説明

車両側方からの衝撃に対する搭乗者保護を強化するための方法および装置

【課題】自動車のドア領域に対しエネルギーが基本的に横方向に作用する側面衝撃又は側面衝撃に近似した衝突の際に搭乗者を保護するための装置および方法を提供する。
【解決手段】この装置は、ドアに基本的に横方向に作用するエネルギーに対してドアを安定化する少なくとも1つのユニットを有し、このユニットがドアを横切る少なくとも1つの側面衝撃支持部を有し、この支持部が衝突の際にドアを囲む安定な車体領域内の少なくとも2つの支持領域と共働するようになっている。側面衝撃支持部及び/またはドアを囲む車体領域内の支持領域が少なくとも1つのアクチュエータを有し、これが衝突から生じるエネルギー入力とは独立したエネルギーの制御された供給によって活性化され、側面衝撃支持部と前記支持領域との間に制御された共働を生じさせるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー入力が車両のドア領域に対し基本的に横方向に作用するような、車両側方からの衝撃又はこの側面衝撃に近似した衝突に対し、搭乗者を保護するための装置に係わる。ここで、この装置は車両のドアに対し基本的に横方向に作用するエネルギー入力に対し車両のドアを安定させる少なくとも1つの梁を有し、更に、この装置は車両のドアを横断するようにしてドア内に配置された少なくとも1つの側面衝撃用梁を提供するもので、この衝撃用梁は車両衝突の場合、車両のドアを囲む安定な車体領域内の少なくとも2つの支持領域に連結動作されるようになっている。更に、側面衝撃の際に、車両内の搭乗者保護を強化するための方法が記載されている。
【背景技術】
【0002】
自動車内の搭乗者保護は自動車の構築および開発において、主な目的の1つである。車両前方および後方での衝突の場合は、搭乗者室を広く安全に保護し得る車両前方および後方領域において、別の開発目標を用いて十分な崩壊領域をレイアウトすることができる。これとは対照的に、側方からの衝突の場合は、搭乗者保護で大きな問題が生じる。なぜならば、利用可能な車体変形範囲がより小さく、車両の側面構造上、衝撃吸収能もより小さいからである。
【0003】
車両側方からの衝突の際に生じる搭乗者への危険を軽減させることを目的とする公知の方策は、車両のドアの硬直化を提供するものであった。従って、例えば、高剛性及び/又は車両横方向の高エネルギー吸収能を有する車両ドア一体化構造のものが知られている。例えば、ネットの作用と同様の引張歪のもとで捩られ、変形させた複数のロッドを保持して湾曲したフレームを内部に設けた側方衝撃保護を備えた車両ドアが特許文献1に開示されている。
【0004】
しかし、側方ドアに対応する長尺の梁を設けて側方ドアを硬直化することは、より激しい衝突の場合に搭乗者を保護するのに十分とは言えない。なぜならば、側方ドアに外力が作用した場合、そのドアが車体のドア用切欠部を通って押圧され、搭乗者の生存空間が著しく制限され、同様に生存のチャンスが少なくなってしまうからである。
【0005】
更に、側方ドアに作用する応力を車体に伝達するようにした多数の方策が従来から知られている。例えば、ドアと、ドア用切欠部とを適当な大きさで重複させるもの、ドアのエッジ部からボルトを突出させ、衝突の際に、車体のドア用切欠部の補強窪みと係合させるようにしたものが知られている。すなわち、特許文献2には、車両ドアのための補強ユニットであって、外側に湾曲した梁からなり外部の衝撃により梁が変形して延びた状態になったとき、その両末端部がドアのフレーム内の適当に安定な窪みに進入するようにしたものが開示されている。好ましくは、この梁は異形薄鋼板からなり、圧延により適当な形状に形成される。
【0006】
上記方策により自動車の自重が増大するのを避けるため、自動車のための補強ユニットとして、軽量化を目的として、繊維強化複合材料から作られた湾曲成形補強ユニットからなるものが特許文献3に開示されている。この場合も同様に、補強装置はドア内に完全に配置され、衝突の際の補強梁の変形に伴って両端部のみがドアの両側から突出し、自動車の車体のドアフレーム中の安定な支持側面と操作自在に連結するようになっている。
【特許文献1】独国特許出願公開第196 33 637号明細書(DE 196 33637 A1)
【特許文献2】独国特許発明第22 15 674号明細書(DE AS 22 15 674)
