説明

超音波診断装置

【課題】血管壁の弾性率計測等を行なう超音波診断装置において、Bモード画像によって血管前壁を確認可能とし、Bモード画像から血管径等を検出可能にする。
【解決手段】基本波による超音波の送受信に、所定の間隔でハーモニックイメージングによる超音波の送受信を組み込み、基本波によるBモード画像とハーモニックイメージングによる超音波画像の両方を生成することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管壁の弾性率計測に好適な超音波診断装置に関し、特に、Bモード画像からの血管前壁境界の検出を容易にする超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。
一般に、この種の超音波診断装置は、超音波プローブ(超音波探触子 以下、プローブとする)と、診断装置本体とを有しており、プローブから被検体に向けて超音波を送信し、被検体からの超音波エコーをプローブで受信して、その受信信号を診断装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が形成される。
【0003】
また、超音波を血管や心臓壁等に送信し、その超音波エコーを受信して、受信信号を解析することで、血管壁等の変位量を求め、この変位量から、血管壁や心臓壁(心筋)等の弾性率を計測することも行なわれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、心拍(心臓拍動)に同期して動く対象物に超音波を送受信して超音波エコーの受信信号を得、この受信信号の振幅および位相を用いて対象物の瞬間的な瞬時的な位置を決定して、心拍に基づく血管壁の大きな振幅変位運動をトラッキングすることにより、血管の弾性率を求めることが記載されている。
具体的には、血管壁の順次の位置に基づき、血管壁の微小振動の運動速度波形を求め、血管壁内部の深さ方向に所定間隔でとられた局所ごとのトラッキング軌跡を求め、局所毎の厚みの時間変化を算出することにより血管の弾性率を求めている。
【0005】
また、特許文献2にも、同様に、心拍に同期して動く対象物に超音波を送受信して得られた超音波エコーの受信信号から、血管等の変位量を求め、この変位量から弾性率を求める超音波診断装置が記載されている。
この超音波診断装置では、血管等の対象物から得た受信信号を用いてBモード画像およびMモード画像を形成し、Mモード画像の受信信号から手ブレや体動ブレを検出して、このブレが検出されたMモード画像の受信信号を用いてプローブと被検体との位置変化量を検出して、この検出結果から受信信号の確度を判断し、確度が高いと判断されたMモード画像の受信信号を用いて、対象物の変位量を求め、この変位量から血管壁等の弾性率を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−5226号公報
【特許文献2】特開2010−233956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような超音波診断装置での血管弾性率等の計測は、通常、Bモード画像上で、表示ライン(関心線)等を用いてMモード画像を表示するアジマス方向の位置を選択し、選択した表示ラインのMモード画像を表示して解析し、血管壁の移動量や移動速度等を検出することで行なわれる。
また、特許文献2にも記載されるように、超音波診断装置では、血管の後壁(深度が深い側)に比べ、血管の前壁は検出しにくいという性質が有る。そのため、血管弾性率等の計測を行うための血管の解析は、多くの場合、血管後壁を用いて行なわれる。
【0008】
ここで、血管が管状(チューブ状)であることを考慮すると、より正確な解析を行なうためには、血管の径を把握することが必要になる場合も有る。そのため、血管の断層像であるBモード画像中において、血管前壁境界の位置を、適正に検出する必要が有る。
しかしながら、現状の超音波診断装置では、Bモード画像からの血管前壁境界の検出が困難な場合が多い。
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、血管弾性率の計測等を行なう超音波診断装置であって、Bモード画像から血管前壁の境界を好適に検出することができ、これにより、血管弾性率の計測等において、高精度な血管径の検出や操作性の向上を図ることができる超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の超音波診断装置は、超音波を送信し、被検体によって反射された超音波エコーを受信して、受信した超音波エコーに応じた受信信号を出力する、基本波および高調波からの受信信号の出力が可能な超音波トランスデューサを有する、超音波プローブと、前記基本波の受信によって超音波トランスデューサが出力した受信信号から、Bモード画像およびMモード画像を形成し、前記高調波の受信によって超音波トランスデューサが出力した受信信号からBモード画像を生成する、画像形成手段と、所定のタイミングで、前記超音波トランスデューサにおける基本波からの受信信号出力と高調波からの受信信号出力とを切り換える、超音波プローブの駆動制御手段とを有することを特徴とする超音波診断装置を提供する。
【0011】
このような本発明の超音波診断装置において、血管径の収縮拡張を予測する予測手段を有し、前記駆動制御手段は、この予測手段が予測した血管径が最大となる時相から血管収縮期後期の時相までの間に、前記超音波トランスデューサに高調波からの受信信号出力を行わせるのが好ましい。また、前記予測手段が心電計であるのが好ましい。もしくは、血管壁の移動速度の検出手段を有し、前記予測手段は、前記検出手段が検出した血管壁の移動速度の検出結果を用いて、前記血管径の収縮拡張を予測するのが好ましい。
また、前記駆動制御手段は、所定の音線間隔で、前記超音波トランスデューサによる基本波からの受信信号出力と高調波からの受信信号出力とを切り換えるのが好ましい。もしくは、前記駆動制御手段は、所定の時間間隔で、前記超音波トランスデューサによる基本波からの受信信号出力と高調波からの受信信号出力とを切り換えるのが好ましい。
また、前記高調波の受信信号から画像形成手段が生成したBモード画像、あるいはさらに、前記基本波の受信信号から画像形成手段が生成したBモード画像を用いて、血管径を検出する検出手段を有するのが好ましい。
さらに、表示手段を有し、前記高調波の受信信号から画像形成手段が生成したBモード画像と、前記基本波の受信信号から画像形成手段が生成したBモード画像とを、前記表示手段に並べて表示するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を有する本発明の超音波診断装置は、通常の基本波による超音波の送受信に加え、所定のタイミングで、二次以上の高調波を受信して超音波画像を生成する、いわゆるハーモニックイメージングを行って、基本波およびハーモニックイメージングの両方でBモード画像を生成する。
ハーモニックイメージングによれば、いわゆるカブリやノイズが少ない、血管前壁の境界が良好に再生されたBモード画像を生成することができる。
そのため、本発明の超音波診断装置によれば、ハーモニックイメージングによるBモード画像、あるいはさらに、通常の基本波の送受信によるBモード画像から、血管の前壁境界および後壁境界を好適に検出して、血管の径等を検出することができる。
