説明

超音波探触子

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、超音波診断装置などに用いる超音波探触子に関し、特に、放熱特性を改善したものである。
【0002】
【従来の技術】超音波探触子は、生体を対象とする超音波診断装置などに用いられている。超音波探触子の圧電素子は、電圧を印加すると、電気エネルギーを機械的振動エネルギーに変換するが、この変換に際して熱を発生する。生体に接触する超音波探触子は、生体の安全性を確保するために、探触子の表面の温度を41℃以下にしなければならないという規格が設けられている。超音波探触子の表面温度は、印加される電圧と比例関係にあり、そのため超音波診断装置本体から超音波探触子に送信する電圧を、超音波探触子が41℃を超えないように調整している。
【0003】一方、超音波が届く深さも、圧電素子への送信電圧に比例関係があり、送信電圧を低く抑えることは、診断深さが浅くなるという短所に繋がる。従って、超音波診断装置の診断領域、特に深さ方向を拡大するためには、送信電圧を高める必要がある。
【0004】このようなことから、送信電圧を抑えなくても済むように、超音波探触子の放熱を促進するための構成が色々と考えられている。
【0005】例えば、特開平5−244690号公報に記載された超音波探触子は、図4に示すように、超音波を送受信する、複数個配列された圧電素子11と、被検体(生体)に超音波を効率よく送受信するために圧電素子11の面上に設けられた音響整合層14と、圧電素子11の音響整合層14とは反対側の面に設けられ、圧電素子11から出力される不要な超音波を減衰させ、且つ圧電素子11を機械的に保持する機能を有する背面負荷材15と、圧電素子11の信号用電極12に接続し、信号線に接続するための信号用電気端子18と、圧電素子11の他方の電極に接続する接地用電気端子13とを備えており、接地用電気端子13は、ケーブルの電極導出線に電気接続するとともに、熱伝導材17を経由して、このケーブル内に設けられた伝熱線16にも接続している。
【0006】この超音波探触子では、圧電素子11の電極に接続する接地用電気端子13を、熱伝導材17を介して伝熱線16に接続し、超音波探触子で発生した熱を、伝熱線16を通じて放熱している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この従来の超音波探触子では、圧電素子11の接地電極の一部から放熱が行なわれているだけであって、十分と言えるものではない。
【0008】本発明は、こうした従来の問題点を解決するものであり、高い放熱特性を有する超音波探触子を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明の超音波探触子では、圧電素子の一方の面に設けた背面負荷材を、超音波に対して高い減衰特性を有する主材と、この主材に充填した高い熱伝導率を有する充填材とで構成している。
【0010】そのため、不要な超音波を背面負荷材で減衰し、また、圧電素子の熱を背面負荷材で吸熱して放熱することにより、超音波探触子の表面温度を低く抑えることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明の請求項1に記載の発明は、圧電素子と、圧電素子の一方の面に設けた背面負荷材とを備える超音波探触子において、背面負荷材を、超音波に対して高い減衰特性を有する主材と、この主材に充填した高い熱伝導率を有する充填材とで構成し、前記主材にニトリルゴム、ブチルゴムまたはウレタンゴムを用い、前記充填材に窒化アルミニウム、銅、ボロンナイトライドまたはグラファイトを用いたものであり、不要な超音波を背面負荷材で減衰し、また、圧電素子の熱を背面負荷材で吸熱して放熱することにより、超音波探触子の表面温度を低く抑えることができる。
【0012】
【0013】請求項に記載の発明は、背面負荷材の主材のニトリルゴム1に対して、窒化アルミニウムの充填重量比を4.3〜10にしたものであり、超音波減衰特性が高く、熱伝導率が高い背面負荷材を得ることができる。
【0014】
【0015】請求項に記載の発明は、背面負荷材の主材のニトリルゴム1に対して、銅の充填重量比を8.5以上にしたものであり、超音波減衰特性が高く、熱伝導率が高い背面負荷材を得ることができる。
【0016】
【0017】請求項に記載の発明は、背面負荷材の周囲に接して、高分子フィルムをグラファイト化した高配行性のPGSグラファイトシート、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化ベリリウムまたは銅から成る熱伝導材を配置したものであり、背面負荷材が吸収した熱を熱伝導材を通じて逃がすことができる。
【0018】請求項に記載の発明は、背面負荷材の圧電素子に接する側と反対側の面に、高分子フィルムをグラファイト化した高配行性のPGSグラファイトシート、ボロンナイトライドまたは酸化ベリリウムから成る保持台を配置したものであり、背面負荷材が吸収した熱を保持台を通じて逃がすことができる。
【0019】
【0020】
【0021】以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0022】(第1の実施形態)第1の実施形態の超音波探触子は、熱伝導率が高く、超音波減衰特性が高い材料で背面負荷材を構成している。
