説明

超音波による液体の非溶解物濃度測定方法

【課題】広い濃度範囲の液体の非溶解物濃度を測定可能であるとともに、流れのある液体の非溶解物濃度を高精度かつ低コストで測定可能な超音波による液体の非溶解物濃度測定方法を提供する。
【解決手段】非溶解物濃度が不明な試料液21に対しプローブ11からバースト状超音波13を送受信して散乱強度を測定するとともに、それぞれ異なる非溶解物濃度が設定された複数の比較液21を用意し、各比較液21に対しプローブ11からバースト状超音波13を送受信して散乱強度を測定し、各比較液21の非溶解物濃度と対応する散乱強度からなる非溶解物濃度・散乱強度対応情報を作成して、作成した非溶解物濃度・散乱強度対応情報と測定した試料液21の散乱強度を比較し、試料液21の非溶解物濃度を割り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非溶解物濃度の不明な液体に対して超音波を送受信して散乱強度を測定し、測定した散乱強度と予め作成した非溶解物濃度・散乱強度対応情報に基づいて、非溶解物濃度の不明な液体の非溶解物濃度を割り出すようにした超音波による液体の非溶解物濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属片などの非溶解物質の液中濃度を測定する一般的な方法としては、レーザによる濃度測定方法と超音波による濃度測定方法がある。レーザによる濃度測定方法には、測定原理上、光散乱方式と光遮断方式があり、光散乱方式が非溶解物質の液中濃度を測定する方法としては最も一般的である。光散乱方式は、液中の非溶解物によるレーザ光の光散乱に基づいて、液中の非溶解物質の粒径、個数、粒径分布を測定する。一方、光遮断式は、液体を通過したレーザ光が、光散乱や回折により光量が減少して受光部に到達することに基づいて、液中の非溶解物質の粒径、個数、粒径分布を測定する。
【0003】
このようなレーザによる濃度測定方法は、液体を流した状態で、液中の非溶解物質の粒径、個数、粒径分布を測定できる。加えて、即時性があってインライン計測に適する。しかし、レーザによる濃度測定方法は、媒質の高い透過性が要求され、媒質によってはレーザ光の吸収が大きく測定できない。また、非溶解物濃度の高い液体を測定すると、多重散乱が生じて正確な測定ができないので、非溶解物濃度の高い液体の測定には適さない。さらに、液体が入った容器に、レーザ光が透過するためのクリアな窓を設置する必要がある。このように、レーザによる濃度測定方法は、制約が多く実施するにはコストもかかる。よって、レーザによる濃度測定方法は、現場での適用やダイナミックな測定を行うには課題が多い。
【0004】
一方、従来の超音波による濃度測定方法には、測定原理上、音速測定方式と減衰方式の2方式がある。音速測定方式は、液体の非溶解物濃度と音速の相関を利用して測定する方式である。音速測定方式は、超音波振動子から超音波を発信し、一定距離に設けた反射板(もしくは底板)からの反射信号が返ってくるまでの時間を計測することにより音速を測定する。そして、予め作成された非溶解物濃度と音速の対応情報から非溶解物濃度を割り出す。一方、減衰方式は、液体の非溶解物濃度を、超音波の減衰によって測定する方式である。超音波は、液体中を伝わりやすい性質を持っているが、液体中に非溶解物質が存在する場合、超音波は非溶解物質に散乱して減衰する。その際、減衰量と非溶解物質の濃度は比例する。減衰方式は、液体が入った容器の外側に対極するように発信センサと受信センサを設置し、発信強度と受信強度の比から超音波の減衰量を求め、非溶解物質の濃度に換算する。
【0005】
このような超音波による測定方法は、レーザによる測定方法と比較して低コストでコンパクトに実施できる。しかし、音速測定方式は、流れのある液体の非溶解物濃度を測定する場合、反射板が傾いて音速の測定値が不安定になるという問題がある。また、非溶解物濃度の高い試料液を測定する場合、超音波が非溶解物質に散乱して減衰する量が大きいので、反射板から反射信号が返ってこないことがある。一方、減衰方式は、濃度が低すぎると発信強度と受信強度に差が出ないため減衰量を判別できないという問題、および、濃度が高すぎると超音波が受信センサまで届かず、減衰量を計測できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−288993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように従来のレーザによる濃度測定方法や超音波による濃度測定方法は、それぞれ一長一短があるが、このような従来の濃度測定方法のいずれを用いても、低非溶解物濃度から高非溶解物濃度までの広い濃度範囲の液体の非溶解物濃度を測定するとともに、流れのある液体の非溶解物濃度を精度良く低コストで測定することは困難であった。
