説明

超音波モータ用振動子

【課題】振動子の損失を小さくし(振動効率を大きくし)、振動子の耐久性、信頼性の向上を図った超音波モータ用振動子を提供する。
【解決手段】矩形板状の圧電振動素子1の固有振動モードの歪みが大きい領域に、外形形状に曲線部を含む電極7,8,9を配置する。特に、屈曲振動を励振する電極7,8を屈曲固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域に配置し、かつ電極7,8の外形曲線部を歪みの等高線3,4に沿った形状とし、伸縮振動を励振する電極9を伸縮固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波モータ用振動子に関し、特に圧電振動素子上の電極を屈曲振動と伸縮振動の分極領域にそれぞれ独立して配置した形態の超音波モータ用振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・情報技術の急速な発展に伴ない、精密部品の更なる微細化、高集積化が求められており、ナノオーダ(10-9m)での検査や超微細加工に対応する超精密位置決め装置が必要となっている。また、医療やバイオ研究において、タンパク質や細胞の制御による応用技術開発が進み、より微細な領域での位置決めが可能な顕微鏡用ステージに対するニーズが高まっている。さらに近年では高精度化への要求と併せて、検査、加工、測定などの対象物が小さくなるに伴ない、位置決め装置やその駆動源の小形化、軽量化も求められている。
【0003】
このようなナノオーダでの微細領域に対処する駆動装置として、従来の電磁モータに代わって、特許文献1〜3に記載されるような圧電振動素子を用いた超音波モータが開発されている。
【0004】
この超音波モータは、電磁モータとは全く異なる駆動原理に基づく駆動装置であり、低速、高トルク、無音、停止時の保持性など優れた特長を有している。また、振動子の構造が単純なことから小形化に有利であり、小型アクチュエータとしても期待されている。
【0005】
一般に超音波モータは振動子と移動体とにより構成されており、この振動子の摩擦接触部を前記移動体に押し付け、加圧した状態で機能する。この状態で前記振動子の摩擦接触部に楕円運動を発生させることで、摩擦接触部が移動体に間欠的に圧接しながら前記移動体を一方向に送り出す。前記移動体の動作速度は楕円運動の振幅の大きさを変えることで制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−54407号公開公報
【特許文献2】特許第3311446号特許公報
【特許文献3】特開2004−297951号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように振動子で駆動される移動体の速度は振動子先端の摩擦接触部の楕円運動の振幅の大きさを変えることで制御される。しかしながら、通常の超音波モータでは、この楕円運動の軌跡形状を任意に変えることができないため、低速で駆動する場合、楕円運動の振幅は全体的に小さくなり、摩擦力を制御する振動子の加圧方向の振動成分も小さくなってしまい、動作が不安定になり、停止してしまう事態を生じる。
【0008】
この場合の速度の入出力特性は非線形性を有し、かつ不感帯が存在する。このような入出力特性では、低速域での安定した速度制御を行うことが難しくなるため、モータとしての精度、分解能の性能が低下してしまう。
【0009】
以上のような問題を解決するため、例えば上述の特許文献1では、積層するすべての圧電素子に、屈曲振動を励振する電極領域と伸縮振動を励振する電極領域を配置し、各振動を独立して制御できるようにしている。これによれば、楕円運動を生成する屈曲振動と伸縮振動の大きさと、その位相差を個別に自由に調整することができ、低速域でも十分な加圧方向の振動が得られるため、速度の非線形性、不感帯を解消することが可能である。
【0010】
ところで所定の振動モードを効果的に励振するには、その振動モードの節、つまり歪み分布が大きい領域に電極を配置することが望ましい。しかし、特許文献1に示す超音波モータ用振動子は矩形板状であり、かつその電極形状も矩形あるいは十字形であり、特許文献2,3においても圧電素子及び電極とも矩形状となっている。このことから、電極を歪み分布が大きい箇所に適切に配置することができず、振動子の振動効率の損失が大きくなってしまう。この振動効率の損失は、振動子の発熱、温度上昇につながるため、安定性、信頼性に悪影響を及ぼす。さらに、これら従来の矩形状の電極形状では、電圧印加時にその角部に応力集中が起り、振動による繰返し応力の発生で疲労亀裂や破損の原因となり、振動子の信頼性、耐久性の低下につながるという問題があった。
【0011】
