説明

超音波骨計測装置用ファントム及びその製造方法

【課題】生体の踵骨を模擬した構造を有し、且つ生体骨と同等な超音波特性(特に音響インピーダンス)を有する超音波骨計測装置用ファントム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本超音波骨計測装置用ファントム1は、踵骨を含む被計測部位に超音波を送波して骨部を計測する超音波骨計測装置において用いられるものであって、(A)二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部31(例えば、シリカ粉混入エポキシ系光硬化樹脂製)と、海綿骨模擬部31を被覆する皮質骨模擬部32(例えば、シリカ粉混入エポキシ系光硬化樹脂製)とからなる骨構造模擬基体3と、(B)上記骨構造模擬基体3における上記空隙に充填された骨髄模擬物質4(例えば、水等)と、を備えており、骨構造模擬基体3と骨髄模擬物質4との音響インピーダンスの比が生体骨と同等である(例えば、約4.4:1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波骨計測装置用ファントム及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、生体の踵骨を模擬した構造を有し、且つ生体骨と同等な超音波特性(特に音響インピーダンス)を有する超音波骨計測装置用ファントム及びその製造方法に関する。
本発明は、超音波による骨量計測分野において計測装置の較正比較基準体として好適に用いられる。更には、超音波による骨計測装置を用いた骨密度診断における評価基準体として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
生体骨は、表面から順に骨膜、骨質(皮質骨、海綿骨)、及び骨髄から構成されている。骨粗しょう症は、上記皮質骨の厚さと上記海綿骨の骨梁とが減少することで骨量が減少し、力学的構造の劣化を生じる全身性疾患である。近年、高齢化、食生活の多様化等により、骨粗しょう症となる人工が増加すると共にその若年齢化が進んでおり、骨粗しょう症の早期発見と予防とを可能とするより簡易な骨粗しょう症の診断技術が求められている。
従来より、この種の計測装置としては、超音波を用いるものなどが知られている(例えば、特許文献1等参照。)。これらは、主として骨内を透過した領域や距離に比例した物理量(例えば、骨面積率、伝播速度、減衰率等)を測定するものである。
【0003】
しかしながら、骨粗しょう症検査に用いられている超音波骨密度計測器(医用許認可製品)における計測指標(主として伝播速度)に関する較正は、樹脂板に音波を透過させることにより行われているだけであり、微小構造を持つ海綿骨と数ミリ厚さの皮質骨からなるヒトの骨組織について、正しく骨密度が計測されているのかが不安視されていた。
そのため、骨粗しょう症検査の標準化が可能な、生体(ヒト)の骨構造と等価な骨モデルの開発が求められている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−95221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、生体の踵骨を模擬した構造を有し、且つ生体骨と同等な超音波特性(特に音響インピーダンス)を有する超音波骨計測装置用ファントム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]踵骨を含む被計測部位に超音波を送波して骨部を計測する超音波骨計測装置において用いられる超音波骨計測装置用ファントムであって、
(A)二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部と、該海綿骨模擬部を被覆する皮質骨模擬部とからなり、且つ、該海綿骨模擬部及び該皮質骨模擬部が、それぞれ、アパタイト化合物又はプラスチックからなる骨構造模擬基体と、
(B)上記骨構造模擬基体における上記空隙に充填された骨髄模擬物質と、を備えていることを特徴とする超音波骨計測装置用ファントム。
【0007】
[2]上記骨構造模擬基体と上記骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比が、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比と同等である上記[1]に記載の超音波骨計測装置用ファントム。
【0008】
