説明

車両側部構造

【課題】従来の前ヒンジ式またはガルウィング式に比べてドアの車体からの突出量を低減でき、従来の折りたたみ式と異なり開状態にあるドアのためのスペースが車内に不要であり、従来のスライド式に比べて構成部品の部品点数削減を図ることができる、車両側部構造の提供。
【解決手段】車体2の側部に形成される乗員乗降用の開口2aを開閉するドア20を有し、ドア20は、車両左右方向に延びる回動軸芯Pまわりに回動して開口2aを開閉する。ドア20の回動軸芯Pは、ドア20が閉状態にあるときにおけるドア20の車両前後方向中央より車両後方に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両側部構造のドアには、つぎの開閉タイプがある。
(a)前ヒンジ式
前ヒンジ式は、一般的な自動車のフロントサイドドアに比較的よく用いられるタイプであり、ドアが閉状態にあるときにおけるドアの前端部で上下方向に延びる回動軸芯回りに、左右方向に回動して開閉するタイプである(例えば、特許文献1参照)。
(b)ガルウィング式
ガルウィング式は、ドアが閉状態にあるときにおけるドアの上端部で車両前後方向に延びる回動軸芯まわりに、上下方向に回動して開閉するタイプである(例えば、特許文献2参照)。
(c)折りたたみ式(中折れ式)
折りたたみ式は、バスのドアに比較的よく用いられるタイプであり、ドアが閉状態にあるときにおけるドアの車両前後方向中央部で折れて開閉するタイプである(例えば、特許文献3参照)。
(d)スライド式
スライド式は、ワンボックス車のリヤサイドドアに比較的よく用いられるタイプであり、ドアを車両前後方向にスライドさせて開閉するタイプである(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
しかし、従来の車両側部構造には、つぎの問題点がある。
(a)前ヒンジ式
ドアが開状態にあるときに、ドアの、車体から車両左右方向外側へ突出する量が、比較的大きくなってしまう。
(b)ガルウィング式
ドアが開状態にあるときに、ドアの、車体から車両左右方向外側および上方へ突出する量が、比較的大きくなってしまう。また、ドア開状態にあるときに着座乗員からドアまでの距離が遠いため、着座乗員がドアを閉めることが困難である。
(c)折りたたみ式
ドアが開状態にあるときに、ドアの折りたたみスペースが車内に必要になってしまう。
(d)スライド式
構成部品が比較的多く、その結果、構造が複雑で車両が重量化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−102848号公報
【特許文献2】特開平5−104954号公報
【特許文献3】実開平4−86883号公報
【特許文献4】特開平9−254662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来の前ヒンジ式またはガルウィング式に比べてドアの車体からの突出量を低減でき、従来の折りたたみ式と異なり開状態にあるドアのためのスペースが車内に不要であり、従来のスライド式に比べて構成部品の部品点数削減を図ることができる、車両側部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 車体の側部に形成される乗員乗降用の開口を開閉するドアを有し、
前記ドアは、車両左右方向に延びる回動軸芯まわりに回動して前記開口を開閉する、車両側部構造。
(2) 前記ドアの回動軸芯は、該ドアが閉状態にあるときにおける該ドアの車両前後方向中央より車両後方に位置している、(1)記載の車両側部構造。
【発明の効果】
【0007】
上記(1)の車両側部構造によれば、ドアが、車両左右方向に延びる回動軸芯まわりに回動して開口を開閉するため、つぎの効果を得ることができる。
(a)従来の前ヒンジ式のドアに比べて、開状態にあるときにおけるドアの車体からの車両左右方向外側への突出量を小にすることができる。
(b)従来のガルウィング式のドアに比べて、開状態にあるときにおけるドアの車体からの車両左右方向外側への突出量を小にすることができる。また、ドアの回動軸芯の位置を従来のガルウィング式のドアの回動軸芯の位置より下方に設けることができ、従来のガルウィング式のドアに比べて、開状態にあるときにおけるドアの車体からの上方への突出量を小にすることができる。
(c)従来の折りたたみ式のドアと異なり、開状態にあるときにおけるドアのためのスペースは車内に不要である。
