説明

車両の荷重の推定方法

車両の現在の荷重を推定するための方法、装置、及びコンピュータ・プログラム製品であって、フィルタ・バンクが異なる重量区分に対するフィルタを含み、各フィルタが、車両の現在の質量を推定するための車両モデルを実装する。車両の現在の走行状況を示す車両データと、それぞれの重量区分に固有のフィルタ・パラメータとに基づいて、各フィルタは、車両の現在の荷重のフィルタ固有の推定として荷重推定値を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に車両の荷重の推定に関し、より具体的にはフィルタ装置によって処理された車両関連情報に基づく車両の現在質量の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の全重量(すなわち、車両の自重、並びに存在する場合には荷重の重量)を認識することは、多くの自動車用途において大きな関心事である。このパラメータを正確に推定することができると、多くの制御判定及び故障診断システムを改善することができる。例えば、間接的タイヤ空気圧監視システムは、低タイヤ空気圧の指標値としてホイールのロール半径を用いる。ロール半径は車両の質量に相関付けられるので、車両の荷重の認識は極めて重要である。
【0003】
米国特許第5,973,273号は、車両上に追加のセンサとして垂直加速度計を装着し、車両の垂直方向変位の周波数挙動の変化を求めることを開示している。この場合、追加のセンサが必要となることは不利であり、また、既存の車両において修正することなくこの手法を用いることはできない。
【0004】
米国特許公開第2002/0038193 A1号は、エアサスペンション・システムの圧力に関する情報に基づいて大型トラックの荷重を推定することを開示している。この手法は、エアサスペンションを有する車両に限定されるので、自動車分野において一般的に適用することは可能ではない。
【0005】
欧州特許第1 829 714 A1号は、直接タイヤ空気圧センサからの情報及びホイールのロール半径と共にタイヤモデルを用いて車両の荷重を算出する。この手法は、タイヤ空気圧及び/又はホイール半径が特定される用途では有用ではない。
【0006】
更なる手法は、米国特許公開第2005/0010356 A1号に開示されるような、車両の縦方向動特性に基づいた車両質量の算出、及び米国特許第6,167,357号に開示された再帰最小二乗(RLS)フィルタリングを用いた車両質量推定を含む。
【0007】
車両の縦方向動特性に基づく質量算出は、例えば、推定において共に用いられる車両の加速度及び/又はエンジンの出力トルクが低い場合には、信頼性の高い質量推定が得られないことになる。再帰最小二乗(RLS)フィルタリングを用いると、有用な結果を得るためにかなりの時間が必要とされ(例えば10分程度)、走行状況の突然の変化に対する影響を受け易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,973,273号公報
【特許文献3】米国特許出願第2002/0038193 A1号公報
【特許文献4】欧州特許第1 829 714 A1号公報
【特許文献5】米国特許出願第2005/0010356 A1号公報
【特許文献6】米国特許第6,167,357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特定の車両のタイプに限定されることなく使用可能な、車両の現在の荷重を高い信頼性で迅速に推定する解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を解決するために、本発明は、各々が独立請求項に定義された車両の現在の荷重を推定するための方法、装置、及びコンピュータ・プログラム製品を提供する。
【0011】
本発明の1つの態様によれば、車両の現在の荷重を推定する方法が提供され、本方法は、
−少なくとも2つの重量区分を定義する段階と、
−少なくとも2つの重量区分の各々に対して、各々が車両の現在の質量を推定するための車両モデルを実装するフィルタを含むフィルタ・バンクを準備する段階と、
−各フィルタに対して、車両の現在の走行状況を示す少なくとも1つの車両データ、及びそれぞれの重量区分に固有の少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給する段階と、
−各フィルタを用いて、車両の現在の荷重のフィルタ固有の推定として荷重推定値を特定する段階と、
−各荷重推定値に対して、車両の現在の荷重がそれぞれの重量区分に属すると仮定できるか否かの現在指標値を特定する段階と、
−全ての荷重推定値の中で、現在の走行状況における車両の現在の荷重の推定として最良の現在指標値を有する荷重推定値を選択する段階、及び/又は重量区分における現在指標値を重み付けして、現在の走行状況における車両の現在の荷重についての荷重推定として用いられる全体荷重推定値をフィルタ・バンクにおいて得る段階と、
を含む。
【0012】
本発明の別の態様によれば、車両の現在の荷重を推定するための装置が提供され、本装置は、
−各々が、車両の質量を推定するための車両モデルを実装し且つ少なくとも2つの重量区分のうちの1つに関連付けられた少なくとも2つのフィルタを含むフィルタ・バンクと、
−各フィルタに対して、車両の現在の走行状況を示す少なくとも1つの車両データ、及びそれぞれの重量区分に固有の少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給するための入力と、
を備え、
−各フィルタが、車両の現在の荷重のフィルタ固有の推定として荷重推定値を特定するように適合されており、本装置が更に、
−各荷重推定値に対して、車両の現在の荷重がそれぞれの重量区分に属すると仮定できるか否かの現在指標値を特定するように適合された特定手段と、
−全ての荷重推定値の中で、現在の走行状況における車両の現在の荷重の推定として最良の現在指標値が特定される荷重推定値を選択するように適合されており、及び/又は重量区分における現在指標値を重み付けして、現在の走行状況における車両の現在の荷重についての荷重推定として用いられる全体荷重推定値をフィルタ・バンクにおいて得るように適合された手段と、
を備える。
【0013】
本発明の別の態様によれば、処理システム上で実行されたときに、車両の現在の荷重を推定する方法を実施するためのプログラム・コードを含むコンピュータ・プログラム製品が提供され、当該方法が、
−少なくとも2つの重量区分を定義する段階と、
−少なくとも2つの重量区分の各々に対して、各々が車両の現在の質量を推定するための車両モデルを実装するフィルタを含むフィルタ・バンクを準備する段階と、
−各フィルタに対して、車両の現在の駆動状況を示す少なくとも1つの車両データ、及びそれぞれの重量区分に固有の少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給する段階と、
−各フィルタを用いて、車両の現在の荷重のフィルタ固有の推定として荷重推定値を特定する段階と、
−各荷重推定値に対して、車両の現在の荷重がそれぞれの重量区分に属すると仮定できるか否かの現在指標値を特定する段階と、
−全ての荷重推定値の中で、現在の走行状況における車両の現在の荷重の推定として最良の現在指標値を有する荷重推定値を選択する段階、及び/又は重量区分における現在指標値を重み付けして、現在の走行状況における車両の現在の荷重についての荷重推定として用いられる全体荷重推定値をフィルタ・バンクにおいて得る段階と、
を含む。
【0014】
本発明の更なる態様、特徴、及び利点は、以下の説明、添付図面、及び附属の請求項から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施可能な用途を説明するための変形したホイールの図である。
【図2】斜面上を走行している車両に作用する力を示す図である。
【図3】車両の駆動伝達系を示す図である。
【図4】本発明によるフィルタ・バンクを示す図である。
【図5】本発明による、異なる重量区分におけるモデルの残差分布を例示するグラフである。
【図6】本発明の好ましい実施形態における尤度対推定車両質量及び荷重をそれぞれ示す図である。
【図7】本発明の好ましい実施形態を用いた荷重/質量推定の結果を示す図である。
【図8】本発明による荷重/質量推定の結果をそれぞれの実際の車両質量と比較した図である。
【図9】本発明の好ましい実施形態のフロー線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を例証として添付図面を参照しながら説明する。
【0017】
しかしながら、図面の説明に入る前に、本発明の更なる態様に対する幾つかの更なる考察を示す。本発明の方法に関する態様の詳細な考察は、明示しない場合でも、本発明の装置及びコンピュータ・プログラムに関する態様にも適用される。
【0018】
本発明は、車両の現在の荷重の推定に関する。「空載の」車両の重量に基づいて発明の進歩性のある荷重を導出することができ、その逆もまた同様であるので、上記のことは、潜在的に車両の現在の重量(すなわち、「空載の」車両の重量、並びに存在する場合には荷重の重量)の推定にも関する。
【0019】
少なくとも2つの重量区分が異なる荷重範囲を示すことができ、これらの範囲は重複する場合があり、又は重複しない場合もある。これらの範囲は、フィルタによる固有荷重推定においてそれぞれのフィルタ及び車両モデルがそれぞれ用いることができる。
【0020】
これらの少なくとも2つの重量区分は、総車両重量又は全車両重量の異なる範囲を示すこともでき、これらの範囲は重複する場合があり、又は重複しない場合もある。これらの範囲は、フィルタ固有荷重推定において、それぞれのフィルタ及び車両モデルがそれぞれ用いることができる。
【0021】
現在指標値を特定する段階は、確率、尤度、共分散、及び他の何れかの統計値、範囲、又は閾値のうちの少なくとも1つを表す情報及び/又はデータを特定する段階を含み、これに基づいて車両の現在の荷重がそれぞれの重量区分に属するか否かを仮定することができる。
【0022】
最良の現在指標値を有する荷重推定値を特定する段階は、最も高い確率を有する荷重推定値、最も小さい共分散を有する荷重推定値、及びその荷重推定値が残りの荷重推定値と比較して現在の車両荷重のより良好な推定であることを示している別の統計値を有する荷重推定値のうちの少なくとも1つを特定する段階を含むことができる。
【0023】
上記の供給段階、荷重推定値の特定段階、現在指標値の特定段階、及び選択段階は、繰り返すことができる。このことによって、例えば、異なる走行状況に対して固有の荷重推定を得るために、荷重推定を繰り返すことが可能になる。この繰り返しを用いて、個々のフィルタ推定及び/又はフィルタ・バンクの全体的な推定を改善するために、フィルタを再帰的に動作させることもできる。例えば、段階の繰り返しは、所定の時間間隔で、及び/又は車両の実際の質量を推定する度に実施することができる。
【0024】
各フィルタは、モデルベース・フィルタ、カルマン(Kalman)フィルタ、拡張カルマン・フィルタ、無香カルマン・フィルタ、制約条件付き拡張カルマン・フィルタ、粒子フィルタ、シグマ点フィルタ、点質量フィルタ、格子ベース・フィルタのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0025】
車両モデルは、以下のパラメータのうちの少なくとも1つを含むことができる。
−ギアボックス効率(ηtm
−エンジン・トルク(Te
−ギアボックス減衰定数(ζ)
−エンジン角速度(ωe
−エンジン慣性(Je
−ホイール角速度(ωw
−ホイール角加速度(ωwドット
−ギア比(ig
−最終駆動ギア比(igf
−ホイール慣性(Je
−空気密度(ρ)
−空力抗力係数(Cd
−車両空力前面面積(Af
−車速(v)
−それぞれのフィルタから過去に特定された荷重推定値(mヤマ
−それぞれのフィルタから車両の現在の荷重がそれぞれの重量区分に属すると仮定できるか否かについて過去に特定された指標値
−重力定数(g)
−転がり抵抗係数(Cr
−ホイール半径(r)
【0026】
【数1】

