路面状況推定装置及び方法
【課題】車両の挙動によりセンサから路面までの距離が変動しても正確な路面状況を推定できる路面状況推定装置を提供する。
【解決手段】発生器101は、電磁波パルス発生のタイミングを発生する。送信器102は、発生器101が発生したタイミングで電磁波パルスを発生する。受信器103は、計測対象Mで反射された電磁波パルスを受信する。波形検出部104は、発生器101から与えられるタイミングに基づいて反射波の波形を検出する。角度計測/設定部105は、送信器102及び受信器103を備えた送受信面からの境界面B1,B2の傾き角度θを計測する。反射境界面位置計測部106は、境界面B1の位置を計測する。波形特徴抽出部107は、検出波形と、角度θと、境界面B1の位置とに基づいて、波形特徴を抽出する。路面状況推定部108は、波形特徴に基づき路面状況を推定する。
【解決手段】発生器101は、電磁波パルス発生のタイミングを発生する。送信器102は、発生器101が発生したタイミングで電磁波パルスを発生する。受信器103は、計測対象Mで反射された電磁波パルスを受信する。波形検出部104は、発生器101から与えられるタイミングに基づいて反射波の波形を検出する。角度計測/設定部105は、送信器102及び受信器103を備えた送受信面からの境界面B1,B2の傾き角度θを計測する。反射境界面位置計測部106は、境界面B1の位置を計測する。波形特徴抽出部107は、検出波形と、角度θと、境界面B1の位置とに基づいて、波形特徴を抽出する。路面状況推定部108は、波形特徴に基づき路面状況を推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いて路面状況を推定する路面状況推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の適切な走行を支援するために、次世代の交通社会を担う高度交通システム(ITS)が開発されている。高度交通システムにおいて、路側に設けた路面状況推定装置が路面状態を推定し、走行中の自動車へ路面状況を送信して、自動車の制動制御やトラクション制御、姿勢制御等に利用することが考えられている。このような従来の路面状況推定装置としては、路面上方に固定されたレーザレーダセンサにより路面を二次元走査して、測定点の情報として距離、反射強度を取得し、大気の混濁度を示す視程情報により反射強度を補正して、測定点毎に路面の状況を推定する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−83078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の路面状況推定装置を車載用のセンシングに適用しようとする場合、車両の挙動によりセンサから路面までの距離が変動するので、正確な路面状況を推定することができないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために本発明は、路面に電磁波を送信し、路面に反射された電磁波を受信し、受信した電磁波の波形を検出し、路面と送信方向とのなす角度を計測する又は設定し、波形と前記角度とに基づいて波形の特徴を抽出し、波形の特徴に基づいて路面状況を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る路面状況推定装置の実施例1の構成を示すブロック図である。
【図2】電磁波をテラヘルツ波とした場合の実施例1の構成を示す構成図である。
【図3】電磁波をテラヘルツ波とした場合の実施例1の変形例の構成を示す構成図である。
【図4】図2、3における送信用光スイッチ4の詳細例を説明する斜視図である。
【図5】図2、3における受信用光スイッチ8の詳細例を説明する斜視図である。
【図6】実施例1における動作を説明するフローチャートである。
【図7】テラヘルツ送信器の指向特性例を示す図である。
【図8】反射面の種類と照射方向に対するテラヘルツ反射波の強度を示す図である。
【図9】実施例2の構成を示すブロック図である。
【図10】実施例2における動作を説明するフローチャートである。
【図11】実施例3の構成を示すブロック図である。
【図12】実施例3における動作を説明するフローチャートである。
【図13】路面状況とテラヘルツ波の反射波形の特徴との関係を示す図である。
【図14】本発明の路面状況推定装置を搭載した車両の側面図である。
【図15】テラヘルツ送信器及び受信器の車体への搭載位置例を示す平面図である。
【図16】実施例4の構成を示すブロック図である。
【図17】実施例4における動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。尚、以下に説明する各実施例は、車載用の路面状況推定装置に好適な実施例であるが、路側に設置する定置用にも利用できることは明らかである。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明に係る路面状況推定装置の実施例1の構成を示すブロック図である。図1において、路面状況推定装置1は、電磁波パルスの発生タイミングを発生する発生器101と、発生器101で発生されたタイミングで電磁波パルスを計測対象(路面)Mへ送信する送信器102と、計測対象Mで反射された電磁波を受信する受信器103と、受信器103で受信された電磁波から波形を再構成して検出する波形検出部104と、送信器102及び受信器103が設置された面(以下、送受信面と呼ぶ)に対して計測対象Mが傾いている角度θを計測または設定する角度計測/設定部105と、反射境界面位置を計測する反射境界面位置計測部106と、波形検出部104が検出した波形と角度θに基づいて波形の特徴を抽出する波形特徴抽出部107と、波形特徴抽出部107が抽出した特徴に基づいて路面状況を推定する路面状況推定部108とを備えている。
【0010】
角度計測/設定部105は、カメラやレーザレーダ、加速度センサ等の車両に搭載した図示しないセンサの検出信号や、送受信面をチルト可能に車両に取り付けた図示しない取り付け具の設定角度の、いずれか一つ以上の組み合わせから、計測対象Mと送受信面とのなす角度θを計測する。角度計測/設定部105は、角度θの計測値を波形特徴抽出部107へ出力する。
【0011】
反射境界面位置計測部106は、カメラやレーザレーダ、加速度センサ、既知のステージやセンサ設置条件のいずれか一つ以上の組み合わせから、計測対象Mと送受信面との距離を計測する。反射境界面位置計測部106は、計測した距離を波形特徴抽出部107へ出力する。
【0012】
波形特徴抽出部107は、波形検出部104が検出した波形と角度θに基づいて波形の特徴を抽出する。路面状況推定部108は、波形特徴抽出部107が抽出した特徴に基づいて路面状況を推定する。
【0013】
ここで送信器102が放射する電磁波パルスは、路面及び路面に積層される可能性がある水、氷、雪等により一部が反射される波長であればよい。路面に水たまりができたり、凍結したり、積雪した場合、路面は、境界面B1とB2を有することになる。電磁波パルスの波長として、テラヘルツ波(0.1THz〜10THz、1THz=1012Hz)を用いるのが好ましい。テラヘルツ波は、電波と光との間に残された未開拓の電磁波であり、電波と光の双方の性質を有する。テラヘルツ波は、境界面B1で反射されるとともに、一部は内部に浸透して境界面B2で反射されるので、反射波形から道路表面が平滑か散乱性か、あるいは路面の積層状況及び積層物質を推定することができる。
【0014】
図2は、電磁波をテラヘルツ波とした場合の実施例1の構成を示す構成図である。図2において、路面状況推定装置1は、100fs(1fs=10-15 s)程度のパルス幅のレーザ光を発生するフェムト秒パルスレーザ2と、フェムト秒パルスレーザ2が発生したパルス光を励起用パルス光12と同期検波用パルス光13に分割するハーフミラー3と、励起用パルス光12をテラヘルツ波パルスに変換して放射する送信用光スイッチ4と、送信用光スイッチ4に印加電圧を与えるバイアス5と、ミラー6と、同期検波用パルス光13を時間遅延走査するための可動構造を有するミラー7と、計測対象Mで反射されたテラヘルツ波を受信して同期検波用パルス光13のタイミングで光電流に変換する受信用光スイッチ8と、光電流を増幅する電流アンプ9と、受信波形を再構成してテラヘルツ波の波形を検出する波形検出部10と、波形検出部10が検出した波形に基づいて路面状況を推定するマイクロコンピュータ11とを備えている。
【0015】
フェムト秒パルスレーザ2は、例えば、チタン添加サファイアレーザ(Ti:Al2O3)を用いると、パルス幅12〜100fs,パルス繰り返し周波数10〜80MHz,出力500mW〜2Wが得られる。また、フェムト秒パルスレーザ2として、ファイバーレーザを用いると、パルス幅502〜100fs,パルス繰り返し周波数10〜50MHz,出力30〜300mWが得られる。
