説明

超音速航空機の実機相当レイノルズ数における自然層流翼の設計方法

【課題】超音速航空機の設計において従来から目標とされる圧力抗力の低減に加え、実機と同等の飛行条件(高レイノルズ数状態)において境界層遷移を遅らせて摩擦抗力を低減し、大幅な揚抗比改善を可能とする自然層流翼の設計方法を提供する。
【解決手段】所望のレイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流化に適した翼上面目標Cp分布を、各翼幅位置(η)に依存したパラメタ類を係数に持つ関数形によって規定し、そのパラメタ類に対し遷移解析法(eN法)を利用した感度解析(パラメトリック・スタディ)を適用することによって、「所望のレイノルズ数において翼上面の境界層遷移を最も後方まで遅らせる」該パラメタ値の最適な組み合わせを探索する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音速航空機の自然層流翼の設計方法、特に超音速航空機の設計において従来から目標とされる圧力抗力の低減に加え、実機と同等の飛行条件(高レイノルズ数状態)において翼表面の境界層遷移を遅らせて摩擦抗力を低減し、大幅な揚抗比改善を可能とする自然層流翼の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音速航空機は、通常の揚力依存抗力と摩擦抗力に加え、亜音速航空機と異なり空気の圧縮性に基づく衝撃波の発生に起因する造波抗力が新たに追加されるため(図8を参照)、経済性の指標となる揚抗比(=揚力/抗力)が減少する。唯一の商用超音速旅客機(SST)であったコンコルドは、その経済性とエンジン騒音並びにソニックブーム(衝撃騒音)に起因する環境適合性が課題であった。亜音速航空機の代表であるボーイング747とコンコルドを比べると、それぞれの揚抗比は約14:7となっており、次世代のSST開発においてはその経済性改善のためにはこの揚抗比7を向上させることが求められる(非特許文献1及び2を参照)。
近年開発が進められている数値流体力学(CFD)を用いた最適空力設計法では、上記の造波抗力に代表される圧力抗力の低減に目標を絞った設計が試みられており、コンコルド開発時に比べて大幅な進歩が見られる(非特許文献3を参照)。このCFDと数学的な最適アルゴリズムを用いた設計法の組合せは、計算機能力と設計上の種々の拘束条件(構造設計、装備設計、飛行特性、等の制限に起因する拘束条件を意味する。)の範囲内において、ほぼ最適な解を導き出せる段階にあると考えられる。そのため、さらなる改善を求めるとした場合、圧力抗力ではなく、これまで超音速航空機の実機設計で顧みられなかった摩擦抗力の低減に挑戦することが必須と考えられる。因みに、本発明は摩擦抗力の低減に関係するものである。
一般に、摩擦抗力は次の物理的な機構に基づいて発生する。まず空気には粘性が存在するため機体表面のごく近傍の気流速度は表面とほぼ同一の速度で動くが、表面から垂直方向に向かう近傍ではゼロから急激に一様流に近い速度まで増加することになるため、機体表面近傍で垂直方向の速度勾配が非常に大きくなる。空気力学によれば、機体表面に空気が及ぼす摩擦力は、この速度勾配と空気の粘性係数の積となる。そのため、機体に働く摩擦抗力を低減するための狙い(設計の主眼)は、この粘性係数あるいは速度勾配を減少させることにある。前者は空気力学的な物性値であるため人為的な制御は困難である。そのため、後者の速度勾配の低減が摩擦抗力低減のための設計の主眼となる。
次に、境界層の一般的性質として、物体表面の前方部は比較的安定した層状の流れを保ち(これを層流境界層と呼ぶ。)、後方に流れるに従ってその層状の流れが崩れて空間及び時間的に乱れた流れの状態(これを乱流境界層と呼ぶ。)に変化することが知られている。この変化は境界層遷移と呼ばれている。境界層の遷移現象は、気流中に含まれる非常にわずかな擾乱が物体面上に発達する層流境界層内で増幅して境界層内に非定常かつ空間的に不規則な変動を誘発するというプロセスを通して生じる(図9を参照)。この層流境界層内の擾乱の増幅や減衰の性質は境界層の不安定性と呼ばれ、一般に二つの不安定機構が存在することが知られている(図10を参照)。一つは2次元翼において生じる流れ方向と直角に軸を持つ渦度分布に起因する不安定波である。これは通常、理論的な発見者の名にちなんでトルミーン−シュリヒティング波(T-S波)と呼ばれている。もう一つは主に3次元後退翼上で生じる流れ方向と直角方向の圧力勾配によって誘起される境界層内の速度成分に起因する不安定性である。これは流れ方向に軸を持つ渦度分布に対応するものと考えられる。この流れは通常“横流れ”と呼ばれるため、この不安定性は横流れ(クロス−フロー)不安定(C-F不安定)と呼ばれている。
この境界層遷移を経て生じた乱流境界層では、その非定常的かつ空間的に不規則な乱れの影響により、速度ゼロの壁面からわずかに離れた箇所の速度は大幅に増速され、その速度勾配は層流境界層より非常に大きくなって、結果として層流境界層の場合より約7倍も大きい摩擦係数となり、摩擦抗力の多大な増加を招くことが知られている。従って、摩擦抗力低減手法の一つとしては、この境界層遷移をなるべく下流(後方)まで遅らせるよう物体形状(翼形状)を工夫するか、或いは人為的に流れを制御する手法が考えられる。前者の手法は、設計において翼形状を工夫し、そのまわりの圧力分布によって自然的に層流化を目指すことから自然層流化と呼ばれ、後者は境界層の吸い込み、あるいは吹き出し、等の能動的な制御を行うことから層流制御と呼ばれている。
後述する本発明は、このうち最も効果が高く、かつエネルギー効率的に有効な自然層流化に主眼を置き、従来の圧力抗力低減を目標として設計される超音速機航空機において、さらに摩擦抗力低減を可能とするために主翼の自然層流化を可能とする新しい設計方法に関するものである。このような試みは1998年当時に世界的な例がなく、宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」という。)によって小型超音速実験機プロジェクト(NEXSTプロジェクト)において初めて取り挙げられた。このプロジェクトでは、マッハ円錐内に後退翼が収まる亜音速前縁の場合を想定して、まず通常は翼前縁近傍で起きていた境界層遷移を翼後縁方向へ大幅に後退させる理想的な主翼上面の圧力分布を創出し、次にそれを実現するための新しい主翼設計方法を開発した(非特許文献3〜6を参照)。
図11は、NEXSTプロジェクトにおいて開発された自然層流翼の設計方法を示すフロー図である。
