説明

足関節駆動による歩行支援機能的電気刺激システム

【課題】より自然な歩行に近づけることを可能にする機能的電気刺激システムを提供する。
【解決手段】歩行支援のための機能的電気刺激システムであって、足関節周囲筋群の複数の各筋を個別に電気刺激して足関節駆動力を付与する駆動力付与装置と、下肢に装着して電気刺激を行う刺激電極サポータ1,5と、脚接地を検出するセンサー3,4と関節角度を検出するセンサー7,8,12,13を備えており、受動歩行様式の骨格モデル及び筋骨格数学モデルによりオンラインで筋出力を推定し、推定した筋出力を各筋に対応した刺激パターンに変換し、刺激電極サポータにより、各筋に対応した刺激パターンで各筋を個別に電気刺激する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳卒中や脊髄損傷、その他の中枢性神経麻痺による歩行障害に対し、受傷の初期的段階から人工的に歩行を支援する手段を提供し、また高齢化に伴う下肢、特に下腿部の筋出力の低下を訓練によって補助する手段を提供する機能的電気刺激(FES:Functional Electrical stimulation)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの歩行において、通常の歩行速度では立脚期終期の駆動力は主に足関節により実現されており、蹴り出し期には足関節の屈筋である下腿三頭筋による蹴り出し力、対応した関節全体の剛性を制御するために伸筋群の活動が必要とされることが、歩行の動作解析および筋電図解析にて判明されている。一方、機能的電気刺激(FES)装置は、麻痺した手足の機能再建に有力な手法を提供することが認められている。
【0003】
歩行の運動制御については各種提案がなされており、非特許文献1には、足関節屈伸筋群の電気刺激に関する記載があり、特許文献1、非特許文献2、非特許文献3には、受動歩行と、そのフィードバック制御に関する記載がある。非特許文献4〜6には骨格モデルに関する記載があり、非特許文献7には筋骨格数学モデルに関する記載がある。非特許文献8には被刺激筋の電気的応答に関する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−88113号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kesar,T.M., Perumal R., et al, Functional electrical stimulation of ankle plantar anddorsi-flexor muscles: effects on post-stroke gait, Stroke, 40(12), 2009
【非特許文献2】McGeer,T., Passive dynamic walking, IJRR, 19(2), 1990
【非特許文献3】Hobbelen,D. G. E. and Wisse, M., Ankle actuation for limit cycle walkers, IJRR, 27(6),2008
【非特許文献4】Lelas,J. L., Merriman, G. J., et al, Predicting peak kinematic and kinetic parametersfrom gait speed, Gait and Posture 17, 106-112, 2003
【非特許文献5】FrigoC., Crenna P. and Jensen, L. M.; Moment-angle relationship at lower limb jointsduring human walking at different velocities, J. Electromyogr. Kinesiol., 6(3),177-190, 1996
【非特許文献6】山本敏泰,久野弘明,体重支持トレッドミル歩行時の足部周囲感覚刺激による下肢交互動作反応,第21回バイオメカニズムシンポジュウム,435-446, 2009
【非特許文献7】長谷 和徳, SIMM, ARMO, AnyBody による動作解析,バイオメカニズム学会誌33(3),2009