【0027】
現在の走行状況を示す少なくとも1つの車両データを供給する段階は、以下のうちの少なくとも1つを含むことができる。
−現在の車両加速度を示す加速度センサ値(y)を供給する段階
−車両のエンジンによって発生した現在のトルクを示すエンジン・トルク値(Te)を供給する段階
−車両の少なくとも1つのホイールの現在の角速度を示す少なくとも1つのホイール角速度値(ww)を供給する段階
−車両のエンジンの現在の角速度を示すエンジン角速度値(ωe)を供給する段階
−現在の最終駆動比を示す最終駆動比値(ifd)を供給する段階
【0028】
それぞれの重量区分に固有の少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給する段階は、以下のフィルタ・パラメータのうちの少なくとも1つを供給する段階を含むことができる。
−それぞれのフィルタの過去の荷重推定値
−それぞれのフィルタの過去の平均値
−それぞれのフィルタの過去の共分散
−それぞれのフィルタの過去の確率
【0029】
該当する場合、共分散は、それぞれの車両モデルのモデル誤差の共分散、及び少なくとも1つの車両データに関連する測定ノイズの共分散のうちの少なくとも一方を含むことができる。
【0030】
更に該当する場合には、過去の平均値は、それぞれの車両モデルに対して仮定された初期平均値とすることができ、又は以前に実施された荷重推定値を特定する段階から結果として得られたそれぞれの車両モデルの平均値であり、及び/又は過去の共分散は、それぞれの車両モデルに対して仮定された初期共分散であり、又は以前に実施された荷重推定値を特定する段階から結果として得られたそれぞれの車両モデルの共分散であり、及び/又は過去の確率は、それぞれの車両モデルに対して仮定された初期確率であり、又は以前に実施された現在の確率を特定する段階から結果として得られたそれぞれの車両モデルの確率である。
【0031】
例えば、初期平均値の場合には、それぞれの重量区分の中央質量値を用いることができる。初期共分散の場合には、低いプロセスノイズを仮定することができる。
【0032】
車両の実際の質量がそれぞれの重量区分に属することに関する現在の確率を特定する段階は、ベイズ(Bayes)の定理を用いる段階を含むことができる。
【0033】
車両の実際の質量がそれぞれの重量区分に属することに関する現在の確率を特定する段階は、それぞれの荷重推定値の尤度と以前に算出されたそれぞれの重量区分の確率とに基づいて現在の確率を算出する段階を含むことができる。
【0034】
それぞれの荷重推定値の尤度は、荷重のない車両の実際の質量が既知である場合に、車両の少なくとも2つの異なる荷重でそれぞれの車両モデルを励振することによる、車両の加速度の推定に基づいて特定することができる。
【0035】
荷重推定値を特定する段階は、それぞれの車両モデルについて、車両の現在の荷重と、車両の現在の荷重で励振されるそれぞれの車両モデルから得られた荷重推定値との間の残差の重量関連関数を特定する段階を含むことができる。
【0036】
荷重推定値を特定する段階は、各車両モデルについて、それぞれの荷重推定値の不確実性を特定する段階を含むことができる。
【0037】
不確実性は、以下のうちの少なくとも1つによって特定することができる。
−車両のギアボックスの動作モード
−加速度の大きさ
−エンジン・トルクの大きさ
【0038】
車両モデルは、車両の加速度についてのモデル、及び車両のセンサ手段によって供給される、車両の現在の加速度を示す車両加速度値についてのモデルを含むことができる。
【0039】
車両の加速度のモデルは、次式に基づくことができる。
【0040】
【数2】