[3]更に、(C)本超音波骨計測装置用ファントムを超音波骨計測装置に配設した際に、該超音波骨計測装置用ファントムにおける所定の測定部位が、上記超音波骨計測装置の超音波が送波される測定位置に配置されるように、上記超音波骨計測装置用ファントムを収納可能な筺体を備える上記[1]又は[2]に記載の超音波骨計測装置用ファントム。
【0009】
[4]踵骨を含む被計測部位に超音波を送波して骨部を計測する超音波骨計測装置において用いられる超音波骨計測装置用ファントムの製造方法であって、
(1)踵骨の構造データを取得する構造データ取得工程と、
(2)得られた構造データを基に画像処理を行い、画像データを取得する画像データ取得工程と、
(3)得られた画像データを基にして、皮質骨模擬部と二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部とからなり、且つ該皮質骨模擬部及び該海綿骨模擬部が、それぞれ、アパタイト化合物又はプラスチックからなる骨構造模擬基体を形成する骨構造模擬基体形成工程と、
(4)得られた骨構造模擬基体の空隙に、骨髄模擬物質を充填する骨髄模擬物質充填工程と、を備えていることを特徴とする超音波骨計測装置用ファントムの製造方法。
【0010】
[5]上記骨構造模擬基体と上記骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比を、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比と同等となるように設定する上記[4]に記載の超音波骨計測装置用ファントムの製造方法。
【0011】
[6]上記骨構造模擬基体形成工程において、上記骨構造模擬基体を積層造形法により形成する上記[4]又は[5]に記載の超音波骨計測装置用ファントムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の超音波骨計測装置用ファントムは、生体の踵骨を模擬した構造を有しているため、従来の超音波による骨計測装置、或いは今後市販される計測装置における較正比較基準体として好適に用いることができる。更には、超音波による骨計測装置を用いた骨密度診断における、個人的な評価基準体として用いることもできる。
また、骨構造模擬基体と骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比を、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比と同等にすることにより、より正確な較正比較基準体や評価基準体とすることができる。
更に、ファントムを収納可能な筺体を備える場合には、本超音波骨計測装置用ファントムを超音波骨計測装置に配設した際、このファントムにおける所定の測定部位を、骨計測装置の測定位置に正確に配置することができる。
【0013】
本発明の超音波骨計測装置用ファントムの製造方法によれば、本発明の超音波骨計測装置用ファントムを容易に製造することができる。更には、画像データ処理工程等において、所定の骨密度を設定することができるため、異なる骨密度を有する超音波骨計測装置用ファントムを容易に製造することもできる。
また、骨構造模擬基体と骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比を、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比と同等となるように設定することで、生体の骨構造により近似した構造のファントムを得ることができる。
更に、骨構造模擬基体形成工程において、骨構造模擬基体を積層造形法により形成することで、より精密な構造のファントムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
[1]超音波骨計測装置用ファントム
本発明の超音波骨計測装置用ファントム(以下、単に「ファントム」ともいう。)は、踵骨を含む被計測部位に超音波を送波して骨部を計測する超音波骨計測装置において用いられるものであって、(A)二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部と、該海綿骨模擬部を被覆する皮質骨模擬部とからなり、且つ、該海綿骨模擬部及び該皮質骨模擬部が、それぞれ、アパタイト化合物又はプラスチックからなる骨構造模擬基体と、(B)上記骨構造模擬基体における上記空隙に充填された骨髄模擬物質と、を備えていることを特徴とする。
【0015】
上記「骨構造模擬基体」は、生体における踵骨の骨構造を模擬するものであり、海綿骨模擬部と皮質骨模擬部とからなる。