【0016】
フェムト秒パルスレーザ2が発生するパルス光の波長は、フェムト秒光パルスをテラヘルツ波に変換する半導体基板(例えば、GaAs)のバンドギャップ(GaAsの場合、Eg=1.42eV)に相当する光の波長以下であり、図4を参照して後述するLT−GaAs基板にフォトキャリアを励起することができる波長である。
【0017】
図4は、送信用光スイッチ4の詳細例を説明する斜視図である。送信用光スイッチ4は、励起用パルス光12を収束させるレーザ収束レンズ31と、発生したテラヘルツ波パルスを収束させるシリコンレンズ32と、低温成長させたGaAs基板であるLT−GaAs基板33と、アンテナ給電線を兼ねる一対の電極34,35とを備えている。電極34,35との間のギャップの幅dは、例えば5μm〜10μmであり、微少ダイポールアンテナとして作用する。電極34,35間にバイアス電圧Vb(DC〜10kHz,20V程度)を供給するバイアス5が接続されている。この電極34,35のギャップへ励起用パルス光12を照射すると、GaAsの光電効果によりフォトキャリアが生成され、さらに印加電圧によってフォトキャリアが加速されるため、瞬時電流が流れる。この電流の時間微分に比例した電磁波(ETHz(t)∝∂J/∂t)が電極34,35にテラヘルツ波パルスとして発生し、シリコンレンズ32により放射される。LT−GaAs基板33の条件は、キャリア寿命が数psecであることが好ましい。
【0018】
図5は、受信用光スイッチ8の詳細例を説明する斜視図である。受信用光スイッチ8は、送信用光スイッチ4と基本的に同じ構造のものを用いる。送信用光スイッチとの相違は、電極34,35間にバイアス5を接続する代わりに、電流計36が接続されていることである。実際には、電流計36ではなくて、図2に示したように電流アンプ9が接続されている。受信用光スイッチ8は、低温成長させたGaAs基板であるLT−GaAs基板33上の電極34,35は微少ダイポールアンテナとして作用するので、シリコンレンズ32で収束されたテラヘルツ波とレーザ収束レンズ31で収束された同期検波用パルス光13を受けることで、テラヘルツ波を電極34,35の間からなる微少ダイポールアンテナとして作用させ、アンテナに生じる光電流に変換し、テラヘルツ波パルスを受信する。この電流波形を検出するために同期検波を行う。
【0019】
ここで同期検波の原理を説明する。同期検波用パルス光13のパルス幅が例えば300fsecのとき、すなわちタイムゲートは300fsecより短い時間(30fsec程度の分解能)で同期検波をすることができる。テラヘルツ波パルス幅をたとえば1000fsecと設定した場合、図2のミラー7を少しずつ移動させることによりタイムゲートを少しずつ遅延させてサンプリングする。こうしてサンプリングした各サンプル点をつなげることにより、テラヘルツ波パルスの波形を観測することができる。この技術は、テラヘルツ時間領域分光法(TDS)と呼ばれている。
【0020】
次に、実際の動作を二つのステップに分けて説明する。まず、同期検波の為に、テラヘルツ波の伝播光路長と同期検波用の光路長を等しくする。つまり、ハーフミラー3によりフェムト秒光パルスを二分割させた地点から、送信用光スイッチ4を経て、計測対象Mへの往復距離を加算したものがテラヘルツ波の伝播光路長である。同期検波用光路は、ハーフミラー3によりフェムト秒パルスを二分割させた地点から、ミラー6,ミラー7を経て受信用光スイッチ8に入射する光路長である。ミラー7の位置を調整して、テラヘルツ波の伝播光路長と同期検波用光路長を等しくする。
【0021】
次いで、テラヘルツ波パルスを観測するため、同期検波用走査器であるミラー7の位置を移動させることで、上記の遅延時間を走査する。30fsec程度の分解能を出すため、一ステップあたり10μmの光路変位動作をさせる。変位量の最大は、必要なパルス波形の取得時間によって定まり、例えば100psec間の波形をサンプリングしたい場合は光速に基づき、変位量の最大値を30mmと定める。
【0022】
最後に、一ステップあたりの変位量と光速に基づきサンプリング点間の間隔時間を定め、サンプリング点ごとの振幅に基づき、テラヘルツ波反射波形を検出する。この部分が図2の波形検出部10である。
【0023】
次に、テラヘルツ波パルスの反射を用いた路面状況推定を説明する。図2に示すように、計測対象Mは、物質M2(例えばコンクリート)の表面に、物質M1(例えば氷または雪)の層が形成されたものが存在するとする。この計測対象Mに、テラヘルツ波パルスを照射すると、テラヘルツ波の一部は、空気と物質M1との境界である境界面B1で反射され、残りは物質M1の内部へ進入する。物質M1の内部へ進入したテラヘルツ波パルスは、物質M1で吸収されながら物質M1と物質M2との境界である境界面B2に達して一部が反射され、残りが物質M2に吸収される。
【0024】
従って、波形検出部10の出力には、境界面B1による反射の波形21と、境界面B2による反射の波形22とが得られる。実際には、多重反射により、波形22の後にも振幅の小さい波形が続くが、これらを無視してもかまわない。波形21と波形22との時間差Δtは、物質M1の厚さをD,その屈折率をng ,光速をcとすれば、次の式となる。
【0025】
Δt=(1/c)×2ng ×D
尚、厚さDが0の場合、言い換えれば、計測対象Mが積層状態でない場合には、Δtは0となり、波形21と波形22との時間差は無くなり、反射波形の種類は1つしか検出されないことは明らかである。従って、反射波形の種類の数に基づいて、路面状態が積層状態か非積層状態かを判別することができるとともに、反射波形のΔtにより路面舗装の上に形成された積層の厚さDを測定することができる。
【0026】
図1と図2との対応は以下の通りである。発生器101及び送信器102が送信用光スイッチ4、受信器103が受信用光スイッチ8及び電流アンプ9,波形検出部104が波形検出部10にそれぞれ対応する。また図1の角度計測/設定部105と反射境界面位置計測部106と波形特徴抽出部107と路面状況推定部108とは、図2のマイクロコンピュータ11により実現されている。このため、マイクロコンピュータ11には、カメラやレーザレーダ、加速度センサ、既知のステージやセンサ設置条件のいずれか一つ以上の組み合わせから、計測対象Mと送受信面とのなす角度θを計測するプログラムと、カメラやレーザレーダ、加速度センサ、既知のステージやセンサ設置条件のいずれか一つ以上の組み合わせから、計測対象Mと送受信器との距離を計測するプログラムと、波形検出部10が検出した波形と角度θに基づいて波形の特徴を抽出するプログラムと、抽出した波形の特徴に基づいて路面状況を推定するプログラムとを備えている。
【0027】
図3は、電磁波をテラヘルツ波とした場合の実施例1の変形例の構成を示す構成図である。図2のハーフミラー3,ミラー6,及びミラー7に代えて、同期検波用パルス光13を発生するフェムト秒パルスレーザ15と、フェムト秒パルスレーザ2とフェムト秒パルスレーザ15との間の互いに異なるパルス発生繰返周期の差が一定なるように制御するタイミング制御部14とを設けている。
【0028】
図2の構成では、ミラー7を移動することにより、同期検波用パルス光13の時間遅延走査を行っていたが、図3の変形例では、フェムト秒パルスレーザ2が発生する励起用パルス光12に対して、フェムト秒パルスレーザ15が発生する同期検波用パルス光13のタイミングを順次ずらす時間遅延走査を電子制御により行っている。このため、路面状況推定装置1の内部で同期検波用パルス光13を遅延させるための可変光路長が不要となり、路面状況推定装置1を小型化して車両搭載性を向上させることができる。
【0029】
図6は、実施例1における路面状況推定装置1の動作を説明するフローチャートである。まず、ステップ(以下、ステップをSと略す)10において、所定の周期で繰り返し発生器101でフェムト秒パルス光を発生させ、送信器102でテラヘルツ波パルスを計測対象Mへ送出する。次いでS12で、発生器101が発生したタイミングに基づいて受信器103が計測対象Mからの反射テラヘルツ波パルスを受信する。そして波形検出部104が受信波形を再構成して検出する。
【0030】
次いでS14において、角度計測/設定部105が、受信波形に基づいて境界面の角度を計測、または送信器102及び受信器103の車体に対する角度を設定することにより、境界面B1,B2の送受信器設定面に対する角度を測定する。また反射境界面位置計測部106が境界面B1,B2の位置を計測する。
【0031】
