説明

超音波探触子

【目的】 音響性能を向上させた超音波探触子を提供する。
【構成】 圧電素子2の前面と一側端面と背面の一部を覆うように第1の電極3を形成する。圧電素子2の背面に第2の電極4を形成する。超音波振動子1の第1の電極3側と音響整合層6とを導電性を有する接着剤層11により固着する。導電性接着剤層11の音響インピーダンスを音響整合層6の音響インピーダンスに近づけ音響的ミスマッチングを最低限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば、医療用超音波診断装置に用いられる超音波探触子に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の超音波探触子としては、例えば、特願平3−186139号に記載されている構成が知られている。以下、上記従来例の超音波探触子について図面を参照しながら説明する。
【0003】図4(a)、(b)は従来の超音波探触子を示し、図4(a)は超音波振動子の超音波送受波面に音響整合層を設けた状態の断面図、図4(b)は上記超音波振動子に背面負荷材を設けるとともに、導体を接続した状態の断面図である。
【0004】図4(a)に示すように、超音波振動子1は電気信号を機械的振動に変換して超音波を放射し、超音波を受信して電気信号に変換する圧電素子2と、電気信号の送受信を行うための第1および第2の電極3および4とから構成されている。第1の電極3は圧電素子2の前面、すなわち、超音波送受波面と、一側端面および背面の一部を覆うように設けられている。第2の電極4は圧電素子2の背面に第1の電極3と電気的ギャップを有する状態で設けられている。超音波振動子1の前面には接着剤層5を介して音響整合層6が固着されている。
【0005】図4(b)に示すように、超音波振動子1の背面側の両端部で第1および第2の電極3および4に導体7および8の各一端がはんだ、若しくは導電性接着剤等の導電体層9を介して電気的導通が得られるように接続され、外部装置との間で電気信号を送受信することができるようになっている。超音波振動子1の背面には背面負荷材10が形成されている。この背面負荷材10はあらかじめ整形加工されて超音波振動子1の背面に接着され、若しくは未硬化状態の熱硬化性樹脂が流し込みにより硬化されるなどの方法により形成される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来例の超音波探触子では、超音波振動子1と音響整合層6とを固着する接着剤としては、一般的なビスフェノールA型エポキシ樹脂が用いられ、超音波振動子1と音響整合層6との間には、この樹脂からなる接着剤層5が介在する形となる。
【0007】一般的に圧電素子2に用いられる材料は無機材料が多く、その音響インピーダンスは非常に高い。例えば、圧電セラミックスの一種であるチタン酸ジルコン酸鉛の音響インピーダンスは、約34×106[kg/m2s]である。一方、生体の音響インピーダンスは、約1.5×106[kg/m2s]と低い。そこで、音響整合層6は上記圧電素子2と生体の音響インピーダンスのギャップを埋めて超音波振動子1で発生した超音波を効率よく生体へ伝達させる役目を果たしている。一般的に音響整合層6の音響インピーダンスは、一層の場合で7×106[kg/m2s]前後、2層の場合の一層目で12×106[kg/m2s]前後である。また、接着剤層5であるビスフェノールA型エポキシ樹脂の音響インピーダンスは、3×106[kg/m2s]弱である。超音波振動子1と音響整合層6の間に3×106[kg/m2s]弱の音響インピーダンスを有する材料が介在すると、超音波の伝達効率を劣化させ、超音波探触子の感度低下および分解能の低下を引き起こすことになる。この悪影響は、高周波化および介在する接着剤層6の厚さに比例して重要な問題となってくる。このように、接着剤層6の厚さは超音波探触子の性能、歩留りと密接な関連があるため、その厚さのコントロールには最大の注意を払う必要があった。
【0008】また、従来の超音波探触子において、圧電素子2に形成される第1の電極3は、圧電素子2の前面からその一側端面および背面の一部を覆うように形成する必要があった。圧電素子2に電極を形成するには、一端的に焼付銀と呼ばれ、高分子バインダにガラスフリットおよび銀粉末を分散させたペーストをスクリーンにより印刷し、仮乾燥させ、再度、他面に印刷して仮乾燥させ、すべての電極を印刷した後、高温焼成する。この際、上記のように第1の電極3における圧電素子2の側端面に位置する部分を形成するには、圧電素子2の厚さが通常、数百μmから百数十μmと薄く、スクリーン印刷では不可能であるため、はけ等を用いて手作業で塗布している。しかしながら、圧電素子2の側端面にペーストをはけ等で塗布する作業は熟練を要し、非常に高度、かつ困難な作業である。更に、第1と第2の電極3と4を形成するには、圧電素子2の前面、背面および側端面の3面に対し、塗布、仮乾燥を必要とするとため、超音波探触子の生産工数を増し、製品コストを引き上げる要因となっていた。