骨構造模擬基体の形状は超音波による骨計測が可能であれば特に限定されない。特に、骨計測装置からの超音波の送波方向に対して垂直となる、平行な2面(例えば、図1におけるA面及び対向面を参照。)を少なくも有する形状のものが好ましい。例えば、立方体状、直方体状等の形状が挙げられる。尚、これらの形状の角部は面取り等により曲部となっていてもよい。この骨構造模擬基体の形状が立方体状又は直方体状である場合の寸法は、縦20〜80mm、横20〜80mm、厚み20〜80mmであることが好ましく、より好ましくは縦25〜60mm、横25〜60mm、厚み25〜60mmである。
【0016】
上記「海綿骨模擬部」は、二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する。ここでいう、二次元構造の空隙とは、一定方向に伸びた溝や長尺状の空隙を意味する。また、三次元構造の空隙とは、網目構造に連なった空隙を意味する。
尚、空隙の構造が二次元構造である場合には、骨計測装置からの超音波の送波方向に対して垂直となる方向に、溝や長尺状の空隙が形成されていることが好ましい。
【0017】
また、上記「皮質骨模擬部」は、海綿骨模擬部を被覆するものである。この皮質骨模擬部は、骨計測装置からの超音波が送波される部位に少なくとも形成されていればよく、骨計測装置からの超音波の送波方向に対して垂直となる、平行な2面に少なくとも形成されているものが好ましい。上記骨構造模擬基体が立方体状、直方体状等の形状である場合、具体的には、(1)皮質骨模擬部が、6面全て(海綿骨模擬部の外周を全て)被覆している場合、(2)皮質骨模擬部が、6面あるうちの上面以外の5面を被覆している場合、即ち、海綿骨模擬部の上面側のみ開放されている場合、(3)皮質骨模擬部が、6面あるうちの2〜4面を被覆しており、且つ少なくとも平行な2面を被覆している場合(例えば、下面と横側の平行な2面の計3面等)等が挙げられる。尚、この皮質骨模擬部が海綿骨模擬部の外周を全て被覆していない場合には、後述する骨髄模擬物質が漏れ出さないように、後述の保護容器による密封が必要となる。
この皮質骨模擬部の厚みは、5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5mm、更に好ましくは1〜3mmである。
【0018】
上記海綿骨模擬部の材質は、アパタイト化合物又はプラスチックである。また上記皮質骨模擬部の材質は、アパタイト化合物又はプラスチックである。尚、海綿骨模擬部及び皮質骨模擬部の材質は同一であっても、異なっていてもよいが、同一の材質であることがより好ましい。
上記アパタイト化合物としては、例えば、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム化合物等が挙げられる。また、上記プラスチックとしては、例えば、ナイロン等のポリアミド繊維、無機粒子及び/又は有機粒子混入樹脂、エポキシ系光硬化樹脂、無機粒子及び/又は有機粒子混入エポキシ系光硬化樹脂等が挙げられる。これらのなかでも無機粒子及び/又は有機粒子混入樹脂、エポキシ系光硬化樹脂、無機粒子及び/又は有機粒子混入エポキシ系光硬化樹脂が好ましい。
上記無機粒子としては、シリカ、チタン、リン酸カルシウム化合物等の粒子が挙げられる。また、上記有機粒子としては、ポリエチレン等の粒子が挙げられる。これらの粒子を混入させた場合には、樹脂の硬度や超音波音速等を容易に調整することができる。
【0019】
また、骨構造模擬基体の超音波音速は、2600〜3800m/sであることが好ましく、より好ましくは2800〜3600m/s、更に好ましくは3000〜3400m/sである。この超音波音速が2600〜3800m/sである場合には、後述する生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比に容易に設定することができるため好ましい。
尚、本明細書中における超音波音速とは、音速測定器(パナメトリックス社製、「200MHzコンピュータ制御パルサー・レシーバ」、探触子;5MHz、温度;約23℃)にて測定された値を意味する。
【0020】
また、骨構造模擬基体の密度は、1.2〜2.5g/cmであることが好ましく、より好ましくは1.3〜2.3g/cm、更に好ましくは1.5〜2.2g/cmである。
【0021】
上記「骨髄模擬物質」は、骨構造模擬基体における空隙に充填されるものである。
この骨髄模擬物質としては、例えば、水、水溶液、油、高分子材料等が挙げられる。上記水溶液としては、例えば、食塩水、ポリエチレングリコール水溶液等が挙げられる。上記油としては、オリーブ油等の植物油等が挙げられる。上記高分子材料としては、(1)ゼラチン、寒天、こんにゃく、及びこれらのゲル状物やゾル状物、(2)ポリエチレングリコール、及びそのアルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール等)溶液等が挙げられる。これらのなかでも、水、水溶液、高分子材料が好ましい。尚、これらの骨髄模擬物質は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてよい。