【0041】
ここで、
ηtmは、ギアボックス効率、
eは、現在のエンジン・トルク、
ζは、ギアボックス減衰定数、
ωeは、現在のエンジン角速度、
tは、現在のギア比と現在の最終駆動ギア比との積、
ρは、現在の空気密度、
dは、空力抗力係数、
fは、車両の空力前面面積、
vは、現在の車速、
ヤマは、過去の推定車両荷重、
γmは、車両の加速度に対する質量因子、
gは、重力定数、
rは、転がり抵抗係数、
rは、現在のホイール半径である。
【0042】
車両加速度値についてのモデルは、次式に基づくことができる。
【0043】
【数3】

【0044】
ここで、
ドットは、車両加速度、
gは、重力定数、
αは、センサ手段の測定軸と地球の重力場との間の角度、
rは、転がり抵抗係数、
γmは、車両の加速度に対する質量因子である。
【0045】
【数4】

【0046】
センサ手段の出力についてのモデルは、次式に基づくことができる。
【0047】
【数5】

【0048】
ここで、
accは、車両の測定加速度、
gは、重力定数、
rは、転がり抵抗係数、
γmは、車両の加速度に対する質量因子である。
【0049】
上記の質量因子γmは、次式で表すことができる。
【0050】
【数6】

【0051】
mは、車両の現在の質量、
dlは、駆動系慣性、
eは、エンジン慣性、
tは、現在のギア比と現在の最終駆動ギア比との積である。
【0052】
本発明の装置では、各フィルタは、モデルベース・フィルタ、カルマン・フィルタ、拡張カルマン・フィルタ、無香カルマン・フィルタ、制約条件付き拡張カルマン・フィルタ、粒子フィルタ、シグマ点フィルタ、点質量フィルタ、格子ベース・フィルタのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0053】
少なくとも1つの車両データを供給するための入力は、以下のうちの少なくとも1つを含むことができる。
−車両センサによって供給される現在の車両加速度を示す加速度センサ値(y)を受け取るための入力
−車両のエンジンによって発生した現在のトルクを示すエンジン・トルク値(Te)を受け取るための入力
−車両の少なくとも1つのホイールの現在の角速度を示す少なくとも1つのホイール角速度値(ww)を受け取るための入力
−車両のエンジンの現在の角速度を示すエンジン角速度値(ωe)を受け取るための入力
−現在の最終駆動比を示す最終駆動比値(ifd)を受け取るための入力
【0054】
本発明のコンピュータ・プログラム製品は、処理システム上で実行されたときに、上記で言及した方法段階を実施するためのプログラム・コードを含むことができる。
【0055】
本発明のコンピュータ・プログラム製品は、コンピュータ読み取り可能記憶媒体上に記憶することができ、又は処理システムのストレージ内に記憶される。
【0056】
車両の質量又は荷重が認識された場合、車両の多くの制御判定及び故障診断システムを改善することができる。このことは、例えば、間接的タイヤ空気圧監視を含む用途にも当てはまる。間接的タイヤ空気圧監視では、タイヤのロール半径の減少は、タイヤの空気が抜けたことの主な指標である。しかしながら、これは、車両の荷重によって(更に)生じる場合がある。従って、車両の質量又は荷重を認識又は推定することは、例えば、タイヤが不十分なタイヤ空気圧及び/又は車両荷重によって変形されているかどうかを特定するのに用いることができる。
【0057】
図1に例示しているホイール状態は、車両の荷重状況を認識していなければ、タイヤ空気圧が低いという仮定を導く可能性がある。一方、車両が高荷重であることがわかった場合には、これはタイヤの変形が原因であるとみなされる可能性が高い。
【0058】
モデルベース・パラメータ推定を用いて車両の質量を推定する場合には、質量が重要なパラメータである系のモデルが好ましい。質量は、多くの車両動特性に影響を及ぼす可能性がある。例えば、トランク内の大きな荷重は、重心が後方に移動すること及び側方スリップを小さくするタイヤの法線力が大きいことに起因して、車両のアンダーステア・グラディエントを変化させる。
【0059】
本発明では、車両に作用する縦方向力の関係を用いることが好ましい。車両の加速中の縦方向動特性は、ニュートンの第2法則に基づいて表すことができる。更に縦方向動特性についての情報は、一般に、既に設置されている車両センサからのデータ及び/又は信号の形態で利用可能であり、従って、付加的なハードウェアを追加する必要はない。
【0060】
車両質量及び該当する場合にはその荷重(すなわち、実際の車両質量からの重量偏差)の良好な推定を得るためには、走行状況と車両質量との間の関係を記述するモデルは、可能な限り正確でなければならず、及び/又は提供可能(例えば、計算処理の観点から)でなければならない。好ましい実施形態の説明では、縦方向動特性モデルを用いる。より具体的には、本明細書で説明する好ましい実施形態は、加速中の車両縦方向動特性を用いる。
【0061】
当該目的に好適なモデルは、入力信号と測定値との間の物理的関係を記述する。これは、縦方向動特性モデルにおいては、一方では「入力信号」としてのエンジン・トルクと、他方では「測定値」としての車速及び加速度との間の関係である。
【0062】
車両を剛体と仮定すると、ある一定の加速度を生じる力は、運動中の物体についてのニュートンの第2法則に従って表すことができる。
【0063】
【数7】