この翼設計方法は通常の形状を与えて圧力分布を求める手法とは逆で、圧力分布を与えて形状を求める手法から構成されている。この主翼設計方法では、まず従来の圧力抗力低減を目標として設計した全機初期形状を用意し、主翼上面の目標Cp分布(Cp,Target-upper)については、CFD順解析法と遷移点予測法(eN法、図9)を基に創出し、一方、主翼下面目標Cp分布(Cp,Target-lower)については圧力抗力の一つである揚力依存抗力を低減する設計コンセプトのカールソン型ワープ翼(Warp翼)の設計手法から導出される上下面圧力差分布(ΔCp,Target)とこの主翼上面目標Cp分布(Cp,Target-upper)とを組み合わせることにより創出している。次に全機初期形状の主翼断面形状にCFD順解析法を適用して、その主翼断面形状の周りの新たな圧力分布を求め、次にその圧力分布と上記目標Cp分布(Cp,Target)との差分を算出し、この差分算出結果が所定の差分値(閾値)より小さくなるまで、主翼形状の修正とCFD順解析法を繰り返すことにより主翼断面形状を決定している(以下、この形状決定法を「CFD逆問題設計法」と呼ぶ)。なお、ここで言うCFDとは数値流体力学に基づく流れ場解析の手法であり、CFD順解析法とは形状を与えてその周りの流れ場の物理量をCFDを用いて求めることであり、CFD逆問題設計法とは流れ場を特徴づける圧力分布を与えてそれを実現する形状をCFD順解析と形状修正法とを組み合わせて求めることである。従って、この主翼設計方法を基に主翼断面形状を設計する場合、主翼上下面の目標Cp分布(Cp,Target)の内、その中でも特に主翼上面の目標Cp分布(Cp,Target-upper)を精度良く設定(創出)することがキーポイントとなる。上述した通り、大型商用超音速航空機(大型SST)の飛行条件(高レイノルズ数状態)において翼上面の摩擦抗力を低減する自然層流翼を有する大型SSTの前例はないため、高レイノルズ数状態において翼上面の自然層流化に有効な主翼上面の圧力分布は公知のデータとして全くないのが現状である。更に、この主翼上面の目標Cp分布(Cp,Target-upper)の創出は、各横幅位置ごとに翼前縁から翼後縁に到る翼弦方向に沿った圧力分布として主翼全面にわたり設定しなければならず、大変な労力が要求される。
JAXAでは小型超音速実験機プロジェクト(NEXSTプロジェクト)の中で超音速前縁より圧力抗力低減の観点で優れており、さらに低速性能も勝っている亜音速前縁の場合への適用を前提に、まず上記の各種圧力抗力低減設計コンセプトを適用して線形理論手法により設計を行った(図12aの1,2,3が圧力抗力低減コンセプト)。次にCFDを用いた逆問題設計法による主翼上面に限定した自然層流翼設計法の開発を試みた。本自然層流翼設計法は、まず主翼上面の境界層の遷移を遅らせる理想的な圧力分布形を見出し(図12b)、次にその理想的な圧力分布を目標圧力分布として設定し、上記圧力抗力低減コンセプトを用いて設計された形状を全機初期形状として選定し、その翼断面形状をもとにCFD順解法により主翼上下面の圧力分布を推定し、そしてその推定圧力分布と目標圧力分布との差がある一定値より小さくなるまで主翼の形状を微修正しながらCFD順解法を繰り返す。このCFD順問題と形状修正の繰り返しによるCFD逆問題設計法をベースとした自然層流翼設計法により、具体的な翼断面形状を設計した(図12c)。尚、ここで用いた形状の微修正法としては、超音速設計理論(揚力面理論)の定式化をもとに、圧力変化とキャンバー及び厚み変化とが一対一の関係にあることを利用して、それを規定する積分方程式を数値的に解くことで対応した。
このようにして設計された自然層流翼の効果は、まず風洞試験において定性的に検証された(図12d)。ここで定性的と述べているのは、風洞試験の場合、超音速の気流を発生させる風洞の機構において必ず擾乱が生成されるため、上流からの気流には既に有意な乱れが内在されており、それが境界層の不安定性と相まって遷移を促進させる物理的機構が存在し、その影響を取り除くことが一般に困難である以上(極まれな特殊風洞においては、この風洞気流の乱れを大幅に抑制できているものもあるが、それでもゼロにはできないため)、何らかの気流乱れの影響が遷移現象に及ぼされているものと考えられる。そこで、JAXAでは小型の超音速実験機を製造し、気流乱れのない実飛行環境を通して自然層流翼設計効果の検証を行った。実験機の機体全長は11.5mであり、想定した実機のSSTに比べて11%のスケール機であった。飛行実験で計測した遷移に関するデータを分析の結果、設計点において遷移点は翼弦長で約40%後退していることが確認され、NEXST-1実験機設計における自然層流翼設計コンセプトの効果は実証された(図12d、非特許文献3を参照)。
但し、この実験では、全長11.5mのスケール機である以上、レイノルズ数も想定実機の11%となっており、NEXSTプロジェクトにおいて開発された上記自然層流翼設計法は、実機設計適用技術の確立の観点から課題を有し、NEXST-1 実験機の設計で見出した目標圧力分布形を大幅に改善する必要が明らかとなった(非特許文献7を参照)。
これはレイノルズ数の増大が境界層の不安定性の増幅を強くもたらし、主翼上面の目標圧力分布の創出においてはレイノルズ数依存性を十分考慮して設定すべきであることと等価である。特に実機相当の高レイノルズ数ではC-F不安定が非常に強くなるため、NEXST-1実験機の設計で見出した主翼上面の目標圧力分布においても十分な効果が発揮されていないことが後に明らかになった。そこで、大型SSTのような実機相当の高レイノルズ数においても同様の自然層流化の効果が得られるように圧力分布の改良がJAXAにおいて検討された。その結果、一つの成果として前縁近傍の加速勾配をNEXST-1 実験機の設計時より3倍以上も大きくすると効果のあることは見出されたが(非特許文献7を参照)、その後の詳細な解析により、その成果の基本的な考え方は定性的に妥当なものの、定量的には必ずしも推定通り効果が現れず、抜本的な改良の必要性が明らかになった。その主原因は当時用いた遷移解析法におけるモデルの精度に起因する誤差のためであった。またNEXST-1 実験機の主翼平面形以外にも適用可能な汎用性の高い自然層流翼設計法も構築されていない。本発明はこれらの課題を解決するものである。
最後に、超音速での自然層流化の研究としては、上記のNEXSTプロジェクトとほぼ同時期に独立に米国で行われた研究例がある(非特許文献8を参照)。これは、NEXST-1の自然層流翼設計コンセプトと全く異なる層流翼設計コンセプトで、その設計コンセプトの根幹は、後述するようにNEXST-1設計ではC-F不安定を抑制する手法を採用したのに対して、上記米国で行われた研究例はT-S不安定の抑制に主眼を置くもので、従来の圧力抗力低減の観点から決められる45°以上の大きな後退角を有する主翼と異なり、後退角が10〜20°程度の小さい翼で前縁の尖った超音速前縁の平面形を対象としている。この前縁が尖った薄い厚み分布を有する特徴的な断面形では確かに流れ方向の圧力勾配が単調に減少するために、T-S不安定の抑制に効果的な加速勾配となる利点を有するが、低アスペクト比で後退角が上述の10〜20°程度と小さくすることから揚力依存抗力は増大し、摩擦抗力と圧力抗力の両方の低減は達成困難であることが考えられる。尚、この手法による遷移点後退の効果は、F-15戦闘機の下腹部にこの主翼形状を垂直に取り付けた飛行実験において(但し、翼そのものはスケール模型に相当)可視化法により確認されており、実際の飛行実機による自然層流化の確認という点では高い技術レベルが認められるが、スケール模型であること(レイノルズ数が実機相当ではないこと)と圧力抗力低減との両立が図られていない点は実機設計への適用の点で全くの未完成であると考えられる。また欧州では自然層流化の研究・開発の動きは皆無であることから、本発明の有効性が強調できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】吉田憲司:超音速旅客機の空力形状に関する要素研究について−社内研究成果を例として−、日本航空宇宙学会誌,Vol.42,No.486(1994),pp.I-13
