp.11−16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、規定トルク値にて超電導磁石装置を台車枠に締結した後、運用に伴う振動が加われば、超電導磁石装置の台車枠取付状態が適正に維持されているという確証はない。
ところで、本発明者は、超電導磁石装置の荷重支持材の検査・診断方法及びその装置を提案した(上記特許文献1参照)。
【0007】
図6は上記特許文献1で提案した超電導磁石装置の荷重支持材の検査・診断装置の模式図である。
この図において、201は超電動コイル、202は内槽容器、203は荷重支持材、204はシールド板、205は外槽容器、206は振動センサ、207は台車枠、208は構造力学解析モデルの入力データ、209は計測用制御装置である。
【0008】
そして、図6に示すように、荷重支持材203近傍の外槽容器205の外側面に配置した振動センサ206により、荷重支持材203近傍の外槽容器205の実測振幅を求め、構造力学モデルによる推定と外槽容器205の実測振幅とを比較することにより、劣化した荷重支持材203の有無と程度を検査・診断する超電導磁石装置の荷重支持材の検査・診断方法及びその装置を提案した。
【0009】
しかしながら、上記の超電導磁石装置の荷重支持材の検査・診断方法及びその装置では、超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断機能として十全なものは得られなかった。
本発明は、上記状況に鑑みて、台車枠への超電導磁石装置の取付状態の診断が確実に実施できる、超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法及びその台車組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法において、超電導磁石装置を対にして配置し、この対にして配置された超電導磁石装置の内側に台車枠の側梁をそれぞれ配置し、この台車枠の側梁の間に台車枠の横梁を配置し、前記超電導磁石装置を前記台車枠の側梁に取付ボルトによって規定トルク値にて締結して取り付けた台車組立体を準備し、前記取付ボルトの端部付近に取り付けた振動センサによって前記台車組立体の振動特性を把握し、前記取付ボルトの締結トルク値が変化した場合の前記台車組立体の振動特性を把握し、運用後の前記台車組立体の振動特性を把握することにより、前記取付ボルトの締結トルクの実効値を推定して、前記超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断することを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法において、前記振動センサの出力を計測することによって、前記台車組立体の振動特性を把握することを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法において、前記取付ボルトの締結トルクの推定実効値が規定トルク値と異なる場合において、前記取付ボルトを規定トルク値に締結し直すことによって前記台車組立体の振動特性が規定トルク値のときの値に回復した場合は、前記超電導磁石装置の台車枠取付状態は適正に回復したと診断することを特徴とする。
【0012】
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法において、前記取付ボルトの締結トルクの推定実効値が規定トルク値と異なる場合において、前記取付ボルトを規定トルク値に締結し直すことによっても前記台車組立体の振動特性が規定トルク値のときの値に回復しない場合には、前記取付ボルトの締結以外の構造の変化が起きている異常状態であると診断することを特徴とする。
【0013】
〔5〕超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断する台車組立体において、対にして配置される超電導磁石装置と、この対にして配置された超電導磁石装置の内側に配置される台車枠と、前記超電導磁石装置を前記台車枠に締結する取付ボルトと、この取付ボルトの端部付近に取り付けられる振動センサと、この振動センサの出力を計測する振動計測装置とを具備する。
【0014】
〔6〕上記〔5〕記載の超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断する台車組立体において、前記台車枠は前記対にして配置された超電導磁石装置の内側にそれぞれ配置される台車枠の側梁と、この台車枠の側梁の間に配置される台車枠の横梁とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、超電導磁石装置の台車枠取付状態を的確に計測し、十全な超電導磁石装置の台車枠取付状態を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例を示す台車枠取付状態の診断機能を具備する台車組立体の模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す台車枠を模擬した枠に対して超電導磁石装置を規定トルク値にて締結して取り付けた場合と締結トルク値が低下した場合の振動特性を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す台車枠取付状態の診断フローチャート(その1)である。
