説明

身体障害者・高齢者用カヌー

【課題】身体障害者、高齢者、および子供のための安全性が高く、且つ操作性、走行性能の良い身体障害者・高齢者用カヌーを提供する。
【解決手段】真空成形により成形された船体上部と船体下部とを、その全周囲に亘る両接合部を所定の接合手段により接合したカヌーであって、カヌー本体の所定の本体断面比率と、少なくとも船体両サイドに形成された空気室構造を設けることにより転覆に対する高い安全性を有し、また、船体上部をオープンコックピットとすることにより緊急時脱出を容易にし、さらに接合フランジ部の船体全周囲に弾性体による緩衝バンパを備えて対人対物に対する安全性を高め、且つ、回転制御可動フィンにより走行性能、特に直進性を良好化し、総体的に通常のカヌーに較べて極めて安全性の高い、また操作性の良好な身体障害者・高齢者用カヌー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として身体障害者や高齢者が用いるカヌーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、救命用などの多目的用やレジャー用のモータボートなどは、その目的からして、或る程度のスピードや出力が出せるために、その推進方式はドライブシャフトを介して、エンジンからスクリューを駆動する、いわゆるシャフトドライブ・スクリュー方式が一般的に使用されている。
しかしながら、船の竜骨から突出しているスクリューの衝突によるブレードの破損や異物の巻き込みによるトラブル等が生じ易く、これに対し船体内で生成した水ジェット噴流による、いわゆるポンプジェット推進方式が発達してきた。このポンプジェット推進方式も、その構造の複雑さや制御の難しさがあり、取扱いを容易にする構造(例えば、特許文献1参照)とか、2対のジェットユニット方式等その改良に多くの研究がされている。(例えば、特許文献2参照)
【特許文献1】特開2001−213394号公報
【特許文献2】特開2000−211587号公報
【0003】
しかしながら、その目的を、スピードや出力を期待するものではなく、身体障害者、高齢者のリハビリテーションや心の癒しのために使用するカヌーや、子供が安心して使用できるカヌーについては、過去それに適用されるべき例を見ない。
特に、身体障害者、高齢者や子供がカヌーを使用する水域は概ね25mプール等の極めて限られたスペースであり、従来型のカヌーでは操作性、安定性が極めて悪く、又従来のカヌーでは水の進水を防ぐため搭乗口を狭くされており、身体障害者、高齢者にとってはその乗り降りが極めて困難となっている。
また、最近の傾向としては、身体障害者や高齢者の方達の積極的な戸外への進出による、積極的なリハビリテーションや心の癒しに対し、また子供が安心して使用できるものに対する適切な施設や用具が極めて強く要求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記に鑑み、身体障害者や高齢者の方達のための、および子供が安心して積極的なリハビリテーションや心の癒しに対し助力する、安全で、且つ操作性の良い身体障害者・高齢者用カヌーを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の身体障害者・高齢者用カヌーは、
1)真空成形により成形した船体上部と船体下部とを、該船体上部と船体下部の全周囲に亘る両接合部を所定の接合手段により接合することによりカヌー本体として一体形成された身体障害者・高齢者用カヌーであって、前記カヌー本体の幅B/艇長Lの比率Kを0.3以上とし、且つカヌー本体の少なくとも船体両サイドに前記一体形成により形成された所定の空気室を設けたものであり、
2)上述の1)において、前記所定の接合手段を、接着剤またはボルトナットによる締結とし、該締結された船体上部と船体下部の接合フランジ部の船体全周囲に弾性体による緩衝バンパを備えたものであり、
3)上述1)又は2)において、前記所定の空気室を、カヌー本体の幅B(m)に対しての、艇長軸に直角な断面における各サイドの空気室断面積Ao(m 2)の比率αを、2.5〜4.0、但し、該Aoは高さh:幅bの割合βが2:1の矩形断面換算値、としたものであり、
【0006】
また、本発明の身体障害者・高齢者用カヌーは、
4)上述の1)〜3)において、前記一体形成されたカヌー本体の船体上部を、オープンコックピットとしたものであり、
