説明

超電導線材及び超電導コイル

【課題】取り扱いやすく、低コストで高い安定性を示す超電導コイルを得るための超電導線材及び超電導コイルを提供する。
【解決手段】SUSに対する270K〜300Kでの静摩擦係数が0.01以上0.2以下、および/または動摩擦係数が0.01以上0.15以下である少なくとも1種類の非金属繊維を含み、上記少なくとも1種類の非金属繊維が、カバリング糸として超電導材料の外周を覆ている超電導線材及びこれを用いてなる超電導コイル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定な通電特性を有する超電導線材及び超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材は超電導材料からなる芯と、CuあるいはCuNiなどの安定化材からなるマトリクスにより構成される複合線材である。この複合線材をコイルボビンに巻回することにより超電導コイルが得られる。その線材間の絶縁方法として、以下の方法が用いられてきた。
(1)層内絶縁:被覆超電導線の使用、コイルボビン上に作製した螺旋溝の使用
(2)層間絶縁:被覆超電導線の使用、同心円ボビンの使用、層間絶縁スペーサの使用、絶縁シートの使用
これらの手法は単独ではなく複数手法が組み合わされて用いられることが多い。たとえばステンレス製コイルボビンを用い、超電導線としては被覆超電導線を用い、コイルボビンとコイル第1層の間の層間絶縁には絶縁シートを用いてなる超電導コイルなどが挙げられる(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
超電導コイルに使用される超電導材料としてはニオブチタン(NbTi)、ニオブ3スズ(NbSn)など金属系超電導体(例えば非特許文献2参照)、ビスマス系またはイットリウム系酸化物高温超電導体などが挙げられる(例えば非特許文献3,4参照)。周辺材料として、コイルボビンとしては直流の場合、ステンレス、アルミニウム、ガラス繊維強化複合材料(GFRP)、高強度ポリエチレン繊維強化複合材料(DFRP)などが挙げられる(例えば特許文献1参照)。一方、交流の場合はステンレス、アルミニウムなど金属は使用できないのでGFRP, DFRPなど電気絶縁物が使用されることになる(特許文献2参照)。層間絶縁スペーサとしてはGFRP, DFRPが(例えば特許文献3,4,5参照)、また高温超電導コイル用層間スペーサにはチッカアルミなどが使用されている(例えば非特許文献3参照)。絶縁シートとしてはポリイミドフィルムなど高分子フィルムが使用されている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
超電導コイルの応用用途としてはNMR, MRIといった分析機器、医療検査機器、リニアモーターカー、超電導船など輸送機器のモーター、変圧器、電力貯蔵システム(SMES)、限流器など電力エネルギー機器、半導体引上げ装置などが挙げられる。この中でNMR, MRI, 半導体引上げ装置は既に実用化されている。しかしSMESなど交流超電導機器は研究開発段階にある。交流超電導機器の実用化を妨げている問題としては超電導コイルが設計電流値以下の通電で超電導機能が失われる現象(クェンチ)が挙げられ、これをコイルの不安定性という。この問題は交流機器だけではなく、既に実用化段階にある直流超電導機器、即ちNMR, MRI, 半導体引上げ装置のさらなる性能向上やコスト低下にも影響を与えており、解決すべき課題である。
【0005】
クェンチの要因の1つとしては超電導線が動くこと(ワイヤモーション)による超電導線間、超電導線・コイルボビンなど絶縁部品間の摩擦が招く発熱が挙げられる。即ちワイヤモーションによる摩擦発熱による超電導線材の温度上昇がクェンチを誘発すると考えられる。他に交流損失による発熱などが考えられる。
【0006】
クェンチを防止する手段としてはこれまで超電導線材の改良と絶縁支持材の検討の主に2つの方策が考えられてきた。
【0007】
超電導線材の改良としては、芯材である超電導材の周囲に配する銅などの安定化マトリクスの検討、芯材の太さ、撚りの検討などで挙げられ、これらの検討によりクェンチ確率が低減したことが報告されている(非特許文献2)。しかしながらこれまでの超電導線材開発でクェンチの要因の1つであるワイヤーモーションが低減できたわけではないので、クェンチリスクが十分低減できたわけではない。
【0008】
ワイヤーモーションによりクェンチに低減策としては、(A)ワイヤーモーション自体の低減、(B)ワイヤーモーションによる摩擦発熱の低減、(C)ワイヤーモーションによる摩擦熱の迅速な抜熱が挙げられる。
