説明

身体拭き取り用の繊維体

【課題】殺菌剤無添加のウエットティッシュやソフトティッシュなどを提供する。
【解決手段】ソフトティッシュやウエットティッシュなどの繊維体に、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールのうち、少なくともいずれか1つが配合された保湿剤を含ませる。保湿剤に含まれる1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールそれぞれの配合量は、0.2〜0.6重量%に調整する。繊維体は、セルロース繊維を10重量%以上含む不織布であってもよい。キチン、キトサンや、カテキン、あるいは酸化銀を含ませることもできる。繊維の吸着作用の影響を受けることもなく、殺菌剤無添加でも優れた防菌防黴効果が発揮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトティッシュやウエットティッシュなどの保湿性のある、肌身に直接触れる身体拭き取り用の繊維体に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に関する先行技術文献として、特許文献1及び2がある。特許文献1には、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールを殺菌剤であるパラベンと組み合わせ、パラベンの効力を高めてその配合量を少なくした防腐殺菌剤が開示されている。特許文献2には、キレート剤を配合して防菌防黴剤が繊維に吸着されるのを抑制することが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−310506号公報(段落番号0006、0012、表2、表4)
【特許文献2】特開平10−127516号公報(段落番号0002〜0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、薄葉紙からなるドライティッシュだけでなく、これに保湿性を付与したソフトティッシュや、湿潤状態を保持させたウエットティッシュが、化粧落としや手指の汚れ落としなどに多用されている。これらは、例えばパルプやコットン、レーヨンなどのセルロース繊維を素材とした不織布に、グリセリン等を含む保湿液やシリコーン油などを噴霧や塗布、含浸して作られる。
【0005】
ドライティッシュであれば、梅雨時などの湿気の多い環境下に長期間放置されたときでも細菌やカビはほとんど発生しない。しかし、湿潤状態に保持されているウエットティッシュはもちろんのこと、半乾き状態のソフトティッシュも、保湿材等の影響で湿気易いうえ、密封されないことが多いため、細菌やカビなどの微生物が発生し、使用できなくなることがある。
【0006】
そこで、これら保湿性があるティッシュには、微生物の発生を防止するために、塩化ベンザルコニウムやパラオキシ安息香酸メチルなどの殺菌剤が添加されている。ところが、殺菌剤はティッシュを構成する繊維に吸着されて抗菌性が減少することが解っており、細菌やカビの発生を確実に抑制できるよう、最初から殺菌剤が過剰に添加されている(特許文献2参照)。しかし、肌身に直接触れるこれらのティッシュに殺菌剤が含まれていると、人によっては肌荒れや炎症を生じることもあり、その使用量は極力少なく、できるならば使用しないのが好ましい。
【0007】
この点、先の特許文献2では、キレート剤の添加によって、繊維への殺菌剤の吸着を抑制し、結果として殺菌剤の使用量を減少させることに成功している。しかし、そこでは、吸着による殺菌剤の効力の減少を抑制するに止まるため、殺菌剤本来の使用量を減らすまでには至っていない。
【0008】
先の特許文献1では、1,2−ペンタンジオール等との組み合わせによりパラベンの使用量を少なくできることが開示されてはいるが、クリームや化粧水などの液剤を対象としているに過ぎない。
【0009】
かかる状況下で本発明者は、繊維体における微生物の発生を、殺菌剤を使用しないで防止できないか検討していたところ、保湿剤である1,2−ペンタンジオール等の適用によって従来にない優れた防菌防黴効果が認められることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、微生物の発生を抑制でき、肌荒れ等を招くおそれのない、身体拭き取り用の繊維体を提供することにある。本発明の目的は、殺菌剤無添加、あるいは殺菌剤微量添加の身体拭き取り用の繊維体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の身体拭き取り用の繊維体は、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールのうち、少なくともいずれか1つが配合された保湿剤を含むことを特徴とする。少なくともいずれか2つが配合された保湿剤を含むようにしてあってもよい。
【0012】
具体的には、その他の保湿剤として、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールのうち、少なくともいずれか1つを含む。保湿剤に含まれる1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールそれぞれの配合量は、0.2〜0.6重量%に調整するとよい。
【0013】
塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼントニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、安息香酸、イソプロピルメチルフェノールのうち、少なくともいずれか1つを含むものであってもよい。
