説明

超音波診断装置

【課題】 ゲルや探触子を体表面に塗る作業は複雑、面倒であるが、これを解決する超音波診断装置を提供する。
【解決手段】 診断装置本体1にはゲルの圧送を行うゲル圧送機構の主体をなすゲル蓄圧器5が設置され、この蓄圧器本体5Cにはゲル圧入部51を介してゲルが圧入される。また、流出部52には閉止弁54が圧縮バネ56にて付勢閉塞されている。ゲル蓄圧器5から流出されるゲルは図1と図2に示すとおりチューブ9を介して探触子7側に流動し、探触子7の超音波発信面から少し偏位した位置にて射出できる。探触子7にはゲル開閉のための弁機構が設けられ、必要なときにゲルが射出できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば医療用画像診断等に用いられる超音波診断装置特にその超音波探触子の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は診断装置本体とこれに電気的に接続される超音波探触子とで構成される。診断装置本体から供給される電気信号を探触子に印加し、この電気信号により発生する機械的歪みを超音波として生体内に放射し、生体内組織境界部から発生する超音波の反射信号を受信する。この受信した反射信号を診断装置本体で信号処理を行い、生体内の組織情報を画像化処理して診断装置本体上に表示する。また、超音波探触子は超音波診断装置と電気信号の送受信を司るリード線と電気信号を超音波に変換し生体との超音波の送受信を司る超音波素子とから成り、これらは電気的に接続されている(特許文献1参照)。
ところでこのような超音波診断装置によって被検者の診断を行う場合は、探触子から発信される超音波が生体表面に発射されるとき、生体表面との間に空気層が存在すると超音波の伝達率が低下することから、ゲルを探触子の表面もしくは被検者の体表面に直接塗ることが行われている。この場合、診断医師がゲルのチューブからゲルを粘り出し手の平で探触子の表面や体表面に塗るのが通常である。
【特許文献1】特開2000−279409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような手作業による従来のゲルの塗り方法では、診断に際して最初に準備したゲルの量が多すぎたり、少なすぎたりするという問題点があった。また診断中にゲルが乾いてしまい、途中で診断を中断してゲルを追加するのが常識であった。これらの作業はゲル容器のキャップの開閉、ゲルのひねり出しなど複雑な手作業を伴うものである。また、被検者に冷たいゲルを直接塗り付けるため、被検者に不快感を与える。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明が第1に提供する超音波診断装置は、上記課題を解決するために探触子にゲルを射出するゲル射出口を設けるとともに、このゲル射出口にゲルを圧送するゲル圧送機構を備えたものであり、したがってゲルの供給や塗布などの作業は省略される。
本発明が第2に提供する超音波診断装置は、上記課題を解決するために探触子の被検体に接する面にゲル射出口を設けたものであり、ゲルの供給や塗布など正確に行われる。
本発明が第3に提供する超音波診断装置は、上記課題を解決するために、超音波のための電気信号を発生させる診断装置本体と被検体に超音波を放射する探触子とこの両者を接続するリード線を備えた超音波診断装置において、探触子にはゲルを射出するゲル射出口を設けるとともに、ゲルを蓄圧して収容するゲル蓄圧器と、ゲル蓄圧器からのゲルを前記ゲル射出口に導くチューブと、探触子に設置されゲルの射出路を開閉する弁機構を設けたものであり、弁機構にて必要時に必要量のゲル射出ができる。
本発明が第4に提供する超音波診断装置は、上記課題を解決するために、ゲル圧送機構を、ゲルを蓄圧して収容するゲル蓄圧器と、ゲルをゲル蓄圧器からゲル射出口まで導くチューブと、探触子に設置されゲルの射出路を開閉する弁機構とにより構成するとともに、前記ゲル蓄圧器を診断装置本体に設置し、チューブをリード線とともにパイプに内挿させたもので、チューブとリード線が一体化される。
本発明が第5に提供する超音波診断装置は、上記課題を解決するために、チューブにゲルを加温するヒータを設けたもので、チューブやゲルを加温できる。
本発明が第6に提供する超音波診断装置は、上記課題を解決するために、ゲル蓄圧器の内方にゲルを加温するヒータを設けたもので、ゲル蓄圧器を加温できる。
【発明の効果】
【0005】
本発明が第1に提供する超音波診断装置によれば、探触子からゲルを生体表面等に射出でき、容器の中から適量のゲルをひねり出すなどの操作を不要となる。