【0008】
本発明は、低非溶解物濃度から高非溶解物濃度までの広い濃度範囲の液体の非溶解物濃度を測定可能であるとともに、流れのある液体の非溶解物濃度を高精度かつ低コストで測定可能な超音波による液体の非溶解物濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明に係る超音波による液体の非溶解物濃度測定方法は、非溶解物濃度が不明な試料液に対しプローブから超音波を送受信して散乱強度を測定する第一の散乱強度測定工程と、それぞれ異なる非溶解物濃度が設定された複数の比較液を用意し、各比較液に対しプローブから超音波を送受信して散乱強度を測定する第二の散乱強度測定工程と、各比較液の非溶解物濃度と対応する散乱強度からなる非溶解物濃度・散乱強度対応情報を作成する非溶解物濃度・散乱強度対応情報作成工程と、前記非溶解物濃度・散乱強度対応情報と前記試料液の散乱強度を比較して、前記試料液の非溶解物濃度を割り出す試料液の非溶解物濃度割り出し工程と、を有することを要旨とするものである。
【0010】
この場合、前記第一の散乱強度測定工程は、超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度を所定のプローブからの距離範囲で積分し、試料液の散乱強度の積分値を算出する第一の散乱強度積分工程と、前記試料液の散乱強度の積分値を移動平均して、平均化した積分値を試料液の散乱強度とする第一の平均化工程を含み、前記第二の散乱強度測定工程は、超音波を送受信して測定した各比較液の散乱強度を前記所定のプローブからの距離範囲で積分し、各比較液の散乱強度の積分値を算出する第二の散乱強度積分工程と、前記各比較液の散乱強度の積分値を移動平均して、平均化した積分値を各比較液の散乱強度とする第二の平均化工程とを含むと好適である。
【0011】
さらに、超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度が高非溶解物濃度の特徴を示している場合は、前記第一および第二の散乱強度積分工程において、前記所定のプローブからの距離範囲を表層部分を除いたプローブ近傍の狭い範囲にすると好適である。また、超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度が低非溶解物濃度の特徴を示している場合は、前記第一および第二の散乱強度積分工程において、前記所定のプローブからの距離範囲を表層部分と底板部分を除いた広い範囲にすると好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る超音波による液体の非溶解物濃度測定方法では、非溶解物濃度が不明な試料液に対しプローブから超音波を送受信して散乱強度を測定するとともに、それぞれ異なる非溶解物濃度が設定された複数の比較液を用意し、各比較液に対しプローブから超音波を送受信して散乱強度を測定し、各比較液の非溶解物濃度と対応する散乱強度からなる非溶解物濃度・散乱強度対応情報を作成して、前記非溶解物濃度・散乱強度対応情報と前記試料液の散乱強度を比較し、前記試料液の非溶解物濃度を割り出すようにしたので、超音波により直接測定する対象は、試料液および比較液に含まれる非溶解物質による超音波の散乱強度である。
【0013】
超音波の散乱強度は、非溶解物の粒子径の6乗と粒子数に比例し、超音波の波長に反比例する。よって、非溶解物の粒子径が略一定の液体を特定の波長の超音波により測定すれば、散乱強度は粒子数に比例し、非溶解物濃度が高いほど散乱強度は強くなる。散乱強度は、流れのある試料液の非溶解物濃度を測定する際に反射板(底板)が傾いても、安定した測定値を得られる。そのため、本発明に係る超音波による液体の非溶解物濃度測定方法によれば、流れのある試料液の非溶解物濃度を精度良く測定できる。また、超音波による濃度測定方法であるから低コストでコンパクトに実施できる。さらに、液体の非溶解物濃度が高い場合でも測定することができるし、低い場合でも測定できる。すなわち、本発明に係る超音波による液体の非溶解物濃度測定方法によれば、低非溶解物濃度から高非溶解物濃度までの広い濃度範囲の液体の非溶解物濃度を測定することができるとともに、流れのある液体の非溶解物濃度を精度良く低コストで測定することができる。