【0009】
(A)に関する対策としてはまずコイルの樹脂含浸が検討されたが、ワイヤーモーションを引き起こす電磁力が樹脂による固定力を上回っており、十分な効果は得られなかった。また樹脂含浸の場合、急激な温度低下、電磁力のよる速いワイヤーモーションによりクラックが発生し、それによる発熱がさらにクェンチリスクを高める要因になる。次に絶縁支持材の熱特性、摩擦特性の検討がなされた。たとえば繊維方向に負の線膨張係数を有する高強度ポリエチレン繊維を強化繊維とする複合材料を用いれば、冷却時に円周方向に膨張するコイルボビンや支持方向に膨張するスペーサを作製することが可能となる(たとえば特許文献1,2,3,4,5)。これら負膨張性絶縁材料をコイルボビン、スペーサなど絶縁支持材に用いることにより、室温で作製された超電導コイルが超電導発現温度以下に冷却されても絶縁支持材が膨張し、超電導線材の固定性が上昇して、ワイヤーモーションを起こす確率が低減されるものである。この手法により超電導コイルのワイヤーモーションの低減が確認され、またクェンチ電流値の大幅な向上、通電安定性の向上が確認された(非特許文献1)。このように負膨張性材料をコイルボビン、スペーサなど絶縁支持材として用いることにより、超電導コイルのクェンチリスクが低減することは、永久電流スイッチ、交流超電導コイルなどで効果が見出されている(例えば非特許文献5,7参照)。この手法は樹脂含浸との併用でも効果が認められている。超電導線の固定性向上によるワイヤーモーション低減のための対策としてはさらに樹脂含浸方式と前述の負膨張FRPからなるコイルボビン、スペーサの使用を組合せる方法も挙げられ、クェンチ発生率低下が確認されている(例えば非特許文献5,7、特許文献7参照)。
【0010】
しかしながら負膨張材料はベータユークリプタイトなどの特殊なセラミックスと高強度ポリエチレン繊維など高配向有機高分子繊維に大別されるが、前者の場合、加工性・取扱い性が悪く、コストが高いため実用的には不適である。また後者の場合は負膨張性有機繊維を強化繊維とする複合材料(FRP)として使用されているが、繊維方向のみに負膨張性を示すため材料設計に制限が生じる。たとえばソレノイドコイルの場合、巻数が多くなりコイル肉厚が大きくなると最外層の超電導線のワイヤーモーション低減に対する負膨張性コイルボビンの効果は小さくなる。ソレノイドコイルにおいて絶縁支持材の負膨張性によるワイヤーモーション低減効果をコイル最外層にまで確実に及ぼすには厚み方向に負膨張を有する層間スペーサの使用が考えられる。しかし厚み方向に繊維を配向させた薄いFRPシートを作製することは技術的に困難であり、またコイルの大型化を招くことになる。
【0011】
上記問題を解決する手段として、負膨張性繊維からなる布帛をコイル層間に挿入し、樹脂を含浸する手法が挙げられるが(特許文献7)、樹脂含浸型コイルのみにしか適用できない。
【0012】
(B)に関する対策としては摩擦係数の低い絶縁支持材を用いる方法が挙げられる。たとえば上述の高強度ポリエチレン繊維強化複合材料の場合、摩擦係数はガラス繊維強化複合材料の1/3以下である(特許文献)。しかし、ソレノイドコイルなど多層巻コイルに層間スペーサとして挿入するとコイルの大型化を招くことがあり、実用的対策としては制限がある。
【0013】
(C)に関する対策としてはチッカアルミなど高熱伝導性電気絶縁材を絶縁支持材として用いる方法が挙げられる。特に酸化物超電導材を用いる高温超電導コイルではこの方策の有効性が報告されている。しかしながらチッカアルミなど高熱伝導性セラミックスは加工性が悪く、また摩擦係数と硬度が高いため超電導線材に傷をつけるリスクがあり、使用できるコイルは制限される。
【0014】
以上をまとめるとワイヤーモーションによるクェンチのリスクが低く、即ち通電安定性が高く、且つ小型で作製しやすく、扱いやすい超電導コイルを作製することは従来の技術では困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】A. Yamanaka, T. Kashima, K. Hosoyama, IEEE. Trans. Appl. Supercond., vol. 11, p4061 (2001)
【非特許文献2】荻原宏康編, 「応用超電導」日刊工業新聞社発行、p53 (1988)
【非特許文献3】T. Takao, A. Kawasaki, M. Yamaguchi, H. Yamamoto, A. Niiro, K. Nakamura, A. Yamanaka, IEEE. Trans. Appl. Supercond., vol. 13, p1776 (2003)