【0023】この超音波探触子は、図1の断面図に示すように、超音波を送受信する圧電素子1と、圧電素子1の一方の面に設けた接地電極2と、圧電素子1のもう一方の面に設けた信号用電極3と、信号電極3に接続する信号用電気端子4と、接地電極2に接続する接地電極用電気端子5と、圧電素子1を機械的に保持し、圧電素子1の熱を吸熱して放熱し、更に不要な超音波信号を減衰する背面負荷材6とを備えている。
【0024】圧電素子1には、PZT系などの圧電セラミックス、単結晶、またはPVDF等の高分子等を用いる。また、接地電極2及び信号用電極3は、圧電素子1の面に金や銀をスパッタリングしたり、あるいは銀を焼き付けて形成する。
【0025】また、図示しないが、必要に応じて、圧電素子1の接地電極2面上に、超音波を効率よく伝搬させるための音響整合層や、超音波ビームを絞る音響レンズ等を設ける。
【0026】この超音波探触子では、超音波診断装置などの本体から信号用電気端子4に電気信号が印加されると、圧電素子1が機械振動して超音波を発振する。
【0027】生体を被検体とする超音波診断装置の超音波探触子では、生体に直接接触して生体に超音波を送信し、生体から反射してきた反射波を受信する。本体は、その信号を処理してモニター上に診断画像を表示する。
【0028】生体に接触する超音波探触子の表面(超音波を送受信する面)温度は、前述するように、41℃以下にしなければならない。
【0029】超音波探触子の表面温度は、生体に接触していない、つまり使用していない状態で、本体から送信信号を送り続けているときに最も発熱し温度が上昇する。この原因は、圧電素子1の誘電損失、及び、探触子内の圧電素子1、音響整合層、音響レンズ間での多重反射によるものと想定される。
【0030】圧電素子1から送信された超音波は背面負荷材6にも伝搬する。背面負荷材6に伝搬した超音波は不要なものであるので、背面負荷材6内で減衰させ、再び圧電素子1に戻らないようにしなければならない。そのためには、背面負荷材6は超音波の減衰が大きい材料であることが必要である。
【0031】この実施形態では、背面負荷材6を、主材に充填材を配合して形成しており、主材には超音波の減衰の大きいニトリルゴム材料を用い、また、充填材として、熱伝導率の大きい窒化アルミニウム、炭化珪素、銅を充填することにより、高い熱伝導率と高い超音波減衰特性とを有する背面負荷材6を得ている。
【0032】表1には、主材のニトリルゴム1に対して、充填重量比で4.87及び9.75の割合で窒化アルミニウム、炭化珪素、または銅を充填した時の熱伝導率及び超音波減衰特性の測定結果を示している。
【0033】
【表1】


【0034】また、図2には、ニトリルゴムに対して、充填比率を変えて窒化アルミニウム、炭化珪素、または銅を充填した時の熱伝導率及び超音波減衰特性の変化を図示している。
【0035】また、比較のために、従来から背面負荷材に用いられているウレタンゴム単体の熱伝導率及び超音波減衰特性を表2に示し、また、このゴムにフェライト粉末を充填した、いわゆるフェライトゴムの一般的な熱伝導率及び超音波減衰特性を併せて表2に示している。
【0036】
【表2】


【0037】これらの結果から明らかなように、ニトリルゴム材料に熱伝導率の大きい窒化アルミニウム、炭化珪素、銅を充填した背面負荷材は、従来のウレタンゴム単体の背面負荷材に比べて、高い熱伝導率及び超音波減衰特性を有している。また、充填材の組成を限定することにより、従来のフェライトゴムよりも熱伝導率の高いものを得ることができる。
【0038】超音波探触子の表面温度を低減するために、背面負荷材6の熱伝導率は、少なくとも従来のフェライトゴムより高い値(2.5×10-3cal/cm・s℃以上)が望ましいが、具体的な数値として、ここでは1.6倍の4.0×10-3cal/cm・s℃に設定する。また、超音波減衰特性は、不要な超音波が圧電素子1に戻らないようにする値が必要である。超音波診断装置本体のダイナミックレンジが、最近120dBであることを考慮すると、背面負荷材6の減衰特性も少なくとも120dB必要になってくる。当然、背面負荷材6の厚みを厚くすれば120dB以上にすることはできるが、小型化を考慮した場合、一概に背面負荷材6を厚くすることはできない。この厚みは最大でも10mm以下にすることが望まれる。従って、背面負荷材6の減衰は、3MHzで6dB/mm以上必要となる。
【0039】こうした観点から、熱伝導率4.0×10-3cal/cm・s℃以上、3MHzでの超音波の減衰を6dB/mm以上に設定すると、図2から、これらの値を満足する材料を求めると、窒化アルミニウムを充填する場合では、ニトリルゴム1に対する充填重量比は4.3〜10となり、炭化珪素を充填する場合では、ニトリルゴム1に対する充填重量比は8.2〜10となり、また、銅を充填する場合では、ニトリルゴム1に対する充填重量比は8.5以上となる。
【0040】このように、第1の実施形態の超音波探触子は、背面負荷材6として、熱伝導率が高く、且つ超音波減衰特性が高い材料を用いているため、圧電素子1から発生する熱、また、超音波の多重反射により発生する熱が、圧電素子1の全面に設けた背面負荷材6で吸熱され、背面負荷材6から放熱される。その結果、超音波探触子表面の温度を低く保つことができる。従って、超音波診断装置の送信電圧を高めることができ、診断深さを深くすることができる。
【0041】また、背面負荷材には、超音波減衰が大きい材料を用いているため、不要な超音波を減衰させることができる。
【0042】なお、第1の実施形態では、背面負荷材6の主材としてニトリルゴムを用いた場合について説明したが、この主材としては、この他、超音波減衰の大きいブチルゴム、ウレタンゴム材料を用いても同様の効果が得られる。