(d)ドアの開閉が回転式であるため、従来のスライド式のドアに比べて、開閉のための機構を簡素化でき、部品点数を削減できる。
【0008】
上記(2)の車両側部構造によれば、ドアの回動軸芯が、ドアが閉状態にあるときにおけるドアの車両前後方向中央より車両後方に位置しているため、つぎの効果を得ることができる。
ドアの閉状態から開状態への回転角度を調整しておくことで、開状態にあるドアを着座乗員の側方(真横)に位置させることができる。その結果、従来のガルウィング式のドアに比べて、ドア開状態にあるときに着座乗員からドアまでの距離が近くなり、着座乗員が容易にドアを閉めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明実施例1の車両側部構造を有する車両の概略斜視図である。
【図2】本発明実施例1の車両側部構造を有する車両の、ドアが閉状態にあるときの概略側面図である。
【図3】本発明実施例1の車両側部構造を有する車両の、ドアが開状態にあるときの概略側面図である。
【図4】本発明実施例2の車両側部構造を有する車両の、ドアが閉状態にあるときの概略側面図である。
【図5】本発明実施例2の車両側部構造におけるドアの、閉状態にあるときの概略側面図である。
【図6】本発明実施例2の車両側部構造におけるドアの変形例を示す概略側面図である。
【図7】本発明実施例2の車両側部構造におけるドアの変形例を示す概略側面図である。
【図8】本発明実施例2の車両側部構造におけるドアの変形例を示す概略側面図である。
【図9】本発明実施例2の車両側部構造におけるドアの変形例を示す概略側面図である。
【図10】本発明実施例2の車両側部構造におけるドアの変形例を示す概略側面図である。
【図11】本発明実施例2の車両側部構造におけるドアの変形例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜図3は、本発明実施例1の車両側部構造を示しており、図4〜図11は、本発明実施例2の車両側部構造を示している。
本発明実施例1と実施例2にわたって共通する部分には、本発明実施例1と実施例2に渡って同じ符号を付してある。
まず、本発明実施例1と実施例2にわたって共通する部分を、説明する。
【0011】
本発明実施例の車両側部構造(装置)10は、例えば、図1に示すような、車体2を有する1人または2人乗り程度の小型のモビリティ(パーソナルモビリティ)1に設けられる。ただし、車両側部構造10は、4人以上乗ることができる一般的な自動車に設けられていてもよい。
【0012】
図1に示すモビリティ1は、特に限定するものではないが、前2輪と後1輪の三輪タイプである。モビリティ1の車体2は、金属製または樹脂製等の車体本体2bと、車体本体2bに固定して取付けられるフロントガラス2cと、を備える。ただし、フロントガラス2cは必須構成要件ではない。モビリティ1の車体2の車両左右方向両側部には、乗員乗降用の開口2aが設けられている。
【0013】
車両側部構造10は、車体2の側部に形成される乗員乗降用の開口2aを開閉するドア(サイドドア)20を有する。
【0014】
ドア20は、剛体であり、開閉時に変形しないかまたは変形しても無視できる程度である。ドア20の形状と大きさ(サイズ)は、たとえば、図2に示すように、閉状態にあるときに車両左右方向から見たときに車両前後方向を長手方向とする略矩形状とされており、開口2aの一部のみを開閉するサイズとなっている。ドア20の閉状態にあるときにおける上下方向長さは、特に限定するものではないが、たとえば開口2aの上下方向長さの約1/4〜1/5程度とされている。ドア20の閉状態にあるときにおける上下方向位置は、特に限定するものではないが、着座乗員(AM50(American Maleを100人並べたときの小柄な方から50番目)、以下同じ)Mの腰の上下方向位置と略同じとされている。
【0015】
ドア20は、車体2に回動軸芯Pまわりに車両前後方向に回動可能に取付けられている。ドア20と車体2とは、ドア20の開閉途中で互いに干渉しあうことが抑制されている。詳しくは、ドア20の移動軌跡上から外れるように車体2の意匠が決められており設計がされていてもよく、車体2を避けるのに必要な量以上にドア20を車両左右方向外側に飛び出させる機構(変位させる機構)が設けられていてもよい。ドア20を飛び出させる機構が設けられている場合、ドア20を飛び出させるタイミングは、車体2を避けるときだけであってもよく、予め飛び出させてから回動軸芯Pまわりに回動させてもよく、飛び出させながら回動軸芯Pまわりに回動させてもよい。