次いでS16において、波形特徴抽出部107が、境界面の角度と検出波形に応じて、反射波形の特徴を抽出し、抽出した特徴により路面状況を推定する。具体的には、反射面の種類と送受信面と反射面との角度により、例えば図8に示すように反射面の種類を6種類に分類する。この分類は、反射面が散乱面であるか平滑面であるかの2分類と、反射面と送受信面が並行で正反射か、5゜の斜め入射か、10゜の斜め入射かの3分類があり、2×3=6通りの分類に対して、反射波の強度をグラフ表示したものが図8である。
【0032】
反射面が散乱面の場合には、正反射、5゜斜め入射、10゜斜め入射のいずれも反射波の振幅は、ほぼ同等で変化がない。しかし、平滑面の場合には、正反射が最も反射強度が高く、反射面と送受信面との角度が大きくなるほど反射波の強度は低下する。したがって、送信器102及び受信器103を備える送受信面の角度を車体鉛直下方(0゜)と、鉛直下方から5゜傾けた角度と、鉛直下方から10゜傾けた角度との3種類の角度を角度計測/設定部105により設定可能とする。そして、0゜、5゜、10゜の各角度におけるテラヘルツ波の反射強度を測定することにより、路面が散乱面か平滑面かを推定することができる。
【0033】
また、図7に示すような、送信用光スイッチ4または送信器102が送信するテラヘルツ波の指向特性と、既知の大気の伝播減衰に基づき、波形検出部104が出力する反射波振幅値を増減する補正を行うことにより、より高精度に特徴量を抽出することができる。即ち、テラヘルツ波の送信アンテナである送信用光スイッチ4または送信器102のアンテナ面と垂直方向、図7でいえば、正反射方向、車体に装備した送信器102の鉛直下方方向の放射強度を1.0とすれば、放射角度に応じて放射強度が減衰する。同様に斜め方向から受信器103へ入射する反射波に対して、受信器103の感度も低下する。このため、予め測定した放射強度分布により、5゜斜め入射時と、10゜斜め入射時の受信強度を補正する。
【0034】
また、鉛直下方の正反射面からの反射に比べて、斜め方向からの反射は、送信器102から受信器103に戻る経路の長さが(1/cosθ)倍となり、この長さが増えた分だけ、空気による電磁波吸収が増加して減衰するので、この分も補正する。
【0035】
以上説明した実施例1によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0036】
また実施例1によれば、電磁波としてテラヘルツ波パルスを使用しているので、路面が積雪や凍結による積層状態であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【0037】
また実施例1によれば、路面に電磁波を照射する角度を変えて反射波の強度を測定することにより、路面が平滑面か散乱面かを推定することができるという効果がある。
【実施例2】
【0038】
図9は、本発明に係る路面状況推定装置の実施例2の構成を示すブロック図である。本実施例では、実施例1の構成に、反射波形補正部109が追加されている。その他の構成は、図1と同様であるので、同じ構成要素には同じ符号を付与して、重複する説明を省略する。
【0039】
反射波形補正部109は、波形特徴抽出部107が抽出した波形の特徴に基づいて、反射波形を補正する構成要素である。
【0040】
次に、図10のフローチャートを参照して、本実施例の動作を説明する。S10〜S16は、図6の実施例1と同様である。次に、図10に基づいて、実施例1と異なる部分を説明する。S18において、反射波形補正部109は、波形特徴抽出部107が抽出した反射波形の特徴に基づいて、反射波形を補正する。具体的には、正反射である場合は、反射波形は送信波形と類似性が高いため、複数波形の合成は送信波形をモデルにしたマッチングにより時刻を合わせて反射波の補正を行う。また、散乱面での反射である場合は、反射波形は送信波形と類似性が低く、複数時間組み合わせると散乱波形が復元されにくいため、送受信面を正反射、5゜斜め、10゜斜めとした3通りの送受信面の角度設定の違いで送受信した結果から、反射面が散乱体であることを識別し、積算による反射率の算出を行う。
【0041】
以上説明した実施例2によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0042】
また実施例2によれば、電磁波としてテラヘルツ波パルスを使用しているので、路面が積雪や凍結による積層状態であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【0043】
また実施例2によれば、路面に電磁波を照射する角度を変えて反射波の強度を測定することにより、路面が平滑面か散乱面かを推定することができるという効果がある。
【0044】
さらに実施例2によれば、反射波形の特徴に基づいて反射波形を補正しているので、更に正確に路面状況を推定することができる。
【実施例3】
【0045】
図11は、本発明に係る路面状況推定装置の実施例3の構成を示すブロック図である。本実施例は、実施例1の構成に、車両運動量算出部110と、散乱算出部111とが追加されている。その他の構成は、図1と同様であるので、同じ構成要素には同じ符号を付与して、重複する説明を省略する。
【0046】
車両運動量算出部110は、角度計測/設定部105と反射境界面位置計測部106に接続され、車速や3軸加速度、操舵、加減速操作等に基づいて、車両のピッチング、ローリング、ヨーイングを計算する。
【0047】
散乱算出部111は、波形検出部104、角度計測/設定部105、反射境界面位置計測部106及び路面状況推定部108に接続されている。そして、散乱算出部111は、計測又は設定した送受信面の角度、反射面の位置、及び反射波形から、反射波の散乱度合いを算出する。
【0048】
次に、図12のフローチャートを参照して、実施例3の動作を説明する。S10〜S12の動作は、実施例1と同様である。S20において、車両運動量算出部110は、車両のピッチング、ローリング、ヨーイングを算出し、角度計測/設定部105は、路面と送受信面との路面鉛直方向と送信面鉛直方向との角度差を計測または設定し、反射境界面位置計測部106は、送受信面と路面との距離を計測し、得られた反射波の反射角度情報として、散乱算出部111へ送出する。
【0049】
次いでS22において、散乱算出部111は、波形検出部104が検出した受信波形と角度情報から散乱の度合いを計算する。なお、このとき計算に過去の反射波及び角度を用いるとより高精度に判別できる。また、テラヘルツTDS方式であるので、境界面B1及びB2がある場合には、路面の積層情報を個々に判別すると、より高精度に検出できる。
【0050】
次いでS24において、路面状況推定部108は、図13に示すように、予め記憶した複数の路面状態モデルを参照して、計測対象物Mで反射された反射波の散乱度合い及び反射波形の種類の数に応じて、路面状況を推定する。
【0051】
図13において、路面状況が基準となる乾燥路面である場合には、散乱面であり、散乱度合いは、最も大きく(散乱度1)、非積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21のみが検出され、波形22は検出されないので、波形種類の数は1である。
【0052】
路面状況がペイント式白線の場合、平滑面であり、散乱度合いは2番目に大きく(散乱度2)、非積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21のみが検出され、波形22は検出されないので、波形種類の数は1である。
【0053】
路面状況が溶融式白線の場合、平滑面であり、散乱度合いは2番目に小さく(散乱度3)、非積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21のみが検出され、波形22は検出されないので、波形種類の数は1である。
【0054】
路面状況が湿潤の場合、平滑面であり、散乱度合いは最も小さく(散乱度4)、非積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21のみが検出され、波形22は検出されないので、波形種類の数は1である。
【0055】
路面状況が積雪の場合、散乱面であり、散乱度合いは最も大きく(散乱度1)、積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21及び波形22が検出され、波形種類の数は2である。
【0056】
路面状況が凍結の場合、散乱面であり、散乱度合いは2番目に大きく(散乱度2)、積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21及び波形22が検出され、波形種類の数は2である。
【0057】
図14は、本発明の路面状況推定装置を搭載した車両の側面図である。サイドミラーの位置に車体の鉛直下方に向けて送信器102及び受信器103が設置されている。そして、路面の凹凸による車両運動が送信器102及び受信器103を設けた送受信面と路面との傾きθが形成される様子を示している。