本発明は、このような問題を解決し、特に振動子の損失を小さくし(振動効率を大きくし)、かつ、振動子の耐久性、信頼性の向上を図った超音波モータ用振動子を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、(1)矩形板状の圧電振動素子の固有振動モードの歪みが大きい領域に、外形形状に曲線部を含む電極を配置したことを特徴とする超音波モータ用振動子が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、(2)屈曲振動と伸縮振動をそれぞれ独立して励振するため、屈曲振動を励振する電極と伸縮振動を励振する電極を別々に設けた請求項1に記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、(3)前記屈曲振動を屈曲2次振動、前記伸縮振動を伸縮1次伸縮とした前記(2)に記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、(4)前記屈曲振動を励振する電極が、屈曲固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域に、前記電極の外形曲線部が前記歪みの等高線上に略沿って配置されている前記(2)または(3)に記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、(5)前記屈曲振動を励振する電極の面積が、前記圧電振動素子の全面積の15%以上、40%以下である前記(2)〜(4)のいずれかに記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、(6)前記伸縮振動を励振する電極が、伸縮固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域に前記電極の外形曲線部が歪みの等高線上に略沿って配置されている前記(2)に記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、(7)前記伸縮振動を励振する電極の面積が、前記圧電振動素子の全面積の15%以上、45%以下である前記(2)、(3)または(6)に記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、(8)前記屈曲振動用電極と前記伸縮振動用電極が干渉する場合には、その干渉する箇所で前記屈曲振動用電極または前記伸縮振動用電極のいずれか一方の電極が、その外形曲線部分が歪みの等高線上に略沿うように配置され、他方の電極が前記一方の電極の外形部分との間に隙間を形成して配置され、両電極間が絶縁されている前記(4)〜(7)のいずれかに記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【0020】
また、本発明によれば、(9)前記屈曲固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域が、屈曲振動用の電極面積が振動子の全面積に対して40%のときに、前記歪みの値が歪みの最大値を1で正規化して0.23以上の領域であり、屈曲振動用の電極面積が前記振動子の全面積に対して15%のときに、0.47以上の領域である前記(4)または(5)に記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【0021】
また、本発明によれば、(10)前記伸縮固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域が、伸縮振動用の電極面積が振動子の全面積に対して45%のときに、前記歪みの値が歪みの最大値を1で正規化して0.75以上の領域であり、前記伸縮振動用の電極面積が前記振動子の全面積に対して15%のときに、0.95以上の領域である前記(6)または(7)に記載の超音波モータ用振動子が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、超音波モータ用振動子において、振動子の温度上昇、発熱の原因となる振動子損失を小さくすることができる。また、電極の外形の一部を歪みの等高線に略沿った曲線部を含む形状にしたので、電圧印加時に発生する振動子の応力が減少し、応力集中による疲労亀裂、破損がなくなり、振動子の耐久性、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例に係る超音波モータ用振動子の平面図である。
【図2】(a)は振動子の電圧印加時における屈曲2次固有振動モードの歪み分布を縞状模様で模型的に示した斜視図であり、(b)は同じく振動子の電圧印加時における伸縮1次固有振動モードにおける伸縮歪み分布を模型的に示した斜視図である。
【図3】電極面積/振動子面積(横軸)を変えた場合の振動子の損失に対する出力比を示した図であり、符号aは、固有振動モードの歪みの等高線上に略沿って配置された電極の歪み基準で屈曲2次振動用電極7,8を形成した本発明の振動子1(図C)に対する出力比であり、e及びfは、各々従来の矩形状電極10を設けた振動子1(図D)で電極長さs及び電極幅tを変え場合の出力比である。