【特許文献3】独国特許出願公開第41 25 299号明細書(DE 41 25 299 C2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の従来技術を改善するものであり、搭乗者保護を最適化し、側面衝突の場合の搭乗者保護の増強を図ることができる安全システムを構築することを目的とする。特に、この安全システムは、衝突の際の自動車のドアに対する横方向から作用する変形エネルギーが自動車のドアの領域から的確かつ確実に離れて導かれるように改善するものである。
【0008】
更に、側面衝突の場合に、車両内での搭乗者の保護を強化する方法を提供するものであり、この場合、搭乗者の障害の危険性を従来公知のものと比較して著しく減少させることができる。
【0009】
本発明の目的を達成する手段は請求項1に記載されている。側面衝突の場合の車両内の搭乗者の保護を強化するための本発明の方法は請求項19の要旨となっている。本発明の趣旨を有利に改善するための特徴が従属項の主題となっており、これらは以下に記載する具体例を参照する記述から類推することができよう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の序文に従う本発明の装置は、少なくとも1個のアクチュエータが側面衝撃梁及び/又は自動車のドアを囲む車体領域内の支持領域に設けられ、このアクチュエータが、衝撃に起因するエネルギー入力とは独立した形態のエネルギーの制御された供給を介して作動可能となっており、制御された態様で、側面衝撃梁と支持領域との間を操作自在に連結するようになっている。
【0011】
このような目的を達成するための従前の技法は、衝突時のエネルギーを利用し、自動車のドアの部材及び/又は自動車のドアを横切る側面衝撃梁(特許文献3に記載されているように、繊維強化プラスチック製)と、自動車のドアを囲む部分の車体領域との間に操作自在な連結を生じさせるものであるが、この連結は殆んど制御できないものである。これとは対照的に、本発明によれば、側面衝撃梁が、衝突以前においても、適当なアクチュエータの駆動によって車体領域内、好ましくはA支柱, B支柱及び/又はC支柱内の対応する支持領域に操作自在に連結されるようになっている。この操作自在な連結は予め定められた正確な構造上の特性および所定の強度を有するものである。この後者の特性は、自動車のドアの破壊抵抗について、製造段階で使用可能な数値計算および対応する理論的最適化プロセスに特に関係するものである。
【0012】
衝突により生じる実際のエネルギー入力の前に、タイムリーな態様で部材間に操作自在な連結を生じさせるために、対応するアクチュエータが設けられる。このアクチュエータは側面衝撃梁と一緒に働き、作動のために別途設けられたエネルギー源と連結している。上記する部材間において制御された操作自在な連結を生じさせるために、原則として公知のアクチュエータシステムをこの目的のために適用することができる。この場合、側面衝撃梁の両端と、A支柱, B支柱及び/又はC支柱内の特定の支持領域とがぴったり嵌合した接続状態において、着脱自在で堅実な固定が特に有利に形成される。モータによって駆動される最終制御部材をアクチュエータとして好適に使用することができる。その他、液圧、ガス圧又は点火装置による操作原理に基づくピストン−シリンダーユニットもアクチュエータとして好適に使用することができる。
【0013】
最も簡単な例として、最終制御部材は側面衝撃梁の伸長を生じさせ、それによって側面衝撃梁の両端を自動車のドアの両側を越えて突出させ、支持領域内の対応形状の窪みと嵌合させるようにする。支持領域内の適当な最終制御部材を使用することにより、好ましくは側面衝撃梁の両端を終端領域内でボルト固定接続してもよい。
【0014】
本発明の特に好ましい改良として、変換材料の的確な使用を提供する知能機構が、衝突によりもたらされる側面衝撃梁と、安定な車体領域内の支持領域との間の制御された連結の情報を確実に提供するようになっている。
【0015】
最初に説明した従来技術とは対照的に、つまり、自動車のドアを安定化させるユニットが、この安定化ユニットの形状および材料の選択からもたらされるところの恒久的所定強度を有する材料又は材料構造物からなるものとは対照的に、側面衝撃梁及び/又は支持領域の実行における変換材料の使用は、外部からの活性化による固有の構造変化において特定部材の形状変化を生じさせ、これは最終制御部材又は多重成分システムの使用を要しない。
【0016】
以下に詳述するように、変換材料を含む知能機構の的確な使用により、この種の機構の安定性および強度動作を目標に応じて設定、制御することができる。ここで、対応する活性化および失活性を介して生じる形状変化及び/又は強度変化は、特定の変換材料の選択および使用次第で、可逆的に修正可能とすることが好ましい(例外はSMAの一方向作用である)。この後者の特性は、例えば、操作自在に連結された接合部材の脱着に有利に使用することができる。これについては以下に個々に記述する。