【非特許文献2】吉田憲司、鈴木健一郎、岩宮敏幸、黒田文武:小型超音速実験機の空力設計コンセプトの再考察−第1世代SSTとの比較−、第31回日本航空宇宙学会年会、2000
【非特許文献3】K. Yoshida: Supersonic drag reduction technology in thescaled supersonic experimental airplane project by JAXA, Progress in Aerospace Sciences, Vol.45, No.4-5, pp.124-146 (2009)
【非特許文献4】K. Yoshida: Overview of NAL's Program Including the Aerodynamic Design of the Scaled Supersonic Experimental Airplane, Fluid Dynamics Research on Supersonic Aircraft of VKI, RTO Educational Notes 4, 1998
【非特許文献5】K. Yoshida, Y. Makino: Aerodynamic Design of Unmanned and Scaled Supersonic Experimental Airplane in Japan, ECCOMAS 2004
【非特許文献6】吉田憲司:小型超音速実験機(ロケット実験機)飛行実験結果, 日本流体力学会誌ながれ, 25巻, pp.321-328 (2006年)
【非特許文献7】上田良稲、吉田憲司:超音速自然層流翼設計における最適圧力分布の考察、第32回流体力学講演会, 2000
【非特許文献8】I. Kroo, P. Sturdza, R. Tracy, J. Chase: Natural Laminar Flow for Quiet and Efficient Supersonic Aircraft, AIAA-2002-0146, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、超音速航空機の設計において従来から目標とされる圧力抗力の低減に加え、実機相当の高レイノルズ数において翼表面の境界層遷移を遅らせて摩擦抗力を低減し、大幅な揚抗比改善を可能とする大型商用超音速航空機の自然層流翼の設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するための請求項1に記載の自然層流翼の設計方法は、翼断面形状の初期形状を設定するプロセスと、翼断面形状を得てその周りの流れ場の圧力分布を求める順解析プロセスと、翼表面の境界層遷移位置を推定する遷移解析プロセスと、前記圧力分布に基づき翼上下面の目標圧力分布を設定するプロセスと、前記順解析プロセスと「第n次翼断面形状周りの流れ場の解として得られる圧力分布が前記目標圧力分布に収束するように翼断面形状を修正する」形状修正プロセスとから構成される逆問題設計プロセスとを備えた自然層流翼の設計方法であって、
前記目標圧力分布の内、翼上面目標圧力分布については、各翼幅位置における「翼前縁から翼後縁に到る翼弦方向」を定義域とし且つその翼幅位置に依存したパラメタ類を係数に持つ関数形によって規定し、次に該パラメタ類の各パラメタ値の変動が翼上面の境界層遷移に与える感度を前記遷移解析プロセスによって解析し、「所望のレイノルズ数において翼上面の境界層遷移を最も後方まで遅らせる」該パラメタ値の最適な組み合わせを探索することにより決定されることを特徴とする。
上記自然層流翼の設計方法では、NEXSTプロジェクトにおいて開発され、NEXST-1実験機の風洞試験および飛行実験によってその妥当性が確認された自然層流翼の設計方法、すなわち目標圧力分布を得てそれを実現する翼断面形状を求めるCFD順解析と形状修正から成る逆問題設計プロセスを踏襲しながら、大型SST相当の高レイノルズ数状態でも翼上面の境界層遷移を効果的に遅らせる自然層流翼に適した目標圧力分布の創出を容易にする新たなプロセスが追加されている。すなわち、自然層流化に適した翼上面の目標圧力分布については、各翼幅位置に依存したパラメタ類を係数に持つ関数形によって規定し、各パラメタ値の変動が境界層遷移変動に与える感度解析をeN法と呼ばれる遷移解析法を用いて個別に分析し、境界層遷移を最も後方へ遅らせる各パラメタ値の最適な組み合わせを探索することにより、大型SST相当の高レイノルズ数状態においても翼上面の境界層遷移(乱流への遷移)を後方まで遅らせる目標圧力分布を容易に創出することが出来るように構成されている。
【0006】
請求項2に記載の自然層流翼の設計方法では、前記目標圧力分布の内、翼下面目標圧力分布については、前記翼上面目標圧力分布と、翼幅方向に対し捩り角とキャンバー分布の最適組み合わせを実現する上下面圧力差分布とを基に決定されることとした。
上記自然層流翼の設計方法では、翼下面の目標圧力分布については、上記パラメタ類の遷移解析法を用いた感度解析により得られたその翼上面目標圧力分布と、翼幅方向に対し捩り角とキャンバー分布の最適組み合わせを実現する設計法、例えばワープ設計法により得られた翼上下面圧力差分布とを組み合わせることにより創出することが出来るように構成されている。従って、これら翼上面目標圧力分布と翼下面目標圧力分布を組み合わせた圧力分布を逆問題設計プロセスにおける目標圧力分布とすることによって、翼の圧力抗力および摩擦抗力を低減し、大幅な揚抗比改善を可能とする大型SST用自然層流翼を設計することが出来るようになる。
【0007】
請求項3に記載の自然層流翼の設計方法では、翼弦方向をX軸と翼幅方向をY軸とし、各翼幅位置(Y=y)における翼前縁からの翼弦方向の点(X)を、その翼弦長(=c(y))によって無次元化(ξ≡x/c(y))する時、
前記各翼幅位置における翼上面目標圧力分布の形状を、前記翼前縁からΔξ<0.01の極狭い領域において圧力の急激な加速勾配と急激な減速勾配が連続し、それ以降のΔξ≦ξ≦1の広い領域において圧力が緩やかに加速し同時に加速量を低減させながら一定値に漸近する緩い加速勾配が連続するように創出することとした。
上記自然層流翼の設計方法では、大型SST用の大きな後退角を有する主翼を対象としている。そのため、まず45°以上の大きな後退翼の前縁近傍で支配的となるC-F不安定の抑制に主眼を置き、次に前縁近傍以降で支配的となるT-S不安定の抑制も併せて取り込む工夫を試みた。具体的にはC-F不安定は横方向の圧力勾配が主原因であるため、そもそも全ての方向の圧力勾配を小さくすることが設計方針となる。しかしながら、翼厚、翼端、揚力発生の諸効果を加味すると、圧力勾配を小さく抑えるのは不可能である。
そこで、まず流れ方向の圧力勾配として、大きな変化を有する部分を約1%翼弦長程度の前縁近傍のごく最初の領域に限定し、その後はほとんど圧力勾配の生じない分布としてほぼ一定の圧力レベルを有するように翼幅方向に展開して比較的大きな圧力勾配とならないように工夫する分布形を考案した。これは大きな後退角を有する主翼に最も適した自然層流型の理想圧力分布形に対応するものと考えられ、その分布形を特徴づけるパラメタの遷移特性に対する感度を詳細に調査し、適用する主翼規模に対応するレイノルズ数毎に具体的な分布形を設定した。この分布形を流れ方向でみると約0.5%翼弦長程度の前縁近傍で急激に加速し、最小圧力点に達した後、同程度のわずかな距離で急激に減速させ、再度今度は翼後縁までかけて緩やかに加速するという傾向を有する。最初の急加速は上述の加速領域を短くするためのものだが、2番目の急激な減速は、最初の加速領域で生じた横流れを逆方向の圧力勾配を設けることで、その発達を抑制するために設けた。これはレイノルズ数が大きくなればなるほど、その効果を大きく使う必要が生じるもので、総じてこの特徴的な圧力分布形はほぼステップ関数的な形状となっている点が大きな特徴である。