また、骨髄模擬物質の超音波音速を調整するために、上記骨髄模擬物質には、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール、グリセリン、炭酸ナトリウム水溶液、ショ糖等の音速調整剤が含有されていてもよい。尚、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてよい。
【0022】
また、骨髄模擬物質の超音波音速は、1200〜1800m/sであることが好ましく、より好ましくは1200〜1600m/s、更に好ましくは1200〜1500m/sである。この超音波音速が1200〜1800m/sである場合には、後述する生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比に容易に設定することができるため好ましい。
【0023】
また、骨髄模擬物質の密度は、0.7〜1.3g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2g/cm、更に好ましくは0.9〜1.1g/cmである。
【0024】
また、上記骨構造模擬基体と骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比は、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比と同等であることが好ましい。尚、この音響インピーダンスは、以下の式により算出することができる。
[音響インピーダンス(kg/m・s)]=[密度(g/cm)]×[超音波音速(m/s)]
ここで、生体骨における骨質及び骨髄の密度と超音波音速は、一般的に、それぞれ下記の値であることが知られており、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比(骨質:骨髄)は約4.2:1である。
生体骨における骨質;密度:約2.1g/cm、超音波音速:約3000m/s
生体骨における骨髄;密度:約1.0g/cm、超音波音速:約1500m/s
【0025】
そのため、本発明のファントムにおける骨構造模擬基体と骨髄模擬物質との音響インピーダンスの具体的な比(骨構造模擬基体:骨髄模擬物質)は、(3.6〜4.8):1であることが好ましく、より好ましくは(3.8〜4.6):1、更に好ましくは(4.0〜4.4):1、特に好ましくは4.2:1である。
【0026】
また、本発明のファントムは、上記骨構造模擬基体を表面に備える基台を備えていてもよい。尚、この基台は、骨構造模擬基体を形成する際の土台となるものである。
上記基台の形状は、表面に骨構造模擬基体を備えることが可能であれば特に限定されないが、例えば、板状、直方体状等であることが好ましい。尚、これらの形状の角部は面取り等により曲部となっていてもよい。
この基台の材質は、前述のアパタイト化合物又はプラスチックであることが好ましく、前記骨構造模擬基体と同一の材質であることがより好ましく、特に前記皮質骨模擬部と同一の材質であることが好ましい。
また、この基台は、上記骨構造模擬基体と一体形成されていてもよいし、予め形成しておいたものであってもよい。
【0027】
更に、本発明のファントムは、上記骨構造模擬基体、骨髄模擬物質及び基台のうち少なくとも骨構造模擬基体及び骨髄模擬物質を収納可能な保護容器を備えていてもよい。本ファントムが保護容器を備える場合、骨構造模擬基体及び骨髄模擬物質を十分に保護できるため好ましい。また、骨構造模擬基体における皮質骨模擬部が海綿骨模擬部の一部のみを被覆している場合には、この保護容器により、骨髄模擬物質を密封することができる。
上記保護容器の形状は、骨構造模擬基体及び骨髄模擬物質等を収納可能であれば特に限定されず、所望の強度を有する限り壁厚の薄いものが好ましい。具体的には、この壁厚は、5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5〜3mmである。
また、この保護容器の材質は、前述のアパタイト化合物又はプラスチックであることが好ましく、前記骨構造模擬基体と同一の材質であることがより好ましく、特に前記皮質骨模擬部と同一の材質であることが好ましい。
【0028】
