説明

車両および車両の制御方法

【課題】蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生する車両において、蓄電装置の残容量で走行可能な距離を適切に推定する。
【解決手段】搭載した蓄電装置110の電力を用いて走行が可能な車両100は、ECU300において、蓄電装置110からの電力により走行している際に、予め定められた期間ごとの平均車速および平均駆動力から定まる平均動作点に基づいて基準電費を演算するステップ(S140)と、上記期間中における電力消費量および走行距離に基づいて実電費を演算するステップ(S120)と、基準電費および実電費に基づいて平滑化処理により予測電費を演算するステップ(S150,S160,S170)と、予測電費および蓄電装置110のSOCに基づいて、蓄電装置110に残っている電力により走行可能な走行可能距離RMDを演算するステップ(S180)を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両および車両の制御方法に関し、より特定的には、蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生する車両における、走行可能距離の推定制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した車両として、蓄電装置(たとえば二次電池やキャパシタなど)を搭載し、蓄電装置に蓄えられた電力を用いて、モータによって発生する駆動力により走行する車両が注目されている。このような車両には、たとえば電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車などが含まれる。
【0003】
このような車両においては、しばしば、蓄電装置に残っている電力で走行可能な距離を予測することが必要とされる。ハイブリッド自動車や燃料電池車においては、蓄電装置の電力が使用しつくされた場合でも、エンジンや燃料電池により発電した電力あるいはエンジンからの駆動力で走行が可能である。しかしながら、蓄電装置以外に電力を供給する手段のない電気自動車においては、蓄電装置の電力が使用しつくされた場合には、蓄電装置の充電が行なわれないと走行を継続することができないので、残りの走行可能距離を適切に予測することがさらに重要となる。
【0004】
特開2003−219503号公報(特許文献1)においては、定常経路を定期的に走行する電気自動車において、当該定常経路の前回走行時の電力消費量と航続距離に基づいて、現在残っている蓄電装置の電力で航続可能な距離を算出し、目的地まで走行可能であるか否かを判断する技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−219503号公報
【特許文献2】特開平06−167551号公報
【特許文献3】特開2007−032387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2003−219503号公報(特許文献1)に開示された技術においては、車両を運転するユーザの走り方によっては、同じ走行経路であっても電力消費量が異なる可能性があるので、走行可能距離を前回走行時の情報に基づいて算出しても、その精度は必ずしも高いものとは限らない。
【0007】
また、異なる走行経路である場合、あるいは、路面状態や交通渋滞などの環境が異なる場合などの場合では、特定の定常経路についての前回走行時の状態に基づいて算出した走行可能距離は、刻々と変化する現在の車両の状態を適切に反映していない可能性がある。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生する車両において、蓄電装置の残容量で走行可能な距離を適切に推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による車両は、回転電機と、制御装置とを備え、搭載した蓄電装置の電力を用いて走行が可能である。回転電機は、蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生する。制御装置は、蓄電装置からの電力により走行している際に、予め定められた期間ごとの平均車速および平均駆動力から定まる平均動作点に基づいて第1の電費を演算するとともに、予め定められた期間中における電力消費量および走行距離に基づいて第2の電費を演算し、第1および第2の電費ならびに蓄電装置の充電状態に基づいて、蓄電装置に残存する電力により走行可能な走行可能距離を演算する。
【0010】
好ましくは、制御装置は、第1および第2の電費から修正係数を算出するとともに、修正係数を用いて第1の電費を修正することによって予測電費を演算し、予測電費および蓄電装置の充電状態に基づいて走行可能距離を演算する。
【0011】
好ましくは、修正係数は、第1の電費に対する第2の電費の比率に基づいて算出される。
【0012】