さらに本発明が第2に提供する超音波診断装置によれば、ゲルの供給や塗布などの作業が適確におこなわれる。
さらに本発明が第3に提供する超音波診断装置によれば、弁機構にて必要時に必要量のゲル射出ができ、診断作業が容易になる。
本発明が第4に提供する超音波診断装置によれば、チューブとリード線が錯綜することもなく、診断作業用を円滑にすることができ、さらに装置の簡略化が図られる。
本発明が第5に提供する超音波診断装置によれば、診断時における周囲の気温が低い場合でもゲルの凍結や固化が起こることはなく、診断を容易にする。
本発明が第6に提供する超音波診断装置によれば、超音波診断装置自体やゲル蓄圧器が暖房されている診断室以外の位置におかれていても、ゲルの凍結や固化が起こることはなく、診断を容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の特徴は超音波診断においてゲル等を生体表面に塗り診断を正確ならしめる場合、ゲルを探触子の表面近傍から自動的に射出できるようにしたことに基本的な特徴がある。具体的には、ゲルに内圧を作用させるべくゲル収容のゲル蓄圧器を使用するとともに、このゲル蓄圧器と探触子におけるゲル射出口を接続するチューブを設け、さらにチューブのゲル圧送路内に開閉弁機構を設けてゲル射出を自動化した点に特徴がある。さらにゲル蓄圧器を診断装置本体内に設置するとともにゲル圧送チューブをリード線とともにパイプに内挿して構成の簡略化と操作性の向上を図った点に特徴がある。さらにはこのチューブやゲル蓄圧器にはゲルを加温するヒータを設けてゲルを加温する点にも特徴を有している。したがって本発明の最良の実施形態は、これらすべての特徴を備えた超音波診断装置である。
【実施例1】
【0007】
以下、図面に示す実施例についてその構成、作動を説明する。
図1は本発明による超音波診断装置全体の構成を示す。この超音波診断装置の構成要素を大きく分けると診断装置本体1と、この診断装置本体1からの電気信号を探触子7側に供給するリード線8と、電気信号を受けて被検者の体面に超音波を発信そして受信する探触子7とからなり、本発明は以上の構成にゲルを探触子7から射出するためのゲル圧送機構を設けたものである。リード線8の先端は探触子7に接続され、基端は接続部1Sに接続されている。
【0008】
まず、診断装置本体1にはその内部に、探触子7に電気信号を発信するための発生機構が内設されるとともに、上方部には診断条件設定や診断結果としての画像などを表示する表示器2が架設される。この診断装置本体1の構成、特に電気信号発生機構や診断結果の信号から画像を作成することそしてその結果を表示する等のための構成については、本発明の要旨と直接関係しないので詳細な説明は省略するが、これら診断装置本体1については従来の構成を採用できる。
【0009】
診断装置本体1には電気信号の発生、中止等を調整する操作部3と診断結果の画像等を表示する表示器2や信号処理部4が設けられている。操作部3には電気信号の発生をON、OFFするスイッチや表示器2に診断結果を表示したり調整するためのスイッチ群が設けられている。8は診断装置本体1の接続部1Sに接続され電気信号を探触子7に送るリード線でパイプ6に内挿されている。
【0010】
この診断装置本体1の下方部位には、ゲルの圧送を行うゲル圧送機構の主体をなすゲル蓄圧器(通称アキュムレータ)5が設置されている。このゲル蓄圧器5の構成は図2に詳細に示されている。図2はベローズ方式のゲル蓄圧器5の縦断面して示す図で、5Cが蓄圧器本体を示し、左方の開口部に蓋ケース5Fがねじ結合で取り付けられている。蓄圧器本体5Cにはゲル圧入部51が設けられ、たとえばシリンジSからゲルが圧入される。また、ゲル圧入部51にはゲル圧入口5Kが開口し、内方から逆止弁53が付勢されている。55はこの付勢用の圧縮バネで逆止弁53を内方よりゲル圧入口5Kを閉塞している。
【0011】
蓄圧器本体5Cの内方には軸心上にベローズ5Bがその右方を基端として付設され、左方の自由端開口側には密閉盤5Pが接合されている。この密閉盤5Pとベローズ5Bにてゲルの収容部が形成される。なお、この密閉盤5Pの中央部にはゲルを流出させるための流出口5Dが穿設されている。
【0012】
他方、蓋ケース5Fにはゲルを流出させるための流出部52が穿設されている。この流出部52には閉止弁54が圧縮バネ56にて付勢閉塞されている流出口5Rが穿設されている。この流出口5Rと前述した密閉盤5Pの流出口5Dが連結管57で連結されている。この連結管57は可撓性を有し、ベローズ5Bの伸縮による密閉盤5Pの往復動を許容する。