【非特許文献4】寺西 亮、和泉輝郎、塩原 融、応用物理、第72巻、7号、p920(2003)
【非特許文献5】上條弘貴、根本薫、鹿島俊弘、第50回秋季低温工学・超電導学会予稿集, p105 (1993)
【非特許文献6】T. Kashima, A. Yamanaka, T. Takasugi, S. Nishihara, Adv. Cryog. Eng., 46, p329 (2000)
【非特許文献7】K. Takeda, M. Chiba, K. Fukuda, Y. Sakagami, M. Shibuya, K. Miyashita, H. Moriai, K. Kamata, Proc. of ICEC 17, p451(1999)
【非特許文献8】M. Furuse, M. Umede, T. Takao, Y. Fukasawa, S. Minowa, T. Iwamura, H. Sato, T. Asano, A. Yamanaka, IEEE, Trans. Appl. Superconductivity, 16, no. 2, p150−153 (2006)
【非特許文献9】T. Takao, Y. Furumura, T. Higuchi, M. Aikawa, K. Yamamoto, T. Goto, S. Fukui, A. Yamanaka, IEEE, Trans. Appl. Superconductivity, IEEE Trans. Appl. Superconductivity, 16, n0. 2, p101−104 (2006)
【非特許文献10】鹿島俊弘、山中淳彦、西嶋茂宏、岡田東一、低温工学協会材料部会論文集, 9, p31 (1995)
【非特許文献11】T. Kashima, A. Yamanaka, E.S. Yoneda, S. Nishijima, T. Okada, Adv. Cryog. Eng., 41, p441 (1996)
【非特許文献12】佐藤誠樹、松尾政晃、船木和夫、中武 浩、山下幸生、竹尾正勝、木須隆暢、鹿島俊弘、山中淳彦, 九州大学ベンチャービジネスラボラトリー1997年度年報
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平8−304521号公報
【特許文献2】特開平9−17627号公報
【特許文献3】特開平10−310649号公報
【特許文献4】特開平8−127094号公報
【特許文献5】特開2001−129889号公報
【特許文献6】特開2001−060508号公報
【特許文献7】特開2008−306092号公報
【特許文献8】特開平7−142233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、加工しやすく、低コストでワイヤーモーションによる発熱が低減されたクェンチしにくい超電導線材及び超電導コイルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、(1) SUSに対する270K〜300Kでの静摩擦係数が0.01以上0.2以下、且つ又は動摩擦係数が0.01以上0.15以下である少なくとも1種類の非金属繊維でカバリングされてなる超電導線材, (2)(1)記載の超電導線材を用いてなる超電導コイル、(3)カバリング繊維に少なくとも1種類のポリオレフィン繊維が含まれてなることを特徴とする(1)の超電導線材, (4)(3)記載の超電導線材を用いてなる超電導コイル, (5)カバリング繊維にテフロン(登録商標)繊維が含まれてなることを特徴とする(1)記載の超電導線材, (6)(5)記載の超電導線材を用いてなる超電導コイル、(7)カバリング繊維に重量平均分子量10万以上の高分子量ポリエチレン繊維が含まれてなることを特徴とする(1)記載の超電導線材, (8)(7)記載の超電導線材を用いてなることを特徴とする超電導コイル, (9)カバリング繊維にポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が含まれたなることを特徴とする(1)記載の超電導線材, (10)(9)記載の超電導線材を用いてなることを特徴とする超電導コイル, (11)カバリング繊維にポリプロピレン繊維を含んでなることを特徴とする(1)記載の超電導線材, (12)(11)記載の超電導線材を用いてなることを特徴とする超電導コイル, (13)芯鞘構造をもち、鞘部分がポリオレフィン又はテフロン(登録商標)からなる繊維をカバリング繊維含んでなることを特徴とする(1)記載の超電導線材, (14)(13)記載の超電導線材を用いてなることを特徴とする超電導コイル, である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超電導線材では、電磁力によりワイヤーモーションが起こった場合、超電導線材が摩擦を起こす相手はカバリング繊維であり、カバリング繊維は金属に対し低摩擦係数であるため、摩擦発熱が小さくなる。