【図4】本発明の実施例を示す台車枠取付状態の診断フローチャート(その2)である。
【図5】従来の超電導磁石装置が搭載される台車組立体を示す図である。
【図6】前記特許文献1で提案した超電導磁石装置の荷重支持材の検査・診断装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法は、超電導磁石装置を対にして配置し、この対にして配置された超電導磁石装置の内側に台車枠の側梁をそれぞれ配置し、この台車枠の側梁の間に台車枠の横梁を配置し、前記超電導磁石装置を前記台車枠の側梁に取付ボルトによって規定トルク値にて締結して取り付けた台車組立体を準備し、前記取付ボルトの端部付近に取り付けた振動センサによって前記台車組立体の振動特性を把握し、前記取付ボルトの締結トルク値が変化した場合の前記台車組立体の振動特性を把握し、運用後の前記台車組立体の振動特性を把握することにより、前記取付ボルトの締結トルクの実効値を推定して、前記超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す台車枠取付状態の診断機能を具備する台車組立体の模式図、図2は本発明の実施例を示す台車枠を模擬した枠に対して超電導磁石装置を規定トルク値にて締結して取り付けた場合と締結トルク値が低下した場合の振動特性を示す図である。
【0019】
これらの図において、1,2は対になるように配置された超電導磁石装置、3,4は超電導磁石装置1,2の内側に配置された台車枠の側梁、5は台車枠の側梁3,4の間に配置される台車枠の横梁、6は超電導磁石装置1の台車枠の側梁3への取付ボルト、7は超電導磁石装置2の台車枠の側梁4への取付ボルト、8は取付ボルト6(または取付ボルト7)の端部付近に配置された振動センサ、9は振動センサ8からの出力を計測する振動計測装置である。
【0020】
まず、図1に示すように、超電導磁石装置1,2を対にし、台車枠3,4,5の両側へ取付ボルト6,7により規定トルク値にて締結して取り付けた台車組立体について、その振動特性を把握する。次に、取付ボルト6,7の締結トルク値が変化した場合の振動特性を把握する。そして、運用後の振動特性を把握することにより、取付ボルト6,7の締結トルクの実効値を推定し、超電導磁石装置1,2の台車枠取付状態を診断する。
【0021】
上記において、取付ボルト6,7の推定した締結トルクの実効値が規定トルク値と異なる場合において、取付ボルト6,7を規定トルク値に締結し直すことによって振動特性が規定トルク値のときの値に回復した場合は、超電導磁石装置1,2の台車枠取付状態は回復したと診断し、一方、取付ボルト6,7を規定トルク値に締結し直しても振動特性が規定トルク値のときの値に回復しない場合は、取付ボルト6,7の締結以外の構造の変化(例えば、超電導磁石装置の内部構造の変化)が起きており、異常であると診断する。
【0022】
取付ボルト6,7の締結トルクの実効値が変化すれば、構造が変化するので、台車組立体の振動特性は変化する。従って、台車組立体の振動特性の分析により、取付ボルト6,7の締結トルクの実効値の変化を捉えることが可能となる。取付ボルト6,7の締結トルクの実効値の変化は主に、運用に伴う振動が加わって取付ボルト6,7の締結が緩んだことによる低下であり、台車組立体の剛性が低下するので、その共振振動数は低下する。
【0023】
例えば、図2に示されるように、締結トルク値の低下に伴って共振振動数が低下することが確認できる。
図3は本発明の実施例を示す台車枠取付状態の診断フローチャート(その1)、図4はその診断フローチャート(その2)である。
超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断手順としては、まず、図3に示されるように、超電導磁石装置を内側の台車枠に対になるように配置し、超電導磁石装置を台車枠に取付ボルトによって規定トルク値にて締結して取り付けた台車組立体を準備する(ステップS1)。次に、取付ボルトの端部付近に取り付けた振動センサによって台車組立体の振動特性を把握する(ステップS2)。更に、取付ボルトの締結トルク値が変化した場合の台車組立体の振動特性を把握する(ステップS3)。そして、運用後の台車組立体の振動特性を把握することにより、取付ボルトの締結トルクの実効値を推定する(ステップS4)。その後、図4に示されるように、推定した締結トルクの実効値が規定トルク値と異なるか否かをチェックする(ステップS11)。