説明

超音波プローブ及び超音波診断装置

【課題】性能を低下させず、超音波プローブの表面温度を安全な範囲に保つことが可能な超音波プローブ及び超音波診断装置を提供する。
【解決手段】実施形態の超音波プローブは、ケースと、振動子と、電子回路と、伝熱構造と、を有し、振動子は、ケースの一端部に配列され、遅延時間に基づく超音波を送信する。電子回路は、ケースに収容され、前記遅延時間を設定する遅延回路、及び前記遅延時間に基づき生成したパルスを振動子に出力するパルサを有する。伝熱構造は、電子回路が通電されているとき、少なくとも前記電子回路及び前記ケースの両者間、又は、前記電子回路及前記振動子の両者間の一つで熱伝導を制限し、電子回路からの熱をケースの他端部に伝導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波プローブ及び超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元又は2次元の画像を取得するための超音波診断装置において、超音波プローブのケースの一端部側のヘッド部には超音波を送受信する振動子が2次元又は1次元に配列されている。ケース内には振動子を駆動するためのビームフォーミングなどを行う電子回路基板群が設けられている。電子回路基板群を単に電子回路という場合がある。
【0003】
より高精細な画像を取得するために、電子回路をより機能化・高出力・高密度実装することが図られている。電子回路から発生する熱により、ヘッド部及びケースの表面温度が上昇するため、超音波プローブの放熱が重要となる。
【0004】
しかし、ヘッド部の表面やケースの表面からの自然空冷によっては、温度上昇を十分に抑えることができず、超音波プローブの使用時間に応じて、表面温度が上昇する。
【0005】
ヘッド部の表面は被検体に触れる部位であり、また、ケースの表面は操作者に保持される部位(ハンドル部)となっている。そのため、ヘッド部及びハンドル部の表面温度を安全な範囲に保つ必要がある。
【0006】
そこで、ケースの他端部からケースの外に延ばされているプローブケーブルを用い、表面温度が許容される温度を超えないように、プローブケーブルを介してケース内に冷媒を循環させる強制冷却が検討される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−42244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プローブケーブルから冷媒が漏れたり、循環用のポンプが故障したりして、冷却能力が低下して、表面温度を安全な範囲に保てないおそれがあるという問題点がある。
【0009】
なお、冷媒循環を用いずに、超音波プローブの表面からの自然冷却では、長時間の継続使用ができないか、電力を制限するために、性能を低下させるという問題点がある。
【0010】
この実施形態は、上記の問題を解決するものであり、性能を低下させず、超音波プローブの表面温度を安全な範囲に保つことが可能な超音波プローブ及び超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、実施形態の超音波プローブは、ケースと、振動子と、電子回路と、伝熱構造と、を有し、振動子は、ケースの一端部に配列され、遅延時間に基づく超音波を送信する。電子回路は、ケースに収容され、前記遅延時間を設定する遅延回路、及び前記遅延時間に基づき生成したパルスを振動子に出力するパルサを有する。伝熱構造は、電子回路が通電されているとき、少なくとも前記電子回路及び前記ケースの両者間、又は、前記電子回路及前記振動子の両者間の一つで熱伝導を制限し、電子回路からの熱をケースの他端部に伝導する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係る超音波診断装置の基本構成を示すブロック図。
【図2】超音波プローブの内部構成を示す図。
【図3】第2の実施形態に係る超音波プローブの内部構成を示す図。
【図4】熱伝導率変更手段の構成を示す図。
【図5】比較例に係る超音波プローブの内部構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態に係る超音波プローブ及びそれを用いた超音波診断装置について図1及び図2を参照して説明する。図1は、超音波診断装置の基本構成を示すブロック図、図2は超音波プローブの内部構成を示す図である。
