説明

超音波加工装置および超音波加工方法

【課題】 被加工物と工具機構部を相対的に移動させて広い範囲での表面加工を高速で実現できる超音波加工装置の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明にかかる超音波加工装置は、被加工物を載置させる載置台と、該載置台上に載置された被加工物の表面を加工する櫛歯状の先端部を有した工具機構部と、発生させた超音波振動を前記工具機構部に伝達する超音波振動発生部と、前記被加工物及び前記工具機構部の少なくとも一方を前記被加工物の搬送方向に対して交差する方向に移動させる位置変動部とを有し、被加工物の搬送に伴って搬送方向に対して交差する方向にも超音波加工を施すことができ、正弦波パターンや鋸歯状パターンを透明樹脂板表面に効率良く形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発生させた超音波振動を工具機構部に伝達させて所要の加工を行う超音波加工装置と超音波加工方法に関し、特に被加工物と工具機構部を相対的に移動させて広い範囲での表面加工が可能な超音波加工装置と超音波加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品などの精密な部品製造における多数の加工工程の1つとして、被加工物を形成する素材に対し非直線的な加工を行う工程を必要とする場合がある。こうした微細加工においては、形状賦与性が高く、加工精度の高い超音波加工方法が多く用いられている。超音波加工法は、超音波振動工具をスラリー状の砥粒を介して加工物に押し付け、工具断面に対応する形状を加工物に写すものであり、シリコンウエハやセラミックス等のように一定の硬度を有する素材の精密加工にも採用される。
【0003】
超音波加工装置は、通常、超音波発振器・振動子等からなる超音波発生部と、振動工具を加工物に案内し所定の圧力を加える加圧部から成っている。加工に際しては、加工物に対して最適な加工速度となる発振器の駆動振動数を選ぶとともに、最適な振動振幅となる加圧力を調整する。
【0004】
このような超音波加工装置の一例として、加工テーブルの開口部に工具ホーンを配置し、この工具ホーンに超音波振動子からの振動を加えると共に、加工テーブルにX−Y移動機構を設けるようにした装置も知られており(例えば、特許文献1参照。)、或いは昇降テーブル(送りテーブル)には、移動テーブル上に固定された基部フレームと、基部フレームにリニアガイドを介して昇降自在に設けられた昇降フレームとを設けた超音波穿孔装置なども知られており、送りテーブルはリニアガイドと低摺動型シリンダとを備え、該低摺動型シリンダの駆動によって、該リニアガイドに沿って、当該送りテーブルを工具に対して送り移動して、被加工物を削ることが可能な装置となっている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平10-024491号公報
【特許文献2】特開2004-001133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、加工製品を大量に製造するためには、連続作業によって被加工物を処理していくことが望ましい。しかしながら、上述の各装置では、所要の2軸ないしは3軸の制御によって、所定に位置に工具を当てて局所的に樹脂などを溶融させることは可能であるが、比較的に広い面積に亘って加工を施す場合に時間がかかり、この加工時間の必要性から製品の製造コストの増加が問題とされている。特に、被加工物が液晶パネルに使用される導光板である場合には、液晶表示部のパネル側への反射効率を高くすることが求められており、大画面化への対応として広い面積への加工が必要であると共に、反射効率を高めるための精密な加工も条件とされる。
【0007】
そこで、本発明は上述の技術的な課題に鑑み、発生させた超音波振動を工具機構部に伝達させて所要の加工を行う超音波加工装置において、被加工物と工具機構部を相対的に移動させて広い範囲での表面加工を高速で実現できる超音波加工装置の提供を目的とする。
【0008】
また、本発明は、このような装置を用いる超音波加工方法において、被加工物と工具機構部を相対的に移動させて広い範囲での表面加工を高速で実現する超音波加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の技術的な課題を解決するため、本発明の超音波加工装置は、被加工物を載置させる載置台と、該載置台上に載置された被加工物の表面を加工する櫛歯状の先端部を有した工具機構部と、発生させた超音波振動を前記工具機構部に伝達する超音波振動発生部と、前記被加工物及び前記工具機構部の少なくとも一方を前記被加工物の搬送方向に対して交差する方向に移動させる位置変動部とを有することを特徴とする。
【0010】