【非特許文献8】T.Yamamoto, Control of movement of a skeletal joint by functional electricalstimulation via surface Electrodes, Ph.D. thesis, University of Wisconsin-Madison,1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の機能的電気刺激装置は、ヒトの自然な歩行を実現するまでには至っておらず、自然な状態に近い歩行を可能にする機能的電気刺激装置の開発が求められている。
【0007】
本発明は、前記のような状況に鑑みて、より自然な歩行に近づけることを可能にする機能的電気刺激システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の機能的電気刺激システムは、歩行支援のための機能的電気刺激システムであって、足関節周囲筋群の複数の各筋を個別に電気刺激して足関節駆動力を付与する駆動力付与装置と、下肢に装着して前記電気刺激を行う刺激電極サポータと、脚接地情報及び関節角度を検出するセンサーを備えており、前記センサーの検出信号に基いて、受動歩行様式の骨格モデル、及び筋骨格数学モデルによりオンラインで筋出力を推定し、前記推定した筋出力を前記各筋に対応した刺激パターンに変換し、前記刺激電極サポータにより、前記各筋に対応した刺激パターンで前記各筋を個別に電気刺激することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、足関節周囲筋群の複数の各筋を個別に電気刺激して足関節駆動力を付与するので、適切な剛性の下で足関節の駆動力が得られる。より具体的には、立脚期終期に足関節剛性を考慮しながら、足関節周囲筋群の複数の各筋を個別に電気刺激することによって、自然な歩行に近い足関節駆動力を獲得でき、より自然な歩行を実現できる。
【0010】
前記刺激電極サポータは、足関節屈筋としての腓腹筋とヒラメ筋とを個別に電気刺激できるように、腓腹筋とヒラメ筋とに対応した刺激電極を別個に設けていることが好ましい。この構成によれば、電気刺激による作用の異なる腓腹筋とヒラメ筋とを個別に電気刺激できるので、自然な歩行に近い足関節駆動力の獲得に有利になる。
【0011】
前記刺激電極サポータは、足関節伸筋としての前脛骨筋を刺激できるように、刺激電極を設けていることが好ましい。
【0012】
前記刺激電極サポータは、足関節屈筋としての腓腹筋とヒラメ筋と足関節伸筋としての前脛骨筋とを個別に電気刺激できるように、腓腹筋とヒラメ筋と前脛骨筋に対応した刺激電極を別個に設けており、かつ前脛骨筋と合わせて指伸筋を電気刺激できることが好ましい。
【0013】
前記刺激電極サポータは、下腿部の筋に加え膝関節伸筋である大腿四頭筋を電気刺激できるように電極を設けていることが好ましい。この構成によれば、対脚の立脚期における膝折を回避するための電気刺激を与えることができる。
【0014】
前記刺激電極サポータは、足関節伸展動作を行うために、前脛骨筋の電気刺激に加えて長趾伸筋などの電気刺激ができるように刺激電極を設けていることが好ましい。この構成によれば、矢状面での足関節伸展動作を補完する電気刺激を与えることができる。
【0015】
1歩行周期において、立脚期の腓腹筋刺激を、遊脚期初期まで膝が屈曲する程度の刺激強度で継続し、対脚が立脚期に入った段階では大腿四頭筋の電気刺激を行うことができることが好ましい。この構成によれば、痙性などの異常な筋緊張がある場合などにも、遊脚期初期に膝を屈曲させることができるとともに、対脚の立脚期における膝の屈曲を防止でき、つま先が床に引っ掛かってつまずくことを防止できる。
【0016】
前記電気刺激の刺激パルスは二相性矩形波又は二相性サイン波であり、1対の電極からなる1チャンネル出力は、1つ又は2つ以上の神経・筋を同時に刺激することができることができることが好ましい。
【0017】
前記電気刺激は、電圧制御方式を採用しており、刺激波形はバースト波で、基本パルス幅は2〜5kHz、刺激周波数は20〜60Hzであることが好ましい。この構成によれば、皮膚・電極間のインピーダンスのばらつきなどによる過度の電流が局所的に流れることを防止することができる。
【0018】