【0014】
〈超音波診断装置の基本構成〉
図1及び図3に示すように、超音波プローブ1は、プローブケーブル12と接続手段2により装置本体10に接続される。超音波プローブ1は、被検体の内部を超音波により電子的に高速で走査することができるように、電気信号と音響信号とを相互変換するための複数の振動子104が配列されてなるアレイ振動子が採用されている。
【0015】
超音波プローブ1は、送信回路3の一部(送信遅延回路(図示省略)、パルサ(図示省略))、及び、振動子104等を有している。超音波プローブ1内に設けられる送信回路3の一部を、電子回路という場合がある。
【0016】
装置本体10は、送信回路3の一部(クロック発生器(図示省略)、分周器(図示省略))、受信走査回路4、血流解析検出器5、振幅検出器6、表示処理器7、表示器8を有している。
【0017】
(送信回路)
送信回路3は、クロック発生器で発生されたクロックパルスを分周器で例えば5KHz程度のレートパルスに落とし、このレートパルスを送信遅延回路を通してパルサに与えて高周波の電圧パルスを発生し、振動子104を駆動する、つまり機械的に振動させるようになっている。こうして発生された超音波は、被検体内の音響インピーダンスの境界で反射して、超音波プローブ1に戻ってきて、振動子104を機械的に振動する。これにより各振動子104に電気信号が個別に発生する。この電気信号は、受信走査回路4で増幅・整相加算される。これにより、指向性を有する信号(エコー信号)が生成される。
【0018】
(振幅検出器)
振幅検出器6では、受信走査回路4からのエコー信号に基づいて、組織の形態的な情報を提供するBモード像データを生成する。表示処理器7は、上述した振幅検出器6で生成したBモード像データに基づいて組織形態画像断面表示を行う。
【0019】
(血流解析検出器)
血流解析検出器5は、いわゆるカラードプライメージング(CDI)を実現するユニットであり、まず、受信走査回路4からのエコー信号を直交位相で検波して周波数偏移を受けたドプラ信号を取り出し、この取り出したドプラ信号からMTIフィルタで特定の周波数成分だけを通し、その通過した信号の周波数を自己相関器により求め、この周波数から演算部で平均速度、分散、パワーを演算するように構成されている。
【0020】
なお、MTIフィルタの通過帯域を調整することにより、主に血流を映像化する一般的なドプラモード(このモードによる画像データを血流ドプラ画像データと称する)と、主に心筋等の臓器を映像化する組織ドプラモード(このモードによる画像データを組織ドプラ画像データと称する)とを切り替えることができるようになっている。
【0021】
(表示処理器、表示器)
また、表示処理器7は、上述した血流解析検出器5で生成した血流ドプラ画像データと組織形態画像データを、合成して表示する。この組織形態画像データと機能画像データとの合成画像は、表示器8に表示される。
【0022】
〈超音波プローブの構成〉
次に、第1の実施形態に係る超音波プローブの構成について図2を参照して説明する。
【0023】
図2に示すように、超音波プローブ1は、ケース101、シールド部材102、音響部103a、電子回路106、及び伝熱構造107aとを有している。図2では、電子回路106の一部を示す。
【0024】
(ケース)
ケース101は、断熱性を有する樹脂により形成されている。ケース101の表面を、操作者により把持されるハンドル部という場合がある。
【0025】
(シールド部材)
シールド部材102はケース101の内面に配置されている。放射電波を低減するため、シールド部材102にはメッシュ又はスリットが形成されている。
【0026】
〔音響部〕
音響部103aは、ケース101の一端部であるヘッド部に設けられている。音響部103aは、レンズ部材103、振動子104、バッキング部材105を有している。音響部103aは熱発生源となる。
【0027】
(振動子)
振動子104は、電気・音響変換により超音波を送受信する振動子104は一般的には圧電材料をアレイ状に加工したものである。
【0028】
(バッキング部材)
バッキング部材105は、効率的な音響放射・受波を行うために振動子104の背面に配置されている。
【0029】
(レンズ部材)