規定トルク値と異ならない場合(ステップS11のNO)には、超電導磁石装置の台車枠取付状態は異常なしと判断し(ステップS12)、規定トルク値と異なる場合(ステップS11のYES)には、取付ボルトを規定トルク値にて締結し直して振動特性が規定トルク値のときの値に回復した否かをチェックする(ステップS13)。規定トルク値のときの値に回復した場合(ステップS13のYES)には、超電導磁石装置の台車枠取付状態は適正に回復したと診断する(ステップS14)が、取付ボルトを規定トルク値にて締結し直しても振動特性が規定トルク値のときの値に回復しなかった場合(ステップS13のNO)は、超電導磁石装置の台車枠取付状態は適正に回復していないと診断し、回復の措置(解体点検またはそれに伴った部品の取替え)を行う(ステップS15)。なお、取付ボルトを規定トルク値にて締結し直しても振動特性が規定トルク値のときの値に回復しなかった場合は、取付ボルトの締結以外の構造の変化(例えば、超電導磁石装置の内部構造の変化)が起きていると診断することができる。
【0024】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法及びその台車組立体は、台車枠への超電導磁石装置の取付状態の診断が実施できる、超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法及びその台車組立体として利用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1,2 超電導磁石装置
3,4 台車枠の側梁
5 台車枠の横梁
6,7 取付ボルト
8 振動センサ
9 振動計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)超電導磁石装置を対にして配置し、該対にして配置された超電導磁石装置の内側に台車枠の側梁をそれぞれ配置し、該台車枠の側梁の間に台車枠の横梁を配置し、前記超電導磁石装置を前記台車枠の側梁に取付ボルトによって規定トルク値にて締結して取り付けた台車組立体を準備し、
(b)前記取付ボルトの端部付近に取り付けた振動センサによって前記台車組立体の振動特性を把握し、
(c)前記取付ボルトの締結トルク値が変化した場合の前記台車組立体の振動特性を把握し、
(d)運用後の前記台車組立体の振動特性を把握することにより、前記取付ボルトの締結トルクの実効値を推定して、前記超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断することを特徴とする超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法。
【請求項2】
請求項1記載の超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法において、前記振動センサの出力を計測することによって、前記台車組立体の振動特性を把握することを特徴とする超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法において、前記取付ボルトの締結トルクの推定実効値が規定トルク値と異なる場合において、前記取付ボルトを規定トルク値に締結し直すことによって前記台車組立体の振動特性が規定トルク値のときの値に回復した場合は、前記超電導磁石装置の台車枠取付状態は適正に回復したと診断することを特徴とする超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法において、前記取付ボルトの締結トルクの推定実効値が規定トルク値と異なる場合において、前記取付ボルトを規定トルク値に締結し直すことによっても前記台車組立体の振動特性が規定トルク値のときの値に回復しない場合には、前記取付ボルトの締結以外の構造の変化が起きている異常状態であると診断することを特徴とする超電導磁石装置の台車枠取付状態の診断方法。
【請求項5】
超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断する台車組立体において、対にして配置される超電導磁石装置と、該対にして配置された超電導磁石装置の内側に配置される台車枠と、前記超電導磁石装置を前記台車枠に締結する取付ボルトと、該取付ボルトの端部付近に取り付けられる振動センサと、該振動センサの出力を計測する振動計測装置とを具備する超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断する台車組立体。
【請求項6】
請求項5記載の超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断する台車組立体において、前記台車枠は前記対にして配置された超電導磁石装置の内側にそれぞれ配置される台車枠の側梁と、該台車枠の側梁の間に配置される台車枠の横梁とからなることを特徴とする超電導磁石装置の台車枠取付状態を診断する台車組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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