【0017】
この目的のため、一つの具体例として、長方形及び/または押出異形材として構成させた少なくとも一つの側面衝撃梁を有し、これが自動車のドア内において車両ドアを水平に横切るようにして収容され、その正反対の両端が、特定の自動車のドアの側壁と面一となって終るようにすることが好ましい。この場合、側面衝撃梁はこのドア内に完全に一体化され、ドアの通常の操作性を何ら害するものとはならない(しかし、必要に応じて、ドアの操作を妨げない程度に若干突出させようにしてもよい)。
【0018】
押出異形材として構成された側面衝撃梁は、活性化可能な変換材料から全体的に製造されるのが好ましいが、単に部分的に製造されてもよい。なお、この変換材料は熱エネルギー及び/又は電圧を印加することによって自然的構造変化を生じるものであり、この場合、特定の材料から作られた側面衝撃梁は、その形状およびサイズがかかる印加によって制御可能な態様で変化し得るようなっている。使用される変換部材が例えば、形状記憶金属及び/又は形状記憶合金(例えば、NiTi)の場合、材料の適当な電熱的活性化がなされたとき、側面衝撃梁の自然のボリューム増大が生じ、この変化は電気及び/又は熱エネルギー供給の作用として制御可能であり、これを介して側面衝撃梁が長尺化することで自動車のドアを越えて横方向に突出するようにする。自動車のドアの両端を越えて突出する側面衝撃梁の両端は、ドアを囲む車体周縁部内のより硬直な構造体中に嵌挿され、側面衝撃の間に入力される主な荷重がこの部分に導かれることになる。
【0019】
特に好ましくは、車体内のより安定な構造が支持領域を備え、この支持領域が側面衝撃梁の両端部に適合して形成され、従って、側面衝撃梁の両端とこの支持領域との間の連結が所定の態様でなされ、締付け力又はせん断力が勝手に生じないようにする。この支持領域および側面衝撃梁の両端部は、好ましくは連結部材相互がロック機構を介して操作自在に連結されように形成される。なお、このロック機構は強固な、好ましくは着脱自在で強固な連結を可能とするものである。変換材料自体から適当に実行されるロック機構であって、特定の変換材料が対応する活性化を介して始動されるようにしたロック機構を設けることにより、衝突の際の制御された態様でもたらされる連結は、予め正確に判定可能な強度および応力伝達特性を有し、側面衝撃エネルギーを制御された状態で吸収することができ、この衝撃エネルギーを意図した態様で車体のドアの外部へ放散させることができるものとなる。
【0020】
支持領域および側面衝撃梁の端部領域に使用される変換材料のタイプおよびその選択次第で、構造変化を可逆的に活性化させることによって連結部材相互の開放された出発状態を再現させることができ、このようにして連結及び/又はロックの開放(またはアンロック)及び/又は弛めを行うことができる。ドアを残りの車体から邪魔されることなく弛めることが妨げる程度の側面衝撃による材料変形が、ドアと、車体領域との間で最早生じない場合は、この種の衝突の後の搭乗者の回収(救出)が、上述のような方策を使用する従来技術と比較して格段に容易となる。
【0021】
少なくとも一つの水平側面衝撃梁を設けるものであって、これが自動車のドアを横切る押出異形材のように形成され、好ましくは車両のタイプに応じて、衝突の場合に対応する車体領域のA支柱とB支柱との間、A支柱とC支柱との間若しくはB支柱とC支柱との間に支持させる上記の実施の形態に加えて、少なくとも一つの側面衝撃梁を、垂直配置に対応して形成し、これを自動車のドア内に垂直に配置させることも考えられ、かつ、可能である。この場合、衝突の際には、側面衝撃梁は対応する長手方向の延伸を介して車両の屋根領域および床領域に安定な係止点を確保することができる。
【0022】
衝突の場合の側面衝撃梁の延伸の更なる利点は犠牲構造を有することに関する。この犠牲構造は衝突の間における衝撃エネルギーを、側面衝撃梁の両端が係合するところのドア周囲の安定な車体内の支持領域において少なくとも部分的に吸収するものであり、この衝撃エネルギーは衝撃時において意図する態様で逸散されることになる。
【0023】
この種の犠牲構造の代わりに、又はそれとの組合せで、支持領域内に能動的に活性化可能な部材又は受動的な減衰部材を設け、衝撃時の衝撃エネルギーの逸散に寄与させるようにしてもよい。衝撃エネルギーの逸散を意図的に制御するために、この種の能動的に活性化可能な部材を設けることは、形状記憶作用、ピエゾ作用、磁歪作用に基づく適当に選択された変換材料によって実現することもできる。