レンズ部材103は、音響レンズの役目をはたし、また生体への接触性を良くするために振動子104の正面(バッキング部材105とは反対側の面)に配置されている。なお、レンズ部材103の表面が、被検体の体表に接触するヘッド部の表面となる。
【0030】
(電子回路)
超音波プローブ1のケース101内部には、送信回路3の一部(送信遅延回路、パルサ)を含む電子回路106が設けられている。電子回路106は、基板108及び基板実装部品109を有する。基板108、基板実装部品109が熱発生源となる。
【0031】
〔伝熱構造〕
伝熱構造107aは、熱拡散部材107、回路部熱伝導部材111、熱輻射部材119を有している。
【0032】
(熱拡散部材)
熱拡散部材107は、シールド部材102に沿って配置され、ケース101の一端部(超音波プローブ1のヘッド部)からケース101の他端部(超音波プローブ1の尾部)に延ばされ、超音波放射に伴い音響部(レンズ部材103、振動子104、バッキング部材105)103aから発生する熱を超音波プローブ1の尾部に伝達する役目をはたす。
【0033】
なお、熱拡散部材107にメッシュ又はスリットを設けても良いし、接地することにより、シールド部材102としての役目を持たせてもよい。
【0034】
(回路部熱伝導部材)
回路部熱伝導部材111は、電子回路106を包むように配置され、電子回路106から生じた熱を熱拡散部材107の方(超音波プローブ1の尾部の方)に伝導する。
【0035】
(熱輻射部材)
次に伝熱構造107aについて説明する。なお、以下の説明では、電子回路106及びケース101の両者間での熱伝導をする伝熱構造107aを代表して示し、電子回路106及び振動子104の両者間での熱伝導をする伝熱構造107aを省略する。
【0036】
伝熱構造107aでは、温度により自律的に熱伝導率が変化する構造を採用し、赤外線による輻射の温度特性を有する熱輻射部材119が用いられている。
【0037】
熱輻射部材119は、電子回路106からの熱をケース101の他端部に伝導する熱伝導部材に相当している。熱輻射部材119としては、熱を縦方向のみでなく、横方向にも伝える異方性の熱伝導率を有する部材が好ましく、例えば、黒鉛をシート状に加工したグラファイトシートがさらに好ましい。熱輻射部材119にメッシュ又はスリットを設けても良いし、接地することにより、シールド部材102としての役目を持たせてもよく、熱拡散部材107としての役目をもたせてもよい。
【0038】
図2に示すように、熱輻射部材119は、回路部熱伝導部材111上に敷設され、回路部熱伝導部材111の熱により赤外線を受熱部材116に向けて放射する。受熱部材116は、ケース101の他端部の方(超音波プローブ1の尾部の方)に延ばされている。
【0039】
また、熱輻射部材119は、熱拡散部材107に沿って配設され、熱拡散部材107の熱により赤外線を受熱部材116に向けて放射する。
【0040】
輻射の温度特性では、電子回路106及び回路部熱伝導部材111の温度が上昇すると赤外線放射率の高い熱輻射部材119からの輻射エネルギーはその表面温度Tの4乗に比例して増加する。一般の伝導熱では温度差に比例してエネルギーが増加するのに比べて、輻射エネルギーでは高温時には熱伝播が増加し、熱伝導率が上昇したのと等価の熱伝播を行うことが可能となる。
【0041】
例えば、35℃(273+35=308°K)と60℃(273+60=333°K)では、一般の熱伝導では、8(≒(333−308)/308*100)%のエネルギー上昇に比べて、輻射エネルギーでは、36(≒(1.08 −1)*100)%の上昇となる。異常に温度が上昇した場合にも輻射熱のこの性質により自律的に熱伝導率を上げる効果がある。
【0042】
図2に示すように、さらに第1の実施形態では操作者が保持する部分など超音波プローブ1のケース101の温度上昇を特に避けたい部分には、熱輻射部材119の表面に赤外線屈折プリズム200が配置されている。赤外線屈折プリズム200は、熱輻射部材119の表面に対抗する正面にある温度を上げたくない部分(ケース101の表面)への輻射を図2上右の超音波プローブ1の尾部(ケース101の他端部の方向)に放射するように屈折させる。同様に温度を上げたくない付近の受熱部材116の表面にも赤外線を斜め(ケース101の他端部の方向)へ反射させる赤外線反射体201が並設されている。赤外線屈折プリズム200及び赤外線反射体201により、この場所での輻射熱吸収が低減される。