【0008】
請求項4に記載の自然層流翼の設計方法では、前記翼上面目標圧力分布のうち、各翼幅位置における前記急加速勾配の最大到達点(最小圧力値)および前記緩い加速勾配に係る一定値については、前記初期形状に対し前記順解析プロセスを適用することにより得られた初期圧力分布の、同じ翼幅位置における翼弦長の一定範囲の圧力分布の平均値に等しくなるように設定することを基本とし、前記遷移解析プロセスを行って両者の値をチューニングしつつ遷移点が最も後方に下がる組み合わせを再設定することとした。
上記自然層流翼の設計方法では、圧力分布の翼幅方向に対する展開が横流れ不安定(C-F不安定)に直接関係することを考慮して、初期形状に対し順解析プロセスを適用することにより得られた初期圧力分布の各翼幅位置における翼弦長の一定範囲、例えば20%から80%範囲の平均圧力レベルを、各翼幅位置における翼弦方向の圧力分布の代表値として選定し、そして各翼幅位置における前縁近傍の最大圧力到達点(最小圧力値)がこの代表値に基本的に等しくなるように、更には翼後縁における漸近値がこの代表値に基本的に等しくなるように各翼幅位置における翼上面目標圧力分布を創出し、遷移解析を行ってその代表値を独立にチューニングしつつ遷移点が最も後方に位置する値の組み合わせを見い出すことにより、横流れ不安定を抑制するようにした。
【0009】
請求項5に記載の自然層流翼の設計方法では、前記翼上面目標圧力分布のうち、前記各翼幅位置における翼前縁の圧力については、主流マッハ数と前記翼の前縁後退角から定まる淀み点圧力に一定値を掛けた値に設定することを基本とした。
翼上面目標圧力分布の翼前縁における値について、正の揚力状態の場合、一般に淀み点が下面の前縁近傍にあることから幾分下がった値が設定されるべきである。その決定には、初期形状に対するCFD順解析の結果をもとに前縁でのCpの値を算出し、その値を採用するのが最も正確である。従って、この値を用いても良い。しかし、本願発明者は、CFD順解析の結果から求めること以外に、主流マッハ数(M)と前縁後角(ΛLE)から定まる淀み点圧力(Cp,staganation)に一定値、例えば0.86を掛けた値が、初期形状に対するCFD順解法の結果と好適に整合することを経験的に見出しているので、その値を用いると設計過程が効率的となるため、この値の設定を基本とした。
【0010】
請求項6に記載の自然層流翼の設計方法では、前記各翼幅位置(Y=y)を半翼幅長さ(s)によって無次元化(η≡y/s)する時、
前記翼上面目標圧力分布(Cp(ξ,η))を、前記各翼幅位置に依存したパラメタ類{A0(η),A1(η),A2(η),A3(η),A4(η),B1(η),B2(η),B3(η)}と同依存しないパラメタ類{P1,P2}を係数に持つ下記指数関数によって規定し、
[数1]
Cp(ξ,η)=A0(η)・1+A1(η)・[exp(B1(η)ξ)−1]+A2(η)・[exp(B2(η)ξ)−1]+A3(η)・[exp(B3(η)ξP1)−1]+A4(η)・ξP2
該パラメタ類の各パラメタ値の変動が翼上面の境界層遷移に与える感度を前記遷移解析プロセスによって解析し、「所望のレイノルズ数において翼上面の境界層遷移を最も後方まで遅らせる」該パラメタ値の最適な組み合わせを探索することとした。
本願発明者は、所望のレイノルズ数において翼上面の境界層遷移を後方に遅らせる自然層流化に適した目標圧力分布、すなわち各翼幅位置において翼前縁の約1%翼弦長程度の極めて狭い範囲で急激な加速勾配と急激な減速勾配が連続しそれ以降の広い範囲で緩い加速勾配が連続する圧力分布を上記関数形によって好適に表現できることを見出した。そして、各パラメタ類の決定については、既に求めたパラメタ値(実績値)を基に遷移解析法を利用した感度解析(パラメトリックスタディ)を行うことにより決定する。このように、自然層流化に適した目標圧力分布が、パラメタ類を係数に持つ関数形で規定し、そのパラメタ類を遷移解析法を利用した感度解析を行い、境界層遷移を最も後方へ遅らせる各パラメタ値の最適な組み合わせを探索することにより、大型SST相当の高レイノルズ数状態においても翼上面の境界層遷移を後方まで遅らせる目標圧力分布を容易に創出することが出来るようになる。
【0011】
請求項1から6の何れかに記載の自然層流翼の設計方法を基に製造される超音速航空機用翼において、各翼幅位置における翼弦方向に沿っての翼断面形状は、前縁近傍(淀み点)での曲率が、該前縁を含む0.1%翼弦長幅以上の線素領域において通常の翼断面形状に比べ1/3以下の一定値を有し、該線素領域から後縁に向かう0.2%翼弦長幅の線素領域においてその一定値のさらに1/10以下まで急激に減少することを特徴とする。
上記超音速航空機用翼は、圧力抗力の低減に加え、翼表面の摩擦抗力をも低減することが可能となり、大幅な揚抗比改善を可能にする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自然層流翼の設計方法によれば、超音速航空機の圧力抗力を低減するように最適化された全機初期形状に対して、主翼の揚力依存抗力を損なわずに、さらに主翼上面の摩擦抗力を低減させることが可能となる。特に大型SSTの飛行環境(高レイノルズ数状態)で亜音速前縁を有する主翼平面形(航空機形態)において主翼上面の境界層遷移を遅らせる結果、層流領域を広くして摩擦抗力を低減する、いわゆる主翼上面の自然層流化を目的とする先行技術は皆無であり、従ってその設計方法も未確立であったが、本発明の自然層流翼の設計方法によれば、大型SSTにおける翼・胴体の揚力依存抵抗(圧力抵抗)と主翼上面の摩擦抗力を同時に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の自然層流翼の設計方法を示すフロー図である。
【図2】本発明が対象とするSST形態の代表的主翼平面形の例を示す説明図である。
【図3】全機初期形状(デルタ平面形)にCFD順解析法を適用することにより得られた翼上面圧力分布を示す説明図である。
【図4a】高レイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流化に適した翼上面目標Cp分布の形状的特徴を示す説明図である。
【図4b】大型SSTを想定した高レイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流化に適した主翼上面目標Cp分布を規定する関数形の一例を示す説明図である。
【図5a】大型SSTを想定した高レイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流化に適した主翼上面目標Cp分布のパラメタ類の一例を示す説明図である。
【図5b】図5aの目標Cp分布を図示したものである。
【図6】図5bの目標Cp分布形をもとに行った遷移解析結果を示す説明図である。
【図7a】大型SSTの高Re数型自然層流翼の設計例としての翼断面形状の比較を示す説明図である。