本明細書において、櫛歯状の先端部とは、比較的に広い意味で定義付けられるものであり、特に2本以上の歯の部分が被加工物に対峙する構造のものであれば良く、限定されるものではないが好適な実施形態の一例によれば櫛歯状の先端部が工具機構部の先端に一対平行するように設けられているものであっても良い。
【0011】
本発明の超音波加工装置においては、前記被加工物及び前記工具機構部の少なくとも一方を前記被加工物の搬送方向に対して交差する方向に移動させる位置変動部を有していることから、被加工物を搬送しながらその搬送方向に交差する方向に加工を進めることができる。ここで、被加工物の搬送とは、工具機構部側の機構が移動して相対的に載置台に固定された被加工物の加工位置が移動する場合も含まれるものとする。また超音波加工は、超音波による切削、研削、溶着、穿孔、刻印、加熱処理などの各種加工を含むものとする。本発明にかかる超音波加工装置においては、工具機構側の機構と載置台側の機構のどちらか一方又は双方が移動する形式であれば良く、例えば、載置台若しくは工具機構部に位置変動部が取り付けられる構造とすることが可能である。
【0012】
このような超音波加工装置を用いて超音波加工を行う場合、連続的なパターンを被加工物の表面に形成することがあり、この場合には位置変動部を作動させながら、被加工物上の櫛歯状の先端部の軌跡は、一例として、波状にすることができる。本発明の超音波加工装置は、特に、被加工物は透明樹脂板とすることができ、好適な超音波加工の施された導光板を製造することができる。
【0013】
また、本発明の超音波加工方法は、載置台上に被加工物を載置し、櫛歯状の先端部を有した工具機構部を該被加工物の表面に対峙させる工程と、前記被加工物若しくは前記工具機構部を移動させながら発生させた超音波振動を前記工具機構部に伝達させて該被加工物の表面を加工する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の導光板の製造方法は、載置台上に透明樹脂板を載置し、櫛歯状の先端部を有した工具機構部を該透明樹脂板の表面に対峙させる工程と、前記透明樹脂板若しくは前記工具機構部を移動させながら発生させた超音波振動を前記工具機構部に伝達させて該透明樹脂板の表面を加工する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超音波加工装置によれば、比較的に広い面積を有する板材などを超音波加工する際に、被加工物を搬送しながらその搬送方向に交差する方向に加工を進めることができることから、極めて高速に且つ連続的な処理を図ることができ、加工精度を保ちながら製造コストを低く抑えることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態にかかる超音波加工装置および超音波加工方法について説明する。
【0017】
図1は本実施形態の超音波加工装置の要部構成図であり、テーブル18上に所要の厚みの透明アクリル板20が固定されており、この透明アクリル板20の表面に工具機構部の先端をなす櫛歯状先端部11a、11bが当接する形で溝の形成が行われている。
【0018】
本実施形態の超音波加工装置は、その主たる構成要素として、被加工物としての透明アクリル板20を載置させる載置台18と、該載置台18上に載置された透明アクリル板20表面を加工する櫛歯状先端部11a、11bが設けられホーン12とコーン13とからなり伝達される超音波振動を増大させる工具機構部と、発振器15からの電気信号を利用して発生させた超音波振動をホーン12とコーン13に伝達するための超音波振動発生部14と、透明アクリル板20を搬送すると共に透明アクリル板20の搬送方向に対して交差する方向にも透明アクリル板20を移動させる位置変動部17とを有している。
【0019】
まず、本実施形態の超音波加工装置に用いられる発振器15は、通常電圧を変換して得られた16〜25kHzの高周波電気エネルギーを振動子に供給するための装置である。この発振器15から出力された高周波信号は、工具機構部の最上部に位置する磁歪変換素子14に供給され、超音波振動を発生させる。磁歪式の振動子に代えてピエゾ素子などの電歪式の振動子を用いることも可能である。
【0020】
この振動子14で発生した超音波振動はコーン13に伝達され、このコーン13で機械的振動の振幅が増大され、さらにホーン12でコーン13からの機械的な振幅がさらに拡大されると共に整合されて先端工具に伝達される。これらホーン12やコーン13は、例えばチタン合金やアルミニウム合金によって形成される。これらの合金は超音波振動の伝達に音響学的性質からも強度的性質からも好適なために広く用いられている。
【0021】