好ましくは、制御装置は、予め定められた時定数を用いて平均動作点を時間軸方向に平滑化するように修正した動作点に基づいて、予測電費を演算する。
【0013】
好ましくは、制御装置は、平滑化において、平均車速および平均駆動力を、異なる時定数を用いて平滑化する。
【0014】
好ましくは、平均車速についての時定数は、平均駆動力についての時定数よりも小さい。
【0015】
好ましくは、制御装置は、平均車速についての平滑化において、走行駆動力のうちの路面勾配から必要とされる駆動力と残余の駆動力とで異なる時定数を用いて平滑化する。
【0016】
好ましくは、回転電機は、駆動輪に結合されるとともに、駆動輪の回転力によって発電することが可能である。制御装置は、走行距離のうち、回転電機による発電電力がしきい値を下回る状態で走行した距離に基づいて、第2の電費を演算する。
【0017】
好ましくは、車両はエンジンをさらに備える。走行駆動力は、回転電機からの駆動力とエンジンからの駆動力とを用いて出力される。制御装置は、エンジンが非駆動状態の場合に、走行可能距離の演算を実行する。
【0018】
好ましくは、車両は、走行可能距離をユーザに通知するための表示部をさらに備える。
本発明による車両の制御方法は、搭載した蓄電装置の電力を用いて走行が可能な車両についての制御方法である。車両は、蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生するための回転電機を含む。制御方法は、蓄電装置からの電力により走行している際に、予め定められた期間ごとの平均車速および平均駆動力から定まる平均動作点に基づいて第1の電費を演算するステップと、予め定められた期間中における電力消費量および走行距離に基づいて第2の電費を演算するステップと、第1および第2の電費ならびに蓄電装置の充電状態に基づいて、蓄電装置に残存する電力により走行可能な走行可能距離を演算するステップとを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生する車両において、蓄電装置の残容量で走行可能な距離を適切に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に従う車両の全体ブロック図である。
【図2】車速、駆動力および電費の関係を説明するための図である。
【図3】路面勾配と駆動力との関係を説明するための第1の図である。
【図4】路面勾配と駆動力との関係を説明するための第2の図である。
【図5】本実施の形態において、ECUで実行される走行可能距離の推定制御を説明するための機能ブロック図である。
【図6】本実施の形態において、ECUで実行される走行可能距離の推定制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0022】
図1は、本実施の形態に従う車両100の全体ブロック図である。図1を参照して、車両100は、蓄電装置110と、電圧センサ111と、電流センサ112と、システムメインリレー(System Main Relay:SMR)115と、駆動装置であるPCU(Power Control Unit)120と、モータジェネレータ130と、駆動輪140と、表示部150と、速度センサ160と、傾斜センサ170と、制御装置であるECU(Electronic Control Unit)300とを備える。
【0023】
蓄電装置110は、充放電可能に構成された電力貯蔵要素である。蓄電装置110は、たとえば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池または鉛蓄電池などの二次電池、あるいは電気二重層キャパシタなどの蓄電素子を含んで構成される。
【0024】
蓄電装置110は、電力線PL1および接地線NL1を介してPCU120に接続される。そして、蓄電装置110は、車両100の駆動力を発生させるための電力をPCU120に供給する。また、蓄電装置110は、モータジェネレータ130で発電された電力を蓄電する。蓄電装置110の出力はたとえば200V程度である。
【0025】
電圧センサ111は、蓄電装置110の電圧VBを検出し、その検出結果をECU300へ出力する。電流センサ112は、蓄電装置に入出力される電流IBを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0026】
SMR115に含まれるリレーは、蓄電装置110とPCU120とを結ぶ電力線PL1および接地線NL1にそれぞれ介挿される。そして、SMR115は、ECU300からの制御信号SE1に基づいて、蓄電装置110とPCU120との間での電力の供給と遮断とを切替える。
【0027】
PCU120は、いずれも図示しないが、コンバータ、インバータなどが含まれる。コンバータは、ECU300からの制御信号PWCにより制御されて蓄電装置110からの電圧を変換する。インバータは、ECU300からの制御信号PWIにより制御されて、コンバータで変換された電力を用いてモータジェネレータ130を駆動する。
【0028】