従って、本発明の超音波診断装置によれば、血管弾性率の計測を行なう際に血管の径等を好適に把握して、良好な操作性で、より正確な計測を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の超音波診断装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】図1に示す超音波診断装置の構成を概念的に示すブロック図である。
【図3】図1に示す超音波診断装置における血管壁の弾性計測の一例を説明するためのフローチャートである。
【図4】血管壁の弾性計測のための超音波診断を説明するための概念図である。
【図5】(A)および(B)は、図1に示す超音波診断装置での画像表示の一例を示す概念図である。
【図6】(A)および(B)は、図1に示す超音波診断装置での画像表示の一例を示す概念図である。
【図7】(A)〜(C)は、図1に示す超音波診断装置での画像表示の一例を示す概念図である。
【図8】(A)および(B)は、図1に示す超音波診断装置での画像表示の一例を示す概念図である。
【図9】(A)は、図1に示す超音波診断装置での画像表示の一例を示す概念図で、(B)は、基本波およびハーモニックイメージングのBモード画像の一例である。
【図10】(A)〜(G)は、図1に示す超音波診断装置での画像表示の一例を示す概念図である。
【図11】(A)および(B)は、図1に示す超音波診断装置での画像表示の一例を示す概念図である。
【図12】図1に示す超音波診断装置での画像表示の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の超音波診断装置について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明の超音波診断装置の一例の外観を概念的に示す。
図1に示すように、超音波診断装置10は、基本的に、診断装置本体12と、超音波プローブ14と、操作パネル16と、ディスプレイ18とを有して構成される。また、超音波診断装置10の下端部には、キャスタ24が配置されており、人力で容易に装置を移動することが可能になっている。
【0016】
超音波プローブ14(以下、プローブ14とする)は、超音波の送受信を行なって、受信した超音波エコーに応じた受信信号を診断装置本体10に供給するものである。
このプローブ14は、被検体に超音波を送信し、被検体に反射された超音波エコーを受信して、受信した超音波エコーに応じた電気信号(受信信号)を出力する、いわゆる超音波トランスデューサ(超音波圧電素子)を1次元的もしくは二次元的に配列してなる、各種の超音波診断装置に利用される公知の超音波プローブである。
【0017】
ここで、本発明の超音波診断装置10において、プローブ14の超音波トランスデューサは、基本波(中心周波数の超音波)での超音波の送受信による超音波画像の生成のみならず、送信した超音波の二次以上の高調波を受信して受診信号を出力する、いわゆるハーモニックイメージングによる超音波画像の生成も可能なものである。
なお、ハーモニックイメージングを行う際におけるプローブ14での超音波の送受信は、例えば、基本波の1/2の周波数の超音波を送信して、基本波と同じ周波数の高調波を受信する方法等、公知の方法で行えばよい。
【0018】
本発明において、プローブ14は、基本波およびハーモニックイメージングによる超音波画像の生成を可能にするものであれば、公知の超音波プローブ(超音波探触子)が、各種、利用可能である。従って、プローブ14の種類には、特に限定はなく、コンベックス型、リニア型、セクタ型等の各種の形式が利用可能である。また、体外式プローブでもよいし、ラジアルスキャン方式等の超音波内視鏡用プローブでもよい。
また、図示例においては、プローブ14と診断装置本体12とは、ケーブル20によって接続されている。しかしながら、本発明は、これに限定はされず、プローブ14内に後述する送信回路28、受信回路30、送受信制御部32等を配置して、無線通信によってプローブ14と診断装置本体12とを接続するものであってもよい。
【0019】
ディスプレイ18は、公知のディスプレイ(表示装置)である。
超音波診断装置10において、ディスプレイ18は、各種の超音波診断装置と同様、プローブ14が出力した受信信号に応じた超音波画像、被検者の情報、GUI(Graphical User Interface)による操作を行なうための選択手段や指示手段、関心領域(Region of Interest 以下、ROIとする)、後述する血管壁の弾性計測結果等を表示する。
【0020】
操作パネル16は、超音波診断装置10の操作を行なうものである。
図示は省略するが、超音波診断装置10において、操作パネル16には、BモードやMモードなどの各種のモードの選択手段、ディスプレイ18に表示されたカーソルやライン等を移動するためのトラックボール(トラックパッド/タッチパッド)、選択や操作を決定(確定)するためのセットボタン、動画表示と静止画表示との切り換え等を行なうためのフリーズボタン、超音波画像の視野深度の変更手段、ゲイン調整手段、超音波画像を拡大するためのズームボタン等が配置される。
なお、超音波診断装置10においては、モードとして、BモードやMモードなどの通常の超音波診断装置が有するモードに加え、血管壁の弾性率を計測するためのモードであるVEモード(Vascular Elasticity モード)も設定されている。
また、同じく図示は省略するが、操作パネル16には、GUIによる操作等を行なうための表示装置であるタッチパネル16aも配置される(図6(B)参照)。
【0021】
診断装置本体12は、超音波診断装置10の全体の動作の制御を行なうと共に、プローブ14が出力した受信信号に応じた超音波画像を形成してディスプレイ18に表示させ、さらに、血管弾性率の計測のための各種の処理を行なうものである。
診断装置本体12は、例えば、コンピュータを利用して構成される。
【0022】
図2に、超音波診断装置10の構成をブロック図で概念的に示す。
図2に示すように、診断装置本体12は、送信回路28、受信回路30、送受信制御部32、画像形成部34、記憶部36、境界検出部40、トラッキング部42、拍検出部46、弾性率算出部50、および、表示処理部52を有する。
また、画像形成部34は、Bモード画像形成部56およびMモード画像形成部58を有する。
【0023】
前述のプローブ14は、送信回路28および受信回路30に接続される。また、送信回路28および受信回路30には、送受信制御部32が接続される。なお、送受信制御部32には、必要に応じて、拍検出部46が接続される。さらに、受信回路30は、画像形成部34に接続される。
画像形成部34は、表示処理部52に接続される。また、画像形成部34のBモード画像形成部56およびMモード画像形成部58は、記憶部36に接続される。Bモード画像形成部58は、さらに境界検出部40にも接続される。他方、Mモード画像生成部58には、さらに、必要に応じて、拍検出部46が接続される。
記憶部36は、トラッキング部42、拍検出部46、および表示処理部52に接続される。また、拍検出部46および表示処理部52は、共に、トラッキング部42および表示処理部52に接続される。トラッキング部42は、表示処理部52および弾性率算出部50に接続され、さらに、弾性率算出部50は、表示処理部52に接続される。
【0024】
送受信制御部32は、送信回路28および受信回路30を介してプローブ14の超音波ビームの送信方向および超音波エコーの受信方向を、順次、設定する。