【0014】
この場合、超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度および各比較液の散乱強度を、所定のプローブからの距離範囲で積分し、算出された試料液の散乱強度の積分値および各比較液の散乱強度の積分値を移動平均し、平均化した積分値を試料液の散乱強度および各比較液の散乱強度とすると、積分を行うことで白色雑音の影響を小さくすることができるとともに、積分値を移動平均することでサンプルごとのばらつきが均され、データの繰り返し精度を高くすることができる。よって、非溶解物濃度の測定精度を高くすることができる。
【0015】
さらに、超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度が高非溶解物濃度の特徴を示している場合は、前記所定のプローブからの距離範囲を表層部分を除いたプローブ近傍の狭い範囲とすると、積分範囲から、超音波の減衰量が大きくなるプローブから離れた範囲が除かれ、積分範囲は、超音波の減衰量の比較的小さい範囲になる。よって、超音波の減衰による非溶解物濃度の測定精度の低下を抑制することができる。また、超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度が低非溶解物濃度の特徴を示している場合は、前記所定のプローブからの距離範囲を表層部分と底板部分を除いた広い範囲とすると、散乱強度に対する白色雑音の影響を抑えることができる。非溶解物濃度が低い場合、散乱強度が小さく白色雑音の影響が大きくなるが、積分範囲を広くすることで、白色雑音の影響を抑えることができ、非溶解物濃度の測定精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は超音波による液体の非溶解物濃度測定システムの構成図であり、(b)は(a)のセンサを使用して液体の散乱強度を計測する様子を示した説明図である。
【図2】受信信号の模式図であり、(a)は液体中に非溶解物が存在しない場合、(b)は非溶解物濃度が高い場合、(c)は非溶解物濃度が低い場合を示す。
【図3】本濃度測定方法における第一の散乱強度測定工程、第一の散乱強度積分工程、第一の平均化工程を示した図である。
【図4】本濃度測定方法における第二の散乱強度測定工程、第二の散乱強度積分工程、第二の平均化工程、非溶解物濃度・散乱強度対応情報作成工程を示した図である。
【図5】本濃度測定方法における試料液の非溶解物濃度割り出し工程を示した図である。
【図6】比較液に対してバースト状超音波を送受信して取得した散乱強度を示した図である。(a)は非溶解物濃度が0%、(b)は非溶解物濃度が0.5%、(c)は非溶解物濃度が1.0%、(d)は非溶解物濃度が1.5%の比較液の散乱強度を示す。
【図7】(a)は図6(a)〜(d)のそれぞれについて、所定の距離範囲で散乱強度を積分した散乱強度の積分値を示した図であり、(b)は、(a)の積分値を移動平均した平均積分値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1(a)は、本発明に係る超音波による液体の非溶解物濃度測定方法(以下、本濃度測定方法ということがある)において使用される超音波による液体の非溶解物濃度測定システム(以下、本濃度測定システムということがある)の構成図であり、図1(b)は本濃度測定システムのセンサを使用して液体の散乱強度を計測する様子を示した説明図である。本濃度測定システムは、超音波を送受信するセンサ1と、センサ1とケーブルで接続された演算装置から構成される。
【0018】
センサ1は、図1(b)に示すように、先端に孔が形成されており、この孔部分が計測室12となっている。計測室12の上板にはプローブ11が設置されており、プローブ11内の超音波振動子から超音波が発信される。本濃度測定システムでは、プローブ11はリニア型を用いており、プローブ11から計測室12の底板に向かって直線状の超音波13を送信する。超音波13としては、バースト状超音波、パルス状超音波、チャープ状超音波等あるが、バースト状超音波を使用することが一般的である。本濃度測定システムにおいて使用する超音波13もバースト状超音波であるが、パルス状超音波、チャープ状超音波でもよい。また、演算装置は、内蔵したCPUで受信信号を演算する装置であり、例えばPCが相当する。なお、図1(b)では、演算装置は略しているが、センサ1とケーブルで接続されている。
【0019】