また、対金属摩擦係数の小さいカバリング繊維は繊維相互の摩擦係数も小さいため動きやすく、ワイヤーモーションのエネルギーをその運動エネルギーによって吸収することが可能となる。これはワイヤーモーションがコイル全体に広がらず局所的運動に制限される効果をもつ。これらの効果によって超電導線材がワイヤーモーションを起こしても超電導線の温度上昇は起こらずクェンチを起こす確率は低減する。その結果、通電安定性の優れた超電導線材を製作できる。さらに本超電導線材を用いることにより高い通電安定性を有する小型超電導コイルを製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の超電導線材概略図である。
【図2】超電導コイルの巻き枠概略説明図である。
【図3】超電導コイルの略図である。
【図4】液体ヘリウム浸漬系での実験システムである。
【図5】超電導コイルのロードラインを示す。
【図6】試験超電導コイルの通電プログラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の超電導線材は、270K〜300Kにて、SUSに対する静摩擦係数が0.01〜0.20以下、好ましくは0.10〜018、および/又は動摩擦係数が0.01〜0.15、望ましくは0.05〜0.13である少なくとも1種類の非金属繊維を含む超電導線材である。本発明の超電導コイルは上記超電導線材を用いてなる超電導コイルである。また非金属繊維はカバリング糸として超電導材料の外周を覆う構造を有するが、このカバリング繊維のSUSに対する静摩擦係数が0.20以上の場合、超電導線材のワイヤーモーションが発生する際の初速度は高いものとなり、線材間衝突による発熱量が大きくなりクェンチを招きやすくなる。また動摩擦係数が0.15以上の場合、ワイヤーモーション時の線材・絶縁シート間の摩擦発熱が大きく、クェンチを引き起こしやすくなる。静及び動摩擦係数が0.01以下の場合、ワイヤーモーションが停止しなくなり、これがクェンチに発展する。本発明の超電導線材及び超電導コイルは4K以上、80K以下で使用するが、繊維の金属に対する摩擦係数の大小関係は温度に対し不変であるので、270K以上300K以下の温度領域にて測定した値で設計することができる。またカバリング繊維の金属線材に対する摩擦係数の大小関係はステンレスに対する値をもって設計することができる。
【0022】
本発明における前記カバリング繊維の形状はモノフィラメント、マルチフィラメント、ヤーン、のいずれでもよく、カバリング繊維自体を撚糸、エアー交絡糸、組み紐等の形態を用いたものでも構わない。
【0023】
本発明における前記カバリング繊維は摩擦係数の低い繊維を含んでなるが、摩擦係数の低い繊維としては、ポリエチレン、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)などが挙げられる。また前記繊維には芯鞘構造などを有する複合繊維を用いてもよい。即ち、芯部分にナイロン、コットン、ポリエステル、アラミド、ポリウレタン、ラミー、羊毛、アクリル、絹などの有機高分子、ガラス、アルミナ、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、ジルコニア、チタニアなどの無機材料、またはアルミナ、シリカ、チッカアルミ、チッカホウ素などの無機粒子と前記有機高分子との混合物を用い、鞘部分にポリエチレン、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン、PBOなど低摩擦係数高分子を用いた複合繊維を用いてもよい。またさらに、前記低摩擦繊維には上記無機繊維にポリエチレン、テフロン(登録商標)、ポリプロピレンなどの樹脂をコーティングしたものを用いてもよい。
【0024】