また、送受信制御部32は、設定した送信方向に応じて送信遅延パターンを選択する送信制御機能と、設定した受信方向に応じて受信遅延パターンを選択する受信制御機能とを有している。
【0025】
送信遅延パターンとは、プローブ14の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波によって所望の方向に超音波ビームを形成するために各超音波トランスデューサの駆動信号に与えられる遅延時間のパターンである。他方、受信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサによって受信される超音波によって所望の方向からの超音波エコーを抽出するために受信信号に与えられる遅延時間のパターンである。
複数の送信遅延パターンおよび複数の受信遅延パターンが内部メモリ(図示せず)に格納されていて、状況に応じて、適宜、選択して使用する。
【0026】
ここで、本発明の超音波診断装置10では、送受信制御部32は、所定のタイミングで、基本波による超音波の送受信と、ハーモニックイメージングによる超音波の送受信とを切り換えてプローブ14を駆動するように、送信回路28および受信回路30の駆動を制御する。言い換えれば、送受信制御部32は、基本波による超音波の送受信の中に、所定のタイミングでハーモニックイメージングによる超音波の送受信を組み込むように、送信回路28および受信回路30の駆動を制御する。
この点に関しては、後に詳述する。
なお、本発明の超音波診断装置10において、ハーモニックイメージングによる超音波の送受信および超音波画像(Bモード画像)の形成は、公知の方法で行えばよい。
【0027】
送信回路28は、複数のチャネルを備えており、プローブ14の複数の超音波トランスデューサにそれぞれ印加する複数の駆動信号を形成する。その際に、送受信制御部32によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数の駆動信号にそれぞれの遅延時間を与えることができる。
なお、送信回路28は、複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するように、複数の駆動信号の遅延量を調節して複数の駆動信号をそれぞれプローブ14の複数の超音波トランスデューサに供給するようにしても良く、複数の超音波トランスデューサから一度に送信される超音波が被検体の撮像領域全体に届くように構成した複数の駆動信号をプローブ14に供給するようにしても良い。
【0028】
受信回路30は、送信回路28と同様に複数のチャネルを備えており、複数の超音波トランスデューサを介して受信された複数のアナログ信号を増幅し、デジタルの受信信号に変換する。
さらに、送受信制御部32によって選択された受信遅延パターンに基づいて、複数の受信信号にそれぞれの遅延時間を与え、それらの受信信号を加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理によって、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(音線データ)が形成される。
【0029】
形成された音線データは、画像形成部34に供給される。
画像形成部34は、供給された音線データに対して、Log(対数)圧縮やゲイン調整等のプリプロセス処理を施して超音波画像の画像データを形成し、この画像データを通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像データに変換(ラスター変換)し、さらに階調処理等の必要な画像処理を施した上で表示処理部52へ出力する。
また、画像形成部34は、Bモード画像を形成するBモード画像形成部56と、Mモード画像を形成するMモード画像形成部58とを有する。Bモード画像およびMモード画像の形成は、公知の方法によればよい。
【0030】
表示処理部52は、画像形成部34から供給された超音波画像の画像データ、記憶部36から読み出した超音波画像の画像データ、操作パネル16で行なわれた操作(入力指示)、後述する血管壁弾性率の計測結果(解析結果)等に応じて、ディスプレイ18に表示するための表示用データを形成し、ディスプレイ18に表示させる部位である。
【0031】
図示例の超音波診断装置10において、診断装置本体12の記憶部36、境界検出部40、トラッキング部42、拍検出部46、および、弾性率算出部50は、主に、血管壁の弾性率を計測するVEモードの際に用いられる部位である。
以下、図3のフローチャートおよび図5〜図12を参照して、VEモードにおける超音波診断装置10の作用を説明することにより、上記記憶部36や境界検出部40等の各部位、ならびに、本発明の超音波診断装置10について、より詳細に説明する。
なお、以下の説明では、特に記載がなくても、ディスプレイ18の表示に関しては、表示処理部52がラインの形成等の必要な処理を行なう。
【0032】
超音波診断装置10による超音波診断が開始されると、送受信制御部32による制御の下、送信回路28がプローブ14の超音波トランスデューサから超音波を送信させ、また、受信回路30はプローブ14が出力した受信信号を処理して音線信号を形成し、画像形成部34に出力する。
一例として、Bモードが選択され、図4に概念的に示すように、被検者の頸動脈cを測定対象として、プローブ14が首nに当てられたとして、画像形成部34(Bモード画像形成部56)によって形成されたBモード画像が、表示処理部52で処理されて、ディスプレイ18に表示される。
【0033】
目的とする頸動脈cが適正に観察できるようになり、操作パネル16のモード選択手段(以下の説明では、「操作パネル16」は省略する)によってVEモードが選択されると、表示処理部52は、図5(A)に概念的に示すように、Bモード画像中に、関心領域を示すROI60を表示させる。
【0034】
この状態では、トラックボールでの操作によってBモード画像中のROI60の位置を移動できる。また、セットボタンを押すと、ROI60の位置が固定され、トラックボールでの操作によってROI60のサイズを変更できる。
さらに、セットボタンを押すたびに、ROI60の位置変更およびROI60のサイズ調整が、交互に実施可能になる。
【0035】
この状態からズームボタンが押されると(押下されると)、ROI60の位置やサイズの調整が終了してROI60が設定されたとして、送受信制御部32は、フレームレートをROI60の設定指示前よりも高くする(例えば、200Hz以上あるいはROI設定指示前の5倍以上)。また、このズームボタンの押下に応じて、Mモード画像形成部58によって、ROI60のMモード画像の形成が開始され、図5(B)に示されるように、ROI60の部分が拡大されたBモード画像64、および、ROI60(その選択ライン62)のMモード画像65が、同時に表示される。
なお、Bモード画像64とMモード画像65との同時表示(デュアルモード表示)は、公知の超音波診断装置における、いわゆるB/Mモード表示と同様に行なえば良い。
【0036】
また、ズームボタンが押されると、送受信制御部32は、プローブ14が、基本波による超音波の送受信と、ハーモニックイメージングを行うための超音波の送受信とを、所定のタイミングで切り換えるように、送信回路28および受信回路30の駆動を制御する。
これに応じて、Bモード画像形成部56は、基本波によるBモード画像と、ハーモニックイメージングによるBモード画像とを生成する。
なお、図示例において、表示されるBモード画像64は、基本波によるBモード画像である。すなわち、本発明において、ハーモニックイメージングによるBモード画像は、必ずしもディスプレイ18に表示する必要はない。