始めに、センサ1を用いて、液体の散乱強度を計測する方法を説明する。図1(b)に示す液体21は、計測対象の非溶解物を含む液体、または非溶解物を含まない液体であり、容器2の中で流れている。液体21の散乱強度を計測する場合、まずセンサ1のプローブ11の先端面が液体21に浸かるように、センサ1の先端に設けられた計測室12を液体21に入れる。そして、プローブ11から計測室12の底板に向けて超音波13を発信すると、超音波13は、液体21内の非溶解物や計測室12の底板に当たって散乱し、散乱波がプローブ11に返ってくる。返ってきた受信信号の強度が散乱強度となる。
【0020】
図2(a)〜(c)に、計測される散乱強度の例を示す。図2(a)〜(c)は、上がプローブ11側で、下が計測室12の底板側となっている。上側の非常に強い散乱強度は、送信パルスの強度に相当し、下側の非常に強い散乱強度は計測室12の底板により反射した反射波の強度に相当する。
【0021】
図2(a)は、液体21が非溶解物を含まない場合の散乱強度を示す模式図である。非溶解物を含まない液体に超音波を発信すると、プローブ11と計測室12の底板の間では、超音波が散乱しないため、計測される散乱強度は0となる。次に、図2(b)は、液体21が高い非溶解物濃度の液体の場合の散乱強度を示す模式図である。非溶解物濃度が高い液体に超音波を発信すると、超音波はプローブ11近傍に存在する多量の非溶解物により散乱して大きく減衰するため、下の方には減衰して弱まった超音波が伝播する。よって、計測される散乱強度は、プローブ11近傍の上の方は強く、超音波の減衰量が大きい下の方は弱い。さらに、図2(c)は、液体21が低い非溶解物濃度の液体の場合の散乱強度を示す模式図である。非溶解物濃度が低い液体に超音波を発信すると、超音波は少ししか散乱されないので、計測される散乱強度は、プローブ11と計測室12の底板の間で略均一に弱い散乱強度となる。
【0022】
次に、本濃度測定方法について説明する。まず、本濃度測定方法における第一の散乱強度測定工程、第一の散乱強度積分工程、第一の平均化工程について説明する。具体的な手順を図3に示す。始めに、非溶解物濃度が不明な試料液21に、プローブ11からバースト状超音波13を発信する(S1)。本実施例では、非溶解物が粒径約10μmの鉄片である試料液の鉄片の濃度を測定する。なお、非溶解物は、液体に溶解しない物質であれば他のものでもよい。非溶解物の粒径に応じて超音波の周波数を適宜選択する。
【0023】
続いて、非溶解物の鉄片や計測室12の底板に散乱して返ってきた信号をプローブ11により受信し、バースト状超音波13のパルス周期に応じた所定の間隔で散乱強度データを取得する(S2)。本実施例で取得する散乱強度データのサンプル数は約500であるが、サンプル数は適宜設定できる。ここで、例えば試料液21の濃度が1.0%であった場合、取得した散乱強度の1サンプルのデータは、図6(c)のようになる。縦軸は散乱強度(dB)、横軸はプローブ11からの距離(mm)である。図6(c)を見ると、表層部分に相当する距離0mm付近と計測室12の底板部分に相当する距離150mm付近で、散乱強度は非常に強くなっている。表層部分と底板部分の間の散乱強度が、非溶解物である鉄片に散乱して返ってきた散乱波の強度である。
【0024】
次に、S2で取得した散乱強度の各サンプルデータを、プローブ11からの所定の距離範囲Iで積分する(S3)。散乱強度を所定の距離範囲Iで積分することにより、散乱強度に対する白色雑音の影響を抑制することができ、散乱強度データの信頼性を向上させることができる。この時、プローブ11からの所定の距離範囲Iは、表層部分と底板部分に相当する散乱強度が非常に強い部分を除いた範囲で設定する。特に、取得した散乱強度が、図2(b)で示すような高非溶解物濃度の液体からの散乱強度の特徴を示している場合は、所定の距離範囲Iを、表層部分を除いたプローブ11近傍の狭い範囲にすると、積分範囲が超音波の減衰量の比較的小さい範囲となる。よって、超音波の減衰による非溶解物濃度の測定精度の低下を抑制することができる。また、取得した散乱強度が、図2(c)で示すような低非溶解物濃度の液体からの散乱強度の特徴を示している場合は、所定の距離範囲Iを、表層部分と底板部分を除いた広い範囲にすると、取得した散乱強度が小さくても、散乱強度に対する白色雑音の影響を抑えることができ、非溶解物濃度の測定精度を高くすることができる。
【0025】