【0016】
ドア20の回動軸芯Pは、車両前後方向および上下方向と直交(ほぼ直交を含む)する方向に延びており、車両左右方向に延びている。
回動軸芯Pは、図1〜図3に示すように、車両左右方向から見たときにドア20の一部と重なり合う位置に設定されていてもよく、図4〜図9に示すように、車両左右方向から見たときにドア20の外部に設定されていてもよい。
回動軸芯Pの車両前後方向位置は、ドア20が閉状態にあるときにおけるドア20の車両前後方向中央より車両後方に位置しており、着座乗員Mの肩の位置に対して車両前方に300mmのラインより車両後方に位置している。
回動軸芯Pの上下方向位置は、車体2の開口2aの上下方向中間部(開口2aの下部(上下方向中央より下側部分))に位置しており、着座乗員Mの腰の位置に対して上方向に300mmのラインより下方に位置している。
【0017】
ドア20は、閉状態にあるときには、車両前後方向に延びる姿勢となっており、開状態にあるときには、車両左右方向から見たときに一部が着座乗員Mの肩と重なり合う姿勢となっている。なお、ドア20は、図示略のストッパまたはロック機構により、車体2に対して閉状態または開状態が維持されている。
【0018】
ドア20は、開くときには、車両前方側端部が上方に移動するようにして回動軸芯Pまわりに回動することで開き、閉まるときには、開くときの移動軌跡を開くときと反対方向に移動することで閉まる。ドア20の開閉は、手動で行なうようにされていてもよく、図示略のモータ、スプリング、シリンダ等を設けることで半自動(開閉動の一部のみ自動)または自動(開閉動の全部を自動)で行なわれるようにされていてもよい。また、図示略のダンパなどの力(トルク)を制御する機構を追加することによって、開閉のフィーリングが向上されていてもよい。
【0019】
本発明実施例1と実施例2にわたって共通する作用を説明する。
(A)ドア20が、車両左右方向に延びる回動軸芯Pまわりに回動して開口2aを開閉するため、つぎの(a)〜(d)の作用、効果を得ることができる。
(a)従来の前ヒンジ式のドアに比べて、開状態にあるときにおけるドア20の車体2からの車両左右方向外側への突出量を小にすることができる。すなわち、ドア20の車体2からの車両左右方向外側への突出量は、ドア20の厚み分t1と、ドア20と車体2との干渉防止のための隙間t2と、の和(t1+t2)のみでよく、この和は従来の前ヒンジ式のドアの車体からの車両左右方向外側への突出量よりも小であるため、ドア20の車体2からの車両左右方向外側への突出量を従来の前ヒンジ式のドアよりも小にすることができる。
【0020】
(b)従来のガルウィング式のドアに比べて、開状態にあるときにおけるドア20の車体2からの車両左右方向外側への突出量を小にすることができる。すなわち、ドア20の車体2からの車両左右方向外側への突出量は、上記の和(t1+t2)のみでよく、この和は従来のガルウィング式のドアの車体からの車両左右方向外側への突出量よりも小であるため、ドア20の車体2からの車両左右方向外側への突出量を従来のガルウィング式のドアよりも小にすることができる。
また、ドア20の回動軸芯Pの位置を従来のガルウィング式のドアの回動軸芯の位置より下方に設けることができ、従来のガルウィング式のドアに比べて、開状態にあるときにおけるドア20の車体2からの上方への突出量を小にすることができる。これにより、ドア20の上方の開閉スペースを少なく抑えることができる。
【0021】
(c)ドア20が車内に入り込むことは無いため、従来の折りたたみ式のドアと異なり、開状態にあるときにおけるドア20のためのスペースは車内に不要である。
【0022】
(d)ドア20の開閉が比較的単純な回転式であるため、従来のスライド式のドアに比べて、開閉のための機構を簡素化でき、部品点数を削減できる。よって、品質の安定、コストの低減、重量の低減といった効果を得ることができる。
【0023】
(B)ドア20の回動軸芯Pが、ドア20が閉状態にあるときにおけるドア20の車両前後方向中央より車両後方に位置しているため、つぎの効果を得ることができる。