【0037】
基本波による超音波の送受信と、ハーモニックイメージングを行うための超音波の送受信との切り換えタイミング(基本波での超音波送受信に、ハーモニックイメージングでの超音波送受信を入れ込むタイミング)には、特に限定はない。
一例として、基本波による超音波の送受信と、ハーモニックイメージングによる超音波の送受信を、1つの音線毎(1ライン毎)に交互に行う方法が例示される。あるいは、1音線毎ではなく、基本波2音線毎にハーモニック1音線、基本波3音線毎にハーモニック1音線のように、適宜、設定した間隔で、基本波による超音波の送受信に、ハーモニックイメージングによる超音波の送受信を組み込んでもよい。
あるいは、1フレーム中の音線ではなく、0.1秒毎間隔など、適宜、設定した時間間隔で、基本波によるフレームの間に、ハーモニックイメージングによるフレームを組み込むようにしてもよい。この際には、例えば拍検出部46においてMモード画像を解析して、血管壁の移動速度波形や血管径の変化波形を比べ、血管の径が急激に広がり始める前のハーモニックイメージングによるBモード画像を、後述する血管の解析や画像表示に利用するのが好ましい。
【0038】
また、特に、ハーモニックイメージングによるBモード画像を表示する必要がない場合には、基本波での超音波の送受信を行い、1フレームの最後の音線のみ、ハーモニックイメージングの超音波の送受信を行う方法も、利用可能である。あるいは、1フレームの最後の、適宜設定した複数の音線のみ、ハーモニックイメージングの超音波の送受信を行うようにしてもよい。
もしくは、予測手段によって血管径の拡張収縮を予測して、血管径が最大となる時相〜血管収縮期後期の時相の間に、ハーモニックイメージングの超音波の送受信を1つの音線もしくは適宜設定した複数の音線で、行うようにしてもよい。このタイミングであれば、血管壁の移動が小さい状態でハーモニックイメージングによるBモード画像を得られるので、画像解析や画像観察による血管前壁の検出を、より、高精度に行うことができる。
なお、予測手段には、特に限定はなく、各種の方法が利用可能である。一例として、予測手段として心電計を用い、心電計の測定結果を例えば拍検出部46に供給し、拍検出部46が、得られた心電図から血管径の収縮拡張を予測して、血管径が最大となる時相〜血管収縮期後期の時相の間を知見すればよい。あるいは、例えば拍検出部46においてMモード画像を解析して、横方向の延在する白線(輝線)の深度方向の移動速度(速度の上昇開始時点)から血管壁の移動速度や心拍を検出し、この血管壁の移動速度や心拍から、血管径の収縮拡張を予測して、血管径が最大となる時相〜血管収縮期後期の時相の間を知見してもよい。
【0039】
図5(B)において、上側がBモード画像64で、下側がMモード画像65である。
Bモード画像64において、図中横方向はアジマス方向(超音波振動子の配列方向(二次元配列の場合は長手方向))であり、縦方向は深度方向(超音波の送受信方向)で、上方が深度が浅い側(プローブ14側)である。
また、Bモード画像中には、Bモード画像中のアジマス方向におけるMモード画像表示位置(Mモード画像の表示ライン)を選択するための、深度方向に延在する選択ライン62が表示される。この選択ライン62は、トラックボールによって、アジマス方向(左右方向)に移動可能になっている。
【0040】
また、Mモード画像65において、横方向は時間軸で、時間は左から右に流れており、間隙65aの左側が、現在のフレームとなる(すなわち、間隙65aの右側は過去のフレーム)。また、Bモード画像64と同様、縦方向は深度方向で、上方が深度が浅い側である。
図5(B)において、ディスプレイ18に表示されているMモード画像65は、予め位置が設定された選択ライン62の位置のMモード画像65である。
【0041】
ここで、Mモード画像形成部58は、アジマス方向の所定位置(予め設定された所定位置や選択された位置)や、アジマス方向で選択された位置のみではなく、Bモード画像64のアジマス方向の全域について、Mモード画像を形成する。
【0042】
Bモード画像形成部56が形成したROI60のBモード画像(Bモード画像データ)、および、Mモード画像形成部58が形成したMモード画像(Mモード画像データ)は、共に、記憶部36に記憶される。
なお、記憶部36が記憶する画像の時間的な量には、特に限定はないが、一般的な心拍が2以上、入る長さであるのが好ましい。従って、記憶部36は、最新の3秒以上のBモード画像およびMモード画像を記憶するのが好ましい。
【0043】
ここで、前述のように、ハーモニックイメージングによる超音波の送受信を、血管径が最大となる時相〜血管収縮後期の時相の間に行う場合には、Mモード画像形成部58が形成したMモード画像は、拍検出部46にも供給される。
この際においては、拍検出部46は、前述のようにして心臓の収縮拡張を予測し、その予測結果を、送受信制御部32に供給する。これに対応して、送受信制御部32は、供給された心臓の収縮拡張の予測に応じて、血管径が最大となる時相〜血管収縮後期の時相の間となるように、ハーモニックイメージングの超音波の送受信を行う。
【0044】
前述のように、選択ライン62は、トラックボールによってアジマス方向に移動することができる。
選択ライン62の位置とMモード画像とは、連動している。すなわち、トラックボールによって選択ライン62を左右方向に移動すると、表示処理部52は、選択ライン62の位置のMモード画像をディスプレイ18に表示する。
【0045】
操作者が、適正な画像が得られたと判断したら、フリーズボタンが押される。
フリーズボタンが押されると、表示処理部52は、必要な画像データを記憶部36から読み出し、図6(A)に示すように、ディスプレイ18に、フリーズボタンが押された時点が最も右(最新の位置)となるように並べ直して、選択ライン62の位置のMモード画像65を表示させ、また、Bモード画像64の静止画を表示させる。同時に、選択ライン62が破線になって、移動ができなくなる(非アクティブになる)。
さらに、図6(B)に示すように、操作パネル16のタッチパネル16aに、後述する血管壁の境界の設定を指示するための「AW Det」ボタン、血管壁弾性率の解析開始を指示するため「Elasticity Ana」ボタン、被検者の血圧を入力するための「Ps」ボタンおよび「Pd」ボタン、信頼性閾値を入力するための「Quality Factor Threshold」ボタンが表示される。なお、この時点では、「Elasticity Ana」ボタンは、選択できない状態になっている。
【0046】
また、フリーズボタンが押されると、拍検出部46が、記憶部36に記憶されている全てのMモード画像に対して、心拍の検出(心拍の自動検出)を行なう。心拍の検出結果は、記憶部36に送られ、対応するMモード画像に、情報として付加される。
さらに、心拍の検出結果は、表示処理部52にも送られ、現在、表示しているMモード画像65には、心拍の検出結果が表示される。
【0047】
心拍の検出の検出方法には、特に限定はないが、一例として、Mモード画像を解析して、横方向の延在する白線(輝線)の深度方向の移動速度(速度の上昇開始時点)や、同白線の深度方向の動きの脈動等を用いて、検出すればよい。あるいは、心拍の検出に心電計(心電図)を利用してもよい。
【0048】