【0024】
車体の安定な側面領域内での側面衝撃梁の伸長による意図的に制御された支持に基づく本発明のアイデアに加えて、側面衝撃梁を以下のように設計することも特に好ましい。すなわち、押出異形材のように形成された設計に沿ったエネルギー入力に対向する曲率を有し、それを介して付加的変形路が提供され、更に、上記エネルギー入力によりこの湾曲したキャリア部材に作用する荷重ベクトルが横方向および長手方向の応力に分割されるようにしたものである。この側面衝撃梁の能動的制御可能な曲率は、変換材料によって全体的に、または部分的に側面衝撃梁を製造することによって形成できる。この変換材料自体は予め曲率を有し、対応する活性化により、その長手方向に沿って湾曲形状を増幅させるものである。この予め湾曲した長方形の側面衝撃梁はドア内に、その凸側がドアの外壁に向けて対向するようにして一体的に設けられ、側面衝突の際に、その曲率を増大することにより、さらなるクランプルゾーン(破砕領域)が提供されるようになっている。変換材料から成形され、予め湾曲状に形成された側面衝撃梁は自動車のドア内に上述のようにして装着され、この湾曲した側面衝撃梁の凸側が自動車のドアの外側金属薄板境界の内側において、それに沿って直接対向するように配設される。衝突の際には、この側面衝撃梁がその曲率半径を減少し、かつ、付加的変形空間及び/又は付加的横方向クランプルゾーンを提供するため、側面衝撃梁の凸側がドアの内側から外側に面したドアプレートを越えて突出するように活性化される。
【0025】
上述のような形状変化が可能な変換材料、例えば形状記憶金属から全体的に側面衝撃梁を成形する代替として、側面衝撃梁の両端を介しての能動的圧縮及び/又は伸長を介して、自動車のドア内に予め湾曲した形で設けられた側面衝撃梁の曲率を増大させることが考えられる。この代替アイデアからもたらされる改良として、自動車のドアを横切る側面衝撃梁が変換材料自体を含まず、むしろ、自動車のドアと直接隣接する車体領域内の安定な支持領域であって衝突の際に側面衝撃梁に操作自在に連結する領域が複数の知能機構を備え、この知能機構のそれぞれが、衝突の際に対応する形状変化を介して制御された態様で活性化されてドア領域に横方向に侵入するようになっている。更に、これら知能機構は適当に形成された連結部材を介して自動車のドアの内部に設けられた側面衝撃梁に操作自在に連結されるようになっていて、これを介して、上述のように意図する圧縮の間に所望の曲率を生じるようになっている。もちろん、これらの具体例を組合せた態様であってもよく、この場合、変換材料は支持領域内に設けられ、側面衝撃梁が変換材料を含むものとなる。圧縮及び/または伸長は従来のアクチュエータによってなされてもよいが、これらは制限された硬直性のため、破壊の用途のためには望ましくない。
【0026】
本発明によるアイデアは原則として、形状記憶金属、形状記憶合金、ピエゾ金属、セラミック、磁歪合金などの固体からなる変換材料の好ましい選択および使用に加えて、粘性又は液状変換材料、例えばピエゾポリマー、電気粘性流体又は磁性流体を含むものである。これら粘性又は液状変換材料は、圧力および引張り応力を適当に吸収させるために適当な容器内に合体させる。すなわち、この種の材料は内部応力の意図する発生を介して意図する方式で構造−機械特性を変化することができる。これを介して、前述の形状変化の特性に加えて、例えば、構造上の硬直性及び/又は減衰特性の意図する調整も可能となる。
【0027】
前記変換材料の意図する活性化は、その選択された材料に依存して異なる態様で発生する。例えば、形状記憶金属は適用される熱的又は電熱的エネルギー、すなわち、何分の1秒以内で生じる抵抗熱損失の間において、電気的活性化につながる局所的加熱によって活性化することができ、これを介してこれらの材料は所望の形状及び/または構造的変化を生じることになる。同様にして、ピエゾ作用に基づく材料は対応する形状変化へと活性化させることができる。磁歪作用に基づく材料の意図する活性化についての更なる可能性は磁界の発生をもたらすものであり、これは適当な電磁気装置を使用して直ちに発生させることもできる。
【0028】