モータジェネレータ130は交流回転電機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える永久磁石型同期電動機である。
【0029】
モータジェネレータ130の出力トルクは、駆動輪140に伝達されて、車両100を走行させる。モータジェネレータ130は、車両100の回生制動動作時には、駆動輪140の回転力によって発電することができる。そして、その発電電力は、PCU120によって蓄電装置110の充電電力に変換される。
【0030】
また、モータジェネレータ130の他にエンジン(図示せず)が搭載されたハイブリッド自動車では、このエンジンおよびモータジェネレータ130を協調的に動作させることによって、必要な車両駆動力が発生される。この場合、エンジンの回転による発電電力を用いて、蓄電装置110を充電することも可能である。
【0031】
すなわち、本実施の形態における車両100は、車両駆動力を発生するための電動機を搭載する車両を示すものであり、エンジンおよび電動機により車両駆動力を発生するハイブリッド自動車、エンジンを搭載しない電気自動車および燃料電池自動車などを含む。
【0032】
表示部150は、ECU300からの制御信号DSPに基づいて、ユーザに対して各種の情報を表示する。
【0033】
速度センサ160は、車両100の車速に関する信号VELを検出しECU300へ出力する。速度センサ160は、たとえば、モータジェネレータ130の回転角を検出するための回転角センサであってもよいし、駆動輪140の回転速度を検出するための速度センサであってもよい。
【0034】
傾斜センサ170は、車両100が坂路を走行している場合の、路面の傾斜を検出するためのセンサであり、たとえば、加速度センサなどが含まれる。傾斜センサ170は、検出した路面の傾斜を示す傾斜信号INCをECU300へ出力する。
【0035】
ECU300は、いずれも図1には図示しないがCPU(Central Processing Unit)、記憶装置および入出力バッファを含み、各センサ等からの信号の入力や各機器への制御信号の出力を行なうとともに、車両100および各機器の制御を行なう。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0036】
ECU300は、電圧センサ111および電流センサ112から、蓄電装置110の電圧VBおよび電流IBの検出値を受ける。ECU300は、電圧VBおよび電流IBに基づいて、蓄電装置110の充電状態(以下、SOC(State of Charge)とも称する。)を演算する。
【0037】
また、ECU300は、アクセルペダル180の操作量を示す信号ACCを受ける。ECU300は、アクセルペダル180の操作量ACCに基づいて、ユーザから要求される車両駆動力を算出する。
【0038】
上記のような車両100における蓄電装置110の充電は、エンジンにより走行する車両における燃料補給のように短時間では完了せず、比較的長い時間が必要となる。
【0039】
そのため、現在残っている蓄電装置の容量で、あとどれくらい走行できるのかを知ることが、ユーザにとっては重要である。
【0040】
図2は、車両100における、車速、駆動力および電費の関係を説明するための図である。図2においては、横軸に車速VELが示され、縦軸には駆動力FRCが示される。図2中の曲線W10は、各車速VELにおいて出力可能な最大駆動力を示す。また、図2中の曲線W11〜W15は、単位走行距離あたりに消費される電力量、いわゆる電費(Wh/km)を示しており、一般的に電費が小さいほうがエネルギ効率がよいことを意味する。
【0041】
図2を参照して、図1に示した車両100のような電気自動車、あるいはハイブリッド車両においてエンジンを停止して蓄電装置からの電力のみで走行するような場合は、定常走行における電費は、ある時間間隔における平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveで定まる動作点(たとえば、図2中の点P10)によりほぼ一意に決まることが知られている。
【0042】
しかしながら、特定の時間間隔における平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveが同じであっても、たとえば、ほぼ一定速度で走行する場合と、加速および減速を頻繁に繰り返しながら走行する場合とでは、電力消費量は変化し得る。また、平地を走行する場合と、山道などの勾配のある路面を走行する場合とでも、電力消費量は変化し得る。
【0043】
そのため、平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveで定まる動作点から決定される電費を用いて、蓄電装置の残容量による走行可能距離を算出した場合、算出された走行可能距離は、ユーザの運転の仕方(いわゆる、癖)や路面状況が適切に反映されていないために、信頼性に欠けるものとなってしまう可能性がある。
【0044】