【図7b】大型SSTの高Re数型自然層流翼の設計例としての翼断面形状の比較(重ね描き図)を示す説明図である。
【図7c】大型SSTの高Re数型自然層流翼の設計例としての翼断面形状の前縁近傍の曲率分布の比較(重ね描き図)を示す説明図である。
【図8】本発明の学問的背景として超音速機の抵抗成分を示す説明図である。
【図9】本発明の学問的背景として遷移点予測手法の概要を示す説明図である。
【図10】本発明の学問的背景として遷移現象の物理的機構を示す説明図である。
【図11】NEXSTプロジェクトにおいて開発された自然層流翼の設計方法を示すフロー図である。
【図12a】JAXA小型超音速実験機の空力設計コンセプトを示す説明図である。
【図12b】JAXA小型超音速実験機の設計目標Cp分布の概要を示す説明図である。
【図12c】JAXA小型超音速実験機の逆問題設計結果の概要を示す説明図である。
【図12d】JAXA小型超音速実験機の自然層流翼設計の実験的検証結果の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の自然層流翼の設計方法を示すフロー図である。
この設計方法は、図11に示すNEXSTプロジェクトにおいて開発された自然層流翼の設計方法(以下、「従来の自然層流翼の設計方法」という。)の特徴であった翼形状を与えてその周りの圧力分布を求める「CFD順解析法」と、翼形状周りの圧力分布が目標圧力分布に収束するように翼形状を修正する「形状修正法」とから構成される目標圧力分布を与えてそれを実現する翼形状を求める「CFD逆問題設計法」を具備しながら、従来の自然層流翼の設計方法では難しかった大型SST相当の飛行条件(高レイノルズ数状態)において翼上面の摩擦抗力を低減する(境界層遷移点を後方へ遅らせる)自然層流翼の設計に必要な目標圧力分布(目標Cp分布)を容易に創出することが出来るように構成されている。詳細については図3から4を参照しながら後述するが、大型SST相当の飛行条件において自然層流翼を可能にする主翼上面の目標Cp分布が、各翼幅位置(η)における翼前縁から翼後縁に到る翼弦方向を定義域(ξ)とし且つその翼幅位置に依存した複数のパラメタ類(本実施形態では{A0,A1,A2,A3,A4,B1,B2,B3}。)を係数に持つ関数形によって定量的に規定されている。そして、ベースとなる関数形はそのままに、そのパラメタ類に対し遷移解析法(eN法)を利用した感度解析(パラメトリック・スタディ)を適用することによって、大型SSTを想定した飛行条件(高レイノルズ数状態)において良好な境界層遷移特性を有する、すなわち主翼表面の境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流翼に有効な目標Cp分布を容易に創出することが出来るように構成されている。
【0016】
従って、図1のフローは従来の自然層流翼の設計方法に加え、全機初期形状にCFD順解析を適用することにより得られる主翼上面初期Cp分布特性を解析するプロセス(ステップS4)、eN法を利用した感度解析によって主翼上面の目標Cp分布のパラメタ類を調整するプロセス(ステップS5〜S6)が新たに追加されている。つまり、まず最初のステップとして、圧力抗力低減を目標として全機初期形状を設計し(ステップS1〜S2)、次にその全機初期形状についてCFD順解析法を行い、主翼上面の圧力分布特性を解析する(ステップS3〜S4)。次にその解析結果をもとに(主翼上面の)目標Cp分布の関数形のパラメタ類を調整する(ステップS5〜S6)。その後、ワープ設計(Carlson型Warp翼の設計)を通して得られた主翼上下面圧力差分布をもとに主翼下面の圧力分布形を算出し、CFD逆問題設計法に必要な主翼の目標Cp分布を設定し(ステップS7)、全機初期形状の主翼断面形状についてCFD順解析法を適用し、CFD順解析法によるCp分布と上記主翼の目標Cp分布との差を取り除くための形状修正を行い、その差が収束するまでその過程を繰り返す(ステップS8)。通常、この形状修正法としては、超音速線形理論に基づく関係式を利用するが、その線形近似の誤差が翼厚や前縁近傍で大きくなるとしても、非線形効果を取り込めるCFD順解析法を繰り返し用いる以上、この方法が最も効率的であると考えられる。
以下、各ステップについて説明する。
【0017】
先ずステップS1として設計点を設定する。ここでは、設計点として、例えば巡航マッハ数M、巡航揚力係数CL、迎角α、平均空力翼弦長基準のレイノルズ数Re,MAC、巡航飛行高度H、機体長L、平均空力翼弦MAC、後退角ΛLEを設定する。
上記設計点の範囲としては、マッハ数Mとしては、例えば1.4≦M≦3.0の範囲である。また、平均空力翼弦長基準レイノルズ数としては、例えば14million≦Re,MAC≦180millionの範囲である。また、巡航飛行高度としては、例えば16km(M=1.4)≦H≦20km(M=3.0)の範囲である。また、機体長としては、例えば48m(小型SST規模)≦L≦105m(大型SST規模)である。また、平均空力翼弦としては、例えば13m≦MAC≦48mの範囲である。また、後退角としては、例えば45°(M=1.4)≦ΛLE≦80°(M=3.0)の範囲である。
一例として、本実施形態における設計点としては、以下の通り設定した。
(1)M=2.0、CL=0.1、α=2°
(2)H=18.3km、Re,MAC=120million
(3)L=91.4m、MAC=25m
【0018】
次に、ステップS2として、全機初期形状を設定する。先ず、圧力抗力低減を目標として全機初期形状を設定する。主要な圧力抗力としては、体積依存造波抗力と揚力依存抗力が挙げられるが、体積依存造波抗力を低減するための設計コンセプトとして、例えばエリアルール(Area-rule)胴体を採用し、揚力依存抗力を低減するための設計コンセプトとして、例えばアロー(Arrow)型平面形とカールソン(Carlson)型ワープ(Warp)翼(キャンバーと捩り角分布の最適組み合わせ)を採用した。
図2は、本発明の適用対象として想定される代表的なSST形態と主翼平面形を示す説明図である。本発明は図2に示すように各部から発生するマッハ円錐(Mach cone)の内側に主翼前縁が存在する平面形(亜音速前縁型)であれば、どのような平面形であっても基本的に適用可能である。マッハ数は1.4程度から3.0まで、結果として前縁後退角は45°から80°位までの平面形に適用可能である。また機体規模としては、既に実証済みの小型超音速実験機(NEXST-1 実験機、全長11.5m)は含むものとし、35〜50人乗りの小型SST(全長48m級)から100人乗りのコンコルドタイプの中型SST(全長62m級)を経て、300人乗りの大型SST(全長91m級)までを想定しており、平均空力翼弦長(MAC)基準のレイノルズ数で、14millionから180millionの範囲をカバーする。もちろん、レイノルズ数的には14million以下の小さいレイノルズ数であっても空気力学的な特性として主翼上面に係る境界層の不安定性は減少するため、本発明はそのまま適用可能である。
【0019】
次に、ステップS3として、全機初期形状に対しCFD順解法(CFD流れ場解析法)を適用する。なお、この解析結果(推定結果)は、本発明の自然層流翼の設計方法において設計目標となる目標Cp分布の関数形に係る上記パラメタ類の内、パラメタ{A0、A1}を決定するために使用される。