前記刺激電極は柔軟性のある素材で形成され、リード線が取り付けられていることが好ましい。この構成によれば、刺激電極は皮膚に馴染み易く、かつ歩行に伴って柔軟に変形できる。柔軟性のある素材としては、例えば銀織布又は銀細線メッシュが挙げられる。
【0019】
前記刺激電極サポータは、固形部材と伸縮部材とを組み合せて形成していることが好ましい。この構成によれば、刺激電極サポータは伸縮部材を含んでいるので、下肢部の大きさの異なる装着者への装着が容易になり、装着部への密着性も高めることができる。固形部材は例えばプラスチック製である。使用環境に応じて固形部材に発汗防止用の穴が開いたものも利用してもよい。
【0020】
前記刺激電極サポータは、開閉可能に形成されており、装着時には閉じた状態で固定する固定用手段を備えていることが好ましい。この構成によれば、刺激電極サポータの着脱が容易になる。
【0021】
前記刺激電極サポータは、片脚又は両脚に記録電極を有し、腓腹筋、ヒラメ筋及び前脛骨筋の電気的応答を記録できることが好ましい。
【0022】
脚接地情報を検出するセンサーとしてフットスイッチ及び足圧センサーを用い、足及び股の関節角度を検出するセンサーとして加速度センサー又はジャイロセンサーを用いることが好ましい。
【0023】
前記骨格モデルを用いてオンラインで足関節モーメントを推定し、又は健常者の実験式による歩行速度と足関節モーメントの関係を利用して、足関節モーメントを推定し、前記筋骨格数学モデルにより筋力を推定し、筋力が刺激電圧と比例すると仮定して前記刺激パターンを推定することが好ましい。この構成によれば、オンラインによる筋出力の推定の負担を軽減させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、足関節周囲筋群の複数の各筋を個別に電気刺激して足関節駆動力を付与するので、適切な剛性の下で足関節の駆動力が得られ、自然な歩行に近い足関節駆動力を獲得でき、より自然な歩行を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る刺激電極サポータを下肢に取り付けた状態を示す側面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る下腿部刺激電極サポータ1の内側を示す図。
【図3】本発明の一実施形態に係る機能的電気刺激システムを用いた歩行状態の一例を示す斜視図。
【図4】本発明の一実施形態に係る電気刺激の基本刺激波形図。
【図5】本発明の一実施形態に係る試作記録電極の平面図。
【図6】本発明の一実施形態に係るヒラメ筋、腓腹筋刺激による歩行時の体重心の加速度の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る機能的電気刺激システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る機能的電気刺激システムは、下肢に装着した刺激電極サポータにより、足関節周囲筋群を電気刺激してより自然な歩行を図るものである。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る刺激電極サポータを下肢に取り付けた状態を示す側面図である。刺激電極サポータは、下腿部刺激電極サポータ1と大腿部刺激電極サポータ5とで構成されている。
【0028】
下腿部刺激電極サポータ1及び大腿部刺激電極サポータ5は、刺激電極を備えており、各刺激電極に対応する部位の筋を電気刺激できる。下腿部刺激電極サポータ1の刺激電極については、後に図2を参照しながら説明する。大腿部刺激電極サポータ5は、大腿四頭筋の内側及び外側を電気刺激できる。大腿部刺激電極サポータ5の刺激電極を取り付ける本体部は、例えばプラスチック製である。
【0029】
下腿部刺激電極サポータ1は、後に図2を用いて説明するように、開閉可能である。図1の状態では、分割した各部材を一体にして下腿部を巻くようにして、下腿部刺激電極サポータ1が下腿部に装着されている。具体的には、固定手段である固定用金具2及びベルト10を用い、固定用金具2にベルト10を挿通させている。ベルト10に面ファスナーを用いれば、ベルト10同士を貼り合わせることができ、分割された部材同士をベルト10により結合することができる。
【0030】