表示処理部52は、図6に示すように、心拍の検出結果を、Mモード画像65中に三角マークおよび直線で表示させる。図示例においては、一例として、最新の心拍の開始時点を実線で、同終了時点を細い線で、それ以外の拍に関連する位置は、破線で示す。これらの線の区別は、線種に変えて、あるいは加えて、線の色を利用してもよい。
なお、検出に失敗した心拍が有る場合には、周囲の心拍の間隔等に応じて、適当な位置に心拍の表示をする。
また、フリーズボタンが押された時点でのBモード画像64は、Mモード画像65中において実線で示される、最新の心拍の開始時点におけるBモード画像となる。
【0049】
Mモード画像65に心拍のラインが表示されると、Bモード画像中の選択ライン62が実線になって、トラックボールによって左右方向に移動可能となる。すなわち、選択ライン62が、アクティブな状態になる。なお、ラインがアクティブか否かの区別は、先と同様、線種に変えて、あるいは加えて、線の色を利用してもよい。
この状態で、トラックボールによって選択ライン62を左右方向に移動すると、表示処理部52は、記憶部36から、選択ライン62の位置に対応するMモード画像を読み出し、心拍の検出結果と共に、その画像をディスプレイ18に表示させる。すなわち、フリーズ後にも、トラックボールによって選択ライン62を移動することで、Bモード画像64中のアジマス方向の全域から、Bモード画像64中におけるMモード画像65の表示位置(表示ライン)を選択できる。
従って、本例によれば、設定したROI60のアジマス方向の任意の位置のMモード画像65を表示して、Mモード画像65、および、Mモード画像中の各心拍に対応する画像を、観察/確認することができる。
【0050】
Bモード画像64の選択ライン62が移動可能な状態でセットボタンが押されると、Mモード画像の表示位置(表示ライン)の選択が終了したとして、図7(A)に示されるように、Bモード画像64の選択ライン62が破線になって、トラックボールによる移動が不可能な状態となる。同時に、Mモード画像65において、最新の心拍を示すラインが、共に実線となる。
【0051】
Mモード画像65において、最新の心拍を示すラインが、共に実線になると、トラックボールによって、心拍の選択が可能な状態になる。
一例として、セットボタンが押された時点では、図7(A)や(B)に示すように、最新の心拍を示すラインが実線となって選択された状態となっている。この状態から、例えば、トラックボールを左に回すと、図7(C)に示すように、最新の心拍の終了に対応するラインが破線となり、次に新しい心拍に対応するラインが実線となって、この心拍が選択された状態となる。さらにトラックボールを左に回すと、2番目に新しい拍に対応するラインが破線になり、3番目に新しい心拍に対応するラインが実線となって、選択された状態となる。
また、トラックボールを右に回せば、同様に、順次、新しい心拍に対応するラインが選択された状態となる。
さらに、この心拍の選択に応じて、表示処理部52は、記憶部36から、選択された心拍の開始位置のBモード画像、すなわち、選択された心拍の開始位置の時点(時相)で撮影されたBモード画像を読み出し、ディスプレイ18に表示するBモード画像64を、この画像に変更する。
【0052】
心拍の選択が可能な状態でセットボタンが押されると、心拍の選択が終了したとして、選択された心拍が確定し、選択した心拍の微調整が行なえる状態となる。
また、ディスプレイ18に表示しているMモード画像65中の心拍が選択/確定すると、記憶部36が記憶している全てのMモード画像(すなわち、Bモード画像64のアジマス方向の全域のMモード画像)において、同じ心拍が選択された状態となる。
【0053】
一例として、最新の心拍が選択されたとして、セットボタンが押されると、図8(A)に示すように、まず、選択された心拍の終了に対応する線が細線となり、選択された心拍の開始に対応する線の位置(時間)が、トラックボールによって、矢印tで示すように、左右方向(時間方向)に移動可能となり、心拍の開始位置の微調整が可能な状態となる。
必要に応じて、トラックボールによって心拍の開始位置が調整された後、再度、セットボタンが押されると、今度は、図8(B)に示すように、選択された心拍の終了に対応する線が通常の実線に、同開始に対応する線が細線になって、トラックボールによって、矢印tで示すように、選択された心拍の終了に対応する線の位置が、左右方向に移動可能となり、心拍の終了位置の微調整が可能な状態となる。
この心拍の微調整の結果は、微調整を行ったMモード画像65のみに反映してもよいが、記憶部36に記憶されている全てのMモード画像にも反映するのが好ましい。
なお、心拍の開始位置が調整された場合には、表示処理部52は、記憶部36から、調整された心拍開始位置のBモード画像を読み出し、ディスプレイ18に表示するBモード画像64を、この画像に変更する。
【0054】
心拍の選択あるいはさらに微調整の結果は、トラッキング部42にも供給される。
【0055】
選択された心拍の終了に対応する位置が調整可能な状態で、セットボタンが押されると、前述の図6に示すBモード画像64の選択ライン62が移動可能な状態、すなわち、Bモード画像64中における、Mモード画像65の表示ラインの選択が可能な状態に戻る。
すなわち、図示例の超音波診断装置10では、「表示ラインの選択」→「心拍の選択」→「心拍の微調整」の各処理を繰り返し行うことができるようになっている。言い換えれば、「表示ラインの選択」→「心拍の選択」→「心拍の微調整」は、ループ状に処理を行なうことが可能になっている。
これにより、より好適に、記憶する全てのMモード画像から、後述する血管壁の弾性計測のための解析に最適な心拍を選択することが可能になる。
【0056】
一方、選択された心拍の終了に対応する位置が調整可能な状態で、セットボタンではなく、タッチパネルの「AW Det」ボタンが押されると、図9(A)に示すように、Bモード画像64の選択ライン62、および、Mモード画像65中における心拍を示すラインが、全て、破線となって操作ができない状態となり、血管壁の検出モードとなる。
【0057】
ここで、基本波の音線とハーモニックイメージングの音線とを交互に生成する場合のように、ハーモニックイメージングによるBモード画像の形成が可能である場合には、図9(A)に示すように、基本波によるBモード画像64に並べて、ハーモニックイメージングによるBモード画像64hを表示する。
【0058】
図9(B)に、基本波によるBモード画像の一例、および、同じ測定位置でのハーモニックイメージングによるBモード画像の一例を示す。
図9(B)に示すように、基本波のBモード画像100(図中左側)では、図中点線aで示すように、血管内腔に血管壁の誤認知や誤検出につながり易いノイズが存在する。また、基本波のBモード画像100では、図中点線bで示すように、血管壁と誤認識し易いライン状の高輝度な部分が有り、特に、最高輝度検出等を利用する血管壁の自動検出等を行う際に、誤った箇所を検出し易い。
これに対し、ハーモニックイメージングのBモード画像102(図中右側)には、このような誤認識や誤検出につながるノイズや高輝度な部分が、極めて少ない。
【0059】
すなわち、ハーモニックイメージングによれば、基本波によるBモード画像に比して、血管前壁のカブリやノイズの少ない超音波画像を得ることができる。
従って、基本波によるBモード画像64に並べて、ハーモニックイメージングによるBモード画像64hを表示することにより、次に行う血管前壁の境界設定(ライン68および70の設定)において、ハーモニックイメージングによるBモード画像64hを参照しつつ行うことができる。そのため、この構成によれば、検査者は、より良好な操作性で、簡易かつ高精度に、血管前壁境界のライン設定を行うことができる。