【0058】
本実施例では、図11の角度計測/設定部105は、車両運動量算出部110が算出した車両のピッチングまたはローリングにより、図14の角度θを得ることができる。
【0059】
図15は、図11の送信器102及び受信器103の車体50への搭載位置を示す平面図である。搭載位置としては、左サイドミラーの位置51,車体前部の位置52,53,54,55,56,右サイドミラーの位置57,車体後部58,59の位置が可能である。41〜44は検知エリアの例である。
【0060】
以上説明した実施例3によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0061】
また実施例3によれば、電磁波としてテラヘルツ波パルスを使用しているので、路面が積雪や凍結による積層状態であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【0062】
また実施例3によれば、路面に電磁波を照射する角度を変えて反射波の強度を測定することにより、路面が平滑面か散乱面かを推定することができるという効果がある。
【0063】
さらに実施例3によれば、反射波の散乱度を算出し、予め記憶した路面状況毎の散乱度及び波形種類の数とを照合して、路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【実施例4】
【0064】
図16は、本発明に係る路面状況推定装置の実施例4の構成を示すブロック図である。本実施例は、実施例3の構成に、波形補正部112と、補正パラメータ算出部113と、レンズ114と、方向調整手段115とが追加されている。その他の構成は、図11と同様であるので、同じ構成要素には同じ符号を付与して、重複する説明を省略する。
【0065】
波形補正部112は、波形特徴抽出部107が抽出した反射波形の特徴に基づいて、送信器102が送信するテラヘルツ波のビーム径、ビーム送信方向、及び発生器101aから受信器103に至る遅延光路115の遅延時間を補正パラメータ算出部113へ指示する。
【0066】
補正パラメータ算出部113は、波形補正部112から指示されたテラヘルツ波パルスのビーム径、ビーム送信方向、及び遅延光路115の遅延時間と、車両運動量算出部110からの車体のピッチング量及びローリング量に応じて、テラヘルツ波パルスのビーム径、ビーム送信方向、及び同期検波用の遅延光路115の長さを変更する。
【0067】
レンズ114は、補正パラメータ算出部113の出力にしたがって、レンズ位置もしくは屈折率を変化させ、テラヘルツ波パルスビーム径を調整する。このレンズ114は、送信用光スイッチ4の詳細を説明した図4におけるシリコンレンズ32と同一のものであっても良いし、シリコンレンズ32に加えて、さらにレンズ114を備えることもできる。レンズ114は、レンズ位置を調節する図示しないレンズ位置調節器または屈折率調節器が設けられ、送信器102から放射されたテラヘルツ波パルスビームが路面の位置に形成するビーム径の大きさを調節する。
【0068】
なお、このレンズ114は光学的に平行光に近いビーム径を設定すればよく、凸レンズでなくてもいくつかのレンズを組み合わせてもよい。また可視光と同じ屈折率のレンズ材料を用いることで、可視カメラを組み合わせてもよい。
【0069】
方向調整器115は、補正パラメータ算出部113の出力にしたがって、送信波パルスの送信方向を2次元または3次元に調整する装置である。例えば多角形回転ミラー(ポリゴンミラー)のような形状であれば、高速でパルスの方位走査が可能である。また、送受信アンテナを動かしてメカニカルに方向を調整する方法であっても、方向に応じた位相差を伴うビーム走査を行うアンテナ技術で代用してもよい。
【0070】
次に図17のフローチャートを参照して、本実施例の動作を説明する。S10〜S24までは、実施例3と同様である。S26において、波形補正部112は、波形特徴抽出部107が抽出した反射波形の特徴量について、予め記憶した図13に示したような路面状況毎の波形特徴との類似度若しくは路面の反射率を高精度に算出し、更に散乱度を算出するための検知領域の設定を行う。具体的には、もし車両運動の影響で反射強度が十分えられなかった場合は、図示しない時系列データ及び角度情報の蓄積に基づいて、正反射方向にパルス送信方向を調整するように方向調整器115へ指示する。
【0071】
また、図示しない天候計測やロードノイズ計測等によって、例えば白線と路面の差異が見えにくいと判定し、散乱度の差異をより高感度にする必要がある場合は、ビーム径を絞り、微小な凹凸でも散乱を観測できるようにする。図示しないロードノイズ計測等の手段に応じて、白線と路面の差異が見えやすいと判定した場合はビーム径を広げ、より広い範囲を観測する。
【0072】
加えて、例えば車両の積載荷重のバランスが悪い場合や極端に凹凸が大きく車両のピッチングの影響が長い周期にわたる場合等で、路面と送受信面の距離が大きく変化する場合は、遅延光路115で観測領域や観測中心距離を変更する。尚、遅延光路115を用いずに、本願発明者による「特開2007−292701号公報;波形観測方法と波形観測装置」に示す発生器のパルス列を時間で変化する手法をとってもよい。
【0073】
以上説明した実施例4によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0074】
また実施例4によれば、電磁波としてテラヘルツ波パルスを使用しているので、路面が積雪や凍結による積層状態であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【0075】
また実施例4によれば、路面に電磁波を照射する角度を変えて反射波の強度を測定することにより、路面が平滑面か散乱面かを推定することができるという効果がある。
【0076】
また実施例4によれば、反射波の散乱度を算出し、予め記憶した路面状況毎の散乱度及び波形種類の数とを照合して、路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0077】
さらに実施例4によれば、テラヘルツ波のビーム径、ビーム送信方向、及び同期検波用の遅延光路長を路面の反射状況に応じて補正することができるので、車両の積荷バランスや路面の凹凸が極端に悪い場合であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0078】
1 路面状況推定装置
101 発生器
102 送信器
103 受信器
104 波形検出部
105 角度計測/設定部
106 反射境界面位置計測部
107 波形特徴抽出部
108 路面状況推定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いて路面状況を推定する路面状況推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の適切な走行を支援するために、次世代の交通社会を担う高度交通システム(ITS)が開発されている。高度交通システムにおいて、路側に設けた路面状況推定装置が路面状態を推定し、走行中の自動車へ路面状況を送信して、自動車の制動制御やトラクション制御、姿勢制御等に利用することが考えられている。このような従来の路面状況推定装置としては、路面上方に固定されたレーザレーダセンサにより路面を二次元走査して、測定点の情報として距離、反射強度を取得し、大気の混濁度を示す視程情報により反射強度を補正して、測定点毎に路面の状況を推定する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−83078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の路面状況推定装置を車載用のセンシングに適用しようとする場合、車両の挙動によりセンサから路面までの距離が変動するので、正確な路面状況を推定することができないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために本発明は、路面に電磁波を送信し、路面に反射された電磁波を受信し、受信した電磁波の波形を検出し、路面と送信方向とのなす角度を計測する又は設定し、波形と前記角度とに基づいて波形の特徴を抽出し、波形の特徴に基づいて路面状況を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る路面状況推定装置の実施例1の構成を示すブロック図である。
【図2】電磁波をテラヘルツ波とした場合の実施例1の構成を示す構成図である。
【図3】電磁波をテラヘルツ波とした場合の実施例1の変形例の構成を示す構成図である。
【図4】図2、3における送信用光スイッチ4の詳細例を説明する斜視図である。