さらに、このゲル蓄圧器5の内方には蓋ケース5Fと密閉盤5Pとの間には圧縮バネ5Sが圧入介在されている。
【0013】
以上のとおり構成されたゲル蓄圧器5にゲルを圧入する場合は、右方のゲル圧入部51におけるゲル圧入口5Kにゲルを収容したシリンジSを押し入れる。そして、逆止弁53を押し込みシリンジSからゲルをベローズ5Bの内方に流入させる。シリンジSを引き抜くと逆止弁53が復元し、ベローズ5B内は密閉される。この作業を繰り返してベローズ5B内にゲルを充填し満杯にする。その結果、密閉盤5Pは圧縮バネ5Sを圧縮し2点鎖線で示す位置へと変位し、内方のゲルに圧力が付勢されることになる。シリンジSより大きい大形のピストンポンプで一度に多量のゲルを圧入してもよい。
【0014】
こうしてベローズ5B内にゲルが圧入し充填されるが、最高圧時、閉止弁54が開口しないよう設定されている。この設定は圧縮バネ56の圧縮による弾力と流出口5Dの外方に接続されているゲル圧送用のチューブ9の内圧力の和がベローズ5B内のゲル圧より大きく設定されている。
したがって後述するとおり、上記チューブ9の内圧が減圧されると圧縮バネ56の弾力だけではゲル内圧に対抗できなくなり、閉止弁54は流出口5Dを開成することになる。
【0015】
なお、ゲル蓄圧器5の内方には、密閉盤5Pの蓋ケース5F側に2個の電熱器5Hが設置されている。この電熱器5Hは診断装置本体1におけるスイッチS1を操作することで発熱し、ゲル蓄圧器5内のゲルを加温する。加温によりゲルの流出、流動が円滑になる。
ゲル蓄圧器5から流出されるゲルは図1と図2に示すとおりチューブ9を介して探触子7側に流動するが、図1に示すように、このチューブ9は電気信号の送受信用のリード線8とともにパイプ6内に並挿されている。
【0016】
つぎに探触子7の構成について説明する。
図1に示すとおり、リード線8とゲル圧送用のチューブ9はこれを共に並挿するパイプ6を介して探触子7側に導かれ、電気信号に基づいて探触子7は超音波素子7Sから超音波を受発信する。そしてゲルは探触子7の超音波素子7Sに射出されるよう構成されている。以下、特にゲルの射出構造について詳述すると、図1に示すとおり、探触子7の超音波発信面には少し偏位した位置にゲルの射出口10が設けられている。この射出口10は細孔のノズルが複数個設けられた構造である。
【0017】
図3はこのゲルの射出構造を探触子7に内設した構造を示す断面図で、特にゲルを圧送するチューブ9がリード線8と共に導入され探触子7内に配設された点を特徴としている。チューブ9は探触子7の外筐7Kの内壁に沿って伸長され、超音波素子7Sの支持体7Dまで導かれている。そしてその先端は支持体7Dに貫設されたゲル用の流路9Lに接続されている。この流路9Lは支持体7Dと超音波素子7Sに設けられた流路9Sに連接され、流路9Lと流路9S間に流路の開閉を行う弁機構が設けられている。
【0018】
この弁機構の構成を拡大して示すと図4に示すとおりで、流路9Lと流路9Sとの間の支持体7Dには弁室7Rが形成され、この弁室7Rに押し棒11にて往復動する弁体13が内設されている。図示状態は弁体13が圧縮バネ14にて両流路9Lと9S間を閉塞している状態である。12は外筐7Kに設けられたシールリングで、ゲルが押し棒11に沿って外部へ流出するのを阻止する。押し棒11が左方へ手先で押されると弁体13が両流路9Lと9Sを連通させる。
【0019】
この連通によってチューブ9内の圧が低下する。この内圧低下によってゲル蓄圧器5のベローズ5Bの内圧が図2における閉止弁54の左方側の内圧以上になるため、ゲルが閉止弁54を押し出してゲルがチューブ9へ圧送されることになる。この圧送は圧縮バネ5Sの弾力によるものである。こうして押し棒11の操作によりゲル蓄圧器5内のゲルがチューブ9、流路9L、9Sを経て射出口10から射出されることになる。
【0020】
なお、図3、図4に示すように、ゲルの圧送路上、特に探触子7内におけるチューブ9の一部に電熱器7Hが設置されゲルが加温されるように構成されている。これは冬の時期などは周囲の気温が低く、ゲルが固化ないし硬化しやすくそのため流動性が低下するが、それによってゲルの射出が円滑に行われなくなるのを防ぐためである。電熱器7Hの作動は診断装置本体1におけるスイッチS2の操作により行われる。
【0021】
以上詳述した構成により、本発明の超音波診断装置は、ゲルは常時ゲル蓄圧器5に充填され、圧縮バネ5Sの強力な弾力にて蓄圧収容されるとともに、蓄圧室の外方が弁機構の操作を介して低圧になると外部への流出口が開成されて流出し、これを探触子の超音波発信面に射出させる。