【0009】本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、性能を向上させることができるようにした超音波探触子を提供し、また、上記目的に加え、容易に生産することができ、しかも、コストを低下させることができるようにした超音波探触子を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明の技術的手段は、超音波振動子と音響整合層とが導電性を有する接着剤により固着されたものである。
【0011】本発明の他の技術的手段は、上記第1の技術的手段における超音波振動子が圧電素子の前面と背面に第1と第2の電極を有し、超音波振動子と音響整合層とを固着する導電性を有する接着剤層が上記圧電素子の一側端面を覆うように形成され、この被覆部が導体接続に利用されるように構成されたものである。
【0012】本発明の更に他の技術的手段は、上記第1の技術的手段における超音波振動子が圧電素子の前面に第1の電極を有し、圧電素子の背面の端部の一部を除く部分と除かれた端部に第2と第3の電極を電気的絶縁状態で有し、超音波振動子と音響整合層とを固着する導電性を有する接着剤層が上記圧電素子の一側端面を覆うように形成され、この導電性接着剤層により上記第1の電極と第3の電極とが電気的に接続されたものである。
【0013】
【作用】したがって、本発明によれば、超音波振動子と音響整合層とを導電性接着剤により固着し、この導電性接着剤層の音響インピーダンスを音響整合層のそれに近づくように設定することができるので、音響的ミスマッチングを最低限に抑えることができる。
【0014】また、超音波振動子の第1の電極が圧電素子の一側端面を覆う必要をなくし、導電性接着剤により覆うようにすることにより、電極形成工数を削減することができる。
【0015】
【実施例】
(実施例1)以下、本発明の第1の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0016】図1(a)、(b)は本発明の第1の実施例における超音波探触子を示し、図1(a)は超音波振動子の超音波送受波面に音響整合層を設けた状態の断面図、図1(b)は上記超音波振動子に背面負荷材を設けるとともに、導体を接続した状態の断面図である。
【0017】図1(a)に示すように、超音波振動子1は電気信号を機械的振動に変換して超音波を放射し、超音波を受信して電気信号に変換する圧電素子2と、電気信号の送受信を行うための第1および第2の電極3および4とから構成されている。圧電素子2は一般的にはチタン酸バリウムやチタン酸鉛等を初めとする圧電セラミックスの焼結体を研磨加工したものが多く用いられる。第1の電極3は圧電素子2の前面、すなわち、超音波送受波面と、一側端面および背面の一部を覆うように形成されている。第2の電極4は圧電素子2の背面に第1の電極2と電気的ギャップを有する電気的絶縁状態で形成されている。これらの電極3、4を形成するには、銀焼付けが多く用いられる。これは金属銀(Ag)の粉末に硼珪酸鉛ガラスフリットを少量混合したものを有機溶剤でペースト状に溶き、それをスクリーンによって圧電素子2の表面に十数μmの厚さに塗布し、高温焼成する方法である。この際、第1の電極3における圧電素子2の側端面に位置する部分は、手作業によるはけ塗り等によって形成される。超音波振動子1の前面には所望の音響特性を有し、適当な厚さと幅に加工された音響整合層6が導電性を有する接着剤11により接着されている。この導電性を有する接着剤11としては、広く一般に用いられている銀や銅等の導電性粉末を熱硬化性樹脂に分散させたものであり、例えば、一液性の導電性接着剤(グレースジャパン株式会社製、商品名:アミコンC−805−1)または2液性導電性接着剤(グレースジャパン株式会社製、商品名:エコボンド56Cとキャタリスト#9)等を用い、超音波振動子1と音響整合層6のいずれか一方の面)または両面にスクリーン、若しくはへら等により塗布し、接着面を合わせる。そして、アミコンC−805−1であれば、150℃で1時間程度、エコボンド56Cであれば、70℃で1時間程度加熱し、硬化させることにより、超音波振動子1と音響整合層4を固着させることができ、かつこれらの間に導電性接着剤層11が形成される。