【図5】図2、3における受信用光スイッチ8の詳細例を説明する斜視図である。
【図6】実施例1における動作を説明するフローチャートである。
【図7】テラヘルツ送信器の指向特性例を示す図である。
【図8】反射面の種類と照射方向に対するテラヘルツ反射波の強度を示す図である。
【図9】実施例2の構成を示すブロック図である。
【図10】実施例2における動作を説明するフローチャートである。
【図11】実施例3の構成を示すブロック図である。
【図12】実施例3における動作を説明するフローチャートである。
【図13】路面状況とテラヘルツ波の反射波形の特徴との関係を示す図である。
【図14】本発明の路面状況推定装置を搭載した車両の側面図である。
【図15】テラヘルツ送信器及び受信器の車体への搭載位置例を示す平面図である。
【図16】実施例4の構成を示すブロック図である。
【図17】実施例4における動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。尚、以下に説明する各実施例は、車載用の路面状況推定装置に好適な実施例であるが、路側に設置する定置用にも利用できることは明らかである。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明に係る路面状況推定装置の実施例1の構成を示すブロック図である。図1において、路面状況推定装置1は、電磁波パルスの発生タイミングを発生する発生器101と、発生器101で発生されたタイミングで電磁波パルスを計測対象(路面)Mへ送信する送信器102と、計測対象Mで反射された電磁波を受信する受信器103と、受信器103で受信された電磁波から波形を再構成して検出する波形検出部104と、送信器102及び受信器103が設置された面(以下、送受信面と呼ぶ)に対して計測対象Mが傾いている角度θを計測または設定する角度計測/設定部105と、反射境界面位置を計測する反射境界面位置計測部106と、波形検出部104が検出した波形と角度θに基づいて波形の特徴を抽出する波形特徴抽出部107と、波形特徴抽出部107が抽出した特徴に基づいて路面状況を推定する路面状況推定部108とを備えている。
【0010】
角度計測/設定部105は、カメラやレーザレーダ、加速度センサ等の車両に搭載した図示しないセンサの検出信号や、送受信面をチルト可能に車両に取り付けた図示しない取り付け具の設定角度の、いずれか一つ以上の組み合わせから、計測対象Mと送受信面とのなす角度θを計測する。角度計測/設定部105は、角度θの計測値を波形特徴抽出部107へ出力する。
【0011】
反射境界面位置計測部106は、カメラやレーザレーダ、加速度センサ、既知のステージやセンサ設置条件のいずれか一つ以上の組み合わせから、計測対象Mと送受信面との距離を計測する。反射境界面位置計測部106は、計測した距離を波形特徴抽出部107へ出力する。
【0012】
波形特徴抽出部107は、波形検出部104が検出した波形と角度θに基づいて波形の特徴を抽出する。路面状況推定部108は、波形特徴抽出部107が抽出した特徴に基づいて路面状況を推定する。
【0013】
ここで送信器102が放射する電磁波パルスは、路面及び路面に積層される可能性がある水、氷、雪等により一部が反射される波長であればよい。路面に水たまりができたり、凍結したり、積雪した場合、路面は、境界面B1とB2を有することになる。電磁波パルスの波長として、テラヘルツ波(0.1THz〜10THz、1THz=1012Hz)を用いるのが好ましい。テラヘルツ波は、電波と光との間に残された未開拓の電磁波であり、電波と光の双方の性質を有する。テラヘルツ波は、境界面B1で反射されるとともに、一部は内部に浸透して境界面B2で反射されるので、反射波形から道路表面が平滑か散乱性か、あるいは路面の積層状況及び積層物質を推定することができる。
【0014】
図2は、電磁波をテラヘルツ波とした場合の実施例1の構成を示す構成図である。図2において、路面状況推定装置1は、100fs(1fs=10-15 s)程度のパルス幅のレーザ光を発生するフェムト秒パルスレーザ2と、フェムト秒パルスレーザ2が発生したパルス光を励起用パルス光12と同期検波用パルス光13に分割するハーフミラー3と、励起用パルス光12をテラヘルツ波パルスに変換して放射する送信用光スイッチ4と、送信用光スイッチ4に印加電圧を与えるバイアス5と、ミラー6と、同期検波用パルス光13を時間遅延走査するための可動構造を有するミラー7と、計測対象Mで反射されたテラヘルツ波を受信して同期検波用パルス光13のタイミングで光電流に変換する受信用光スイッチ8と、光電流を増幅する電流アンプ9と、受信波形を再構成してテラヘルツ波の波形を検出する波形検出部10と、波形検出部10が検出した波形に基づいて路面状況を推定するマイクロコンピュータ11とを備えている。
【0015】
フェムト秒パルスレーザ2は、例えば、チタン添加サファイアレーザ(Ti:Al2O3)を用いると、パルス幅12〜100fs,パルス繰り返し周波数10〜80MHz,出力500mW〜2Wが得られる。また、フェムト秒パルスレーザ2として、ファイバーレーザを用いると、パルス幅502〜100fs,パルス繰り返し周波数10〜50MHz,出力30〜300mWが得られる。
【0016】
フェムト秒パルスレーザ2が発生するパルス光の波長は、フェムト秒光パルスをテラヘルツ波に変換する半導体基板(例えば、GaAs)のバンドギャップ(GaAsの場合、Eg=1.42eV)に相当する光の波長以下であり、図4を参照して後述するLT−GaAs基板にフォトキャリアを励起することができる波長である。
【0017】
図4は、送信用光スイッチ4の詳細例を説明する斜視図である。送信用光スイッチ4は、励起用パルス光12を収束させるレーザ収束レンズ31と、発生したテラヘルツ波パルスを収束させるシリコンレンズ32と、低温成長させたGaAs基板であるLT−GaAs基板33と、アンテナ給電線を兼ねる一対の電極34,35とを備えている。電極34,35との間のギャップの幅dは、例えば5μm〜10μmであり、微少ダイポールアンテナとして作用する。電極34,35間にバイアス電圧Vb(DC〜10kHz,20V程度)を供給するバイアス5が接続されている。この電極34,35のギャップへ励起用パルス光12を照射すると、GaAsの光電効果によりフォトキャリアが生成され、さらに印加電圧によってフォトキャリアが加速されるため、瞬時電流が流れる。この電流の時間微分に比例した電磁波(ETHz(t)∝∂J/∂t)が電極34,35にテラヘルツ波パルスとして発生し、シリコンレンズ32により放射される。LT−GaAs基板33の条件は、キャリア寿命が数psecであることが好ましい。
【0018】
図5は、受信用光スイッチ8の詳細例を説明する斜視図である。受信用光スイッチ8は、送信用光スイッチ4と基本的に同じ構造のものを用いる。送信用光スイッチとの相違は、電極34,35間にバイアス5を接続する代わりに、電流計36が接続されていることである。実際には、電流計36ではなくて、図2に示したように電流アンプ9が接続されている。受信用光スイッチ8は、低温成長させたGaAs基板であるLT−GaAs基板33上の電極34,35は微少ダイポールアンテナとして作用するので、シリコンレンズ32で収束されたテラヘルツ波とレーザ収束レンズ31で収束された同期検波用パルス光13を受けることで、テラヘルツ波を電極34,35の間からなる微少ダイポールアンテナとして作用させ、アンテナに生じる光電流に変換し、テラヘルツ波パルスを受信する。この電流波形を検出するために同期検波を行う。
【0019】
ここで同期検波の原理を説明する。同期検波用パルス光13のパルス幅が例えば300fsecのとき、すなわちタイムゲートは300fsecより短い時間(30fsec程度の分解能)で同期検波をすることができる。テラヘルツ波パルス幅をたとえば1000fsecと設定した場合、図2のミラー7を少しずつ移動させることによりタイムゲートを少しずつ遅延させてサンプリングする。こうしてサンプリングした各サンプル点をつなげることにより、テラヘルツ波パルスの波形を観測することができる。この技術は、テラヘルツ時間領域分光法(TDS)と呼ばれている。
【0020】
次に、実際の動作を二つのステップに分けて説明する。まず、同期検波の為に、テラヘルツ波の伝播光路長と同期検波用の光路長を等しくする。つまり、ハーフミラー3によりフェムト秒光パルスを二分割させた地点から、送信用光スイッチ4を経て、計測対象Mへの往復距離を加算したものがテラヘルツ波の伝播光路長である。同期検波用光路は、ハーフミラー3によりフェムト秒パルスを二分割させた地点から、ミラー6,ミラー7を経て受信用光スイッチ8に入射する光路長である。ミラー7の位置を調整して、テラヘルツ波の伝播光路長と同期検波用光路長を等しくする。
【0021】