【0043】
(コネクタ部、プローブケーブル)
プローブケーブル12の一端側が超音波プローブ1の尾部(ケース101の他端部:振動子104とは反対の端部)に接続され、プローブケーブル12の他端側が装置本体10にコネクタ部(図示省略)で接続されている。プローブケーブル12は電気信号を伝達する信号線と電源を供給する電源線とを含む複合ケーブルである。
【0044】
以上説明した第1の実施形態によれば、電子回路106の温度により自律的に熱伝導率が変化する構造を採用したので、異常に温度が上昇した場合にも自律的に熱伝導率を上げることが可能となる。
【0045】
すなわち、この第1の実施形態では能動的な温度制御はできないが、比較的簡単な構造で温度上昇時の熱伝達効率向上を実現させるとともに、電子回路106から発生する熱の熱伝導の制限を実現させている。
【0046】
[第2の実施形態]
次に第2の実施形態に係る超音波プローブについて図3及び図4を参照して説明する。図3は超音波プローブの内部構成を示す図、図4は熱伝導率変更手段の構成を示す図である。
【0047】
第1の実施形態の伝熱構造107aでは熱輻射部材119が用いられていたが、第2の実施形態の伝熱構造107aでは、熱輻射部材119に代えて、熱伝導率変更手段114、115が用いられている。
【0048】
以下の第2の実施形態の構成を説明するに際して、第1の実施形態の構成と重複する部分については、第1の実施形態の構成と同じ番号を付し、その説明を省略する。
【0049】
〔伝熱構造〕
伝熱構造107aは、熱拡散部材107、回路部熱伝導部材111、熱伝導率変更手段114、115を有している。
【0050】
(熱伝導率変更手段)
図3に示すように、熱伝導率変更手段114は、音響部103a(バッキング部材105)と電子回路106の間に配置され、電子回路106で発生した熱の音響部103aへの伝播を低減している。熱伝導率変更手段114により、電子回路106からの熱でレンズ部材103の表面(ヘッド部の表面)の温度上昇を低減している。
【0051】
熱伝導率変更手段115は、回路部熱伝導部材111と、熱拡散部材107又はシールド部材102との間に設けられ、回路部熱伝導部材111から熱拡散部材107又はシールド部材102への直接的熱伝達を防ぐように構成されている。この熱伝導率変更手段115により超音波プローブ1のケース101の回路部付近の局部的温度上昇を防ぐことが可能となる。
【0052】
ケース101内部の温度は従来よりも高くなる傾向になるので、電子回路106が高い温度でも動作する設計になっている必要がある。特に、長時間連続的に多くの消費電力を使用する動作状態を行うと内部の温度は限界近くまで上昇することとなる。画面を止めてスキャンが停止した場合や他の超音波プローブ1を選択してケース101内部の電子回路106の電力消費が減少した場合でも断熱部材の効果で通常の熱伝播をしている場合、電子回路106の温度低下の速度は遅く、次に多くの電力消費を必要とする動作状態になる時点でも電子回路106の温度は十分低下しておらず、温度の高い状態から温度上昇を開始することになる。
【0053】
そこで、電子回路106の電力消費が減少したときに、熱伝導率変更手段115の熱伝導率を高めるように変更することにより、電子回路106の温度低下を加速させることが可能となる。
【0054】
これにより多くの電力消費を必要とする動作状態になる時点での温度を抑えて、内部の温度は限界近くまで上昇するまでの時間を長くしたり、より多くの電力を使用できるようにしたりすることができる。
【0055】
次に、熱伝導率変更手段の詳細について図4を参照して説明する。図4は熱伝導率変更手段の構成を示す図である。
【0056】
熱伝導率変更手段114、115は同じ構成をしており、以下、熱伝導率変更手段114を代表して説明し、熱伝導率変更手段115の説明を省略する。
【0057】
図4に示すように、熱伝導率変更手段114は、赤外線放射率の高い熱輻射部材119と、赤外線を透過・遮断する赤外線透過/遮断手段118と、赤外線を透過し、最低レベルの熱伝導率を有する透明断熱部材117と、赤外線放射率の高い受熱部材116と、を有している。
【0058】
(熱輻射部材)