工具機構部の先端には一対の櫛歯状先端部11a、11bが設けられている。これら櫛歯状先端部11a、11bとしては、一例としてWC-Co系合金、WC-TiC-Co系合金、 WC-TaC-Co系合金、WC-TiC-TaC-Co系合金などの超硬合金を用いることが可能であり、特に先端部だけを耐摩耗性に優れた超硬合金とすることができる。櫛歯状先端部11a、11bは、ホーン12の先端側に並行に取り付けられており、櫛歯状の各歯が略垂直に透明アクリル板20に対峙するように配設されている。櫛歯状先端部11a、11bの各歯の数は、特に限定されるものではないが、図2に示すように、例えば6本ずつの歯が出るような構造のものとすることができ、2本以上の数のうちから適宜設定される。また、本実施形態においては、一対の櫛歯状先端部11a、11bが透明アクリル板20の搬送方向で離間するように設けられており、後述するように、アクリル板20の面内方向でその搬送方向から垂直な方向に揺動させることで概ね正弦波の如き複数本のパターンが透明アクリル板20の表面上に描かれることになり、例えば透明アクリル板20の全面にパターンを形成する場合に好適である。
【0022】
本実施形態において、被加工物である透明アクリル板20は載置台18上に、図示しない吸着孔と吸着パッドを用いて真空で吸着されるようになっており、このような吸着孔と吸着パッドの組は載置台18に複数個設けることができる。
【0023】
本実施形態の超音波加工装置では、工具機構部側の構成がx、y、z軸の3軸移動可能なように構成されており、さらに載置台18の裏面に取り付けられた位置変動部17により載置台18自体がy軸方向に揺動可能な構成とされている。このため図2に示すように、工具機構部側の構成を−x方向に移動させることで、載置台18上に固定されている透明アクリル板20は工具機構部側から見て相対的にx方向に移動する。この透明アクリル板20の相対的な移動と同期するように載置台18の裏面の位置変動部17もy方向に振動し、その結果、図2に示すように、透明アクリル板20には複数の櫛歯状先端部11a、11bによってそれぞれ正弦波が描かれ、透明アクリル板20の表面には、それらの複数の正弦波が重なり合うようなパターンの表面模様22が形成される。このような連続的な正弦波の重なり合ったパターンは、当該透明アクリル板20を導光板として使用する場合に光の均一な散乱効果が容易に得られるものとなり、超音波の連続加工により、比較的に速度も速く加工できるものとされる。一対の櫛歯状先端部11a、11bが離間している距離が当該櫛歯状先端部11a、11bが描く正弦波の半波長とした場合には、ちょうど一対の櫛歯状先端部11a、11bが描く正弦波の交点がx軸上に直線的に並ぶことになり、位置変動部17のy方向への振動により板面を十分に覆うようなパターンの形成も可能であり、さらにy方向への振幅を大きくすることで、y方向で櫛歯状先端部11a、11bが描く正弦波が重なるようなパターンも得ることができる。
【0024】
この正弦波のパターンは、詳しくは櫛歯状先端部11a、11bが透明アクリル板20の表面に当接して超音波振動によって高温化して溶融して形成されたものである。櫛歯状先端部11a、11bの形状を変えることで、正弦波のパターンの線の太さなどを制御することも可能であり、工具機構部側をz軸方向に上下させて破線のようなパターンにすることも可能である。また、載置台20の裏面の位置変動部17を定速度で振動するように動作させれば、正弦波ではなく鋸歯状波の如きパターンの模様も形成することができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、工具機構部側の構成がx、y、z軸の3軸移動可能とされ、被加工物の搬送方向に交差する方向への位置変動をもたらす位置変動部17が載置台20に設けられる構成とされているが、載置台側をx、y、z軸の3軸移動可能とし、位置変動部が工具機構部側に設けられる構成であっても良い。また、位置変動部自体がx、y、z軸の1つの軸についての移動機構を兼用となる構成であっても良く、工具機構部側と載置台側でx、y、z軸の3軸を適宜分け合うような構造とすることも可能である。位置変動部の制御は、数値制御などの手法により精密に制御することが望ましく、効率良く透明アクリル板20の全面に形成するために複数の工具機構部や複数の振動子などを並列に搭載した機構によってパターンを形成することも可能である。また、本実施形態では、櫛歯状先端部11a、11bは一対設けられているが、3つ或いはそれ以上の櫛歯状先端部が並列して設けられる構造や、櫛歯状先端部が千鳥状に並べられる構造などであっても良い。更に、本実施形態では、櫛歯状先端部11a、11bの各歯は同じ大きさや同じ間隔に並べられて形成されているが、櫛歯状先端部の各歯を異なるように形成したり、位置に応じて櫛歯状先端部の各歯の間隔が異なるようなものを用いても良い。
【0026】