【0064】
車両を加速する牽引力は、トランスミッション及びホイールを通じて道路にまで作用し、ホイールと道路との間の摩擦を用いて車両に前進力を与えるエンジン・トルクであり、並びに、車両が坂を下っている場合には重力の縦方向成分m*g*sin(α)であり、ここで、道路の傾斜角であるαは、加速力を生じる負であると考えられる。
【0065】
車両を減速する力は、空気抵抗及び転がり抵抗を含み、更に、車両が坂を上っている場合には重力の縦方向成分m*g*sin(α)を含み、ここで道路の傾斜角であるαは、減速力を生じる正であると考えられる。
【0066】
図2は、このような加速力及び減速力を例示しており、ここでFは牽引力を示し、Faは空気抵抗から生じる減速力(すなわち空気抵抗力)を示し、Frは転がり抵抗を示し、Fgは車両に作用する重力から生じる力を示し、aは結果として生じる車両加速度を示す。ニュートンの第2法則により次式が得られる。
【0067】
【数8】

【0068】
図2では、車両に作用する加速度はまた、道路と比較した車両本体の加速度vドットと、地球重力の車両の縦方向に作用する成分g*sinαとに分割される。一定速度での登坂走行時には、車両は、平坦な道路上での加速と同様に地球重力場の影響を受け、相違点は、回転部品、ホイール、駆動系及びエンジンに角加速度がないことである。
【0069】
上記の力の各1つについての式は、図3に例示している車両の駆動伝達系を下記に説明するようにモデル化することによる牽引力Fに基づいて、更にまた下記に更に説明する外力に基づいて導出することができる。
【0070】
エンジンのモデル化では、エンジンから伝達されるトルクが、トランスミッションを通って地面までの途中で損失を生じることを考慮に入れることができる。加速時には、車両を加速する目的のエンジン力は、車両の質量を加速するために通常は大部分が用いられることになる。しかしながら、エンジン力はまた、ホイールへの駆動伝達系の伝搬力の一部によって消費されることになり、例えば、力は、エンジン、プロペラシャフト、及びホイールのような回転部品の角加速度によって消費することができる。このような部品における慣性をJe(エンジン慣性)、Jps(プロペラシャフト慣性)、及びJw(ホイール慣性)で表す。平坦な道路上での加速時には、トルクは、エンジンの角加速度ωeドット(エンジン角加速度)及びホイールの角加速度ωwドット(ホイール角加速度)によって失われる。回転加速におけるニュートンの第2法則によると、質量が角加速度ωドットにより与えられるような、慣性Jを有する質量(本体)を加速するためのトルクTは次式である。
【0071】
【数9】

【0072】
【数10】

【0073】
従ってエンジンからギアボックスに伝達されるトルクは次式である。
【0074】
【数11】

【0075】
ここでTgbはギアボックスに伝達されるトルクを表し、Teは、エンジンによって発生するトルクを表し、Jeはエンジンの慣性を表し、ωeドットはエンジンの角加速度を表す。
【0076】
プロペラシャフトに対して作用するトルクは、ギアボックスへの入力トルクTgbにギア比を乗じたものである。しかしながら、ギアボックスでは、例えば、ギア歯間の摩擦、並びにベアリング及びシールにおける摩擦に起因した損失も存在する。この損失は、入力トルクTgbに比例した一定の効率損失としてモデル化することができる。更に、ギアボックス及び最終駆動部における粘性損失も存在する可能性がある。一般にこれらの粘性損失は、ギアボックスの回転速度と共に変化し、従って、回転速度に比例する粘性減衰としてモデル化される。このことによって、ギアボックスからのトルク出力はギア比igを用いてモデル化され、ギアボックス効率は、比例効率ηtmとして及び減衰係数ζを用いて粘性減衰としてモデル化される。これは次式で表すことができる。
【0077】
【数12】

【0078】
プロペラ及びドライブシャフトの慣性Jps及びホイールの慣性Jw、並びにホイールのトルク出力が最終駆動ギア比igfに依存することを考慮すると、ホイール・トルクTwは次式で表すことができる。
【0079】
【数13】

【0080】
ここで、ωpsドットはプロペラ及びドライブシャフトの角加速度を表し、ωeドットはホイールの角加速度を表す。
【0081】
【数14】

【0082】
最終駆動ギア比igfが一定であると仮定すると、プロペラ及びドライブシャフトとホイールとの全体の慣性は次式で表すことができる。
【0083】
【数15】

【0084】
一方、最終駆動ギア比igfとギア比igとの積は、一般にitで表すことができる。
【0085】
次に、結果として生じる牽引力Fは、結果として生じるホイール・トルクTwをホイール半径rで除算することで表すことができる。
【0086】
【数16】

【0087】
牽引力Fの上記の式では、いかなる縦方向スリップも仮定していないが、通常の走行条件下ではスリップは通常2%を下回るので、これは妥当である点に留意されたい。
【0088】
空力抵抗Faは、速度vの二乗に比例し、次式で表すことができる。
【0089】
【数17】

【0090】
ここでAfは車両の空力前面面積を表し、Cdは転がり抵抗係数を表し、ρは空気密度を表す。
【0091】
転がり抵抗Cdは、様々な多少は複雑な手法でモデル化することができる。ここでは、転がり抵抗力が比例定数Crで法線力に比例すると仮定している。道路の傾き角αで表すと、次式となる。
r=Crmg
g=mg・sin(α)
【0092】
【数18】

【0093】
【数19】

【0094】
【数20】

【0095】
質量因子は質量に依存し、これをパラメータとして用いて車両の質量を推定するときには質量依存性が失われる。
【0096】
また項g*sinαもγmで除算され、このことは、この補償に道路勾配情報が必要とされることを意味する。この手法は、γmの質量依存性及び道路勾配を無視できる平坦な道路に対して、加速度計においてどのような偏り誤差もないと仮定できる場合に良好に機能し、ωwドット及びωeドットを得る上で、ホイール速度を微分する必要がない利点を有し、すなわち次式となる。
【0097】
【数21】