【図4】超音波モータ用振動子における摩擦接触部の等価負荷抵抗と最適電極面積の関係を示し、(a)は伸縮1次振動用電極の場合、(b)は屈曲2次振動用電極の場合である。
【図5】本発明に係る超音波モータ用振動子における歪みと電極面積との関係を示し、(a)は屈曲2次振動の場合の歪みεの値に対する電極面積、(b)は伸縮1次振動の場合の歪みの値に対する電極面積を示す。
【図6】圧電素子の一方の片面にグランド電極を形成した本発明の実施例の平面図であり、図6(a)は素子の一方の面に矩形状のグランド電極を設けた場合、図6(b)は屈曲振動用屈曲用電極の湾曲面に部分的に沿った外形のグランド電極を設けた場合である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態においては、圧電振動素子の屈曲固有振動モードと伸縮固有振動モードをそれぞれ独立して励振可能な電極構造とする。そして屈曲振動と伸縮振動を効率よく発生させるために、各固有振動モードにおける歪みが大きい領域に、外形の一部が前記歪みの等高線に沿った曲線形状を有する電極を歪みの等高線に略沿うように、好ましくは正確に沿うように配置する。
【実施例】
【0025】
次に、図面を参照しながら本発明の各種の実施例について説明する。
図1は本発明の実施例に係る超音波モータ用振動子の平面図であり、図2(a)は振動子の電圧印加時における屈曲2次固有振動モードの歪み分布を縞状模様で模型的に示した斜視図、図2(b)は伸縮1次固有振動モードにおける伸縮歪み分布を同様に模型的に示した斜視図である。図2(a)に示したように、屈曲2次振動においては、その振幅分布は矩形板状圧電素子1の全長が略1波長に相当する横振動(素子面内に振幅を有する振動)であり、振幅が最大になる箇所で歪みが最大となり、この箇所は振動自由端である長手方向左右の端部から略1/4の位置にある。この位置で矩形板状圧電素子1の長辺側部2から素子の幅方向中央側へ向って凸わん曲状に歪みが拡がっている。符号3,4は長手方向の歪みの値が等しい位置をつないだ歪み分布の等高線を表わしている。
【0026】
伸縮1次振動では、図2(b)に示すように、矩形板状圧電素子1の全長が1/2波長に相当する縦振動(素子の長手方向に振幅を有する振動)であり、屈曲振動とは逆に振動変位が最小となる箇所で歪みが最大となる。具体的には、矩形板状圧電素子1の中央付近で歪みが最大となり、この位置から自由端側へ向って略同心円状にわん曲して歪みが分布する。5,6は伸縮1次振動における等高線である。
【0027】
上述のことから、屈曲振動をもたらす電極7,8は歪みの最大となる箇所に、かつ矩形板状圧電素子1の片面でみれば横幅方向に対向して一対ずつ配置され、この面と対向する他方の面(図の裏面)にも同様の関係で一対ずつ配置される。すなわち、屈曲振動用電極7,8の配置形態は素子1の表裏各面2対ずつとなる。
【0028】
伸縮1次振動の場合は、電極9は矩形板状圧電素子1の長手方向中央位置の対向する表裏の両面に1箇所ずつ配置される。
【0029】
上述のように歪み分布の等高線は屈曲振動、伸縮振動とも湾曲線状となるため、電極7,8及び9として、その外形(の一部)がこの等高線の曲線に略沿った形状のものを配置する。
ここで、屈曲2次振動の電極7,8について振動子の損失に対する出力性能を本実施例の曲線状外形をもつ電極と従来の矩形板状電極10とを比較して説明する。図3は電極面積/振動子面積(横軸)を変えた場合の振動子の損失に対する出力比(図の縦軸)を示した図であり、この出力比が大きいほど振動子の損失が小さい。図3で符号aは、固有振動モードの歪みの等高線上に略沿って配置された電極の歪み基準で屈曲2次振動用電極7,8を形成した本発明の振動子1(図(C))に対する出力比であり、伸縮用電極は図示省略してある。eは従来の矩形板状電極10を設けた振動子1(図(D))(伸縮用電極は図示省略)で電極長さsを変えた場合の出力比であり、fは矩形板状電極10の電極幅tを変え場合の出力比である。この図からも分かるように、歪みが所定の値以上の領域(歪み等高線で囲まれた領域)に配置した本発明の電極形状の方が従来の矩形板状の電極10よりすべての電極面積/振動子面積で上回っており、本発明の歪みの大きさを基準として形成した電極形状が優れている。また、図3の結果から、出力比の極大を示す電極面積が存在することが分かる。
【0030】