上述の知能機構の活性化には少なくとも1つのトリガー信号が要求されるが、これは車体に設置され、側面衝撃の際に自動車に作用するエネルギー入力を記録する構造−機械的センサーを使用して達成することができる。この場合に搭乗者保護のために設けられた方策は、自動車へのエネルギー入力の後に若干の時間的遅延を以って活性化される。しかし、改善された具体例として、時間的に直ちに差し迫った側面衝撃の状況を自動車に取着された適当なセンサーを用いて検出する。これは、適当に取着された無接触対物距離センサー、すなわち、公知の超音波、赤外線又は誘導技術に基づく近接覚センサーを用いて行うことができる。この種の近接覚センサーを使用することにより、上述の保護機構を活性化させ、それにより側面衝撃によりもたらされる実際の荷重入力の直前に自動車のドアの横方向安定化を増大させることができる。従って、実際の荷重入力の前に、最大の安定性およびクランプルゾーン(崩壊領域)の増大が既に形成されることになる。このセンサーの適当なものとしては当業者に公知であり、それについて更に説明することを要しないであろう。
【0029】
対応する活性化を有する知能機構の上述のような使用に加えて、変換材料を受動的に、すなわち活性化なしに操作させることができる。形状記憶金属から成形された側面衝撃梁を、例えば自動車のドア内部に水平に横断するようにして使用することによって側面衝撃の際のエネルギー入力に対する適応が剛性値の設定を介して可能であることが確認された。なお、この剛性値の設定は製造技術又は材料技術により可能である。この目的のため、例えば、形状記憶金属は、材料ヒステリシスに基づく超弾性および構造減衰を有するものであり、適当に設定することによって変形エネルギーを吸収するための部材として特別に使用することができる。すなわち、固体、とりわけ前述の形状記憶材料を具備してなる変換材料は、特定の材料に作用するエネルギー入力の作用として特定の構造的変化を生じることができ、これは最終的に入力荷重に依存する材料硬直性をもたらすものとなる。更に、上述のエネルギー入力に加えて、所定の電気エネルギーを材料に供給することにより、材料の硬直性の動作を設定することもできる。これらの可能性により、変形エネルギーを吸収するためにこの種の材料が自動車への適用に極めて有利であるという結論に最終的に到達することができる。
【0030】
また、本発明による側面衝撃の際の車両搭乗者保護を増大させるための方法は、この結論に基づくものである。この場合、側面衝撃梁及び/または自動車のドアを囲む車体領域内の支持領域が、衝突から発生するエネルギー入力に依存しないエネルギーの制御された供給によって活性化され、操作自在な連結が側面衝撃梁と、上記支持領域との間に制御された態様で形成されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の具体的態様について説明するが、これらは単に例示に過ぎず、本発明の一般的概念を制限することを意図したものではない。
【0032】
図1は、自動車(図示しない)のA支柱2と、B支柱3との間に配置された自動車のドア1の模式的な縦断図を示している。この自動車のドア1は、その外側が、内側プレート5による内側との関連並びにドア側壁6および7によるA支柱2およびB支柱3との関連で設けられた外側プレート4により、公知の方法で横方向に画成されている。側面衝撃梁8の形態の安定化ユニットが自動車のドア1の内部に、図1中に示す(実線)態様でドア1を横切るよう水平に配向させて設けられている。この側面衝撃梁8は変換材料、好ましくは形状記憶合金(NiTi)で成形され、外側プレート4に向かって凸状に湾曲した形状をなしている。この側面衝撃梁8の2つの両端は押出異形材のように形成され、丸みを帯びた断面または多角形の断面を有しており、その終端がドアのサイドエッジ6および7と面一となっている。更に支持部材9が側面衝撃梁8の2つの両端にそれぞれ設けられ、かつ、ドア側壁6および7に形成された窪み部10内に、ドアの開閉機能が妨げられないようにして配置されている。
【0033】
仮に、時間的に直ちに差し迫った側面衝撃の状況が発生した場合(これは適当に想定される無接触センサー(図示しない)の使用により検知可能である)、変換材料からなる側面衝撃梁8が電気エネルギーの供給によって活性化され、その構造的変化に基づいて側面衝撃梁8が形状変化を生じることになり、その結果、側面衝撃梁8が伸長し、かつ、曲率の増大が生じる。この状態が図1に破線として示されている。側面衝撃梁8の伸長のため、支持部材9がA支柱2およびB支柱3と密着状態で圧接することになる。つまり、A支柱2およびB支柱3が支持部材9のための支持表面を提供する。このA支柱2およびB支柱3は安定な車体領域を表すものであり、その間に、伸長した側面衝撃梁8が特定の支持部材9を介して機械的に安定に支持される。更に、この側面衝撃梁8のA支柱2およびB支柱3の双方での支持により、自動車のドア1の外側プレート4方向への側面衝撃梁8の曲率増大が生じる。その結果、自動車のドア1に横方向に作用する入力荷重Kと関連して、付加的なクランプルゾーン(崩壊領域)が形成されることになる。