また、本発明のファントムは、超音波骨計測装置に本ファントムを配設した際に、このファントムにおける所定の測定部位が、超音波骨計測装置の超音波が送波される測定位置に配置されるように、ファントムを収納可能な筺体を備えていてもよい。
上記筺体の形状は、一般の超音波骨計測装置において被計測部位が固定される測定部位に配設可能な形状であれば特に限定されない。例えば、ヒトの踵の形を模擬した形状、直方体状、立方体状等とすることができる。尚、これらの形状の角部は面取り等により曲部となっていてもよい。
この筺体の材質は、超音波を透過するものであれば特に限定されない。具体的には、前述のアパタイト化合物又はプラスチックであることが好ましく、前記骨構造模擬基体と同一の材質であることがより好ましく、特に前記皮質骨模擬部と同一の材質であることが好ましい。
【0029】
また、この筺体は、本ファントムと筺体の内壁との間に生じる空間を埋める超音波透過補助具を備えていてもよい。この超音波透過補助具としては、例えば、水等の上記骨髄模擬物質として挙げられている超音波を透過する物質が充填されたもの等が挙げられる。
更に、この筺体は、本ファントムにおける所定の測定部位が、超音波骨計測装置の超音波が送波される測定位置に配置されるように固定可能なファントム支持体を備えていることが好ましい。
【0030】
また、本発明のファントムの骨密度は、所望の骨密度に設定することができるが、通常は、30〜35%の正常値を有するものとすることができる。
更に、多段階の骨密度のファントムをそれぞれ形成することで、骨粗しょう症診断の評価基準体とすることもできる。例えば、過剰値のもの(35%を超え、45%以下)、正常値のもの(30〜35%)、注意を要するもの(27%以上、30%未満)、骨粗しょう症として診断されるもの(20%以上、27%未満)等である。
【0031】
[2]超音波骨計測装置用ファントムの製造方法
本発明のファントムの製造方法は、以下の工程を備える。
(1)上記踵骨の構造データを取得する構造データ取得工程
(2)得られた構造データを基に画像処理を行い、画像データを取得する画像データ取得工程
(3)得られた画像データを基にして、皮質骨模擬部と二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部とからなり、且つ該皮質骨模擬部及び該海綿骨模擬部が、それぞれ、アパタイト化合物又はプラスチックからなる骨構造模擬基体を形成する骨構造模擬基体形成工程
(4)得られた骨構造模擬基体の空隙に、骨髄模擬物質を充填する骨髄模擬物質充填工程
【0032】
上記「(1)構造データ取得工程」では、生体の踵骨の構造データが取得される。
上記構造データは、例えば、X線CT(特に小焦点のX線を用いた高分解能X線CT)による測定等により取得することができる。
【0033】
上記「(2)画像データ取得工程」では、得られた構造データを基に画像処理が行われ、踵骨の画像データが取得される。
具体的な画像処理としては、例えば、構造データのボリュームレンダリング、境界スムージング、骨密度の調整等が挙げられる。
本発明においては、この画像処理における骨密度の調整により、所定の骨密度のファントムを形成することができる。
【0034】
上記「(3)骨構造模擬基体形成工程」では、得られた画像データを基に、皮質骨模擬部と二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部とからなる骨構造模擬基体が形成される。
この骨構造模擬基体の原料としては、前述のアパタイト化合物又はプラスチックとなる粉末や溶液等が用いられる。
この工程においては、得られる骨構造模擬基体と、後工程で充填される骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比が、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比と同等となるように設定されることが好ましい。特に、骨構造模擬基体と骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比(骨構造模擬基体:骨髄模擬物質)が、(3.6〜4.8):1に設定されることが好ましく、より好ましくは(3.8〜4.6):1、更に好ましくは(4.0〜4.4):1、特に好ましくは4.2:1である。
【0035】
この工程における骨構造模擬基体は、積層造形法、射出形成法等により形成することができる。これらのなかでも、積層造形法により形成することが好ましく、特に光積層造形法又は粉末積層造形法により形成することが好ましい。
【0036】