【0060】
血管壁の検出モードになると、まず、図10(A)に示すように、Bモード画像64中に、血管前壁の外膜中膜境界に対応するライン68が表示される。
このライン68は、トラックボールによって上下方向(深度方向)に平行移動可能になっている。図10(B)に示すように、トラックボールによって移動して、ライン68を血管前壁の外膜中膜境界の位置に移動したら、セットボタンが押される。ここで、図9に示すように、基本波によるBモード画像64に加え、ハーモニックイメージングによるBモード画像64hを表示している場合には、このBモード画像64中におけるライン68の血管前壁の外膜中膜境界への設定は、ハーモニックイメージングによるBモード画像64hを参照して行うことができる。
【0061】
セットボタンが押されると、図10(C)に示すように、Bモード画像64において、血管前壁の外膜中膜境界に対応するライン68が破線になって確定し、血管前壁の内膜内腔境界に対応するライン70が表示される。
このライン70も、同様に、トラックボールによって上下方向に移動可能であり、ライン70を血管前壁の中膜内腔境界の位置に移動したら、セットボタンが押される。先と同様、ハーモニックイメージングによるBモード画像64hを表示している場合には、このBモード画像64中におけるライン70の血管前壁の中膜内腔境界への設定は、ハーモニックイメージングによるBモード画像64hを参照して行うことができる。
【0062】
ライン70が移動可能な状態でセットボタンが押されると、図10(D)に示すように、Bモード画像64において、血管前壁の中膜内腔境界に対応するライン70が破線になって確定し、血管後壁の内膜内腔境界に対応するライン72が表示される。同様に、トラックボールによってライン72を血管後壁の中膜内腔境界の位置に移動したら、セットボタンが押される。
さらに、ライン72が移動可能な状態でセットボタンが押されると、図10(E)に示すように、Bモード画像64において、血管後壁の内膜内腔境界に対応するライン72が破線になって確定し、血管後壁の外膜中膜境界に対応するライン74が表示される。同様に、トラックボールによってライン74を血管後壁の外膜中膜境界の位置に移動したら、セットボタンが押される。
【0063】
血管壁の各境界の情報は、境界検出部40に供給される。
ライン74が移動可能な状態でセットボタンが押されると、全ての境界に対応するラインの設定が終了し、境界検出部40は、設定された内膜内腔境界のライン72および外膜中膜境界のライン74を用いて、後壁の内膜内腔境界および外膜中膜境界の自動検出を行なう。両境界の自動検出の結果は、表示処理部52およびトラッキング部42に送られ、図10(F)に示すように、検出結果が表示される。
なお、これらの境界の自動検出の方法には、特に限定はなく、各種の方法が利用可能である。一例として、Bモード画像を解析して、ライン72およびライン74の位置において連続する高輝度な部分をトレースして、内膜内腔境界および外膜中膜境界を検出する方法が例示される。
【0064】
境界検出部40による、血管後壁の内膜内腔境界および外膜中膜境界の自動検出が終了すると、図10(F)に示すように、Bモード画像64にカーソル78が表示される(血管後壁の自動検出が終了するまでは、このカーソル78は表示されていない)。
【0065】
このカーソル78は、トラックボールによって移動可能になっている。カーソル78を、自動検出された内膜内腔境界もしくは外膜中膜境界を示すラインに移動して、セットボタンが押されると、カーソル78に近い側のラインが実線となる。実線となったラインは、修正が可能な状態となる。
一例として、図10(G)に示すように、外膜内膜境界を示すライン74が選択されて実線になったとする。ライン74に沿って、トラックボールによってカーソル78を移動して、再度、セットボタンが押されると、境界検出部40が、カーソルによってなぞられた領域のライン74が再検出して書き換えが行なわれ、また、その結果がトラッキング部42に送られる。
【0066】
後壁の内膜内腔境界および外膜中膜境界の自動検出が終了し、さらに、必要に応じて血管後壁の修正が行なわれると、図11(A)に示すように、全てのラインが破線になり、図11(B)に示すように、タッチパネル16aの「Elasticity Ana」ボタンが選択可能な状態となる。
「Elasticity Ana」ボタンが選択可能な状態となったら、「Ps」ボタンを用いて被検者の心臓収縮期の血圧を、「Pd」ボタンを用いて被検者の心臓拡張末期の血圧を、それぞれ入力し、さらに、「Quality Factor Threshold」ボタンを用いて、信頼性閾値を入力する。これらの数値の入力は、公知の方法で行なえばよい。
【0067】
なお、被検者の血圧および信頼性閾値の入力は、血管壁境界の検出が終わった後に行なうのに限定はされず、後述する解析開始の前(後述する「Elasticity Ana」ボタンの押下の前)であれば、どのタイミングで行なってもよい。
また、超音波診断装置10においては、診断を行なう前に、被検者情報の取得や入力を行なうのが通常であるが、この被検者情報に血圧の情報が有る場合には、これを利用してもよい。
【0068】
被検者の血圧および信頼性閾値が入力され、「Elasticity Ana」ボタンが押されると、画像の解析が開始され、血管壁の弾性率の計算が行なわれる。
「Elasticity Ana」ボタンが押されると、まず、トラッキング部42が、Mモード画像65において、選択された心拍における血管前壁(外膜中膜境界および中膜内腔境界)ならびに血管後壁(中膜内腔境界および外膜中膜境界)の動きを追跡する。すなわち、血管前壁および後壁のトラッキングを行なう。
Mモード画像65における血管壁のトラッキングは、先にBモード画像64において検出(ラインを設定)した、血管前壁の外膜中膜境界、血管前的の中膜内腔境界、血管後壁の中膜内腔境界、および、血管後壁の外膜中膜境界を、位置的な出発点(深度方向の出発点)として行なう。
また、Mモード画像65における血管壁のトラッキングにおいて、時間的な出発点(Mモード画像の時間軸上の出発点)は、Bモード画像64の時相すなわちBモード画像64が撮られた時点とする。すなわち、図示例においては、選択され、さらに必要に応じて位置を調節された心拍の開始位置が、血管壁のトラッキングの時間的な出発点となる。
【0069】
ここで、超音波診断装置10においては、好ましい態様として、検出(設定)した血管壁の境界のみならず、血管後壁の中において、深さ方向に1以上の測定点が設定されていてもよい。このように、血管後壁の中に、1以上の測定点が設定されている場合には、各測定点毎に、血管壁のトラッキングを行なう。
なお、血管壁中の測定点は、予め設定されていてもよく、あるいは、特定のアルゴリズムに基づいて自動設定してもよく、あるいは、超音波診断装置10の操作者が画像を見ながら設定してもよく、これらを併用してもよい。
【0070】
Mモード画像65における血管壁のトラッキングの方法には、特に限定はなく、トラッキングの出発位置からの画像(輝度)の連続性を利用する方法、パターンマッチング法、ゼロクロス法、組織ドプラ法、位相差トラッキング等が例示され、いずれの方法を用いてもよい。
【0071】
トラッキング部42によるMモード画像中での血管壁のトラッキング結果は、弾性率算出部50および表示処理部52に供給される。