【0014】
繊維体は、セルロース繊維を10重量%以上含む不織布であってもよい。すなわち、繊維体は、天然のセルロース繊維だけで構成されたタイプ以外にも、例えば、天然のセルロース繊維にポリエチレンやポリプロピレン等が配合されたタイプも含まれる。その具体例としては、ソフトティッシュやウエットティッシュを挙げることができる。
【0015】
キチン、キトサンや、カテキン、あるいは酸化銀を含ませることもできる。
【発明の効果】
【0016】
1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールのうち、少なくともいずれか1つが配合された保湿剤を繊維体に含ませることで、殺菌剤を使用しなくとも優れた防菌防黴効果を発揮させることができる。これら化合物は保湿剤であり、不織布等に含ませることで柔軟な、肌触りのよい風合いを付与することができる。また、これらが抗菌性を有することは知られてはいるが、繊維に適用した場合、従来にまして際立って優れた効果が発揮された。その機構は明らかでないが、保湿作用によってこれら成分が繊維表面をくまなく覆う結果、ほとんど吸着されずにその機能が効率よく発揮できているものと思われる。
【0017】
さらに殺菌剤を含む場合には、微量であっても、1,2−ペンタンジオール等によって繊維の吸着が抑制されるため、両者の抗菌作用が相まってより確実な防菌防黴効果を発揮する。
【0018】
とくに、繊維体がセルロース繊維を10重量%以上含む不織布である場合に有効である。セルロース繊維が多いほど肌触りはよくなるが、天然素材であるセルロース繊維は、個々の繊維の内部に至るまで微生物に汚染されている場合が多く、合成繊維などに比べてそれだけ腐敗を生じ易い。したがって、抗菌作用のある保湿剤が繊維を包み込む結果、微生物の増殖を効率よく防止できる。
【0019】
殺菌剤を無添加、あるいは殺菌剤を微量添加しただけのソフトティッシュやウエットティッシュであれば、直接肌に触れる機会が多いため、肌荒れ防止等に優れた効果を発揮する。
【0020】
キチン、キトサンや、カテキン、および酸化銀は、いずれも抗菌作用を備えており、これらを複合的に含ませることで、多様な抗菌性を付与させることができ、よりいっそう防菌防黴効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次の表1に、本発明をウエットティッシュに適用し、各種配合で防菌防黴効果についてチャレンジテストを行った結果を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
(試験条件) テストには、ウエットティッシュに用いるコットン繊維の不織布(40g/m2 )を使用した。表1の左欄に示される1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコールの各保湿剤、及びパラオキシ安息香酸メチル、塩化ベンザルコニウムの各殺菌剤を、実施例1〜7、及び比較例1〜5に示される各配合割合に調整し、これを湿潤溶液とした。1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールは、0.2〜0.6重量%の範囲で2種以上組み合わせた。保湿剤のグリセリン及びジプロピレングリコールは、全ての条件において同じ配合とした。なお、ここでの%は重量%を示しており、残部は精製水である。
【0024】
(試験液) 各実施例及び比較例の湿潤溶液ごとに、先の不織布に対し、500重量%の比率で湿潤溶液を含浸させた後、袋に入れて封止し、室温下で2週間静置した。その後、不織布に含浸させた湿潤溶液を絞り出して、これを試験液とした。
【0025】
(試験菌) 細菌には、大腸菌(Eascherichia coli ATCC8739)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa ATCC9027)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC6538)の標準混合菌を使用し、これを滅菌水に混濁させて試験菌液とした。真菌には、黒コウジカビ(Aspergillus niger ATCC16404)、カンジタ(Candida albicans ATCC10231)、アオカビ(Penicillium Citrinum ATCC9849)、オーレバシディウム(Aureobasidium pullulans IFO6353)の混合菌を使用し、これを滅菌水に混濁させて試験菌液とした。
【0026】
(試験操作) 各試験液20mlをバイアル瓶群に分注して、先の細菌及び真菌の各試験菌液をそれぞれ0.2mlづつ接種した。細菌を接種したサンプルは、30℃で、真菌を接種したサンプルは25℃でそれぞれ保存した。実施例1〜7、及び比較例1〜5でそれぞれ3サンプルづつ作製しておき、7日後、14日後、21日後に各サンプルの生菌数を測定した。生菌数の測定は、混釈法(細菌:SCDLP寒天培地、真菌:GPLP寒天培地)により、コロニー数(cfu)を計数した。
【0027】