【0034】
最後に、意図する態様に活性化可能であるこの側面衝撃梁8の形状変化は変換材料の材料硬直性の増大をもたらし、それにより、側面衝撃梁8は自動車のドア1に作用する入力荷重Kを、ドア領域からA支柱2およびB支柱3の安定に形成された車体領域へ効果的に飛散させることができる。同時に、この構造的変化によって材料の減衰変化が生じる。
【0035】
図1に示した具体例に基づいて、図2aおよび図2bは、車両側面に沿って前方および後方ドアに設けられた2つの安定化ユニットの相互作用を示している。すなわち、図2aは始動時の状況を示し、他方、図2bは衝突直前の活性化状態を示している。
【0036】
図2aおよび図2bには、2つのドア12および13が示されており、これらはA支柱14とB支柱15との間、又はB支柱15とC支柱16との間にそれぞれ配置されている。図1に示す具体例と同様に、ドア12および13は安定化ユニットとして形成された、対応する側面衝撃梁8を有している。図2aおよび図2bに示す具体例では、B支柱15は車体外壁4方向に移動自在な部材17を備えて形成されている。この可動部材17の機能は図2bから自明である。衝突の際には、双方の側面衝撃梁8,8が活性化され、伸長した形状となり、その結果、これらはA支柱14およびB支柱15、またはB支柱15およびC支柱16にそれぞれ操作自在に強固に連結される。側面衝撃梁8はそれぞれの特定の支持部材9を介してB支柱15の両側にて支持されるが、この場合、支持部材9はB支柱15に対して直接圧接するのではなく、図2bに示すように可動部材17に双方が支持される。更に、減衰部材18が衝突の際にB支柱15から離れて拡張し、それによって可動部材17が自動車のドアの外側4の方向に移動するようにしている。その結果、車体内部との関連で更なるクランプルゾーン(崩壊領域)が提供されることになる。この減衰部材18は、好ましくは側面衝撃梁8と同様に、例えば形状記憶材料を含む変換材料から作られる。この変換材料は上述のように衝突の場合に意図する態様に活性化することができる。
【0037】
もちろん、図2に示す個々の側面衝撃梁8は、その曲率変化によりクランプルゾーン(崩壊領域)を増大させるのに更に寄与するものであり、この点について再度説明する必要はない。
【0038】
図3a、bは、自動車のドア1内に垂直に配置させた側面衝撃梁8の具体例を示している。この場合の支持部材9は衝突の際に屋根領域19およびしきい領域(床領域)20内の安定な車体領域に操作自在に連結される。図3bは、図示のようにドア外側領域4およびドア内側領域5を提供するドア1内に側面衝撃梁8を取着させた状態を断面で示している。衝突に際し、側面衝撃梁8の両端に設けられたこの支持部材9は、屋根構造体19及び/またはしきい領域20に操作自在に連結される。
【0039】
もちろん、図3に示すような縦方向に沿う側面衝撃梁の配置と、図1および2に示すような水平方向に配向させた側面衝撃梁の配置とを、単一の自動車のドア内に任意に組合せることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】自動車のA支柱およびB支柱の間に配置され、本発明に従って形成された安定化ユニットを有する自動車のドアの模式的な断面図。
【図2a】A支柱、B支柱およびC支柱を有する自動車の他の実施例を示す断面図。
【図2b】A支柱、B支柱およびC支柱を有する自動車の他の実施例を示す断面図。
【図3a】垂直方向に沿って配設させた安定化ユニットを有する自動車のドアの模式的側面図。
【図3b】垂直方向に沿って配設させた安定化ユニットを有する自動車のドアの断面図。
【符号の説明】
【0041】
1 自動車のドア
2 A支柱
3 B支柱
4 外側プレート
5 内側プレート
6,7 ドア側壁
8 側面衝撃梁
9 支持部材
10 窪み部
11 対抗形状
12,13 自動車のドア
14 A 支柱
15 B支柱
16 C支柱
17 可動部材
18 減衰部材
19 屋根領域
20 しきい領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドア領域に対しエネルギー入力が基本的に横方向に作用する側面衝撃又は側面衝撃に近似した衝突の際に搭乗者を保護するための自動車用装置であって、座席が前記ドアの前記エネルギー入力側とは反対側に位置し、前記ドアに基本的に横方向に作用するエネルギー入力に対し前記ドアを安定化する少なくとも1つのユニットを有し、該ユニットが前記ドアの内部を横切る少なくとも1つの側面衝撃梁を有し、該側面衝撃梁が、衝突の際に前記ドアを囲む安定な車体領域内の少なくとも2つの支持領域に操作自在に連結するようになっている装置において、