本発明に使用されるカバリング繊維には前記低摩擦繊維のみを用いても良いし、ナイロン、ポリエステル、アラミド繊維、ポリウレタン、コットン、ラミー、羊毛、アクリル、絹などの有機高分子繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、ジルコニア、チタニアなどの無機繊維と混合してもよい。これらの繊維との混合体積比率は10/90〜100/0となる。さらに20/80〜100/0が好ましい。低摩擦係数繊維の体積比率が10%に満たない場合、ワイヤーモーションによる摩擦発熱が大きくなり、クェンチ確率低減の効果が得られない。
【0025】
本発明における繊維カバリング形態は1層でも2層でも、またさらに多層でもよい。ただしカバリング層が厚すぎると超電導線材が太くなりコイルが大型化するので、1〜4層が望ましい。
【0026】
本発明に用いられる芯材として用いる超電導線材としてはNbTi, NbSn, NbAlなどの金属系超電導線及びビスマス系、イットリウム系酸化物超電導線、ホウ化マグネシウム系超電導線などが挙げられる。また超電導線の形状としては、丸線、矩形線、撚線、テープ状線材などが挙げられるが、そのいずれでもよく、またこれらには限らない。
【0027】
本発明における超電導コイルとしては、ソレノイドコイル、レーストラック型コイル、トロイダルコイル、ダイポールコイル、パンケーキ型コイルなどが挙げられるが、そのいずれでもよく、またこれらに限定しない。
【0028】
本発明における前記超電導コイルに使用されるコイルボビン用材料としては、ガラス繊維強化複合材料、高強度ポリエチレン繊維強化複合材料、ステンレス、アルミニウムなどが挙げられる。
【0029】
本発明における前記超電導コイルの冷却方法としては、液体ヘリウム及び液体窒素など冷媒浸漬方式や冷凍機直結式伝導冷却方法、ガス冷却方法が挙げられ、そのいずれでもよく、またこれらに限定しない。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。
【0031】
本発明で用いた実験方法を以下に示す。
本発明では超電導コイルを作製し、その通電特性を観測することによってその性能を比較した。以下にこれを具体的に示す。
【0032】
(1)超電導線
超電導線としては芯材にNbTi、安定化材として銅からなる直流用金属系超電導線を用いた。NbTi/銅比率は1:1.8(断面積比)、超電導線径:0.69mmのフォルマル被覆線を用いた。これらを表1にまとめた。
【0033】
【表1】

【0034】
(2)カバリング繊維の摩擦係数の評価
レーダー法にて測定した。初荷重1000g,SUS梨地表面との摩擦特性を評価した。なお、測定温度は276Kで行った。
【0035】
(3)カバリング方法:図1に示す様に隙間の無いように1重に巻いた。
【0036】
(4)巻枠
巻枠はステンレス(SUS304)にて作製した。形状を図2に示す。巻線部外径54mm, 内径44mm、長さ67mm、ツバ部外径108mmとした。
【0037】
(5)巻線
超電導線を上記巻き枠に対し巻き線張力4kgfで1層につき95回、40層巻いた。超電導コイルの略図を図3に示す。
【0038】
(6)実験項目
超電導コイルの性能はその通電特性により評価した。超電導コイルの通電試験は上記作製したコイルと外部磁場発生コイルを直列に配して行った。以下に詳細を述べる。外部磁場発生超電導コイルには10Tまでの磁場発生が可能なコイルを用いた。
【0039】
(7)冷却方法
超電導コイルは4.3Kに冷却して、その性能を評価する。冷却は、液体ヘリウに浸漬して行った。
【0040】
(8)通電特性評価方法
通電特性は超電導コイルの両端の電圧の測定によって評価する。これを図3の中に示す。
【0041】
(9)実験系システム
上記実験系のシステム全体の略図を図4に示す。ここで外部磁場発生コイルに流す電流を0とする場合、サンプルコイル単独使用での性能を評価することができる。また外部発生マグネットに電流を流し、磁場を発生させた場合は外部磁場がある場合でのサンプルコイルの性能を評価できる。
【0042】
(10)通電条件
使用超電導線の短尺線臨界を電流値/磁場曲線とこれを用いた本サンプルコイルの通電電流値・発生磁場曲線を図5に示す。図に示すロードラインに沿って、外部磁場0の場合は0Aから150Aまで通電する。外部磁場5Tの場合は0Aから75Aまで通電する。この状態で1分保持し、再び0Aに戻す。通電の掃引速度は2.75A/sec及び5.50A/secとした。通電プログラムを図6に示す。0T, 5Tでの臨界電流値を150A, 75Aとし、これをそれぞれIc0, Ic5とする。所定の通電中に急速に電圧が上昇する現象をクェンチとし、その時点での電流値をクェンチ電流値と定義する。0磁場中、5T磁場中でのクェンチ電流値をそれぞれIq0, Iq5とする。超電導コイルの性能はIq0/Ic0, Iq5/Ic5で評価する。これを負荷率と定義する。