次に、S3で算出した約500サンプルの積分値を、20サンプルずつ移動平均し、平均化した積分値を試料液21の散乱強度とする(S4)。流れのある液体では、例えば、一部のサンプルにおいて、気泡等の存在により局所的に散乱強度が強くなるようなことがあり(図6(a)の90mm付近、図6(d)の75mm付近参照)、サンプルごとの積分値にばらつきがあるが、積分値を移動平均することにより、サンプルごとの積分値のばらつきを均し、データの繰り返し精度を高くすることができる。本実施例では、20サンプルずつ移動平均しているが、平均化するサンプル数は、適宜設定することができる。以上の工程において、S1〜S4が、本濃度測定方法における第一の散乱強度測定工程であり、S3が本濃度測定方法における第一の散乱強度積分工程、S4が本濃度測定方法における第一の平均化工程である。
【0026】
続いて、本濃度測定方法における第二の散乱強度測定工程、第二の散乱強度積分工程、第二の平均化工程について説明する。具体的な手順を図4に示す。まず、異なる非溶解物濃度を設定した複数の比較液21を用意する(T1)。本実施例では、非溶解物を約10μmの鉄片とし、鉄片の濃度が1.5%、1.0%、0.5%、0%(鉄片を含まない)の4種類の比較液21を用意した。次に、S1と同様に、4種類の比較液21のうちの1つの比較液21、例えば、非溶解物濃度1.5%の比較液21に、プローブ11からバースト状超音波13を発信する(T2)。
【0027】
次に、S2と同様に、非溶解物の鉄片や計測室12の底板に散乱して返ってきた信号をプローブ11により受信し、バースト状超音波13のパルス周期に応じた所定の間隔で散乱強度データを取得する(T3)。本実施例で取得する比較液21の散乱強度データのサンプル数は、試料液21の散乱強度データのサンプル数と同じ約500である。
【0028】
次に、S3と同様に、取得した散乱強度の各サンプルデータを、プローブ11からの所定の距離範囲Iで積分する(T4)。所定の距離範囲Iは、S3における所定の距離範囲Iと同じにする。さらに、S4と同様に、T4で算出した約500サンプルの積分値を、20サンプルずつ移動平均し、平均化した積分値を比較液21の散乱強度とする(T5)。平均化するサンプル数は、S4のサンプル数と同じにする。
【0029】
続いて、比較液21の濃度を、1.0%、0.5%、0%と変えて、T2〜T5の工程を3回繰り返し(T6)、4種類の比較液21(非溶解物濃度0%、0.5%、1.0%、1.5%)のそれぞれについて、白色雑音の影響を抑制し、サンプルごとのばらつきを均した散乱強度を取得する。
【0030】
図6(a)〜(d)は、それぞれ、T3で取得した4種類の比較液21(非溶解物濃度0%、0.5%、1.0%、1.5%)の散乱強度の1サンプルのデータを示した図である。図6(a)〜(d)に示すように、表層部分と底板部分の間の散乱強度は、非溶解物濃度が0%のとき略0(dB)であり、濃度が高くなるにつれ強くなっている。また、図7(a)は、T4で算出した、4種類の比較液21(非溶解物濃度0%、0.5%、1.0%、1.5%)の散乱強度の積分値を、それぞれ0〜100、100〜200、200〜300、300〜400(横軸)の範囲で示した図である。さらに、図7(b)は、T5で算出した、4種類の比較液21(非溶解物濃度0%、0.5%、1.0%、1.5%)の散乱強度の平均積分値をそれぞれ0〜100、100〜200、200〜300、300〜400(横軸)の範囲で示した図である。図7(a)、(b)で示すように、散乱強度の積分値および平均積分値は、非溶解物濃度が高くなるにつれ大きくなっている。また、図7(a)に比べて図7(b)では、各比較液の積分値のばらつきが小さくなっている。以上の工程において、T1〜T6が本濃度測定方法における第二の散乱強度測定工程であり、T4が本濃度測定方法における第二の散乱強度積分工程、T5が本濃度測定方法における第二の平均化工程である。
【0031】
次に、本濃度測定方法における非溶解物・散乱強度対応情報作成工程を説明する。T6を終了すると、4種類の比較液21(非溶解物濃度0%、0.5%、1.0%、1.5%)の散乱強度を得られる。そこで、図4に示すように、4種類の非溶解物濃度とそれに対応する散乱強度からなる非溶解物濃度・散乱強度対応情報を作成する(T7)。T7が本濃度測定方法における非溶解物・散乱強度対応情報作成工程である。
【0032】
なお、本実施例では4種類の異なる非溶解物濃度(0%、0.5%、1.0%、1.5%)を設定した比較液を用意し、4種類の非溶解物濃度とそれに対応する散乱強度から、非溶解物濃度・散乱強度対応情報を作成しているが、比較液の種類数や、非溶解物濃度の値は任意に選択できる。
【0033】