弾性率算出部50は、血管壁のトラッキング結果から、まず、血管壁(内膜中膜)の厚みの変化波形、および、血管径(内径)の変化波形を形成する。なお、前述のように、血管壁内に1点以上の測定点が設定されている場合には、血管壁の変化波形は、各測定点の間毎に形成される。
血管壁の厚みの変化波形、および、血管径の変化波形は、表示処理部52に送られる。
【0072】
また、弾性率算出部50は、下記式(1)を用いて、血管の径方向の歪みを算出する。
εi=Δhi/hdi ・・・(1)
なお、上記式(1)において、εは、各測定点の間における血管の径方向の歪みを、Δhiは、1つの心拍内で血管壁が最も薄くなる心臓収縮期における各測定点の間の血管壁の厚み変化の最大値を、hdiは、血管壁が最も厚くなる心臓拡張末期における各測定点の間の厚みを、それぞれ示す。
【0073】
さらに、弾性率算出部50は、先に入力された血圧の最高値および最低値を用いて、下記式(2)によって、血管壁の円周方向の弾性率Eθiを算出する。
θi=[1/2]*[1+(rd/hd)]*[Δp/(Δhi/hdi)]) ・・(2)
もしくは、下記式(3)によって、血管壁の径方向の弾性率Eriを算出してもよい。
ri=Δp/(Δhi/hdi) ・・・(3)
なお、上記式(2)および式(3)において、Δhiおよびhdiは、先と同様であり、Δpは、心臓収縮期と心臓拡張末期とにおける血圧差を、rdは、心臓拡張末期での血管内腔の半径を、hdは、心臓拡張末期における血管壁の厚みを、それぞれ示す。
【0074】
弾性率を計算したら、弾性率算出部50は、弾性率の信頼性を計算する。
弾性率の信頼性の計算方法には、特に限定はなく、公知の方法が、各種、利用可能である。一例として、1000人等の多数の人物の心拍による血管径変化の波形を作成して、これらの多数の波形から、血管径変化のモデル波形を作成し、このモデル波形からのズレの量を用いて、算出した弾性率の信頼性を計算する方法が例示される。
【0075】
ここで、前述のように、ディスプレイ18に表示されているMモード画像で心拍が選択/確定すると、記憶部36が記憶している全てのMモード画像において、同じ心拍が選択された状態となる。
これに応じて、上述の血管壁のトラッキング、血管壁の厚みおよび血管径の変化波形の作成、血管壁の歪みの計算、血管壁の弾性率および弾性率の信頼性の計算などの処理は、ディスプレイ18に表示されているMモード画像65のみならず、記憶部36に記憶されている全てのMモード画像において、選択された心拍に対して行なわれる。すなわち、ディスプレイ18に表示されているBモード画像64のアジマス方向の全領域に対して、対応するMモード画像を用いて、選択された心拍での上記血管壁の弾性率算出などの処理が行なわれる。
これらの結果は、記憶部36に記憶されているMモード画像に情報として付加される。
【0076】
アジマス方向の全域における演算が終了したら、弾性率算出部50は、血管壁の弾性率の平均値(Eθave)、血管壁の歪みの平均値(Strave)、および、弾性率の信頼性の平均値(QFave)を、演算する。
【0077】
演算が終了すると、ディスプレイ18に結果が表示される。
その一例を、図12に示す。図示例においては、元々、表示されていたBモード画像64の図中右側に、このBモード画像64に示される血管後壁の弾性率が、Bモード画像64eで表示される。さらに、この血管後壁の弾性率を表示するBモード画像64eの図中右側に、算出した血管壁の弾性率の信頼性が、同じくBモード画像64qで表示される。
また、Bモード画像64の図中左側に、血管壁の弾性率の平均値(Eθave)、血管壁の歪みの平均値(Strave)、および、弾性率の信頼性の平均値(QFave)が、それぞれ、表示される。
【0078】
血管壁の弾性率は、Bモード画像64eにおいて、Bモード画像64で自動検出(あるいは必要に応じて修正)された血管後壁に重ねて、帯状に表示される。また、Bモード画像64eの右上側には、弾性率の指標が表示される。図示例においては、画像の高密度であるほど、弾性率が高い。
すなわち、Bモード画像64eにおいては、血管後壁に重なる帯の密度が、血管のその位置における血管壁の弾性率を示している。
【0079】
弾性率の信頼性は、Bモード画像64qにおいて、同様に、Bモード画像64中で自動検出された血管後壁に重ねて、帯状に表示される。また、Bモード画像64qの右上側には、弾性率の信頼性の指標が表示される。図示例においては、画像が高密度であるほど、弾性率の信頼性が高い。
すなわち、Bモード画像64qにおいては、血管後壁に重なる帯の密度が、血管のその位置における血管壁弾性率の信頼性を示している。
【0080】
なお、この弾性率や弾性率の信頼度の高低は、画像の密度に変えて、あるいは加えて、画像の色によって表現してもよい。
【0081】
ここで、図12に示す結果の表示では、先に入力した閾値よりも信頼性が低い、アジマス方向の位置では、結果が自動的に省かれる。
また、結果が省かれた位置に関しては、Bモード画像64eにおける弾性率の結果表示の右隅部や、Bモード画像64qにおける信頼性の結果表示の右隅部に示されるように、帯の表示が薄くなる。
【0082】
また、下側のMモード画像65においては、選択された心拍に、Mモード画像中での血管前壁のトラッキング結果80および血管後壁のトラッキング結果82、血管径の変化波形84、ならびに、血管壁の厚みの変化波形86が表示される。
なお、前述のように、血管壁の中に深度方向に1以上の測定点が設定されている場合には、血管厚みの変化波形は、各測定点の間毎に、出力するようにしてもよい。
【0083】
ここで、血管壁の弾性率の計測結果等がディスプレイ18に表示されると、Bモード画像64における選択ライン62が実線になって、トラックボールによってアジマス方向に移動可能になる。
Bモード画像64で選択ライン62が移動されると、表示処理部52は、記憶部36から、選択ライン62の位置対応するMモード画像を読み出して、ディスプレイ18に表示する。すなわち、トラックボールによって選択ライン62が移動されると、Mモード画像65が、この選択ライン62の位置のMモード画像に変わり、Mモード画像中での血管前壁のトラッキング結果80および血管後壁のトラッキング結果82、血管径の変化波形84、ならびに、血管壁の厚みの変化波形86が、Bモード画像64の選択ライン62の位置のデータに変更される。
従って、Bモード画像中のアジマス方向の全域において、Mモード画像65および解析結果を表示する表示ラインを、選択することができる。
【0084】
さらに、セットボタンを押した後、Bモード画像64eおよびBモード画像64qにおいて、選択ライン62eおよび選択ライン62qをトラックボールによって移動してアジマス方向の任意の領域をに選択し、その後、再度、セットボタンを押すと、選択された領域は、前述の信頼性が閾値よりも低かった領域と同様の扱いとなり、データが取り除かれる。
すなわち、検査者が結果を見て、波形等が奇怪しいと感じられる場所が有る場合に、そのデータを取り除くことができ、より正確な解析が可能となる。
【0085】
なお、このデータの除去は、Deletボタン等の押下によって、1つ前の状態にも土切要にしてもよい。
【0086】
前述のように、血管が管状であることを考慮すると、血管弾性率の計測等において、より正確な解析を行なうためには、血管の径を把握することが必要である。そのためには、血管の断層像であるBモード画像中において、血管前壁境界の位置を適正に検出する必要が有る。
しかしながら、特許文献2にも示されるように、超音波画像では、血管前壁は後壁に比べて不鮮明でり、Bモード画像からの血管前壁境界の検出が困難な場合が多い。