(結果) 初菌数は、細菌:約106 cfu、真菌:約105 cfuであった。1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールを組み合わせ配合した実施例1〜7では、全てにおいて培養7日後で細菌が検出されなかったのに対し、これらが配合されていない比較例1〜5では、殺菌剤が配合されているにもかかわらず、一部で殺菌効果の遅延が認められた。繊維の吸着による影響と思われる。同様に、真菌においても、実施例では、全てにおいて培養21日後で検出が認められなかったのに対し、比較例では、殺菌剤濃度が最も高い比較例3を除き、102 cfuの生菌数の残存が認められた。この結果からも明らかなように、ウエットティッシュに1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールのいずれかを保湿剤に含ませることで、より詳しくはこれらを2種以上組み合わせた保湿剤を含ませることで、優れた防菌防黴効果が認められた。
【0028】
次の表2に、本発明をソフトティッシュに適用し、各種配合で防菌防黴効果についてチャレンジテストを行った結果を示す。
【0029】
【表2】

【0030】
(試験条件) テストには、ソフトティッシュ用の、セルロース繊維が10重量%以上混合されたティッシュペーパー(15g/m2 )を使用した。表2の左欄に示される1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコールの各保湿剤、及び塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジンの各殺菌剤を、実施例1〜6、及び比較例1〜4に示される各配合割合に調整し、これを湿潤溶液とした。1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールは、いずれも0.5重量%とし、2種以上を組み合わせた。なお、各条件でのグリセリン及びジプロピレングリコールの配合が同じであり、残部が精製水で、%が重量%を示す点は、先のウエットティッシュでの試験条件と同じである。
【0031】
試験液、試験菌、及び試験操作については、ウエットティッシュの場合と同じであるため、説明は省略する。
【0032】
(結果) 初菌数は、細菌:約106 cfu、真菌:約105 cfuであった。細菌では、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールを配合した実施例1〜6、及び殺菌剤のみの比較例1〜4のいずれにおいても培養7日後で検出されなかった。繊維量が少ない分、吸着の影響が小さかったものと思われる。一方、真菌では、実施例の全てにおいて培養21日後で検出が認められなかったのに対し、比較例では、培養21日後でも102 cfuの生菌数の残存が認められた。この結果からも明らかなように、ソフトティッシュに1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールのいずれかを保湿剤に含ませることで、より詳しくは、これらを2種以上組み合わせた保湿剤を含ませることで、優れた防菌防黴効果が認められた。
【0033】
さらに、いずれも抗菌性を有する、天然の多糖類であるキチン、キトサンや、緑茶などの抽出成分であるカテキン、または酸化銀を、それぞれ単独で、あるいは組み合わせて含ませることで、作用機構が異なった多様な抗菌性を付与させることができ、防菌防黴効果をよりいっそう確実にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールのうち、少なくともいずれか1つが配合された保湿剤を含むことを特徴とする身体拭き取り用の繊維体。
【請求項2】
1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールのうち、少なくともいずれか2つが配合された保湿剤を含むことを特徴とする身体拭き取り用の繊維体。
【請求項3】
保湿剤として、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールのうち、少なくともいずれか1つを含む請求項1又は2記載の身体拭き取り用の繊維体。
【請求項4】
保湿剤に含まれる1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールそれぞれの配合量が、0.2〜0.6重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の身体拭き取り用の繊維体。
【請求項5】
塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼントニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、安息香酸、イソプロピルメチルフェノールのうち、少なくともいずれか1つを含む請求項1〜4のいずれかに記載の身体拭き取り用の繊維体。
【請求項6】
繊維体が不織布からなり、該不織布が、セルロース繊維を10重量%以上含む請求項1〜5のいずれかに記載の身体拭き取り用の繊維体。
【請求項7】
繊維体が、ソフトティッシュである請求項1〜6のいずれかに記載の身体拭き取り用の繊維体。
【請求項8】
繊維体が、ウエットティッシュである請求項1〜6のいずれかに記載の身体拭き取り用の繊維体。
【請求項9】
キチン、キトサンを含む請求項1〜8のいずれかに記載の身体拭き取り用の繊維体。
【請求項10】
カテキンを含む請求項1〜9のいずれかに記載の身体拭き取り用の繊維体。
【請求項11】
酸化銀を含む請求項1〜10のいずれかに記載の身体拭き取り用の繊維体。

【公開番号】特開2007−307287(P2007−307287A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141511(P2006−141511)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(504373864)明広商事株式会社 (43)
【Fターム(参考)】