【0020】
次に、ステップS4として、主翼上面初期Cp分布の特性を解析する。
図3は、全機初期形状(デルタ平面形)にCFD順解析法を適用することにより得られた翼上面初期Cp分布を示す説明図である。なお、縦軸のCp値は、一様流静圧との差を動圧で無次元した圧力係数であり、通常上方をマイナスにとり、Cp分布図で右上がりの傾向は流速として加速の方向を示す。
また、このCp分布では、解析を容易とするため、各翼幅位置(Y=y)における翼弦方向の点(X)は、その翼前縁を原点とし且つその翼弦長(=c(y))によって無次元化(=X/c(y))された新たな変数ξ(≡X/c(y))として定義されている。つまり、横座標の無次元化処理によって、各翼幅位置における翼弦方向のCp分布の定義域が、翼幅位置に関係なく全て0〜1となり、同一座標平面上で翼幅位置の異なる複数のCp分布を同時に表示することが出来るようになる。図3は、代表的な6つの翼幅位置(y/s=0.2、0.3、0.5、0.7、0.9)におけるCp分布を示している。
また、同様に翼幅方向(y)についても、半翼幅値(=s)によって無次元化(=y/s)され、新たな変数η(≡y/s)として定義されている。
【0021】
図から分かるように、一般に内翼から外翼に向かって(ηが増加するにつれて)Cp分布図で翼中央から後方部の圧力レベルの平均値は上昇する傾向を有する。そこで、この傾向を踏襲するようにA1を設定する。最も簡単な設定方法は、翼弦長の20%〜80%(0.2≦ξ≦0.8)付近の圧力レベルの平均値(Cp,av(η))そのものを、上記各横幅位置におけるA1(0.2)、A1(0.3)、A1(0.5)、A1(0.7)、A1(0.9)として使うことが考えられる。
次にA0は、目標Cp分布の前縁(ξ=0)における値であるが、これは正の揚力状態の場合、一般に淀み点が下面の前縁近傍にあることから、淀み点での圧力より幾分下がった値が設定されるべきである。その決定には、CFD順解析法の結果をもとに前縁でのCpの値(図3上の各Cpのξ=0)を算出し、その値を採用するのが最も正確ではあるが、もし簡易的に設定したい場合は、下記数2および数3に示されるように、一様流マッハ数(M)と前縁後退角(ΛLE)から等エントロピー関係式に従って決まる淀み点でのCpの値(Cp,stagnation)を0.86倍した値に設定することが推奨される。
[数2]
Cp,stagnation=[{1+0.2M2(1−sin2ΛLE)}3.5−1]×(0.7M2)-1
[数3]
A0=0.86×Cp,stagnation
【0022】
次に、ステップS5として、主翼上面目標Cp分布のパラメタ類を調整する。
図4aは、高レイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流化に適した翼上面目標Cp分布の形状的特徴を示す説明図である。
この翼上面目標Cp分布は、前縁近傍の極めて狭い領域(例えば、Δξ<0.01)において急激な加速勾配(パラメタA1)と急激な減速勾配(パラメタA2)が連続し、その後緩やかに加速しながら加速量を徐々に減速させる緩慢な加速勾配が翼後縁まで連続することが大きな特徴である。
【0023】
前縁近傍のこの急激な加速は、NEXST-1 実験機の設計コンセプトと同様、横流れが最も強くなる前縁近傍において、その主原因である加速領域を翼弦方向に狭くすることで横流れの発生を抑制するコンセプトに基づくものである。しかし、NEXST-1実験機の飛行条件と異なり、本発明が適用される大型SSTではレイノルズ数が10倍以上も大きいため、その加速量は大幅に増加させる必要がある。
【0024】
次に、パラメタA1からパラメタA2への減速については、急激な加速によってその加速領域を翼弦方向で翼弦長の0.5%以下に狭くすることでC-F不安定を抑制することが出来ない横流れの成長を、翼幅方向に逆の圧力勾配を設けることで助長する効果を狙ったものである。その後の緩やかな加速はT-S不安定を抑制することを主とするものの、パラメタA2からA3への加速量の変化は横流れの抑制にも有効なように設定されている。
【0025】
以下、パラメタ類{A0,A1,A2,A3,A4,B1,B2,B3,P1,P2}について簡単に説明する。
【0026】
パラメタA0は、翼前縁(ξ=0)での圧力を特徴付ける。具体的な値としては、図1のステップS3において全機初期形状に対してCFD順解析法を適用することにより得られる翼上面初期Cp分布の推定値(図3)を使用するか、或いは一様マッハ数(M)と前縁後退角(ΛLE)から等エントロピー関係式に従って決まる淀み点でのCpの値(Cp,stagnation)を0.86倍した値を使用する。
【0027】
パラメタA1は、最小圧力点(最大加速点)を特徴付ける。具体的な値としては、図1のステップS3において全機初期形状に対してCFD順解析法を適用することにより得られる翼上面Cp分布の推定値(図3のCp,av(η))の値またはその近傍値を設定する。
【0028】
パラメタA2は、最大圧力点(最小加速点)を特徴付ける。具体的な値としては、マイナス値を設定する。
【0029】
パラメタA3は、圧力分布が翼後縁(ξ=1)で漸近する一定値を特徴付ける。具体的な値としては、後退角ΛLEに比例した正値を設定する。
【0030】
パラメタA4は、翼後縁(ξ=1)における一定値からのずれを特徴付ける。具体的な値としては、その絶対値が後退角ΛLEに比例するマイナス値を設定する。
【0031】
パラメタB1は、急激な加速勾配を特徴付ける。具体的な値としては、マイナス値でその絶対値を104のオーダー位に大きくとる。
【0032】
パラメタB2は、急激な減速勾配を特徴付ける。具体的な値としては、その絶対値が後退角ΛLEに比例するマイナス値を設定する。
【0033】
パラメタB3は、緩慢な加速勾配を特徴付ける。具体的な値としては、その絶対値が後退角ΛLEに比例するマイナス値を設定する。
【0034】
P1は、2.0がディフォルト値である。P2は、1.0がディフォルト値である。
【0035】
図4bは、大型SSTを想定した高レイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流化に適した主翼上面目標Cp分布を規定する関数形の一例を示す説明図である。
この関数形は、前縁近傍の極めて狭い領域において急激な加速勾配と急激な減速勾配が連続し、その後緩やかに加速しながら加速量を徐々に減速させる緩慢な加速勾配が翼後縁まで連続する(高レイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる)自然層流化に適した目標Cp分布を規定することが出来る。
この関数形は、各翼幅位置(η)に依存したパラメタ類{B1(η),B2(η),B3(η)}と各翼幅位置(η)に依存しないパラメタ類{P1,P2}の何れかを内部変数に持つf0=1、f1=exp(B1(η)ξ)−1、f2=exp(B2(η)ξ)−1、f3=exp(B3(η)ξP1)−1、f4=ξP2とから成るベース関数に、各翼幅位置(η)に依存したパラメタ類{A0(η),A1(η),A2(η),A3(η),A4(η)}が線形結合した関数和として表すことが出来る。つまり、自然層流化に適した目標Cp分布が、予め各翼弦位置(ξ)だけでなく各翼幅位置(η)の関数としても規定されている。