特に、蓄電装置に蓄えられた電力のみを用いて走行する電気自動車においては、走行中に蓄電装置の電力を使い果たしてしまった場合には、もはや自走することが不可能となってしまうので、エンジンなどの他の駆動機構や発電機構を有するハイブリッド車両や燃料電池者などに比べて、蓄電装置の残容量による走行可能距離を正しくユーザに通知することがより重要となる。
【0045】
そこで、本実施の形態においては、図2で示したような予め定められた標準的なマップを用いて、ある時間間隔における平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveで定まる動作点から決定される基準電費と、その時間間隔における実際の走行距離および実際の電力消費量から決定される実電費とを比較し、これらの違いに基づいて算出された予測電費を用いて残りの走行可能距離を算出する、走行可能距離の推定制御を実行する。
【0046】
具体的には、基準電費に対する実電費の比率(=実電費/基準電費)を修正係数として演算し、その修正係数を用いて、図2で示した標準的なマップの電費を補正することによって、ユーザの運転の仕方や路面状況による影響を電費に反映する。
【0047】
なお、このとき、演算された修正係数をそのまま直接反映すると、短期間に電費の急激な増減が頻繁に繰り返されてしまう場合があり、それに伴って走行可能距離が頻繁に変化するので、かえって推定された走行可能距離の信頼性が低下するおそれがある。
【0048】
そのため、本実施の形態においては、修正係数を反映する際、修正係数による変化を時間的に平滑化して緩やかに変化させる平滑化処理、いわゆる学習処理をさらに適用する。これによって、ユーザの運転の仕方や路面状況による影響を反映しつつ、修正係数の急激な変化を抑制して走行可能距離の推定値の信頼性が低下することを防止できる。
【0049】
さらに、図2のマップを用いて基準電費を演算する場合に、平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveによる平均動作点を設定することが必要であるが、たとえば、高速道路から一般道に移行した場合や、平地から山道に移行した場合には、この平均動作点が急激に変化することが考えられる。そのため、このような平均動作点の急激な変化によって、図2のマップから得られる基準電費の値が急激に変化してしまう可能性があるので、平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveによる平均動作点の設定においても、上記の修正係数と同様に平滑化処理を行なうことが好ましい。
【0050】
このとき、駆動力については、以下の図3および図4で説明されるように、駆動力の用途によって平滑化の度合い、すなわち時定数を変化させる。
【0051】
図3は、路面勾配と駆動力との関係を説明するための第1の図である。図3を参照して、車両100が傾斜角θの坂路にある状態において、車両100の質量をmで表わし重力加速度をgで表わすと、車両100にかかる重力の斜面に沿った成分に対抗するために必要となる駆動力Fincは、以下の式(1)で表わすことができる。
【0052】
Finc=mg・sinθ … (1)
この駆動力Fincは、傾斜角θが大きくなるにつれて増加する。
【0053】
また、車両100の走行方向に加速するため、および速度を維持するために必要となる駆動力をFaccとすると、車両100が出力すべきトータル駆動力Ftotalは、以下の式(2)のように表わせる。
【0054】
Ftotal=Finc+Facc … (2)
図4は、図2のようなマップにおける、平均動作点の変化と駆動力を説明するための図である。図4において、曲線W21〜W24は、それぞれ、一定の路面勾配において必要とされる車速VELおよび駆動力FRCを示す。
【0055】
図4を参照して、今、平均動作点が、平地を示す動作点P22から点P20に変化した場合を考える。この場合は、車速VELはほぼ一定であり、駆動力FRCのみが増加した例である。
【0056】
ここで、当該時間間隔における平均の路面勾配が破線の曲線W24であった場合、点P22から点P20へ変化した駆動力のうち、点P22から曲線W24上の点P21までの駆動力が、路面勾配によって生じる重力に対抗するために必要となる駆動力Fincであり、残余の駆動力(点P21から点P22まで)が加速および速度維持のために必要となる駆動力Faccに相当する。
【0057】
このとき、加速および速度維持のために必要となる駆動力Faccは、動作点を求める時間間隔においては、走行を維持するために比較的長い期間継続される。一方で、路面勾配によって生じる重力に対抗するために必要となる駆動力Fincは、坂路が長距離にわたって続いている場合は別として、通常は駆動力Faccに比べると比較的短い時間だけ出力される。
【0058】
そのため、駆動力Fincについての時定数を小さく設定した場合は、比較的短時間な変化に対して動作点が過敏に追従してしまうことになる。したがって、路面勾配に対する駆動力Fincについては、車速に対する駆動力Faccに比べて時定数が大きくなるように設定し、より緩やかに変化させることで、走行可能距離の推定値の安定性が向上し、より一層、走行可能距離の推定値の信頼性を高めることが可能となる。すなわち、ユーザの運転操作についての癖との関連性が高い車速に対する駆動力Faccが演算結果に反映されやすいので、ユーザの癖を考慮して平均動作点を演算することが可能となる。