【0018】図1(b)に示すように、超音波振動子1の背面側の両端部で第1および第2の電極3および4に導体7および8の各一端がはんだ、若しくは導電性接着剤等の導電体層9を介して電気的導通が得られるように接続され、外部装置との間で電気信号を送受信することができるようになっている。超音波振動子1の背面には背面負荷材10が上記従来例と同様に形成され、超音波探触子が構成されている。
【0019】上記第1の実施例の超音波探触子において、圧電素子2の音響インピーダンスは、一般的な圧電セラミックスで34×106[kg/m2s]であり、音響整合層6の音響インピーダンスは、一層の場合で4×106[kg/m2s]前後、2層の場合の一層目が9×106[kg/m2s]前後とするのが一般的である。また、導電性接着剤層11の音響インピーダンスは、6×106[kg/m2s]であり、超音波振動子1と音響整合層6との間に介在する導電性接着剤層11の音響インピーダンスは、より音響整合層6に近い値となる。
【0020】このように、上記第1の実施例によれば、超音波振動子1と音響整合層6の間に介在する導電性接着剤層11の音響インピーダンスがより音響整合層6に近い値となるので、同じ接着剤層11の厚さであれば、接着剤層11の介在による音響性能の劣化に与える影響を約半分に抑えることができ、また、音響性能を同じと考えた場合には、接着剤層11の絶対的厚みおよびバラツキは、従来の約2倍まで許容することができる。この結果、高性能な超音波探触子を容易に生産することが可能となる。
【0021】(実施例2)以下、本発明の第2の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0022】図2(a)、(b)は本発明の第2の実施例における超音波探触子を示し、図2(a)は超音波振動子の断面図、図2(a)は超音波振動子に音響整合層を設けた状態の断面図である。
【0023】本実施例においては、図2(a)に示すように、第1の電極12は圧電素子2の前面にのみ上記第1の実施例と同様の方法により形成され、第2の電極13は圧電素子2の背面に端部の一部を残して形成されている。本実施例においても、図2(b)に示すように、上記第1の実施例と同様、超音波振動子1と音響整合層6が導電性を有する接着剤14により固着されるが、本実施例においては、超音波振動子1と音響整合層6との間に介在する接着剤層14の一部が超音波振動子1における圧電素子2の一側端面をも覆うように形成されている。
【0024】そして、図示していないが、導電性を有する接着剤層14における圧電素子2の側端面に形成された被覆部分の側端面、若しくは背面と第2の電極13の端部のそれぞれに導体が電気的導通をなすべく接続され、超音波振動子1の背面に背面負荷材が形成されて超音波探触子が構成される。
【0025】このように、上記第2の実施例によれば、上記第1の実施例と同様に、導電性接着剤層14による音響性能の劣化を低減することができるという利点に加え、第1の電極12を圧電素子2の一側端面まで覆うように形成する必要がないので、スクリーンによる塗布のみで形成することができ、超音波振動子1の電極形成に必要な工数を1/3以上削減することが可能となるという利点を有する。この結果、高性能な超音波探触子を容易に、かつ低コストで生産、供給することが可能となる。
【0026】(実施例3)以下、本発明の第3の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0027】図3(a)、(b)は本発明第3の実施例における超音波探触子を示し、図3(a)は超音波振動子の断面図、図3(b)は超音波振動子に音響整合層を設けた状態の断面図である。
【0028】本実施例においては、図3(a)に示すように、圧電素子2の前面に第1の電極15が設けられ、圧電素子2の背面にはその端部を残して第2の電極16が設けられるとともに、残された端部側に第2の電極16と電気的ギャップをおいて電気絶縁状態で帯状に第3の電極17が形成されている。本実施例においても、図3(b)に示すように、超音波振動子1と音響整合層6が導電性を有する接着剤18により固着され、この接着剤層18の一部が圧電素子2の一側端面を覆うように形成されている。その他の構成については上記第1の実施例と同様であるので、その説明を省略する。