[数4]
Cp(ξ,η)=A0(η)・1+A1(η)・[exp(B1(η)ξ)−1]+A2(η)・[exp(B2(η)ξ)−1]+A3(η)・[exp(B3(η)ξP1)−1]+A4(η)・[ξP2]、
このように高レイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流化に適した翼上面目標Cp分布をパラメタ類を係数に持つ関数形によって規定することによって、後述する図5に示す大型SSTを想定した場合であっても、パラメタ類を決定することにより、翼上面目標Cp分布が決定されることになる。なお、パラメタ類の決定については、各パラメタの実績値(具体的なパラメタ値)を基準に、eN法を利用して各パラメタ値の変動に対する境界層遷移位置の変動を評価する、いわゆる感度解析(パラメトリック・スタディ)を各パラメタ毎に数回(2〜3回)繰り返すことによって、境界層遷移を遅らせる各パラメタ値の最適な組み合わせを容易に見つけることが出来るようになる。
このように、関数形で規定されたCp分布を与えてeN法による遷移特性を解析するのは単純な計算のみで行えるため、このパラメトリック・スタディは特に困難な作業ではない。 従って、本発明は、自然層流化に適した目標Cp分布をパラメタ類を係数に持つ関数形で予め規定し、そしてパラメタ類を(自然層流化に適した)実績値を基準にした範囲で感度解析を行うことにより、大型SSTを想定した高レイノルズ数状態であっても良好な遷移特性を有する目標Cp分布を必ず見出すことが出来るようになる。この点が、従来の自然層流翼の設計方法には見られなかった本発明の最大の特徴である。
【0036】
図5aは、大型SSTを想定した高レイノルズ数状態で境界層遷移点を後方へ遅らせる自然層流化に適した主翼上面目標Cp分布のパラメタ類の一例を示す説明図である。
この図は、JAXA小型超音速実験機(NEXST-1 実験機)の主翼平面形をベースに、同様の設計点でそれを大型SST規模に拡大したレイノルズ数状態で目標Cp分布を探索し、内翼で20%、外翼ではほぼ後縁まで後退する遷移特性(平均で約40%の層流化を実現)を有する目標Cp分布について、各パラメタ値を記載したものである。
本機体の主翼平面形は、翼幅方向のy/s=0.5にキンクのあるクランクト・アロー型平面形(内翼後退角は66°、外翼後退角は61.2°)である。そのキンクの内側(内翼)と外側(外翼)で後退角が異なるため、各淀み点圧力(Cp,stagnation)が異なり、結果として前縁近傍のCp分布形が大きく2種類に分離する特性が見られる。従って、それに対応してパラメタ類も2種類存在する。なお、ここでは、翼前縁での圧力(A0)として、一様流マッハ数(M)と前縁後退角(ΛLE)から等エントロピー関係式に従って決まる淀み点でのCp値(Cp,stagnation)に0.86を掛けた値を設定した。
ちなみに、内翼につてのパラメタA0は、A0=0.167393842079683であり、外翼についてのA0は、A0=0.250316114631497である。
また、内翼についてのパラメタA1は、全機初期形状に対しCFD順解析法を適用することにより得られたCp分布の推定値を基に、各翼幅位置について翼弦方向20%〜80%の範囲の圧力平均値(図3のCp,av(η))の翼幅方向(η)の傾向を解析し、パラメタA1を翼幅位置(η)に依存した関数(本実施形態では4次の多項式)で規定した。
ちなみに、内翼についてのパラメタA1は、
[数5]
A1=2.0η4−1.8η3+0.495η2+0.0695η+0.2085
一方、外翼についてのパラメタA1は、
[数6]
A1=0.9116η4−2.4014η3+2.2538η2−0.8274η+0.4427
また、内翼および外翼についてのパラメタ類(A2,A3,A4,B1,B2,B3,P1,P2)については、それぞれ(-0.015,0.02,-0.005,-90000.0,-1500.0,-20.0,2.0,1.0)、(-0.015,0.01,0.0,-90000.0,-500.0,-10.0,2.0,1.0)に設定した。
【0037】
図5bは、図5aの目標Cp分布を翼幅方向(η)に沿って図示したものである。なお、上述した通り、本発明の目標Cp分布の特徴として、翼前縁近傍の非常に狭い領域で急激な圧力の加速勾配と減速勾配を有する分布特性を示すため、翼前縁近傍の圧力分布(A部、B部)については翼弦方向に拡大して個別に示した。
本機体の平面形は翼幅方向のy/s=0.5にキンクのあるクランクト・アロー型平面形であり、そのキンクの内側と外側で後退角が異なるため、Cp,stagnationが異なり、結果として前縁近傍の分布形が2種類に分離する様子が見られる。これは上述のA0の設定方法に対して、Cp,stagnaitonの0.86倍という簡易手法を適用したためである。
また前縁近傍の最小圧力点からの減速をかなり急激に行う必要のあることが見られる。これは後退角が60°以上の大きい場合には、翼の最小圧力レベルの平均値が翼端に向かってCp分布図で単調に上昇している以上、前縁近傍でいくら急激に加速して、その領域を前縁近傍に集めたとしても翼幅方向に必ず存在する圧力勾配の影響により横流れが生じることによる。つまり、その横流れの増加の完全な抑制は困難なため、上記の急激な減速を挟むことによって、横幅方向の圧力勾配を逆転させるように外力を与えることに相当する。(実際には流れの慣性力があるため、直ぐに横流れ速度の方向が逆転することはないが、一方向への増加傾向は明らかに抑制される。)このように、その逆方向への横流れの強制力を前縁近傍の加速による増幅の制動に活用しようとするものである。これは本発明の中核的なコンセプトである。
【0038】
図6は、図5bの目標Cp分布形をもとに行った遷移解析結果を示す説明図である。
ここでの遷移解析法は、流れの中に存在する微小擾乱が流れとともに時間的空間的に発達し、その振幅(A0)がある大きさ(A=A0eN)に達した所を層流から乱流への遷移位置と推定する手法である。つまり、層流境界層の微小擾乱に対する不安定性を分析し、増幅率を流れ方向に積分したN値と呼ばれる指標をもとに遷移点を判定するeN法(図10を参照)を用いた。
この解析方法での唯一の不確定要因は、飛行環境での遷移判定基準値に相当するN値については理論的に推定ができないことである。そこで、単純形状については実際に超音速飛行可能な航空機に取り付けて遷移を計測し、解析結果との対比を行うことが行われている。また複雑形状の場合はそのような実機を製造することが困難なため、世界的に数の少ない特殊な風洞(気流乱れが飛行環境並に低減されている風洞)で遷移計測試験を行い、解析結果との比較を行って遷移判定基準に関するデータベースの構築が進められている。
図6の解析では、そのようなデータベースの一例としてNASAの成果(N=14)を用いた。またJAXAでは小型超音速実験機の飛行実験で計測したデータと解析結果との比較を通して、独自の判定基準を見出している(N=12.5)。それを用いた解析結果も合わせて示した。
解析結果をみると、もしN=14を遷移判定基準値として採用すると、内翼では局所翼弦長が大きいため、遷移特性の点で大幅な遷移点の後退は困難で、本目標Cp分布では約15%翼弦長程度、一方、外翼では局所レイノルズ数が下がることから遷移特性は良好となり、ほとんど後縁まで遷移点が後退することがわかる。結果として、平均値で約26%の層流化を達成可能と推定される。従って、揚抗比で約0.4の改善(全抗力の約5%の低減)の効果が推定される。