【0059】
図5は、本実施の形態において、ECU300で実行される走行可能距離の推定制御を説明するための機能ブロック図である。図5の機能ブロック図に記載された各機能ブロックは、ECU300によるハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理によって実現される。
【0060】
図1および図5を参照して、ECU300は、平均動作点決定部310と、実電費演算部320と、基準電費演算部330と、修正係数演算部340と、平滑化処理部350と、走行可能距離演算部360と、表示制御部370とを含む。
【0061】
平均動作点決定部310は、アクセルペダル180の操作量ACCと、速度センサ160からの車速VELとを受ける。アクセルペダル180の操作量ACCに基づいて、所定の時間間隔における平均駆動力Faveを算出するとともに、その所定の時間間隔における平均車速Vaveを車速VELから算出する。そして、平均動作点決定部310は、演算した平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveを、基準電費演算部330および平滑化処理部350へ出力する。
【0062】
基準電費演算部330は、平均動作点決定部310からの平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveを受ける。基準電費演算部330は、図2で示したような、予め定められたマップを用いて、平均車速Vaveおよび平均駆動力Faveに基づいて、標準的な状態における基準電費EC_aveを演算する。そして、基準電費演算部330は、演算された基準電費EC_aveを修正係数演算部340へ出力する。
【0063】
実電費演算部320は、蓄電装置110の電圧VB,電流IB、および、車速VELを受ける。実電費演算部320は、これらの情報に基づいて、上記の所定の時間間隔における実電費EC_realを演算する。そして、実電費演算部320は、演算した実電費EC_realを修正係数演算部340へ出力する。
【0064】
修正係数演算部340は、基準電費演算部330からの基準電費EC_aveおよび実電費演算部320からの実電費EC_realを受ける。修正係数演算部340は、これらの情報に基づいて、図2のようなマップに、基準電費EC_aveと実電費EC_realとの違いを反映させるための修正係数Kを演算し、平滑化処理部350に出力する。なお、修正係数Kは、一例としては、式(3)に示されるように、基準電費EC_aveに対する実電費EC_realの比率として定義され得る。
【0065】
K=EC_real/EC_ave … (3)
平滑化処理部350は、修正係数演算部340からの修正係数K、平均動作点決定部310からの平均車速Vaveおよび平均駆動力Fave、ならびに、傾斜センサ170からの傾斜信号INCを受ける。平滑化処理部350においては、これらの情報について、前回の演算結果から今回の演算値への変化が急激にならないような平滑化処理を実行する。たとえば、修正係数Kについては、前回の演算結果をK(n−1)、今回の演算値をK、そして、平滑化後の演算結果をK(n)とすると、時定数αを用いて、式(4)のように演算され得る。
【0066】
K(n)=K(n−1)+α{K−K(n−1)} … (4)
ここで、0<α<1である。
【0067】
言い換えれば、平滑化処理部350は、修正係数K、平均車速Vave、平均駆動力Faveおよび傾斜信号INCについての学習演算を実行する。この際、各項目についての時定数は、個別に設定することが可能である。これらの時定数の各々は、他と同じ値としてもよいし、他と異なる値としてもよい。
【0068】
なお、平均駆動力Faveについては、図3および図4で説明したように、路面の傾斜によって作用する重力に対抗するための駆動力Fincと、加速および車速維持のための駆動力Faccとに分解することができ、これらの各々について異なる時定数により平滑化することが好ましい。これは、勾配方向の駆動力Fincについては、車速方向の駆動力Faccに比べて相対的に短時間に(すなわち、急激に)増減する傾向があるので、その変化を演算結果に直ちに反映させると、演算結果が頻繁に増減を繰り返し不安定になるおそれがある。すなわち、ユーザの運転操作についての癖との関連性が高い車速に対する駆動力Faccが演算結果に反映されやすいので、駆動力Fincは駆動力Faccにくらべてより緩やかな変化となるように時定数を設定することで、ユーザの癖を考慮して平均動作点を演算することが可能となる。
【0069】
平滑化処理部350は、上述のようにして得られた演算結果K(n),Facc(n),Finc(n),Vave(n),INC(n)を、走行可能距離演算部360へ出力する。