次いで、テラヘルツ波パルスを観測するため、同期検波用走査器であるミラー7の位置を移動させることで、上記の遅延時間を走査する。30fsec程度の分解能を出すため、一ステップあたり10μmの光路変位動作をさせる。変位量の最大は、必要なパルス波形の取得時間によって定まり、例えば100psec間の波形をサンプリングしたい場合は光速に基づき、変位量の最大値を30mmと定める。
【0022】
最後に、一ステップあたりの変位量と光速に基づきサンプリング点間の間隔時間を定め、サンプリング点ごとの振幅に基づき、テラヘルツ波反射波形を検出する。この部分が図2の波形検出部10である。
【0023】
次に、テラヘルツ波パルスの反射を用いた路面状況推定を説明する。図2に示すように、計測対象Mは、物質M2(例えばコンクリート)の表面に、物質M1(例えば氷または雪)の層が形成されたものが存在するとする。この計測対象Mに、テラヘルツ波パルスを照射すると、テラヘルツ波の一部は、空気と物質M1との境界である境界面B1で反射され、残りは物質M1の内部へ進入する。物質M1の内部へ進入したテラヘルツ波パルスは、物質M1で吸収されながら物質M1と物質M2との境界である境界面B2に達して一部が反射され、残りが物質M2に吸収される。
【0024】
従って、波形検出部10の出力には、境界面B1による反射の波形21と、境界面B2による反射の波形22とが得られる。実際には、多重反射により、波形22の後にも振幅の小さい波形が続くが、これらを無視してもかまわない。波形21と波形22との時間差Δtは、物質M1の厚さをD,その屈折率をng ,光速をcとすれば、次の式となる。
【0025】
Δt=(1/c)×2ng ×D
尚、厚さDが0の場合、言い換えれば、計測対象Mが積層状態でない場合には、Δtは0となり、波形21と波形22との時間差は無くなり、反射波形の種類は1つしか検出されないことは明らかである。従って、反射波形の種類の数に基づいて、路面状態が積層状態か非積層状態かを判別することができるとともに、反射波形のΔtにより路面舗装の上に形成された積層の厚さDを測定することができる。
【0026】
図1と図2との対応は以下の通りである。発生器101及び送信器102が送信用光スイッチ4、受信器103が受信用光スイッチ8及び電流アンプ9,波形検出部104が波形検出部10にそれぞれ対応する。また図1の角度計測/設定部105と反射境界面位置計測部106と波形特徴抽出部107と路面状況推定部108とは、図2のマイクロコンピュータ11により実現されている。このため、マイクロコンピュータ11には、カメラやレーザレーダ、加速度センサ、既知のステージやセンサ設置条件のいずれか一つ以上の組み合わせから、計測対象Mと送受信面とのなす角度θを計測するプログラムと、カメラやレーザレーダ、加速度センサ、既知のステージやセンサ設置条件のいずれか一つ以上の組み合わせから、計測対象Mと送受信器との距離を計測するプログラムと、波形検出部10が検出した波形と角度θに基づいて波形の特徴を抽出するプログラムと、抽出した波形の特徴に基づいて路面状況を推定するプログラムとを備えている。
【0027】
図3は、電磁波をテラヘルツ波とした場合の実施例1の変形例の構成を示す構成図である。図2のハーフミラー3,ミラー6,及びミラー7に代えて、同期検波用パルス光13を発生するフェムト秒パルスレーザ15と、フェムト秒パルスレーザ2とフェムト秒パルスレーザ15との間の互いに異なるパルス発生繰返周期の差が一定なるように制御するタイミング制御部14とを設けている。
【0028】
図2の構成では、ミラー7を移動することにより、同期検波用パルス光13の時間遅延走査を行っていたが、図3の変形例では、フェムト秒パルスレーザ2が発生する励起用パルス光12に対して、フェムト秒パルスレーザ15が発生する同期検波用パルス光13のタイミングを順次ずらす時間遅延走査を電子制御により行っている。このため、路面状況推定装置1の内部で同期検波用パルス光13を遅延させるための可変光路長が不要となり、路面状況推定装置1を小型化して車両搭載性を向上させることができる。
【0029】
図6は、実施例1における路面状況推定装置1の動作を説明するフローチャートである。まず、ステップ(以下、ステップをSと略す)10において、所定の周期で繰り返し発生器101でフェムト秒パルス光を発生させ、送信器102でテラヘルツ波パルスを計測対象Mへ送出する。次いでS12で、発生器101が発生したタイミングに基づいて受信器103が計測対象Mからの反射テラヘルツ波パルスを受信する。そして波形検出部104が受信波形を再構成して検出する。
【0030】
次いでS14において、角度計測/設定部105が、受信波形に基づいて境界面の角度を計測、または送信器102及び受信器103の車体に対する角度を設定することにより、境界面B1,B2の送受信器設定面に対する角度を測定する。また反射境界面位置計測部106が境界面B1,B2の位置を計測する。
【0031】
次いでS16において、波形特徴抽出部107が、境界面の角度と検出波形に応じて、反射波形の特徴を抽出し、抽出した特徴により路面状況を推定する。具体的には、反射面の種類と送受信面と反射面との角度により、例えば図8に示すように反射面の種類を6種類に分類する。この分類は、反射面が散乱面であるか平滑面であるかの2分類と、反射面と送受信面が並行で正反射か、5゜の斜め入射か、10゜の斜め入射かの3分類があり、2×3=6通りの分類に対して、反射波の強度をグラフ表示したものが図8である。
【0032】
反射面が散乱面の場合には、正反射、5゜斜め入射、10゜斜め入射のいずれも反射波の振幅は、ほぼ同等で変化がない。しかし、平滑面の場合には、正反射が最も反射強度が高く、反射面と送受信面との角度が大きくなるほど反射波の強度は低下する。したがって、送信器102及び受信器103を備える送受信面の角度を車体鉛直下方(0゜)と、鉛直下方から5゜傾けた角度と、鉛直下方から10゜傾けた角度との3種類の角度を角度計測/設定部105により設定可能とする。そして、0゜、5゜、10゜の各角度におけるテラヘルツ波の反射強度を測定することにより、路面が散乱面か平滑面かを推定することができる。
【0033】
また、図7に示すような、送信用光スイッチ4または送信器102が送信するテラヘルツ波の指向特性と、既知の大気の伝播減衰に基づき、波形検出部104が出力する反射波振幅値を増減する補正を行うことにより、より高精度に特徴量を抽出することができる。即ち、テラヘルツ波の送信アンテナである送信用光スイッチ4または送信器102のアンテナ面と垂直方向、図7でいえば、正反射方向、車体に装備した送信器102の鉛直下方方向の放射強度を1.0とすれば、放射角度に応じて放射強度が減衰する。同様に斜め方向から受信器103へ入射する反射波に対して、受信器103の感度も低下する。このため、予め測定した放射強度分布により、5゜斜め入射時と、10゜斜め入射時の受信強度を補正する。
【0034】
また、鉛直下方の正反射面からの反射に比べて、斜め方向からの反射は、送信器102から受信器103に戻る経路の長さが(1/cosθ)倍となり、この長さが増えた分だけ、空気による電磁波吸収が増加して減衰するので、この分も補正する。
【0035】
以上説明した実施例1によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0036】
また実施例1によれば、電磁波としてテラヘルツ波パルスを使用しているので、路面が積雪や凍結による積層状態であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【0037】
また実施例1によれば、路面に電磁波を照射する角度を変えて反射波の強度を測定することにより、路面が平滑面か散乱面かを推定することができるという効果がある。
【実施例2】
【0038】
図9は、本発明に係る路面状況推定装置の実施例2の構成を示すブロック図である。本実施例では、実施例1の構成に、反射波形補正部109が追加されている。その他の構成は、図1と同様であるので、同じ構成要素には同じ符号を付与して、重複する説明を省略する。
【0039】
反射波形補正部109は、波形特徴抽出部107が抽出した波形の特徴に基づいて、反射波形を補正する構成要素である。
【0040】
次に、図10のフローチャートを参照して、本実施例の動作を説明する。S10〜S16は、図6の実施例1と同様である。次に、図10に基づいて、実施例1と異なる部分を説明する。S18において、反射波形補正部109は、波形特徴抽出部107が抽出した反射波形の特徴に基づいて、反射波形を補正する。具体的には、正反射である場合は、反射波形は送信波形と類似性が高いため、複数波形の合成は送信波形をモデルにしたマッチングにより時刻を合わせて反射波の補正を行う。また、散乱面での反射である場合は、反射波形は送信波形と類似性が低く、複数時間組み合わせると散乱波形が復元されにくいため、送受信面を正反射、5゜斜め、10゜斜めとした3通りの送受信面の角度設定の違いで送受信した結果から、反射面が散乱体であることを識別し、積算による反射率の算出を行う。