【0098】
通常、車両には、とりわけ縦方向加速度計を含むセンサ手段が装備される。この加速度計は、車両の実加速度/減速度を記録すると共に、センサが地球の重力場に対して垂直ではないとき、すなわち、車両が降坂又は登坂しており、センサが加速度の重力成分を記録するとき、或いは車両が加速に起因するピッチトルク又はトランクの荷重によって影響を受けてサスペンションが圧縮/収縮され、車両にピッチ角をもたらすときには、センサは、重力場の成分g*sinαを記録する。第1の場合の角度をaslopeと呼び、他方の場合の角度をapitchと呼ぶことによってこれらの異なる効果を区別する。更に加速度計が、bで表す偏り誤差と、センサノイズν(t)とを有すると仮定する。縦方向加速度計のモデルは次式となる。
【0099】
【数22】

【0100】
この式は、角加速度を明示的に算出することなく、次式で再度定式化することができる。
【0101】
【数23】

【0102】
上記のモデル、少なくともその一部を用いて、本発明を実装することができる。以下では、各々がある特定の(真の)パラメータ・セット(例えば異なる質量仮定)に調整された異なるモデル/フィルタで複数のモデル又はフィルタ・バンク方式を用いる実施形態を参照する。より多くの観測値、例えば加速度計信号が得られるように、各フィルタにおける確率を再帰的に計算することができる。図4は、各々がフィルタ固有の車両モデルを実装する幾つかのフィルタを含むこのようなフィルタ・バンクを概略的に示している。各フィルタ及びその車両モデルはそれぞれ、再帰的に更新され、荷重推定及び/又はフィルタ・バンクによって全体として提供される全体推定を改善することになる。より具体的には、図4は、拡張カルマン・フィルタEKFを有する例証的なフィルタ・バンクを示し、この各々は、測定値としてのセンサ加速度値yを現在の走行状況を示す車両データとして利用し、更に以前に特定されたフィルタ平均値x、共分散P、及び確率γをフィルタ・パラメータとして用いる。これらのフィルタは、各々が独立して点推定を生成するように再帰的に用いることができ、又は互いに相互作用して組み合わせることができる。
【0103】
ある重量区分に属する真の質量の確率を算出するために、本明細書では例示的な実施形態としてベイズの定理を用いる。観測値が与えられると、ベイズの定理は、ある概念が真である確率を算出できるようにする。この算出は、この概念が真であり、且つ概念の確率の認識が事前に与えられた場合、観測値が真である確率を認識することによって行われる。
【0104】
【数24】

【0105】
質量推定の場合には、この確率は、真の質量がテスト対象の重量区分に属する確率として解釈することができる。この確率は、現在の重量区分に対する現在の観測値の尤度、及びこのサンプルの前に算出された重量区分の確率である事前の認識値から算出することができる。分母は、確率を合計で1にするためのスケール因子である。
【0106】
【数25】

【0107】
この場合、全ての重量区分についての確率が算出された後、この結果がその和を用いて正規化される。この目的のためには、観測値についての尤度が必要とされる。1つの方法は、荷重が存在しないと仮定されるモデルを用いて推定加速度を算出することとすることができる。この方法は、真の重量が既知である場合の様々な荷重を用いた異なるテストケースについて行うことができる。それぞれの残差の分布は、各重量区分における観測値についての確率関数と解釈することができる。
【0108】
このような種類の例示的な分布が図5に示されており、ここではテストケースを3つの重量区分に分割し、モデルをシミュレートする際に、モデル残差の分布を同じ質量(荷重なし)を用いて算出した。このことによって高い荷重では、分布はより左に歪んでいる。残差分布は、重量をゼロと仮定したときに、各重量区分において特定のモデル誤差が発生する確率を与える。
【0109】
上記の手法は、各1つが、発生する尤度が高い異なる系の状態をモデル化する、複数のモデルが存在しているかのように見える。この場合、真の系に対応していると考えられるものがこれらのうちの何れであるかを特定しなければならない。図5でわかるように、重量が幾つかの重量区分に離散化されている場合、モデル誤差の全体分布は、複数の幅狭なガウス分布の和で近似することができる。現在の重量を推定するために、測定値の残差を異なるガウス隆起に対して重み付けすることができる。この重み付けにより次式のガウス和フィルタが得られる。
【0110】
【数26】

【0111】
好ましい実施形態では、モデルベース・フィルタとして、拡張カルマン・フィルタ(EKF)を用いることができる。非線形離散時間モデルが与えられると、この種のフィルタは、次式で表すことができる。
【0112】
【数27】

【0113】
Q及びRは、それぞれプロセスノイズ及び測定ノイズの共分散行列である。線形化は、f及びhのヤコビアンを算出することによって行われる。一般的にはこれらは次式で与えられる。
【0114】
【数28】

【0115】
【数29】

【0116】
【数30】

【0117】
【数31】

【0118】
更に、好ましい実施形態によれば、領域パラメータ化拡張カルマン・フィルタ(RPEKF)と比較することができる手法を用いることができる。特に、1つのカルマン・フィルタが各重量区分に対して用いられ、初期重量はその重量区分の中央値に設定され、プロセスノイズを低く仮定される。各フィルタは、低速で突発的なモデル誤差の影響を受け難くなるが、アルゴリズムは、最も近いフィルタが最初から選ばれたときには極めて高速にすることができる。別の利点は、フィルタをある特定の基準に対して機能するように最適化された異なるものにすることができる点である。
【0119】
荷重がn個の重量区分に分割され、n個の拡張カルマン・フィルタが稼働している場合には、各フィルタが最良のものである確率は、プロセスノイズがガウス分布であるという仮定に基づいて算出される。平均値μ及び標準偏差σを有するガウス分布関数は次式である。
【0120】
【数32】

【0121】
モデルが真の質量を用いてシミュレートされるときには、モデル誤差は、平均値a=0のガウス分布を有すると仮定される。このことは、推定質量が真の質量に等しい場合に、残差が、平均値μ=0のガウス分布を有さなければならないことを意味する。予測推定値の標準偏差は、共分散行列Pで記述される。残差の標準偏差を得るためには、Pを測定値空間にまで投影する必要があり、測定の不確実性を追加する必要があり、このことは、(2.6)の行列Sによって記述されたものそのものである。上記によって、フィルタ・バンク内の各フィルタについての残差の尤度関数が得られる。
【0122】
【数33】