前記側面衝撃梁及び/又は前記ドアを囲む車体領域内の前記支持領域が少なくとも1つのアクチュエータを提供するものであり、このアクチュエータが衝突から生じるエネルギー入力とは独立して制御されたエネルギー供給によって活性化され、前記側面衝撃梁と前記支持領域との間に制御された態様で操作自在な連結を生じさせるようになっていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記操作自在な連結が、少なくとも1つの明確に画成された連結面に沿う着脱自在で強固な連結である請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記操作自在な連結が、能動的に活性化可能なロック機構を有する嵌合的接続である請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記アクチュエータが、電気モータ又は磁気モータにより、または液圧的に、またはガス圧的に、または点火技術的に活性化可能である請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記安定化ユニットが少なくとも1つの知能機構を有し、これにより、制御されたエネルギー供給による少なくとも1つの変換材料の形状変化を介して前記安定化ユニットを硬直させる、及び/または機械的に支持させる作用を生じさせることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記変換材料が、ピエゾセラミック、ピエゾポリマー、電歪セラミック、電気粘性流体、ポリマーゲル、磁性流体、形状記憶合金および形状記憶ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種からなる請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記側面衝撃梁または側面衝撃梁の一部が変換材料を有し、側面衝撃の前又はその間において形状変化を生じ、その両端が前記ドアを越えて突出し、安定な車体領域内の隣接支持領域と機械的な一体連結を生じさせるようにした請求項5または6記載の装置。
【請求項8】
前記安定な車体領域が自動車のA支柱およびB支柱、A支柱およびC支柱、及び/またはB支柱およびC支柱であり、前記側面衝撃梁が前記ドアを実質的に水平に横切っている請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記安定な車体領域が自動車の屋根および床領域であり、前記側面衝撃梁が前記ドアを実質的に垂直に横切っている請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記側面衝撃梁が長方形の押出異形材である請求項1〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記押出異形材が全体的に、または部分的に変換材料から成形されており、好ましくは形状記憶金属または形状記憶合金から成形されている請求項10記載の装置。
【請求項12】
前記押出異形材の径方向反対側領域が変換材料から成形された領域となっている請求項10または11記載の装置。
【請求項13】
前記側面衝撃梁が長手方向延長部を有し、側面衝撃の際に側面衝撃梁が衝突により生じたエネルギー入力に対向する第1の曲率半径を有する湾曲を有し、該側面衝撃梁が側面衝撃の直前又は側面衝撃の際に形状変化を生じ、それによって前記第1の曲率半径より小さい第2の曲率半径を有する湾曲を制御された態様で生じさせるようにしたことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記側面衝撃梁が、第1の曲率半径の状態と比較して、第2の曲率半径の状態において、自動車のドアに作用するエネルギー入力の方向に対向して突出する空間位置をとるようになっており、これがさらなるクランプルゾーンを提供することとなる請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記安定支持領域に設けられたアクチュエータの使用による側面衝撃梁の両端での係合に際し、側面衝撃梁の制御された圧縮を介して前記側面衝撃梁の形状変化を生じさせるようにしたことを特徴とする、及び/または、変換材料を少なくとも一部に含む側面衝撃梁の制御された態様での活性化による固有の構造変化により、側面衝撃梁の形状変化を生じさせるようにしたことを特徴とする、請求項13または14記載の装置。