熱輻射部材119は回路部熱伝導部材111と低い熱抵抗で接続される。熱輻射部材119は銅箔などの熱伝導率の高い材料の表面にセラミック塗装を行うことで放射率を高くした(0.95以上)もので、セラミック塗装面を対抗して配置する。熱輻射部材119は回路部熱伝導部材111からの熱伝播を受けて、温度が上昇しこのエネルギーで遠赤外線をセラミック塗装面から受熱部材116の方向へ放射し、エネルギーを移動させる。なお、熱輻射部材119及び受熱部材116により、赤外線を伝播する赤外線伝播手段が構成されている。
【0059】
(受熱部材)
受熱部材116はバッキング部材105と低い熱抵抗で接続されている。受熱部材116は銅箔などの熱伝導率の高い材料の表面にセラミック塗装を行うことで放射率を高くした(0.95以上)もので、セラミック塗装面を対抗して配置する。
【0060】
(透明断熱部材)
透明断熱部材117は、遠赤外線を透過し、最低レベルの熱伝導率を有する材料により形成されている。透明断熱部材117は、赤外線透過/遮断手段118と受熱部材116との間に配置されている。
【0061】
透明断熱部材117には対流を抑圧した空気を含む材料が断熱性・重量の点で適切で、梱包緩衝材に用いられるポリエチレン薄膜で作られた気泡緩衝材や薄い複層ガラス(二枚のガラスで空気を挟み込んだ形のもの)などが適している。ポリエチレンやガラスは赤外線の透過率は高くないが薄膜であれば、十分(90%以上)透過する。障子紙のような紙も空気の対流を妨げるのに効果があるが、反射が多く薄膜化が困難なため50%程度しか透過しないのであまり適さない。
【0062】
(赤外線透過/遮断手段)
赤外線透過/遮断手段118には、例えば、液晶シャッターが用いられる。液晶シャッターは、赤外線の透過率が低い例えば可視光線用のものより、赤外線の透過率が高いものが好ましい。液晶シャッターの一例として、特願平5−129714に記載されている赤外線透過板にはシリコン板を使用し、金の平行配列格子状電極による偏光板としての機能をもたせ、さらに金の電極に配向膜としての機能を持たせて、液晶を満たし、偏光方向を直交させることにより赤外線の遮断を行うものがある。
【0063】
制御手段(図示省略)は、電子回路106に電源が供給されていないと判断したとき、また、電子回路106の温度が所定値を超えたと判断したとき、赤外線透過/遮断手段118へ電源を供給させ、赤外線が透過するように赤外線透過/遮断手段118を開かせる。これに対し、電子回路106に電源が供給されていて、かつ、電子回路106の温度が所定値以下であると判断したとき、赤外線透過/遮断手段118への電源の供給を停止させ、赤外線が遮断されるように赤外線透過/遮断手段118を閉じさせる。
【0064】
赤外線透過/遮断手段118は、電源が供給されている状態では赤外線が遮断され、電源が供給されていない状態では赤外線が透過されるように液晶・偏向板の偏向の方向が調整される。伝熱構造は、赤外線透過/遮断手段118が赤外線を透過することで、回路部熱伝導部材111と音響部103aとの間の熱伝導率が高くなり、赤外線透過/遮断手段118が赤外線を遮断することで、その間の熱伝導率が低くなる。
【0065】
電子回路106が通電されていないとき、赤外線透過/遮断手段118が開いている。それにより、熱輻射部材119から放射された遠赤外線は赤外線透過/遮断手段118、透明断熱部材117を透過して受熱部材116に照射され、受熱部材116は入射した遠赤外線を吸収し熱に変換する。この遠赤外線の伝播により、回路部熱伝導部材111の熱がバッキング部材105に伝播し、この熱は振動子104、レンズ部材103を通じて外部の空気に伝播していく。
【0066】
電子回路106が通電されているとき、赤外線透過/遮断手段118が閉じている。それにより、熱輻射部材119から放射された遠赤外線は赤外線透過/遮断手段118で吸収・反射されて音響部(レンズ部材103、振動子104、バッキング部材105)103aには伝播しなくなる。反射された遠赤外線は熱輻射部材119に入射され、熱エネルギーに戻る。赤外線透過/遮断手段118で吸収された熱は赤外線透過/遮断手段118の温度を上昇させるが、この熱も透明断熱部材117により音響部103aへ伝播しない。
【0067】
〔動作〕
次に、第2の実施形態に係る超音波プローブの動作について説明する。
【0068】