次に、本濃度測定方法における試料液の非溶解物濃度割り出し工程について説明する。図5に示すように、まず、S4で得た試料液の散乱強度と、T7で作成した非溶解物濃度・散乱強度対応情報を比較(U1)する。そして、T7で作成した非溶解物濃度・散乱強度対応情報に基づいて、S4で得た試料液の散乱強度に対応する非溶解物濃度を試料液の非溶解物濃度とし、試料液の非溶解物濃度を割り出す(U2)。例えば、S4で得た試料液の散乱強度が250(dB)であれば、試料液の非溶解物濃度は0.5%と割り出される。このU1〜U2が本濃度測定方法における試料液の非溶解物濃度割り出し工程である。
【0034】
以上、本発明に係る超音波による液体の非溶解物濃度測定方法の一実施形態について説明したが、本発明に係る超音波による液体の非溶解物濃度測定方法は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0035】
例えば、本実施形態では、第二の散乱強度測定工程において、T5まで行った後、非溶解物濃度を変えてT2〜T5を繰り返しているが、T3まで行った後、非溶解物濃度を変えてT2〜T3を繰り返し、各比較液の散乱強度についてT4〜T5を行ってもよい。また、第一の散乱強度測定工程においてS3まで行い、第二の散乱強度測定工程においてT3まで行った後、非溶解物濃度を変えてT2〜T3を繰り返し、その後、試料液の散乱強度および各比較液の散乱強度についてS3〜S4(T4〜T5)を行ってもよい。最終的にS4を終了した後の試料液の散乱強度と、T6を終了した後の各比較液の散乱強度が得られるならば、手順は変更してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 センサ
11 プローブ
12 計測室
13 超音波
21 試料液、比較液
I 所定の距離範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波による液体の非溶解物濃度測定方法であって、
非溶解物濃度が不明な試料液に対しプローブから超音波を送受信して散乱強度を測定する第一の散乱強度測定工程と
それぞれ異なる非溶解物濃度が設定された複数の比較液を用意し、各比較液に対しプローブから超音波を送受信して散乱強度を測定する第二の散乱強度測定工程と、
各比較液の非溶解物濃度と対応する散乱強度からなる非溶解物濃度・散乱強度対応情報を作成する非溶解物濃度・散乱強度対応情報作成工程と、
前記非溶解物濃度・散乱強度対応情報と前記試料液の散乱強度を比較して、前記試料液の非溶解物濃度を割り出す試料液の非溶解物濃度割り出し工程と
を有することを特徴とする超音波による液体の非溶解物濃度測定方法。
【請求項2】
前記第一の散乱強度測定工程は、
超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度を所定のプローブからの距離範囲で積分し、試料液の散乱強度の積分値を算出する第一の散乱強度積分工程と、
前記試料液の散乱強度の積分値を移動平均して、平均化した積分値を前記試料液の散乱強度とする第一の平均化工程を含み、
前記第二の散乱強度測定工程は、
超音波を送受信して測定した各比較液の散乱強度を前記所定のプローブからの距離範囲で積分し、各比較液の散乱強度の積分値を算出する第二の散乱強度積分工程と、
前記各比較液の散乱強度の積分値を移動平均して、平均化した積分値を各比較液の散乱強度とする第二の平均化工程とを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波による液体の非溶解物濃度測定方法。
【請求項3】
超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度が高非溶解物濃度の特徴を示している場合は、前記第一および第二の散乱強度積分工程において、前記所定のプローブからの距離範囲を表層部分を除いたプローブ近傍の狭い範囲にすることを特徴とする請求項2に記載の超音波による液体の非溶解物濃度測定方法。
【請求項4】
超音波を送受信して測定した試料液の散乱強度が低非溶解物濃度の特徴を示している場合は、前記第一および第二の散乱強度積分工程において、前記所定のプローブからの距離範囲を表層部分と底板部分を除いた広い範囲にすることを特徴とする請求項2に記載の超音波による液体の非溶解物濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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