【0070】
走行可能距離演算部360は、平滑化処理部350の演算結果と、蓄電装置110のSOCとを受ける。走行可能距離演算部360は、平滑化処理部350の演算結果に基づいて求めた平滑化処理後の動作点を定める。そして、走行可能距離演算部360は、図2で示したようなマップから当該動作点についての電費を演算するとともに、これにユーザの特性を示す修正係数K(n)を掛け合わせることよって予測電費を推定する。その後、走行可能距離演算部360は、推定された予測電費とSOCに基づいて、蓄電装置110の残容量による走行可能距離RMDを演算し、表示制御部370へ出力する。
【0071】
表示制御部370は、走行可能距離演算部360からの走行可能距離RMDを受け、制御信号DSPにより、その走行可能距離RMDの値を表示部150に表示させる。
【0072】
図6は、本実施の形態において、ECU300で実行される走行可能距離の推定制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。図6に示すフローチャートは、ECU300に予め格納されたプログラムを所定周期で実行することによって実現される。あるいは、一部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)を構築して処理を実現することも可能である。
【0073】
図1および図6を参照して、ECU300は、ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、所定の時間間隔における車速VELを積算することによって、所定の時間間隔についての走行距離を演算する。
【0074】
さらに、ECU300は、当該所定の時間間隔において、蓄電装置110の電流IBおよび電圧VBの積を積算することによって、所定の時間間隔における消費電力ENGを演算する。なお、蓄電装置110の電流IBおよび電圧VBから算出される消費電力ENGにはは、図1には示していないが、エアコンやオーディオなどの補機負荷によって消費される電力も含まれている。そのため、次のS120における電費の演算においては、上記の消費電力ENGからこれら補機負荷による電力を差し引いた、車両駆動力のみに用いられる電力を用いることが好適である。
【0075】
ECU300は、S120にて、S100で算出した走行距離とS110で算出した消費電力ENGに基づいて、実電費EC_realを算出する。
【0076】
次に、ECU300は、所定の時間間隔における平均動作点(平均車速Vaveおよび平均駆動力Fave)を算出するとともに(S130)、図2で示したようなマップを用いて、所定の時間間隔における基準電費EC_aveを演算する(S140)。また、ECU300は、S150にて、実電費EC_realと基準電費EC_aveとから修正係数Kを演算する。
【0077】
そして、ECU300は、S160にて、修正係数K、車速方向の駆動力Facc、勾配方向の駆動力Finc、平均車速Vave、および傾斜信号INCについて、個別の時定数を用いた平滑化処理を実行する。
【0078】
その後、ECU300は、S170にて、平滑化した動作点を図2で示したようなマップに適用して、予測電費EC_simを演算する。ECU300は、S180にて、平滑化処理後の修正係数K(n)、SOC、蓄電装置110のトータル容量BAT_cap、および予測電費EC_simに基づいて、予測走行可能距離RMDを演算により求める。
【0079】
そして、ECU300は、S190にて、演算した走行可能距離RMDを表示部150に表示する。
【0080】
なお、ユーザの減速操作などに伴って、モータジェネレータ130の回生動作によって発電が行なわれる場合には、上記の予測電費が必要以上に良く算出される可能性がある。そうすると、ユーザに対して、走行可能距離を過大に表示してしまい、それによってユーザに誤った認識を与えてしまうおそれがある。そのため、実電費を演算する際には、回生動作が行なわれている間の走行距離を反映させないようにすることが好ましい。
【0081】
また、上記の推定制御をハイブリッド車両に適用する場合に、エンジンの駆動力を用いて走行しているとき、あるいはエンジンを駆動させることによってモータジェネレータで発電を行なっているときには、実際の走行距離と消費電力との関係が適切に表わされなくなり得る。そのため、ハイブリッド車両については、エンジンが駆動されていない状態の場合に、当該推定制御を適用することが好ましい。
【0082】
以上のような処理に従って制御を行なうことによって、蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生する車両において、刻々と変化する車両の状態を学習(平滑化処理)しながら予測電費を演算し、それに基づいて蓄電装置の残容量で走行可能な距離を演算することができる。これによって、ユーザによって異なり得る運転操作の傾向を反映できるので、より改善された電費および走行可能距離を演算することが可能となる。
【0083】