【0043】
(実施例1)
カバリング繊維として高強度ポリエチレン繊維;東洋紡製ダイニーマSK60、1320dtexを用いた。
【0044】
(実施例2)
カバリング繊維として高強度PBO繊維;東洋紡製ザイロンHM1060dtexを使用した。
【0045】
(実施例3)
カバリング繊維としてテフロン(登録商標)繊維(使用繊維束は1060dtex)を使用した。
【0046】
(実施例4)
カバリング繊維として溶融高強度ポリエチレン繊維、東洋紡ツヌーガ(440dtex)を使用した。
【0047】
(実施例5)
カバリング繊維として高強度ポリプロピレン繊維(1060dtex)を使用した。
【0048】
(実施例6)
カバリング繊維としてダイニーマSK60とガラス繊維からなる混合繊維束を用いた。ダイニーマSK60の2640dtexとガラス繊維(日東紡E−ガラス)1320dtexを1/1で30回/mの頻度で撚り併せたものを用いた。
【0049】
(実施例7)
カバリング繊維として芯糸に低融点ポリエステル、鞘糸にローデンシティーポリエチレンからなる複合繊維を用いた。芯・鞘断面積比は2/1、繊度は3700dtexのモノフィラメントを使用した。
【0050】
(実施例8)
カバリング繊維として高強度ポリエチレン繊維;東洋紡製ダイニーマSK71(1760dtex)を用いた。
【0051】
(比較例1)
カバリング繊維としてガラス繊維(日東紡E−ガラス)1320dtexを用いた。
【0052】
(比較例2)
カバリング繊維としてPET繊維(1380dtex)を用いた。
【0053】
(比較例3)
カバリング繊維は用いず、超電導材表面をテフロン(登録商標)コートした。コート層厚みは約20ミクロンとした。
【0054】
(比較例4)
カバリング繊維は用いず、コートなどの処理をしなかった。
【0055】
実施例、比較例の結果を表2に示す。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の超電導線材及び超電導コイルは、ワイヤーモーションを低減したクェンチしない超電導線材及びコイルであるから、超電導コイル全般、即ちMRI, NMR, 結晶引き上げ装置、電力貯蔵システム、変圧器、限流機、リニアモーターカー用超電導コイルなどに有用であり、産業界に寄与すること大である。
【符号の説明】
【0057】
1. 超電導線
2. ラッピング繊維
3. G−10製絶縁板
4. ステンレス製巻線部
5. ステンレス製ツバ部
6. 巻き終り部分
7. 巻き始め部分
8. サンプルコイル
9. 外部磁場発生コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SUSに対する270Kから300Kでの静摩擦係数が0.01以上0.2以下、および/または動摩擦係数が0.01以上0.15以下である少なくとも1種類の非金属繊維を含む超電導線材。
【請求項2】
少なくとも1種類の非金属繊維が、カバリング糸として超電導材料の外周を覆うことを特徴とする、請求項1記載の超電導線材。
【請求項3】
カバリングに用いる繊維に少なくとも1種類のポリオレフィン繊維が含まれてなることを特徴とする請求項1記載の超電導線材。
【請求項4】
カバリングに用いる繊維にテフロン(登録商標)繊維が含まれてなることを特徴とする請求項1記載の超電導線材。
【請求項5】
カバリングに用いる繊維にポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が含まれることを特徴とする請求項1記載の超電導線材。
【請求項6】
カバリングに用いる繊維にポリプロピレン繊維が含まれることを特徴とする請求項1記載の超電導線材。
【請求項7】
カバリングに用いる繊維として重量平均分子量10万以上の高分子量ポリエチレン繊維が含まれてなることを特徴とする請求項2記載の超電導線材。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項記載の超電導線材を用いることを特徴とする超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−114255(P2012−114255A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262109(P2010−262109)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】