【0043】また、第1の実施形態では、背面負荷材6の充填材として窒化アルミニウム、炭化珪素、銅を用いた場合について説明したが、この充填材としては、この他、ボロンナイトライド、グラファイト等の熱伝導率の高い材料を用いても同様の効果が得られる。
【0044】(第2の実施形態)第2の実施形態の超音波探触子は、背面負荷材の側周辺や端面に放熱を促進する熱伝導材を配置している。
【0045】この超音波探触子は、図3の断面図に示すように、背面負荷材6の側周辺に設けた熱伝導材7と、背面負荷材の端面に設けた、背面負荷材6を保持するための保持台8とを備えている。その他の構成は、第1の実施形態(図1)と変わりがない。
【0046】この熱伝導材7及び保持台8には、その材料として、高分子フィルムをグラファイト化した高配行性のPGSグラファイトシート(松下電子部品社製)、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、炭化珪素、酸化ベリリウム、銅等の極めて熱伝導率の高い材料を用いる。
【0047】熱伝導材7は、背面負荷材6が吸熱した熱を更に吸熱し、放熱する。その結果、超音波探触子の表面温度を低減することができる。また、背面負荷材6を保持する保持台8も、高熱伝導率の材料で形成されているため、同様に背面負荷材6の熱の放熱を促進し、超音波探触子の表面温度の引き下げに寄与する。
【0048】なお、第2の実施形態では、背面負荷材6の側面の周辺に熱伝導材7を設け、端面に保持台8を設けているが、それらのいずれか一方だけを単独で設けてもよい。
【0049】また、図示していないが、熱伝導材7や保持台8からの放熱を更に促進するため、熱伝導材7や保持台8を、信号用電気端子4や接地用電気端子5に接続するケーブルの接地極線またはシールド線に接続して、超音波探触子の外に放熱するように構成してもよい。
【0050】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明の超音波探触子は、圧電素子から発熱する熱を、圧電素子全面に設けた背面負荷材で吸熱して、放熱することができ、また、背面負荷材の側面に配置した熱伝導材や背面負荷材の端面に設けた保持台を通じて、背面負荷材からの放熱を促進することができる。そのため、超音波探触子表面の温度を低く抑えることができ、その結果、超音波診断装置の送信電圧を高めて、診断深さをより深く設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態における超音波探触子の概略断面図、
【図2】本発明の第1の実施形態における背面負荷材の超音波減衰特性と熱伝導率とを示す特性図、
【図3】本発明の第2の実施形態における超音波探触子の概略断面図、
【図4】従来の超音波診断装置用探触子の断面図である。
【符号の説明】
1、11 圧電素子
2 接地電極、
3、12 信号用電極、
4、18 信号用電気端子、
5、13 接地極用電気端子、
6、15 背面負荷材
7、17 熱伝導材
8 保持台
14 音響整合層
16 伝熱線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電素子と、前記圧電素子の一方の面に設けた背面負荷材とを備える超音波探触子において、前記背面負荷材が、超音波に対して高い減衰特性を有する主材と、前記主材に充填された高い熱伝導率を有する充填材とで構成され、前記主材がニトリルゴム、ブチルゴムまたはウレタンゴムから成り、前記充填材が窒化アルミニウム、銅、ボロンナイトライドまたはグラファイトから成ることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】 前記ニトリルゴム1に対して、窒化アルミニウムの充填重量比を4.3〜10にしたことを特徴とする請求項に記載の超音波探触子。
【請求項3】 前記ニトリルゴム1に対して、銅の充填重量比を8.5以上にしたことを特徴とする請求項に記載の超音波探触子。
【請求項4】 前記背面負荷材の周囲に接して、高分子フィルムをグラファイト化した高配行性のPGSグラファイトシート、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化ベリリウムまたは銅から成る熱伝導材を配置したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超音波探触子。
【請求項5】 前記背面負荷材の圧電素子に接する側と反対側の面に、高分子フィルムをグラファイト化した高配行性のPGSグラファイトシート、ボロンナイトライドまたは酸化ベリリウムから成る保持台を配置したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3420951号(P3420951)
【登録日】平成15年4月18日(2003.4.18)
【発行日】平成15年6月30日(2003.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−332905
【出願日】平成10年11月24日(1998.11.24)
【公開番号】特開2000−165995(P2000−165995A)
【公開日】平成12年6月16日(2000.6.16)
【審査請求日】平成12年11月28日(2000.11.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−184099(JP,A)
【文献】特開 昭62−186849(JP,A)
【文献】実開 平2−61312(JP,U)