超音波プローブ1による超音波の送信は振動子104に電気パルスを印加することにより、機械的振動を発生させる。この電気機械変換の際にエネルギーロスが発生するため、振動子104から熱が発生する。更にこの発生した振動はレンズ部材103とバッキング部材105に伝わり、バッキング部材105に伝わった音響エネルギーは減衰により熱に変換される。レンズ部材103に伝わった音響エネルギーはレンズ部材103を伝わり、被検体内に伝播する。レンズ部材103には減衰があり一部が熱エネルギーとなる。
【0069】
図3に示す超音波プローブ1のレンズ部材103の表面(ヘッド部の表面)は被検体の体表に接して検査するため、表面の温度の上昇は安全上の問題となり、レンズ部材103の表面温度の上昇を低減することが重要となる。バッキング部材105及び振動子104周辺の熱の拡散と放射電波対策の目的でシールド部材102が振動子104に接続される。バッキング部材105には温度センサ(図示省略)が埋め込まれ、このセンサの信号は温度検出用ライン(図示省略)を通じて装置本体10に接続される。装置本体10は、センサの信号に基づいて、レンズ部材103の表面温度の異常上昇を検出できるように構成されている。
【0070】
超音波プローブ1をシステムに装着した状態で該当超音波プローブ1を診断画像収集に使用していない非通電状態では超音波プローブ1の内部の回路の電力消費は殆ど行われず、また、振動子104にも電力供給されず、レンズ部材103の表面(ヘッドの表面)及びケース101の表面(ハンドル部の表面)ともに温度は上昇していない。また、この非通電状態では赤外線透過/遮断手段118が赤外線を透過させる状態であるが、内部の温度は周囲の空気と同じであり、熱輻射部材119及び回路部熱伝導部材111の温度は受熱部材116及びバッキング部材105の温度と等しく、輻射による熱伝播は発生していない。
【0071】
該当超音波プローブ1を選択して診断画像収集を開始する際には赤外線透過/遮断手段118を遮断状態に変更してから送受信のための電力供給を開始する。この通電状態での電力は超音波プローブ1の種類・対象範囲・画像モードにより異なるがおよそ1W〜3W程度であり、電子回路106の表面温度の上昇が始まる。この温度上昇は回路部熱伝導部材111に伝わり、更には熱拡散部材107又はシールド部材102を通じて、超音波プローブ1のケース101に伝わり、その温度を上昇させる。超音波プローブ1のケース101の温度は周囲の空気により冷やされながら、徐々に上昇を続ける。レンズ部材103の表面は電子回路106からの熱に対しては断熱状態であるため、超音波エネルギー送信に伴う振動子104本来の発熱による温度上昇のみが発生して、電子回路106を内蔵しない超音波プローブ1の温度上昇とほぼ同等の温度上昇となり、各種断層像を得るために十分な超音波エネルギーを供給することができる。
【0072】
操作者は診断に必要な画像を得ると画像収集を一旦停止(フリーズ)してシステム内部に保存された画像情報を分析したり、記録したりする。
【0073】
この画像収集が停止になると赤外線透過/遮断手段118は透過状態になり、すでに電力消費が低減され発熱しなくなった電子回路106の上昇した温度を効率よく低下させる。この状態では超音波エネルギー送信に伴う振動子104本来の発熱は発生しておらず、熱伝導率変更手段115を通じた熱伝達があってもレンズ部材103の表面の温度上昇による安全上の危険は発生しない。
【0074】
回路温度センサ110により電子回路106付近の温度を観察する機能を持たせることも可能で、この場合は電子回路106付近の温度が所定値を超えたとき、例えば、基板実装部品109の動作可能範囲を超えたり、長期信頼性も含めて非可逆的破壊に至る温度範囲に近づいたりしたとき、保護処置として電子回路106の消費電力低減・又は停止と共に熱伝導率変更手段114、115により熱伝導率を高く制御して、電子回路106の温度低下を促進して実用性・信頼性を高めることが可能である。
【0075】
(変形例)
なお、実施形態では、上述した実施形態に限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0076】
赤外線透過/遮断手段118には液晶シャッターだけでなく、遮光板を機械的に回転させる方式でもよい。この場合でもばねによる初期状態を持つ機構として電源が遮断された時でも赤外線が透過する状態に戻すことが可能である。
【0077】