また、骨構造模擬基体形成工程においては、後工程における骨髄模擬物質を上記空隙に容易に充填することができるように、予め充填部を形成しておくことが好ましい。尚、この充填部は、形成された皮質骨模擬部を削って得ることもできる。
【0037】
上記「(4)骨髄模擬物質充填工程」では、得られた骨構造模擬基体の空隙に骨髄模擬物質が充填される。尚、骨髄模擬物質については、前述の説明をそのまま適用することができる。
上記骨髄模擬物質の充填方法は特に限定されないが、例えば、細管等による注入により充填することができる。特に、真空引きした状態で行うと、容易に充填することができ好ましい。
【0038】
また、本発明においては、通常、上記充填工程の後に、上記骨髄模擬物質が漏れ出さないように密封するための密封工程を行うことによりファントムが形成される。
上記密封方法としては、例えば、骨髄模擬物質を充填後、皮質骨模擬部を更に形成して密封する方法や、保護容器に収納することにより密封する方法等が挙げられる。
尚、上記保護容器については、前述の説明をそのまま適用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0040】
[1]超音波骨計測装置用ファントムの構成
図1に示すように、本実施例のファントム1は、基台2と、該基台2上に形成された空隙を有する骨構造模擬基体3と、この骨構造模擬基体3の空隙に充填された骨髄模擬物質4とから構成されている。
上記基台2は、シリカ粉混入エポキシ系光硬化樹脂(ディーメック社製、商品名「SCR802」、超音波音速;3200m/s、密度;1.6g/cm)からなり、直方体状(縦47×横37×高さ10mm)である。尚、この基台2は、下記の海綿骨模擬部31と皮質骨模擬部32と共に一体形成されている。
上記骨構造模擬基体3は、二次元構造の空隙(高さ方向に伸びる溝や長尺状の空隙)を有する海綿骨模擬部31と、この海綿骨模擬部31の上面以外を被覆する皮質骨模擬部32と、海綿骨模擬部31の上面を被覆する皮質骨模擬部321(蓋部)と、から構成されている。また、この骨構造模擬基体3は、全て上記シリカ粉混入エポキシ系光硬化樹脂からなり、直方体状(縦45×横35×高さ40mm、角部の面取り有り)である。尚、本実施例のファントムの骨密度、即ち、骨構造模擬基体3の実質体積(骨髄模擬物質が充填される空隙部分を除いた体積)は、33%に設定されている。
上記骨髄模擬物質4は、ポリエチレングリコール25%のエタノール溶液(超音波音速;1300m/s、密度;0.9g/cm)である。
また、骨構造模擬基体3と骨髄模擬物質4との音響インピーダンスの比は、4.38:1(骨構造模擬基体:骨髄模擬物質)である。
【0041】
また、図2に示すように、ファントム1は、骨構造模擬基体3等を収納でき且つ保護することが可能な保護容器5を備える形態とすることができる。尚、この図2においては、基台21の周囲の形状は、骨構造模擬基体3の周囲の形状と同一に設定したものである。
上記保護容器5は、上記シリカ粉混入エポキシ系光硬化樹脂からなり、直方体状(角部の面取り有り)である。尚、この保護容器5の内壁と、骨構造模擬体3における皮質骨模擬部32の外周とは密着していることが好ましい。
尚、この保護容器5を備える場合、ファントム1において蓋部となっている皮質骨模擬部321は存在していなくてもよく、この保護容器5により、骨髄模擬物質4を密封することができる。
【0042】
また、図3に示すように、ファントム1は、このファントム1を収納可能な筺体6を備える形態とすることができる。
この筺体6は、上記シリカ粉混入エポキシ系光硬化樹脂からなり、直方体状(角部の面取り有り)である。
また、この筺体6における内壁と、収納されるファントム1との隙間には、超音波透過物質(例えば、水等)が充填された超音波透過補助具7が配置されている。
更に、ファントム1は、超音波骨計測装置8に配設した際に、ファントム1における所定の測定部位(超音波が透過される平行な2面、即ち、図1におけるA面及びその対向面)が、超音波骨計測装置8の超音波が送波される測定位置(超音波プローブ81間)に配置されるように、上面側でファントム支持体91により固定されており、且つ下面側でファントム支持体92により固定されている。
【0043】
[2]ファントムの製造方法(図1参照)
(1)三次元構造データ取得工程
高分解能X線CT(ユニハイトシステム社製、マイクロフォーカス型高分解能CT)により、踵骨のCT撮影を行うことによって、踵骨の三次元構造データを得た。
【0044】
(2)三次元画像データ取得工程
その後、得られた構造データを基に、ボリュームレンダリング、境界スムージング、骨密度調整等の画像処理を行い、三次元画像データを得た。
【0045】
(3)骨構造模擬基体形成工程