【0029】このように、上記第3の実施例によれば、上記第1の実施例と同様に、導電性接着剤層18による音響性能の劣化を低減することができる。また、上記第2の実施例と同様に、第1の電極15を圧電素子2の一側端面まで覆うように形成する必要がないので、スクリーンによる塗布のみで形成することができ、製造工数を削減することができる。更に、圧電素子2の一側端面に形成された導電性接着剤層18により第1の電極15と第3の電極17との電気的導通を図り、両電極16、17に焼付銀を用いることができるので、これらの電極16、17に導体を電気的に接続する際、導電性接着剤を介してでは不可能であったはんだ付けによる接続も可能となる利点を有する。
【0030】なお、上記第3の実施例において、図3(c)に示すように、圧電素子2の一側端部の片面、若しくは両面に面取り加工19を施しておけば、電極15、16と導電性接着剤18の電気的接続における信頼性を向上させることができる。このような構成は上記第2の実施例においても採用することができる。また、上記各実施例においては、音響整合層6は一層しか図示していないが、二層、三層の音響整合層の場合においても、その一層目と超音波振動子1の固着に際しては同様の効果を有する。
【0031】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、超音波振動子と音響整合層とを導電性接着剤により形成し、この導電性接着剤層の音響インピーダンスが一般の接着剤より高い値を示し、音響整合層の音響インピーダンスに近づくように設定することができるので、音響的ミスマッチングを最低限に低減させることができ、したがって、音響性能を向上させることができる。
【0032】また、超音波振動子の第1の電極が圧電素子の一側端面を覆う必要をなくし、導電性接着剤により覆うようにすることにより、電極の印刷、乾燥工程を2度に減らすことができ、高度な技能が要求される圧電素子側端面への電極塗布工程をなくすことが可能となり、電極形成時に必要とされる工数を1/3以上削減することができる。したがって、高性能な超音波探触子を容易に生産することが可能で、安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の第1の実施例における超音波探触子を示し、超音波振動子の超音波送受波面に音響整合層を設けた状態の断面図
(b)は同超音波探触子を示し、超音波振動子に背面負荷材を設けるとともに、導体を接続した状態の断面図
【図2】(a)は本発明の第2の実施例における超音波探触子を示し、超音波振動子の断面図
(b)は同超音波探触子を示し、超音波振動子に音響整合層を設けた状態の断面図
【図3】(a)は本発明の第3の実施例における超音波探触子を示し、超音波振動子の断面図
(b)は同超音波探触子を示し、超音波振動子に音響整合層を設けた状態の断面図
(c)は同超音波探触子に用いる超音波振動子の変形例を示す断面図
【図4】(a)は従来の超音波探触子を示し、超音波振動子の超音波送受波面に音響整合層を設けた状態の断面図
(b)は同超音波探触子を示し、超音波振動子に背面負荷材を設けるとともに、導体を接続した状態の断面図
【符号の説明】
1 超音波振動子
2 圧電素子
3 第1の電極
4 第2の電極
6 音響整合層
7 導体
8 導体
9 導電体層
10 背面負荷材
11 導電性接着剤層
12 第1の電極
13 第2の電極
14 導電性接着剤層
15 第1の電極
16 第2の電極
17 第3の電極
18 導電性接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 超音波振動子と音響整合層とが導電性を有する接着剤により固着された超音波探触子。
【請求項2】 超音波振動子が圧電素子の前面と背面に第1と第2の電極を有し、超音波振動子と音響整合層とを固着する導電性を有する接着剤層が上記圧電素子の一側端面を覆うように形成され、この被覆部が導体接続に利用される請求項1記載の超音波探触子。
【請求項3】 超音波振動子が圧電素子の前面に第1の電極を有し、圧電素子の背面の端部の一部を除く部分と除かれた端部に第2と第3の電極を電気的絶縁状態で有し、超音波振動子と音響整合層とを固着する導電性を有する接着剤層が上記圧電素子の一側端面を覆うように形成され、この導電性接着剤層により上記第1の電極と第3の電極とが電気的に接続された請求項1記載の超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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