【0123】
重量区分の尤度を算出するために、ベイズの定理によって次式が得られる。
【0124】
【数34】

【0125】
全フィルタの推定値及び共分散を得るために、次式に従って確率を共に重み付けすることができる。
【0126】
【数35】

【0127】
これはまた、異なる重量区分に関連付けられたフィルタを有するフィルタ・バンクの使用を示す図6から導くことができる。結果として得られた、各フィルタが真である尤度は、測定ノイズがガウス分布であるという仮定に基づいて特定される。次いで、尤度を共に重み付けし、推定車両荷重又は質量それぞれを特定し、全体的なフィルタ共分散を特定する。
【0128】
更なる実施形態では、最尤フィルタを推定値として用いることができ、これによってこのフィルタは、全てのフィルタが等確率である最初の時点からより速くなる。
【0129】
尤度と共に作動させる場合の別の利点は、モデルの不確実性を算入させるのが容易である点である。これは、サンプルがモデルに有利な状況の間に取得される場合には、モデルがモデル誤差を有することが多い状態で収集されたサンプルよりも可能性が高い推定をフィルタに保持させることができる。実施例としてギアボックスモデルにおける不確実性を考える。ギアボックスがロックアップモードに入ると、モデルは比較的良好になるが、市街地交通においては、ギアボックスは、滅多にロックアップモードには入らない。このことによって、ロックアップモードが発生するときにのみフィルタを稼働させることは、僅かなサンプルしか収集されず、統計の確実性を低くするので困難なことになる。その一方でフィルタは、ギアボックスがロックアップモードに入った場合のサンプルに対しては高い信頼性を置くことができる。またフィルタは、トルク入力が大幅に増大しているとき又はモデルの励振が低いときには、収集されたサンプルに対して極めて疑わしい可能性がある。
【0130】
この場合、式(2.8)においてモデル不確実性を追加することができる。測定ノイズ共分散R又はモデル誤差共分散Qは、モデル状態に依存するものとする。モデルが不確実である可能性の高い状態に対して共分散をより大きくした場合、Sは増大し、確率は小さくなる。この手法を用いると、多くのサンプルが収集され、推定値が得られることになるが、フィルタは、好ましい状態が発生して適正なフィルタに向かって高速に移行するまでは、比較的低速で不確実になる。モデルの状態は、3つのレベル、すなわち低いモデル精度、良好なモデル精度、及び最良のモデル精度に区分されている。この区分は、トランスミッションのロックアップ状態、加速度の大きさ、並びにトルクの大きさ及び微分値等の基準でモデルの状態確率を区分することによって行われる。この区分は、アルゴリズムのロバスト性を改善しており、モデルの不確実性対モデルの複雑性に関して問題の一部を解決し、多くのサンプルが破棄される場合にモデルの不確実性と統計の不確実性との間で妥協点を見いだすようにする。
【0131】
式(1.12)を、式(2.4)と同様の離散状態空間モデル形式にすると次式が得られる。
【0132】
【数36】

【0133】
【数37】

【0134】
図7は、フィルタ・バンクアルゴリズムを用いた質量推定の結果を示している。アルゴリズムの始動時にどのようにして異なるフィルタが選ばれるかが分かる。これらの結果は、5個のフィルタに基づいて得られたものである。最初は、最大荷重を有するフィルタが最高の尤度を有するが、アルゴリズムは、より低い重量を有するフィルタをより尤度が高いものとして選び始め、フィルタは、約2080kgの最低重量区分にまで段階的に降下する。次に、この場合での真の質量は最低重量区分よりも若干低かったので、フィルタは、真値に向かって緩慢に移行する。しかしながら、適正なフィルタが選ばれたときには、推定誤差は25kgを上回ることはない。長い時間の後、全てのフィルタは、緩慢にしか移行しないものの、真値に向かって移行することになる。
【0135】
EKFフィルタ・バンクを用いたテストケースによる結果は、アルゴリズムが、この章の冒頭に記載した全ての基準をどのように満たしているかを示している。アルゴリズムは、適正な値に向かって迅速に移行し、最良のモデル確率区分に対する全ての基準が満たされた場合には極めて迅速に移行する。更にこのアルゴリズムは、各EKFフィルタが極めて低速であり、大きいモデル誤差がある間は全てのフィルタの確率が低いので、突然のモデル誤差に対する影響を受け難い。アルゴリズムの性能は、何らかの形で、フィルタの収束時間の間に自動車がどのように走行されるかに基づいている。より好ましいモデル状態が始めから満たされた場合、フィルタは、適正なフィルタを即座に割り出すことが多い。アルゴリズムがどれほど迅速であるかについての尺度は、開始時点からフィルタが小さな変分しかなく、その後ある一定の値を有するまでの時間として設定される。
【0136】
【数38】