熱伝導率変更手段114、115には赤外線を透過・遮断するシャッターだけでなく、停止可能な流体循環を用いてもよいし、温度で固体から対流可能な液体に相変化して、熱伝導率を変化させる断熱機構でもよいし、温度で変形する形状記憶金属を用いた機構による断熱機構を用いてもよい。
【0078】
ケース101部内のプローブケーブル12までの熱伝達には銅板・銅箔・カーボンシート・ヒートパイプ・小型のコンプレッサを利用した素材を用いてもよい。
【0079】
プローブケーブル12内に冷媒を循環させない冷却方式の超音波プローブ1での例で説明したが、プローブケーブル12内に冷媒を循環させる超音波プローブ1にも実施可能である。
【0080】
〔比較例〕
比較例に係る超音波プローブの内部構成について図5を参照して説明する。図5は、超音波プローブの内部構成を示す図である。
【0081】
比較例の構成において、第1の実施形態の構成と重複する部分については、第1の実施形態の構成と同じ番号を付し、その説明を省略する。
【0082】
比較例の構成では、実施形態の構成のように、電子回路106及び振動子104の両者間の断熱を行う伝熱構造を有しておらず、また、電子回路106及びケース101の両者間での熱伝導を行う構造も、赤外線による輻射の温度特性を利用するものでもない。
【0083】
図5に示すように、超音波プローブ1の内部には回路部熱伝導部材111が設けられている。回路部熱伝導部材111は電子回路106から発生する熱を外部へ伝導させるために電子回路106を覆う。回路部熱伝導部材111は外部への熱伝達をするための熱拡散部材107に接続され、プローブケーブル12からの熱放射及びシールド部材102に熱を伝達し、さらにケース101に熱を伝達し、自然空冷により冷却を行っている。
【0084】
比較例の構成では、回路部熱伝導部材111と熱拡散部材107又はシールド部材102の間の熱伝達を良好にするための熱伝達部材113が置かれている。また、電子回路106と振動子104とは信号接続フレキシブル基板112又はプローブケーブル12により送受信のための電気的接続を行っているが、この電気接続のための導体及びその周囲の空隙にある空気により電子回路106で発生した熱をレンズ部材103、振動子104、バッキング部材105に伝播させている。
【0085】
電子回路106近傍に回路温度センサ110が設けられ、装置本体10に接続され、装置本体10に設けられた制御部(図示省略)により、電子回路106近傍の温度が監視される。振動子104近傍にも温度センサ(図示書略)が埋め込まれ、振動子104の近傍の温度が観測される。
【0086】
前述したように、レンズ部材103の表面は検査の対象患者の体表に接触させるため、その表面温度が過度に上昇することは安全上重大な問題となるため、温度管理が重要である。また、超音波プローブ1のケース101も検査を行う操作者が手で保持する部分であり、その表面の過度の温度上昇は検査者のやけど・不快感を発生させるため、この領域の温度管理も重要である。このため電子回路106で使用する電力を制限しており、送信エネルギーの制限や受信回路のバイアス電流を制限して結果的に飽和や雑音の増大を許容する状態で使用している。比較例の構成ではシールド部材102の熱抵抗の低減による最適化設計を試みているが、限られた空間での熱抵抗の低減には限界があり、ケース101の表面温度の均一化による冷却能力最適化が十分に行うことが困難な状況で、循環器用超音波プローブ1の場合で2W弱の消費電力でも表面温度が安全の限界温度に達する場合が生じている。
【0087】
これに対し、実施形態では、電子回路106の温度により自律的に熱伝導率を変化させることにより、また、熱伝導を制限して、熱伝導率を変化させることにより、超音波プローブ1の表面温度を安全な範囲に保つことが可能となる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるととともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1 超音波プローブ 2 接続手段 3 送信回路 4 受信走査回路
5 血流解析検出器 6 振幅検出器 7 表示処理器 8 表示器
12 プローブケーブル
101 ケース 102 シールド部材 103 レンズ部材
103a 音響部 104 振動子 105 バッキング部材 106 電子回路
107a 伝熱構造 107 熱拡散部材 108 基板