靴11と足の裏面との間には、脚接地情報を検出するセンサーであるフットスイッチ3及び足圧センサー4を介在させている。足圧センサー4としては、例えば動歪み圧センサーを用いることができる。足圧センサー4では、フットスイッチ3による脚接地期間を推定してもよい。また、足関節モーメントを推定することができる。
【0031】
また、大腿部刺激電極サポータ5には傾斜角度センサー7を取り付けており、腰部には固定用ベルト9により傾斜角度センサー8を取り付けている。傾斜角度センサー7、8としては、例えば加速度センサー、ジャイロセンサーを用いることができる。傾斜角度センサー7及び8は、股関節角度を検出するセンサーである。足関節の制御のためには、図1に示したように、足関節角度を検出するセンサー12及び13を設けて足関節角度を計測する。以上の4つのセンサー7、8、12及び13から膝関節角度を計測することもできる。
【0032】
図2は、下腿部刺激電極サポータ1の内側を示す図である。下腿部刺激電極サポータ1は、第1本体部15と第2本体部16とに分割して構成されている。第1本体部15及び第2本体部16は固形部材であり、例えばプラスチック製である。図2の下腿部刺激電極サポータ1は、図1の状態からベルト10を固定用金具2から取り外し、結合されていた第1本体部15と第2本体部16を開いた状態を示している。第1本体部15及び第2本体部16として半透明のプラスチック材料を使うと電極の位置が判りやすく、取り付けが容易になる。
【0033】
第2本体部16には、伸縮部材17が組み合わされている。伸縮部材17は例えば布製である。この構成によれば、刺激電極サポータ1は伸縮部材17を含んでいるので、下肢部の大きさの異なる装着者への装着が容易になり、装着部への密着性も高めることができる。
【0034】
第1本体部15には、一対の腓腹筋刺激電極20、一対のヒラメ筋刺激電極21が取り付けられている。第2本体部16には、一対の前脛骨筋刺激電極22が取り付けられている。下腿部刺激電極サポータ1を、図1のように下腿部に装着した状態では、腓腹筋刺激電極20が腓腹筋の位置に対応し、ヒラメ筋刺激電極21がヒラメ筋の位置に対応し、前脛骨筋刺激電極22が前脛骨筋の位置に対応する。前脛骨筋刺激電極22は、あわせて長趾伸筋にも対応する。
【0035】
前記の刺激電極20〜22には、刺激パターンを伝達するためのリード線が取り付けられる。刺激電極20〜22は皮膚に馴染み易く、かつ歩行に伴って柔軟に変形できるように柔軟性のある部材で形成することが好ましい。柔軟性のある素材としては、例えば銀織布又は銀細線メッシュが挙げられる。刺激電極20〜22は、刺激部位の神経及び筋を覆う大きさとし、各筋の筋腹を出来るだけ覆うようにする。このことは、刺激強度を抑えて刺激時の違和感を軽減するのに役立つ。また、刺激電極20〜22の大きさは、装着者間の刺激部位の大きさばらつきを考慮して、余裕を持たせた大きさとすることが好ましい。少し大きめにとることによって、実際の刺激部位は貼付ゲルのサイズで調節して利用者毎のサイズに合わせられるようにしてもよい。
【0036】
図2において、第1本体部15には、記録電極23及び記録電極24が取り付けられ、第2本体部16には、記録電極25が取り付けられている。記録電極23〜25は電気的応答計測センサーであり、被刺激筋からの電気的応答を計測する電極である。記録電極24の位置は記録電極間の干渉防止のため刺激電極21右側下方に向けて配置してしてもよい。また、記録電極は片脚側だけに設けてもよく、両脚側に設けてもよい。
【0037】
図5に試作した記録電極の一例の平面図を示している。記録電極は銀板製であり、3つの記録電極32とその周囲の増幅器コモン31(0 volt)及び全体を取り囲むアース30で構成されている。寸法aは例えば10mmであり、寸法bは例えば48mmである。アースは刺激ノイズを除去するのに有効である。
【0038】
下腿部刺激電極サポータ1及び大腿部刺激電極サポータ5の各電極には、各電極の刺激部位に対応した刺激パターンが伝達される。作成された刺激パターンは、駆動力付与装置により、下腿部刺激電極サポータ1及び大腿部刺激電極サポータ5に伝達される。
【0039】
駆動力付与装置は、本実施形態の機能的電気刺激システムに含まれる。これらは制御基板として構成され、例えば箱体内に収納して、図1に示したベルト9に取り付ければよい。
【0040】