【請求項16】
前記支持領域のそれぞれが知能機構を有するアクチュエータを備えており、支持領域内の知能機構のそれぞれが側面衝撃の前又は側面衝撃の間に側面衝撃梁と操作自在に連結され、側面衝撃梁との摩擦的及び/または嵌合的連結を生じさせるようにした請求項1〜15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記知能機構がアダプトロニクス(adaptronics)に基づく自己規制機構として操作されることを特徴とする請求項5〜16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記知能機構がメカトロニクスに基づく自己規制機構として操作されることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
自動車のドア領域に対しエネルギー入力が基本的に横方向に作用する側面衝撃又は側面衝撃に近似した衝突の際に搭乗者の保護を向上させるための方法であって、座席が前記ドアの前記エネルギー入力側とは反対側に位置し、前記ドアに基本的に横方向に作用するエネルギー入力に対して前記ドアを安定化する少なくとも1つのユニットが設けられ、該ユニットが前記ドアを内部で横切る少なくとも1つの側面衝撃梁を提供し、該側面衝撃梁が衝突の際に前記ドアを囲む安定な車体領域内の少なくとも2つの支持領域に操作自在に連結するようになっている方法において、
前記側面衝撃梁及び/又は前記ドアを囲む車体領域内の前記支持領域が、衝突から生じるエネルギー入力とは独立したエネルギーの制御された供給により活性化され、前記側面衝撃梁と前記支持領域との間に制御された態様で操作自在な連結を生じさせるようにしたことを特徴とする方法。
【請求項20】
前記側面衝撃梁及び/または前記支持領域の活性化が少なくとも1つのアクチュエータを使用して行われることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つのアクチュエータの活性化が前記側面衝撃梁と前記支持領域との間の嵌合的ロックを生じさせることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記側面衝撃梁及び/または前記支持領域が知能機構から構築されたアクチュエータを使用して形成され、該知能機構が少なくとも1つの変換材料に基づいて制御された態様で活性化される形状変化を生じることができ、それを介して操作自在な連結が形成されることを特徴とする請求項19〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記側面衝撃梁が少なくとも部分的に変換材料から形成され、衝突の際に活性化を介して長さが伸長され、これを介して前記側面衝撃梁の両端が前記支持領域に挿入され、この支持領域内にて側面衝撃梁の両端がこの支持領域と密接した操作自在な連結を形成するようになっていることを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
支持部材が側面衝撃の際に形状変化を生じ、側面衝撃梁の両端が摩擦的及び/または嵌合的係合を生じるようになっていることを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記活性化が車体に設けられたセンサーにより誘発され、それに基づいて直ちに差し迫った衝突が検出されるようになっていることを特徴とする請求項19〜24のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【公表番号】特表2007−504980(P2007−504980A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525093(P2006−525093)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009693
【国際公開番号】WO2005/025907
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(500242786)フラウンホファー ゲセルシャフトツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ. (47)
【出願人】(506078493)フォーレシア インネンラオム システム ゲーエムベーハー (5)