【0087】
これに対して、本発明の超音波診断装置10では、基本波による超音波の送受信に、所定のタイミングでハーモニックイメージングによる超音波の送受信を組み込み、基本波によるBモード画像と、ハーモニックイメージングによるBモード画像を生成する。
ハーモニックイメージングによるBモード画像であれば、基本波によるBモード画像に比して、血管前壁のカブリやノイズの少ない超音波画像を得ることができる。従って、画像解析や画像観察による血管前壁の境界検出を、より好適に行うことができる。
一方で、ハーモニックイメージングでは、周波数の広がりを抑制するためにパルス波の波連長を長くする必要が有り、そのため、トラッキングを行う血管後壁の位置精度が低くなってしまう。これに対し、本発明によれば、血管後壁が鮮明に得られる基本波による超音波の送受信にハーモニックイメージングを組み込むので、基本波によるBモード画像によって、血管後壁を高精度に検出することができる。
従って、本発明によれば、Bモード画像から血管前壁および血管後壁の境界を好適に検出することができ、これにより、高精度に血管径等を検出して、血管弾性率の計測等において、より高精度な計測を行うことが可能になる。
【0088】
ところで、図10に示される操作等より明らかなように、血管前壁の境界は、大まかな位置が検出できればよい。
また、前述の式(2)に示されるように、血管前壁の境界は、血管弾性の算出においては、血管内腔の半径の検出に利用されるものである。
【0089】
そのため、本発明の超音波診断装置においては、図10に示すように、操作者がトラックボール等を用いて血管前壁境界の位置を設定するのではなく、例えば弾性率算出部50において、ハーモニックイメージングのBモード画像を解析することにより、大まかな血管前壁境界の位置を自動検出してもよい。
すなわち、弾性率算出部50は、このハーモニックイメージングのBモード画像から自動検出した血管前壁境界の検出結果を用いて、血管内腔の径の検出や、Mモード画像65における血管前壁境界のトラッキング等を行ってもよい。なお、この際においても、血管後壁のトラッキングは、基本波のBモード画像64を用いて行う。
また、この際には、図10(F)に示す血管後壁のように、境界をトレースするように前壁境界を自動検出してもよく、図10(A)〜(C)に示す血管前壁の設定のように、直線状に血管前壁を自動検出してもよい。
【0090】
ハーモニックイメージングのBモード画像から、血管前壁境界を検出する方法には、特に限定はなく、各種の方法が例示可能である。
一例として、血管前壁が存在すると考えられる領域において深さ方向で輝度の勾配を求め、最大勾配点の上方部近傍(例えば、最大勾配点から3mm以内)で、最大輝度となる位置を、血管前壁境界と見なす方法等が例示される。また、血管の内腔には、基本的に組織が存在しないので、必要に応じて、画像を濃度(輝度)で二値化して仮の血管内腔を設定し、この仮の血管内腔を利用して、前記処理を行ってもよい。
【0091】
また、血管径の検出は、ハーモニックイメージングのBモード画像のみで行ってもよく、あるいは、血管前壁をハーモニックイメージングのBモード画像から検出して、血管後壁を基本波のBモード画像から検出して、血管径の検出を行ってもよい。
【0092】
以上、本発明の超音波診断装置について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の変更や改良を行なってもよいのは、もちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の超音波診断装置は、心筋梗塞、狭心症、脳疾患等の原因となる動脈硬化の診断を行なう医療現場等において、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0094】
10 超音波診断装置
12 診断装置本体
14 (超音波)プローブ
16 操作パネル
18 ディスプレイ
20 ケーブル
24 キャスタ
28 送信回路
30 受信回路
32 送受信制御部
34 画像形成部
36 記憶部
40 境界検出部
42 トラッキング部
46 拍検出部
50 弾性率算出部
52 表示処理部
56 Bモード画像形成部
58 Mモード画像形成部
60 ROI
62 選択ライン
64,64e,64q,90 Bモード画像
65,92 Mモード画像
68,70,72,74 ライン
80,82 トラッキング結果
84 血管径変化波形
86 血管壁厚み変化波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信し、被検体によって反射された超音波エコーを受信して、受信した超音波エコーに応じた受信信号を出力する、基本波および高調波からの受信信号の出力が可能な超音波トランスデューサを有する、超音波プローブと、
前記基本波の受信によって超音波トランスデューサが出力した受信信号から、Bモード画像およびMモード画像を形成し、前記高調波の受信によって超音波トランスデューサが出力した受信信号からBモード画像を生成する、画像形成手段と、
所定のタイミングで、前記超音波トランスデューサにおける基本波からの受信信号出力と高調波からの受信信号出力とを切り換える、超音波プローブの駆動制御手段とを有することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
血管径の収縮拡張を予測する予測手段を有し、
前記駆動制御手段は、この予測手段が予測した血管径が最大となる時相から血管収縮期後期の時相までの間に、前記超音波トランスデューサに高調波からの受信信号出力を行わせる請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記予測手段が心電計である請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
血管壁の移動速度の検出手段を有し、
前記予測手段は、前記検出手段が検出した血管壁の移動速度の検出結果を用いて、前記血管径の収縮拡張を予測する請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記駆動制御手段は、所定の音線間隔で、前記超音波トランスデューサによる基本波からの受信信号出力と高調波からの受信信号出力とを切り換える、請求項1〜4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記駆動制御手段は、所定の時間間隔で、前記超音波トランスデューサによる基本波からの受信信号出力と高調波からの受信信号出力とを切り換える、請求項1〜4のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記高調波の受信信号から画像形成手段が生成したBモード画像、あるいはさらに、前記基本波の受信信号から画像形成手段が生成したBモード画像を用いて、血管径を検出する検出手段を有する請求項1〜6のいずれかに記載の超音波診断装置。
【請求項8】
表示手段を有し、前記高調波の受信信号から画像形成手段が生成したBモード画像と、前記基本波の受信信号から画像形成手段が生成したBモード画像とを、前記表示手段に並べて表示する請求項1〜7のいずれかに記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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