この極大を示す電極面積は摩擦接触部(振動子先端)の等価負荷抵抗の値によって変化するが、屈曲2次振動では、最大でも振動子全面積の40%以下であり、伸縮1次振動では振動子全面積の45%以下、好ましくは40%以下である。図4に摩擦接触部の等価負荷抵抗[N/(m/s)]と最適電極面積/振動子面積(%)の関係を示す。(a)は伸縮1次振動用電極の場合、(b)は屈曲2次振動用電極の場合である。このように摩擦接触部の負荷抵抗によって最適な電極面積/振動子面積(%)は多少変化するが、実用を考慮すると、本発明の場合、振動子の電極面積は振動子の全面積の15%〜40%が妥当である。なお、図3のグラフは等価負荷抵抗が約300N/(m/s)のときの結果である。実用上の等価負荷抵抗はモータの構成によって多少変化することが想定されるが、伸縮1次振動で約50N/(m/s)、屈曲2次振動で約300N/(m/s)である。電極面積が15%未満の場合には、電気エネルギから機械エネルギに変換する電気機械変換効率が低下し、振動子の誘電損の比が大きくなってしまい、反対に電極面積が40%を超えると、振動子のQ値の低下などにより、振動による損失、機械損の比が大きくなってしまう。
【0031】
屈曲振動用電極及び伸縮振動用電極は歪みが所定の値以上となる領域に配置される。この場合の所定の値は、配置される電極の面積によって変わってくる。例えば、屈曲2次振動の場合は、歪みの最大値を1で正規化すると、電極面積が素子全面積の15%では前記所定の値は0.47以上となり、電極面積が40%では所定の値は0.23以上となる。したがって、電極面積を40%〜15%に設定した振動では歪みの値が0.23〜0.47以上となる領域に電極を配置する。
【0032】
伸縮1次振動の場合は、電極面積が15%では歪みの値が0.95以上となる領域に電極を配置し、電極面積が45%では歪みの値が0.75以上(いずれも歪みの最大値を1で正規化した時)の領域に電極を配置する。
【0033】
図5は歪みと電極面積との関係を示した図であり、(a)は屈曲2次振動の場合の歪みεの値に対する電極面積(%)を示し、(b)は伸縮1次振動の場合の歪みεの値に対する電極面積(%)を示す(歪みは最大値を1で正規化してある。)。
【0034】
図1に示す実施例の超音波モータ用振動子の電極配置構造を具体的に説明する。
屈曲2次振動用電極7,8は、その外側縁7a,8aが矩形板状圧電素子1の長辺側部 1aに平行に隣接し、内側縁7b,8bは前述した所定の値の歪みの等高線に沿う曲線形状に形成して、これを各面2対の形態(表面、裏面に対向して各々2対)で配置し、かつ圧電素子1の表面では図1の長辺側部1aの位置に外部電極(図示せず)との接続部7c,8cを形成する。圧電素子1の裏面の電極は前記表面側に対して接続する前記外部電極とは別の外部電極(図示せず)と接続する。各面で対となった電極7,8を逆位相で駆動することにより、屈曲2次振動が励振される。この例では屈曲2次振動用の電極面積は振動子全面積の34%となっており、したがって電極曲線部分を這わせる素子表面の歪みの等高線は略0.25以上の歪みの箇所を選定する(図5(a)参照)。
【0035】
伸縮1次振動用電極9では、この矩形板状圧電素子1は表面、裏面とも同じ中央位置に配置され、表面側ではその電極外側部9aを素子1の長辺側部1aに隣接させ、かつ素子1の他方の長辺側部1bで外部電極との接続部9cを形成する。素子1の裏面(図示せず)では電極外側部を素子1の長辺側部1aで別の外部電極との接続部を形成し、かつ素子1の前記他方の長辺側部1bに裏面側電極を隣接させる。
【0036】
伸縮1次振動用電極も基本的には所定の値以上の伸縮歪みの等高線に略沿うように配置されるが、屈曲2次振動用電極と位置的に干渉する場合は、干渉の無い部分で伸縮振動の歪みができるだけ高い領域を選定して配置する。図1の例では伸縮1次振動用電極9は屈曲2次振動用電極7,8との間で十分に絶縁性が確保されるように間隔dを空けて、屈曲振動用の電極7,8の曲線形状部分に沿う曲線状に形成して配置する。この例では伸縮振動用電極9の面積は振動子の全面積の約20%となっている。この場合、屈曲振動子用と伸縮振動用の電極間隔dは0.2〜0.5mmの隙間で絶縁性を確保している。
【0037】
図1の実施例では、屈曲振動用電極7,8と伸縮振動用電極9との間の干渉を避けるために屈曲振動用電極7,8の方を優先して歪みの等高線に沿うようにしたが、これを逆にして伸縮振動用電極9の方を優先して伸縮振動用電極9の長手方向両端を伸縮歪みの等高線に略沿うように配置し、屈曲振動用電極7,8を伸縮振動用電極9に対して十分な絶縁性を確保できる隙間をもって隣接させるようにしてもよい。
【0038】
上述の各実施例では矩形板状圧電素子の表面および裏面共に屈曲振動用電極と伸縮振動用電極を設けたが、他の例として図6に示すように、いずれか一方の面、例えば矩形板状圧電素子1の裏面には屈曲振動用および伸縮振動用の電極は設けず、代わりに表面の両電極に対して共通のグランド電極11を形成し、これを外部のアース電極(図示せず)に接続するようにしてもよい。この場合、グランド電極11は素子の反対側の面の屈曲振動用および伸縮振動用の電極位置をカバーし得る形状および大きさとする。図6(a)は素子の一方の面に矩形状のグランド電極を設けた場合であり、図6(b)は屈曲振動用屈曲用電極の湾曲面に部分的に沿った外形のグランド電極を設けた場合である。符号12はグランド電極11に設けた外部アース電極との接続部である。