本実施形態の機能的電気刺激システムは、図1の靴11内に設置されたフットスイッチ3及び足圧センサー4からの検出信号に基づいて、骨格モデル及び筋骨格数学モデルにより、オンラインで筋出力を推定し、これを各筋に対応した刺激パターンに変換する。この刺激パターンは、駆動力付与装置により、下腿部刺激電極サポータ1及び大腿部刺激電極サポータ5に伝達される。
【0041】
図2に示したように下腿部刺激電極サポータ1は、腓腹筋刺激電極20、ヒラメ筋刺激電極21及び前脛骨筋刺激電極22は、それぞれ別個独立に構成されている。このため、腓腹筋、ヒラメ筋及び前脛骨筋に対し、これらの各筋に対応した刺激パターンで各筋を個別に電気刺激することができる。
【0042】
ここで、従来、脳卒中片麻痺者への下垂足防止用の足部運動制御は遊脚期に前脛骨筋などを刺激して、足部の運動のみに注目した方法が殆どであった。これに対し、本願発明者は、通常歩行速度での健常者の下肢駆動力は、主に足関節によるものであることに注目した。そして、下肢全体の運動を考慮に入れた足関節駆動様式を採用した機能的電気刺激システムを開発した。
【0043】
前記のような下腿部刺激電極サポータ1は、本願発明者が歩行訓練を交えた実験確認を繰り返して導き出したものである。本願発明者は、ヒトの自然な受動歩行様式に基づいて足関節周囲の主要な複数の筋を個別に刺激することにより、自然な歩行に近い歩行が可能になる足関節の駆動力が得られることを見出した。このことに対応させて、本実施形態に係る下腿部刺激電極サポータ1は、前記のように、各筋を個別に電気刺激できるように刺激電極が構成されている。
【0044】
図6に、腓腹筋とヒラメ筋を個別刺激したときの歩行時の体重心移動加速度を示している。図6(a)は、1ストライド(Stride)における刺激電圧パターンを示している。線35は腓腹筋に対する刺激電圧パターンであり、線36はヒラメ筋に対する刺激電圧パターンである。図6(b)は、体重心の加速度曲線を示している。線40はヒラメ筋を電気刺激したときの垂直方向加速度、線41は腓腹筋を電気刺激したときの垂直方向加速度、線42はヒラメ筋を電気刺激したときの進行方向加速度、線43は腓腹筋を電気刺激したときの進行方向加速度を示している。
【0045】
図6(b)から分かるように、ヒラメ筋と腓腹筋は足関節屈筋として作用するが、身体重心への作用が異なる。ヒラメ筋は相対的に前方に送り出す作用が大きい。このことから、腓腹筋刺激電極20とヒラメ筋刺激電極21とに伝達する刺激パターンを個別に設定し、腓腹筋とヒラメ筋とを別個の刺激パターンで電気刺激することにより、自然な歩行に近づけることが可能になる足関節の駆動力が得られることになる。
【0046】
下腿部刺激電極サポータ1は、足関節伸筋としての前脛骨筋に対応させた刺激電極22も備えているので、関節の剛性を調節でき、より自然な歩行の実現に一層有利になる。さらに、前脛骨筋と合わせて指伸筋を電気刺激するようにしてもよい。
【0047】
本実施形態では、前記の通り大腿部刺激電極サポータ5を備えており、大腿四頭筋を電気刺激できる。この大腿部刺激電極サポータ5を用いて、次のような電気刺激を行なうことができる。
【0048】
すなわち、1歩行周期において、立脚期における下腿部刺激電極サポータ1による腓腹筋刺激を、遊脚期初期まで刺激強度を膝が屈曲できる程度の刺激強度で継続し、対脚が立脚期に入った段階では大腿部刺激電極サポータ5により大腿四頭筋の電気刺激を行うようにしてもよい。この電気刺激によれば、痙性などの異常な筋緊張がある場合などには、遊脚期初期に膝を屈曲させることができるとともに、対脚の立脚期における膝の屈曲を防止でき、つま先が床に引っ掛かってつまずくことを防止できる。
【0049】
電気刺激に用いる刺激パルスは、二相性矩形波を用いることができる。図4に電気刺激の基本刺激波形図を示している。例えば、刺激波形はバースト波で、基本パルス幅は2〜5kHz、刺激周波数は20〜60Hzとし、電圧制御方式を採用して、皮膚・電極間のインピーダンスのばらつきなどによる過度の電流が局所的に流れることを防止するようにすればよい。また、矩形波では、皮膚の違和感や痛みを感じる場合には、2〜5kHzの二相性サイン波を基本周波数に利用して症状を軽減するようにすればよい。
【0050】