【0041】
以上説明した実施例2によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0042】
また実施例2によれば、電磁波としてテラヘルツ波パルスを使用しているので、路面が積雪や凍結による積層状態であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【0043】
また実施例2によれば、路面に電磁波を照射する角度を変えて反射波の強度を測定することにより、路面が平滑面か散乱面かを推定することができるという効果がある。
【0044】
さらに実施例2によれば、反射波形の特徴に基づいて反射波形を補正しているので、更に正確に路面状況を推定することができる。
【実施例3】
【0045】
図11は、本発明に係る路面状況推定装置の実施例3の構成を示すブロック図である。本実施例は、実施例1の構成に、車両運動量算出部110と、散乱算出部111とが追加されている。その他の構成は、図1と同様であるので、同じ構成要素には同じ符号を付与して、重複する説明を省略する。
【0046】
車両運動量算出部110は、角度計測/設定部105と反射境界面位置計測部106に接続され、車速や3軸加速度、操舵、加減速操作等に基づいて、車両のピッチング、ローリング、ヨーイングを計算する。
【0047】
散乱算出部111は、波形検出部104、角度計測/設定部105、反射境界面位置計測部106及び路面状況推定部108に接続されている。そして、散乱算出部111は、計測又は設定した送受信面の角度、反射面の位置、及び反射波形から、反射波の散乱度合いを算出する。
【0048】
次に、図12のフローチャートを参照して、実施例3の動作を説明する。S10〜S12の動作は、実施例1と同様である。S20において、車両運動量算出部110は、車両のピッチング、ローリング、ヨーイングを算出し、角度計測/設定部105は、路面と送受信面との路面鉛直方向と送信面鉛直方向との角度差を計測または設定し、反射境界面位置計測部106は、送受信面と路面との距離を計測し、得られた反射波の反射角度情報として、散乱算出部111へ送出する。
【0049】
次いでS22において、散乱算出部111は、波形検出部104が検出した受信波形と角度情報から散乱の度合いを計算する。なお、このとき計算に過去の反射波及び角度を用いるとより高精度に判別できる。また、テラヘルツTDS方式であるので、境界面B1及びB2がある場合には、路面の積層情報を個々に判別すると、より高精度に検出できる。
【0050】
次いでS24において、路面状況推定部108は、図13に示すように、予め記憶した複数の路面状態モデルを参照して、計測対象物Mで反射された反射波の散乱度合い及び反射波形の種類の数に応じて、路面状況を推定する。
【0051】
図13において、路面状況が基準となる乾燥路面である場合には、散乱面であり、散乱度合いは、最も大きく(散乱度1)、非積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21のみが検出され、波形22は検出されないので、波形種類の数は1である。
【0052】
路面状況がペイント式白線の場合、平滑面であり、散乱度合いは2番目に大きく(散乱度2)、非積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21のみが検出され、波形22は検出されないので、波形種類の数は1である。
【0053】
路面状況が溶融式白線の場合、平滑面であり、散乱度合いは2番目に小さく(散乱度3)、非積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21のみが検出され、波形22は検出されないので、波形種類の数は1である。
【0054】
路面状況が湿潤の場合、平滑面であり、散乱度合いは最も小さく(散乱度4)、非積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21のみが検出され、波形22は検出されないので、波形種類の数は1である。
【0055】
路面状況が積雪の場合、散乱面であり、散乱度合いは最も大きく(散乱度1)、積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21及び波形22が検出され、波形種類の数は2である。
【0056】
路面状況が凍結の場合、散乱面であり、散乱度合いは2番目に大きく(散乱度2)、積層面であり、反射波形は、図2,3の波形21及び波形22が検出され、波形種類の数は2である。
【0057】
図14は、本発明の路面状況推定装置を搭載した車両の側面図である。サイドミラーの位置に車体の鉛直下方に向けて送信器102及び受信器103が設置されている。そして、路面の凹凸による車両運動が送信器102及び受信器103を設けた送受信面と路面との傾きθが形成される様子を示している。
【0058】
本実施例では、図11の角度計測/設定部105は、車両運動量算出部110が算出した車両のピッチングまたはローリングにより、図14の角度θを得ることができる。
【0059】
図15は、図11の送信器102及び受信器103の車体50への搭載位置を示す平面図である。搭載位置としては、左サイドミラーの位置51,車体前部の位置52,53,54,55,56,右サイドミラーの位置57,車体後部58,59の位置が可能である。41〜44は検知エリアの例である。
【0060】
以上説明した実施例3によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0061】
また実施例3によれば、電磁波としてテラヘルツ波パルスを使用しているので、路面が積雪や凍結による積層状態であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【0062】
また実施例3によれば、路面に電磁波を照射する角度を変えて反射波の強度を測定することにより、路面が平滑面か散乱面かを推定することができるという効果がある。
【0063】
さらに実施例3によれば、反射波の散乱度を算出し、予め記憶した路面状況毎の散乱度及び波形種類の数とを照合して、路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【実施例4】
【0064】
図16は、本発明に係る路面状況推定装置の実施例4の構成を示すブロック図である。本実施例は、実施例3の構成に、波形補正部112と、補正パラメータ算出部113と、レンズ114と、方向調整手段115とが追加されている。その他の構成は、図11と同様であるので、同じ構成要素には同じ符号を付与して、重複する説明を省略する。
【0065】
波形補正部112は、波形特徴抽出部107が抽出した反射波形の特徴に基づいて、送信器102が送信するテラヘルツ波のビーム径、ビーム送信方向、及び発生器101aから受信器103に至る遅延光路115の遅延時間を補正パラメータ算出部113へ指示する。
【0066】
補正パラメータ算出部113は、波形補正部112から指示されたテラヘルツ波パルスのビーム径、ビーム送信方向、及び遅延光路115の遅延時間と、車両運動量算出部110からの車体のピッチング量及びローリング量に応じて、テラヘルツ波パルスのビーム径、ビーム送信方向、及び同期検波用の遅延光路115の長さを変更する。
【0067】
レンズ114は、補正パラメータ算出部113の出力にしたがって、レンズ位置もしくは屈折率を変化させ、テラヘルツ波パルスビーム径を調整する。このレンズ114は、送信用光スイッチ4の詳細を説明した図4におけるシリコンレンズ32と同一のものであっても良いし、シリコンレンズ32に加えて、さらにレンズ114を備えることもできる。レンズ114は、レンズ位置を調節する図示しないレンズ位置調節器または屈折率調節器が設けられ、送信器102から放射されたテラヘルツ波パルスビームが路面の位置に形成するビーム径の大きさを調節する。
【0068】
なお、このレンズ114は光学的に平行光に近いビーム径を設定すればよく、凸レンズでなくてもいくつかのレンズを組み合わせてもよい。また可視光と同じ屈折率のレンズ材料を用いることで、可視カメラを組み合わせてもよい。
【0069】
方向調整器115は、補正パラメータ算出部113の出力にしたがって、送信波パルスの送信方向を2次元または3次元に調整する装置である。例えば多角形回転ミラー(ポリゴンミラー)のような形状であれば、高速でパルスの方位走査が可能である。また、送受信アンテナを動かしてメカニカルに方向を調整する方法であっても、方向に応じた位相差を伴うビーム走査を行うアンテナ技術で代用してもよい。
【0070】