109 基板実装部品
110 回路温度センサ 111 回路部熱伝導部材
112 信号接続フレキシブル基板 113 熱伝達部材
114 熱伝導率変更手段 115 熱伝導率変更手段
116 受熱部材 117 透明断熱部材 118 赤外線透過/遮断手段
119 熱輻射部材
200 赤外線屈折プリズム 201 赤外線反射体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する超音波プローブにおいて、
ケースと、
前記ケースの一端部に配列され、遅延時間に基づく超音波を送信する振動子と、
前記ケースに収容され、前記遅延時間を設定する遅延回路、及び前記遅延時間に基づき生成したパルスを振動子に出力するパルサを有する電子回路と、
前記電子回路が通電されているとき、少なくとも前記電子回路及び前記ケースの両者間、又は、前記電子回路及前記振動子の両者間の一つで熱伝導を制限し、前記電子回路からの熱を前記ケースの他端部に伝導する伝熱構造と、
を有する
ことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
前記伝熱構造は、前記電子回路からの熱をケースの他端部に伝導する熱伝導部材を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記熱伝導部材は、前記電子回路の温度により熱伝導率が変化することを特徴とする請求項2に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記熱伝導部材は、メッシュ状に形成されることを特徴とする請求項2または請求項3のいずれかに記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記熱伝導部材は、異方性の熱伝導率を有することを特徴とする請求項4に記載の超音波プローブ。
【請求項6】
前記伝熱構造は、前記電子回路からの熱を赤外線に変換し、前記ケースの他端部の方向へ反射/屈折させる光学手段を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項7】
前記伝熱構造は、
前記電子回路からの熱を前記ケースの他端部に伝導する熱伝導部材と、
前記電子回路が通電されているとき、いずれかの両者間の熱伝導率を低くし、前記電子回路が通電されていないとき、その両者間の熱伝導率を高くする熱伝導率変更手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項8】
前記熱伝導率変更手段は、前記電子回路に電源が供給されないとき、熱伝導率を高くさせる制御手段を有することを特徴とする請求項7に記載の超音波プローブ。
【請求項9】
前記熱伝導率変更手段は、前記電子回路の温度が所定値を超えたとき、熱伝導率を高くさせる制御手段を有することを特徴とする請求項7に記載の超音波プローブ。
【請求項10】
前記熱伝導率変更手段は、両者間で赤外線を伝播する赤外線伝播手段と、前記制御手段の制御を受けて、両者間で赤外線を透過する状態と赤外線を遮断する状態とに切り替えられる赤外線透過/遮断手段を有することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の超音波プローブ。
【請求項11】
前記赤外線伝播手段は、
前記電子回路の熱を赤外線として放射する熱輻射部材と、
前記放射された赤外線を受ける受熱部材と、
を有することを特徴とする請求項10に記載の超音波プローブ。
【請求項12】
前記赤外線透過/遮断手段と前記受熱部材との間に、赤外線を透過する性質を有する断熱部材が配置されていることを特徴とする請求項11に記載の超音波プローブ。
【請求項13】
前記赤外線透過/遮断手段は、液晶素子であることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれかに記載の超音波プローブ。
【請求項14】
前記請求項1から請求項13のいずれかに記載の超音波プローブを有し、
前記超音波プローブにより受信された信号に基づいて画像を作成することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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