ドア20の閉状態から開状態への回転角度を調整しておくことで、開状態にあるドア20を着座乗員Mの肩の側方(真横)に位置させることができる(車両左右方向から見たときに開状態にあるドア20の一部が着座乗員Mの肩と重なり合うようにすることができる)。その結果、(i)従来のガルウィング式のドアに比べて、ドア20開状態にあるときに着座乗員Mからドア20までの距離が近くなり、着座乗員Mが容易にドア20を閉めることができる。たとえば、左のドア20を閉めるときには、少し体を左にひねるようにして右手をドア20にかければ、腰の動きを使うことができて無理なく(無理な姿勢になることなく)ドア20を閉めることができる。また、(ii)車室外からドア20を開閉するときも、ドア20が上方に上がりすぎることが無いため、比較的背の低い人(AF05(American Femaleを100人並べたときの小柄な方から5番目))でも簡単にドア20を開閉できる。
【0024】
本発明実施例では、ドア20の形状と大きさ(サイズ)が、閉状態にあるときに車両左右方向から見たときに車両前後方向を長手方向とする略矩形状とされており、開口2aの一部のみを開閉するサイズとなっている場合を示したが、ドア20の形状と大きさ(サイズ)は、この形状と大きさに限定されるものではなく、たとえば、開口2aと略同形状とされており開口2aの全体または略全体を開閉するサイズとなっていてもよい。
【0025】
つぎに、本発明各実施例に特有な部分を説明する。
【0026】
〔実施例1〕(図1〜図3)
本発明実施例1では、ドア20の回動軸芯Pが、車両左右方向から見たときにドア20の一部と重なり合う位置に設定されている場合を示している。
【0027】
本発明実施例1では、ドア20の回動軸芯Pが、車両左右方向から見たときにドア20の一部と重なり合う位置に設定されているため、ドア20と回動軸芯Pとをつなぐためのアーム、リンク等の別部材が不要であり、別部材を要する場合に比べて部品点数の削減を図ることができる。
【0028】
〔実施例2〕(図4〜図11)
本発明実施例2では、ドア20の回動軸芯Pが、車両左右方向から見たときにドア20の外部に設定されている場合を示している。
【0029】
回動軸芯Pは、図4〜図7に示すように、閉状態にあるドア20の車両後方に位置していてもよく、図8に示すように、閉状態にあるドア20の下方に位置していてもよく、図9に示すように、閉状態にあるドア20の上方に位置していてもよく、図10に示すように、閉状態にあるドア20の車両後方かつ下方に位置していてもよく、図11に示すように、閉状態にあるドア20の車両後方かつ上方に位置していてもよい。
【0030】
ドア20の外部に設定されている回動軸芯Pは、図5に示すように、アーム21によって作り出されていてもよく、図6に示すように、リンク22によって作り出されていてもよく、図7に示すように、レール23aおよび該レール23aに沿って動く摺動子23bによって作り出されていてもよい。
【0031】
本発明実施例2では、ドア20の回動軸芯Pが、車両左右方向から見たときにドア20の外部に設定されているため、回動軸芯Pが車両左右方向から見たときにドア20の一部と重なり合う位置に設定されている場合に比べて、回動軸芯Pの位置がドア20の車両左右方向から見たときの形状に影響を及ぼすことを抑制でき、ドア20の形状の自由度を高めることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 モビリティ
2 車体
2a 開口
2b 車体本体
2c フロントガラス
10 車両側部構造
20 ドア
21 アーム
22 リンク
23a レール
23b 摺動子
P ドアの回動軸芯
M 着座乗員


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部に形成される乗員乗降用の開口を開閉するドアを有し、
前記ドアは、車両左右方向に延びる回動軸芯まわりに回動して前記開口を開閉する、車両側部構造。
【請求項2】
前記ドアの回動軸芯は、該ドアが閉状態にあるときにおける該ドアの車両前後方向中央より車両後方に位置している、請求項1記載の車両側部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−1210(P2013−1210A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132992(P2011−132992)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)