【0022】
本発明の特徴は以上詳述したとおりであるが、上記ならびに図示例に限定されるものではなく種々の変形例を包含する。まず、ゲル蓄圧機構であるが、実施例ではベローズと圧縮バネとの組み合わせであるが、プラダを使用する方式もある。あるいはゴム製収容包袋を利用する方式もある。また、ゲルの射出を探触子の近接した位置にて行わせる方式についても超音波素子自体に設ける図示例の場合以外超音波素子と外筐との境目の間隙部に射出させる方式も考えられる。さらには外筐の外周部に射出ノズルを近接設置することも可能である。さらにゲル流路間に介設する弁開閉機構についてもたとえば蝶形弁、ニードル弁、流量制御弁など各種の弁機構が採用できる。さらにゲル蓄圧器は必ずしも診断装置本体に内設する必要はなく手持ち形いわゆる携帯形とすることもできる。本発明はこれらすべての変形例を包含する。さらに電熱器については探触子内のみの形になっているが、パイプ内におけるチューブの全長にわたってこの電熱器を張設する形にしてもよい。この場合は冬季でもあるいは周囲が冷気であっても円滑にゲルの射出ができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が提供する超音波診断装置全体の構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明が提供する超音波診断装置の要部であるゲル蓄圧器の構成を示す縦断面図である。
【図3】本発明が提供する超音波診断装置における探触子の構成を示す断面図である。
【図4】本発明が提供する超音波診断装置における探触子の要部の構成を拡大して示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 診断装置本体
1S 接続部
2 表示器
3 操作部
4 信号処理部
5 ゲル蓄圧器
5B ベローズ
5C 蓄圧器本体
5D、5R 流出口
5F 蓋ケース
5H、7H 電熱器
5K ゲル圧入口
5P 密閉盤
5S、55、56、14 圧縮バネ
51 ゲル圧入部
52 流出部
53 逆止弁
54 閉止弁
57 連結管
6 パイプ
7 探触子
7D 支持体
7K 外筐
7R 弁室
7S 超音波素子
8 リード線
9 チューブ
9L、9S 流路
10 射出口
11 押し棒
12 シールリング
13 弁体
S シリンジ
S1、S2 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を被検体に放射する探触子を備えた超音波診断装置において、前記探触子にゲルを射出するゲル射出口を設けるとともに、このゲル射出口にゲルを圧送するゲル圧送機構を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
探触子の被検体に接する面にゲル射出口を設けたことを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
超音波のための電気信号を発生させる診断装置本体と被検体に超音波を放射する探触子とこの両者を接続するリード線を備えた超音波診断装置において、探触子にはゲルを射出するゲル射出口を設けるとともに、ゲルを蓄圧して収容するゲル蓄圧器と、ゲル蓄圧器からのゲルを前記ゲル射出口に導くチューブと、探触子に設置されゲルの射出路を開閉する弁機構を設けたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
ゲル圧送機構を、ゲルを蓄圧して収容するゲル蓄圧器と、ゲルをゲル蓄圧器からゲル射出口まで導くチューブと、探触子に設置されゲルの射出路を開閉する弁機構とにより構成するとともに、前記ゲル蓄圧器を診断装置本体に設置し、チューブをリード線とともにパイプに内挿させたことを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
チューブにゲルを加温するヒータを設けたことを特徴とする請求項3記載の超音波診断装置。
【請求項6】
ゲル蓄圧器の内方にゲルを加温するヒータを設けたことを特徴とする請求項3記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−320497(P2006−320497A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145784(P2005−145784)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】