5)上述の1)〜4)において、前記カヌー本体の後方船底側に上下方向にのみ回動自在な少なくとも1枚の回転制御用可動フィンを備えたものであり、
6)上述の1)〜5)において、前記カヌー本体を、ペットボトルのリサイクル材料にて構成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、身体障害者・高齢者用カヌーとして、船体も原則としてボートではなく、船の原点でもある素朴なカヌー形式とし、しかも25mプールのごとき小規模エリアの水域において、十分な安全性を保証し、且つ、安定した操作性を備えたカヌーの構成、仕様を、多くの試験結果に基づき特定したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の身体障害者・高齢者用カヌーにより、安心して身体障害者や高齢者の方達にリハビリテーションや心の癒しを与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1における正面図である。
図2は、本発明の実施の形態1における平面図である。
図3は、本発明の実施の形態1における側面図である。
図4は、本発明の実施の形態1における、図2のA−A矢視の拡大断面図ある。
図5は、本発明の実施の形態1における、前記接合部の拡大断面図ある。
図において、1はカヌー本体、2は船体上部、3は船体下部、4は接合部、41は緩衝バンパ、5は搭乗部、6は回転制御用可動フィン、61は回転制御用可動フィン引揚用バー、7は空気室である。
なお、各部の寸法は任意の寸法で記載されており、また各部の詳細は省略して表示されている。
【0010】
従来の一般的なカヌーでは広大な自然の川や湖沼で使われるように設計されており艇長が3m前後もあり、本発明の25mプールのような狭い水域での利用するものとしては、スペース性、回転性能などの点で向いていない。
本実施の形態1におけるカヌー本体1は、プールでの利用を前提とするものであり、艇長Lは約2mと短く、運動性に優れ、プールでの収容数(同時に遊べる艇数)も多く確保できる。
反面、カヌー本体1の艇長Lが短いことによるデメリットとして、浮力が小さく、ローリング、ピッチングが起きやすく、また船首の振れ、直進性などに難があり、本実施の形態1においては、それらを解決し、同時に高齢者、障害者、子供などを対象として、あらゆる利用状況における安全性、特に、カヌー特有の「沈」(転覆)が起こらないことを配慮したものである。
【0011】
本実施の形態1のカヌー本体1は、ペットボトルのリサイクル材料PET(ポリエチレンテレフタレート)を原料として作成された厚さ5mm程度の薄板を真空成形にて成形された船体上部2と船体下部3により構成されている。
該船体上部2と船体下部3の全周囲に亘る両接合部4は、所定の接合手段により接合されカヌー本体1として一体形成される。接合手段は一般的なボルトナットによる締結、接着剤による接着、加圧溶接などにより行う。
これによりカヌー本体1はクローズ形状(シェル構造)となり、軽量で強い剛性が得られる。
【0012】
本実施の形態1におけるカヌー本体1は、基本的に艇長Lを約2mと短くすることにより生じるローリング、ピッチングの起き易すさを、幅B/艇長Lの比率Kを適正範囲に選択することにより減少させ、またローリング、ピッチングに対する船体の復原力を十分に確保するためにカヌー本体の少なくとも船体両サイドに前記一体形成により形成された所定の空気室7設けたところに特徴がある。
【0013】
ローリングとピッチング減少に対して、カヌー本体1の幅Bと艇長Lとは相反する条件にある。本実施の形態1においては 前述の如く艇長Lを約2mと固定しており、これによって幅B/艇長Lの好ましい比率Kを試験選択することは比較的容易である。
幅B/艇長Lの比率Kを変化し、主としてローリングに対する安定性を計測した結果、比率Kの値は 0.2〜0.5、好ましくは0.3〜0.4が望ましいとの知見を得た。
比率Kが0.5以上では、船首の振れ、直進性が急激に悪化し好ましくない。また、成形上も難が生じる。
さらに比率Kが0.2以下では、ローリングに対する復原特性が放物線的に悪化し好ましくない。
【0014】