【0137】
変分vが50kgに設定された場合、アルゴリズムは、テストケースのほとんどにおいて、5分未満の時間内に適正な値から100kg以内の質量を求め、すなわち、5分未満の時間内に適正な値を求めるほど十分に迅速である。このことはまた、例えば、市街地交通及び高速道路の速度を含む通常走行条件下での25個のテストケースの結果を示す図7にも示されている。
【0138】
図9は、本発明の方法の例示的な実施形態、及び/又は装置の例示的な動作を示すフロー線図を示している。
【0139】
段階(100)では、本方法及び/又は装置が初期化され、フィルタ確率は、各フィルタについての1次及び2次統計量と共に所与の事前統計量によって初期化することができる。
【0140】
段階(101)では、測定値及びフィルタ情報を用いて、ギア比、車速、その他等の物理信号を計算する。
【0141】
段階(102)では、荷重推定を更新すべきか否かが判定される。例えば、現在の走行状況及び/又は車両状態が信頼性の高い荷重推定を可能にする場合には、更新を実施することができる。例えば、車両の加速度、エンジン・トルク、速度、ヨーレート及び/又は横加速度、及び/又は制動操作及び/又は変速操作が、最適以下の又は信頼性が高くない荷重推定を生じると想定される場合には、いかなる更新も実施しないようにすることができる。
【0142】
段階(103)では、フィルタ(すなわちフィルタ・バンク)を用いて、車両からの情報(例えば、加速度センサ情報、ホイール速度/加速度情報、速度情報、エンジン・トルク情報、ギア(比)情報、その他)、及びフィルタ固有情報(例えば、確率及び/又は共分散)を利用してこれらのフィルタの荷重推定を行う。段階(103)では更に、例えば再帰的に動作させることによってフィルタ(すなわちフィルタ・バンク)を更新することができる。
【0143】
段階(104)では、工程フローをリセットすることができる。例えば、車両のドアが開けられた場合、及び/又は車両停止の場合、及び/又は荷重変化の可能性がある何れかの状況において、リセットを行うことができる。
【符号の説明】
【0144】
F 牽引力; Fa 減速力(空気抵抗力); Fr 転がり抵抗;
g 車両に作用する重力から生じる力; a 車両加速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の現在の荷重を推定する方法であって、
少なくとも2つの重量区分を定義する段階と、
前記少なくとも2つの重量区分の各々に対して、各々が前記車両の現在の質量を推定するための車両モデルを実装するフィルタを含むフィルタ・バンクを設ける段階と、
各フィルタに対して、前記車両の現在の走行状況を示す少なくとも1つの車両データ、及び前記それぞれの重量区分に固有の少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給する段階と、
各フィルタを用いて、前記車両の現在の荷重のフィルタ固有の推定として荷重推定値を特定する段階と、
各荷重推定値に対して、前記車両の現在の荷重が前記それぞれの重量区分に属すると仮定できるか否かの現在指標値を特定する段階と、
全ての荷重推定値の中で、前記現在の走行状況における前記車両の現在の荷重の推定として最良の現在指標値を有する荷重推定値を選択する段階、及び/又は前記重量区分における前記現在指標値を重み付けして、前記現在の走行状況における前記車両の現在の荷重についての荷重推定として用いられる全体荷重推定値を前記フィルタ・バンクにおいて得る段階と、
を含む方法。
【請求項2】
各フィルタに対して少なくとも1つの車両データ及び少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給する前記段階、各フィルタを用いて荷重推定値を特定する前記段階、前記各荷重推定値について現在指標値を特定する前記段階、及び全ての荷重推定値の中で前記最良の現在指標値が特定された前記質量推定を選択する前記段階が繰り返される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記段階の繰り返しは、所定の時間間隔で及び/又は前記車両の実際の質量が推定されることになる各時点で実施される、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各フィルタが、モデルベース・フィルタ、カルマン・フィルタ、拡張カルマン・フィルタ、無香カルマン・フィルタ、制約条件付き拡張カルマン・フィルタ、粒子フィルタ、シグマ点フィルタ、点質量フィルタ、格子ベース・フィルタのうちの少なくとも1つを含む、
請求項1から請求項3のうちの一項に記載の方法。
【請求項5】
前記車両モデルが、
ギアボックス効率(ηtm)パラメータと、
エンジン・トルク(Te)パラメータと、
ギアボックス減衰定数(ζ)パラメータと、
エンジン角速度(ωe)パラメータと、
エンジン慣性(Je)パラメータと、
ホイール角速度(ωw)パラメータと、
ホイール角加速度(ωwドット)パラメータと、
ギア比(ig)パラメータと、
最終駆動ギア比(igf)パラメータと、
ホイール慣性(Je)パラメータと、
空気密度(ρ)パラメータと、
空力抗力係数(Cd)パラメータと、
車両空力前面面積(Af)パラメータと、
車速(v)パラメータと、
前記それぞれのフィルタからの過去に特定された荷重推定値(mヤマ)パラメータと、
前記車両の現在の荷重が前記それぞれのフィルタからのそれぞれの重量区分に属すると仮定できるか否かについて過去に特定された指標値パラメータと、
重力定数(g)パラメータと、
転がり抵抗係数(Cr)パラメータと、
ホイール半径(r)パラメータと、
うちのの少なくとも1つを含む、
請求項1から請求項4のうちの一項に記載の方法。
【請求項6】
前記現在の走行状況を示す少なくとも1つの車両データを供給する前記段階が、
現在の車両加速度を示す加速度センサ値(y)を供給する段階と、
前記車両のエンジンによって発生した現在のトルクを示すエンジン・トルク値(Te)を供給する段階と、
前記車両の少なくとも1つのホイールの現在の角速度を示す少なくとも1つのホイール角速度値(ww)を供給する段階と、
前記車両のエンジンの現在の角速度を示すエンジン角速度値(ωe)を供給する段階と、
現在の最終駆動比を示す最終駆動比値(ifd)を供給する段階と、
のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1から請求項5のうちの一項に記載の方法。
【請求項7】
前記それぞれの重量区分に固有の少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給する前記段階が、
前記それぞれのフィルタの過去の荷重推定値パラメータと、
前記それぞれのフィルタの過去の平均値パラメータと、
前記それぞれのフィルタの過去の共分散パラメータと、
前記それぞれのフィルタの過去の確率パラメータと、
のうちの少なくとも1つを供給する段階を含む、
請求項1から請求項6のうちの一項に記載の方法。
【請求項8】
前記過去の共分散が、前記それぞれの車両モデルのモデル誤差の共分散、及び前記少なくとも1つの車両データに関連する測定ノイズの共分散のうちの少なくとも一方を含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記過去の平均値が、前記それぞれの車両モデルに対して仮定された初期平均値であり、又は以前に実施された荷重推定値を特定する段階から結果として得られたそれぞれの車両モデルの平均値であり、及び/又は、
前記過去の共分散が、前記それぞれの車両モデルに対して仮定された初期共分散であり、又は以前に実施された荷重推定値を特定する段階から結果として得られたそれぞれの車両モデルの共分散であり、及び/又は
前記過去の確率が、前記それぞれの車両モデルに対して仮定された初期確率であり、又は以前に実施された現在の確率を特定する段階から結果として得られたそれぞれの車両モデルの確率である、
請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記車両の実際の質量が前記それぞれの重量区分に属することに関する現在の確率を特定する前記段階が、ベイズの定理を用いる段階を含む、
請求項1から請求項9のうちの一項に記載の方法。
【請求項11】
前記車両の実際の質量が前記それぞれの重量区分に属することに関する現在の確率を特定する前記段階が、前記それぞれの荷重推定値の尤度及び以前に算出されたそれぞれの重量区分の確率に基づいて前記現在の確率を算出する段階を含む、
請求項1から請求項10のうちの一項に記載の方法。
【請求項12】
前記それぞれの荷重推定値の尤度が、荷重のない車両の前記実際の質量が既知である場合に、前記車両の少なくとも2つの異なる荷重で前記それぞれの車両モデルを励振することによる車両の加速度の推定に基づいて特定される、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
荷重推定値を特定する前記段階が、前記それぞれの車両モデルについて前記車両の現在の荷重と、前記車両の現在の荷重で励振されたそれぞれの車両モデルから得られる荷重推定値との間の残差の重量関連関数を特定する段階を含む、
請求項1から請求項12のうちの一項に記載の方法。
【請求項14】
荷重推定値を特定する前記段階が、各車両モデルについて前記それぞれの荷重推定値の不確実性を特定する段階を含む、
請求項1から請求項13のうちの一項に記載の方法。
【請求項15】
前記不確実性が、
前記車両のギアボックスの動作モードと、
加速度の大きさと、
エンジン・トルクの大きさと、
のうちの少なくとも1つによって特定される、
請求項1から請求項14のうちの一項に記載の方法。
【請求項16】
前記車両モデルが、前記車両の加速度についてのモデル、及び車両のセンサ手段によって供給される車両の現在の加速度を示す車両加速度値についてのモデルを含む、
請求項1から請求項15のうちの一項に記載の方法。
【請求項17】
前記車両の加速度についての前記モデルが、次式、すなわち、
【数1】