次に図17のフローチャートを参照して、本実施例の動作を説明する。S10〜S24までは、実施例3と同様である。S26において、波形補正部112は、波形特徴抽出部107が抽出した反射波形の特徴量について、予め記憶した図13に示したような路面状況毎の波形特徴との類似度若しくは路面の反射率を高精度に算出し、更に散乱度を算出するための検知領域の設定を行う。具体的には、もし車両運動の影響で反射強度が十分えられなかった場合は、図示しない時系列データ及び角度情報の蓄積に基づいて、正反射方向にパルス送信方向を調整するように方向調整器115へ指示する。
【0071】
また、図示しない天候計測やロードノイズ計測等によって、例えば白線と路面の差異が見えにくいと判定し、散乱度の差異をより高感度にする必要がある場合は、ビーム径を絞り、微小な凹凸でも散乱を観測できるようにする。図示しないロードノイズ計測等の手段に応じて、白線と路面の差異が見えやすいと判定した場合はビーム径を広げ、より広い範囲を観測する。
【0072】
加えて、例えば車両の積載荷重のバランスが悪い場合や極端に凹凸が大きく車両のピッチングの影響が長い周期にわたる場合等で、路面と送受信面の距離が大きく変化する場合は、遅延光路115で観測領域や観測中心距離を変更する。尚、遅延光路115を用いずに、本願発明者による「特開2007−292701号公報;波形観測方法と波形観測装置」に示す発生器のパルス列を時間で変化する手法をとってもよい。
【0073】
以上説明した実施例4によれば、車両挙動によりセンサから路面までの距離が変化しても、電磁波の送信方向と受信した反射波の特徴に基づいて路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0074】
また実施例4によれば、電磁波としてテラヘルツ波パルスを使用しているので、路面が積雪や凍結による積層状態であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【0075】
また実施例4によれば、路面に電磁波を照射する角度を変えて反射波の強度を測定することにより、路面が平滑面か散乱面かを推定することができるという効果がある。
【0076】
また実施例4によれば、反射波の散乱度を算出し、予め記憶した路面状況毎の散乱度及び波形種類の数とを照合して、路面状況を正確に推定することができるという効果がある。
【0077】
さらに実施例4によれば、テラヘルツ波のビーム径、ビーム送信方向、及び同期検波用の遅延光路長を路面の反射状況に応じて補正することができるので、車両の積荷バランスや路面の凹凸が極端に悪い場合であっても正確に路面状況を推定することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0078】
1 路面状況推定装置
101 発生器
102 送信器
103 受信器
104 波形検出部
105 角度計測/設定部
106 反射境界面位置計測部
107 波形特徴抽出部
108 路面状況推定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を発生する電磁波発生手段と、
路面に電磁波を送信する送信手段と、
路面に反射された電磁波を受信する受信手段と、
受信された電磁波の波形を検出する波形検出手段と、
前記路面と前記送信手段とのなす角度を計測する又は設定する角度計測/設定手段と、
前記波形検出手段が検出した前記波形と前記角度計測/設定手段が計測または設定した前記角度に基づいて、前記波形の特徴を抽出する波形特徴抽出手段と、
前記波形の特徴に基づいて、路面状況を推定する路面状況推定手段と、
を備えたことを特徴とする路面状況推定装置。
【請求項2】
前記波形特徴抽出手段は、前記波形の強度を波形の特徴として抽出し、
前記路面状況推定手段は、前記角度と前記波形の強度に基づいて、前記路面状況を推定することを特徴とする請求項1に記載の路面状況推定装置。
【請求項3】
前記波形特徴抽出部が抽出した前記波形の特徴に基づいて、路面で反射された波形の補正を行う反射波形補正手段を更に備えたことを特徴とする請求項2に記載の路面状況推定装置。
【請求項4】
前記波形特徴抽出手段は、更に前記波形の種類の数を波形の特徴として抽出し、
前記路面状況推定手段は、前記波形の種類の数に基づいて、前記路面状況を推定することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の路面状況推定装置。
【請求項5】
前記波形検出手段が検出した前記波形の散乱度合いを計算する散乱算出部を更に備え、
前記路面状況推定手段は、前記波形の散乱度合いに基づいて、前記路面状況を推定することを特徴とする請求項2乃至請求項4の何れか1項に記載の路面状況推定装置。
【請求項6】
前記路面状況推定手段は、前記波形の種類の数及び前記波形の散乱度合いに基づいて、前記路面状況が、凍結、積雪、湿潤、乾燥の何れであるか、あるいは路面の白線部であるか否かを推定することを特徴とする請求項5に記載の路面状況推定装置。
【請求項7】
前記電磁波は、0.1THz以上10THz以下のテラヘルツ帯域のパルス波であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の路面状況推定装置。
【請求項8】
電磁波を路面に送信し路面に反射された電磁波を受信して路面状況を推定する路面状況推定方法において、
受信した電磁波の波形を検出し、
前記路面と電磁波送信方向とのなす角度を計測又は設定し、
検出した前記波形と計測または設定した前記角度とに基づいて、前記波形の特徴を抽出し、
抽出した波形の特徴に基づいて、路面状況を推定することを特徴とする路面状況推定方法。
【請求項1】
電磁波を発生する電磁波発生手段と、
路面に電磁波を送信する送信手段と、
路面に反射された電磁波を受信する受信手段と、
受信された電磁波の波形を検出する波形検出手段と、
前記路面と前記送信手段とのなす角度を計測する又は設定する角度計測/設定手段と、
前記波形検出手段が検出した前記波形と前記角度計測/設定手段が計測または設定した前記角度に基づいて、前記波形の特徴を抽出する波形特徴抽出手段と、
前記波形の特徴に基づいて、路面状況を推定する路面状況推定手段と、
を備えたことを特徴とする路面状況推定装置。
【請求項2】
前記波形特徴抽出手段は、前記波形の強度を波形の特徴として抽出し、
前記路面状況推定手段は、前記角度と前記波形の強度に基づいて、前記路面状況を推定することを特徴とする請求項1に記載の路面状況推定装置。
【請求項3】
前記波形特徴抽出部が抽出した前記波形の特徴に基づいて、路面で反射された波形の補正を行う反射波形補正手段を更に備えたことを特徴とする請求項2に記載の路面状況推定装置。
【請求項4】
前記波形特徴抽出手段は、更に前記波形の種類の数を波形の特徴として抽出し、
前記路面状況推定手段は、前記波形の種類の数に基づいて、前記路面状況を推定することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の路面状況推定装置。
【請求項5】
前記波形検出手段が検出した前記波形の散乱度合いを計算する散乱算出部を更に備え、
前記路面状況推定手段は、前記波形の散乱度合いに基づいて、前記路面状況を推定することを特徴とする請求項2乃至請求項4の何れか1項に記載の路面状況推定装置。
【請求項6】
前記路面状況推定手段は、前記波形の種類の数及び前記波形の散乱度合いに基づいて、前記路面状況が、凍結、積雪、湿潤、乾燥の何れであるか、あるいは路面の白線部であるか否かを推定することを特徴とする請求項5に記載の路面状況推定装置。
【請求項7】
前記電磁波は、0.1THz以上10THz以下のテラヘルツ帯域のパルス波であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の路面状況推定装置。
【請求項8】
電磁波を路面に送信し路面に反射された電磁波を受信して路面状況を推定する路面状況推定方法において、
受信した電磁波の波形を検出し、
前記路面と電磁波送信方向とのなす角度を計測又は設定し、
検出した前記波形と計測または設定した前記角度とに基づいて、前記波形の特徴を抽出し、
抽出した波形の特徴に基づいて、路面状況を推定することを特徴とする路面状況推定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−210324(P2010−210324A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54968(P2009−54968)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
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