本実施の形態1においては、あらゆる利用状況における安全性、特に、カヌー特有の転覆が起こらないことを確実化するために、上記比率Kの選択に加え、図4に示されるように、カヌー本体1の少なくとも船体両サイドに空気室7を設け、該空気室7の大きさを形成されたカヌー本体1の幅B(m)に対しての、艇長軸に直角な断面における各サイドの空気室断面積Ao(m 2)の比率αを、2.5〜4.0、但し、該Aoは(高さh:幅b)の割合βが2:1の矩形断面換算値、とした空気室7を設ける。
【0015】
空気室7は、空気室断面積Aoが大きければ大きい程、また、その位置が艇長中心軸より離れていればいる程、カヌー本体1のローリングは起こり難いし、復原特性は良好となる。しかしながら、空気室断面積Aoを大きくすることにより、またその位置が艇長中心軸より離すことにより、カヌーの操縦性や直進性は悪化する。
身体障害者や高齢者の方に許容される操縦性の度合いを考慮し、且つ安全性(復原性)を最大に保つ範囲としては、実際の身体障害者や高齢者の方達による多くの実験により、前記空気室7は、カヌー本体の幅B(m)に対しての、艇長軸に直角な断面における各サイドの空気室断面積Ao(m 2)の比率αを、2.5〜4.0、但し、該Aoは高さh:幅bの割合βが2:1の矩形断面換算値、とすることが好ましいとの知見を得た。
Aoは、(高さh:幅b)の割合βが(1.5〜3.5):1の換算矩形断面とするのが、カヌー本体1の艇としての外観美観上、および船体成形上から好ましく、また、より好ましくは(2〜3):1とすることが望ましい。
【0016】
図5に示すように、本実施の形態1においては、カヌー本体1の船体上部2と船体下部3との接合部4は、その全周囲に亘って、弾性体(主としてゴム材)製の略U字状パッキングによる緩衝ダンパー41により覆われる。緩衝ダンパー41の衝撃吸収により搭乗者の安全だけでなく、プール内の対人、他の艇などの対物への安全性が得られる。また、プール施設等への衝突による破損防止にも供する。また、緩衝ダンパー41は接合部4よりの浸水を防止するのに役立つ。
【0017】
また、本実施の形態1においては、図2、図4に明らかなように船体上部2により形成される搭乗部5は、オープンコックピット(デッキ)の形に形成されている。
なお、図2、図4の当該部分は、その実施の1例を示すものであり、これに限られるものではなく、要求に応じ形状を変えることができる。
これは、前述のごとく従来のカヌーにおけるコックピットが、搭乗口を狭くし、水の浸入を防ぐと同時に艇と身体の一体化を図るために搭乗口を狭くしているため、乗り降りの自由度が小さく、特に下肢、体幹の不自由な人達にとって乗り降りに困難を極めるのに対して、本実施の形態1では搭乗部5の部分をオープンコックピット形状にすることにより、乗り降りが容易で、緊急時の脱出も素早くできるものである。
【0018】
本実施の形態1における船体上部2は、前述のごとく薄板素材よりの真空成形により形状が作成されるため、形状選択の自由度が大きく、搭乗部5の基本的形状(オープンコックピット形状)の変更ばかりでなく、具体的には、身障者、高齢者のための手こぎ、脚こぎ、パドルアシスト(パドルを支えるステイ)などの推進装備を適宜搭載するための好ましい構造、形状とすることが容易に可能である。
また、ユーザーの多様性、例えば、子供と大人、障害の種類、程度、部位、また前記推進装置の種類、乗り方、遊び方などの各種要求に対し、船体上部2、船体下部3の一部の設計変更によりこれら要求に対応させ、艇のバリエーション展開を容易に行うことが可能である。
【0019】
[実施の形態2]
図6は、本発明の実施の形態2における、図3のC−C矢視の断面図ある。
図において、62は回転制御用可動フィン用ヒンジである。なお、図1〜5と同一の部分については、同一の符号を付し説明を省略する。
【0020】
本実施の形態2は、基本的には実施の形態1におけるカヌー本体1を踏襲するものであり、これに回転制御用可動フィンを設けたものである。
すなわち、上述の艇長Lの短いカヌー本体1においては、回転性能は高いが、その反面直進性能に難がある。従って、カヌーによる乗り方、遊び方によってはこの両性能をうまく使い分けることが要求される。
本実施の形態2においては、この要求に対して、カヌー本体1の後方船底側に上下方向にのみ回動自在な、少なくとも1枚の回転制御用可動フィン6を備えたものである。
【0021】
回転制御用可動フィン6は、1枚の可動フィンで構成しても、また2枚の可動フィンを連動的に連結結合して構成してもよい。