【0039】
本発明の振動子用電極は屈曲振動用、伸縮振動用とも電極の一部が曲線状となっているために、従来の矩形状あるいは十字形状の電極と異なり角部での振動に伴なう応力集中が抑制され、繰返し応力による亀裂や破壊が防止される。特に、屈曲振動用電極と伸縮振動用電極の間には高い応力が発生するので、本発明による振動子のように両電極の間がなめらかな曲線状であると応力集中が発生し難く、耐久性や信頼性に優れた超音波モータ用振動子となる。電極を歪みの等高線に沿った曲線状としたために、歪み分布の大きい箇所に最適に配置することができ、振動子の損失を極小にできる等多くの利点がある。
【0040】
以上、屈曲2次振動用電極と伸縮1次振動用電極を独立して励振する形態の実施例について説明したが、振動子の電極形状が固有振動モードの歪みが大きい領域に歪みの等高線に沿った曲線を含む形状の電極が配置される矩形板状の圧電振動子であれば、他の振動モードのものであってもよい。もっとも、高次モードでは一般に振幅の絶対値が小さくなり、伸縮振動と屈曲振動とを独立して励振するのが困難になる上、電極配置も複雑となるので、伸縮1次振動と屈曲2次振動を組み合わせた振動子に適用することが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 矩形板状圧電素子
2 素子の長辺側部
3,4 屈曲振動歪みの等高線
5,6 伸縮振動歪みの等高線
7,8 屈曲2次振動用電極
9 伸縮1次振動用電極
11 グランド電極
12 グランド電極のアース接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形板状の圧電振動素子の固有振動モードの歪みが大きい領域に、外形形状に曲線部を含む電極を配置したことを特徴とする超音波モータ用振動子。
【請求項2】
屈曲振動と伸縮振動をそれぞれ独立して励振するため、屈曲振動を励振する電極と伸縮振動を励振する電極を別々に設けた請求項1に記載の超音波モータ用振動子。
【請求項3】
前記屈曲振動を屈曲2次振動、前記伸縮振動を伸縮1次振動とした請求項2に記載の超音波モータ用振動子。
【請求項4】
前記屈曲振動を励振する電極が、屈曲固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域に前記電極の外形曲線部が前記歪みの等高線上に略沿って配置されている請求項2または3に記載の超音波モータ用振動子。
【請求項5】
前記屈曲振動を励振する電極の面積が、前記圧電振動素子の全面積の15%以上、40%以下である請求項2〜4のいずれかに記載の超音波モータ用振動子。
【請求項6】
前記伸縮振動を励振する電極が、伸縮固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域に前記電極の外形曲線部が歪みの等高線上に略沿って配置されている請求項2に記載の超音波モータ用振動子。
【請求項7】
前記伸縮振動を励振する電極の面積が、前記圧電振動素子の全面積の15%以上、45%以下である請求項2、3または6に記載の超音波モータ用振動子。
【請求項8】
前記屈曲振動用電極と前記伸縮振動用電極が干渉する場合には、その干渉する箇所で前記屈曲振動用電極または前記伸縮振動用電極のいずれか一方の電極が、その外形曲線部が歪みの等高線上に略沿うように配置され、他方の電極が前記一方の電極の外形部分との間に隙間を形成して配置され、両電極間が絶縁されている請求項4〜7のいずれかに記載の超音波モータ用振動子。
【請求項9】
前記屈曲固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域が、屈曲振動用の電極面積が振動子の全面積に対して40%のときに、前記歪みの値が歪みの最大値を1で正規化して0.23以上の領域であり、屈曲振動用の電極面積が前記振動子の全面積に対して15%のときに、0.47以上の領域である請求項4または5に記載の超音波モータ用振動子。
【請求項10】
前記伸縮固有振動モードの歪みが所定の値以上となる領域が、伸縮振動用の電極面積が振動子の全面積に対して45%のときに、前記歪みの値が歪みの最大値を1で正規化して0.75以上の領域であり、前記伸縮振動用の電極面積が前記振動子の全面積に対して15%のときに、0.95以上の領域である請求項6または7に記載の超音波モータ用振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−155760(P2011−155760A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15216(P2010−15216)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)