図3は本実施形態の超音波加工装置を用いて形成された導光板31を示す斜視図である。この導光板31には、その表面側に上述の如き超音波加工装置を用いて一対の櫛歯状先端部11a、11bが描く正弦波パターン32が形成され、裏面側には当該導光板31の側面より入射した光を表面側に導出させる四角錐状の凹部33がマトリクス状に並んで形成されている。このような導光板31を用いることで、側面から入射した光が裏面側に配列された凹部33で効率良く正面側に反射させることができ、表面側に形成された正弦波パターン32が各凹部33からの光を全面的に且つ均一に散光させるプリズムシートの如き機能を発揮し得る。このため導光板31は、液晶表示装置や看板、標識、および照明器具などの薄型発光部品などに使用して極めて有用である。
【0027】
図4は他の先端部の例を示す斜視図である。本発明の超音波加工装置は櫛歯状の先端部を有しているが、櫛歯状に形成される先端部は図4のように尖塔部が配列されるものであっても良い。すなわち、図4に示すように、省略して示すホーン41の円形の底部42には、全部で8つの4角錐状の尖塔部43が4個ずつ2列で形成されており、超音波加工を施す場合にはホーン41から各尖塔部43の先に振動が伝達されて所要の加工が行われる。このような個々の尖塔部43が独立したような形状であっても、櫛歯状に形成される先端部が構成され、その結果、正弦波パターンや鋸歯状パターンが透明樹脂板表面に効率良く形成されることになり、液晶表示装置や看板、標識、および照明器具などの薄型発光部品などに使用して極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態にかかる超音波加工装置を示す要部側面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる超音波加工装置の加工状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる超音波加工装置により製造される導光板の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の他の実施形態にかかる超音波加工装置の先端部を示す模式的な斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
11a、11b 櫛歯状先端部
12 ホーン
13 コーン
14 振動子
15 発振器
17 位置変動部
18 載置台
20 透明アクリル板
31 導光板
32 パターン
33 凹部
41 ホーン
43 尖塔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を載置させる載置台と、該載置台上に載置された被加工物の表面を加工する櫛歯状の先端部を有した工具機構部と、発生させた超音波振動を前記工具機構部に伝達する超音波振動発生部と、前記被加工物及び前記工具機構部の少なくとも一方を前記被加工物の搬送方向に対して交差する方向に移動させる位置変動部とを有することを特徴とする超音波加工装置。
【請求項2】
前記櫛歯状の先端部は、前記工具機構部の先端に一対平行するように設けられていることを特徴とする請求項1記載の超音波加工装置。
【請求項3】
前記被加工物上の前記櫛歯状の先端部の軌跡は波状となることを特徴とする請求項1記載の超音波加工装置。
【請求項4】
前記被加工物は透明樹脂板であることを特徴とする請求項1記載の超音波加工装置。
【請求項5】
前記被加工物は導光板であることを特徴とする請求項1記載の超音波加工装置。
【請求項6】
載置台上に被加工物を載置し、櫛歯状の先端部を有した工具機構部を該被加工物の表面に対峙させる工程と、
前記被加工物若しくは前記工具機構部を移動させながら発生させた超音波振動を前記工具機構部に伝達させて該被加工物の表面を加工する工程と
を有することを特徴とする超音波加工方法。
【請求項7】
前記櫛歯状の先端部は前記工具機構部の先端に一対平行するように設けられることを特徴とする請求項6記載の超音波加工方法。
【請求項8】
載置台上に透明樹脂板を載置し、櫛歯状の先端部を有した工具機構部を該透明樹脂板の表面に対峙させる工程と、
前記透明樹脂板若しくは前記工具機構部を移動させながら発生させた超音波振動を前記工具機構部に伝達させて該透明樹脂板の表面を加工する工程と
を有することを特徴とする導光板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−38318(P2007−38318A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222801(P2005−222801)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000127857)株式会社エス・ケー・ジー (105)
【出願人】(591039791)
【出願人】(503000808)
【Fターム(参考)】