カヌー本体1の後方船底側に回転制御用可動フィン用ヒンジ62により船体下部3に配接されている。回転制御用可動フィン6は、船体上部2の後方に立ち上がり設けられた回転制御用可動フィン引揚用バー61を前後に操作することにより、回転制御用可動フィン用ヒンジ62を中心として、上下方向にのみに回動され、該回転制御用可動フィン6の船底よりの突出量を変化され、艇の回転性能、直進性能の度合が制御される。
【0022】
なお、本実施の形態2においては、実施の形態1と同様に、カヌー本体1には身体障害者、高齢者のための手こぎ、脚こぎ、パドルアシスト(パドルを支えるステイ)などの推進装備を適宜搭載することができる。またユーザーの要求の多様性に対し容易に対応することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、上記実施の形態1、2においては、主として身体障害者・高齢者または子供のためのカヌーを対象として説明されているが、本発明の基本的構成は、一般的なボートにおいても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1における正面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における平面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における、図2のA−A矢視の拡大断面図ある。
【図5】本発明の実施の形態1における、前記接合部の拡大断面図ある。
【図6】本発明の実施の形態2における、図3のC−C矢視の断面図ある。
【符号の説明】
【0025】
1 カヌー本体
2 船体上部
3 船体下部
4 接合部
41 緩衝バンパ
5 搭乗部
6 回転制御用可動フィン
61 回転制御用可動フィン引揚用バー
62 回転制御用可動フィン用ヒンジ
7 空気室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成形により成形された船体上部と船体下部とを、該船体上部と船体下部の全周囲に亘る両接合部を所定の接合手段により接合することによりカヌー本体として一体形成された身体障害者・高齢者用カヌーであって、前記カヌー本体の幅B/艇長Lの比率Kを0.3以上とし、且つカヌー本体の少なくとも船体両サイドに前記一体形成により形成された所定の空気室を設けたことを特徴とする身体障害者・高齢者用カヌー。
【請求項2】
前記所定の接合手段が接着剤またはボルトナットによる締結であり、該締結された船体上部と船体下部のこれに限られるものではないフランジ接合部の船体全周囲に弾性体による緩衝バンパを備えたことを特徴とする請求項1に記載の身体障害者・高齢者用カヌー。
【請求項3】
前記所定の空気室が、カヌー本体の幅B(m)に対しての、艇長軸に直角な断面における各サイドの空気室断面積Ao(m 2)の比率αが、2.5〜4.0、但し、該Aoは高さh:幅bの割合βが2:1の矩形断面換算値、であることを特徴とする請求項1又は2に記載の身体障害者・高齢者用カヌー。
【請求項4】
前記一体形成されたカヌー本体の船体上部が、オープンコックピットであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の身体障害者・高齢者用カヌー。
【請求項5】
前記カヌー本体の後方船底側に上下方向にのみ回動自在な少なくとも1枚の回転制御用可動フィンを備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の身体障害者・高齢者用カヌー。
【請求項6】
前記カヌー本体は、ペットボトルのリサイクル材料にて構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の身体障害者・高齢者用カヌー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−269079(P2007−269079A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94803(P2006−94803)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000189109)湘南技術センター株式会社 (4)
【出願人】(505280679)