【0039】
最後に、本発明の自然層流翼の設計方法による自然層流翼の設計例を図7に示す。図7aは、大型SSTの圧力抗力低減のみを考慮したコンコルド模擬形状(JAXAでの独自設計形状)の翼断面形状と、14 millionのレイノルズ数に相当するNEXST-1実験機の自然層流翼形状と、本発明が適用対象として想定される大型SST(全長91.4m級、約120millionの翼弦長基準レイノルズ数)との比較である。また図7bは、40%半翼幅位置における各翼断面形状を、図7cはその断面形状の前縁近傍(淀み点付近)の曲率分布を重ねて描いたものである。図より、高レイノルズ数になるほど曲率が小さくなるものの、淀み点(s/2c=0.0)を含む0.1%翼弦長幅(0.1%c)以上において、曲率はコンコルド模擬形状に比べ1/3以下の一定値を有し、その線素領域(0.1%c以上)から後縁に向かう、0.2%翼弦長幅(0.2%c)の線素領域において、曲率はさらに1/10以下まで急激に減少する傾向を特徴としていることがわかる。これは図5aの前縁近傍の圧力分布形に強く依存するものと考えられる。なお、ここで言う「線素(s)」とは、翼断面形状の外周上のある基準点から一定方向にその外周に沿った線分を意味する。図7cでは、その基準点を淀み点と、上面に沿う方向を+方向と、下面に沿う方向をマイナス方向としてそれぞれ定義している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の自然層流翼の設計方法は、レイノルズ数が14millionレベルの小型SSTから180millionレベルの大型SSTの自然層流翼の設計に対し好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
100 本発明の自然層流翼の設計方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼断面形状の初期形状を設定するプロセスと、翼断面形状を得てその周りの流れ場の圧力分布を求める順解析プロセスと、翼表面の境界層遷移位置を推定する遷移解析プロセスと、前記圧力分布に基づき翼上下面の目標圧力分布を設定するプロセスと、前記順解析プロセスと「該順解析プロセスによって得られる圧力分布が前記目標圧力分布に収束するように翼断面形状を修正する」形状修正プロセスとから構成される逆問題設計プロセスとを備えた自然層流翼の設計方法であって、
前記目標圧力分布の内、翼上面目標圧力分布については、各翼幅位置における「翼前縁から翼後縁に到る翼弦方向」を定義域とし且つその翼幅位置に依存したパラメタ類を係数に持つ関数形によって規定し、次に該パラメタ類の各パラメタ値の変動が翼上面の境界層遷移に与える感度を前記遷移解析プロセスによって解析し、「所望のレイノルズ数において翼上面の境界層遷移を最も後方まで遅らせる」該パラメタ値の最適な組み合わせを探索することにより決定されることを特徴とする自然層流翼の設計方法。
【請求項2】
前記目標圧力分布の内、翼下面目標圧力分布については、前記翼上面目標圧力分布と、翼幅方向に対し捩り角とキャンバー分布の最適組み合わせを実現する上下面圧力差分布とを基に決定される請求項1に記載の自然層流翼の設計方法。
【請求項3】
翼弦方向をX軸と翼幅方向をY軸とし、各翼幅位置(Y=y)における翼前縁からの翼弦方向の点(X)を、その翼弦長(=c(y))によって無次元化(ξ≡x/c(y))する時、
前記各翼幅位置における翼上面目標圧力分布の形状を、前記翼前縁からΔξ<0.01の極狭い領域において圧力の急激な加速勾配と急激な減速勾配が連続し、それ以降のΔξ≦ξ≦1の広い領域において圧力が緩やかに加速し同時に加速量を低減させながら一定値に漸近する緩い加速勾配が連続するように創出する請求項1又は2に記載の自然層流翼の設計方法。
【請求項4】
前記翼上面目標圧力分布のうち、各翼幅位置における前記急加速勾配の最大到達点(最小圧力値)および前記緩い加速勾配に係る一定値については、先ず前記初期形状に対し前記順解析プロセスを適用することにより得られた初期圧力分布の、同じ翼幅位置における翼弦長の一定範囲の圧力分布の平均値を前記遷移解析プロセスにおける両者の初期値として設定しておき、次に前記遷移解析プロセスを実行して前記境界層遷移が最も後方に下がる時の両者の各値を両者の最適値(最終値)としてそれぞれ設定する請求項3に記載の自然層流翼の設計方法。
【請求項5】
前記翼上面目標圧力分布のうち、前記各翼幅位置における翼前縁の圧力については、主流マッハ数と前記翼の前縁後退角から定まる淀み点圧力に一定値を掛けた値に設定する請求項1から4の何れかに記載の自然層流翼の設計方法。
【請求項6】
前記各翼幅位置(Y=y)を半翼幅長さ(s)によって無次元化(η≡y/s)する時、
前記翼上面目標圧力分布(Cp(ξ,η))を、前記各翼幅位置に依存したパラメタ類{A0(η),A1(η),A2(η),A3(η),A4(η),B1(η),B2(η),B3(η)}と同依存しないパラメタ類{P1,P2}を係数に持つ下記指数関数によって規定し、
[数1]
Cp(ξ,η)=A0(η)・1+A1(η)・[exp(B1(η)ξ)−1]+A2(η)・[exp(B2(η)ξ)−1]+A3(η)・[exp(B3(η)ξP1)−1]+A4(η)・ξP2
該パラメタ類の各パラメタ値の変動が翼上面の境界層遷移に与える感度を前記遷移解析プロセスによって解析し、「所望のレイノルズ数において翼上面の境界層遷移を最も後方まで遅らせる」該パラメタ値の最適な組み合わせを探索する請求項3から5の何れかに記載の自然層流翼の設計方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の自然層流翼の設計方法を基に製造される超音速航空機用翼において、各翼幅位置における翼弦方向に沿っての翼断面形状は、前縁近傍(淀み点)での曲率が、該前縁を含む0.1%翼弦長幅以上の線素領域において通常の翼断面形状に比べ1/3以下の一定値を有し、該線素領域から後縁に向かう0.2%翼弦長幅の線素領域においてその一定値のさらに1/10以下まで急激に減少することを特徴とする超音速航空機用翼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図11】
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【図12b】
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【図12c】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12a】
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【図12d】
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【公開番号】特開2012−126205(P2012−126205A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278021(P2010−278021)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)