さらに、刺激パルスを二相性矩形波又は二相性サイン波とすることにより、1対の電極からなる1チャンネル出力は、1つ又は2つ以上の神経・筋を同時に刺激することができる。例えば前脛骨筋と長趾伸筋を1つの電極で刺激することにより足部を矢状面状で伸展させることができる。
【0051】
本実施形態に係る機能的電気刺激は、受動歩行のしくみを用いた足関節駆動様式を採用したものであり、ヒトのみではなく機械系が固有に持っている性質に基づくものであり、非常に効率がよいといえる。パラメータ設定の制限により、適用出来る範囲が狭くなることを防いだり、外乱への対応を図るために、フィードバック制御を取り入れてもよい(例えば特許文献1、非特許文献2)。
【0052】
また、足関節駆動力の推定はオンラインで十分可能であるが、膝・股関節部を含むモデルでは携帯用電気刺激装置には少し負担になる場合がある。このため、既存の骨格モデルを利用して(例えば、非特許文献3〜5)、健常者の実験式による歩行速度と足関節モーメント関係を利用して足関節モーメントを求めてもよい。この場合、求めた足関節モーメントに基づいて、筋骨格数学モデル(例えば、非特許文献6)により筋力を推定し、筋力が刺激電圧と比例すると仮定して刺激パターンを推定すればよい。
【0053】
図3は、本実施形態に係る機能的電気刺激システムを用いた歩行状態の一例を示す斜視図である。図3に示した歩行者は、本実施形態に係る機能的電気刺激システムに係る装着部材を装着している。これらは、図1、2を用いて説明したものと同一構成であるため、同一番号を付して説明は省略する。
【0054】
図3において、歩行者は下腿部に下腿部刺激電極サポータ1を装着し、大腿部に大腿部刺激電極サポータ5を装着し、腰部には固定用ベルト9により傾斜角度センサー9を取り付けている。図3(a)は右下肢が蹴り出し期の状態を示し、図3(b)は右下肢が遊脚期初期の状態を示し、図3(c)は右下肢が遊脚期中期の状態を示している。
【0055】
本実施形態に係る機能的電気刺激システムにおいては、次のように筋出力を安定化させるためのフィードバック制御をしてもよい。図2に示したように、下腿部刺激電極サポータ1内には、各刺激電極20〜22の近傍に、電気的応答計測センサーである記録電極23〜25が配置されている。記録電極23〜25の配置は相互干渉を抑制できるように配置することが望ましい。記録電極23〜25からの検出信号に基いて、筋出力を推定し(1つの筋からの検出・推定方法は非特許文献8参照)、刺激パターンにフィードバック制御をかける。図2に示した各刺激電極20〜22の配置は応答波形の相互干渉が相対的に少なく、電気刺激による発生トルクを安定化させるのに役立つ。
【0056】
また、股関節角度のフィードバック制御を行ってもよい。この制御では、大腿部の傾斜角度センサー7及び腰部の傾斜角度センサー9の検出値から、股関節角度を検出する。同様に足関節角度のフィードバック制御を行ってもよい。このフィードバック制御により、定常的な歩行速度を維持できる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらは一例であり適宜変更してもよい。例えば、刺激電極の構成は図2の例に限るものではなく、より細分化したものであってもよい。
【0058】
1 下腿部刺激電極サポータ
2 固定用金具
3 フットスイッチ
4 足圧センサー
5 大腿部刺激電極サポータ
7,8 傾斜角度センサー
10 ベルト
17 伸縮結材
20 腓腹筋刺激電極
21 ヒラメ筋刺激電極
22 前脛骨筋刺激電極
23,24,25 記録電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行支援のための機能的電気刺激システムであって、
足関節周囲筋群の複数の各筋を個別に電気刺激して足関節駆動力を付与する駆動力付与装置と、
下肢に装着して前記電気刺激を行う刺激電極サポータと、
脚接地情報及び関節角度を検出するセンサーを備えており、
前記センサーの検出信号に基いて、受動歩行様式の骨格モデル、及び筋骨格数学モデルによりオンラインで筋出力を推定し、前記推定した筋出力を前記各筋に対応した刺激パターンに変換し、
前記刺激電極サポータにより、前記各筋に対応した刺激パターンで前記各筋を個別に電気刺激することを特徴とする機能的電気刺激システム。
【請求項2】