また、平滑化処理において、各項目を個別の時定数を用いて平滑化することによって、一方では演算結果が不安定になることを抑制しつつ、また一方では変化に対する追従性能を向上するといったように、各項目の特性に応じて適切に運転操作の傾向を反映することができる。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
100 車両、110 蓄電装置、111 電圧センサ、112 電流センサ、115 SMR、120 PCU、130 モータジェネレータ、140 駆動輪、150 表示部、160 速度センサ、170 傾斜センサ、180 アクセルペダル、300 ECU、310 平均動作点決定部、320 実電費演算部、330 基準電費演算部、340 修正係数演算部、350 平滑化処理部、360 走行可能距離演算部、370 表示制御部、NL1 接地線、PL1 電力線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭載した蓄電装置の電力を用いて走行が可能な車両であって、
前記蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生するための回転電機と、
制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記蓄電装置からの電力により走行している際に、予め定められた期間ごとの平均車速および平均駆動力から定まる平均動作点に基づいて第1の電費を演算するとともに、前記予め定められた期間中における電力消費量および走行距離に基づいて第2の電費を演算し、前記第1および第2の電費ならびに前記蓄電装置の充電状態に基づいて、前記蓄電装置に残存する電力により走行可能な走行可能距離を演算する、車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1および第2の電費から修正係数を算出するとともに、前記修正係数を用いて前記第1の電費を修正することによって予測電費を演算し、前記予測電費および前記蓄電装置の充電状態に基づいて前記走行可能距離を演算する、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記修正係数は、前記第1の電費に対する前記第2の電費の比率に基づいて算出される、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記制御装置は、予め定められた時定数を用いて前記平均動作点を時間軸方向に平滑化するように修正した動作点に基づいて、前記予測電費を演算する、請求項2および3に記載の車両。
【請求項5】
前記制御装置は、前記平滑化において、前記平均車速および前記平均駆動力を、異なる時定数を用いて平滑化する、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記平均車速についての時定数は、前記平均駆動力についての時定数よりも小さい、請求項5に記載の車両。
【請求項7】
前記制御装置は、前記平均車速についての平滑化において、前記走行駆動力のうちの路面勾配から必要とされる駆動力と残余の駆動力とで異なる時定数を用いて平滑化する、請求項5または6に記載の車両。
【請求項8】
前記回転電機は、駆動輪に結合されるとともに、前記駆動輪の回転力によって発電することが可能であり、
前記制御装置は、前記走行距離のうち、前記回転電機による発電電力がしきい値を下回る状態で走行した距離に基づいて、前記第2の電費を演算する、請求項1に記載の車両。
【請求項9】
エンジンをさらに備え、
前記走行駆動力は、前記回転電機からの駆動力と前記エンジンからの駆動力とを用いて出力され、
前記制御装置は、前記エンジンが非駆動状態の場合に、前記走行可能距離の演算を実行する、請求項1に記載の車両。
【請求項10】
前記走行可能距離をユーザに通知するための表示部をさらに備える、請求項1に記載の車両。
【請求項11】
搭載した蓄電装置の電力を用いて走行が可能な車両の制御方法であって、
前記車両は、
前記蓄電装置からの電力を用いて走行駆動力を発生するための回転電機を含み、
前記制御方法は、
前記蓄電装置からの電力により走行している際に、予め定められた期間ごとの平均車速および平均駆動力から定まる平均動作点に基づいて第1の電費を演算するステップと、
前記予め定められた期間中における電力消費量および走行距離に基づいて第2の電費を演算するステップと、
前記第1および第2の電費ならびに前記蓄電装置の充電状態に基づいて、前記蓄電装置に残存する電力により走行可能な走行可能距離を演算するステップとを備える、車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−244664(P2012−244664A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109564(P2011−109564)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】