次いで、得られた画像データを基に、光積層造形装置(ソニーマニュファクチャリングシステムズ社製、型番「SCS−8100」、スポットサイズ;0.15mm、積層厚;0.10mm)を用いて、基台2と皮質骨模擬部32と二次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部31とからなる上記シリカ粉混入エポキシ系光硬化樹脂製の上面が開放された骨構造模擬基体3を形成した。
【0046】
(4)骨髄模擬物質充填工程
その後、得られた骨構造模擬基体3の空隙に、基体3上部の開放側から細管を用いて骨髄模擬物質31を充填した。
【0047】
(5)密封工程
次いで、予め、上記光積層造形装置で形成しておいた蓋部となる皮質骨模擬部321を、エポキシ系接着剤を用いて、骨髄模擬物質4が充填された骨構造模擬基体3に接着することにより、本ファントム1を製造した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ファントムを説明する模式図である。
【図2】保護容器を備えるファントムを説明する模式図である。
【図3】筺体を備えるファントムを説明する模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1;ファントム、2、21;基台、3;骨構造模擬基体、31;海綿骨模擬部、32、321;皮質骨模擬部、4;骨髄模擬物質、5;保護容器、6;筺体、7;超音波透過補助具、8;超音波骨計測装置、81;超音波プローブ、91、92;ファントム支持体、A;被測定面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
踵骨を含む被計測部位に超音波を送波して骨部を計測する超音波骨計測装置において用いられる超音波骨計測装置用ファントムであって、
(A)二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部と、該海綿骨模擬部を被覆する皮質骨模擬部とからなり、且つ、該海綿骨模擬部及び該皮質骨模擬部が、それぞれ、アパタイト化合物又はプラスチックからなる骨構造模擬基体と、
(B)上記骨構造模擬基体における上記空隙に充填された骨髄模擬物質と、を備えていることを特徴とする超音波骨計測装置用ファントム。
【請求項2】
上記骨構造模擬基体と上記骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比が、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比と同等である請求項1に記載の超音波骨計測装置用ファントム。
【請求項3】
更に、(C)本超音波骨計測装置用ファントムを超音波骨計測装置に配設した際に、該超音波骨計測装置用ファントムにおける所定の測定部位が、上記超音波骨計測装置の超音波が送波される測定位置に配置されるように、上記超音波骨計測装置用ファントムを収納可能な筺体を備える請求項1又は2に記載の超音波骨計測装置用ファントム。
【請求項4】
踵骨を含む被計測部位に超音波を送波して骨部を計測する超音波骨計測装置において用いられる超音波骨計測装置用ファントムの製造方法であって、
(1)踵骨の構造データを取得する構造データ取得工程と、
(2)得られた構造データを基に画像処理を行い、画像データを取得する画像データ取得工程と、
(3)得られた画像データを基にして、皮質骨模擬部と二次元構造若しくは三次元構造の空隙を有する海綿骨模擬部とからなり、且つ該皮質骨模擬部及び該海綿骨模擬部が、それぞれ、アパタイト化合物又はプラスチックからなる骨構造模擬基体を形成する骨構造模擬基体形成工程と、
(4)得られた骨構造模擬基体の空隙に、骨髄模擬物質を充填する骨髄模擬物質充填工程と、を備えていることを特徴とする超音波骨計測装置用ファントムの製造方法。
【請求項5】
上記骨構造模擬基体と上記骨髄模擬物質との音響インピーダンスの比を、生体骨における骨質と骨髄との音響インピーダンスの比と同等となるように設定する請求項4に記載の超音波骨計測装置用ファントムの製造方法。
【請求項6】
上記骨構造模擬基体形成工程において、上記骨構造模擬基体を積層造形法により形成する請求項4又は5に記載の超音波骨計測装置用ファントムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−79896(P2008−79896A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264230(P2006−264230)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】