ここで、ηtmがギアボックス効率、Teが現在のエンジン・トルク、ζがギアボックス減衰定数、ωeが現在のエンジン角速度、itが現在のギア比と現在の最終駆動ギア比との積、ρが現在の空気密度、Cdが空力抗力係数、Afが前記車両の空力前面面積、vが現在の車速、mヤマが過去の推定車両荷重、γmが前記車両の加速度に対する質量因子、gが重力定数、Crが転がり抵抗係数、rが現在のホイール半径である、
に基づいている請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記車両の加速度値についての前記モデルが、次式、すなわち、
【数2】

ここで、vドットが車両加速度、gが重力定数、αが前記センサ手段の測定軸と地球の重力場との間の角度、Crが転がり抵抗係数、γmが前記車両の加速度に対する質量因子である、
に基づいている、請求項16又は請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記センサ手段の出力についての前記モデルが、次式、すなわち、
【数3】

ここで、yaccが前記車両の測定加速度、gが重力定数、Crが転がり抵抗係数、γmが前記車両の加速度に対する質量因子である、
に基づいている、請求項16又は請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記質量因子γmが、下式、すなわち、
【数4】

ここで、mが前記車両の現在の質量、jdlが駆動系慣性、Jeがエンジン慣性、itが現在のギア比と現在の最終駆動ギア比との積である、
によって表される、請求項16から請求項19のうちの一項に記載の方法。
【請求項21】
車両の現在の荷重の推定のための装置であって、
各々が、前記車両の質量を推定するための車両モデルを実装し且つ少なくとも2つの重量区分のうちの1つに関連付けられた少なくとも2つのフィルタを含むフィルタ・バンクと、
各フィルタに対して、前記車両の現在の走行状況を示す少なくとも1つの車両データ及び前記それぞれの重量区分に固有の少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給するための入力と、
を備え、
前記各フィルタが、前記車両の現在の荷重のフィルタ固有の推定として荷重推定値を特定するように適合されており、前記装置が更に、
各荷重推定値に対して、前記車両の現在の荷重が前記それぞれの重量区分に属すると仮定できるか否かの現在指標値を特定するように適合された特定手段と、
全ての荷重推定値の中で、前記現在の走行状況における前記車両の現在の荷重の推定として最良の現在指標値が特定される前記荷重推定値を選択するように適合されており、及び/又は前記重量区分における前記現在指標値を重み付けして、前記現在の走行状況における車両の現在の荷重についての荷重推定として用いられる全体荷重推定値を前記フィルタ・バンクにおいて得るように適合された手段と、
を備える装置。
【請求項22】
前記各フィルタが、モデルベース・フィルタ、カルマン・フィルタ、拡張カルマン・フィルタ、無香カルマン・フィルタ、制約条件付き拡張カルマン・フィルタ、粒子フィルタ、シグマ点フィルタ、点質量フィルタ、格子ベース・フィルタのうちの少なくとも1つを含む、
請求項21に記載の装置。
【請求項23】
少なくとも1つの車両データを供給するための前記入力が、
車両センサによって供給される現在の車両加速度を示す加速度センサ値(y)を受け取るための入力と、
前記車両のエンジンによって発生した現在のトルクを示すエンジン・トルク値(Te)を受け取るための入力と、
前記車両の少なくとも1つのホイールの現在の角速度を示す少なくとも1つのホイール角速度値(ww)を受け取るための入力と、
前記車両のエンジンの現在の角速度を示すエンジン角速度値(ωe)を受け取るための入力と、
現在の最終駆動比を示す最終駆動比値(ifd)を受け取るための入力と、
のうちの少なくとも1つを備える、
請求項21又は請求項22に記載の装置。
【請求項24】
処理システム上で実行されたときに、車両の現在の荷重を推定する方法を実施するためのプログラム・コードを含むコンピュータ・プログラム製品であって、前記方法が、
少なくとも2つの重量区分を定義する段階と、
前記少なくとも2つの重量区分の各々に対して、各々が前記車両の現在の質量を推定するための車両モデルを実装するフィルタを含むフィルタ・バンクを設ける段階と、
各フィルタに対して、前記車両の現在の走行状況を示す少なくとも1つの車両データ、及び前記それぞれの重量区分に固有の少なくとも1つの現在のフィルタ・パラメータを供給する段階と、
各フィルタを用いて、前記車両の現在の荷重のフィルタ固有の推定として荷重推定値を特定する段階と、
各荷重推定値に対して、前記車両の現在の荷重が前記それぞれの重量区分に属すると仮定できるか否かの現在指標値を特定する段階と、
全ての荷重推定値の中で、前記現在の走行状況における前記車両の現在の荷重の推定として最良の現在指標値を有する荷重推定値を選択する段階、及び/又は前記重量区分における前記現在指標値を重み付けして、前記現在の走行状況における前記車両の現在の荷重についての荷重推定として用いられる全体荷重推定値を前記フィルタ・バンクにおいて得る段階と、
を含む、
コンピュータ・プログラム製品。
【請求項25】
処理システム上で実行されたときに、前記請求項2から請求項20のうちの少なくとも一項に定義される段階を実施するためのプログラム・コードを含む、
請求項24に記載のコンピュータ・プログラム製品。
【請求項26】
コンピュータ読み取り可能記憶媒体上又は処理システムのストレージ内に記憶された、請求項24又は請求項25に記載のコンピュータ・プログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−505566(P2011−505566A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536325(P2010−536325)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010472
【国際公開番号】WO2009/071104
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509260569)