前記刺激電極サポータは、足関節屈筋としての腓腹筋とヒラメ筋とを個別に電気刺激できるように、腓腹筋とヒラメ筋とに対応した刺激電極を別個に設けている請求項1に記載の機能的電気刺激システム。
【請求項3】
前記刺激電極サポータは、足関節伸筋としての前脛骨筋を刺激できるように、刺激電極を設けている請求項1又は2に記載の機能的電気刺激システム。
【請求項4】
前記刺激電極サポータは、足関節屈筋としての腓腹筋とヒラメ筋と足関節伸筋としての前脛骨筋とを個別に電気刺激できるように、腓腹筋とヒラメ筋と前脛骨筋に対応した刺激電極を別個に設けており、かつ前脛骨筋と合わせて指伸筋を電気刺激できる請求項1から3のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。
【請求項5】
前記刺激電極サポータは、下腿部の筋に加え膝関節伸筋である大腿四頭筋を電気刺激できるように電極を設けている請求項1から4のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。
【請求項6】
1歩行周期において、立脚期の腓腹筋刺激を、遊脚期初期まで膝が屈曲する程度の刺激強度で継続し、対脚が立脚期に入った段階では大腿四頭筋の電気刺激を行うことができる請求項5に記載の機能的電気刺激システム。
【請求項7】
前記電気刺激の刺激パルスは二相性矩形波又は二相性サイン波であり、1対の電極からなる1チャンネル出力は、1つ又は2つ以上の神経・筋を同時に刺激することができる請求項1から6のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。
【請求項8】
前記電気刺激は、電圧制御方式を採用しており、刺激波形はバースト波で、基本パルス幅は2〜5kHz、刺激周波数は20〜60Hzである請求項1から7のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。
【請求項9】
前記刺激電極は柔軟性のある素材で形成され、リード線が取り付けられている請求項1から8のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。
【請求項10】
前記刺激電極サポータは、固形部材と伸縮部材とを組み合せて形成している請求項1から9のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。
【請求項11】
前記刺激電極サポータは、開閉可能に形成されており、装着時には閉じた状態で固定する固定用手段を備えている請求項1から10のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。
【請求項12】
前記刺激電極サポータは、片脚又は両脚に記録電極を有し、腓腹筋、ヒラメ筋及び前脛骨筋の電気的応答を記録できる請求項1から11のいずれかに機能的電気刺激システム。
【請求項13】
脚接地情報を検出するセンサーとしてフットスイッチ及び足圧センサーを用い、足及び股の関節角度を検出するセンサーとして加速度センサー又はジャイロセンサーを用いる請求項1から12のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。
【請求項14】
前記骨格モデルを用いてオンラインで足関節モーメントを推定し、又は健常者の実験式による歩行速度と足関節モーメントの関係を利用して、足関節モーメントを推定し、前記筋骨格数学モデルにより筋力を推定し、筋力が刺激電圧と比例すると仮定して前記刺激パターンを推定する請求項1から13のいずれかに記載の機能的電気刺激システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−94305(P2013−94305A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238042(P2011−238042)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年4月29日〜5月1日 社団法人日本生体医工学会主催の「第50回日本生体医工学会大会」において文書をもって発表
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)